報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「ですから、これは“私立探偵 愛原学”ではありません」

2020-01-31 22:02:45 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月28日10:00.天候:雨 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

 探偵:「フム……。どうやら、この家に間違いない」

 ワンスターホテルを訪れ、エレーナを買収した探偵がついに稲生家までやってきた。
 この雨の中、傘を差していない。
 そういえば探偵と同じ格好をしたマフィア(ゴッドファーザー風)も、雨の中、傘を差す描写が無い。

 探偵:「それでは……」

 探偵は早速、門扉の横にあるインターホンを押した。

 稲生佳子:「はい、どなたですか?」

 稲生勇太の母親の佳子がインターホンに出た。

 探偵:「ごめんください。私、匿名希望のペンネーム、『愛原学』と申しますが、こちらに金髪の魔女の方はおいでですか?」

 探偵は流暢な日本語で話した。

 佳子:「……キリスト教関係の方ですか?あいにくと、息子が日蓮正宗の信仰をしておりますので……」
 探偵:「あ、いえ、魔女狩りに来たわけではありません!私はその……探偵の者でして、とあるクライアントの依頼で金髪の魔女を探しているのですよ。こちらにいらっしゃるという話を伺い、お邪魔した次第でございます」
 佳子:「今はいませんよ。息子と出掛けました」
 探偵:「なにっ!?…¨あ、いや、失礼。もし宜しかったら、どちらに行かれたか教えて頂けないでしょうか?」
 佳子:「都内ですよ。埼京線に乗ると言ってましたから、恐らく池袋の正証寺じゃないでしょうか」
 探偵:「魔女がお寺に!?」
 佳子:「仏教は魔女狩りの歴史が無いし、お寺にはキリスト教関係者が入って来れないので却って安全だそうですよ」
 探偵:「なるほど!池袋ですね!?ありがとうございます!」
 佳子:「あ、でも、恐らくそうじゃないかと思っただけで、確実とは……あれ?」

 だが、探偵は既に稲生家から離れていた。
 そしてどうやら稲生勇太、佳子にはバスタ新宿に行くとは伝えていなかったようである。

[同日10:22.天候:雨 東京都新宿区新宿 JR新宿駅→バスタ新宿]

〔しんじゅく~、新宿~。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕

 稲生とマリアを乗せた埼京線電車は、無事に新宿に到着した。

 稲生:「既にバスの乗車券を買ってしまったという既成事実を作ってから、父さんに報告したいと思うので……」
 マリア:「そこまでしてバスで帰りたい?」
 稲生:「夜行の方が旅している気分になれるんですよ、最近は」
 マリア:「まあ、いいけど。私も隣に勇太が座ってくれる方が安心だから」
 稲生:「ありがとうございます」

 ホームからコンコースに上がる。

 マリア:「トイレに行きたい」
 稲生:「どうぞどうぞ」

 コンコースの中にあるトイレに向かうマリア。

 稲生:「……ってか、僕も行こう」

 稲生は男子トイレに入る。
 しかし同じ小用でも、やっぱり女性の方が時間が掛かるものである。
 稲生はすぐに出てきた。

 稲生:「おや?母さんからだ」

 母親の佳子からメールが来ていたことに気付いた稲生。

 稲生:「ファッ!?」

 家に他作品の主人公を名乗る探偵が現れ、池袋の正証寺に向かったという情報がもたらされた。

 稲生:(母さぁん……)

 実はこの後、正証寺に立ち寄ろうかと考えていた稲生だったが、これのせいで豪快に挫折することとなった。

 稲生:(でも逆に言えば、今急いで帰れば安全だということだな)
 マリア:「お待たせ」

 そう考えていると、マリアもトイレから出てきた。

 稲生:「いえ、行きましょう」

 稲生はマリアの手を取って、バスタ新宿に向かった。
 改札口を出てバスタ新宿の乗り場へ向かうエスカレーターの前を見ると、発車案内の電光掲示板が目に入ってくる。

 稲生:「いつ見ても、まるで空港みたいですね」
 マリア:「だけど、実際に乗るのは飛ばないわけだ」
 稲生:「そういうことです」

 4階の乗り場に行くと、多くの乗客達で賑わっていた。
 昼間の便でさえこうなのだから、夜行便はもっと賑わうこととなる。
 で、チケットカウンターも空港のようである。

 係員:「いらっしゃいませ」

 カウンターの列に少し並び、有人窓口で買うことにした稲生。

 稲生:「すいません。バスタ新宿から白馬へ向かう夜行バスを予約したいんですが。大人3名で」
 係員:「かしこまりました。御出発の希望日はございますか?」
 稲生:「いえ、特に何日とは……。ただ、なるべく3人一緒に固まれる席が確保できる日で、一番早い日がいいです」
 係員:「かしこまりました。少々お待ちください」

 係員が端末を操作する。

 係員:「お待たせ致しました。それでは3日後の31日にお取りできますが、よろしいですか?」
 稲生:「取れるんですか?」
 係員:「はい。1のAとBとC席です」
 稲生:「1番前ですね」

 昼間の便ならバスファンがホイホイと喜んで乗る席だが、夜行便だと前展望はカーテンで仕切られる為に望めず、また、車種などによっては足が伸ばせないハズレ席である為、指名買いする者はいないのだろう(かくいう作者も夜行便だけは後ろの席に座る)。
 また、衝突事故や横転事故の際に一番氏ねる席でもあるからだ(運転席の後ろは除く)。
 あとは後ろの席が女性専用席に指定されることも多々あるので、稲生の名前で予約しようとすると弾かれるというのもある。

 稲生:「まあ、いいか。じゃあ、そこでお願いします」
 係員:「よろしいですか?ありがとうございます」

 最近まで雪が少なかったので、利用客も少ないのだろうと思う。
 正直、本当に取れるとは思わなかった稲生だった。

 係員:「お支払いは如何なさいますか?」
 稲生:「カードでお願いします」

 稲生は父親から借りたゴールドカードを取り出した。

 稲生:「これでよしっと……」
 係員:「それでは稲生様、1月31日23時5分発のアルピコ交通便、白馬八方バスターミナルまでで大人3名お取りしました」
 稲生:「ありがとうございました」

 稲生はチケットを受け取った。

 稲生:「それじゃ帰りましょう」
 マリア:「うん」

 バスタ新宿から再びJR新宿駅へと向かう。

 マリア:「せっかくだから都内を一緒に歩きたかったのに、残念だったなぁ……」
 稲生:「不審者が家にまで来たとなると、のんびりもしていられませんからね。その不審者が母さんの言葉を信じて、正証寺に行っている間がチャンスですよ。急いで帰って、先生と善後策の話をしませんと。さすがにもう起きてらっしゃるでしょう」
 マリア:「そうだね。まあ、もし寝てたとしても、私が叩き起こすから安心して」
 稲生:「お手柔らかに、お願いします」

 再び埼京線に乗り込んだイリーナ組の2人だったが、そこで思わぬ事態に見舞われることとなる。
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“大魔道師の弟子” 「雨に霞む上京」

2020-01-30 19:47:14 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月28日09:10.天候:雨 埼玉県さいたま市中央区 けんちゃんバス上落合公園前停留所→けんちゃんバス車内]

 稲生:「久しぶりに乗ろうとしたら、減便されたか……」
 マリア:「?」

 雨が降る中、傘を差してバスを待つ魔道士2人。
 そこへ小型の路線バスがやってくる。
 コミュニティバスではお馴染みの車種だ。

 運転手:「発車します。ご注意ください」

 バスに乗り込み、1番後ろの席に座るとすぐに出発した。

〔ピンポーン♪ 次は児童センター入口、児童センター入口でございます。天理教本駿河台分教会へおいでの方は、三橋3丁目でお降りください〕

 恐らく天理教とは名乗っているが、分派教会かもしれない(日蓮正宗に対して正信会のようなもの。日蓮正宗とは名乗っているが、別物であることから)。
 天啓を伝える者がいなくなった為に、数多くの分派ができたそうである。
 やはり、血脈相承は大事だ。

 マリア:「うん……」
 稲生:「どうしました?」
 マリア:「何だろう……?体がむず痒い」
 稲生:「大丈夫ですか?」
 マリア:「うん……大丈夫」

 因みにマリアは傘は差していなかった。
 魔女は基本的に傘を差さない。
 着ているローブがレインコートの代わりになるし、そこに付いているフードも十分雨を防いでくれるからである。
 稲生はあまりローブを着たがらない(正式なイベントに出る時や、明らかに戦いが始まるといった時くらいにしか着ない)為、傘を差すことが多い。
 その為、事実上の相合傘となるわけである。

 マリア:「この先、何かあるのかもしれない」
 稲生:「不吉なことですか?」
 マリア:「かもしれない」
 稲生:「高速バスのキップを買いに、バスタ新宿まで行こうとしたけど、やめといた方がいいってことですか?」
 マリア:「その方が無難かも。でも、大丈夫。何とかなる」
 稲生:「そうですか」
 マリア:「今、教会って聞いたから、それで反応しただけかも」
 稲生:「天理教は日本の神道系なので、キリスト教とは関係無いですよ」
 マリア:「分かってる。だから多分、大丈夫」
 稲生:「……取りあえず行ってみて、もしダメなようなら、帰りましょう」
 マリア:「ええ」

[同日09:30.天候:雨 JR大宮駅西口]

 バスはワイパーを規則正しく動かしながら大宮駅に向かった。
 バス停には屋根が無いので、すぐに傘を差さなくてはならなかったし、マリアはフードを被った。
 運賃箱に整理券2枚を放り込んで、それからバスを降りた。
 コミュニティバスあるあるで、ICカードが使えないのである。

 稲生:「朝のラッシュも終わったので、そろそろ電車は空き始める頃だとは思いますけどね」
 マリア:「そうだといいね」
 稲生:「具合はどうですか?」
 マリア:「うーん……まだどこか違和感がある。(強いて言うなら、『多い日』に起きる症状の1つに近い。だけど、周期的には違うはずだし……)」

 生理中に極端に魔力が落ちる魔女だが、少なくとも今のマリアにはそういう現象は起きていない。
 また、ダンテ一門においては基本的には悪魔と契約し、そこから魔力の供給を受けているので、自身の魔力がガタ落ちしても、基本的には魔法の行使に影響は無い。
 スマホやタブレットで言えば、パケット通信制限が掛かっても、Wi-Fi通信なら影響が無いのと同じ。

 マリア:「師匠に相談してみようか……」
 稲生:「あ、それがいいかもですね」
 マリア:「いや、きっと寝てるな……」
 稲生:「魔法は使える状態ですか?」
 マリア:「うちの人形達が元気に動いているみたいだから、私の魔力が落ちてるわけじゃない。体調が悪いと落ちるからね」
 稲生:「一体、どういう症状なんですか?」
 マリア:「男に、女の体の現象のことを言ってもなぁ……。あ、そうだ。アレだ」

 マリアはポンと手を叩いた。

 マリア:「勇太は貧血になったことある?」
 勇太:「ああ、ありますよ。小学生や中学生の時、よく全校集会とか体育の時とか、それで倒れてたものです」
 マリア:「倒れる直前の症状について覚えてる?」
 勇太:「倒れる直前ですか?」
 マリア:「何かさ、全体的にむず痒くなる感じにならない?」
 勇太:「あー……だったかなぁ……。って、マリアさん、倒れる直前!?」
 マリア:「それが大丈夫なんだよ。だって、バスに乗ってから何分経ったと思って?もし貧血だったら、とっくに倒れてるさ」
 勇太:「そ、それもそうですね」
 マリア:「だから不気味なんだよ。貧血で倒れる直前のようなむず痒さはあるんだけど、でもそれだけ。後は何でもない」
 勇太:「今までそういったことは?」
 マリア:「いや……無いね」
 勇太:「この雨のせいですかね。低気圧のせいで、体調に異変が出ることもありますし……」
 マリア:「そういう単純な話ならいいんだけど……」

[同日09:41.天候:雨 JR大宮駅・埼京線ホーム→埼京線948K電車10号車内]

 埼京線の電車に乗り込む2人。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。22番線に停車中の電車は、9時41分発、各駅停車、新宿行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕

 モスグリーンの塗装が特徴のJRの車両である。
 夏の時は同じ色のスカートをはくことが多い為、座席に座ると、まるで下半身が座席に同調したかのようだが、今はグレーのスカートである。
 緑色の服は上着のブレザーである。
 で、その上に黒のローブを羽織っている。

〔この電車は埼京線、各駅停車、新宿行きです〕
〔This is the Saikyo line train for Shinjuku.〕

 発車の時間になって、地下ホームに明るい調子の発車メロディが鳴った。

〔22番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 ドアチャイムが3回鳴ってドアが閉まる。
 エアーの抜ける音がして、電車が走り出した。

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は埼京線、各駅停車、新宿行きです。次は北与野、北与野。お出口は、右側です〕

 稲生:「?」

 その時、稲生のスマホが震えた。
 ポケットから取り出して見てみると、鈴木からのメールだった。

 鈴木:『マリアさんを捜しに怪しい男が来日しているので、注意してください』

 という本文があり、添付されていた写真には、ホテルの防犯カメラの映像から転載されたものがあった。

 稲生:「マリアさん、これ……。知り合いですか?」
 マリア:「知らない。全然知らない。何か、アナスタシア組にいそうな感じもするけど……」
 稲生:「僕にはマフィアにしか見えないですけどね。……探偵の人?」
 鈴木:『エレーナが報奨金の金貨に目が眩んで、先輩の家を教えてしまいました。恐らく今、そちらに向かっていると思います。どうか気をつけて』
 エレーナ:「エレーナの野郎……!」
 稲生:「……だろうなぁ。ってことは、逆に今、帰らない方がいいのか。あ、でも、家には先生が……」
 マリア:「もしただの探偵だったら、上手いことあしらってくれるだろうけど、もしも探偵のフリした教会関係者だったとしたら……」
 稲生:「いや、それは無いと思いますよ」
 マリア:「どうして?」
 稲生:「エレーナが無事でいるからです。もし教会関係者が魔女狩りに来たんだとしたら、まずエレーナが襲われてますよ?」
 マリア:「そ、それもそうか。えー……いや、知らないなぁ……」
 稲生:「ちょっと待ってください。今、鈴木君ともう少し詳しいやり取りをしますから」
 マリア:「うん、お願い」

 電車が新宿に着くまでの間、稲生と鈴木のメールによるやり取りが続いた。
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“魔女エレーナの日常” 「“私立探偵 愛原学”ではありません」

2020-01-30 16:13:56 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月28日07:00.天候:雨 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 鈴木:「おはよう……」

 エレベーターから欠伸をして鈴木が出てきた。

 エレーナ:「何だか眠そうだな」
 鈴木:「ここだとついつい深く寝入るからな、起きるのが大変だ」
 エレーナ:「オマエんち、どんだけ寝にくい所なんだよ……」

 エレーナは飽きれた。

 鈴木:「リリィは?」
 エレーナ:「まだ寝てる。魔界との時差ボケで眠いんだろ。寝かせといてやるさ。どうせ私も、今日は夜勤明けだ」
 鈴木:「ホテル業務は大変だな。俺は朝飯食ってくるよ」
 エレーナ:「行ってらっさー」

 鈴木がホテル1Fにテナントとして入居しているレストランに向かうと……。

 リリアンヌ:「エレーナ先輩、おはようございます……」

 入れ違うようにしてエレベーターからリリィが降りてきた。

 エレーナ:「オマエも起きたか」
 リリアンヌ:「私……も?」
 エレーナ:「さっき鈴木が来て、レストランに向かったぜ?」
 リリアンヌ:「そ、そうですか」
 エレーナ:「今行けば、朝飯代も奢ってもらえるかもな?」
 リリアンヌ:「フヒッ!?功徳~~~~~~~!!」
 エレーナ:「変な日本語使うんじゃねーぜ」
 リリアンヌ:「行ってきまーす……」
 エレーナ:「ああ、せいぜいタカって来い」

 リリィもレストランに向かう。
 普段は創作料理レストランだが、モーニングだけは普通のバイキング。
 但し、創作料理に使う食材の余りを使ったものが出てくることもある。

 エレーナ:(今日は雨か。今日は部屋で引きこもりデーだな)

 と、そこへエントランスのドアが開けられた。

 エレーナ:「いらっしゃいませー」
 男:「…………」
 エレーナ:「……!」

 エレーナが警戒心を持ったのは、入って来た男がマフィア風の恰好をしていたからだ。
 強いて言うなら、見た目が完全にゴッドファーザー。
 どこからともなくトンプソンをブチかまして来そうな……。

 エレーナ:(ま、まさか私が潰したニューヨークマフィアの生き残り!?)

 エレーナは急いでカウンターの下に隠していた魔法の杖を取った。
 ゴッドファーザー的な男も、着ていた黒いトレンチコートの中から何かを取り出す。

 男:「金髪の魔女……。確かに特徴は合っている……」
 エレーナ:「お、お客様、何か御用でしょうか?」

 エレーナは魔法の杖を背中に隠した。
 どうやら男は外国人のようで、先ほど英語を呟いた。

 エレーナ:(パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ……)

 そして心の中で呪文を唱える。
 いつでも攻撃魔法を放つ為だ。

 男:「まず……私は宿泊客ではありません」
 エレーナ:(見りゃ分かる!)

 物言いは丁寧だが、ヤクザもマフィアもスーツ組は往々にして物言いは丁寧なものである。

 男:「実は人を捜してまして……。それがあなたかもしれないのです」
 エレーナ:「どちら様ですか?ニューヨークからお越しのアダムス御一家様でしたら、違った意味で歓迎致しますよ?」
 男:「いえ、違います。私は世界探偵協会イギリス支部から派遣されたエージェントです」
 エレーナ:「探偵さん?」
 男改め探偵:「はい」
 エレーナ:「あの、失礼ですが、恐らく出演作品を間違えてらっしゃるかと……。バイオハザードは今のところ、武漢でしか起きてませんよ?」
 探偵:「いえ、大丈夫です。私は『金髪の魔女』を捜して来日した者ですので」
 エレーナ:「イギリスからお越しなんですか?」
 探偵:「ええ」
 エレーナ:(通りで喋る英語が、うちの先生やマリアンナみたいな感じだと思ったぜ)
 探偵:「イギリス人の魔女を捜しています。あなた自身は如何でしょうか?」
 エレーナ:「私はウクライナ人です。あいにくですけど」
 探偵:「そうですか。あなたのお知り合いで、イギリス人の魔女はいらっしゃいますか?」
 エレーナ:「何人かいますけど、それ以上は個人情報なので言えませんね」
 探偵:「そうですか。実は私が捜しているのは、この魔女です」

 探偵は1枚の写真を差し出した。

 エレーナ:「……!」

 エレーナはその写真に見覚えがあった。
 というか、見覚えがあり過ぎるくらいだ。
 その表情を探偵は目ざとく見つけた。

 探偵:「どうやらお知り合いにいらっしゃるようですね。それとも、あなた自身がその姿を仮の姿としている。あるいはそれが正体で、この写真の魔女が仮の姿だったとか?」
 エレーナ:「何のことでしょう?私はこの姿が素ですよ。だから、その写真の人物とは全く関係ありません」
 探偵:「詳しく教えて頂けましたら、報奨金をお約束しましょう」
 エレーナ:「都合良く日本の札束でもお持ちなんですか?」
 探偵:「いえ、あいにくと現金はそんなに持ち歩かない主義です。やはり嵩張りますので」
 エレーナ:「小切手1枚寄越されたくらいでは、魔女は動きませんよ?」
 探偵:「ええ、分かっています。他国で調査した時もそうでした」

 探偵は手持ちの鞄をカウンターの上に置くと、バッグを開けた。

 探偵:「魔法具の材料としても完璧。金貨です」
 エレーナ:「ファッ!?」
 探偵:「現在、世界各地で金の相場が上がっていることは御存知だと思います。そこで報酬はこの金貨でいかがでしょうか?」

 探偵は金貨をまるでカジノの勝負師のように積み上げた。

 エレーナ:「……何から知りたいですか?」

 エレーナ!?
 守銭奴魔女の異名を持つ彼女だが、ついに金貨で同門の士を売るのか!?

 鈴木:「ヤベェ、ヤベェ。財布忘れちまったよー」

 そこへ鈴木、慌ててレストランから出てくる。

 鈴木:「やあ、エレーナ。危うくレストランで無銭飲食する所だったよ」
 エレーナ:「オマエ、そんなに死にたいか?」
 鈴木:「いやはや……。ん?なに、この金貨?あれ、マリアさんの写真だ。どうしたの?」
 探偵:「kwsk!この金貨はこちらの方に……」
 エレーナ:「って、おおーい!?」

 報酬横取り野郎の鈴木。
 功徳も何気に横取りする者がいるので、信仰者は注意だ。
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“大魔道師の弟子” 「稲生家の一夜」

2020-01-28 21:10:46 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月27日19:00.天候:曇 埼玉県さいたま市中央区 稲生家1F・ダイニングルーム]

 夕食を囲む稲生家とイリーナ組。

 稲生宗一郎:「ささ、イリーナ先生、どうぞ一献」
 イリーナ:「すいませんねぇ、いきなり押し掛けちゃって……」
 宗一郎:「いえ、勇太から事前に話は聞いていたので、どうぞお気になさらず……」
 稲生佳子:「どうぞ、ごゆっくりなさって行ってくださいね」
 イリーナ:「スゥパスィーバ。ありがとうございます」
 宗一郎:「つきましては、来年度の我が社の行く末等について占って頂きたいと……」
 イリーナ:「ええ、そりゃもう。一宿一飯の御礼がそんなもので申し訳無いですぅ」
 宗一郎:「先生の占いは、かのプーチン大統領も求めたというではありませんか。私も占ってもらえて光栄です」
 イリーナ:「全幅の信頼、ありがとうございます」
 マリア:(プーチン大統領が『日本との外交はどうするべきか?』と聞かれて占ってたことは、日本人達には内緒にしておこう。多分、『北方領土は絶対に返すな』とか言ったはずだから、バレたら勇太がキレる)
 稲生勇太:「マリアさんもどうぞ。ワインなら行けますよね?」
 マリア:「ああ、うん。ありがとう。勇太はビールなんだね」
 勇太:「あまりアルコール度数が高いのは苦手で……」
 マリア:「甘い酒なら大丈夫なんじゃないの?私だって、ワインは甘口の方が飲める」
 勇太:「どうですかねぇ……」
 宗一郎:「明日はどのようなご予定で?」
 イリーナ:「お恥ずかしい話、特段決めてないのですよ。私のスケジュール調整が上手く行かず、息子さんを年末年始に帰省させてあげられなかったもので、取りあえずということで……」
 宗一郎:「お気遣い、ありがとうございます」
 マリア:「師匠、明日から天気が悪くなるみたいですが……」
 イリーナ:「そうみたいね。それも予定を決めかねる原因なのよ」
 勇太:「別に家の中で過ごしててもいいんじゃないですか?マリアさんのことだから、魔導書の一冊くらいもって来ているでしょうし……」
 マリア:「何だよ、私のことだからって……。合ってるけど」
 イリーナ:「じゃ、明日は自習でよろしく」
 マリア:「勇太の帰省ですよね?勇太の希望は聞かないんですか?」
 勇太:「あ、いや、マリアさん。別にいいんですよ。強いて言うなら、帰りのキップでも買って来ようかなとは思うんですが」
 イリーナ:「そりゃいいねぇ。明日カード預けるから、いい席を頼むよ?」
 宗一郎:「勇太、幸い北陸新幹線にはグランクラスがある。それだぞ?」
 勇太:「あ、いや、その……」
 イリーナ:「勇太君のお父さん、私はファーストクラスには乗らない主義なんです」
 宗一郎:「そ、そうなんですか?」
 イリーナ:「私とてダンテ流魔法門創始者の弟子の身分です。なので、ビジネスクラス以下に乗る主義なんです。……ぶっちゃけ、荷馬車に便乗して旅したこともありましたし、特にこだわりは無いんですよ」
 宗一郎:「そういうものですか」
 イリーナ:「そういうものです」

 すると宗一郎、カードケースの中から1枚のゴールドカードを出す。

 宗一郎:「勇太、これで先生方のキップを買ってこい」
 イリーナ:「いいんですよ。帰りのアシくらい、自分達で……」
 宗一郎:「これから先生に占って頂けるんですから、これくらい当然です」
 勇太:「う、うん。分かった」

 雄太はクレカを受け取った。

 勇太:(これで夜行バスの乗車券なんか買って来たら、メチャクチャ怒られそうだな……)

 新幹線にしたって、結局長野駅で特急バスに乗り換えて白馬に行くのだから似たようなものなのだが……。

 イリーナ:「勇太君、私は特にこだわりは無いからね?」

 イリーナは相変わらず目を細めたまま微笑を浮かべて言った。

 勇太:(もしかして、読まれてる?)

[同日21:00.天候:曇 稲生家2F・勇太の部屋]

 稲生勇太は部屋におり、自分のスマホで電話していた。
 相手は威吹邪甲。
 かつて勇太と盟約を交わし、一時期この家に逗留していた妖狐である。
 今では魔界王国アルカディアの王都アルカディアシティの南部郊外の日本人街に居住し、人間の女禰宜と結婚して一男を設けている。
 また、住み込みの弟子もいる。

 勇太:「新年の挨拶ができなくてさぁ、申し訳無かったね」
 威吹:「いやー、寒中見舞いのハガキをくれただけでも嬉しいよ」

 年賀状を送ることも忘れていた勇太だった。
 で、気づいて送ろうとした時、既に年賀状のシーズンが過ぎていたので、急いで寒中見舞いを送った由。
 それにしても、魔界に電話したり、寒中見舞いのハガキを送ったりと、魔道士の世界は凄い。

 威吹:「まだ、魔女の屋敷にいるの?」
 勇太:「いや、今は家。イリーナ先生が気を使ってくれて、旅先から帰る途中に寄ってくれたの」
 威吹:「ほお、キミの家か。懐かしいな」
 勇太:「まだ子供が小さいから大変だと思うけど、是非遊びに来なよ。さくらさんや威織君も連れてさ」

 さくらとは威吹が結婚した人間の巫女である。
 後に神職となり、禰宜になった(巫女は神職ではない)。
 そして威織とは息子の名前である。

 勇太:「うちの両親も喜ぶよ」
 威吹:「是非そうさせてもらうよ。……ユタは、いつ結婚するの?相手はあの魔女か?」
 勇太:「威吹!」

 ユタとは勇太の愛称。
 何故か妖怪がそう呼んで来ることが多く、何か意味があるのかと勇太は今でも首を傾げている。
 つまり、今でも意味が分からない。

 威吹:「ボクが先に結婚しちゃって本当に良かったのかな?」
 勇太:「いいんだよ!恋愛はキミの方が先だったんだから!僕のことは気にしないでくれ」
 威吹:「う、うん。だけど、今ではユタの気持ちを尊重できるよ。あの魔女が結婚相手でも、ユタが幸せならそれでいいと思う。もし決まったら教えてくれよ?ボクも何かお祝いがしたいから」
 勇太:「威吹……」
 威吹:「いででででっ!?こ、こら、威織!尻尾踏んでる!放せ、こら!引っ張るな!」

 どうやら、小さい息子にじゃれつかれているようである。

 勇太:「た、大変だね。それじゃ、また」

 勇太は電話を切った。

 勇太:(マリアとの子供かぁ……)

 魔女と結婚すると、高確率で女の子が生まれてくるらしい。
 『蛙の子は蛙』、『魔女の子は魔女』ということらしい。

 勇太:(威吹と使い魔契約の話をしたかったけど、また後ででいいか)

 勇太はそっと部屋の外を覗いてみた。
 部屋の斜め向かいにはシャワールームがある。
 マリアが好んでそこを使うのだが、どうやら出たようだ。
 と、同時に階段を駆け下りて行く音が聞こえた。

 勇太:(もしかしてマリア……今の話、聞いてたのかな?)

 電話の話だから、魔法でも使わない限り盗聴はできないはずだが……。
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“魔女エレーナの日常” 「エレーナの仕事ぶり」

2020-01-27 19:39:28 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月27日16:00.天候:曇 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 エレーナ:「本日から2泊のご利用ですね。それでは、こちらがルームキーでございます。4階の402号室を御用意させて頂きました。ごゆっくりお過ごしください。お食事ですが、ロビーの奥にレストランがございます。創作料理がメインですが、朝食はバイキングです。是非ご利用ください」

 エレーナはフロントに立ち、宿泊客の相手をしていた。
 レストランはエレーナの先輩で、ポーリン組のOGであるキャサリンが切り盛りしている。
 ホテルにはテナントとして入居している。
 宿泊客が鍵を受け取って、エレベーターに乗ろうとした時だった。

 宿泊客:「おっと!」
 リリアンヌ:「フヒッ!?」

 ドアが開いた瞬間、ぶつかりそうになった。

 リリアンヌ:「・・・・・・!」

 びっくりした為に自動通訳魔法具の効果が切れ、リリアンヌの言葉は元のフランス語になった。

 エレーナ:「申し訳ありません」

 エレーナがフロントから出て来た。
 宿泊客は特にクレームも付けず、そのままエレベーターで上がって行った。

 エレーナ:「こら、リリィ。いきなり飛び出すなっての」
 リリィ:「フヒ、ごめんなさい……」
 エレーナ:「学校は……あ、そうか。魔界とは時差があるからな。今日が休みなのか」
 リリィ:「そうなんです……」

 リリアンヌは魔界の学校の制服を着ている。
 セーラー服とブレザーを折衷したかのようなデザインだ。

 リリィ:「今日、先輩の部屋に泊めてください」
 エレーナ:「ああ、分かった。上段ベッド使いな」
 リリィ:「フヒッ、ありがとうございます」
 エレーナ:「ほら、部屋の鍵とエレベーターの鍵」

 エレーナは自室の鍵とエレベーターを地下まで動かす為の起動キーを渡した。
 地下室から乗る分にはエレベーターは地下まで下りてくるのだが、地上階から地下階へはキーが無いと行けないようになっている。
 地下階は基本的に機械室やボイラー室しか無く、エレーナの部屋はかつてのボイラー技士室を改装したものであった。

 リリィ:「お世話になります……」

 魔界への出入口はホテルの地下階にある。
 学校が休みの日、リリィは寮を出てここに来るのが日課になっていた。

 鈴木:「やあ、こんにちは。美人魔道士」
 リリィ:「フヒッ、ムッシュ鈴木……」
 エレーナ:「御予約の鈴木様ですね。こちらに御記入をお願い致します」
 鈴木:「そんな他人行儀な……」
 エレーナ:「私は今仕事中なんだから、当たり前だろ」
 鈴木:「それもそうだ」

 鈴木は宿泊者シートに慣れた手つきでボールペンを走らせた。

 リリィ:「ムッシュ鈴木、また泊まる……ですか?」
 鈴木:「そうだよ。俺はこのホテルの常連だからね」
 エレーナ:「いつもご利用ありがとうございます」
 鈴木:「明日は都内で2cm雪が積もるらしいよ。雪かき手伝おうか?」
 エレーナ:「お客様はどうぞ気になさらず、ごゆっくりお寛ぎください」
 鈴木:「明日は夜勤明けだろ?もし良かったら、一緒に何か食べに行かない?」
 エレーナ:「お客様、ただいま勤務中ですので」
 鈴木:「そうか。それじゃしょうがない。リリィちゃん、俺と行くか?」
 リリィ:「フヒッ!?わ、わらひとですか!?」
 エレーナ:「ロリペド野郎はお断りだぜ、あぁっ!?」
 鈴木:「リリィちゃん、もう14歳だろ?ロリって歳でも……」
 エレーナ:「見た目はほぼJSだから似たようなもんだっ、この!」
 リリィ:「先輩、ヒドい……」
 鈴木:「マリアさんにしろ、リリィちゃんにしろ、年齢の割には小さく見えるコ、多くない?俺達日本人からすれば、こういう外国人って早熟で、実年齢より上に見えるものなんだけど……」
 エレーナ:「私はいくつに見える?」
 鈴木:「俺と同じくらい?」
 エレーナ:「はい、ブブー。アンタより100歳以上年上」
 鈴木:「ウソだぁ!……ってか、もしそうだとしてもだよ?結局、『実年齢より幼く見える』ことに変わりは無いじゃないか」
 エレーナ:「それもそうか」
 リリィ:「先輩。せっかくムッシュ鈴木が御馳走してくれると言ってるんで、皆で行きましょう。フヒヒヒ……」
 エレーナ:「オマエも言えるようになったなぁ……。まあ、いいや。せっかくだから、奢らせてやるぜ」
 鈴木:「そう来なくちゃ。(でもぶっちゃけ、エレーナと2人きりになりたいんだけどな……)」
 リリィ:「先輩、夕食は……?」
 エレーナ:「私は賄いがあるからな。リリィ、適当に食べて来い」
 鈴木:「俺と一緒に食うか?」
 リリィ:「フヒッ!?」
 エレーナ:「おい、鈴木。勝手に……」
 鈴木:「そこのレストランならいいだろ?キミの先輩が経営していることだし」
 リリィ:「キャシー先生のレストラン……」
 エレーナ:「まあ……それならいいけど……」
 鈴木:「是非とも『飴玉婆さん』の武勇伝について聞いてみたいものだ」
 エレーナ:「いいのか?人間側から聞けば、恐らく不愉快な内容だと思うぞ?」

 舐めれば幸せになる魔法の飴玉を無償で高校生達に配っていたキャサリン。
 しかし中には逆に不幸になるハズレの飴玉があったり、不遜な態度を取って来たクソガキには復讐をかましたりとの伝説もある。
 今はそういう飴玉は作っていないとのことだが……。

 鈴木:「もし良かったら、俺にも作ってもらおうかなぁ……なんて。もちろん、お金は出す」
 エレーナ:「その材料を知ったら、絶対メシマズになること請け合い」
 鈴木:「何か言った?」
 エレーナ:「いや、何でもない。キャサリン先輩も話好きのオバサンだから、せいぜい話聞いてあげて」
 鈴木:「りょーかい。……あ、そうそう。今日、稲生先輩が帰国したんだってね。今頃、家にいるのかな」
 エレーナ:「ウラジオストクに住んでる親戚の家を訪ねたらしいな。稲生氏にとっては親戚宅、マリアンナ達に取っては同門の士訪問か」

 リリィが先に鍵を操作してエレベーターを地下まで行けるようにした。

 エレーナ:「いらっしゃいませー」

 次の宿泊客が入って来たので、エレーナは再び接客モードへと切り替えた。
 今度は中国語を話す客だったので、エレーナは持ち前のバイリンガルで対応した。
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