報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「霧雨の中を進む」

2015-09-29 22:11:17 | アンドロイドマスターシリーズ
[9月10日13:00.JR新宿駅新南口(代々木)JRバス乗り場 敷島孝夫、アリス・シキシマ、3号機のシンディ]

〔「只今、13時ちょうど発のバスをご案内中です。1番乗り場では“仙台・新宿”7号、長町駅東口経由仙台駅東口行きをご案内中です。……」〕

 霧雨降るバスターミナルに着いたバスは、夜行用のバスだった。
 独立3列シートが車内に並んでいる。
 敷島達はきれいに横1列に並んだ。
 バスは満席ではなかったが、両側の窓側席は全て埋まり、あとは敷島達のようなグループ客の1人が真ん中席に座るくらいだ。
 だから空いた真ん中席は、しっかり荷物置き場になってしまっている。
「本日は集中豪雨による影響で、東北自動車道が通行止めになっております。その為、臨時に常磐道、磐越道を迂回して運行致します。大幅な遅れが出る恐れがありますが、よろしいでしょうか?」
 運転手がマイクを使わず、わざわざ最前列席の前に立って乗客に呼び掛けていた。
 もちろん、反対する者はいない。
「それでは、出発致します」

 バスは出発時は定刻通りであった。
 A席には敷島、C席にはアリス。
 ど真ん中のB席にシンディを座らせた。
 こうすることで、シンディは両側を警戒することができる。
 着座位置は、だいたいバスの中央部分。
 姉のエミリーの行動に苛立ちを隠しきれなかったシンディは、そのせいでだいぶバッテリーを消耗していた。
 そこで、座席に付いているコンセントで充電を開始する。
 日本の電圧規格、交流100Vに対応しているので大丈夫だ。

『バッテリーが20パーセント以下です』

「う……」
「シンディ。いいから『寝て』なさい。多分、何も無いだろうから」
 アリスが言った。
「はい……」
 シンディは小さく頷いて、コンセントとケーブルを繋ぐと“スリープ”に入った。
 但し、その前に忘れてはいなかった。

『未だ地中に眠る配下の者どもよ。目覚めなさい。そして、敵の居場所を探れ』 

 KR団は元より、その前から別のテロ組織などが廃棄したはずのバージョン・シリーズに呼び掛けることだ。

『お前達が人に仇成し、害を成すだけの存在ではないことを証明せよ』

[同日14:25.常磐自動車道・守谷SA(茨城県守谷市) 上記メンバー]

 バスは相変わらず霧雨のまま、茨城県に入った。
 首都高速では渋滞に巻き込まれたものの、常磐道に入ってからは渋滞もなく、順調なスピードで走行できた。
 つくばエクスプレスの高架線を横目に、バスは常磐道でも大型のサービスエリアに入った。

〔「守谷サービスエリアです。こちらで15分休憩を致します。発車は14時40分です。時間までにバスにお戻りくださいますよう、お願い致します」〕

 東名高速では『バス専用』と書かれているが、こちらでは『バス優先』と書かれている。
 なので、大型トラックや乗用車なんかも止まっていたりする。
 トイレに近い場所にあるのは事実だ。
「シンディのバッテリーは……おっ、50パー超えたか」
「……はい」
 シンディはスリープモードを解除すると、目を開いた。
「降りられますか?お伴致します」
「じゃあ、頼むよ」
 霧雨が降っているので、敷島達は傘を差した。
 シンディは傘を差さない。
 敷島とアリスがトイレに入っていったので、シンディは入口付近で待っていた。
 バッテリーの消耗が激しくとも、周囲をスキャンすることは忘れない。
「!?」
 だが、そこへロイドの反応があった。
 反応のする方へ目を向ける。
 と、同時に右手を背中の後ろに回し、こっそりライフルに変形させた。
「お嬢様、行ってらっしゃいませ」
 それは黒いスーツに身を包んだ執事ロイドだった。
 どうやら人間の女性に付いているらしい。
「…………」
 もちろんそれはキールではない。
 シンディがポカンとしていると、執事ロイドは、
「こんにちは」
 と、挨拶してきた。
「……ん、ああ、どうも」
 シンディは右手を元に戻した。
「北関東や東北じゃ大豪雨だってのに、どこまで行くの?」
「日立市です。お嬢様が、私の製造元を御見学したいと申されまして」
「あそこには……まあ、そういうメーカーのお膝元か」
「はい。あなたは……メイドロイド……にしては、少し仕様が違うように思われますが……」
「アタシはマルチタイプだよ。まあ、メイドロイドの仕事もできるけどね」
「マルチタイプ!?」
「そうだよ。……恐ろしいかい?……まあ、これからアンタの同型機を蜂の巣にしに行くところだけどね。……何か、情報はある?名前をキール・ブルーっていうんだけど……」
「キール・ブルー……」
 執事ロイドはフリーズしかかったのか、少しぎこちない動きになって、右手の白い手袋を取った。
「取りあえず……ハイタッチしませんか?」
「ああ、そうだね」
 シンディも右手にはめている青い革手袋を取った。
 肘まで隠れるタイプだ。
 エミリーがピンク色のナイロン製手袋を着けているのとはだいぶ違う。
 ロイドの掌には赤外線通信レンズが付いており、これで互いの情報を交換する。
 つまり、ロイド同士の名刺交換のようなのである。
「緑川泰造?これがアンタの名前かい?……ああ、日本人顔で設計されてるもんね」
「そういうことです。シンディ・サード様ですね。……データと一致しました。大そう、名のある方とお見受け致します」
「まあ、昔は相当色んなことをやらかして来たからね。……ああ、何かデータ入ってる。これがアンタの提供してくれる情報かい?」
「お役に立てるかどうか……」
「いや、いいよ。ありがとう」

 緑川家のお嬢様とやらは、しばらくこのサービスエリアで休憩するらしい。
 敷島達のバスは時間通りに発車した。
「うま……うま……」
「おま、ソフトクリーム……」
 売店で買ったソフトクリームを美味そうに食べるアリスであった。
 それを呆れた顔で見る敷島。
 しかしそれでも、コンビニで買ったポッキーをポリポリ齧るので、あまり偉そうに言えないのだった。
 シンディは適当に相槌を打ちながら、しかし、再び充電する準備をして、泰造がくれた情報が実に有益なものだと判断した。
 あとはそれをどう作戦に結び付けるか、だ。

 バスは霧雨の中を北進して行った。
 遠回りだが、方向は合っている。
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本日の雑感 0928

2015-09-28 21:44:19 | 日記
 ついにトチロ〜さんが告白手記を書かれた。
 不定期連載のようだが、既に事の起こりを掲載されている。
 私はあの事件の後の御受誡なので、事の起こりからは知らない。
 だけど、W氏については知っている。
 恐らく、私の折伏の時にトチロ〜さんと共に同席した人達の中にいた人だろう。
 話はいきなり一通のメールが来た所から始まっているが、そもそもどうして一通のメールが来るに至ったかについては謎のままである。
 まだ話せない部分が多々あることの現れだろう。
 当時の人々、そして私のようなその後の報恩坊関係者なら分かる内容になっている。
 もっとも、私は報恩坊は元より、特別布教区自体が危険地帯と称して1人だけ避難したヘタレであるが。
 若気の至りとはいえ、勿体ないことをしてしまった。
 私も少しは歳を取ったからなのか、今ならあの程度のことで逃げ出すことはしなかったのだが。
 結果論であるが、御受誡のタイミングが早過ぎたか。
 W氏が出て行くまで待つ必要があっただろう。
 歳を取った今なら、そういった判断ができたんだがなぁ……。

 というわけで、法華講員から折伏を掛けられている方々、何も急ぐことは無いから。
 逆に他のお寺も訪ねてみて、自分と合う所を内見させてもらう手もあるから。
 法華講員も平成33年度の誓願とやらで、少し焦っている人もいるから、その辺気をつけてほしい。
 全く。実に下らない。
 あと6年もあるのに。
 私は6年後の誓願達成率は、今のままだと惨憺たる有り様になりそうな気がしてしょうがない。
 既に“フェイク”や創価新報が『惨敗!誓願を大きく下回る!』『哀れ日顕宗、信徒数は逆に減!』とか書くのは目に見えている。
 だが“大白法”は、『各支部で誓願達成の報告多数!』とかなるだろう。
 そういうものなのだ。所詮はマスコミ。

 私が1番気になっているのは、宗門が平成33年の誓願を達成しているかどうかより、浅井会長、まだ生きてるかな〜ってことだ。
 浅井会長が臨終して、顕正会が分裂の危機に立たされた時、私は動こう!
 それまでは雌伏の時。
 浅井会長が臨終を迎え、顕正会を束ねる者がいなくなった時がチャンスだ。
 宗門はその時、押し寄せる顕正会員によって誓願を大きく超えることができる……はずだ。
 因みにその時、厳虎さんはもちろん、ポテンヒットさんにも宗門に来て頂きますのでw
 一緒にメタボ先生の冥福を祈って、偲ぶ会でもやりましょうや。

 という夢を見そうなんだが。
 いや、さすがにあれだけ洗脳されていた顕正会員が、後追い自殺はしても、それを機に宗門に来ることは無さそうだなぁ……。
 意外と多くの会員が残留しそうな気がする。
 まあ、私もいつまでもヘタレてないで、さすがにその時は元顕として折伏に向かうつもりだけど。
 取りあえず、ポテンヒットさんを折伏させて頂きますw
 場所は大宮競輪場でいいっすか?
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バス・フリークスから見ると、運賃はけして高くない。

2015-09-28 00:27:02 | 日記
大型バス「値上げ」で噴出した、予想外の悲鳴 過剰な価格競争には歯止めがかかるものの…

 貸切バスというと、どうしても高速バスのようなタイプを思い浮かべるかもしれない。
 しかし、例えば隣県に行く程度の距離であるならば、一般路線バスを借りた方が安いということもある。
 例えば国際興業バスの深夜急行バス“ミッドナイトアロー”に使用される、ワンロマと呼ばれるタイプのバスは、観光バスタイプよりも安いということをPRしている。
 特徴は2人席の数が多く、ロングシート(横向き席)は基本的に無い。
 バス会社にもよりけるが、それ以外にカーテンが付いていたり、網棚が付いていたり、あとはシートベルトが付いていて高速道路も走れるようになっていたりする。

「あれ?それってどこかで見た事ある」(by新幹線で大石寺登山の経験者)

 うん、そう。
 実は何気に新富士駅~大石寺間を走る登山バスの、路線バスタイプが正にワンロマ仕様なのである。
 要は社会科見学だとかスポーツ遠征などで隣県に行く程度の距離で、観光バスが高くて予約できないというのであれば、そのワンロマの方を安く借りるという手があるということだ。
 というわけで、富士急バスは言わずもがな。
 さいたま市内においても、国際興業と西武バスでその存在を確認済みだ。
 多分、同じく深夜急行バスを運行している東武バスにもあるんじゃないの。
 トリビアで、都営バスにも貸切観光バスがあるという情報も提供しよう。

 私が小学生の頃は、社会科見学など仙台市教育委員会から何らかの圧力でもあったのか、仙台市営バスの一般路線車を貸し切って行ったくらいだ。
 ただ、例えワンロマと言っても、何度も言うように隣県まで足を伸ばす程度の距離を想定しただけの設計だ。
 国際興業も、確かそのくらいの距離に限るような条件を出しているはずだ。

 支部総登山でバスを貸し切る際も、冒頭の記事のように、運賃値上がりで、登山部長さんが頭を悩ませておられる話を伺っている。
 私らは東京都内から出発するからワンロマは無理だが、同じ静岡県内だとか、比較的御山から近い所の支部の皆様は御一考なさってみてはいかがだろうか?
 もう既に実行済みであれば、申し訳無い。

 しかし、バスで直接乗り付けることができるだけ、大石寺は恵まれていると思う。
 私は直接行ったことないが、話に聞くと、身延山久遠寺は本当に山登りを強いられるのだそうだ。
 それと同様、参詣に行くだけで苦行みたいな立地条件の寺は存在する。
 比較的楽に参詣できる場所を提供してくれた南条時光さん、GJと思うのは私だけかな?
 いや、それと同時に身延離山を決断された日興上人に対しても、か。

 当時、色々と複雑な事情があったのだろうが、しかし後世の信徒である私達にとっては却って参詣しやすくなった。
 結果オーライだと個人的に思う。
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"新アンドロイドマスター" 「豪雨の中を進む」

2015-09-26 22:03:24 | アンドロイドマスターシリーズ
[9月10日11:15.天候:雨 JR北与野駅 敷島孝夫、アリス・シキシマ、3号機のシンディ]

 北関東は豪雨で大変なことになっているらしい。
 だが、埼玉は霧雨程度であった。
 エミリーが注意を無視して、敵対者と逢引したことは重大なことである。
 敷島達は急きょ、仙台に向かうことにした。
 シンディは連れて行くか迷ったが、
「妹として責任取らせて。約束通り、あの姉貴をブッ飛ばしてやるから!」
 と主張したので、どうしても連れて行かざるを得なかった。

〔まもなく1番線に、各駅停車、新宿行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください〕

 背後を新幹線が通過して行く。
 今のところ新幹線は動いているが、既に在来線には運休が発生している。
 このままでは新幹線も危ういと思ったので、別ルートで行くことにした。
 幸い元々が閑散期で、こんな豪雨(今の埼玉は霧雨だが)の中、旅行に行く者も少ないのか、簡単に予約できた。

 りんかい線の電車が入線してくる。
 先頭車はガラガラだった。

〔北与野、北与野。ご乗車、ありがとうございます〕

 因みにこの時点で、5分の遅れ。
 既に、嫌な予感が立ち込めている。

〔1番線、ドアが閉まります。ご注意ください〕

 電車はすぐにドアを閉めて発車した。
 敷島とアリスは着席するが、シンディは荷物を手に立っている。

〔「次は与野本町、与野本町です」〕

 ポロロロン♪とドアの上からチャイムが流れて来ると、右から左にLED表示の運行情報が流れて来る。
 JRもそうだが、北関東を走る東武線もズタズタらしい。
 本来は敷島達も雨をやり過ごしてから行きたかったのだが、(ある程度想定していたとはいえ本当に)エミリーが命令を違反して男を選んだことは重大な裏切り行為であり、敷島達も彼女から直接事情を聞きたいという気持ちが強かった。
 ……というのは正直でありながら実は表向きの理由である。
 実際は、
「シンディ。落ち着け。バッテリーとラジエーターが勿体ない」
 放っておくと、今度はシンディが暴走しかねなかったからだ。
「2〜3発張り倒すのはいいけど、壊すなよ?絶対だぞ?」
「……分かってるよ」
 シンディは小さく頷いた。
 アリスは苦笑にも微笑とも取れる顔で、
「シンディ。あれでもエミリーは大事な研究対象でもあるんだから、姉妹ゲンカで壊されたら困るのよ?」
「……分かっております」
 敷島は小声でアリスに、
「どうする?こりゃ2〜3発ブン殴るだけで、機嫌が収まりそうな感じじゃないぞ?」
 アリスも小声で、
「いざとなったら、緊急シャットダウンするわよ」
 と、答えた。

[同日11:55.JR新宿駅 上記メンバー]

 電車は基本的に4〜5分遅れのまま新宿駅に到着した。
 ここでも湘南新宿ラインのダイヤが豪雨でメチャクチャになっており、東海道本線や横須賀線との相互直通運転が中止との放送が流れていた。
「財団の元事務所に寄って行くの?」
「いや、いいよ。このまま、バスターミナルまで行こう」
 敷島達は高速バスを予約していた。
 バスなら迂回運行するなどして、何とか運行すると考えたからだ。
 豪雨の酷い所が終点だったり、どうしてもそこを通らざるを得ないような路線は運休のようだが、仙台行きが運休との情報は無かった。
 新宿駅の新南口を出て、代々木方面に向かう。
 そこのJRバスターミナルは、確かに新宿駅よりも代々木駅の方が近い。
 しかし、代々木駅の東口はバリアフリー化されておらず、未だに階段しか無い為、大きな荷物があったりする場合、少し歩いてでもエスカレーターが完備されている新宿駅側からアクセスした方が良い。
 屋根の無い所は傘を差すが、そこでも霧雨であった。
 とても、北関東などで集中豪雨で被害が出ているとは信じ難い。
「途中で昼飯食って行こう。シンディは待っててくれ。くれぐれも、勝手に行くなよ?」
「いい子にして待ってるのよ、シンディ?」
「かしこまりました」
 それには淡々と答えて頷くシンディだった。

[同日同時刻 天候:雨 宮城県仙台市青葉区・東北工科大学・南里志郎記念館 平賀太一&1号機のエミリー]

 エミリーは記念館の地下研究室に監禁されていた。
 シャットダウンはされていない。
 薄暗い監禁室の片隅に体育座りして、顔を足と足の間に埋めていた。
(鏡音レンと・逆に・なってしまった……)
 かつてレンが暴走して、敷島に襲い掛かったことがある。
 財団ではレンに処分を下すかどうか協議の為、財団事務所にあった監禁室に閉じ込めていたことがあった。
 あの時はエミリーが気に掛けて、よく面会に行ったものだが、今はそんなことはない。
 ここは遠く離れた仙台だ。
 それに、レンは不可抗力的なウィルス感染が原因だが、エミリーのしたことは意図的な命令違反である。
 どちらが罪が重いかは明白だ。
 エミリーもそれは十分に分かっていることであり、どうせならこのまま舌を噛み千切って自爆したいくらいであった(舌を噛み切ると、ロイドの体内に仕掛けられている自爆装置が起動する)。
 だが平賀に取っては想定内なのか、エミリーには特殊なギャグボールが装着されていた。
 これで舌が噛めないようになっている。
(どうせ・なら……シンディの・手で……。いや……却って・シンディが・可哀想……か……)
 シンディがこちらに向かって来ることは、平賀から聞いていた。
 どの面下げて、敷島達や妹機に合わせれば良いのだろうと思った。
 間違い無く、シンディは烈火の如く、鬼のような形相でエミリーに殴り掛かってくるだろう。
 妹との約束を破ってしまったのだから、しょうがない。
(ごめん……シンディ……。私……やっぱり・役立たず……)
「おい、エミリー」
 監禁室の小窓から、平賀の声がした。
 エミリーは顔を上げたが、ギャグボールを装着されているせいで、喋れない。
 仕方が無いので、スピーカーによる音声に切り替えようかと思ったが、
「いや、喋る必要は無い。ただ、聞いてくれるだけでいい。実はお前も既に何度も警報を受信していると思うが、折からの天候悪化で、もしかしたら敷島さん達の到着が遅れるかもしれないんだ。到着時間の如何によっては、今日中に会えないかもしれない。それだけを伝えに来た」
「…………」
「敷島さん達の意向もあるから、別にお前を処分したりはしないよ。ただ、敷島さん達の尋問には協力するように。分かったか?」
 エミリーは大きく頷いた。
「分かったら、敷島さん達が到着するまで、しばらくここにいてくれ」
 そう言って、平賀は監禁室の前をあとにした。
(敷島さんも甘いなぁ……。まあ、自分も南里先生の形見を処分したくはないが……)
 記念館の地上1階に出ると、外の雨足の強さに一抹の不安を感じたのだった。
 それは逆に、その間はキールの襲撃は無いということでもあるのだが……。
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“新アンドロイドマスター” 「執事ロイドの最期?」

2015-09-25 19:42:58 | アンドロイドマスターシリーズ
[9月9日17:28.天候:曇 JR東京駅・東北新幹線ホーム 敷島孝夫、3号機のシンディ、平賀太一、1号機のエミリー]

 エミリーの修理と起動実験を終えた平賀とエミリーは、拠点である仙台へ帰るべく、新幹線乗り場にいた。
 敷島とシンディが見送りをしている。
 シンディはエミリーの両手を握って、未だにキールのことが忘れられない(消去しようとすると、ブロックが掛かってしまう)エミリーを案じている。
 エミリーは何も心配しなくて良いようなことを言っているが、その顔は無表情の中に未練がましい部分もあって、とても妹を納得させられるものではなかった。

〔「22番線、お待たせ致しました。17時28分発の東北新幹線“やまびこ”151号、仙台行きは信号が変わり次第、発車致します。ご利用のお客様は、ご乗車になりまして、お待ちください」〕

 一部のマニアからは“はつね”と呼ばれる“はやぶさ”用の車両。
「それじゃ敷島さん、あとは作戦通りに……」
「分かりました」
 平賀は意味深なことを言って、9号車に乗り込んだ。
 グリーン車であるが、“はやぶさ”と違い、“やまびこ”ではシートサービスは無い。訂正!一部を除く“やまびこ”ではシートサービスを行っているもよう。
「おい、エミリー」
 平賀がエミリーを呼ぶ。
「……イエス。敷島社長、シンディ。……失礼・致します」
 エミリーは敷島には深々お辞儀して、平賀の後に乗車した。
 ようやく信号が開通したのか、発車ベルがホームに鳴り響く。

〔22番線から、“やまびこ”151号、仙台行きが発車致します。次は、上野に止まります。黄色い線まで、お下がりください〕

 列車は甲高い客終合図の音と共にドアを閉め、これまたリズミカルなVVVFインバータの音色を奏でて発車していった。
「エミリーは大丈夫かな?」
「……アタシ、姉さんと戦うの、もうイヤだよ」
「分かってるさ。何とかしないと……」
 キールに誑かされて、また悪堕ちしないかが心配だ。
「取りあえず、俺達も帰ろう。このまま、次の各駅停車“やまびこ”に乗っちゃうか?大宮なんて、すぐだぞ?」
「無駄使いすんなって、アリス博士に言われたでしょ?上野東京ラインにしな」
「へーい……」
 シンディは敷島エージェンシーにおいては、社長である敷島の秘書兼護衛という立ち位置だが、ここでは既に敷島家の家令ロイドという風に変わっている。
 で、何故か世帯主の敷島の方が家令より下という変な家なのであった。

[同日19:30.天候:雨 宮城県仙台市青葉区 “やまびこ”151号9号車内→JR仙台駅 平賀太一、エミリー、平賀奈津子]

 列車はほぼ定刻通りに高架線を走行している。
 仙台市内ではカーブが多いのと騒音対策で、減速して走行する。
 通路側の席に俯くようにして座っているエミリー。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、仙台です。東北新幹線、盛岡、新青森方面、仙石線、仙山線、常磐線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 車内放送を合図とするかのように省電力モードが解除され、ウィィィンと顔を上げる。
「充電は終わったか?」
 と、平賀。
「イエス。ドクター平賀」
 エミリーが答えると、自分で体に装着していたコンセントとケーブルを抜いた。
 “はやぶさ”用のE5系車両は、普通車なら窓側席の下とデッキ前の席の全て、グリーン車とグランクラスなら全ての座席にコンセントが付いている。
 手荷物は平賀が自分で持つが、デッキの荷物置き場に置いてある大きなキャリーバッグはエミリーが持つ。

 列車はポイント通過で車体を揺らしながら、仙台駅14番線ホームに滑り込んだ。

〔「ご乗車ありがとうございました。終点、仙台、終点、仙台です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。……」〕

 ドアが開くと、乗客達が吐き出された。
 その中に平賀達も混じる。
 仙台駅の新幹線改札口は、東京駅と違って基本的に在来線を通って行くことはない(在来線との乗換改札口はある)。
 東京駅の東海道新幹線乗り場のように独立している。
 3階にある改札口まで行くと、そこに行くと平賀奈津子が待っていた。
「お帰りなさい」
「ああ」
「ドクター奈津子、御迷惑を・お掛け・してしまい、申し訳・ありません・でした」
 エミリーは奈津子の姿を見ると、深々とお辞儀した。
「まあ、しょうがないよ。あなたの感情レイヤーが、それだけ一途だってことが証明されたってわけね。だからでしょ?意外と長く東京にいたのって?」
「まあな」
 平賀は苦笑いした。
 仙台でもそうなのだが、東京にいると、もっとエミリーを見に来る研究者が後を絶たないのだ。
 それだけ世界的にも珍しいということだ。
 敷島エージェンシーでは研究目的での来訪を断っているので、同じ穴のムジナとも言える平賀の方に矛先が向けられるのだ。
「それじゃ、行きましょう。まずはエミリーを記念館に置いてくるのね?」
「そういうことだ」
 3人は駅の駐車場に向かった。

[9月10日02:00.東北工科大学・南里志郎記念館 エミリー]

 記念館は大学キャンパスの外れに打ち棄てられていた旧・研究棟を改築したものだ。
 なので建物的には古く、天候や時間帯によっては、ホラー映画のような要素を醸し出すことがある。
 その為、演劇部が自主制作の映画撮影をする際に使用することもある。
 『洋館に閉じ込められた主人公が、狂ったメイドに凶器片手に追い回される』シーンにおいて、そのメイドの役で協力したこともあった。
 マルチタイプのエミリーは、そんな人間達の恐怖のことなど知らない。
 人型兵器だった頃は、粛清相手が恐怖におののき逃げ惑う姿を認識することで、任務の完遂を確信したということくらいだ。
 建物は古いが、改築時にセキュリティは最新型の物が備え付けられ、休んでいるエミリーと連動して、侵入者を捕捉することができるようになっている。
 だが、そんなセキュリティをエミリーは無断で解除してしまった。
 館内であれば展示室に限らず、自由に行動できる権限がある。
 更に裏口を勝手に開錠する。
 すると、そこから入ってきたのはキールだった。
「キール……!」
 分かっている。
 本当はこれは良くないことなのだと。
 昔の自分であれば、絶対に考えられないことだ。
 与えられた命令に違反することなど……。
 だが、どうしても目の前に現れた男の姿が視界に入ると、全てその命令が消えてしまうのだった。
「エミリー、会いたかったよ」
 キールはエミリーを抱きしめて、唇を重ねた。
「ん……」

[同日同時刻 埼玉県さいたま市中央区 敷島のマンション 敷島孝夫&アリス・シキシマ]

 その様子をPCのモニタで監視している敷島達。
「よーし!飛んで火に入る夏の虫だな、キールめ!」
 隠しカメラで、ロイド達の逢引を監視していた敷島だった。
 そしてガッツポーズをする。
「絶対、エミリーに夜這い掛けるパターンだと思っていたんだ!」
「タカオ、本当にいいの?」
 後ろでアリスが首を傾げていた。
「心配するな。もう既に平賀先生と大学側には許可を取っている。エミリーは頑丈だから大丈夫だが、元・執事ロイドのキールはそこまでの強度は無いだろう」
 敷島はマウスで画面を半分切り替え、そこに現れた表示をクリックした。
 それはドクロマーク。
「記念館ごと吹っ飛ばしてやるぜ、キールぅ!!」
 何と!いつの間にか敷島は、記念館に爆弾を仕掛けていたのであった。
「ポチッとな!」
 敷島はエンターキーを叩いた。

 ブツッと画面が消える。
「!?……あれ?……れれれ?」
 敷島は何回かエンターキーを叩き、あとはキーボードのキーを適当に叩いた。
 が、画面は消えたままだ。
「ちょっと!どうなってるの?」
 妻の詰問に対し、
「は……はは……ははははははははは……(乾笑)」
「HAHAHAHA……(乾笑)」
 と、2人して笑った後、
「……分かりません」
「……!」
 敷島は肩を竦めた。
「多分、エミリーかキールにバレたな、こりゃ……」
「全くもうっ!Shit!」

 で、実際に翌日、天井に穴が開いていたそうだ。
 レーザーで焼かれた跡だったので、キールが隠しカメラと起爆装置のケーブルを焼き切ったのだろう。
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