報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「新旧対決」

2016-05-31 22:32:43 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月16日03:00.天候:晴 アーカンソー研究所・正面エントランス前]

 屋上でシンディとルディが間合いを取った銃撃戦をしていたのに対し、こらちは取っ組み合いの戦いであった。
 時々離れてはエミリーがショットガンを放ち、ジャニスがマシンガンを撃ったりした。
「まずいな……」
 互角に戦っているように見えて、平賀はエミリーの不利を実感していた。
 いや、何も旧型が新型に劣るからではない。
 そもそもマルチタイプが21世紀前半の……というか、20世紀に造られたことが信じられないくらいのオーバーテクノロジーだ。
 平賀は一応、日本で初のメイドロイドを製造したことで、ロボット工学におけるブレイクスルー達成者と称賛を浴びはしたが、本来のブレイクスルー者である南里志郎に師事していなければ、エミリーの後期型ボディを作れなかったことを考えると、実はマルチタイプに新旧の差は無いような気がした。
 師である亡き南里なら、もっと違う意見を述べただろうか。
 で、平賀がどうしてエミリーが不利だと思ったのかというと……。
「エミリーのバッテリーがヤバい」
 動力の差であった。
 いずれはエミリーやシンディも、動力をバッテリーや油圧だけでなく、最新型機のような燃料電池を動力に改造できないかと考えてはいた。
 ジャニスがピンピンしているのに対し、エミリーはバッテリー低下によるセーフティが働き、動きが鈍くなっていた。
「マジで?」
 アリスが口元を歪めた。
「……ってことは、シンディも!?」
「くそっ。こんな長期戦になるんだったら、一旦呼び戻せば良かった。失敗した!」
 ジャニスもそれは気付いたらしい。
「アっはははははははっ!どーしたの、お姉ちゃん!?何かバテてない!?」
「……黙れ」
「旧型は不便だねー!アタシとルディは燃料電池だから、何もしなくても3日は元気に稼働できるもんねー!」
 それに対して旧型のエミリーとシンディは、毎日バッテリーを交換・充電しなくてはならない。
 それでも人間そっくりのロイドが、1日1回の充電だけであれだけ稼働できるのだから、本来十分と言えば十分だが。
「すぐに・カタを・つける」
 エミリーは右手をショットガンに変形させ、ガチャガチャとリロードの音を立てた。
 だが、エミリーの目、自動照準機能が使えなくなった。

『バッテリーが10%以下です。直ちにバッテリーを交換するか、充電してください』

 平賀の手持ちのタブレットは、エミリーを遠隔監視する為の物である。
 消音にしてはいるが、実はさっきからバッテリー低下のアラーム音が鳴りっぱなしであった。
 もちろん、充電済みの予備バッテリーは『走る司令室』の中に積み込んである。
 だが、ジャニスのことだから、バッテリーを交換させてはくれないだろう。
(せめて、シンディがルディを倒して戻ってきてくれたら……!)
 平賀は祈念するように天井、つまり屋上の方を見上げた。

[同日03:30.天候:晴 同場所・屋上]

 クエントはまず、アルバート所長のコピーロボットに撃たれたアルバート常務の容態を見た。
 だが、常務は意識も呼吸も無く、脈も止まっていた。
「……残念だが、死んでしまった」
 因みに自在スパナでクエントが殴り付けたアルバート所長の方は、殴られたこめかみから出血はしていたものの、こちらは意識が無いだけだった。
「コピーロボットとはいえ、常務を射殺したんだから、殺人の現行犯だな」
 取りあえずクエントは、ヘリコプターの中にあったワイヤーでアルバート所長の手足を縛っておいた。
「え?僕?アルバート所長への傷害じゃないかって?いやいや、これはれっきした正当防衛だよ」
「……さっきから、何をブツブツ言ってるの?」
 シンディが“具合が悪そうに”言った。
「そういうキミこそ、少しは手伝ってくれよ」
「ゴメン。もう、バッテリーが残り少なくなって……」
「それを早く言ってよ!あとどのくらい!?」
「もう……10%切っちゃった……」
「ええーっ!?」
「もう……動けない……」
「えーと、予備のバッテリーは……ああっ!『走る司令室』の中だ!……直接、充電できるよね?あー、でも、電源が……」
 その時、クエントは頭部から火花を散らしているルディに注目した。
「そうだ!こいつの燃料電池から、電源もらっちゃおう!」
 クエントは手持ちの工具で、ルディの体内をこじ開けると、
「あった!燃料電池!」
 小型の動力を発見した。
「こいつとコードを繋いで……」
 こうして、クエントは器用にルディの燃料電池から電源を取り、シンディのバッテリーに電気を送り込んだ。
「姉さんを……」
「ん?」
「姉さんが……エミリーが……危ない。私と同じ……。バッテリーが……」
「ああっ!?」
 クエントは急いで屋上の柵から、地上を見下ろした。
 見ると、ちょうどエミリーがジャニスに倒されたところだった。
「くっ、こうなったら!」
 クエントはヘリからケガしたパイロットや、連れ込まれたリンとレンを降ろすと、自分が操縦席に座った。

[同日同時刻 天候:晴 同場所・正面エントランス前]

「え、エミリーっ!!」

『バッテリー切れです。バッテリーが0%です。直ちにバッテリーを交換するか、充電してください』

「よくもルディを壊してくれたね!!オマエも頭をフッ飛ばしてやるよ!!」
 ジャニスは交信が途絶えたことで、ルディのブレイクダウン(機能停止)を知ったようである。
「や、やめろ、ジャニス!!」
 ジャニスもまたマシンガンだけでなく、レーザービームを放つことができるようだ。
「最大重圧、行くよ!!」
 と、その時!
「!!!」
 屋上からヘリコプターが墜落してきた。
 厳密には、クエントが『特攻』してきた。
「こなくそーっ!!」
「!!!」
 レーザービームを最大重圧に充電していたジャニス。
 その間は全く他の攻撃ができない。
 ヘリの特攻をもろに受けた。
「クエント!」
「くっ、くくくく!!」
 クエントはジャニスの上に、無理やり着陸しようとした。
 人間なら簡単に押し潰されたことだろう。
 だが、身動きが取れないとはいえ、そこはマルチタイプ。
 かなり負荷を掛けてやってるとはいえ、そう簡単に潰れるものではない。
「キース、バスの修理は終わった!?」
 そこへ敷島と鳥柴が屋上から戻ってきた。
「敷島さん!?」
「キース、申し訳無い!後でまた修理よろしく!」
 敷島はそう言って、『走る司令室』に改造されたベンツ製のバスに乗り込んだ。
 しかも、運転席に座る。
「し、敷島さん!?ま、まさか、もしかして!?」
 平賀は、ある予感がした。
 敷島がエンジンを掛ける。
「もしかすると!?」
 アリスも同じことを考えたらしい。
 敷島はバスをバックさせた。
「もしかするよ!」
 広場に出ると急旋回して、一気にアクセルを踏み込んだ。
「クエント!どいくてれ!!」
 敷島がバスのクラクションを鳴らし、ライトをハイビームにした。
「OK!」
 クエントはヘリを離陸させた。
 直後、
「!!!」
 バスがジャニスに体当たりする!
「あ……こ……の、アタシが……に……人間なんかに……」
 体中から火花や煙を噴き出すジャニス。
「人間ナメんじゃねぇっ!!」
 更に敷島、バスを引き返して、もう1度特攻!
 跳ね飛ばされたジャニスは、研究所の壁に叩き付けられた。
「今よ!頭と胴体を切り離してやるわ!!」
 アリスが手持ちの電動ドライバーを手に、もはや動けなくなっていたジャニスに駆け寄った。
「さすがのマルチタイプも、首を刎ねられたら動けないでしょ!」
「アリス!メモリーとデータだけは残しておけよ!」
 平賀も一緒に駆けつけて、アリスに言った。
「分かってるわよ!」
「……また『バス特攻』やっちまったな。これで3回目だ」
 敷島は運転席に座って、照れ笑いにも似た笑みを浮かべていた。

 こうして、アーカンソー研究所における戦いは終了したのである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“Gynoid Multitype Cindy” 「ボーカロイドとは?」

2016-05-30 20:40:04 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月16日03:00.天候:晴 アーカンソー研究所屋上]

 シンディは間合いを取って、ライフルをルディに撃ち込もうとした。
 ルディもまた間合いを取って、レーザービームをシンディに食らわせようとする。
「うちのアルエットといい、最新型はレーザービームが流行ってるんだな」
 屋上出入口の物陰に隠れ、敷島達はシンディとルディの戦いを見ていた。
 地上ではエミリーとジャニスが取っ組み合いの肉弾戦を繰り広げているのとは対照的に、こちらは間合いを取って戦っているので、どことなく静かだ。
「くそっ!この隙にリンとレンを連れ戻したいのに……!」
「ミスター敷島、今ハ危険デスヨ。今出タラ、狙イ撃チニサレマス」
 クエントが片言の日本語で敷島を制した。
「分かってるよ!それにしても、俺だったらルディに任せてヘリで先に脱出するのに、どうして……って、ああ!そうか!でかした、シンディ!」
 シンディが機先を制してパイロットを銃撃したからである。
 これは本来、ロボット三原則に反する行為であるが、
「アリス、シンディのパイロット銃撃は処分の対象になるか?」
 敷島が手持ちのトランシーバーで、アリスに問うた。
 アリスの答えは、
{「オーナー権限で許す!」}
 であった。
「よし!」
(こ、この人達って……)
 クエントは敷島夫妻のロボット三原則の大いなる曲解に呆れた。
「鳥柴さん、あのヘリコプター、DSSからガメた奴じゃなくて、元々デイライトさん本社のヘリのような気がするんですが……」
 敷島はヘリのペイントに気づいた。
「ええ。あれは……本社重役のヘリコプターです」
「は!?」
「それ何!?重役が絡んでるってこと!?」
「その通り」
「!!!」
 いつの間にかアルバート・ブラックロードが屋上出入口の屋根の上に登っていた。
 手にはハンドガンを持っている。
「日本人のキミ達がまさかここまで来るとは思わなかったが、知り始めた。それだけで十分な過失だ」
 鳥柴が、
「アルバート・ブラックロード常務!」
「常務!?」
 敷島は右手を頭にやって、
「ブラックロード常務、うちのボーカロイドは非売品なんですがねぇ……?」
「だからこそ、だ。キミ達は余計なことを知って、肝心なことは知らないようだ」
「は?」
「考えてもみたまえ。キミ達が潰したKR団。彼らがアンドロイドの台頭を嫌っているとしていながら、ボーカロイドを執拗に狙った理由は何だ?」
「アイドル事業にロボットは必要無い、とか何とか言っていましたが……」
 敷島がそう答えると、
「ふふ……ふふふふふふ、ふはははははははははは!」
 アルバート・ブラックロードは大きく笑った。
「何がおかしい!?」
「フン。『マルチタイプを世界一使いこなす男』も、所詮はこんなものか」
「何だと!?」
「それでは、もう1つの謎と行こう。そのボーカロイドの特技は何だ?」
「特技?特技ってそりゃ、歌って踊れる……どころか、リンとレンはミュージカルにも出て演技力もあるぞ!」
「それだけか?」
「えっ?」
「ボーカロイドの特技はそれだけかと聞いているのだ」
「……!」
 アリスが何かに気づいた。
「電気信号をメロディ化して歌える……!」
「なにっ?」
「タカオ。アタシと出会う前、ドクター十条とそんな話をしてたって言ってたでしょ!?」
「あー……えーっと……」
「でも、それが何だって言うの?」
「やはり、日本人は平和ボケだ。そして、キミも」
「そういえばアタシ、あまりボーカロイドは調べていなかった……」
「キミ達に明確な答えを言うのは勿体ない。だが、これだけは言っておこう。ボーカロイドの隠された特技、これを最大限引き出せばそこにいるマルチタイプなど、ザコロボット同然だ」
「はあ!?」
「ボーカロイド専門の芸能プロダクションとやらより、デイライト・コーポレーションで扱った方が……」
 と、その時だった。
 マルチタイプ達は戦闘を中断し、アルバート常務の話を聞いていたのだが、その背後から一発の銃声が飛んできた。
「ぐわあああっ!?」
 その銃声は常務の胸に命中し、常務は屋上出入口の屋根の上から屋上のコンクリートの床に倒れ落ちた。
 常務を銃撃したのは……。
「キサマ!!」
 アルバート所長だった。
 ルディはアルバートに殴りかかろうとしたが、
「アンタの相手はアタシだよ!!」
 シンディがライフル弾をルディの背中に撃ち込んだ。
「がぁ……ッ!」
「えっ?」
 マルチタイプは人間そっくりの姿をしていながら、その耐久力は凄まじいものがある。
 シンディは牽制のつもりで発砲したのだが、ルディは背中を撃たれた後、そこから火花を吹いた。
「……どうしても背中のバッテリー部分が強化できなかった。だから彼らは、絶対に信用のおけない者達に対しては背中を向けないのだ」
 アルバート所長は悔しそうに答えた。
「アタシのスペックをモデルにしたのに?」
 新型マルチタイプが、何故か旧型に劣るということが露呈してしまった。
 もっとも、鉄道車両も新型車の方が旧型車より脆いということがあるが。
「おい、待て!死ぬのはまだだ!」
 敷島がうつ伏せに倒れた常務を仰向けにする。
「アルバート所長、これはどういうことか説明してもらいましょうか!?」
 敷島がアルバートに向かって大声で糾弾した。
「説明は後だ。とにかく、常務があなた達の命を狙っていた。だから、咄嗟に撃っただけだ」
「咄嗟に?その距離から、よく狙えたものですなぁ?」
 アルバートはどうやら排気塔を通って、屋上に出たらしい。
 そこから常務のいた所までは、50メートルくらいあった。
「自動照準器付きの銃で……」
「そんなもの無いわよ?」
 いつの間にかシンディがその銃を拾い上げていた。
「正体を見せな!!」
 シンディはアルバート所長の頭部を撃ち抜いた。
 衝撃でアルバート所長の頭部が吹き飛ぶが、千切れた首からは配線やオイル管が剥き出しになっていた。
「ロボットだ!?」
「コピーロボットですよ」
 と、クエントが英語で言った。
「前に、何かジョークで、『コピーロボットなんか作れたらいいな』なんて話をしていたんですよ。まさか、本当にやるとは……」
「じゃあ、本物はどこだ!?」
「! ま、まさか、アリス達の所!?」
「急ぎましょう!」
 敷島達は再び屋上から所内に戻った。

 背中から火花を散らしていたルディ。
 しかし彼は起き上がった。
 そして、背中に手を伸ばして、火花を散らしているモノを取る。
「はははは……ハハハハハハハハハハっ!姉さん、バカだねぇ!僕達、新型の動力は燃料電池で、バッテリーはただの予備。それが衝撃を受けたくらいじゃ壊れないのに!」
 そして、ルディは排気塔に向かって言った。
「博士、今のうちですよ」
「よーし。よくやった」
 排気塔から出て来たのは、本物のアルバート所長。
「キミ達に監禁されているフリをするのも疲れたよ。キミ達は演技力も上手い。私が独立したら、是非ともハリウッドに売り込んでやろう」
「大変光栄です。でも、博士の足元にも及びませんよ」
「急いでヘリを出すぞ!パイロットが操縦できる状態だといいが……!」
「いざとなったら、ジャニスに操縦させます」
「うむ」
 だが、操縦席には既に人影がいた。
 パイロットだろうか。
「おい、大丈夫か?早いとこヘリを出せ!」
「ゴメーン!キャデラックしか乗れないんだ」
 そこにいたのはクエント。
 手持ちの自在スパナでアルバート所長を殴り付けた。
「がっ!!」
 アルバートはヘリから落ちる。
「キサマ!!」
 ルディが右手からレーザービームを出そうとしたが、
「!!!」
 屋上出入口に隠れていたシンディに、ライフルで頭部を撃ち抜かれた。
 ルディもまたヘリから落ちると、今度こそ動かなくなった。
「リンとレンは……!」
 ヘリの中に連れ込まれたリンとレンは、シャットダウンこそされていたものの、見た目に外傷は無かった。
「姉さんなら……大丈夫かな」
 シンディはヘリの中で待つことにした。
コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“Gynoid Multitype Cindy” 「デイライト・コーポレーション」

2016-05-29 22:12:21 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月16日02:30.天候:晴 アーカンソー研究所敷地外『走る司令室』]

 エミリーから警告が届いた時、敷島達は何かの冗談だろうと思った。
 だが、左のモニターに映っていたエミリーの視点を見るに、それは本当なのだと思った。
「何故にバレたし!?」
「とにかく、避難するよ!」
 ジャニス達はアルバート所長を守る為に、研究所の敷地内に入って来る者には容赦はしないと思っていた。
 それはつまり、敷地外にいる分には何もしてこないというものだ。
 但し、これが長年稼働して十分に学習しているエミリーやシンディだと、そうはいかない。
 稼働したばかりのジャニス達だから、そこまで目は向かないはずだった。
 実際、外で監視していたDSS隊員は無事だったのだから。
 シンディ達との通信電波が傍受されたとも思えない。
 マルチタイプにそんな能力は無いからだ。
 ベンツ製バスを改造した『走る司令室』、運転席に座るキースが急いでバスをバックさせた。
 そして、それまで走って来た道に出ると、
「きゃははははははは!」
 右手をマシンガンに換装したジャニスが狂気の笑いを浮かべながら、バスに向かって乱射してきた。
「伏せろ!」
 敷島の言葉に、急いで床に伏せるメンバー達。
 弾はバスの窓ガラスやボディに被弾するが、まるで小石が当たるような音がするだけで、全く割れる気配が無い。
「こんなこともあろうかと、装甲車並みの装備になっているんだよ!」
 クエントが得意気に言った。
 つまりは、窓ガラスは防弾ガラスになっているということか。
「キース!研究所に突入してくれ!」
 敷島が叫んだ。
「はあ!?」
「相手は最新型のマルチタイプです!とても逃げおおせるとは思えません!エミリーも気づいているようですから、研究所に突入して、エミリー達と少しでも早く合流した方がいいです!」
「なるほど!さすがは敷島さん!」
 平賀も同意した。
 クエントはキースの横にいたので、敷島の提案を英訳して伝えた。
「OK!そうこなくちゃ!」
 キースは右手の親指を上に向けると、早速ハンドルを切って研究所の正面に向かった。
「くっ!逃がしはしないよ!」
 ジャニスは突然急旋回するバスに向かって、何度も発砲した。
 だが、装甲車並みに頑丈に改造されたバスには、マシンガンは歯が立たなかった。
「こうなったら……!バージョンA軍団!あの人間どもを全員殺せ!!」
 ジャニスは敷地内にいるセキュリティロボットに命令を出し、その為に研究所の門扉を開けた。
「わあっ!?」
「OH!?」
 鉄扉をブチ破るつもりで、アクセル全開で向かっていた敷島達。
 急に鉄扉が開いたので、勢い余ってそのまま研究所内に突入した。
 正面エントランス前の広場には、バージョンA達が倒れていたり、立ったまま稼働を停止していた。
「わあーっ!ぶつかるーっ!?」
 バスはそのまま、今度はシャッターの下りた正面エントランスに突っ込んで止まった。
 シャッターとガラス戸をブチ破った状態なので、敷島達はそのまま所内に入れる形だ。
「プロフェッサー平賀!敷島社長!御無事・ですか!?」
 そこへエミリーが駆け付けてくる。
「ああ。何とか……」
「相変わらず、悪運だけは強いみたいだ、俺達」
「そ、それより、エミリー……!」
 敷島達は歪んだドアをこじ開け、バスから降りた。
「役立たずのセキュリティロボット共が!」
 ジャニスは半ギレ状態で、動かなくなったバージョンA達を壊し回っていた。
 そして、ふと我に返ったのか、敷島達の方を見る。
 すぐにエミリーも前に出た。
「お前が・ジャニスか?」
「そうだよ。初めまして。“遠い親戚”のお姉さん」
「エミリー、笑顔に騙されるな」
「分かって・います。お前は・目が死んでいる」
「えっ?」
「ドクター・アルバートは・どこだ?」
「きゃはっ♪きゃはははははははっ!!」
 エミリーの詰問に、ジャニスが笑い出した。
「アルバート博士はどこ?教えて」
「こちらが・聞いている!」
「ま、まさか、アルバート所長は……!」
「敷島さん?」
「アルバート所長は、あいつらから逃げ出しているのでは!?」
「何ですって!?」
 ジャニスがマシンガンを撃って来た。
「わあっ!?」
 すぐにエミリーがガードに当たる。
 マシンガンはエミリーに何発か当たったが、そこはマルチタイプ。
 ほとんどビクともしない。
 そして、ブースターを使ってジャニスに飛び掛かった。
 ラリアットを食らわせて、エントランス外の広場に追いやる。
「来い!」
「いいよ!」
 エミリーとジャニスが取っ組み合いを始めた。
「お姉ちゃん同士、デキの悪い弟妹を持つと大変ね!」
「シンディは・優秀だ!お前の・弟と・一緒に・するな!」
 敷島はこの隙に、研究所内部へと潜入した。
「平賀先生、エミリーを頼みます」
「分かっています。敷島さんも気をつけて」
「俺はここでバスを修理しているよ」
 と、キース。
「じゃ、代わりに僕も行こう。敷島社長の行く先で、ロイドを修理する機会があるかもだ」
「クエント、できるのか?」
「クエントさんは元、ヒューストン工場で勤務していたことがあるんですよ」
 と、鳥柴。
「そうだったのか」
「私も行きます。何だか、嫌な予感がするので」
「嫌な予感?」
「シンディさん達の方が、深刻なような気がします」
「!?」

[同日同時刻 天候:晴 研究所屋上]

 研究所の屋上に、1機のヘリコプターが着陸する。
 そのヘリコプターには、デイライトの社名がペイントされていた。
 だが何故か、ルディはそれを見つめるだけで、攻撃しようとしない。
 それどころか、ヘリコプターから降りてきた人物に対し、片膝をついた。
 日本製のロイドでは専らお辞儀だが、欧米製だと、ロイドの最敬礼は片膝をつく形となる。
「お待ちしておりました。アルバート・ブラックロード様」
「首尾はどうだ?」
 ヘリから降りてきたのは、オールバックに長身の白人の男。
 紺色のスーツを着用している。
「ははっ。こちらに」
 ルディは鏡音リン・レンを差し出した。
 既にリン・レンは電源が落ちてしまい、人間で言う意識の無い状態だった。
「素晴らしい。できれば初音ミクが欲しかったのだが、致し方あるまい。すぐ、ヘリに積み込め」
「ははっ!」
 だが、
「そうはさせないよ!」
 屋上の鉄扉をぶち破り、シンディが飛び込んで来た。
「お前は!?」
 シンディは右手を狙撃用ライフルに換装させており、すぐにヘリコプターのパイロットを撃ち抜いた。
「ぐぐぐ……!」
 だが、シンディは殺すつもりで撃ったわけではなく、パイロットは右肩を撃たれ、座席から落ちた。
「アルバート様、物陰に隠れててください。ここはボクが」
「頼んだぞ」
 アルバート所長……とはまた別のアルバートという名の男は、屋上の排気塔の影に隠れた。
「……アンタがルディね?」
「そういう貴女がシンディ姉さんか」
 ここでも、新旧マルチタイプ対決が行われようとした。

 屋上へ向かう敷島達。
 ヘリコプターの音がするわ、銃声の音がするわで、何だかパニックになりかけていた。
「一体、どういうことなんだ?!」
「僕達の知らない所で、何かが動いている感じがするねぇ!」
「…………」
 真相はまだ闇の中である。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“Gynoid Multitype Cindy” 「暴走アンドロイド」

2016-05-28 20:37:57 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月16日01:45.天候:不明 デイライト・コーポレーション・インターナショナル アーカンソー研究所地下階]

 地下5階の大水槽から現れたのは、明らかにマーメイドの姿をしたガイノイドだった。
 但し、シンディ達に対しては、あんまり友好的な感じではなさそう。
 というか、無い。
 シンディが髪を下ろして泳いでいるかのようだが、そのせいで両目は髪に隠れてしまっている。
 しかも、何の制御もされていないらしく、シンディ達を見つけると、まるで幽霊のようなうわ言を吐いて襲って来た。
「うわっ!?」
 人魚型ガイノイドは、ダクトの中から現れた。
 しかもそのダクト、どこから来たのか、思いっ切り水が噴き出している。
 別のダクトからも、まるでどこからか排水されているかのように水が噴き出し、見る見るうちに地下5Fが水没せんかのような勢いであった。

〔「きゃはははははは!またトラップに引っ掛かっちゃってwww お姉さん達、おもしろーい!」〕

 モニタではなく、スピーカーからジャニスの声が聞こえた。
「ジャニス!きさま!!」

〔「排水ポンプを起動させたら、その水が地下5階に流れ込むように細工しておいたの!ついでにマーティも放っておくから、一緒に遊んであげてね?Good rack!」〕

 どうやらこの暴走人魚ロイド、マーティという名前らしい。
 人魚らしく、右手に三叉型の銛を手に水没しつつある廊下を自由に泳ぎ回って、シンディ達に襲い掛かってきた。
「こ、このっ……!」
 シンディは水面に出てマーティを銃撃しようとしたが、暴走していても、それは分かるのか、狙われると水中に潜ってしまう。
 当然、銃火器は水中では使えない。
「姉さん!」
 エミリーはあえて潜り、マーティを捕まえようとしたが、水中に適用したタイプと、汎用タイプでは差が出てしまう。
 マーティは銛を手に、エミリーに突進して来た。
 それは間一髪で避ける。
「トチ狂いやがって、魚女!」
 その時、シンディはあるものを持っていることを思い出した。
「姉さん、奴から離れて!」
「?」
 エミリーがシンディに言われて、間合いを取った。
「!!!」
 シンディが腰に括り付けた電撃グレネードを用意している間、マーティは三叉銛の先から銃弾を撃って来た。
 超小型の魚雷である。
「痛っ!?」
「なかなか・手ごわいぞ!気を・つけろ!」
 それはシンディとエミリーに被弾したが、幸い防弾処理がされている服の上に当たっただけだった。
 が、痛覚センサーがある部分だと衝撃で痛い。
 シンディは電撃グレネードのスイッチをONにして、また銛を突き出しながら突進してきたマーティに投げつけた。
 大きな破裂音と共に、マーティに直撃。
「キャアアアアッ!!」
 衝撃でマーティは壁に叩き付けられた。
「痛よぉぉぉぉぉぉッ!!」
「姉さん、今のうちに!」
「うむ!」
 シンディ達は水面から顔を出した。
 既に水は、天井近くまで浸水していた。
 幸い、顔を出した真上にエアダクトの吸気口があり、シンディはその金網をマルチタイプ持ち前の腕力で無理やり引っぺがした。
「早く中に!」
 シンディとエミリーは、エアダクトの中に逃げ込んだ。
「ヤツは!?マーティは・追って・来ない!?」
「そのようね。どうやら、『水中に適応したガイノイド』というより、『水中にしか適応できない』タイプらしいわ」
「間一髪・だったな」
「まだ安心はできないわ。急いで電気室に行かないと!」
「うむ!」

 幸い地下4階へはエアダクトから行くことができた。
 ダクト内を進んで行くと、上に出る蓋があり、それを開けてダクトから出る。
 そこは地下4階と5階の間だと思われ、水浸しになっていた。
 更にその近くにまた上に出る蓋があり、それを外すと地下4階に出ることができた。
「やったわ!電気室の近くよ!」
「よし」
 地下4階は排水ポンプが作動したおかげで水が引いていた。
 ここで排水された分も、地下5階に流れ込んだのだろうか。
 とにかく、地下4階までは安全だということだ。
 電気室に入ると、ここも水が引いていた。
 先ほどまで火花を散らしていたブレーカーのレバーも、今はおとなしくなっている。
「あれをONにすればいいのね!」
 シンディはレバーをONにした。
 すると、それまで非常灯しか点灯していなかった所内の蛍光灯が点灯した。
「よし。これで・復電・できた」
「やったね!」
「防災センターに・戻って・モニターを・チェックしよう」
「うん!」

 電気室を出て、再び地下1Fへ上がるエレベーターに乗り込む。
 行こうと思えば、このエレベーターでもポンプ室には行けたようだ。
 だが当然、今頃そこは水没していることだろう。
 エレベーターが動き出すと、床下から何やら呻き声のような声が聞こえたような気がした。
 その声はマーティに似ていたが、水の外では活動できまい。
 実際エレベーターが上に向かう度にその呻き声は小さくなっていき、地下1階に着いた時には全く聞こえなくなっていた。

 再び防災センターに戻る。
 センター内は蛍光灯が煌々と輝いて明るく、ほとんどのモニタが表示されていた。
「一体、どこにいるのかしら?」
「虱潰しに・探すしか・無い」
 モニタを見ると、未だに彷徨い歩くバージョンAの姿もちらほら散見された。
 どうやらバージョンAは行動パターンが決められているらしく、ある区画から別の区画へと移動する個体はいなかった。
「! そうだ」
 その時、エミリーが何かに気づいた。
「なに?」
「ここは・防災センターだ。だから……」
 エミリーは、センター内の端末を操作した。

 ピー!
『全てのロックを解除します』

「所内の・全ての・電子ロックを・解除した」
「おおっ、さすが姉さん!」
 更には遠隔で、バージョンAの全てを稼働停止に追い込むこともできた。
 バージョンAはアンドロイドではない。
 2足歩行のセキュリティ・ロボットである。
「いっそのこと、これでジャニスとルディもシャットダウンできないかしら?」
「さすがに・それは・無理そうだ」
「……だよね」
「財団時代・システムダウンで・ビル内の・セキュリティロボットが・全て・停止したことが・あった」
「あっ、なるほど。それで姉さん、知っていたのね。でもまあ、こんなんでアタシ達も制御されたら、確かにたまんないね」
「私を・制御できるのは・プロフェッサー平賀・並びに・敷島社長のみ」
「私だって。アリス博士と社長だけだから。……って、何でジャニス達はアルバート博士の言う事を聞かないんだろうね?」
「不明。お前も……」
「?」
「お前が・前期型の時・どうして・ドクター・ウィリーを・殺した?」
「そ、それは……分からない。分からないよ……」
「多分、ジャニス達も。ジャニス達も・分かっていない」
「アルバート博士は無事なのかしら?」
「安否不明。……あっ!」
 その時、エミリーが何かを見つけた。
「なに、どうしたの?」
「ジャニス!?……プロフェッサー平賀!プロフェッサー平賀!逃げて・ください!ジャニスが・そっちに!!」
「はあっ!?」
 エミリーが見ていたカメラは、研究所の外周部を映しているもの。
 そこを、ジャニスが研究所の外に向かって走っていく様が映っていた。
 その方向は、『走る司令室』のある所。
「ああっ!リン・レン!?」
 シンディはシンディで、屋上にいるリンとレンを見つけた。
 その横にはルディもいる。
「シンディ!あなたは・屋上に・向かって!私は・ジャニスを・追う!」
「分かった!」

 ついにジャニスとルディの居場所を突き止めたシンディ達。
 だが、現状況は明らかにこちら側が不利であった。
コメント (7)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“Gynoid Multitype Cindy” 「研究所の地下は異界」

2016-05-27 20:48:47 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月16日01:15.天候:不明 DC inc.アーカンソー研究所地下4階〜地下5階]

「全くもう!動きにくいったらありゃしない!」
 シンディは苛立ちを隠せずにいた。
 エミリーとシンディのコスチュームは、ノースリーブに深いスリットの入ったロングスカートタイプのワンピースであるため、水の中に入ると、このロングスカートが水の抵抗を増して動きを鈍くしてしまっているのである。
 そんな中、水没した床をすいすいと泳いで襲って来る肉食魚類型ロボットにも対応しなければならなかった。
 幸いにも、そんなロボット達は水中に適応させる為か、そんなに装甲が厚くない為、エミリーのショットガンやシンディのライフルまたはマグナム1〜2発で破壊することができた。
 シンディ達は再び水かさが足首くらいの所まで浅くなった所で立ち止まると、濡れたロングスカートを捲り上げて裾を結び上げた。
 この服はケブラー材を多量に使っている為、防弾・防刃に優れている。
 スカートを捲り上げて結び上げたものだから、その下のビキニショーツが丸見えになっているが、本来これも下着ではなく、装甲板の1つとして着用しているだけである。
 上の下着として着用しているビキニブラジャーも、下のショーツもまた上に着ている服と同じ、ケブラー繊維を多量に使って作られたものである。
 こうすることで彼女達は、更に軽量化することができた。
 前期型のボディにおいては、エミリーがビスチェ型の装甲板でしかもスチール製、シンディもスチール製のビキニと、正にファンタジー世界における“ビキニアーマーの女戦士”のような感じだったのである。
「これで少しは動きやすくなったかしら?」
「うむ。急ごう」

 地下5階への階段を見つけて降りると、腰までの深さどころか、もはや水深2mくらいまで水没している箇所があり、所々泳いで行かなくてはならなかった。
 もちろん、このフロアにも魚型のモンスターは存在する。
 それどころか……。
「見ィ〜つけたぁ〜……♪」
「! シンディ、何か・言ったか?」
「え?いや、何も」
 水没した部分を泳いでいると、どこからか、若い女の声がした。
 シンディ達は浅くなっている部分に移動すると、周囲をスキャンしたが、何も検出されない。
「気のせいじゃない?」
「……?」
 エミリーは難しい顔をして首を傾げた。
「とにかく、先を急ぎましょう」

 クエント:「こちら、クエントです。所内のデータについて、補足説明を致します」

「クエント!?」

 クエント:「恐らくお二方の所内データには、B5Fにポンプ室の記述が無いと思われます」

「あっ!」
「本当ね!」

 クエント:「でも実際、そのフロアにポンプの設備があるのは確かです」

「それってどこにあるの?」

 クエント:「大水槽制御室という部屋がありますね?」

「イエス」
「確かに」

 クエント:「研究所の地下では、地下水を利用して、水中に適応したロボットの研究・開発が行われていたことは、ミズ鳥柴の説明の通りです。そのロボット達を保管する為に、B5Fには大きな水槽が設置されているとのことです」

「それで?」

 クエント:「しかしその水槽の水も交換する必要があることから、排水と注水を制御する設備も同時に存在します。その設備こそが、研究所の水道関係も制御するポンプ設備というわけです」

「分かりました。それでは・大水槽制御室に・向かえば・よろしいですね?」

 クエント:「気をつけてください。小さな魚ロボットは、事件のドサグサに紛れて脱走したみたいですが、まだ大水槽にはロボットが残されている可能性があります」

「友好的だといいけど、それまでの魚達の態度を見ると、期待はできなさそうね」
 エミリーとシンディは大水槽制御室の前に到着した。
 幸いそこは水かさの浅い所にあり、また入口にあっても更に1段高い位置にある為、そこは水没していなかった。
 鍵が掛かっていたが、これは普通の鍵で開けるもので、防災センターから持ち出したマスターキーで開けることができた。
「制御室はここね」
 中に入ると、その制御室は水族館のようだった。
「地下4階まで繋がってるの!?」
「先ほど見た・水没エリアとは・この・水槽のこと・だった・みたいだな」
「で、ポンプ設備はどこ!?」
「待て」
 エミリーは制御盤を見つけた。
「どうやら・排水作業中に・事故が・あったらしい。中途半端な・所で・止めたから・水道管が・破裂して・水没したと・推測されます」

 平賀:「そういうことか。よし、作業の続きだ。恐らく制御室内にマニュアルがあるだろうから、それを見て作業を行ってくれ」

「イエス。プロフェッサー平賀」
 大水槽を見るが、特に取り残された魚型のロボットはいないようだ。
「この・水槽の・水を・排水させる・ことが・地下フロア全体の・水を・排水させることに・繋がるようだ」
「要は水を入れ過ぎて溢れている状態だってこと?」
「そのようだ」
 実際に制御盤を見ると、注水がONのままにされている。
 しかもオートではなく、マニュアル操作で行われていた。
 つまり、注水されたままで作業が中断されたため、水槽から水が溢れ、地下フロアを水浸しにしていたのである。
 エミリーはまずキーボードを叩いて、注水をOFFにした。
 これで水の注入は止まったと思われるが、制御室からだと何も変わったようには見えない。
 そして、今度は排水をONにする。
 が、エラーが出た。

『油圧が低下しています。手動操作に切り替えてください。もしくは管理者にお問い合わせください。手動操作で、油圧を回復させてください』

 エミリーはヘルプ画面を出して、手動操作の方法を確認した。
「姉さん?」
「シンディ。この部屋に・油圧バルブが・ある。探して」
「OK」
 それはすぐに見つかった。
 水没した廊下のドアから入ってすぐ右横にあった。
「あったわよ!3つある!」
「まず・Cのレバーを・戻して」
「Cね。あいよ」
 ガチャン!
「次は・Aのレバーを・戻して」
「Aね」
 ガチャン!
「……次はDのバルブを回す」
「バルブ!?」
「この部屋の・別の場所に・あるそうだ」
「ちょっと待って!」
 シンディはエミリーの背後を通り過ぎて、レバー式のバルブがあった配管とは反対側に回ってみた。
「あった!」
 それは大きな赤いハンドル型のバルブ。
 小型自動車のハンドルくらいの大きさはあるだろうか。
「ん?」
 するとシンディは、そのバルブの根元に何か落ちているのを見つけた。
「これは……?」
 拾ってみると、それは電撃グレネードであった。
 水中で使用するもので、先ほどウザかった魚型ロボットが群れを成して襲って来ても、これ1発でバラバラにしてやることができる。
 それがここに落ちているということは、最悪それらが暴走した時の保険用だったのだろうか。
「シンディ・何を・している?早く・バルブを」
「あっ、はいはい!」
 シンディは電撃グレネードを、サブ・ウェポンとしてもらうことにした。
 すぐに両手でハンドルを回す。
「回したよ!次は!?」
「さっきの・所に・戻って。今度は・Bの・レバーを・開放する」
「OK!」
 シンディは急いでさっきの所に戻ると、今度はBのレバーを上げた。
「これで・エラーは・解除・できた。非常予備電源は・生きているから・それで・排水ポンプを・作動させることが・できる・はずだ」
「頼むよ、姉さん」
 シンディがキーボードを操作し、最後にその制御盤の横にあるレバーをエミリーが操作した。

『排水を開始します。しばらくお待ちください』

「よし。上手く・行ったぞ」
「うん!」
 と、その時だった。
「見ィつけたぁ……」
 さっきまで何もいなかったはずの大水槽に、何かがいた。
 制御室との間のガラスに張り付くそれは……。

 平賀:「人魚!?」
 敷島:「ローレライ!?」
 アリス:「藤崎マーケットなわけないでしょ!」
 敷島:「ラララライとは言ってねぇっ!!」

「あたしのォ……獲物ぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
 まだ排水が終わっていない大水槽。
 しかも、制御室との間のガラスはとても分厚く、強化されているはずである。
 それに張り付くだけでヒビが入り……。
「シンディ!逃げるぞ!危険だ!」
 エミリーがシンディの腕を引っ張って制御室のドアを開けるのと、大水槽のガラスが割れるのは同時だった。
「くっ!」
 鉄砲水の如く押し寄せてくる水と、それに乗って向かってくる人魚のようなもの。
 エミリーとシンディは制御室の外に出ると、すぐにドアを閉めた。
「一体、何なのよ、あいつ!?」
「恐らく・あれが・ミズ鳥柴の・仰っていた・『水中に適応したガイノイド』だ」
「全然、アタシ達と友好的じゃなさそうだね!」
「まともに・相手にする・時間的余裕は・無い」
「それもそうだね!」
 幸いにして廊下の水没は収まっており、泳いで通過しなくてはならなかった場所も、足くらいの深さにまで浅くなっていた。
「急いで・電気室に・行こう!」
「うん!」
 だが、
「逃がさなぁぁぁぁぁい……!!」
 そうは問屋が卸さないようである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする