ノベラーエクスプレス関東

 自作の小説がメインのブログです。
 主にSF、ファンタジー、ミステリーの脳内妄想を文章化したものです。

“Gynoid Multitype Cindy” 「雪中行軍……というには大げさか」

2016-11-30 19:22:44 | アンドロイドマスターシリーズ
[11月23日23:45.天候:雪 埼玉県さいたま市大宮区 敷島家]

 敷島:「ただいまァ!どうだ、アリス?ちゃんと約束通り、今日中に帰ってきたぞ。俺は約束を守る男だ」
 アリス:「シーッ!トニーが寝てるんだから、もっと静かにしてっ!」
 敷島:「うぉっと!いっけね!」

 敷島はコートを脱ぐと、シンディに渡した。

 敷島:「外は結構、大雪だぞ?こりゃ間違い無く積もるなぁ……」
 アリス:「本当?明日の出勤、大丈夫かしら……」
 敷島:「お前は車だろ?まだ冬タイヤに換えてないんだから、明日はバスにしとけよ」
 アリス:「バスが走ってたら、苦労はしないわよ」
 敷島:「科学館送迎バスがあるじゃないか?」
 アリス:「あれは開館時間中だけの運行だよ」
 敷島:「そうだっけ?」
 アリス:「どうしましょ?」
 シンディ:「マスター。それなら、川越線の指扇駅からバスに乗るのはいかがでしょう?科学館の近くまでのバスなら、朝から運行されています」
 アリス:「川越線?動いてる?」
 敷島:「少しは動いているだろう。いざとなったら、ゴリ押しでタクシー代請求しろよ」
 アリス:「簡単に言うけどさぁ……」
 敷島:「俺も明日は、始発の新幹線で行くから早く寝かせてもらうよ」
 アリス:「新幹線?どこまで行くの?」
 敷島:「東京。東北新幹線なら雪に強いからな」
 シンディ:「天気予報ですと、東京や埼玉で3センチの積雪が見込まれています」
 敷島:「1番嫌な積もり方だな。まあいい。とにかく寝よう。シンディ、明日は5時に起こしてくれ」
 シンディ:「かしこまりました」
 アリス:「アタシも一緒に駅まで行くわ」
 敷島:「そうしてくれ。何なら、シンディも一緒でいいぞ」
 アリス:「そうはいかないよ。シンディにはバッチリ監視してもらうから」
 シンディ:「お任せください。マスター」
 敷島:「くそ……!」

[11月24日05:00.天候:雪 敷島家]

 シンディ:「マスター、社長。おはようございます」

 起動したシンディは、すぐに自らのオーナーとユーザーの寝室に起こしに行った。

 敷島:「……もう朝か。まだ暗いな……って、そろそろ起きろ!」

 敷島は斜め45度の角度で寝ているアリスを起こした。
 敷島の胸の上に片方乗っけている巨乳をペチーン!と叩く。

 アリス:「Ouch!」
 シンディ:「二海が朝食の御用意をしておりますので……」
 敷島:「ああ。今、起きる。二度寝するなよ。ほらっ!」

 敷島はアリスの上半身を起こした。
 ウェーブの掛かった金髪がだらりと垂れる。

 敷島:「シンディ、アリスをよろしく」
 シンディ:「はい」
 敷島:「マジで寒いな……」

 敷島は起き上がると、窓のカーテンを開けた。
 外に広がる光景は……。

 敷島:「う……マジで積もってやがる」

 とはいうものの、3センチというほどではない。
 今のところ、1センチくらいか。
 ただ、外は寒いとはいえ、マイナスまでは下がっていないのだろう。
 そんな状態で積もっているもんだから、シャーベットに近い雪質だ。

 敷島:「このくらいなら、辛うじて電車は走ってるっぽいなー」

 敷島はそう呟いて、洗面台に向かった。

[同日06:20.天候:雪 JR大宮駅]

 敷島:「うーむ……在来線は軒並み遅延か。でも、せいぜい5分から15分くらいじゃないか。早目に来て良かったな」
 アリス:「そうなの?」

 アリスは大きな欠伸をしていた。

 敷島:「ああ。これが本格的な朝ラッシュの時間になったら、遅延が拡大して30分以上ってなるのがオチだな」

 敷島はそう分析した。

 シンディ:「社長、新幹線のキップです」
 敷島:「ありがとう。とにかく、行こう。お前は在来線だからSuicaで行けるだろう?」
 アリス:「そうね」

 敷島達が西口南改札からコンコースに入ると、先にアリスを川越線まで送って行った。
 埼京・川越線では『遅れ5分』という表示が出ていたが……。

[同日06:38.天候:雪 JR大宮駅・新幹線ホーム→東北新幹線“なすの”252号1号車内]

 その後で敷島とシンディは、改めて新幹線ホームに向かった。
 埼京線と東北新幹線の大宮から南はセットで開通したので、実は乗り換えは意外と楽である。
 さすがに近距離利用ではグリーン車ではなく、自由席である。

 シンディ:「社長、このままだと社員の皆さんも遅れてくるかもしれないわね」
 敷島:「そうだな。無理しないで、安全優先に出勤するようにメールしておこう。ただ、遅延証明書はゲットしてもらって……」
 シンディ:「私が一斉メール送っておくわ」
 敷島:「頼む。どうせ、ボカロは自分で行動できるしな」

〔14番線に、“なすの”252号、東京行きが10両編成で参ります。この電車は途中、上野に止まります。グリーン車は9号車、自由席は1号車から8号車と10号車です。まもなく14番線に、“なすの”252号、東京行きが参ります。黄色い線まで、お下がりください〕

 朝の東北新幹線上り初電は、唯一の小山駅始発の列車である。

 シンディ:「私は立ってる?」
 敷島:「そんなに混んでないだろうから大丈夫だろ」

 昨日乗ったのと同じE2系が入線してくる。
 雪は被っておらず、ずぶ濡れの状態でワイパーを動かしていた。

〔「おはようございます。大宮、大宮です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。“なすの”252号、東京行きです。9号車のグリーン車以外、全ての車両が自由席です」〕

 敷島達は先頭車に乗り込んだ。
 確かに、車内は空いていた。
 今度のはコンセントが付いていない前期型である。

 シンディ:「社長、全社員に一斉メールを送っておきました」
 敷島:「ありがとう」

 大宮駅の新幹線ホームは無機質な発車ベルが流れる。

〔14番線から、“なすの”252号、東京行きが発車致します。次は、上野に止まります。黄色い線まで、お下がりください〕

 在来線には微妙な遅延が発生している中、新幹線は定刻通りに発車した。
 駅構内を出ると、どんよりとした曇り空に舞う大粒の雪が窓に当たる。
 これは更に積もるフラグである。
 現在は1センチほどであるが、確かにこのままだと3センチは行くのではないかと思うほどだ。

 敷島:「東京駅からの移動が大変だな。都営バスが上手いこと走っててくれるといいが……」
 シンディ:「既に東京都交通局からは、バスに大幅な遅延が発生する恐れがあるとのお知らせが出ています」
 敷島:「……だろうな。まあ、会社は一海が7時には起動するから、それで電話対応くらいは何とかなるが……」

 朝イチの上り新幹線は、雪の舞う中を東京へ向かう。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「“やまびこ”60号」

2016-11-30 10:28:56 | アンドロイドマスターシリーズ
[11月23日21:00.天候:曇 宮城県仙台市青葉区国分町→JR仙台駅]

 フロント係:「ありがとうございましたー」
 敷島:「どうも」

 会計を済ませてサウナ店の外に出る。

 敷島:「それにしても、サウナだけでなく、人工とはいえ温泉まであるのにはびっくりました」
 平賀:「そうでしょう?男性専用なので、自分らからしてみれば、ナツやアリスがいない時にしか来れないわけです」
 敷島:「確かにw」
 平賀:「元々はうちの学生が見つけたものなんですよ。いい穴場だって言うんで今回、せっかくだから来てみました」
 敷島:「なるほど。俺の場合は、どうしてもアリスが単独行動させてくれないからなぁ……」
 平賀:「シンディの監視付き」
 敷島:「そうなんです。……お?シンディいないなー。ここは国分町です。せっかくですから、一緒に別のお風呂にでも……」
 平賀:「後で絶対バレる上、自分にもとばっちりが来るので御遠慮します」
 敷島:「エミリーに守ってもらえばいいじゃないですか」
 平賀:「エミリーはそういう為にあるんじゃありません。記念館に飾ってあるのも、戦闘利用という用途を終えたという意味合いも込められているわけですし……」

 平賀はそう言いながらタクシーを拾う。

 平賀:「駅までお送りしましょう」
 敷島:「一緒に、キャバクラ行きません?知り合いの社長から聞いた店があるんですが……」
 平賀:「自分の顔が立たなくなるので、どうかお願いします」
 敷島:「了解。さすがに平賀先生の顔を潰すわけにはいきませんな」

 敷島は肩を竦めてタクシーの運転席の後ろに乗り込んだ。
 その隣に平賀も乗る。

 平賀:「仙台駅まで」
 運転手:「西口でいいですか?」
 平賀:「はい」
 運転手:「分かりました」

 タクシーが夜の繁華街を走る。

 敷島:「それにしても、マルチタイプの新造依頼が個人から来るとは思いもしませんでした」
 平賀:「ホントにねぇ……」
 敷島:「しかもアルエットの設計データではなく、エミリーやシンディの方だ。まあ、あの大叔父さんなら考えかねない所ですがね」
 平賀:「メイドロイドではダメなんでしょうか?」
 敷島:「いっそのこと、宥めすかしてそっちに話を持って行くという手もあります。ま、明日ファックスを見てから決めますよ」
 平賀:「お願いします。マルチタイプは本来、個人で扱うには難しい代物です。それができるのは敷島さん、あなただけだ」
 敷島:「平賀先生だって、できるじゃないですか」
 平賀:「自分は南里先生から直接色々教わったし、だいいち、今のエミリーのボディを造ったのは自分ですからね。自分で造ったものを制御できないようでは、それは製作者失格ですから」
 敷島:「千兵衛博士がア◯レちゃんを制御できていないのも失格ですか?」
 平賀:「いや、あれはきっと……そういう仕様なのでしょう」

[同日21:20.天候:曇 JR仙台駅西口]

 タクシーが西口のタクシー降車場に止まる。

 平賀:「ここは自分が……」
 敷島:「いや、私が……」
 平賀:「いやいや、自分が……」
 敷島:「いやいやいや、私が……」

 嗚呼、日本人模様。
 結局、先に来ていたシンディが敷島のクレジットカードで払いましたとさ。

 敷島:「エミリーも来ていたのか」
 エミリー:「はい」
 敷島:「喜べ。もしかしたら、お前の新しい妹が造られることになるかもだぞ」
 エミリー:「新しい妹……?」

[同日21:45.天候:曇→雪 JR仙台駅・東北新幹線ホーム→“やまびこ”60号9号車]

〔13番線に、“やまびこ”60号、東京行きが10両編成で参ります。この電車は途中、福島、郡山、宇都宮、大宮、上野に止まります。グリーン車は9号車、自由席は1号車から5号車です。……〕

 シンディ:「最高顧問から新しいマルチタイプの新造依頼があったの!?」
 敷島:「そうなんだ。どうせ年寄りの気紛れだと思うが、会社にファックスしたって言うから、明日確認しないとダメだな。ファックスが来ていなかったら、所詮は年寄りの独り言として無かったことにできるし、仮に来ていたとしても、内容がシッチャカメッチャカだったらやっぱり無かったことにできる」
 シンディ:「やっぱりアルエットみたいなタイプ?新型だもんね」
 敷島:「いや、どうもあの電話の話しぶりからして、お前みたいなタイプがお望みらしい」

〔「13番線、ご注意ください。本日の東京行き最終、“やまびこ”60号が参ります。宇都宮、大宮、上野、東京方面ご利用のお客様、本日の最終列車です。お乗り遅れの無いよう、ご注意ください」〕

 E2系と呼ばれる、東北新幹線では最古参の車両が入線してきた。
 ヘッドライトが旧式の黄色掛かったタイプである。
 それを光らせてホームに滑り込んできた。
 尚、仙台駅にはまだホームドアが無い。
 仕様の違う様々な車両が混在しているようでは、ホームドアが作れないのか。

〔「ご乗車ありがとうございました。仙台、仙台です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。13番線は21時47分発、“やまびこ”60号、東京行きです。本日の東京行き、最終列車です。お乗り遅れの無いよう、ご注意ください」〕

 盛岡始発の列車なので、既に乗客は乗っている。
 が、グリーン車はガラガラだった。
 そこに乗り込む。
 幸いにして、コンセントが付いている後期タイプである。

 敷島:「今のうちだ。シンディ、少し充電しておけ」
 シンディ:「分かりました」

 シンディは自分の荷物の中から充電用コードを取り出すと、それを肘掛け下のコンセントに繋いだ。

 ホームから聞こえてくる発車メロディ。
 “青葉場恋唄”をアレンジしたものである。

〔「13番線、発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください」〕
〔ドアが閉まります。ご注意ください〕

 ドアチャイムの代わりに自動音声が流れる。
 それでドアが閉まると、VVVFインバータの音を響かせて最終列車が走り出した。
 実際はこの後に、郡山止まりの本当の最終列車がある。
 因みに仙台駅在来線の方は、“すずめ踊り”の御囃子にメロディが変更になったそうだ。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。「仙台からご乗車のお客様、お待たせ致しました。本日も東北新幹線をご利用頂きまして、ありがとうございます。ご乗車の電車は“やまびこ”60号、東京行きでございます。次の福島には22時8分、郡山には22時23分、宇都宮には22時52分、大宮には23時18分、上野には23時38分、終点東京には23時44分の到着です。……」〕

 敷島:「あ、そうだ。アリスにはこの電車で帰るって伝えておいてくれたか?」
 シンディ:「はい。日付が変わるギリギリ前には戻れると伝えておきました」
 敷島:「で、アリスは何て?」
 シンディ:「『あ、そう。くれぐれも、タカオの護衛よろしく』と」
 敷島:「うーむ……何か、すっかり信用されとらんなぁ……」

 敷島は頭をかいた。
 ふと窓の外を見ると、水滴が付いていた。

 敷島:「ん?雨か?」

 列車は少しの間、在来線の横を走る。
 在来線の長町駅の横を通過すると、駅の明かりでその正体が分かった。

 敷島:「うわ、雪だよ。天気予報当たったな」
 シンディ:「そうですね」
 敷島:「まあ、首都圏は大したことは無いだろう」

 敷島はグリーン車の大きな座席をリクライニングした。

 敷島:「シンディ。大宮に着く5分前には起こしてくれ」
 シンディ:「かしこまりました」

 最終列車は小雪の舞う中、一路南へと進む。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「マルチタイプ新造計画」

2016-11-29 21:13:17 | アンドロイドマスターシリーズ
[11月23日16:00.天候:晴 東京都板橋区常盤台 某大邸宅]

 「板橋の田園調布」と呼ばれる高級住宅街。
 その一画に構えられた邸宅にも、『敷島』の表札を掲げる家がある。
 その家の主人は90歳近くにもなる老人で、彼は大広間と見間違うほどの和室に掲げられた大インチのテレビを見ていた。
 テレビといっても、普通に何かの番組を見ていたわけではない。
 彼が見ていたのはボーカロイドのライブ動画、そして敷島エージェンシーで活躍するシンディの姿であった。

 主人:「フム……。死ぬ前に、最後の贅沢がしたいものじゃ……」

 主人はいかにも高価そうな木製の卓の上にあるインターホンを押した。

 家政婦:「はい、旦那さま。お呼びでしょうか?」
 主人:「うむ。孝夫の会社にファックスしてくれ。それが終わったら、本人にも電話を繋いでほしい」
 家政婦:「かしこまりました」

[同日同時刻 天候:曇 宮城県仙台市青葉区 東北工科大学・南里志郎記念館]

 平賀:「これでよし。本格的なオーバーホールは、大学が冬休みに入ってから行うことにする」

 軽くエミリーの整備をしていた平賀。
 学生達が興味津々にその光景を見つめている。

 エミリー:「ありがとう・ございます。シンディは・診て頂けないのですか?」
 平賀:「シンディの整備はDCJさんが一手に行っている。自分が勝手に手を出すわけにはいかんよ」

 本当はアリスが一手に引き受けているのだが、かつての仇敵の孫娘とはどうしても相容れないようだ。

 平賀:「自分は敷島社長とこれから行く所があるから。エミリーのピアノの演奏はこれまで通り行うから」
 学生A:「はい」
 学生B:「先生、シンディさんはフルートを吹いてくれないんですか?」
 敷島:「そこは敷島さんに聞かないと……。ん?」

 その時、平賀達はスマホ片手に慌てて外に飛び出す敷島の姿を見た。

 平賀:「何かあったのかな?」
 学生A:「まさか暴走ロボットの出現ですか!?」
 学生B:「KR団の生き残りですか!?」
 学生C:「行ってみましょう!」
 平賀:「こらこら!野次馬みたいなことしない!」

 敷島は思いも掛けない人物からの電話に慌てたのだった。

 ???:「やあ。ワシだが、覚えているかね……?」
 敷島:「は?どちら様でしょう?」
 ???:「常盤台の隠居と言えば、分かるかの?」
 敷島:「か、会長!……も、もとい、最高顧問!」
 ???:「いかにも。四季ホールディングス最高顧問にして、お前の大叔父の敷島孝之亟じゃ。久しぶりじゃの」
 敷島:「な、何の御用でしょうか?特に敷島エージェンシーとしては、何か問題を抱えているようなことは無いはずですが……」
 最高顧問:「問題を抱えておらぬ会社など無いと何度言ったら分かるんじゃ?KR団というテロ組織に狙われているのと、国家公安委員会に目を付けられたそうじゃないか?それで問題無しと言えるのかね?」
 敷島:「も、申し訳ありません!……それで、何の御用でしょうか?」
 最高顧問:「かような問題に直面しながら、たいそう好調な売り上げの実績、ワシは重く受け止めておる」
 敷島:「あ、ありがとうございます!」
 最高顧問:「ボーカロイドについての存在はお前さんからも何度も聞いたが、ワシが別に興味を持ったものがある」
 敷島:「何でございましょう?」
 最高顧問:「お前さんの所の秘書ロボット……あー……」
 敷島:「シンディですか?」
 最高顧問:「うむ。そちらもかなりの評判じゃそうじゃないか」
 敷島:「おかげさまで……」
 最高顧問:「それで、だ。モノは相談じゃが、そのロボットは1つ造るのにどれくらい掛かるのかね?」
 敷島:「今はDCJさんとライセンス契約を結んでまして、販売もそちらに委託していますが、シンディのタイプですと50億円ほどになりますが……」
 最高顧問:「50億か。うむ。確かに評判なだけに、良い値段をしおる」
 敷島:「そうですね。メーカー希望小売価格のようなものですが、そもそも小売店で扱っているような代物でも無いので、これ以上は安くできませんよ」
 最高顧問:「じゃろうな。まあ、ワシのポケットマネーにプラス、コレクションのルノワールとサルバドール・ダリの絵を2〜3枚売った金で捻出できるじゃろう」
 敷島:「大叔父さん……じゃなかった。最高顧問、四季ホールディングスでシンディを御入用でしたら、お貸ししますよ?」
 最高顧問:「馬鹿者!ワシは新品のロボットが欲しいのじゃ!50億円は後でキャッシュで用意する!直ちにそのロボットの製造の準備をせい!受注生産なんじゃろう?」
 敷島:「へ?ええーっ!?」

 敷島は飛び上がらんばかりに驚いた。

[同日18:00.天候:曇 宮城県仙台市青葉区国分町・八波亭]

 

 平賀:「ええっ!?敷島さんの大叔父さんから!?」
 敷島:「そうなんですよ。シンディみたいなのを造ってくれって」
 平賀:「……アルエットじゃなくて?」
 敷島:「大叔父さんは、シンディの活躍が気に入ったので、是非シンディを抱えたいとのことでした。どうせ老い先短いですから、しばらくの間シンディを貸しても良かったんですが、なかなか実はガンコジジィだったりして、どうしても新品でないとダメだとか言いましてですね……」
 平賀:「50億円用意できるんですか?」
 敷島:「それが、用意すると……」
 平賀:「そう簡単に一般で造れないようにする為に設定した値段ですよ。それをまさか本当に……」
 敷島:「桃太郎ランドみたいに、200億円くらい吹っ掛けた方が良かったですかね?」
 平賀:「アルエットは、もう少し値上げしてもいいかな……」

 因みに値段設定の権限があるのは敷島と平賀だけである。
 DCJのメーカー希望小売価格だというのは、あくまで表向き。
 何しろDCJは、製造と販売を敷島から委託されているだけなのだから、値段設定の権限は敷島にある。
 別に敷島がボロ儲けしたいからわざと50億円にしているのではなく、さすがにエミリーやシンディのような、使い方を間違えれば町1つ壊滅させかねない兵器にも転用できるロイドを一般販売できないようにする為であった。

 敷島:「詳しいことは明日、会社にファックスが届いているそうなので、それを確認します。単なる年寄りの気紛れで済んでくれればいいのですが……」
 平賀:「本気だったらどうします?」
 敷島:「……平賀先生、造ってくれません?」
 平賀:「まあ、いいですけど、敷島さんに注文が来たんだから、実際はDCJさん、つまりアリスが造ることになるでしょう?」
 敷島:「そうですね。この後、サウナ行きましょうか」
 平賀:「いいですね。行きましょう」

 敷島達はアルコールと一品料理を口に運んだ。
 ついに新たに注文が入ったマルチタイプの新造。
 果たして詳細は如何に?
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“Gynoid Multitype Cindy” 「ロイドとロボットの違いについて」

2016-11-28 21:05:07 | アンドロイドマスターシリーズ
[11月23日15:00.天候:曇 宮城県仙台市青葉区 東北工科大学・南里志郎記念館]

 レンタカーを駅前のレンタカーショップに返却すると、ここで敷島達の行動が別れる。
 アリスはトニーと二海を連れて、先に大宮に戻ることになった。

 アリス:「いい?くれぐれも遊び過ぎるんじゃないのよ?今日中に帰ってこないと、シンディに電流流させるからね」
 敷島:「分かった、分かったから」

 尚、同行者にはDCJ社員もいた。
 休日でありながら、仙台支社オープンに伴う準備には余念が無いようだ。
 アリスを見送った後で、敷島は平賀達と東北工科大学へ向かった。

 敷島:「あれ?記念館が開いてますよ?」

 敷島達を乗せたタクシーが記念館に近づく。

 平賀:「古い建物ですからね、常にメンテは必要なんですよ」
 敷島:「早く新しい建物を割り当ててくれるといいのにねぇ……」

 で、記念館のエントランスホールに入ると、記念館を掃除している者がいた。

 敷島:「あれ、七海じゃん!?久しぶりだなー!」
 七海:「敷島社長、お久しぶりです」

 七海はモップを手にしたまま、敷島達の方を向くとペコリとお辞儀した。
 七海は日本初のメイドロイドである。
 平賀と七海の稼働実験については、学内でも語り草となっている。

 平賀:「ナツもチビ達も今日一日いないので、七海をこちらに呼んだんです」
 敷島:「そうなんですか」

 七海はシンディに会釈した。

 シンディ:「ああ。ご苦労さん」

 いつもシンディは七海と会うと、ばつの悪そうな顔になる。
 前期型とはいえ、シンディと七海には東京決戦での因縁があるからだ。
 七海はメイドロイドでありながら、最上位機種のマルチタイプに立ち向かったことで有名だったりする。
 もちろん理由は、マスターの平賀の護衛である。
 相手が上位機種であっても、それが牙を剥いて来たら、主人の為に戦うという気概は今でも伝説である。

 平賀:「エミリーを展示ブースに戻して来ますので、敷島さんは応接室で休んでてください」
 敷島:「ありがとうございます」
 平賀:「七海、敷島さんにコーヒーをお入れしろ」
 七海:「かしこまりました」
 敷島:「さすがに『紅ヒー』というボケはしなくなったかな?」
 七海:「大丈夫ですよ」
 平賀:「さすがに人工知能は大幅に改善しました」
 敷島:「それは頼もしい」

 敷島がシンディと一緒に応接室に向かおうとすると、エントランスから学生らしき者が数人入って来た。

 学生A:「先生!平賀先生!もう戻られたんですか!?」
 平賀:「ああ。今しがたね。キミ達も済んだのかい?」
 学生B:「そうです」
 敷島:「一体、何の話ですか?」
 平賀:「南里先生はこの大学の名誉教授だった御方です。実際に遺骨が収められているお墓の他、ここには記念碑と銅像もあるんですよ。で、中にはそちらに献花したりする者もいるんです」
 敷島:「ああ!何か見たことあるなぁ!よし、俺達も行こう!」

 敷島とシンディは記念館の近くにある銅像と記念碑を見に行った。
 銅像は全身像で、冬場によく着ていた焦げ茶色のロングコートを着用し、両手を腰の後ろで組んで仁王立ちになっている銅像だ。
 因みに記念館内には、平賀の同級生で美大の講師が描いた肖像画もある。
 七回忌ということもあって、記念碑の周りには花束が置かれていた。

 敷島:「色々とブッ飛んだ博士だったが、人間味には溢れていた人だったからな。何だかんだ言って、人徳はあったってわけか」
 平賀:「そうですよ。ほんと、変わった人でしたけどねぇ……」

 何しろ遺影が、『アインシュタインのモノマネ』と称して、舌をペロッと出したものだった。
 他にも両手でピースサインをしたものなどがあり(本人曰く、「遺影だけにイェーイw」とのこと)、とても遺影に使えそうに無い写真ばかりであった。
 だが南里は、遺言でそのどれかを遺影に使えと遺した為、使わざるを得なかった。
 結局、科学者繋がりで、アインシュタインのモノマネをしている写真を使った由。
 それだけに、銅像の方は割とまともなものであった。
 ま、こちらは大学側が好意で建てたものであるが。

 エミリーは南里の銅像に向かって、深々とお辞儀をした。
 因みに肖像画の中には、南里がエミリーと並んで立つものもある。

 シンディ:「ウィリアム博士も……もう少し謙虚な人であったら……」
 敷島:「ああ。東京決戦すら無かっただろうな」

 未だにドクター・ウィリーこと、ウィリアム・フォレスト博士においては、世界的なマッドサイエンティストとして悪名高く、当然ながらそんな彼の顕彰などされるわけが無かった。

 館内に戻ってエミリーを展示ブースに戻す。
 因みにエミリーの隣には、空のブースがあった。
 これは敷島が平賀に頼んで用意してもらったもの。

 敷島:「いずれはシンディも役目を終えて、博物館にでも飾られる時が来るでしょう。その時、エミリーの隣に飾ってやって欲しいのです」

 ということだ。
 実際はDCJが是非にと引き取って、DCJ直営科学館にでも飾られていそうな気がするが。
 エミリーは南里の死によって半分その役目を終えたようなもの。
 KR団も表向きには崩壊した為、普段はここで飾られている。
 だが時折こうして、記念館から出ることもある。

 学生A:「先生、新たに『ロボットとロイドの違いについて』の文面を打ち直して来ました。後で向こうの展示室に設置しますが、これでよろしいですか?」
 平賀:「どれ……」
 敷島:「どれ……」
 シンディ:「社長も見るの?」

 人工知能のみ搭載されたものをロボット、人工知能の他に感情因子も搭載されたものをロイドとするという定義。
 簡潔にまとめればそういう内容なのだが、他にこんなことが書いてあった。
『二足歩行のみならず、人間と見た目が同じタイプをロイドと呼ぶように発案したのは(株)敷島エージェンシー代表取締役の敷島孝夫氏であり、それを受けた平賀太一教授が学会で提唱したものです』
 と。

 敷島:「あれ?俺の名前出てる」
 平賀:「あ、これはどうも失礼しました。おいおい、ダメだよ。勝手に敷島さんの名前出しちゃ……」
 学生A:「すいません」
 敷島:「まあ、別にいいですけどね。ただ、私はボーカロイドを手掛けているもので、他にシンディみたいなマルチタイプに、一海みたいなメイドロイドもいたりするもんで、それを全部ひっくるめてロイドと呼ぶようにしただけの話ですよ」
 学生B「敷島社長!そのお言葉、是非使わせて頂いてもよろしいですかぁ!?」
 平賀:「卒業論文にでも使う気か、こら?」

 平賀は自分の学生のこととはいえ、少し呆れ顔であった。
 で、応接室では……。

 七海:「コーヒーぬるくなっちゃったけど、まだ来ないのかしら?」

 七海が待ちぼうけ食らっていたという。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「忌日」

2016-11-27 22:51:08 | アンドロイドマスターシリーズ
[11月23日11:00.天候:曇 宮城県仙台市青葉区・葛岡霊園]

 南里の墓石に手を合わせる敷島達。

 シンディ:「プロフェッサー南里、7年前は大変申し訳ありませんでした。……ウィリアム博士の命令とはいえ、許されないことをしてしまったと……反省しています」
 敷島:「所長、産業スパイやっててすいませんでした。しっかり天罰は受けましたんで、何卒どうか1つ……化けて出てこないでください」
 エミリー:「御遺言に・背き・未だに・稼働して・います。大変・申し訳・ございません」
 アリス:「じー様がとんでもないことしちゃって、ごめんなさい。でも、じー様の方が壮絶な死だったのよ」
 平賀:「…………。(自分以外、何かしら南里先生に負い目のある連中ばっかりか!)」
 二海:「1分経過しました。黙祷を終了します」

 二海は敷島夫妻に息子が誕生したお祝いにと、平賀から送られたメイドロイドで、今回はトニーも連れて来た為、一緒に来ている。

 平賀:「皆さん、しっかり反省してくださいね!」
 シンディ:「はい」
 敷島:「すいません」
 アリス:「アタシが1番関係無いんだからね、本当は」
 エミリー:「……私、自爆して反省します。御命令ください」

 エミリー、舌を出して言った。
 ロイドの舌は、噛み千切れば自爆装置の作動に繋がる。

 平賀:「お前はいい!」
 敷島:「そうだよ。考えようによっては、今のお前は遺言チャラかもしれんよ?」
 エミリー:「チャラ?」
 敷島:「そうだ。いいか?所長が亡くなった時、お前は前期型だったんだぞ?それはつまり、所長が造ったボディだ。しかし今のお前は後期型。そのボディを誰が造ったか、忘れたわけじゃないだろう?」
 エミリー:「プロフェッサー平賀・です」
 敷島:「つまり名実共に、今のお前のマスターは平賀先生でいいの。その先生がお前に対して、元気に稼働しろって命令出してるんだから、それでいいじゃないか」
 平賀:「なるほど。エミリーに対する遺言は、前期型のエミリーに対してであって、後期型の今ではないと仰るのですね?」
 敷島:「そうです。きっと所長は、平賀先生がご自分で後期型のエミリーを造ることを想定していたのかもしれませんね」
 平賀:「でも今のエミリーをご覧になって、南里先生は何と仰るかどうか……?」
 敷島:「『さすがは平賀君!ワシが見込んだ通りの男じゃ!エミリーが造れるようになるとはあっぱれ!これでもうワシが教えることは何も無い!』と、手を叩いて喜んでくれますよ」
 平賀:「敷島さんの所には夢枕に立つんですよね?自分の所には全く来てくれないんです」
 敷島:「や、やっぱし、産業スパイやってたこと、恨まれてるかなぁ……?平賀先生は、それだけ所長に信用されてるってことですよ」
 アリス:「じー様の責任、孫のアタシが取れって言うの?……いや、まあ、立場上の責任を取るに吝かではないけどさぁ……」
 平賀:「敷島さん、もし今度、南里先生が夢枕に立ったら、『平賀の所にも来てください』と頼んでくださいよ。自分、まだ先生に教わりたいことがあるんです」
 敷島:「分かりましたよ。今や、『若き天才科学者』『ロボット工学の権威』『南里志郎博士唯一の直弟子』の名を欲しいままにする平賀先生なら、もう逆に教える側じゃないですか」
 平賀:「自分はまだ足りないんですよ。まだね……」
 敷島:「平賀先生が研究・開発したメイドロイドが量産化されるなど、成功しているのにまだ足りないんですか」
 平賀:「そうなんです」

 アリスは二海に預けていた息子のトニーを受け取った。

 アリス:「とにかく、そろそろ帰りましょう。トニーがお腹空かせてるわよ」
 敷島:「ああ。ちょっと車取ってくるよ」

 敷島が駐車場の方に行く。

 シンディ:「今日は奈津子博士とお子様方は来られなかったんですか?」
 平賀:「幼稚園でやってる芋煮会のイベントに出てる」
 シンディ:「芋煮会!?ヘタしたら、今日雪が降るかもしれませんのに……」
 平賀:「今年最後の芋煮会になるだろうさ」

 宮城県では11月初旬がピークで、初雪が降る頃に終了するのがベタな芋煮会シーズンの法則だ。
 敷島はレンタカーでワンボックスカーを借りており、これを持ってきた。

 敷島:「それじゃ、行きましょう」

 敷島が運転しているので、助手席にはアリスが乗った。

 二海:「マスター、トニー様をお預かりします」
 アリス:「よろしくね」
 シンディ:「お坊ちゃま、よく寝ておられますわ」
 平賀:「寝る子は育つと言うからな。静かにしておいてやれ」
 二海:「かしこまりました」
 シンディ:「……?」

 シンディは二海の隣に座っているのだが、二海の横顔を見て何かに気づいた。

 シンディ:「あんた、ヘッドセットにアンテナって付いてなかったっけ?」
 二海:「付いてますよ?」
 シンディ:「あの偽メイドは、アンテナが付いていなかった……」
 平賀:「量産型はアンテナは付いてないぞ。二海みたいな試作機と量産先行機は付いているけど」
 シンディ:「そうですか……」
 敷島:「お前が見たっていうメイドロイドらしき者のことか?」
 シンディ:「アンテナが無かったので、量産機だと思ったんです。そしたら、違う反応が出たもので……」
 敷島:「マルチタイプによく似たヤツか……」
 平賀:「今のところ何も起きてないからな。鷲田警視からも何も連絡は無いし、いいんじゃないか。まだ様子見で」
 敷島:「まあ、そうですね」

 敷島は車を市街地に向けて走らせた。
 ラジオから流れてくる天気予報は、もしかしたら仙台でも今夜雪になるかもしれないということだ。
 それほどまでに、今は寒いのだ。
 もっとも、暑さに弱く、寒さに強いロイド達には良い気候であるが。

 敷島:(シンディの話が本当だとして、どうも周りで嫌なことが起きそうだな……)

 ハンドルを握りながらそう考えつつ、

 敷島:「平賀先生、今夜一杯行きますか?」

 という楽しみも忘れていない敷島だった。
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