報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「孝之亟の思い出」

2017-03-21 19:22:07 | アンドロイドマスターシリーズ
[1967年2月23日21:00.天候:晴 東京都台東区某所・某ヌード劇場]
(孝之亟の一人称です)

 敷島孝之亟:「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ。本日はようこそ当劇場にお越しくださいまして、真にありがとうございます。紳士の社交場、娯楽の殿堂ミュージックホール四季、本日のプログラムは錦糸町フランス座よりお招き致しましたゆりやま洋子、ゆりやま恵子の姉妹による大熱愛ショーでございます。女体の神秘、悦楽の境地をどうぞ心ゆくまでお楽しみくださいませ。尚、上演に先駆けまして、お客様方に一言ご注意を申し上げます。上演中、場内の写真撮影並びに踊り子さんのお肌、衣装などには絶対にお手を触れることのないよう、固く固くお断わり致します。それではトップバッターより、張り切って参りましょ〜!レッツゴー・ミュージック!」
 観客A:「いよーっ!」
 観客B:「待ってました!」
 観客C:「洋子ちゃーん!!」

 当時の私はある経緯により、1つの劇場を任されていた。
 私は他の業界人の見よう見まねで運営に当たっていたが、幸い運営は軌道に乗っていた。

 孝之亟:「ありがとうございました、ありがとうございました。これにて第3部は終了でございますが、続く第4部をそのままのお席でご覧頂けます。当劇場は終日入れ替え無しで、お客様方にサービス致しております。安いお値段、溢れるお色気、ミュージックホール四季、来月1日からのプログラムは、『あなたのスター、私のスター』関西ヌードの女王・鈴蘭ひかる、デイジー・ローズ、その他豪華絢爛なるゲストをお招きして、寂しがり屋の殿方を優しく慰める、その名も『スキスキ大好き!ピンクショー』、どうぞ皆様お誘い合わせの上、お越しくださいませ。ありがとうございました、ありがとうございました、ありがとうございました」

 ある日のことだった。
 全てのプログラムが終わり、私がバックヤードに引き上げていると……。

 孝之亟:「ふう……。ん?」
 デイジー:「敷島さん」
 孝之亟:「あっ、デイジー!どうした?上演は来月からじゃ?」
 デイジー:「他のミュージックバーからの帰りなの」

 デイジーは他のヌードダンサーとは一線を隔していた。
 昼はカフェなどで歌を歌い、夜はヌードダンサーとして夜の街を歩いていた。

 デイジー:「私ね、この劇場が1番好き。ここで働くのが1番安心するわ」
 孝之亟:「はっはっはーっ!またまたぁ!どうせ他でも同じこと言ってるんだろう?」
 デイジー:「そんなことないわよ。本当に、ここの専属女優として働きたいくらいなの」
 孝之亟:「専属って、うちはまだそんな専属女優を抱えられるほど大きい劇場じゃないから……」
 デイジー:「分かってる。でも絶対この劇場は大きくなれるわ。その時は私を専属女優にしてね」
 孝之亟:「分かったよ」

 無論、その時の私はただの売り込みに過ぎんと思っていた。
 似たようなことを言ってくる女優は他にもいたからだ。
 しかし私はデイジーの公演を見ているうちに、段々と他のダンサーとは光の輝き方が違うことに気づいた。

 孝之亟:「はい、拍手、拍手〜。沢山の拍手をお願い致します。拍手をすればするほど、踊り子さんがハッスル致します。はい、沢山の拍手をお願い致します。えー、それでは皆様の興奮が冷めやらぬ前に皆様お待ちかね、デイジー・ローズの眩しいダンスをご覧頂きます。小屋に高鳴るミュージック、デイジー・ローズの神をも恐れぬその艶めかしい肢体、どうぞ皆様虜になってくださいませ。それでは、おあとがよろしいようで……」

 だが、事件は起きた。
 またある日の夜のことだった。

 デイジー:「敷島さん、助けて!」
 孝之亟:「どうした、デイジー!?」
 デイジー:「私、騙された!事務所はお金に困って私を売ったの!テレビの契約と偽って、私に借金の契約書にサインを……!もうおしまいよ!」
 孝之亟:「落ち着け!2人でどこかへ逃げよう!」

 私は劇場を投げ打ってでもデイジーを守りたいと思った。
 こんな天涯孤独な男を愛してくれたのだし、私も……。

 チンピラA:「いたぞ!あそこだ!」

 しかし、見つかってしまった。

 孝之亟:「よせ!デイジーに何をする!?」
 チンピラB:「うるせぇ!この女はよ、借金のカタなんだよ、ああッ!?お前が払うとでも言うのかよっ、ああっ!?」
 チンピラC:「あきらめな!」

 バキィッ!

 孝之亟:「ぐぉっ……!!」

 チンピラの拳が顔面に迫って来たと思うと、私の意識が飛んでしまった。
 気がつくと、私は繁華街の場末のゴミ捨て場にそのまま捨てられていた。
 私は……好きになった女1人すら守れん弱虫だったのだ……。
 私はすぐに彼女の足取りを辿ろうとしたのだが……。

 某バーのマスター:「ああ、あの女?確かあの女は……どこの国だったか忘れたが、外国に売られたって話だぜ」
 孝之亟:「そんな……!うわあああああああ!!」

[2017年2月11日23:30.天候:晴 埼玉県秩父市・白久温泉 旅館客室内]
(再び三人称に戻ります)

 孝之亟:「それから何年もして、ようやくある程度の財を築いた私は、外国へデイジーの捜索に行くことができた」
 シンディ:「再会は……叶いましたか?」

 孝之亟は布団の中で首を横に振った。

 孝之亟:「残念ながら、死んでいた。病死ということじゃったが、何の病気なのか、いや、それ以前に、本当に病気だったのか、今となってはさっぱり分からん」
 シンディ:「そうですか……」
 孝之亟:「わしが芸能事務所を立ち上げたのはな、もしかしたら似たような境遇のタレントを集めていれば、いずれはデイジーの生まれ変わりにでも会えるのではないかと思ったのと、もう2度とデイジーのように、夢を食い潰される者が出ないようにという思いもあった。今ではその方が強いがな」
 シンディ:「しかし、残念ですが……」
 孝之亟:「ま、しかし世の中、そう甘くはないものじゃな。そんな時、私はボーカロイドの初音ミクの話を聞きつけた。あの孝夫がプロデューサーとして売り出しているという話を聞いてな。まさか、あそこまで人間に酷似したアイドルが造れるようになったのかと驚いた」

 そして紆余曲折を経て、孝之亟は自身にとって重大な決断をすることにした。

 孝之亟:「わしの私財全てを投げ打ってでも、もう1度デイジーに会いたい。今のロボット技術なら造れるはずじゃと……」
 シンディ:「9号機を見て、どう思われましたか?」
 孝之亟:「完璧だ。少なくとも見た感じは」
 シンディ:「私達はオーナー様のお望み通りのことをさせて頂いております。最高顧問がデイジーに、思い出の女性のように振る舞わせることも可能です。どうか、お楽しみに……」
 孝之亟:「恋の翼痛めた♪かもめのように♪ウトロの浜辺に♪旅人が来たよ♪」
 シンディ:「ミクの持ち歌、『オホーツク旅情歌』の一節ですね」
 孝之亟:「元々は……デイジーがショーパブで歌っていたものじゃよ……。わしが音楽家に頼んで、ボーカロイドの誰かに歌ってもらおうと思ってな……」
 シンディ:「申し訳ありません。私達は何でもできるマルチタイプのくせに、歌だけは歌えないのです。申し訳……ありません」
 孝之亟:「良い良い……。すまんの。年寄りの昔話に付き合わせてしまって……」
 シンディ:「いいえ……」

 シンディは起き上がると、孝之亟を膝枕にした。

 シンディ:「私は……年老いた製作者をこの手で殺してしまいました。私の生みの親を、です。最高顧問のお世話をさせて頂いていると、まるで私の製作者のお世話をしているようで……私も幸せです」
 孝之亟:「そうか。こんなわしで良かったら、これからもよろしく頼むぞ」
 シンディ:「はい……」
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“Gynoid Multitype Cindy” 「秩父紀行」 2

2017-03-21 12:58:57 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月11日18:00.天候:晴 埼玉県秩父市・白久温泉 旅館客室]

 敷島:「お、これはイケる!」
 アリス:「これも美味しいわよ」

 夕食の時間になり、敷島達の宿泊している部屋に夕食が運ばれてくる。
 固形燃料に火が点けられ、その上で鍋がグツグツと煮立っていた。
 エミリーとシンディは孝之亟の酒を注いだり、アリスのご飯のお代わりを持ってきたり……。

 敷島:「コンパニオンと変わらんなw」
 孝之亟:「シースルーの衣装でも着させて、ピンクコンパニオンでもさせるかね?それともチャイナドレスか?メイド服も流行っておるらしいのぅ?」
 敷島:「そんな衣装無いし。スリットの深いロングスカートの時点で半分チャイナドレスみたいなものですし、メイド服がいいならメイドロイド連れてくればいいんですよ」
 エミリー:「お望みでしたら、衣装を御用意して頂ければ着替えますが?」
 敷島:「いや、いいから!……最高顧問なら、いつも会食でコンパニオン付きって感じなのに、何やってんスか」
 孝之亟:「何を言うとる。読者が誤解するではないか。あくまでも、付き合いの時じゃぞ」
 敷島:「政財界の人達と?」
 孝之亟:「しょうがないじゃろう。中にはそういうのが好きな人もおるんじゃから……」
 敷島:「昔の『ノーパンしゃぶしゃぶ』もロイドにやらせりゃいいんだよ。そしたら合法(※)ですよ」
 孝之亟:「なに?そうなのか。さすがはわしの遠い孫じゃ。検討材料とさせてもらおう」

 ※税金を使って酒池肉林の接待をしていたことも大問題になっていたはずだが……。

 孝之亟:「どうじゃね、アリス君や?」
 アリス:「は、はい!?」

 いきなり振られたアリスは少しびっくりした。

 孝之亟:「2人目は女の子が良いと思うが、どうかね?」
 アリス:「は、はい。検討材料とさせて頂きます」
 孝之亟:「この少子高齢化の世の中、曽孫が増えるのは爺冥利じゃのぅ!」
 敷島:「まだ作ってもいないからな、爺さん?なに皮算用して……いでっ!?」
 アリス:「……!!(だったら『材料』寄越せよ)」

 アリス、無言で隣のダンナの背中をつねる。

 敷島:「いってーな!」

[同日20:00.天候:晴 同旅館内]

 シンディ:「外をお歩きになるのですか?」
 孝之亟:「うむ。暫し、付き合ってくれんか?」
 シンディ:「お付きするのは構いませんが、外はとても寒いので、お体に障らぬ程度でお願いします」
 孝之亟:「分かっておる。今日は久しぶりに痛飲したでな、少し酔い覚ましじゃ」

 孝之亟はサンダルを履いて、旅館の中庭に出た。
 2月も半ばに差し掛かったこの時期、秩父の山には雪が積もり、寒風が時折吹いてくる。

 孝之亟:「うむ。今日は月がきれいじゃ」
 シンディ:「ほぼ、満月に近い状態ですね」
 孝之亟:「雪見酒と月見酒が両方できる、縁起の良い夜じゃ」
 シンディ:「まだ飲まれるのですか?」
 孝之亟:「はは(笑)、冗談冗談。花札、こいこいの役のことじゃよ」
 シンディ:「ああ、なるほど。これは失礼しました」

 その時、シンディのメモリーに一瞬『異常』が起きる。
 人間でいうフラッシュバックのことで、白黒画面である一場面が出て来た。

 ドクターウィリー:「はは(笑)、冗談冗談。ブラックジャックでは、よくあることじゃよ」
 シンディ(前期型):「ああ、なるほど。これは失礼しました」

 シンディの手に持つ大型ナイフは血で染まり、その周りにはウィリーを捕獲しに来た特殊部隊員達が全滅していた。
 その死体の山にはトランプの札が散乱している……。

 シンディ(後期型):「………………………」
 孝之亟:「シンディ、シンディ?どうしたね?シンディ!」
 シンディ:「……はっ!」
 孝之亟:「どうかしたのかね?」
 シンディ:「い、いえ、何でもありません。失礼しました」
 孝之亟:「ふむ。では、そろそろ戻ろうかの。今日は何だか、いつもより冷えるわい」
 シンディ:「そうですね」
 孝之亟:「ま、秩父じゃから当たり前か」
 シンディ:「さようで……」

[同日20:30.天候:晴 同旅館内]

 孝之亟:「酔いも少し覚めたことじゃし、もう1回風呂に入ってこようかの」
 シンディ:「はい」

 部屋に戻る孝之亟とシンディ。
 しかし、部屋には誰もいなかった。
 室内に布団は敷かれていたが。

 孝之亟:「うむ?あの若夫婦はどこにおる?」
 シンディ:「少々お待ちください。……どうやら、先にお風呂に入っておられるようですね」
 孝之亟:「そうか。考えることは同じじゃな。じゃあ、わしも……」
 シンディ:「ちょっと待ってください。……姉の話によると、お2人で『貸切露天風呂』に入られているとのことです」
 孝之亟:「ほお……。『材料』を『仕込み中』か。それはそれは……。デイジーが先に稼働するじゃろうが、2人目の曽孫にも期待が持てそうじゃな」
 シンディ:「はい。最高顧問は如何いたしましょう?」
 孝之亟:「部屋風呂に入ろう。湯を沸かしてくれんか?」
 シンディ:「かしこまりました」

[同日22:00.天候:晴 同旅館客室内]

 二間続きの客室内。
 襖で仕切って、孝之亟とシンディが同じ部屋に入っている。

 孝之亟:「うー……そこじゃ、そこ」
 シンディ:「ここですか?この筋ですか?」
 孝之亟:「そうじゃそうじゃ。うー……チミはマッサージも上手いな」
 シンディ:「ありがとうございます。……私の製作者もお歳を召していらしたので、よくマッサージをしていたものです」
 孝之亟:「なるほどな。孝夫から聞いておるよ」
 シンディ:「……あの、1つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
 孝之亟:「何かね?」
 シンディ:「どうして私をお気に召して頂けたのでしょうか?」
 孝之亟:「聞きたいかね?」
 シンディ:「差し支えなければ……」
 孝之亟:「デイジーじゃよ」
 シンディ:「デイジー?9号機の……ですか?」
 孝之亟:「わしの鞄を持ってきてくれんか?」
 シンディ:「はい」

 シンディは部屋の片隅に置いてある孝之亟の鞄を持ってきた。

 孝之亟:「すまんの」

 孝之亟は鞄の中から1枚の写真を取り出した。
 それは白黒写真で、そこに映っていたのは若かりし頃の孝之亟と……。

 シンディ:「……私にそっくり!」
 孝之亟:「デイジーじゃ。デイジー・ローズ」

 この後、孝之亟の口から驚きの(?)過去が語られる。
コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする