ノベラーエクスプレス関東

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「黒人差別」

2020-07-08 14:32:10 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月3日12:30.東京都江東区森下 ワンスターホテル1F貸会議室 視点:稲生勇太]

 配達員:「こんにちはー!ドミノピザです!」
 稲生:「あ、はい。お待ちしてました」

 ロビーでピザの配達員を待っていた稲生。
 お昼時になったので、皆でピザでも取ろうかという話になった。
 支払いはイリーナのカードで決済済みなので、稲生は商品を取りに行くだけで良かった。

 配達員:「お熱いのでお気を付けください」
 稲生:「はい、どうも。ご苦労様でした」

 稲生はLサイズのピザが入った箱を貸会議室に持って行った。

 エレーナ:「稲生氏、ご苦労様だぜ」
 稲生:「いやいや」

 稲生、ピザの入った箱を机の上に置く。

 アリス:「美味しそうな匂いね」
 エレーナ:「魔界にもピザくらいあるだろ?」
 アリス:「お城の食堂で、兵士達が食べているのを見たことがある」

 どうやら騎士階級(貴族階級)はピザを食べないらしい。

 イリーナ:「ま、とにかく食べようじゃないか。エレーナの妹弟子も無事だってことが分かったし」
 エレーナ:「『魔道士は殺しても死なない』という言葉には、色々な意味がありますが、この場合は悪運が強いという意味ですかね」
 イリーナ:「まあまあ。助かったんだからいいじゃないか」

 地上にいて逃げ遅れた人々は重圧魔法爆弾『ベタン爆弾』により、圧死させられた。
 助かったのは爆心地から離れた場所にいたか、或いは地下にいた人々だけであった。
 原爆の被爆者だと、地上にいても、熱線や爆風が遮られた物陰にいた人も助かった(例、はだしのゲンなど)わけだが、ベタン爆弾はそれでもダメだ。
 リリアンヌは地下鉄に乗っていて助かったそうだ。

 エレーナ:「爆撃機が何やら爆弾を落として引き返したところまでは分かった。私は急いで暴風魔法で、奴らの設定した爆心地をズラすことだけが精一杯だった」
 イリーナ:「ミッドガード軍が設定した爆心地というのは、1番街ね。エレーナの魔法で、それが再開発中で無人の16番街に落ちたんだから大したものよ」
 アリス:「それでも多くの人々が亡くなったことに変わりはない。爆弾は強力で16番街だけでなく、その周りの街もやられた」

 東京で言えば、開発中でまだビックサイトすらなかった頃の有明に落ちたようなものだ。
 敵は丸の内や大手町に爆弾を落とそうとしていたのに、エレーナの魔法で有明。
 しかし、爆弾の威力は強力で、周囲の豊洲や新木場にまで被害が及んだといった感じ。

 稲生:「…………」

 稲生は不味そうにピザを頬張った。
 もちろんビザ自体は美味であったが、彼女らの話している内容がメシマズだったからだ。
 稲生にとってはアリスの反応が1番まともに見えた。
 アリスはアルカディア王国の騎士団として、王国の国民を守る任務に就いているからだろう。
 どうして稲生がメシマズに聞こえたのかというと、所々に彼女らの差別意識を感じていたからだ。
 しかも、彼女らには何の悪意も感じられない。
 それは、アリスでさえであった。

 アリス:「エレーナはアルカディアシティのことに詳しいのか?」
 エレーナ:「私はアルカディアシティ内でも商売してるんだぜ?当然だぜ。16番街が再開発地区に指定されていて、無人だということは分かった。そしてその周りの街も、将来再開発地区に指定される治安の悪い場所だってこともな」
 イリーナ:「あそこは『アルカディアのイースト・セントルイス』と呼ばれてるからねぇ。魔族ですら、『黒人を見たら逃げろ』だもんね」
 アリス:「あの辺りの治安が悪くなったのも、アメリカから黒人が流入してからだと聞く」
 マリア:「私がまだ普通の人間だった頃、南アフリカから引っ越してきたコ(白人)が知り合いにいたんだけど、やはり黒人の多い場所は治安が悪過ぎだって」
 エレーナ:「アメリカのミネアポリスで起きた事件だって、警察官に殺された黒人というのは、相当な前科者だったらしいぜ?」
 稲生:「…………」

 稲生は不思議そうな顔で、白人魔女達の黒人差別談義を聞いていた。
 普通に女子会レベルの話で、差別が平然と行われていることに、もはや呆然とするしかなかった。
 で、アジア人とて対岸の火事ではない。
 欧米に行けば、アジア人として被差別の対象となるので要注意だ。
 そしてそれは、白人からだけではなく、黒人からもである。

 イリーナ:「あ、ゴメンね、勇太君。日本人はこんな話、入れないよね」
 稲生:「あ、いえ……」
 エレーナ:「お~、そうだったぜ!稲生氏をハブくんじゃねーぜ。マリアンナとかはどう思ってるかどうか知らないが、私にとって日本人は『名誉白人』だぜ。いつもお世話になっております」

 エレーナは勇太の右手を握った。

 マリア:「意味不明の挨拶で締めるな。私だって、勇太は特別だ。同じ白人の男は私を『性欲の捌け口』にしかして来なかったけど、勇太だけは違ったから」

 マリアはマリアで勇太の左腕を掴んだ。

 稲生:「分かったから離れてくれ」

 稲生は思った。

 稲生:(『神に見放され、悪魔に魅入られし魔女共』と言われるのがこの人達だけど、キリストの信仰を止めても、キリスト教にある選民意識『白人こそ神に選ばれし人種』の思想は魔法でも落とせないらしい)

 ダンテ流魔法でも落とせない差別意識を無くす為、仏法の広宣流布に邁進しなくてはと思う反面……。

 稲生:(“大白法”の海外寺院紹介でアメリカの寺院とかが紹介されても、写真を見てる限り、アジア系とか黒人とかヒスパニック系が多いような気がするんだけど……。白人はなかなか入信してくれない?)

 稲生が日蓮正宗で信仰しているのは、ここにいるアリス以外は全員知っている。
 ダンテ一門ではキリスト教の信仰は当然禁止されているが、何故か仏教は『魔女狩りの歴史が無いから』という理由で禁止されていない。
 その為、魔女狩りの歴史のあるイスラム教も禁止されている。
 マリアも稲生の所属する正証寺や総本山大石寺を訪れたことはあるが、仏法に関心を示す言動は1度もしていない。
 せいぜい、稲生の魔力の源との関連性について興味を持っただけである。

 稲生:「僕は恐らくイギリスに行ったら、アジア人というだけで差別されそうだけど、どう思う?」
 マリア:「まず、イギリスに行くことは無いと思う。もしそんな機会があったとしても、私が守るから心配しないで。日本では私が勇太に守ってもらっているからね」
 エレーナ:「ウクライナに来る機会があったら、私がガードしてやるぜ。稲生氏を差別するヤツは、私の魔法で滅却・塵芥にしてやるぜ」
 イリーナ:「ロシアは……ロシア語喋れれば、取りあえず大丈夫だから。何か言われたら、ロシア語で言い返してやれば大抵の相手は怯むから」
 稲生:「……しばらく日本国内に閉じこもりまーす」
 エレーナ:「で、どうするんですか?今から、アルカディアシティに行きますか?」

 エレーナはピザの一切れを手にし、それを頬張りながら言った。

 イリーナ:「そうねぇ……。約1名、乗り気でないのがいるんだけど……」

 イリーナはチラッとマリアを見た。

 稲生:「僕は威吹が心配だから、ちょっと行ってみたい」
 エレーナ:「私もリリィを迎えに行ってやんねーとな」
 アリス:「ケガも治ったことだし、私も早いとこ騎士団本部に戻らないと」
 マリア:「分かった。分かりましたよ。私も行きますよ」
 イリーナ:「そう来なくちゃ。じゃ、ピサを食べたらさっさと行くわよ~」
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“大魔道師の弟子” 「東京駅からワンスターホテルへ」

2020-07-06 19:13:22 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月3日11:18.東京都千代田区丸の内 JR東京駅 視点:稲生勇太]

〔♪♪(車内チャイム。“AMBITIOUS JAPAN!”イントロ)♪♪ まもなく終点、東京です。【中略】お降りの時は、お足元にご注意ください。今日も新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
〔Ladies & Gentleman.We will soon be arriving at Tokyo,Terminal a few minutes...〕
〔「到着ホームは18番線。降り口は右側です。お降りの際、電車とホームの間が広く空いている所がございます。お足元にご注意ください。また、網棚の上、座席の上、座席の下など、お忘れ物なさいませんよう、よくお確かめください。今日も新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございました」〕

 稲生:「そろそろ先生を起こしに行きますか」
 マリア:「うん。もう起きてるといいけどね」

 マリアは人形達をバッグの中にしまうと、席を立った。
 そして2人とも、10号車のグリーン車に移動する。

 乗客:「先生、ありがとうございました」
 イリーナ:「いいえ」

 到着直前まで商売をしていたようだ。

 稲生:「先生、そろそろ降りる頃ですが……」
 イリーナ:「そうね。全く。仕事三昧だったよぉ……」
 マリア:「たったの1時間じゃないですか。どれくらい稼いだんですか?」

 イリーナはローブの内側を見せた。

 イリーナ:「現金は受け取らない主義」

 殆どがクレジットカード会社発行のギフト券。
 まるで札束のように纏められている。
 イリーナが現金を受け取らない理由は不明だ。
 そして、実際あまりギフト券を利用している所は見たことがない。

〔東京、東京です。東京、東京です。ご乗車、ありがとうございました〕

 第9ホームと呼ばれる18番線に到着する。
 因みに東海道新幹線で、このホームにだけ立ち食いそば屋がある。
 16号車寄りの方だ。
 今回、魔道士はスルー。
 なかなか味は良いらしい。
 ワンスターホテルに向かう為、八重洲側の改札口を出る。
 元々東海道新幹線乗り場に、直で出入りできるのは八重洲側しか無い。
 JR東日本が丸の内口側を管理し、JR東海が八重洲口側を管理している……とも限らないんだな、これが。
 とにかく、東京駅はJR東日本とJR東海の管轄が複雑に入り混じった駅なのである。
 旧国鉄時代に東北新幹線用ホームとして整備された第7ホーム(14番線と15番線)は、民営化前に東海道新幹線用ホームに転用されている。
 一部の情報で、『東北新幹線との相互乗り入れの為に整備された』とあるが、これはデマである。
 東海道新幹線の本数が激増し、それに対応する為に転用しただけに過ぎない。
 その為、民営化されても防災管理上の権利が複雑に絡み合っている場所なのだ。
 このホームの下は特に!

 稲生:「この改札口(八重洲中央南口)から出れば、タクシー乗り場はすぐそこです」
 イリーナ:「慣れたものだねぇ……」
 稲生:「ただの雑学です」

 自動改札口を出る。

 稲生:「東京も雨だ」
 イリーナ:「ツユだからしょうがないね」
 稲生:「確かに……」

 駅の外に出てタクシー乗り場に行く。
 乗り込んだのは最近よく見るジャパンタクシー。
 これなら、後ろに3人並んで乗っても特に狭くない。
 そもそも稲生やマリア自体、体の大きい方ではないので。

 稲生:「江東区森下のワンスターホテルまでお願いします」

 真ん中に乗った稲生が行き先を告げた。

 運転手:「はい……」

 運転手がナビでワンスターホテルを検索する。
 一応、カーナビで検索できるホテルのようである。

 運転手:「では、ナビ通りに行きますので」
 稲生:「お願いします」

 タクシーが走り出した。
 通りに出る時の信号待ちで、前後をJRバスに挟まれる。

 イリーナ:「はい、これ。お小遣い」

 イリーナがローブの中から、稲生とマリアにギフト券を渡した。
 新幹線の中で稼いだものだろう。
 札束のように纏められたギフト券の中から、稲生は1万円分を受け取った。

 稲生:「ありがとうございます」
 マリア:「Thank you so much.」

 月の小遣いは定額制であるが、イリーナに多額の臨時収入が入ると、このように分け前をくれることもある。
 それ以外の衣食住については、師匠が面倒を見るというのがダンテ一門の掟である。

[同日11:45.東京都江東区森下 ワンスターホテル 視点:マリアンナ・ベルフェゴール・スカーレット]

 タクシーがワンスターホテルの前に到着する。

 運転手:「こちらでよろしいですか?」
 稲生:「はい、大丈夫です。支払いはカードでお願いします」
 運転手:「はい、ありがとうございます」

 イリーナのプラチナカードを使う稲生。
 その間、助手席の後ろに乗っていたマリアが降りた。
 先にホテルの中に入る。

 オーナー:「おお、マリアンナさん、いらっしゃい」
 マリア:「エレーナはいますか?」
 オーナー:「エレーナですね。少々お待ちください」

 オーナーは内線電話を掛けた。
 なるほど。
 確かにアルカディアシティ6番街カブキンシタウンの“二星亭”の女将と、顔が似ているような気がする。

 オーナー:「今、エレーナを呼びましたので」
 マリア:「Thank you.ところで、Three Stars Hotelはどこにありますか?」
 オーナー:「ホテル三星ですか?それでしたら……って、どこでそれを?」
 マリア:「私達、Two Stars Innに泊まったんです」
 オーナー:「姉の所に!そうでしたか。ありがとうございます。姉は元気でしたか?」
 マリア:「ええ。それで、姉妹店……というか、兄弟店というか、そういうホテルがもう1つあると聞いたんです」
 オーナー:「兄のホテルですね。後で御紹介させて頂きます」

 そんなことを話していると、稲生とイリーナもホテルに入って来た上、エレーナとアリスもエレベーターで上がって来た。

 エレーナ:「おーっ、やっと再会だぜ!」
 マリア:「アリス?何か、ラフな格好……」

 アリスはこちらの世界の服を着ていた。
 Tシャツにジーンズという姿である。

 エレーナ:「アリスの服、洗濯中なんだぜ。代わりの服を着てるだけだぜ」

 購入したのだろうか。
 まあ、それはどうでもいい。

 イリーナ:「早速、アルカディアシティで何が起きたのか、聞きたいわ」
 エレーナ:「了解です。オーナー、会議室借りますよ?」
 オーナー:「どうぞどうぞ。お支払いは……」
 イリーナ:「……ま、アタシが払うことになりそうだねぃ」
 オーナー:「ご利用ありがとうございます」

 後でオーナーがサービスでお茶を入れに来たという。
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“大魔道師の弟子” 「こだま706号」

2020-07-06 09:06:58 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月3日10:00.静岡県富士市 JR新富士駅 視点:稲生勇太]

 藤谷の車が駅前ロータリーに入る。

 藤谷:「それじゃ、ここまでで申し訳ないですけど……」
 イリーナ:「いえいえ、とんでもない。助かったよ」
 稲生:「ありがとうございました」
 イリーナ:「ここに、御礼の『儲け話』が書いてあるから、後で読んで」

 イリーナは自分が予知した『儲け話』が書かれたメモを藤谷に渡した。

 藤谷:「あ、こりゃどうもすいませんです」

 藤谷は揉み手をし、照れ笑いにも似た笑みを浮かべてそのメモを受け取った。

 稲生:「それじゃ、班長。ありがとうございました」
 藤谷:「おう。ちゃんとお寺来いよ」
 稲生:「分かりました」

 稲生達は車から降りた。
 時折、ゴーッという音が駅から聞こえてくるのは、通過列車の轟音である。
 駅の中に入る。

 稲生:「10時13分発です。その約5分前に入線してくるので、そろそろといったところですね」
 イリーナ:「そうかい。じゃあ、もう行こうかね」
 稲生:「キップは1人ずつ持ちましょう」

 稲生はイリーナにグリーン券の付いたキップを渡した。
 当初は自由席に座る予定の稲生とマリアだったが、なるべくイリーナと離れない方が良いということで指定席にした。
 幸い、隣の普通車指定席が取れた。
 まだ、コロナ禍による影響は大きいのだろうか。
 それとも、元々空いている“こだま”だからか。

〔「今度の東京行きの電車は、10時13分発、“こだま”706号です。終点東京まで、各駅に停車致します。自由席は……」〕

 ホームに上がると、マリアはホーム上の売店に立ち寄った。
 何を買っているのかというと、ポッキーであった。
 どうやら、朝食だけでは少し足りなかったらしい。

 稲生:「先生は10号車。僕達は11号車です」
 イリーナ:「寝てたら、起こしてちょうだいね」
 稲生:「分かりました」

〔♪♪♪♪。新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。まもなく1番線に、10時13分発、“こだま”706号、東京行きが到着致します。安全柵の内側まで、お下がりください。この電車は、各駅に止まります。グリーン車は8号車、9号車、10号車。自由席は1号車から6号車と、13号車から16号車です。……〕

 新富士駅の前後は線形が良い為、通過列車は最高速度の時速285キロで通過する。
 入線してきた列車はN700系であり、N700Aではなかった。
 “祈りとして叶わざるは無し”……とは限らない。

 イリーナ:「それじゃ、アタシゃそっちへ行くよ」
 稲生:「あ、はい」

 列車が到着し、ドアが開くと、イリーナはグリーン車へ乗って行った。
 稲生達は隣の普通車に乗り込んだが、その直前に轟音を立てて通過列車が通過していった。
 風圧と振動で、こちらの列車も揺れる。

 稲生:「ここですね」
 マリア:「うん」

 指定された2人席に腰かける。
 人形達はいつもの通り、荷棚に乗せた。
 ローブも脱いで、窓の横に付いている収納式のフックに掛ける。
 本当はこれ、『帽子掛け』というらしい。
 エレーナなどのホウキ乗りの魔女みたいに、いつも帽子を被っている者なら重宝するのかもしれない。
 しかしそうでない魔法使いの場合は、ローブを掛けるのに使う。

〔「10時13分発、“こだま”706号、東京行きでございます。只今、通過列車の通過待ちを行っております。発車まで、しばらくお待ちください」〕

 マリアはテーブルを出すと、その上にジュースとポッキーを置いた。

 マリア:「一本食べる?」
 稲生:「うん、ありがとう」

 稲生は一瞬ポッキーゲームをしたくなったが、何とか抑え込んだ。

 マリア:「? なに?」
 稲生:「い、いや、何でも無い」

[同日10:13.JR東海道新幹線706A11号車内 視点:稲生勇太]

〔「レピーター点灯です」〕

 東京駅なら発車メロディが流れるが、ここでは普通の発車ベルが鳴り響く。

〔1番線、“こだま”706号、東京行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。お見送りのお客様は、安全柵の内側までお下がりください〕
〔「ITVよーし!乗降、終了!」〕

 マリアはポッキーを食べていたが、今は荷棚に乗っていた人形達も下りてきて、一緒にポッキーをポリポリ食べている。

 稲生:「“こだま”、車内販売無いからねぇ……」

 人間形態だと凛としたメイドであり、他のメイド人形達のリーダー的存在として働くが、人形形態だとコミカルな動きを見せてくれる。
 そんなのを眺めているうちに、“こだま”706号は発車した。

 乗客A:「こっちだ、こっちだ」
 乗客B:「急げ!」

 後ろの車両に向かって、スーツ姿の男性乗客達が走って行く。
 何のことはない。
 イリーナが乗車していると聞いて、占ってもらおうと思っているのだ。
 イリーナは門内ではヘタレ師匠として通っているが、占いの腕前に関しては文句をつける1期生はいない。
 そんな彼女の占いの見料は【お察しください】。
 特に定額というわけでもなく、イリーナが相手を見て値段を決めることもあるし、向こうの方から言い値を払ってくる場合もある。
 イリーナが持っているプラチナカードだって、とある世界の大物を占いで助けてあげた見料の1つである。
 そんな彼らにとって、弟子である稲生やマリアは歯牙にもかけない存在であろう。
 さっきの男性達も、稲生達には目もくれずに走り去って行った。
 いや、そもそもイリーナに弟子がいることすら知らないのかもしれない。

 マリア:「師匠はどこでも稼げるな」
 稲生:「凄いよねぇ……」
 マリア:「私もまだ予知夢を見る程度だからなぁ……」
 稲生:「それで夢占いとかできるんだから、大したものだと思うよ」
 マリア:「いや、それだって確実ってわけじゃないし。もっと、より確実なものにしないと……。勇太だって、予知夢を見たりしない?」
 稲生:「たまーにね。でも、『たまーに』程度じゃ、占いで生活できないし」
 マリア:「ま、それもそうだ」

 マリアはまた一本ポッキーを齧った。
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“大魔道師の弟子” 「東京へ出発」

2020-07-05 21:14:22 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月3日07:00.静岡県富士宮市 富士宮富士急ホテル 視点:マリアンナ・ベルフェゴール・スカーレット]

 ベッドに内蔵されているアラームが鳴り響く。

 マリア:「n...」

 マリアは手を伸ばしてアラームを止めた。

 マリア:(何か……久しぶりに長い時間寝た気がする……)

 隣のベッドのイリーナを見ると、アラームが鳴ったにも関わらず、全く起きる様子が無かった。

 マリア:(師匠は……まあ、後で起こそう)

 マリアは欠伸をしながらバスルームに向かった。
 今度は朝の身支度を始める。

 マリア:(ここからどうするんだろう?屋敷に帰るのか?それとも、もう1度魔界に行くんだろうか……?)

 魔界に行くとなると、マリアはそろそろ億劫になってきた。
 元々は課題を達成しに行ったはずなのに、いつの間にか戦争に巻き込まれてしまったのだ。
 それでも魔界を拠点としているのなら、立ち向かわないといけないだろう。
 しかし、イリーナ組は人間界を拠点としている。
 大師匠ダンテから命令されたのならまだしも、そこまで首を突っ込まなくても良いではないかと思った。
 こんな風に思ってしまうのも、“怠惰の悪魔”ベルフェゴールと契約しているからだろうか。
 悪魔としては戦争で死んだ人間の魂を食らうことができて、さぞかしウハウハなのだろうが。

 マリア:「?」

 トイレや洗顔等を済ませ、再び客室に戻ると、ライティングデスクの上に置かれたイリーナの水晶玉が光っているのが分かった。
 ケータイと同じ、『着信あり』の意味である。

 マリア:「何だ何だ?」

 マリアが水晶玉に手を翳すと、水晶玉に映ったのはアナスタシア。

 アナスタシア:「イリーナ、また寝てるのね!まあ、いいわ。魔界から速報よ。アルカディア国防軍がミッドガードに一斉攻撃を開始したわ。もちろん、侵略じゃなく、アルカディアシティを半壊滅させられた報復よ。向こうは大統領が死んで統帥権が曖昧になってるから、応戦もできないかもね。それと……」
 マリア:「アルカディア……半分壊滅しちゃったんだ……」

[同日08:00.同ホテル1Fレストラン 視点:稲生勇太]

 稲生:「おはよう、マリア。体の具合、どう?」
 マリア:「おかげさまで、もうバッチリ。悪かったね。たっぷり寝かせてもらって」
 稲生:「いやいや、いいんだよ。元気になって良かった。……先生は?」
 マリア:「師匠はいつもの通り、『あと5分』を1時間弱繰り返していたので放っておいた」
 稲生:「あはは……」

 稲生は乾いた笑いを浮かべた。

 稲生:「とにかく、朝食にしよう。マリア、お腹空いたでしょ?」
 マリア:「早く食べたい。こういうホテルは食べ放題でしょ?」
 稲生:「……だったんだけど、コロナ禍の影響で定食形式になったみたい」
 マリア:「マジか」

 それでもマリアにとっては、十分な量だったと思われる。
 まあ、腹八分目と言うし……。

 マリア:「確か、チェックアウトは9時半くらいだっけ?」
 稲生:「そう。藤谷班長が車で新富士駅まで送ってくれるって」
 マリア:「あー、何かそんな話を聞いたことがあるような気がする。何か……夢の中で聞いたような感覚なんだ」
 稲生:「そうなの?」
 マリア:「いや、夜中に1度目が覚めたから、そのせいだと思うけどね」
 稲生:「そうなんだ。で、新富士駅から新幹線で東京まで行くよ。その後で、ワンスターホテルだって」
 マリア:「やっぱり魔界に行くのか?」
 稲生:「分かんないね。エレーナの他に、アリスも泊まってるみたいだから」
 マリア:「アリスが?」
 稲生:「まあ、エレーナのことだから、何か報酬をもらう約束でもしてたんじゃないの?」
 マリア:「あいつなら有り得るけどね」
 稲生:「アルカディアシティで爆撃機と戦ったのはエレーナ達なわけだから、先生が直接状況を聞きたいんだってさ」
 マリア:「なるほど。情報の内容次第では、魔界に行くわけか……」
 稲生:「どうしたの?魔界に行きたくないみたいだね?」
 マリア:「うん、何かもう魔界はお腹いっぱい」
 稲生:「しっかりしてよ。僕は威吹のことが心配なんだ」
 マリア:「あー、そうか……」

 マリアはアナスタシアのメッセージを稲生に言うかどうか迷った。
 しかし、やはり言うのはやめた。
 言ったら余計に稲生は不安がるだろうし、何としてでも魔界に行こうとするだろう。

[同日09:30.同ホテル→藤谷の車 視点:稲生勇太]

 さすがに9時ぐらいに、マリアはイリーナを起こした。
 どのような感じで起こしたのかは、【お察しください】。

 フロント係:「ご利用ありがとうございました」
 イリーナ:「どうも、お世話さま」

 チェックアウトの手続きをする。

 藤谷:「それじゃ、車回してきたんで、どうぞ」

 藤谷の先導でホテルの外に出る。
 ホテルの外では、藤谷のベンツGクラスが止まっていた。

 稲生:「お邪魔しまーす」

 稲生は助手席に乗り込んだ。
 イリーナとマリアはリアシートに乗り込む。

 藤谷:「それじゃ、出発します」
 イリーナ:「よろしくね。それじゃ、着いたら起こして」
 マリア:「師匠、せっかく久しぶりに富士山が見えるのに……」
 イリーナ:「あー、残念ね。今日はこれから雨よ」

 確かに外は曇っている。

 イリーナ:「日本は今、雨期だからね」
 稲生:「梅雨って言うんですよ、先生」

 車が走り出して、まずは国道139号線に向かった。
 そこに出て、あとはバイパスの西富士道路に出れば富士市はすぐだ。

 イリーナ:「今日は雨が強く降るから、もしも工事があるのなら、十分気をつけてね」
 藤谷:「さすが先生ですね。ありがとうございます」

 赤信号で止まると、藤谷は助手席に座っている稲生に聞いた。

 藤谷:「新幹線の時間、何時だ?」
 稲生:「10時13分発の“こだま”706号です」
 藤谷:「余裕だな。何だ?それは新型の車両か?確か、N700……」
 稲生:「Sですね。N700S」
 藤谷:「ああ、そう。それ」
 稲生:「いや、多分“こだま”には充当されないんじゃないですか。暫くの間は」
 藤谷:「そうか。そいつァ残念だったな」
 稲生:「いえいえ。N700Aに当たれば御の字ですよ」
 藤谷:「よく分からんが、まあ大聖人様に御祈念しといてくれ」
 稲生:「はい」

 そんなことを話していると、イリーナの予言通り、フロントガラスに雨粒が当たり始めた。
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“大魔道師の弟子” 「富士宮での一夜」

2020-07-04 22:55:07 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月2日19:00.静岡県富士宮市 某飲食店 視点:稲生勇太]

 稲生はイリーナと共に藤谷春人と合流し、市街地にある飲食店に向かった。
 そこは和食の店で、イリーナは岩手県で味わったのと同様に、ここでも日本酒を注文した。
 どうやらロシア人の口に、日本酒は合うらしい。
 マリアには合わないようだが。

 稲生:「先生、マリアさんじゃないですけど、あまり飲み過ぎになりませんように……」
 イリーナ:「分かってるわよ」
 藤谷:「大丈夫ですよ。いざという時には、北海道の時みたいに、先生を背負ってお送りします!」
 イリーナ:「まあ、さすが藤谷さん。頼もしい……」

 イリーナはまだ酔ってもいないだろうに、そんな素振りを見せて藤谷に妖艶な顔を見せた。

 藤谷:「また、北海道の時みたいに、悪魔達に襲われたんですかい?」
 稲生:「いや、まだあの時の戦いの方が楽でしたねぇ……」
 イリーナ:「そうね。私達、戦争に巻き込まれて来たんだから」
 藤谷:「中東のガザ地区からの御帰りですかい?それとも、ソマリア?」
 稲生:「魔界ですよ。魔界にも国がいくつかあって、僕達が贔屓にしている国が、隣国に攻め入られたんですよ」
 藤谷:「それはまた大変なことで。……こっちに影響は無いんですよね、先生?」
 イリーナ:「そのはずよ。ミッドガードの奴ら、人間界と……あ、してるわよね」
 稲生:「でも、中国やロシアと取引をしているだけでしょう?直接日本に来ますかね?」
 イリーナ:「私達が頑張らないとね」
 稲生:「はあ……」
 藤谷:「俺も微力ながら、できる限りのことはしますぜ」
 イリーナ:「ありがとう。もしかしたら、ヘリコプターを借りることになるかもね」
 藤谷:「おお!お任せ下せぇ!コロナ禍に入る直前、俺も操縦免許取ったんですよ。親父にばっかり操縦させるわけにはいきませんからねぇ!」
 稲生:「確かに北海道の時は、登山部長の操縦するヘリに助けられたんでしたっけ」
 イリーナ:「あのヘリって、マシンガンとか付いてたっけ?」
 藤谷:「あ、いや、攻撃ヘリじゃなく、空から測量する為のヘリなんで……。航空写真撮ったりですとか……」
 稲生:「すいません、班長。先生、今日は酔いが早いみたいです」
 藤谷:「気にすんなって。それより、聞いたか?今月から大石寺の添書登山が再開されるぞ!」
 稲生:「そうなんですか?」
 藤谷:「ああ。具体的には11日からだ。但し、コロナ対策で、人数制限はするみたいだぜ。だから、事前予約制だ」
 稲生:「なるほど……。初日は大勢来ますかね?」
 藤谷:「どうだろうなぁ……。取りあえず作者は向かうみたいだから、向こうでガチ勢と鉢合わせしてケンカにならないかが不安だ」
 稲生:「いいんですか、そんな情報漏らして?」
 藤谷:「酒の席だからしょうがねーよ。ねぇ、先生?」
 イリーナ:「お察しくださいw」
 稲生:「話は変わりますけど、リシーツァは大丈夫ですかね?」
 イリーナ:「何とか逃げ切れたみたいよ。取りあえず、アルカディア王国から離れるようには言っておいた」
 稲生:「威吹は……無事だそうです。幸い、南端村には暴風が来た程度で済んだようです」
 イリーナ:「おお、良かったわね。でも、まだよ。ということは、アルカディアシティは壊滅していない。大統領の首を持って行かれて、残された軍隊が黙っていないと思う。問題は、ベタン爆弾があと何発残ってるかってところね」
 稲生:「その前にアルカディア軍が制圧してくれるといいんですが……」
 藤谷:「横レス失礼。その大統領がどれだけの権限を持っているかにもよるぜ?軍隊全てを掌握しているんだったら、大統領が死んで、すぐに後継者を決めないと混乱する。北朝鮮なんかがそうだろ?金正日が死んで、すぐに金正恩がトップになったけどよ。それでも軍高官が処刑されたりと、だいぶ混乱したのは記憶に新しい。その、ミッド……何とかって国は独裁政権なんですか?」
 イリーナ:「そうね。北朝鮮ほどではないけど、中国並みってところかしら。一党独裁制であることは間違い無いわね。一党独裁の大統領制よ」
 藤谷:「それじゃ、きっと大混乱ですぜ。その敵国に乗り込んで、あとは首都をズッタズタに攻撃してやりゃ、国取り合戦は大勝利です!」
 イリーナ:「言われなくても、きっとやってる……いや、どうでしょうね。あの安倍春明総理に、そんなことができるかしら」
 稲生:「いずれにせよ、僕達の出る幕は無いですか?」
 イリーナ:「今のところはね。とにかく明日、エレーナと合流して情報を聞き出しましょう」
 稲生:「分かりました」

[7月3日01:30. 静岡県富士宮市 富士宮富士急ホテル 視点:マリアンナ・ベルフェゴール・スカーレット]

 マリア:「……!?」

 マリアは訳の分からぬ夢を見て目が覚めた。
 攻撃ヘリや戦車に追い回される夢だ。
 応戦しようにも何故か魔法が使えず、ただ逃げるしかないという悪夢であった。

 マリア:(ここは……?)

 おぼろげな記憶の糸をたぐり寄せ、ホテルの部屋にいるところまでは思い出せた。
 隣のベッドではイリーナが鼾をかいて寝ている。
 ベッドの時計を見ると、夜半過ぎであった。

 マリア:(夕方くらいに寝て、今まで眠りこけてたのか……)

 マリアは欠伸をしてベッドから起き上がった。
 トイレに行きたいのと、変な夢を見たせいで変な汗をかいた為、シャワーを浴びようと思ったのだ。
 すると、室内の椅子に座っていたミク人形が動き出して人間形態になる。
 どうやら脱いだ服や下着を洗濯してくれるようだ。
 このホテルにはコインランドリーがあって、24時間稼働しているとのことである。
 替えの下着と、部屋備え付けの寝巻を手にバスルームに向かう。
 既に使われた形跡があるが、イリーナが使ったのだろう。
 そこで頭から全身洗い、ようやくさっぱりした。
 替えの下着は黒いスポブラと黒いスポーティーなビキニショーツ。
 いつもはもっと可愛いデザインの下着なのだが、魔界に行く時は大体こんな感じ。
 魔界に行くと大抵何らかの敵とエンカウントして戦闘になるので、変な汗をかきやすい。
 洗濯しやすいのと、動きやすいからである。
 取りあえず下着だけ着けて、バスルームから出た。

 マリア:「わっ?!」

 びっくりしたのは、ドアを開けるとイリーナが立っていたからだった。

 イリーナ:「マリアぁ~?オシッコしたいんだけど、いいかしら?」
 マリア:「ど、どうぞどうぞ……」

 マリアは急いでバスルームから出た。

 マリア:(全く。心臓に悪いトイレ待ちをするBBAだ)

 マリアは心の中で悪態をつくと、寝巻を羽織ってドライヤーを使った。
 イリーナがトイレに入り浸っているうちに髪を乾かそうと思ったのだ。

 イリーナ:「マリア、疲れは取れた?」
 マリア:「あ、はい。もう大丈夫です」

 バスルームから出て来たイリーナが、そう話し掛けて来た。
 今度はもうびっくりしない。

 イリーナ:「あなたのお人形さんが1人いないみたいだけど?」
 マリア:「ああ、私の服を洗濯しに行きました。このホテル、コインランドリーがあるみたいなので」

 ブラウスはノーアイロンタイプなので、乾燥機で乾かして、ハンガーに吊るしておけばシワは取れる。
 下着に関しては、先ほども述べた通りスポーツタイプなので、それまた乾燥機で乾かせばそれで良い。

 イリーナ:「ドライヤー使い終わったら、私はまた寝るわよ」
 マリア:「あ、はい。因みに何時に起きるか、とかは?」
 イリーナ:「チェックアウトは9時半って聞いたけどね。マリアを心配して、勇太君がゆっくり目にしてくれたのよ」
 マリア:「そうでしたか」
 イリーナ:「まあ、朝食は取るだろうから、勇太君は7時くらいに起きるかもね。……いや、勤行の時間も入れると、もっと早く起きるかな」
 マリア:「分かりました」

 ドライヤーを使っていても、イリーナはベッドに潜り込んだ。
 その後、マリアは歯を磨いたり、再び寝る準備を始めた。
 だいぶ寝たので、また寝られるかどうか心配だったが、意外なほどに早く寝落ちすることができた。
 そして今度は、変な夢を見ることはなかった。
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