[5月2日06:58.天候:晴 JR大宮駅新幹線ホーム]
シンディが手に荷物を持って、新幹線ホームへの階段を上る。
シンディの荷物は、アリスが敷島に渡せと持たせたものである。
その為、乗車はグランクラスのある10号車から乗る必要があった。
シンディ:「ん?」
“はやぶさ”1号は、その前方に“こまち”1号を併結している。
隣の11号車がそのグリーン車になっているのだが、そこに1機のメイドロイドがいた。
メイド服を着ているので、すぐに分かる。
規格上は『平賀規格』であろうが、髪型にはバリエーションが持たされており、シンディが見かけたロイドは金髪のロングをツインテールにしていた。
もしすぐ近くにマスターたる人間がいれば見て見ぬふりをするところだが、見当たらなかったので声を掛けてみることにした。
シンディ:「よっ、任務中?」
メイドロイド:「あっ、シンディ様!どうも!今、御主人様がお手洗いに行かれたので、ここで待っている所です」
シンディ:「そうか。ご苦労さん」
メイドロイド:「いえ。私達なんてガラクタ扱いのマルチタイプ様に声を掛けてもらえるなんて光栄です」
シンディ:「そんなことないよ。エミリーはどう思ってるか知らないけど、私は少なくとも今はあなた達を『下等で愚かな機種』とは思っていないよ」
つまり、昔はそう思っていたということ。
メイドロイド:「そうなんですか?」
シンディ:「少なくとも、あなた達のハウスキーパー(※)に私は思い知れされたわ」
※本来は1つの家に複数雇われているメイドのリーダー格のこと。メイド長と言えばこれ。転じて量産されたメイドロイドにとっては、当初の試作機で今も尚稼働しているベテラン機がそう呼ばれて尊敬されている。何機かが該当するが、ここでは七海のこと。
〔17番線に、6時58分発、“はやぶさ”1号、新函館北斗行きと“こまち”1号、秋田行きが17両編成で参ります。……〕
ホームに接近放送が鳴り響く。
メイドロイド:「御主人様が戻られます」
メイドロイドは階段の方を見て言った。
シンディ:「じゃ、私はそっちに戻るわ。悪かったね。任務中に邪魔して」
メイドロイド:「いえ、滅相もございません」
シンディは10号車の方に向かった。
もっとも、10号車の乗車口に並ぶ者はいなかった。
11号車の方を見ると、意外にもアリスと同年代と思しき若い女性がいた。
けして、裕福な老夫婦だけがユーザーではないということだ。
シンディ:(七海の意外な抵抗か……)
列車が眩いヘッドライドを光らせて入線してくる。
その風にシンディの金髪ポニーテールと、スリットの深いロングスカートの裾が靡く。
“東京決戦”の際に平賀を捕捉した前期型のシンディ、手持ちの大型ナイフで平賀を刺殺しようとしたが、力が雲泥の差である七海の抵抗にあった。
もちろんシンディは、すぐに七海の首根っこを掴んで頭からコンクリートの壁に突っ込ませるなどの攻撃をしたが、それでも怯まなかったことを思い出した。
シンディ:(あいつらが束になって抵抗してきたら、さすがの私も手こずるかもしれないね……)
マシンガンで一斉掃射すれば一網打尽にできるかもしれないが、今はそれを取り外されてしまっている。
〔「17番線に到着の電車は、東北新幹線、北海道新幹線直通“はやぶさ”1号、新函館北斗行きと秋田新幹線直通の“こまち”1号、秋田行きでございます。次は、仙台に止まります。……」〕
ドアが開くが、全車両指定席の列車で、ここで下車する旅客などいるわけが無かった。
シンディ:「社長、おはようございます」
敷島:「おっ、シンディか。ちゃんと来たな」
シンディ:「はい。それで、奥様がこれを社長にお渡しするようにと」
シンディは持っていたアルミ製のアタッシュケースを渡した。
敷島:「中身は何だ?」
シンディ:「Rデコイです」
敷島:「ブッ!」
Rデコイとはアリスの開発した爆弾のこと。
手榴弾を改造したもので、起爆スイッチを入れると、特殊な光やアラーム、信号が発せられる。
人工知能の劣るロボットはそれに引き寄せられてしまう。
そして、粗方引き寄せられたところで爆発するというものだ。
バージョン・シリーズや、その他のテロロボットには効果てきめんであった。
恐らく、北海道で遭遇した“黒いロボット”にも効くのではないかと思われる。
シンディ:「奥様が、あの黒いロボットにも効くだろうとのことです」
敷島:「効くかもしれんが、これ……サツに見つかったら一発でタイーホものだぞ。……これはお前が持っててくれ」
シンディ:「分かりました。それじゃ、私は隣の車両に行きますので」
敷島:「そうしてくれ」
シンディが9号車のグリーン車に行ってしまうと、敷島は溜め息をついた。
敷島:(アリスのヤツ……)
確かに今回の北海道行きは、表向きはボーカロイド達の興行である。
しかし実際は、他に目的がある。
ミクの持ち歌に隠された謎。
ミクだけが他のボーカロイド達とは一線を隔す特別な存在である理由。
リン:「あっ、シンディ!おはよう!」
シンディが9号車に行くと、リンがブンブンと手を降った。
シンディ:「相変わらず、元気だね。アタシの席はここでいいの?」
エミリー:「そう、ここ」
エミリーは自分の隣の席を指さした。
通路を挟んで隣の席では、ボーカロイド達が座席を向かい合わせにしている。
と言っても、最近の鏡音姉弟は携帯ゲーム機の方にハマっているようだ。
KAITO:「リン!手伝ってくれ!よそ見してる場合じゃない!協力して尾を切断するぞ!キミが頼りだ!」
リン:「了解!んじゃ、合わせて行くよ!」
シンディ:「KAITOもゲームにハマッたか……」
MEIKO:「そうなのよ。『女性ばかりで落ち着かない』なんて言って、そっち側に行っちゃって……」
シンディ:「イケメンボーカロイドとして女性ファン対応係の言うセリフじゃないよね、それ」
エミリー:「ゲーム内でも信頼関係は厚いということだ」
シンディ:「いいのかなぁ……。あ、プロデューサー、おはようございます」
井辺:「あ、シンディさん。おはようございます。お久しぶりです」
シンディ:「ええ。今じゃ、姉さんがいない時の代役に下がってしまいましたからね」
井辺:「そんなことありませんよ。エミリーさんと同様、あなたも事務所の華でした。また、いつでもお待ちしておりますよ」
シンディ:「ありがとう。でもあまり出しゃばると、姉さんにブッ飛ばされるからなぁ……」
エミリー:「何か言ったか?」
シンディ:「ホラホラ」
井辺:「平和的にお願いしますよ」
列車は徐行区間を過ぎていた為、最高速度を目指して一路北へと突き進む。
シンディが手に荷物を持って、新幹線ホームへの階段を上る。
シンディの荷物は、アリスが敷島に渡せと持たせたものである。
その為、乗車はグランクラスのある10号車から乗る必要があった。
シンディ:「ん?」
“はやぶさ”1号は、その前方に“こまち”1号を併結している。
隣の11号車がそのグリーン車になっているのだが、そこに1機のメイドロイドがいた。
メイド服を着ているので、すぐに分かる。
規格上は『平賀規格』であろうが、髪型にはバリエーションが持たされており、シンディが見かけたロイドは金髪のロングをツインテールにしていた。
もしすぐ近くにマスターたる人間がいれば見て見ぬふりをするところだが、見当たらなかったので声を掛けてみることにした。
シンディ:「よっ、任務中?」
メイドロイド:「あっ、シンディ様!どうも!今、御主人様がお手洗いに行かれたので、ここで待っている所です」
シンディ:「そうか。ご苦労さん」
メイドロイド:「いえ。私達なんてガラクタ扱いのマルチタイプ様に声を掛けてもらえるなんて光栄です」
シンディ:「そんなことないよ。エミリーはどう思ってるか知らないけど、私は少なくとも今はあなた達を『下等で愚かな機種』とは思っていないよ」
つまり、昔はそう思っていたということ。
メイドロイド:「そうなんですか?」
シンディ:「少なくとも、あなた達のハウスキーパー(※)に私は思い知れされたわ」
※本来は1つの家に複数雇われているメイドのリーダー格のこと。メイド長と言えばこれ。転じて量産されたメイドロイドにとっては、当初の試作機で今も尚稼働しているベテラン機がそう呼ばれて尊敬されている。何機かが該当するが、ここでは七海のこと。
〔17番線に、6時58分発、“はやぶさ”1号、新函館北斗行きと“こまち”1号、秋田行きが17両編成で参ります。……〕
ホームに接近放送が鳴り響く。
メイドロイド:「御主人様が戻られます」
メイドロイドは階段の方を見て言った。
シンディ:「じゃ、私はそっちに戻るわ。悪かったね。任務中に邪魔して」
メイドロイド:「いえ、滅相もございません」
シンディは10号車の方に向かった。
もっとも、10号車の乗車口に並ぶ者はいなかった。
11号車の方を見ると、意外にもアリスと同年代と思しき若い女性がいた。
けして、裕福な老夫婦だけがユーザーではないということだ。
シンディ:(七海の意外な抵抗か……)
列車が眩いヘッドライドを光らせて入線してくる。
その風にシンディの金髪ポニーテールと、スリットの深いロングスカートの裾が靡く。
“東京決戦”の際に平賀を捕捉した前期型のシンディ、手持ちの大型ナイフで平賀を刺殺しようとしたが、力が雲泥の差である七海の抵抗にあった。
もちろんシンディは、すぐに七海の首根っこを掴んで頭からコンクリートの壁に突っ込ませるなどの攻撃をしたが、それでも怯まなかったことを思い出した。
シンディ:(あいつらが束になって抵抗してきたら、さすがの私も手こずるかもしれないね……)
マシンガンで一斉掃射すれば一網打尽にできるかもしれないが、今はそれを取り外されてしまっている。
〔「17番線に到着の電車は、東北新幹線、北海道新幹線直通“はやぶさ”1号、新函館北斗行きと秋田新幹線直通の“こまち”1号、秋田行きでございます。次は、仙台に止まります。……」〕
ドアが開くが、全車両指定席の列車で、ここで下車する旅客などいるわけが無かった。
シンディ:「社長、おはようございます」
敷島:「おっ、シンディか。ちゃんと来たな」
シンディ:「はい。それで、奥様がこれを社長にお渡しするようにと」
シンディは持っていたアルミ製のアタッシュケースを渡した。
敷島:「中身は何だ?」
シンディ:「Rデコイです」
敷島:「ブッ!」
Rデコイとはアリスの開発した爆弾のこと。
手榴弾を改造したもので、起爆スイッチを入れると、特殊な光やアラーム、信号が発せられる。
人工知能の劣るロボットはそれに引き寄せられてしまう。
そして、粗方引き寄せられたところで爆発するというものだ。
バージョン・シリーズや、その他のテロロボットには効果てきめんであった。
恐らく、北海道で遭遇した“黒いロボット”にも効くのではないかと思われる。
シンディ:「奥様が、あの黒いロボットにも効くだろうとのことです」
敷島:「効くかもしれんが、これ……サツに見つかったら一発でタイーホものだぞ。……これはお前が持っててくれ」
シンディ:「分かりました。それじゃ、私は隣の車両に行きますので」
敷島:「そうしてくれ」
シンディが9号車のグリーン車に行ってしまうと、敷島は溜め息をついた。
敷島:(アリスのヤツ……)
確かに今回の北海道行きは、表向きはボーカロイド達の興行である。
しかし実際は、他に目的がある。
ミクの持ち歌に隠された謎。
ミクだけが他のボーカロイド達とは一線を隔す特別な存在である理由。
リン:「あっ、シンディ!おはよう!」
シンディが9号車に行くと、リンがブンブンと手を降った。
シンディ:「相変わらず、元気だね。アタシの席はここでいいの?」
エミリー:「そう、ここ」
エミリーは自分の隣の席を指さした。
通路を挟んで隣の席では、ボーカロイド達が座席を向かい合わせにしている。
と言っても、最近の鏡音姉弟は携帯ゲーム機の方にハマっているようだ。
KAITO:「リン!手伝ってくれ!よそ見してる場合じゃない!協力して尾を切断するぞ!キミが頼りだ!」
リン:「了解!んじゃ、合わせて行くよ!」
シンディ:「KAITOもゲームにハマッたか……」
MEIKO:「そうなのよ。『女性ばかりで落ち着かない』なんて言って、そっち側に行っちゃって……」
シンディ:「イケメンボーカロイドとして女性ファン対応係の言うセリフじゃないよね、それ」
エミリー:「ゲーム内でも信頼関係は厚いということだ」
シンディ:「いいのかなぁ……。あ、プロデューサー、おはようございます」
井辺:「あ、シンディさん。おはようございます。お久しぶりです」
シンディ:「ええ。今じゃ、姉さんがいない時の代役に下がってしまいましたからね」
井辺:「そんなことありませんよ。エミリーさんと同様、あなたも事務所の華でした。また、いつでもお待ちしておりますよ」
シンディ:「ありがとう。でもあまり出しゃばると、姉さんにブッ飛ばされるからなぁ……」
エミリー:「何か言ったか?」
シンディ:「ホラホラ」
井辺:「平和的にお願いしますよ」
列車は徐行区間を過ぎていた為、最高速度を目指して一路北へと突き進む。