報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔界の不思議な旅 〜サウスエンド地区(南端村)〜」 3

2016-10-31 19:15:57 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月23日21:00.天候:晴 サウスエンド地区(南端村)・白麗神社]

 稲生:「魔界でも魔女さん達の集会があるんですねぇ……」
 マリア:「そう。だから、勇太が妖狐の所に行ったのは好都合だったわけだ」
 稲生:「分かりました」

 稲生は夕食も御馳走になった後で宛がわれた客間に戻ると、水晶球でマリアと連絡を取った。

 マリア:「いくら魔道師でも、男が参加するのはマズい」
 稲生:「そりゃそうでしょう。威吹が誘ってくれたので、今夜はサウスエンドに泊まります。明日、魔王城に戻りますから」
 マリア:「時間帯によっては、魔王城以外の所で落ち合うことになるかもしれない。明日、サウスエンドを出る時にまた連絡してほしい」
 稲生:「分かりました。イリーナ先生に報告はしなくてもいいですか?」
 マリア:「後で私から言っておく。御多聞に漏れず、師匠は酔い潰れて寝てるから」
 稲生:「ああ、なるほど」
 マリア:「もし妖狐が勇太を食おうとしてきたら、遠慮無く『メーデー』を放ってほしい」
 稲生:「はははっ、威吹は大丈夫ですよ。それじゃ、また明日」

 稲生は水晶球の交信を切った。
 これの他、スマホでもイリーナの水晶球やマリアの屋敷と交信できる。

 坂吹:「失礼します。ユタ様、お風呂の準備ができました」
 稲生:「稲生でいいよ。わざわざお風呂沸かしてくれたんだ。ありがとう」
 坂吹:「いえ……」

 何故か坂吹は不思議そうな顔をした。

 稲生:「お風呂はあっちだったっけ?」
 坂吹:「はい。ご案内します」

 坂吹は稲生の前に立った。

 稲生:「威吹達はもう入ったのかい?」
 坂吹:「いえ、今入っているところです」
 稲生:「えっ?」
 坂吹:「ああ、来客用とは別に湯殿があるんですよ。ここは客間エリアですから」
 稲生:「そうなんだ」

 廊下の突き当りに風呂とトイレがあった。
 脱衣所には洗面台もあるので、ここで朝、顔とか洗えそうである。

 坂吹:「あの……」
 稲生:「何だい?」
 坂吹:「つかぬ事を伺いますが、あなたのことを『ユタ』と呼んだのは威吹先生だけですか?」
 稲生:「もちろんさっきまでキミがそう呼んでいたのと……ああ!あとはキノが呼んでいたな!あとは、高校の同級生にもいたけど、あれは威吹がそう読んでいるのを聞いて、真似しただけだと思うけどね。でも、どうして?」
 坂吹:「……稲生さんはどうして、そう呼ばれたのかご存知無いんですか?」
 稲生:「ええっ?僕の下の名前、勇太を縮めて呼んでただけじゃないの?」
 坂吹:「……すいません。聞かなかったことにしてください」
 稲生:「んん?」
 坂吹:「ごゆっくりどうぞ。お湯が熱かったり温かったりしたら、呼んでください」
 稲生:「う、うん」

 稲生は脱衣所に入った。
 服を脱ぐ前に浴室の中を覗いてみると、黒曜石のように黒光りする黒いタイル張りの浴槽があった。

 稲生:「なるほど」

 湯船の湯加減はちょうど良いものであった。
 熱源が何なのかは不明だが、ちょうど良ければそれで良い。

 稲生:(確か……)

 威吹と初めて会った時、稲生が名前を名乗ったら、『それじゃあ、「ユタ」だな』と言われ、それ以降そう呼ばれていたような気がする。
 特段、威吹からどうしてそのような愛称で呼ぶのかを聞いたことは無かった。
 稲生的には、自分の下の名前を縮めてそう呼んでいるだけかと思っていたのだが……。
 そういえば、キノも何の疑いも無く自然に、稲生をユタと呼んでいた。

 稲生:(妖怪達の間では何か意味のある愛称なのかな?)

 因みに、魔道師達からは愛称で呼ばれたことが無い。
 魔道師の名前はミドルネームも入れると、長い名前になる者も多く、愛称で呼ぶことも多い。
 そういえば稲生やイリーナはマリアと呼んでいるが、本名はマリアンナであり、比較的親しくしているエレーナですらそう呼んでいる。
 このように愛称で呼ぶことも多々ある魔道師達からは、『ユタ』と呼ばれたことはない。

 稲生:(後で聞いてみるか)

 風呂から上がって、坂吹が用意してくれた浴衣に着替え、再び客間に戻ると、坂吹が布団を敷いていた。

 坂吹:「すいません、今寝床の準備をしていますので……」
 稲生:「ええっ?そこまでしてくれなくてもいいのに……」
 坂吹:「いえ。先生からは、稲生さんの身の回りと護衛を任されておりますので」
 稲生:「護衛?でも、今は魔女絡みのトラブルは起きてないからなぁ……」

 威吹が魔法使いの侵入を拒んでいた理由は、偏に稲生が魔女達とのトラブルに巻き込まれたことを警戒していたものであった。
 どうもジルコニア達の一件で、元々偏見のあった威吹が、更に魔女達に対する警戒心を強めてしまったらしい。

 稲生:「まあ、いいや。まだ寝るには早いから、威吹と話はできない?」
 坂吹:「あいにくですが、先生は禰宜様とお過ごしになっておられます」
 稲生:「あっ、そうか。邪魔したら悪いもんね。うーん……それじゃ、眠くなるまでネットサーフィンでもやってるかな。水晶球がWi-Fi代わりに……」
 坂吹:「あの、もし宜しかったら……」
 稲生:「ん?」
 坂吹:「先生と稲生さんの、これまでの活躍ぶりについて聞かせてもらえませんか?」
 稲生:「ええっ?」
 坂吹:「話せば長くなるのは分かってます。稲生さんが眠くなるまででいいんで、教えてください」
 稲生:「えーと……坂吹君はどうして聞きたいの?」
 坂吹:「オレが弟子入りする前、先生に弟子入りしていた妖狐がいたと聞いています」
 稲生:「あれは結局、僕の所の大師匠様の化身だったんだよ。本物の妖狐としては、キミが本当の一番弟子になるよ」
 坂吹:「例え偽者であろうとも、オレだってSクラスの“獲物”を手に入れたいんです。稲生さんも御存知だと思いますが、今、“獲物”自体が不足なのに、Sクラスなんてダイヤモンド並みの価値があるんですよ。あの禰宜様ですら、Aクラス止まりだとされています」
 稲生:「もっと細かいクラス分けにすると、さくらさんはAクラスの中の更にトップクラスのAAA(トリプル・エー)だって話だよ」

 因みにそれと同クラスなのが、キノこと蓬莱山鬼之助が“獲物”とした栗原江蓮である。
 稲生は更にそれの上を行くSクラスであるとのことだ。

 稲生:「僕なんかで良かったのか知らないけど、単なる運命だよ。まあ、いいや。じゃあ、少し話してあげる」
 坂吹:「ありがとうございます。今、お茶をお入れします」
 稲生:「緑茶はカフェインが入ってるから、ほうじ茶でよろしく」
 坂吹:「はい!」

 茶葉を燻すことでカフェインを壊したほうじ茶。
 あえてカフェインが壊されている為、苦味はまろやかになり、胃にも優しい。
 因みにイリーナの見立ててでは、稲生は南光坊天海僧正の生まれ変わりではないかとされている。
 実はこの天海僧正に、妖狐が関わった逸話がある。
 当時、名古屋にいた天海僧正が病気になった際、江戸から医者が向かったが、箱根で大雨に遭い、松明の火が消えてしまった。
 そこへ無数の狐を引き連れた妖狐が現れ、手下の狐達に狐火を灯させ、無事に箱根の峠を越させてあげたという。
 この時の妖狐が誰であったのか、妖狐の里では明らかにしていない。
 また、どうして天海僧正を助けたのかの理由も分かっていない。
 威吹ではないことは確かである。
 彼は当時、青梅街道を縄張りにしていて、箱根には行ったことが無いからだ。
 ただ、稲生と一緒に東京駅から新幹線に乗った際、名古屋止まりの“こだま”号に乗車したら、やたら行き先の名古屋に反応していたし、途中の小田原駅の前後で箱根の方角をやたら気にしていた記憶はある。

 稲生の話を目を輝かせて聞いていた坂吹は、そこでやっと年相応の少年のような顔を見せた。
 で、話が終わる頃には、既に日付が変わっていたのである。
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“大魔道師の弟子” 「魔界の不思議な旅 〜サウスエンド地区(南端村)〜」 2

2016-10-30 21:11:29 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月23日12:30.天候:晴 サウスエンド地区(南端村)・白麗神社]

 稲生の前に立ちはだかる者がいた。
 それは威吹ではないが、見た感じ、妖狐であると分かった。
 緑色の着物に焦げ茶色の袴をはき、日本刀を右手に持っている。
 背丈は稲生と同じくらいで、歳は……もちろん妖怪だから一概には言えないが、実年齢からして稲生より年下のように見えた。

 妖狐?:「お前は魔法使いの類の者か!?」

 魔法使いに物凄く警戒している?

 稲生:「ええ、まあそんなところです。僕は稲生勇太と申します。ここの頭目……」
 妖狐?:「帰れ!魔法使いは誰一人入れるなとの先生のお達しだ!」
 稲生:「先生というのは威吹のことかい?ああ、威吹のヤツ、新しい弟子を入れたんだ」
 妖狐?:「先生を呼び捨てとは馴れ馴れしいヤツ!斬り伏せてや……!」

 ゴッと妖狐の少年の後ろ頭をゲンコツする者がいた。

 威吹:「ちょっと待てや。ユタは特別だ」
 稲生:「威吹!」
 威吹:「いや、悪いね、何だか……。でも言ってくれたら、駅まで迎えに行ったのに」
 稲生:「ゴメン、急に来ちゃって……」
 妖狐?:「せ、先生……?」
 威吹:「この魔法使いは以前に話した、オレの元“獲物”さ。ユタこと、稲生勇太だよ」
 妖狐?:「た、大変失礼致しましたーっ!」

 妖狐らしき少年、稲生に全力土下座。

 稲生:「あ、いや、別にいいから」

 稲生は慌てて手を振った。
 全力土下座されると、却って気を使うものである。

[同日12:40.天候:晴 白麗神社・社務所]

 さくら:「お粗末ではございますが……」
 稲生:「いえ、とんでもない。すいません、お昼時に来ちゃって……」

 威吹とさくらの夫婦が寝泊まりしている建物は、社務所と一緒になっているらしい。
 稲生は昼食を頂いていた。

 稲生:「こいつは坂吹死屍雄。まあ、坂吹と呼んでやってくれ」
 坂吹:「坂吹と申します。先ほどは失礼致しました」
 稲生:「稲生勇太です。まだ魔道師見習いですけど、まだ人間だっていう自覚があるんだよなぁ……」
 威吹:「だけどユタ、会う度に人間の匂いが薄れているよ。本当に残念だ」
 稲生:「本当に、運命って分からないものだね。ああ、そうそう。マリアさんがね、『あの時、助けてくれてありがとう』だって」
 威吹:「あの時?はて……?如何なる時かな?」
 稲生:「ほら、マリアさんが他の魔女に“怨嫉”されて、いざこざになった時さ」
 威吹:「……ああ!別に、礼を言われるほどのものではないさ。キミに頼まれてやったことだ。大したことではない」
 稲生:「これが御礼だって。神道は肉食いいんだっけ?」

 稲生はローブの中から、ゴルフボールくらいのサイズのビー玉のようなものを畳の上に置いた。

 稲生:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!」

 稲生がそのビー玉を指さしながら、ダンテ一門オリジナルの“御題目”を唱える。
 するとそのビー玉が光り輝き、別の物に変化した。
 そして光が消えると、まるで御中元や御歳暮の箱のようなものになる。

 威吹:「これは……肉の匂い」
 稲生:「ああ。人間界で買ってきた和牛の詰め合わせさ。これで良かったら……」
 威吹:「そうか。却って気を使わせてしまったかな。かたじけない。有り難く、頂戴しよう。さくら、これを台所に……」
 さくら:「はい。稲生さん、ありがとうございます」
 稲生:「いいえ……」

 さくらが箱を持って奥の台所に行ってしまった。

 稲生:「さくらさん、少しお腹が大きいように見えたけど……。もしかして……?」
 威吹:「いや、ハハ……ハ……」

 威吹は稲生の指摘を受けて照れ笑い。

 坂吹:「禰宜様は既に先生のお子様を身ごもっておられます」
 威吹:「こ、こら、坂吹……!」
 稲生:「そうだったんだ。おめでとう。だったら尚更、あの牛肉でも食べて、栄養を付けてもらってよ」
 威吹:「うむ。お言葉に甘えるよ」
 稲生:「ところで坂吹君、歳いくつ?」
 坂吹:「15です」
 稲生:「若いな。どうして威吹の弟子になったの?」
 坂吹:「先生のお噂はかねがね聞いておりまして、特にバァル決戦の際の大活躍ぶりは目を見張るものがあったと……」
 威吹:「ボクは大したことはしていなかったような気がするけどな」
 稲生:「イリーナ先生の話じゃ、剣客として目立っていたのは、どちらかというとキノの方だったって言うからね」
 威吹:「あいつは美味しい所を持って行くのが好きなヤツだからなぁ……」
 坂吹:「先生の手柄を横取りするとは、何と言う鬼族……!」

 坂吹はある程度、キノのことについては聞いていたようだ。

 稲生:「何だか、カンジ君に似てるね」
 威吹:「あれにはすっかり騙されてしまったが、今度は大丈夫だ」
 稲生:「妖狐の里から来たの?」
 坂吹:「はい。推薦状も持っています」
 威吹:「里の連中め。調子のいい奴らだ」
 稲生:「それだけ威吹も認めてもらえるようになったということだよ」

[同日17:00.天候:晴 白麗神社境内]

 昼食の後ですっかり積もる話を話し込んでしまった稲生達。
 因みに17時になると、この妖狐2人は本殿の前に立って篠笛と琵琶を弾く。
 威吹は篠笛を吹いていたが、坂吹は琵琶を弾くようである。
 聴いていて心地良く、それを聴きに参拝する村人もいるほどだ。
 尚この習慣は、威吹が人間界にいた頃から行われていた。

 稲生:(曲目変わったな……。何か、“故郷の星が映る海”みたい)

 一転して今度は“ピュアヒューリーズ 〜心の在り処”
 え?どうして威吹達が東方Project知ってるかって?魔界は何でもありなのだw

 さくら:「稲生さん、お夕食は先ほど頂いた御肉を使って牛鍋(すき焼き)にしようかと思うのですが……」
 稲生:「あ、いや、そんなに長居するつもりはないので……。すいません、何かこんな時間まで……」
 さくら:「いえ、いいんですよ」
 威吹:「いいからユタ、この際、泊まっていきなよ。まだ人間界に帰るわけじゃないんだろ?」

 演奏を終えた威吹が稲生の所へやってくる。

 稲生:「まあ、そうなんだけど……。イリーナ先生に聞いてみないと……」

 だがイリーナに聞いてみると、二つ返事で了承された。
 但し、新婚生活中の威吹達の邪魔はしないようにという条件付きで。

 威吹:「坂吹、ユタを客間に案内してくれ。失礼の無いようにな」
 坂吹:「はい、先生」

 坂吹は稲生を社務所の裏手にある建物……寺で言う所の庫裏の部分。
 その中に案内した。

 坂吹:「ボクもここで寝泊まりしているんです」
 稲生:「そうなのか」

 稲生は8畳間の広さがある和室に通された。

 坂吹:「風呂とトイレと洗面所はあっちです」
 稲生:「うん、分かった。ありがとう」
 坂吹:「何か聞きたいこと無いですか?」
 稲生:「うーん……。あ、そうだ。キミは威吹から、『魔法使いを境内に入れるな』って言われてたのかい?」
 坂吹:「そうなんです」
 稲生:「魔法使いが何か迷惑でも掛けたかい?」
 坂吹:「いえ、ボクも詳しくは聞いてないんです」
 稲生:「そうか。じゃあ、後で威吹に聞いてみよう」

 夕食の時間になったら、また坂吹が教えてくれるという。
 それまでの間、稲生は座椅子に座って待つことにした。
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“大魔道師の弟子” 「魔界の不思議な旅 〜サウスエンド地区(南端村)〜」

2016-10-29 21:27:15 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月23日11:45.天候:晴 アルカディアメトロ環状線→サウスエンド駅]

 外観から内装から、走行音に至るまでJR西日本207系そっくりな電車。
 それに揺られて、アルカディアシティの南端部へと向かう。

〔「まもなくサウスエンド、サウスエンド、南端村でございます。リトル・ジャパン下車駅です。お出口は、右側です」〕

 JR東日本では聞けないインバータの音が響いて電車が止まる。
 そしてこれまたJR東日本の車両では聞けない2打点チャイムの音と共にドアが開く。

〔サウスエンド〜、サウスエンド〜。只今到着の電車は、環状線急行、外回りです。ドワーフ・バレー、インフェルノ・タウン、デビル・ピーターズ・バーグ方面へお越しの方は、こちらにご乗車ください〕

 稲生は電車を降りた。
 高架鉄道である環状線は、ほとんどの駅が高架駅である。
 このサウスエンド駅もそうだった。
 但し、南端村自体は城壁の外の丘陵地帯にあり、東京の山手線では大崎駅辺りに位置する駅ではあるが、立地条件的には上野駅に似ている。
 駅の正面入口は基本的に城壁内の方を向いていて、サウスエンド駅もそうなのだが、利用者数的には駅裏の南口の方が賑わっているという。
 稲生は改札口への階段を下りた。
 運賃定額制であるアルカディアメトロでは、改札口の出口はフリーである。
 そのまま、バーを外側に回せば良い。
 運賃定額制ではあるが、1路線に1枚のトークンが必要。
 つまり、ここから同じメトロの路面電車や地下鉄に乗り換えようとする場合、乗り継ぎ割引は無い。
 また新たにトークンを買わなければならない。
 但し、高架鉄道線同士や地下鉄線同士なら改札口を出入りする必要は無いので、トークンは1枚で良い。
 軌道線については路面電車1回乗車につき、1枚のトークンが必要だが、販売機の無い電停から乗る場合は車掌または運賃箱に直接運賃を払うことになる(1両固定編成の場合はワンマン、2両以上や連接編成の場合はツーマン運転)。

 稲生:「すいません」
 駅員:「はい、何でしょう?」

 稲生は先ほどの207系のような電車が気になったので、有人改札口にいる駅員に話し掛けた。
 高架鉄道に配属されている職員は、概ね人間である場合が多い。


 稲生:「さっき僕、新しい電車に乗ったんです。魔界高速電鉄では人間界のお古の電車ばかりを使っていて、オリジナルの車両は無いって聞いたんですけど……」
 駅員:「ええ、そうですよ。新しい電車って、どんなヤツですか?」
 稲生:「JR西日本の207系みたいなヤツって言えば分かりますか?」
 駅員:「それは4両編成に3両編成を繋いだ7両編成ですか?」
 稲生:「そうです」
 駅員:「なるほど。確かに、たまに走ってますね、それ」
 稲生:「魔界高速電鉄で、どうしてそれが?」
 駅員:「あれは冥鉄さんの車両ですよ。お客さんは、鉄道にお詳しいみたいですね」
 稲生:「一応……」
 駅員:「“ホームライナー鴻巣”と“ホームライナー古河”はご存知です?」
 稲生:「はい。高崎線と宇都宮線の、夕方ラッシュ限定の下り列車ですね。今はもう走ってませんけど……」
 駅員:「それでは急行“能登”はご存知ですか?」
 稲生:「はい。昔、乗ったことがあります。今はもう北陸新幹線の延伸で、廃止になってしまいましたけど」
 駅員:「つまり、そういうことですよ」
 稲生:「ど、どういうことなんでしょう?」
 駅員:「急行“能登”の車両は何系ですか?」
 稲生:「えーっと……確か、JR西日本の485系だったか489系だったか……あのボンネットタイプのヤツですね」
 駅員:「“ホームライナー鴻巣”と“ホームライナー古河”の車両は何系ですか?」
 稲生:「そりゃもちろん185系と……ああっ!」

 稲生はそこで気がついた。
 上野〜福井間(2001年より金沢発着に短縮)を運行していた急行“能登”号、どういうわけだか、間合い運用で“ホームライナー鴻巣”と“ホームライナー古河”にも使用されていたことを。

 駅員:「あの207系は、冥鉄さんから乗り入れて来た電車です。間合い運用として、次の運行日まで環状線や中央線を走行しているんですよ」
 稲生:「そうでしたか……」

 これで合点がいった。
 冥界鉄道公社は人間界から見れば、この世とあの世を結ぶ幽霊列車。
 207系電車が幽霊化したものと言えば、あの事故しか無い。

 稲生:「2005年から運用に就いているんですね?」
 駅員:「そんなところです。さすがに新し過ぎるので、お客さんみたいな鉄道ファンの方からは珍しがられているんですよ」
 稲生:「そうですか。じゃあ、次の帰りはあの207系なのか。何だか、味気無いないぁ……」
 駅員:「魔列車の運行でしたら、される時は何本もの列車が設定されることが多いですからね。件の207系だけではないと思いますよ。確か、特急車両も乗り入れていると聞いています。さすがに特急車両を通勤線区で運転させるわけにはいかないので、それはさすがに車両基地で整備中ですが」
 稲生:「なるほど。そうでしたか。ありがとうございます」

 稲生が駅の外に出て再び高架線上を見上げると、今度はJR東日本で改造された205系が見えたのだが、あれも冥鉄からの乗り入れ列車なのだろうか?
 それとも……。

[同日12:15.天候:晴 サウスエンド地区(南端村)郊外・白麗神社]

 稲生は駅前から辻馬車に乗り込んで、威吹とさくらが住む神社に向かった。
 サウスエンド地区(南端村)は日本人街ということもあってか、まるで街並みが日本の住宅街とよく似ていた。
 昭和時代の街並みといった感じ。
 これでオート三輪やボンネットバスでも走っていれば、リアル“三丁目の夕日”だが、魔界には自動車交通が無い為、専らこういった馬車となる。
 南端村は城壁の外に形成された村である為、路面電車も地下鉄も通っていない。
 村は平坦な土地にあるわけではなく、丘陵地帯にある。
 白麗神社は丘陵の1番上にある為、徒歩だと少しキツい部分がある。

 御者:「あの鳥居の前でいいですか?」
 稲生:「あ、はい。お願いします」

 辻馬車は自動車交通の無い魔界においては、タクシーの代わりになる手段である。
 稲生は鳥居の前で馬車を止めてもらうと、料金を払った。
 因みに辻馬車の料金はメーター制ではなく、途上国のタクシーと同じく、交渉制である。
 但し、サウスエンド地区においては、所謂“円タク”のような制度になっており、10ゴッズ(日本円のレートで1000円くらい)定額になっている。

 御者:「ありがとうございました」
 稲生:「どうも」

 稲生は辻馬車を降りると、鳥居の前に立った。

 稲生:「さて、威吹はどこにいるかな?」

 少し肌寒い為、稲生はスーツの上から魔道師のローブを羽織った。
 そして、境内の中に足を踏み入れた。
 と、その時!

 稲生:「!!!」

 メタボ:「次回に続きます!以上!」
 作者:「誰だ、キサマ!?」
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“大魔道師の弟子” ここまで登場した人物について。

2016-10-28 22:59:50 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
 稲生勇太(いのう ゆうた):

 23歳。東京都内にある四年制大学卒業と同時に、ダンテ一門へ入門する。
 この為、他の魔道師達からは『新卒採用者』と呼ばれることがある。
 イリーナの勧誘に乗り、イリーナ組に所属した。
 マリアのことが大好きで、作中での描写はほとんど無いが、本人には想いを伝えたもよう。
 普段は長野県北部の山あいにある村の郊外で、マリアの屋敷に泊まり込み、イリーナから与えられている課題をこなしている。
 趣味は鉄道旅行。
 小柄な体型なので、欧米人の多いダンテ一門の魔女達よりも背が低く、よく見降ろされている。
 例外的にマリアはハンガリー系イギリス人でありながら、稲生よりも小柄である為、そこが惚れた一因かもしれないとのこと。
 ダンテの呪文と並行して御題目を唱えることにより、魔法の詠唱とする。
 伸縮式の魔法の杖を与えられているが、あまり使用することはない。
 また、ローブも与えられているが、普段の私服やスーツの上に着用するには不自然であると理由から、こちらもあまり着用しない。
 いずれも使用に駆られた時のみ使用、着用する。
 当初はマリアの使役する人形達からはヒモ男扱いされていたが、ダニエラが自ら望んで稲生の専属メイドを務めるようになってから、だいぶ屋敷の住人として認められるようになったもよう。
 今では人形形態になってコミカルな動きをする人形達へのツッコミ役までもこなせるようになった。
 かつては臆病な性格であったが、“魔の者”との戦いを経て、少しずつ肝が据わるようになったようである。
 実家は宮城県仙台市東部にあったが、高校入学直前に埼玉県さいたま市に引っ越して来ている。
 日蓮正宗東京第三布教区正証寺所属。謗法ではないものの、ダンテ一門に入門するに当たって脱講願を出したが、何故か脱講願が正証寺に届くことはなかった。御本尊だけが返納された。※作者離檀により、設定が変わる可能性あり。

 マリアンナ・ベルフェ・スカーレット:

 実年齢25歳。但し、魔道師になったのが18歳である為、そこからあまり肉体的には加齢していないと思われる。
 人間時代には凄惨な迫害を受け、心の支えであった唯一の友人も悪魔に騙されて失ったことから、飛び降り自殺を図る。
 地面に激突する直前、弟子を探していたイリーナに魔法で救出される。
 そこでイリーナが何もしなければ確実に死んでいたわけだから、そこで人間としての人生は終え、魔道師としての人生をスタートさせる。
 つまり、それはイリーナのマリアに対する弟子入りの儀式であった。
 魔道師見習い時代は、人間時代に受けた凄惨な暴行による後遺症との戦いであった。
 何度も受けた性的暴行により父親不明の双子を妊娠しており、イリーナはこれを堕胎させることで、マリアに悪魔ベルフェゴールとの再契約をさせた。
 体の傷痕が治っていない間に魔道師になった為、未だに全身には暴行の痕が残っている。
 これはイリーナの魔法でも消せない。
 稲生が温泉に連れて行くことで傷痕を癒そうとしているが、実際はただの気休めに過ぎない。
 もっとも、マリアにとってはその気遣いが嬉しい限りである。
 稲生から想いを伝えられたことは受け止めているが、何分、精神的な後遺症が残っているということもあり、積極的になれないのがもどかしいところ。
 当初は白と青のロングスカートと一体になったワンピースを着ていたが、今では稲生の出身高校・東京中央学園上野高校の制服をモチーフにした服を着ていることが多い(緑色のブレザー、グレーのプリーツスカート、えんじ色のリボン、冬は白のブラウス、夏は薄緑色のブラウス)。
 いつの頃からそうしているのかは不明だが、ハイスクール時代に凄惨な迫害を受けたということもあり、そこを楽しく過ごしていた稲生にあやかったのかもしれない。
 魔道師としての階級はロー・マスター。
 一人前になったばかりであり、まだ弟子を取る資格は与えられていない。
 金色のストレートボブで、頭にはよくカチューシャを着けており、稲生からもプレゼントされている。
 瞳の色はブルー。
 フランス人形作りを趣味としており、作った後は魔法による魂を入れてメイド人形として屋敷内で使役している。
 特にミカエラとクラリスは戦闘力にも長けており、当初はサーベルやスピアなどを使用していたが、マリアの魔法力上昇に伴い、マシンガンやショットガンなどの銃火器にバージョンアップした。
 横田の下着透視能力によると、「女子高生向けのティーンズものをよく着用していらっしゃる」とのこと。

 イリーナ・レヴィア・ブリジッド:

 齢1000年以上の大魔道師(グランドマスター)。
 出身は今のロシア国内であるが、主に東部の方であるという。
 但し、魔道師が使用できる肉体はおよそ200〜300年ほどである為、少なくとも3回以上は肉体を交換して今に至っていることになる。
 魔道師になり立ての頃、人間だった頃は今とは全く違う姿をしていた。
 マリアとエレーナを足して2で割ったような姿だったということから、金髪碧眼もしくは緑眼であったと思われる。
 現在の姿は赤毛のセミロングに黒い瞳、身長177cmという長身である(が、ダンテ一門の魔女達は身長170cm超えがほとんどであるため、その中でも高身長な方ではあるが、ズバ抜けたほどというわけでもない)。
 ダンテ一門の中では最も緩やかな修行法・指導法を行う。
 本人も基本的にはのんびりとした性格で普段は目を細めているので、とても優しい雰囲気を放ってはいる。
 だが、往々にして天然ボケをすることもあり、そこは弟子のマリアによく突っ込まれている。
 今使用中の肉体年齢の使用期限が、あと20〜30年ほどで切れるらしいが、今の体をとても気に入っている為に、ギリギリまで使うつもりでいるという。
 だがさすがにムリが出始めているのか、よく眠ったり、寝起きが悪かったりする。
 1000年以上も生きている為、多少の事では動じない(『涙なんてとうの昔に枯れ果てている』とのこと)。
 魔法の力を止めるとたちまちに老婆の姿になり、ポーリンなどは普段は魔法力の節約の為に老婆の姿をしているのだが、イリーナは頑なに若返りの魔法を常に使い続けている。
 が、それでも使用期限が迫っている為か、30代までが限度のようである。
 人間時代は奴隷であり、明日への希望などは無かった。
 弟子を探していたダンテに持ち前の魔法力を見込まれ、奴隷商人から破格の金で買われる。
 途中で魔道師の修行を投げ出し、逃げ出したことはダンテ一門の中でも黒歴史として刻まれている。
 その為、他のグランドマスタークラスの大魔道師からはイリーナを軽蔑している者が多い。
 それでも戻って来て再び修行を開始し、1番最後にグランドマスターとなったわけであるが。
 グランドマスターともなれば、弟子の1人や2人は抱えて当たり前という風潮がある中(アナスタシアは最多の10人以上を抱えている)、それでもイリーナは弟子を取ろうとしなかった。
 これにはさすがのダンテも強く注意し、やっと重い腰を上げた。
 イギリスを探そうとしたのも、魔法使いの存在に寛容な国だから、すぐ見つかるだろうという安易な考え。
 しかし安易にも、マリアという候補者を見つけることができた。
 そして、イリーナなりの弟子入りの儀式をマリアに行って、晴れてマリアを弟子にすることができた。
 未だに“魔の者”に狙われているマリアを匿うべく、東の果ての辺境の国、つまり日本に移住させた。
 日本もまた魔女狩りの歴史の無い国である為。
 そこにやってきた稲生を見つけ、ややもするとマリアよりも強い魔法力が期待できることに、大きく胸を躍らされた。
 ダンテ一門の魔道師に日本人という前例は無かったものの、結果的には弟子入りさせることに成功し、ようやくダンテもイリーナを再評価したという。
 ゆくゆくはこの弟子2人が結ばれて、後継者になってくれることを望んでいる。
 そして、自分は新たにまた体を手に入れて、生き延びることは考えていないらしい。
 
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“大魔道師の弟子” 「魔界の不思議な旅 〜アルカディアメトロ(魔界高速電鉄)〜」 3

2016-10-27 19:09:39 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月23日11:10.天候:晴 アルカディアメトロ1番街駅・高架鉄道線乗り場]

 サウスエンド駅に向かうべく、メトロ高架鉄道線乗り場にやってきた稲生。
 ここからは冥界鉄道公社の列車も発着しており、その情報を得ようともしていた。
 そんな稲生に声を掛ける1人の女性がいた。
 振り向くと、そこにいたのは……。

 サーシャ:「よっ!」
 稲生:「サーシャ!」

 以前、“魔の者”に稲生自身が狙われて魔界に引きずり込まれたことがある。
 その時、保護してアルカディアシティまで同行してくれた女戦士がいた。
 本名はアレクサンドラというが、本人は愛称のサーシャで呼んで欲しいという。

 サーシャ:「どうしたんだい?また魔界に引きずり込まれたのかい?」

 サーシャはビキニアーマーを着用していた。
 確か、行方不明になった重戦士のエリックと再会し、結婚したというが、まだ戦いから身を退いていないのだろうか。

 稲生:「違うよ。今回は魔王城に呼ばれたんだ。で、その用も終わったから、知り合いに会いに行こうと思ってね」
 サーシャ:「さすが魔法使いさんは顔が広いねぇ。どこまで行くの?」
 稲生:「サウスエンド。まあ、南端村だね」
 サーシャ:「なるほど。確かに、稲生と同じ国から来た人間達が多く住んでるっていうね」

 共民内戦の際、魔界民主党軍によって魔王城に捕われたルーシーを救うべく、一時的に魔界共和党軍の拠点となったのも南端村である。
 民主党は魔界をも第2の人間界にするべく、南端村においても厚遇政策を約束していたが、村の住民達はあえて民主党ではなく、共和党を支持することにした。
 民主党の謳う共産主義に対し、諸手を挙げて喜べなかったからである。
 人間界では政党同士の一騎打ちなど、選挙活動で行われるが、魔界では中国と同じく、戦争によって決められた。
 共和党軍はメトロの高架線や地下鉄線を使って、魔王城へ攻め込んでいる(メトロは全面運休していたが、外部政党の圧力を受けない魔界高速電鉄は民主党軍の鉄道封鎖を認めなかった)。

 稲生:「サーシャはどこに住んでるの?」
 サーシャ:「デビル・ピーターズ・バーグの郊外さ。あそこ、まだ森とかあるだろう?エルフの棲む森もあるくらいだし……。あそこの土地が安く手に入ったんで、エリックに家を建ててもらって、そこで2人暮らしさ」
 稲生:「なるほど。新婚生活だね」
 サーシャ:「エヘヘヘ……」
 稲生:「エリックさんは?2人一緒じゃないの?」
 サーシャ:「ああ。エリックは今、デビル・ピーターズ・バーグの保安隊(保安官の部隊)にいてね、今日は仕事なんだ。傭兵時代に稼げる時は稼げるというわけじゃないから、夫婦共働きさ」
 稲生:「サーシャも何か仕事してるの?」
 サーシャ:「保安隊の手伝いだよ。夫婦で同じ部署にいるわけにはいかないから、私は非正規部隊さ」

 要するに、岡っ引きみたいな仕事ということだ。
 保安隊は魔王軍国家憲兵隊から分隊された組織で、それまでは警察業務も軍隊でやっていたのだが、政権の安定に伴い、国内の治安維持にそこまで勢力を裂く必要が無くなった為、新たに作られた。
 保安隊に所属する隊員を保安官と呼ぶ。

 稲生:「傭兵時代のツテを生かして、情報収集の役目か。それで、まだその恰好なんだね」

 もっとも、サーシャの着ているアーマーは、アニメやゲームのそれほど露出の高いものではない。
 スポーツブラやビキニショーツの上に胸当てや股当てを着けるなど、比較的現実的なものとなっている(二次元の世界では素肌の上から直接、胸当てなどを着けているような絵柄もある)。

 サーシャ:「ま、そんな所だね。イノーはイノーで、あの姉弟子さんとは仲良くやってるのかい?」

 イリーナ並みに背の高いサーシャ。
 小柄な稲生を上から覗き込むようにして聞いて来た。

 稲生:「お、おかげさまで……」
 サーシャ:「ははっ、そうか。立ち話はこのくらいにして、もし何だったら、うちに遊びに来なよ。何も無いけど、エリックも改めて礼を言いたいみたいだしさ」
 稲生:「うん。先生にも言っておく」

 稲生はサーシャと別れて、高架鉄道線の改札口から中に入った。
 そして、環状線のホームに向かった。

〔まもなく6番線に、電車が参ります。危ないですから、白線の内側までお下がりください〕

 かつては“霧の都”と称されたアルカディアシティ。
 だがルーシー王権が安定していく度に霧は薄れ、今では薄いもやが掛かる程度になっている。
 ここでもホームの発車票にはパタパタが使われており、それによると今度の電車は各駅停車だが、次の電車は急行が来るらしい。
 だから稲生は、各駅停車を見送ることにした。
 環状線ホームから見える中央線ホームには、焦げ茶色のモハ40系電車が停車しているのが見えた。
 そして、稲生がいるホームにやってきた電車は山手線のように薄緑色に塗られたモハ72系。

 稲生:「これもいいなぁ……」

 環状線もまた、地下鉄線と同じく6両編成くらいで運転されることが多い。
 高架鉄道線は地下鉄線と違って車掌が乗務しており、ワンマンで運転されることはない。
 乗務員も地下鉄は魔族が多いのに対し、高架鉄道は人間が務めることが多い。
 地下よりも明るいので、人間はよく高架鉄道を使うことが多いという。
 え?チョウセンヒトモドキはどっちを使うのかって?そもそも魔界に棲息していないのでご安心を。

 モハ72系が出発した。
 反対側の内回り線には、東武鉄道の5000系電車がやってくる。

 稲生:「どっちも釣り掛け駆動がいいねぇ……」

〔まもなく6番線に、電車が参ります。危ないですから、白線の内側までお下がりください〕

 稲生:「おっ、来た来た。えー……」

 稲生、やってきた急行電車を見て固まる。

 稲生:「え?これって……」

 どう見てもJR西日本207系にしか見えなかった。
 それも、水色のラインが入った旧塗装。

 稲生:「え?何でこんな最新型があるの?しかも7両編成だし」

〔「6番線から、環状線外回り、急行電車が発車します。ご注意ください」〕

 稲生:「あっ!の、乗ります!」

 稲生が急いで乗り込むと、2打点チャイムを鳴らしてドアが閉まった。
 そしてJR西日本ならではの、聞いていて眠くなるようなVVVFインバータの音が鳴り響いた。

〔「ご乗車ありがとうございます。環状線外回り、急行電車です。次は21番街、21番街です」〕

 稲生:「何で、こんな新型電車が魔界高速電鉄で走ってるんだろう……?」

 稲生は何度も首を傾げた。
 しかし、電車内の乗客達は誰も稲生の疑問に答えようとする者はいなかったのである。
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