報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 探偵とバイオハザード編について

2016-06-30 23:09:08 | 私立探偵 愛原学シリーズ
 愛原学と高橋正義のコンビが、とある日本の地方都市を舞台にした“バイオハザード”?に巻き込まれた話、ついに第2章に入りました。
 ここまでで、そもそも某県の霧生市という所はどんな所かを御紹介したいと思います。
 名前の読みはきりゅう市です。
 同じ読みの町が群馬県にありますが、そちらの桐生市とは全く関係ありません。
 位置関係について、愛原達はヒントを言っています。
 彼らは東京からの高速バスで、この町に来たそうです。
 東京から高速バスで来られる所ということで、まず北海道と沖縄は除外されました。
 また、九州地方の福岡県より南も無くなりました。
 離島でもなくなったわけですね。
 それに、霧生市の立地条件について、既に明かされているものは、
『県自体がそもそも内陸部にあって、霧生市もまた四方八方を山に囲まれている』
 ということです。
 町と外界を結ぶ交通機関は、高規格の県道のみです。
 どんな地方都市でも国道の1本は通っていると思われますが、国道については何の言及もされていません。
 高規格の……つまり、国道に匹敵する規格の県道があるだけ。
 愛原達の乗ってきた高速バスも、この県道を通ったのでしょう。
 さすがにその県道は、国道や高速道路とは繋がっているでしょうが……。

 鉄道はJRが通っておらず、霧生電鉄という名の私鉄が町の東西を走っているだけ。
 それも、市中心部が起点ではなく、山の東西を結ぶという変わった私鉄です。
 電車は2両編成の電車が20分おきに行ったり来たり……。
 朝夕のラッシュ時には4両編成となって、もう少し本数も増えるとのことですが……。
 原案の方に警察署または市役所、そして市民病院(総合病院)をステージ候補として挙げていましたが、それはボツとさせて頂きました。
 それらは町の中心部にあり、“バイオハザード”シリーズの主人公を張れる猛者達はその中を戦い抜けるのでしょうが、非力な一般人である愛原達がいつまでもそこに留まることはしないだろうと思ったからです。
 元々、ゾンビに囲まれて窮地に陥った愛原達を警察官(高木巡査長)が助けるという案があった為、そこまでまず市役所ステージは無くなりました。
 市役所の市長室で、市長の口から驚くべきことが語られる……というのは安直だろうと思いました。
 一刻も早く町から脱出したい愛原達が、のんきに市長と話をしている場合ではないと思ったからです。
 また、警察署ステージについても、警察官としては、助けた一般人を警察署よりも病院へ送り届ける方が自然だろうと思いました。
 病院ステージをボツにしたのは、病院で真相が明らかになりそうになった為、まだ第2章の時点で真相を知るには早いと思い、全焼させました。

 そういうわけで予定しているのは、第2章を霧生電鉄霞台団地駅、第3章を大山寺という名の大寺院としています。
 え?大山寺は何宗かって?【お察しください】。ま、まあ……やっぱり、法華系でしょうなぁ……。

 霧生市の町の規模は愛原曰く、「そこそこ大きい」ということですが、まあ、町を東西に走る霧生電鉄の輸送密度を見れば、そんなに都会ではないことがお分かり頂けるかと。
 霧生電鉄にモデルは殆ど無い、オリジナルのネタですが、仙台市地下鉄東西線や北神急行電鉄、野岩鉄道会津鬼怒川線は意識しました。
 長い山岳トンネルがある、山岳トンネルの中に駅がある、高架線を走っていたと思ったら急に山岳トンネルに入ってトンネル内の駅に到着するという共通点です。
 さてさて、愛原達は山岳トンネル駅で何と遭遇するのでしょうか?
 この第2章では、少なくとも、町に何が起こったのかは取りあえず分かるような流れで書いていきたいと思います。
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“私立探偵 愛原学” 第2章 「異界」 1

2016-06-29 19:42:02 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月25日00:30.天候:曇 ◯×県霧生市霞台・霞台団地交番]

 私と高橋はパトカーの目的地だった霞台団地交番に向かった。
 さっき巡査部長が「右だ!」と言った道を行ってみる。
 交差点の看板にも、『←霞台団地交番』とある。
 また、『←霞台団地駅』ともあった。
 途中の道にもゾンビはいたものの、ニュータウンということもあってか道は広く、奴らに掴まれることなく交番に向かうことができた。
 交番の前はさぞかし大惨事なのだろうと思ったが、意外にもそうではなかった。
 正確に言えば、大惨事『だった』のだろう。
 交番の周りには無数の倒されたゾンビの死体が転がっており、それに無数のカラスが食らい付いている。
 幸い、まだそのカラス達は凶暴化していないのか、私達が近づいても襲っては来なかった。
 その中に、警察官の死体もあった。
 恐らく、同士討ちだったのだろう。
 何丁も銃は持っていけないので、取りあえず弾だけ頂戴していくことにした。
 交番も荒れており、窓ガラスが所々割れている。
 中に入ってみると、3人ほどのゾンビが血だまりを作って死んでいた。
 その中に、警察官もいた。
 こちらは銃弾を持っておらず、この3人のゾンビを倒したところで弾切れをしたらしい。
「先生、どうしましょう?」
「何か、重要な手掛かりは無いかな?」
「探してみます」
「頼む」
 ロッカーを開けるとショットガンやハンドガンが入っていた。
 中には腰のベルトに括り付けるタイプの弾薬ケースがあり、持ち切れない弾薬はこれに入れれば持って行けそうだった。
 別のロッカーには、救急スプレーや止血剤などの医療セットもあった。
 使う間も無く、ゾンビにやられてしまったのだろう。
 ロッカーには、『班長の許可無く、使用を禁ずる』と書かれていた。
 だが、その下には血文字のような字体で、『班長は死んだよ!!!!』とも書かれている。
 もしかして、このゾンビの下敷きになっている警察官が班長だろうか。
「申し訳ありません。使わせて頂きます」
 私は班長らしき警察官の死体に手を合わせて、弾薬と救急スプレーを取り出した。
「高橋君、キミもケガしてるだろ?これを使え!」
「先生、ありがとうございます」
 私達は救急スプレーなどを使い、取りあえずここまでで受けた傷を手当した。
「先生」
「何だ?」
「とんでもない縁起の悪い事、言っていいですか?」
「……あまりに下らない、フザけ過ぎることを言ったらぶん殴るぞ?」
「分かりました。俺もゾンビが町を徘徊する映画を観たことがあります。先生も観たことありますよね?」
「ああ。それと状況がよく似ていると言いたいんだろう?」
「それだけじゃないです。その……ゾンビに噛まれたヤツは……自分もゾンビとなって、他の生存者を襲うというヤツです」
「そうか。俺達も、ゾンビからカプッとやられたり、引っ掛かられたりしたな?」
「も、もしかして、俺達も……」
「さっき高木巡査長が、体が痒くなったり、熱が出たりしたら言えと言っていたが、それがゾンビ化の予兆だな。俺は今のところ大丈夫だが、高橋君は?」
「俺も今のところは……。ただ、いつそうなるか、とても不安です」
「病院に行けば、何らかの治療法があるかもと言っていたが、あの状況じゃな……。だが、いつまでもここにいるわけにはいかない。もしかしたら、実はちゃんとした名前のある病気で、実は治療法があるのかもしれない」
「そうですか?」
「東京のでっかい病院にでも行けば、何とかなるんじゃないか?」
「何とかなりますかね?」
「そう信じて前に進むしかないさ!幸い、今のところ、ちょっとケガしただけで、それはちゃんと手当てできたし、症状は出ていない。町の外に出て……東京に戻れば、何とかなる!」
「分かりました!」
「その前に情報収集だ。ついさっきまでちゃんとお巡りさん達がいたってことは、最新情報が入っているかもしれない」
「それなら先生、このファックスを」
「ん?」
 交番の中にある複合機。
 そこに1通のファックスが届いていた。
 それはもちろん、この町に起きている謎の大災害のことについてであったが、そこに希望の光が書かれていた。
 要点をまとめると、こうだ。
 この霞台団地から、もっと山の中に入った所に、大山寺というお寺がある。
 その境内の裏手にはヘリポートがあり、ここに県警や自衛隊のヘリコプターを定期的に離着陸させるので、住民をそこに避難させよという内容であった。
 町中や団地内はゾンビがいっぱいだが、まさか山寺の、またその裏手にまでゾンビがいるとは思えない。
 つまり、ヘリが離着陸できる安全は確保されているはずだと。
「これは……!」
「先生、あとこれを!」
 それは交番の中にある団地内の地図。
 地図の左側が西であるのだが、そこに『至大山寺』という文字が見受けられた。
「どうします、先生?」
「もちろん、行くさ!」
「道路と電車と、どっちで行きます?」
「こんな状況で電車が走ってるわけないだろ!……待てよ。普通に道路を行こうとすると、やっぱりゾンビと遭遇するかもしれないな。だったら、線路の上を歩いて行けばいいかもしれない。どうせ電車なんか走ってるわけ無いしな」
「そうと決まったら、駅に行きましょう」
「よし!」
 私達は交番の外に出た。
「アァア……!」
「ウウウ……!」
 私達を追ってきたゾンビ達が迫って来ていた。
 やはり、のんびりはできなかったか。
「高橋君、目の前のゾンビだけ倒せ!弾が持たんぞ!」
「分かってます!」
 私達は駅の方向に向かった。
 そちらからやってくるゾンビだけを倒し、駅に向かった。

 霞台団地駅はちょっと変わった構造をしている。
 駅前ロータリーや駅舎は、地方にあるごく普通の平屋の駅舎である。
 だがその駅舎の両側を見ても、線路は無かった。
 駅の平屋部分にキップ売り場と改札口があり、そこを抜けると地下へと続く階段やエスカレーターがある地下駅なのである。
 これはこの辺りが台地になっており、更に線路が山の奥へと繋がっているため、まるで地下鉄のようなトンネル構造にしなければならなかったのだろう。
 で、私達は駅構内にすんなり入ることはできなかった。
「こ、これは……!」
 入口のシャッターは固く閉ざされていた。
 ところが、そこに路線バスが突っ込んでいる。
 頭の先は、シャッターの向こう側にあるようだ。
 バスは首都圏では見られなくなったツーステップバスで、ドアが真ん中ではなく、更に後ろに付いているタイプだった。

 
(こんな感じのバス。ちょっと分かりにくいが、後部ドアが真ん中ではなく、後ろ寄りに付いている)

「確かこれは……」
 非常時の為に、こういうバスの自動ドアも外側から手動で開けられるようになっている。
 私は固く閉ざされた後部ドアを手動で開けると、バスに乗り込んだ。
「アア……!」
「オォオ……!」
「くそっ!こんな所にもいやがって!」
 バスの中には乗客と思しき、男女のゾンビがいた。
 さすがに狭い車内ではすり抜けることができない上、前扉も閉まっているので、倒す他無かった。
 ゾンビを倒した私達は、バスの前に向かった。
 運転席では、運転手がフロントガラスに上半身を突っ込ませた状態で死んでいた。
 折り戸タイプの前扉は、その横の非常コックを開いて手動で開けた。

 こうして私達は、駅の中に入ることができた。
 ここでは果たして、何が待ち受けているのか……。
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“私立探偵 愛原学” 第2章 「異界」 プロローグ

2016-06-29 15:19:26 | 私立探偵 愛原学シリーズ
 ※第1章「発生」の目的は迫り来るゾンビの群れから脱出することであり、パトカーでそれを成功したと見なして完了です。

 第2章の舞台について。

 霧生電気鉄道:

 霧生市内を東西に走る私鉄。
 地方私鉄にしては珍しく、市中心部を境に東西方向の郊外に向かって線路が伸びている。
 四方八方を山に囲まれている町の為、東西の終点付近は丘陵地帯の高架線になっている。
 2両編成の電車が20分に1本の割合で運行されているが、朝夕のラッシュ時にはそれを2台繋いだ4両編成で運行されていた。
 車両はJR東日本E127系または701系に酷似している。
 かつては他の地方私鉄と同じく、首都圏大手私鉄のお古を使用していた。
 どこにそんな金があるのか、自社発注の車両を今は使用している。
 2両編成の場合はワンマン運転を行っており、4両編成の場合はツーマン運転であった。
 無人駅は少なく、どちらかというと“都市型ワンマン”が行われていたもよう。
 車両は1000系という形式番号が振られている。
 E127系や701系に酷似はしているが、前者はトイレが付いているものの、霧生電鉄1000系には無い。
 駅が無人の場合に備えて、運賃箱や整理券発行機は付いている。
 愛原達が向かう西の終点駅手前には、この鉄道会社の裏の資金源が隠されている。

 舞台となる駅について:

 駅名は『霞台団地』。
 名前の通り、台地に形成された団地の中に位置する駅。
 ここから電車は山の方向に向かって進む為、まるで地下鉄のようにトンネル内を進む。
 駅も地下にある(電車としてはそれまで高架線で走ってきたのが、トンネルに入って、駅があるという感じ)。
 停電はしていないものの、高架線に出る方のトンネルの出入口は崩壊している。
 ホームは2面2線の対向式。
 東方面(市街地を通って、反対側の山に向かう方)のホームには、2両編成を2台繋いだ4両編成の電車が中途半端な位置で止まっている。
 電車は先頭車部分が、トンネル崩壊部分に突っ込むような形で止まっている。
 目的は無事な後ろ2両を切り離し、その電車で西の終点駅に向かうこと。
 トンネルの中の駅である為、人間のゾンビ以外にもトンネルの中だからこそのクリーチャーも存在する。
 前回のステージのボスは実質的に、クリムゾンヘッドであったが、こちらのボスは別のクリーチャーとなる。
 クリア必須の条件として、駅構内に隠れている鉄道職員を救出しなければならない(当然愛原達は連結器の外し方、電車の運転の仕方を知らない為)。

 何故、愛原達はそんな所に行ったのか?
 それをこれからお送りしよう。

[6月24日23:15.天候:曇 ◯×県霧生市・霧生市民病院付近]

 私と高橋は、何とかゾンビ達の群れから逃げ出すことができた。
 だが、一応念の為ということで、病院で検査・治療を受けることにした。
 私達を乗せたパトカーは、封鎖区画を迂回しながら向かったものの……。
「何たるちゃあ……!」
 病院は大火災に見舞われ、その周辺をゾンビ達が闊歩(というか徘徊)していた。
「先生。どうやら、ゾンビ達が放火したようです」
 と、高橋。
「そのようだな」
「アァア……!」
「ウゥウ……!」
 ゾンビ達が私達の存在に気づいて、足を引きずったり、千鳥足状態ながら向かってきた。
「中川!離脱しろ!」
「は、はい……!」
 助手席に座る巡査部長は、運転席の中川巡査に命令した。
 パトカーは急いで、病院の敷地内をあとにした。
「どうしますか!?」
 同行している警視庁の高木巡査長が巡査部長に聞いた。
「今、無線を行う!中川、取りあえず街からは離れるんだ!この分では、本署も危険だ!」
「は、はい」
 巡査部長は無線を持った。
「あー、こちら◯◯。どこか、無線を取れる局はあるか?」
 まさか、警察も全滅したというのか?
 さっきから警察無線は入ってこないし、巡査部長の呼び掛けにも応答しない。
 だが!

〔「……こちら、霞台団地PB」〕

「おおっ!?まだ無事なPBがあったぞ!」
 PBとは交番のことである。
「霞台団地?聞いたことあるな……?」
 私が首を傾げていると、高木巡査長が、
「町の西の方の郊外にある、ニュータウンです」
 と、教えてくれた。
 更に高橋が、
「先生。あのクライアントさんの家の住所、霧生市霞台13丁目ですよ」
「あっ、そうか!行きは東京からの高速バスで、バスターミナルから迎えが来てくれたから、すっかり忘れてたよ」
 ポンと手を叩く私。
「先生、でも資料やら何やらはホテルの中では?」
「一応、大事な資料についてはUSBメモリーの中に入れてある」
 私はポケットの中からUSBメモリーを出した。
「おおっ!さすが先生!」
「わはは!天才と呼びなさい!」
「高木巡査長」
「何ですか?」
 巡査部長が高木巡査長を呼んだ。
「霞台交番はまだ無事のようだが、やはり向こうもゾンビだか暴徒だか分からん連中が跋扈していて、危険な状態らしい。応援を呼んでいる」
「分かりました。幸いここには武器も弾薬もありますし、私達3人で何とかしましょう」
「巡査長、私達も手伝いますよ」
「いえ。あなた達は一般人です。ここは警察にお任せください」
「何とかして交番に向かうので、着いたらあなた達は交番の中に隠れててください。あとは私ら警察で何とか暴徒達を鎮圧しますので、安心してください」
 大丈夫かな、と私は思った。

 パトカーが霞台団地に到着する。
 だが、きれいに造成された宅地であったが、あちこちの家から火災が起きていた。
 で、やはり、ゾンビが跋扈している。
 団地から脱出しようとしていたのか、団地の入口にある大きな看板に、霧生電鉄バスが激突事故を起こしていた。
 車内からは、ゾンビ化した乗客達が呻き声を上げて、こちらを見ている。
 『霞33 市役所前経由 中央バスターミナル』と、今や珍しい幕式の行き先表示が目についた。
 避難バスではなく、元々通常運行していたバスだったのか。
「確か、霞台交番は霞台団地駅のすぐ近くだったな。……となると、そこを右だな」
 巡査部長が中川巡査に指示を出す。
 だが、中川巡査はスピードを落とさず、交差点を直進した。
「おい、何やってんだ?右だぞ!……中川!?」
 中川巡査はハンドルを握ったまま、俯いていた。
「おい、寝るな!起きろ!」
 巡査部長が中川巡査の肩を強く叩いたり、揺さぶったりする。
「……ウウ……」
「!?」
 中川巡査が顔を上げると、それはゾンビであった!
「ウアアアア!」
 そして、隣の巡査部長に襲い掛かる。
「バカ、よせ!やめろ!放せっ!」
「くっ!」
 高木巡査長はシートベルトを外し、ハンドガンに弾を込めて中川巡査の頭に銃口に向けた。
「うああああっ!!」
 血しぶきを上げる巡査部長。
 しかも!
「巡査長、危ない!」
 中川巡査がゾンビ化したことで、パトカーが暴走状態に陥った。
 パトカーはそのまま速度を落とさず、ガソリンスタンドに突っ込んだ。

「うう……た、高橋君、無事か……?」
「ええ……何とか……」
 ワンボックスパトカーの1番後ろに座っていた私と高橋は無事だった。
 シートベルトを締めて、事故の瞬間、頭を低くしていたことが幸いだったようだ。
 ということは……。
「巡査長……」
 前にいた警察官3人は死亡していた。
 運転席の中川巡査と巡査部長、それにシートベルトを外していた高木巡査長はフロントガラスに突っ込んで……。
「! 先生!早く逃げましょう!」
「なに!?」
「ここはガソリンスタンドです!しかも、油臭い!」
「あっ!」
 悲しんでいる暇は無い。
 幸い、ハッチの損傷はそんなに激しくない。
 高橋が内側からハッチを開けた。
 さすがに歪んでいたが、すんなりは開けられなかったものの、私も手伝って何とかこじ開けることに成功した。
「先生、これを持って!」
「なにっ!?」
 高橋は私に、車内にあったショットガンとその弾を渡した。
「サツが全員死ぬ状態で、丸腰は危険ですから!」
「た、確かに!」
 高橋はハンドガンとその弾薬を持ち出した。
「キミはショットガンはいいのか!?」
「俺は2丁持ちの方がいいんです!」
 よく見ると、高橋はハンドガンをもう1つ持っていた。
 パトカーの外に出ると、騒ぎを聞きつけたゾンビ達がこちらに向かっていた。
「高橋君、撃つなよ!引火する!」
「分かってますよ!どけや、コラぁっ!!」
 高橋はハイキックで目の前に現れたゾンビを蹴り飛ばした。
「多分、絶望的だと思うが、交番に向かってみよう!」
「はい!」
 私達は急いでガソリンスタンドから離れた。
 そして、ついにパトカーから火の手が上がる。
 漏れた燃料に引火したのだ。
 パトカーは給油機をなぎ倒して、事務所に突っ込んだ形である。
 ということは、給油機からダダ漏れしているガソリンにも燃え移るというわけだから……。

「たーまやーっ!!」
「不謹慎なこと言うなっ!」
 ガソリンスタンドが大爆発を起こした。
 それを花火に見立てた高橋が叫ぶが、さすがに私はそれを叱り付けた。
 私達を助けてくれた警察官達が黒焦げになってしまった。
「アアア!」
「ウォォッ!!」
 そしてガソリンスタンドやその周辺にいた、住民のゾンビ達も巻き込まれていた。
 直接爆発に巻き込まれた者は言わずもがな。
 そうでない者も、火だるまになっていた。
「すいませんでした、先生。どうやら、ここは本当に地獄のようです」
「本当にここは日本なのか!?」
「間違い無いですよ」
「一体、何がどうしてこうなったんだッ!!」
「それを突き止めましょう。どうせすんなり、この町からは脱出できなさそうです」
「……そうだな。まずは交番に行ってみよう。もうダメだとは思うが、あのお巡りさん達の意思を尊重したい」
「先生」
「交番に行って応援に行くのが目的だったわけだろ?」
「……そうですね」

 私達は燃え盛る火炎を背に、霞台交番へと向かった。
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“私立探偵 愛原学” 第1章 「発生」 Final

2016-06-28 22:25:03 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月24日22:15.天候:晴 ◯×県霧生市中心部のとあるマンション→裏通り]

 ゾンビの群がるビルから、急きょ隣のマンションに飛び移った私達。
 既にこの町は、死者の町であることを実感させられた。
 死者どころか、どうやら妖怪みたいなものもいる様子。
 一体、何がどうなっているのやら……。
「うわっ、エレベーターの前にも!」
 4階から1階へ、エレベーターで降りた。
 マンションのエレベーターというのは、ドアに窓が付いていて、外が見えるようになっている。
 1階に着くと、ゾンビが待ち構えていた。
 ドアが開くと同時に、
「ウアア……!」
「くそっ!どこにでもいやがって!!」
 高橋は手持ちの鉄パイプで、ゾンビの頭を叩き割った。
 ゴッと鈍い音がしたかと思うと、叩かれた所から血しぶきを上げ、口から血の泡を吹きながら倒れた。
「先生、今のうちに!」
「ああ!」
 私達はゾンビが昏倒しているうちに、マンションの外に出た。
 そして、集合を呼び掛けていたワンボックスタイプのパトカーに駆け寄った。
「ん?これだけか……」
 警察官は私達の姿を見て少しびっくりした様子だった。
 ゾンビが来たとでも思ったのだろうか。
 その警察官は高木巡査長の姿を見ると、
「ん?確か、あなたは……」
「警視庁の高木巡査長です。東京での事件を捜査中に、この暴動に巻き込まれてしまいました」
 高木巡査長は警察手帳を出して、自分の身分証を見せた。
「それは、とんだ災難でしたな」
「他に避難者は?」
「それが、あなた達だけのようです」
「ええっ!?」
「ま、とにかく、生存者がいるだけでも良かった。早いとこ、乗ってください」
 運転席にいるのは高木よりも、もっと若い巡査だった。
 高橋と同じくらいの歳かもしれない。
 乗車を促した警察官は40代くらいで、制服の階級章を見るに、巡査部長であるようだ。
 私達はすぐにパトカーのスライドドアを開けてもらい、中に乗り込んだ。
 すぐにパトカーが走り出す。
「高橋君?どうした?」
「いや、何か……気分が悪いものです」
「体の具合が悪いのかい?」
 と、高木巡査長。
「いや……パトカーに乗るのは、何とも気分の悪いものだな、と……」
「少年課の世話になっていたことでもあるのかな?」
「うるさいな」
 高橋は眉を潜めた。
「高木巡査長、高橋君は今は立派に私の事務所で働いてくれてますから」
 私は高橋の肩を掴んで、高木巡査長に言った。
「ええ。それ以上の詮索はしませんよ」
「しかし巡査長、ここまで来たら、東京で何の事件が起きたかくらいは教えて頂いてもよろしいのでは?」
 私が言うと、高木巡査長は小さく息を吐いた。
「都内のとある公園の池に、死体が沈められていたという事件はニュースで聞いてますか?」
「あ、はい。確か……」
「殺人事件と見て捜査本部を設置しまして、ガイシャ……被害者がこの町の出身であるところまで分かったんです。そこまで行こうとした時に、この騒ぎに巻き込まれました」
「なるほど……」
「しかし、高木巡査長」
「何ですか?」
 助手席の巡査部長が話し掛けた。
「単独で捜査に当たっていたのですか?確か、暴動が発生する前、うちの署に来た時は、別の人と一緒だったはずじゃ?」
「たまたま別行動をしている時に、この暴動で……。こんな状況では、互いに連絡も取り合えず……このザマです」
「なるほど。これはやはり署に戻った方がいいな」
「いえ。まずは、この人達を病院に……。あの騒ぎの中、ほんの微傷で住んでいるのが奇跡ですが……」
「なるほど。まずは治療が先ですな」
 巡査部長は運転席の巡査に、病院へ行くよう指示した。
 表通りはゾンビで溢れかえっている為、裏通りを進むわけだが……。
「部長!ここも塞がれてます!」
 あっちこっち、バリケードで塞がれてしまっていた。
「むむむ……」
「いいです、部長。ここからは歩いて向かいます。確か、ここから病院は近かったですよね?」
 と、巡査長が言った。
「まあ、確かにそうだが……。あの歩道橋を渡って、通りの反対側に出ると、病院が見えて来る」
「だそうです。それでいいですか?」
「ええ。今は警察の指示に従うのが得策ですから」
 と、私は応えた。
 私達はパトカーを降りた。
「ああ、そうだ。せっかくだから、PC内の武器・弾薬を持って行くと良い」
 巡査部長が言う。
「いいんですか?」
「そんな猟銃をどこで拾ったのかは分からんが、警察純正の武器・弾薬の方が良いとは思わんか?」
「確かに」
 機動隊が乗るようなパトカーだ。
 ここにも、ショットガンのような物が積まれていた。
「すいませんが、お借りします」
「ああ。せっかくの生存者だ。しっかり守ってあげてくれ。お2人は、この警視庁の刑事さんの指示に従ってください」
「分かりました」
「……………」
「高橋君」
 高橋が返事をしなかったので、私は仮を促した。
「……ハイ」
「もし途中で合流できるようであれば、ピックアップしよう」
「よろしくお願いします」
 私達は裏通りから、表通りを目指した。

 幸いにも歩道橋の近辺には、ゾンビはいなかった。
 ただ、死体は転がりまくっており、それをゾンビ化した犬の群れが食らい付いている。
 犬達は私達の気配に気づくと、こちらに向かってきた。
「くっ!」
 高木巡査長がショットガンでゾンビ犬達を狙う。
 だが、全て屠ることはできず、数匹がすり抜けて私達の所へやってくる。
「このやろ!!」
 高橋が鉄パイプを振るうが、犬のゾンビはゾンビ化しても俊敏性が失われておらず、高橋の攻撃をすり抜けてしまう。
 ……と!
 そういえば私、実は高木巡査長が置いて行った猟銃を持ち出していた。
 後で怒られるかな?
「バウッ!」
 と!そんなこと考えてる場合じゃない!
 私は猟銃を発砲した。
「キャン!」
「ギャン!」
「……あれ?」
 弾はしっかり犬2匹に命中し、体から血を流して動かなくなった。
「先生、さすがです!」
「そ、そう?」
 適当に撃っただけなのだが、これがビギナーズ・ラックというヤツなのか?
「愛原さん、それは捨てて来た銃なのに……!」
 案の定、巡査長が眉を潜めて私の所にやってきた。
「いや、アハハハ……」
 私は笑って誤魔化そうとしたが、高橋が、
「先生がこれを持って来なかったら、ゾンビ犬に噛まれてたんだぞ!?」
 と、巡査長に食って掛かった。
「先生は治外法権にしろ!」
「いや、あのね!……まあ、今回は非常時だから大目に見ますけど……」
「すいませんね、巡査長」
 私達は歩道橋に上がった。
「うわ……!」
 そこからこの町のメインストリートを見ると、そこは地獄絵図だった。
 まるで、ゾンビ映画のような、ゾンビの行進が行われていた。
 そこから銃声が聞こえており、機動隊の姿も見られた。
 だが、多勢に無勢のような気がする。
「先生、あれを!」
「どれを!?」
 高橋が持ち前の強視力(両目とも2.0)で、何かを見つけたようだ。
「警察官までゾンビ化してますよ!?」
「マジか!?一体、どうなってるんだ!?」
「……キミ達、今、体の具合はどうだい?」
「体の具合?」
「体が痒かったり、熱っぽかったりはしないかい?」
「いや、別に、大丈夫ですが……」
「元ヤンキーのキミは?」
「うるせっ!……俺は何とも無い」
「そうですか。もし、体に痒みが発生したり、熱が出るようなことがあれば言ってください」
「……それがゾンビ化するサインなんだな?」
 高橋が巡査長に詰め寄った。
「……実はあのレストランに行く前の間、私が聞いた情報だ。中にはいきなりゾンビ化する者もいるだろうが、多くは予兆がある。全身に痒みが発生したり、高熱が出た時だ」
「どうしてゾンビ化するってなった時、そうなるんです?」
「そこまでは分からない。だから当初は、原因不明の皮膚病か熱病だと思われていたそうだ」
「病気ねぇ……」
 と、そこへ、さっきのパトカーがやってきた。
「あれ?」
「いや、申し訳無い!1ヶ所、封鎖が解かれていた道があって、そこを通ってきた。もう1回乗ってくれ」
「分かりました!」
 私達はまたパトカーに乗り込んだ。
「非常線の都合上、少し通り回りですが、何とか病院に行けると思います」
「病院ならこの状況だ。治療法までは分からなくとも、もしかしたら、原因くらいまでは分かっているかもしれない」
 と、巡査長。
「これまで多くのゾンビ化する前の市民達を診てきたわけですから、膨大な資料が残っているはずです」
「臨床結果ですね。なるほど」

 私達は裏通りを右に左に曲がり、途中でゾンビの攻撃を交わしながら、病院に向かう。
「死人が町をうろつき、人を喰らう。それが当たり前になったんじゃ、かなわないよな」
 と、私が言うと、
「そうですね」
 高橋は頷いた。
 病院へ向かうにつれ、ゾンビの姿も見かけなくなりつつあるので、一応は安全な方に向かっているのだろう。
 だが、まだ町を脱出できていない私達に、安堵は訪れないのだった。

                                                      続く
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“私立探偵 愛原学” 第1章 「発生」 4

2016-06-27 20:50:48 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月24日20:45.天候:晴 某県霧生市中心部のとあるレストラン(が入居するビルの屋上)]

 どうやらこのビルにいる生存者は私、愛原学と助手の高橋正義、そして警視庁の私服刑事である高木巡査長だけであるようだ。
 私達は屋上に避難し、助けを待つことにした。
 幸い屋上に出るドアの鍵は掛かっていたものの、それは内鍵になっており、つまり階段側から開けることができた。
 そこは3階建てビルの屋上だから、フロア的には4階になるわけか。
 まあ、町の中心部とはいえ、地方都市の雑居ビルならこんなものだろう。
 だが、その屋上も安全な場所とは言えなかった。
「ギャア!ギャア!」
「うわっ、何だ何だ!?」
 屋上に出ると、どういうわけだかカラスが1羽、私に向かって襲ってきたからだ。
「うらぁッ!!」
 何と、高橋はそんなカラスを素手で殴り付けて叩き落してしまった。
 その時点でカラスはまだ生きていたが、
「先生に何てことすんだっ、このクソカラスが!!」
 最後にカラスを踏みつけてトドメを刺した。
「おいおい、高橋君……」
 私は苦笑いをした。
 ちょっとつつかれただけだ。
 もしかしたら、この辺にカラスの巣があるかもしれないな。
 だが、そうではなかったようだ。
「アァア……!」
「うわっ、ゾンビ!」
 屋上にはゾンビの男が1人、待ち構えていた。
 私達の姿を見ると、呻き声を上げてヨタヨタと向かって来たのだが、
「ギャアギャア!」
「ガァ!ガァ!」
「オウッッ!!」
 新手のカラスが飛んできて、そのゾンビに食らい付いた。
 さすがのゾンビも、カラス2羽に集られたのでは、さすがにキツいらしい。
「ここのカラス、どうやら巣があるから防衛の為に私達を狙ったんじゃないみたいですね!」
 と、高木巡査長。
「えっ?」
「先生!またカラスが来ます!」
 ゾンビに食らい付いていたカラス達だったが、生きている私達の血肉の方が美味そうだと気づいたか、今度は私達に向かってきた。
「どうやらここのカラス達、死肉を食らっているうちに、人間を(ゾンビも含めて)獲物だと思っているようです!」
 高木巡査長はハンドガンを構えて、カラスに向かって発砲したが当たらない。
「くそっ!せめて、ショットガンでもあれば……!」
「お巡り!……さん、先にあのゾンビ、ブッ殺してくれ!」
 高橋がカラスに食らい付かれながらも、まだ“生きて”いるゾンビを指さした。
「分かったよ!」
 高木巡査長はゾンビの男に向かって、3発ほど命中させた。
 ゾンビは倒れて血だまりを作り、起き上がってこなくなった。
「カァー!カァー!」
 直接血を噴き出し、腐肉とはいえ、それを剥き出しにしているゾンビの死体の方が簡単だと思ったか、カラス達はそのゾンビに群がった。
 私達のことなど、ガン無視で。
 その代わり、その数は10羽ほどに増えていた。
「よ、よし!今のうちに!」
 私達はカラス達に気づかれないように、屋上の階段室を回り込んで裏手に回った。
 給水塔やらエアコンの室外機などが置いてある。
「よし!どうやら、カラス達の視界から消えることができたな……!ゾンビもあれだけみたいだし……!」
「とはいえ、いつまたカラスに狙われるか分かりません。それに、階下のゾンビ達は知性や知能こそ無いものの、私達がこの建物にいること自体は知っているようですので、やはり上へ上へと追い掛けてくることでしょう。いつまでもぐすぐずしてはいられません」
「じゃ、どうするんだよ!?警視庁に連絡して、ヘリでも何でも飛ばしてもらえないのか!?」
 高橋は苛立ちを隠しきれず、高木巡査長にくって掛かった。
「既にこの状況は町の外にも知れ渡っているはずだ。ただ、この町は立地条件が悪過ぎる」
「確かに。◯×県自体が内陸部にある上、山の多い県です。ましてやこの霧生市自体、四方八方を山に囲まれた町ですよ。交通の便だって、正直、高規格の県道と、私鉄だか第三セクターだかの霧生電鉄しか存在しない。そんな状態で、よくここまで発展したものだと思います」
 それには大きな理由がある。
 新潟県みたいに、総理大臣でも出せばそうなるだろう。
 まるで高速道路みたいな高規格の国道7号線・新々バイパスや国道8号線の黒埼バイパス、そして1番有名なのが上越新幹線だろう。
 正に、その総理大臣の威光だと言われている。
 だが、霧生市自体は総理大臣どころか、1人の国務大臣も出していない。
 では、何故か?
 新潟県は政治的な理由であるが、こちらは経済的な理由である。
 町の経済を大都市並みに活性化させているものが、この町に存在するのだ。
 それは何かというと……。

〔「こちらは、霧生警察署です。まもなくこの地区は、暴動の鎮静化を図るため、封鎖されます。屋内に待避されている住民の方は、直ちにこちらまでお越しください。封鎖後につきましては……安全の保障ができません。速やかに、こちらまでお越しください。繰り返します……」〕

 その時、ビルの下で大音量の放送が聞こえてきた。
 ビルの下を覗いてみると、1台のワンボックスタイプのパトカーが通りに停車しており、そのスピーカーから放送されていたのだ。
 いつの間にか、この辺りのゾンビ達は警察隊によって一掃されていたようだ。
 とはいえ、まだビルの中は危険である。
 どうしたものか……。
「愛原さん」
 高木巡査長が声を掛けて来た。
「隣のマンションも同じ高さです。あちらに飛び移って、マンションの中を通って下りてみようかと思うんですが……」
「えっ?」
 私が一緒について行くと、確かに、走り幅跳びをすれば飛び移れそうなほどに近接したマンションがあった。
 マンションは5階建てで、飛び移る先には共用廊下がある。
 だがマンションに人の気配が無いことから、そこの住人達は避難した後らしい。
「な、なるほど……。ちょっと怖いですがね……」
「まずは私がお手本を……」
 屋上の手すりが一部壊れかかっている所があり、高木巡査長と高橋とで、それを完全に撤去する。
 何故そんな状態になっていたのか分からないが、あのゾンビが何かしたのだろうか。
 ところが、そんな作業をして、私達が飛び移るのを歓迎する者達がいた。
「アァア……!」
「アゥゥッ……!」
「マジですか……」
 マンションの玄関ドアが開き、そこからゾンビ化したマンションの住民達が出て来て、私達が飛び移るのを待っていた。
 私がガックリ肩を落とし掛けると、
「諦めないで!」
 高木巡査長がゾンビ達に向かって、銃弾を発砲した。
 それに血しぶきを上げて倒れるゾンビ達。
「新手が来る前に、急いで飛び移ってください」
 高木巡査長が先に助走をつけて、マンションに飛び移った。
「先生、次は俺が!」
 続いて、高橋がジャンプして飛び移る。
「先生!早く!」
「せ、急かすな!」
「愛原さん!後ろ!」
「ええっ!?」
「アアア……!」
「ウウウ……!」
「ハァァァ……!」
「うわっ!?」
 いつの間にかゾンビ達が屋上に到着していたようだ。
 私の姿を見つけて、白目を剥き出しに、腐った両手を前に突き出しながらヨタヨタと向かってきた。
「先生!」
「く、くそっ!」
 私もまだまだだ。
 プロの探偵ともあろう私が、足が竦んで動けないとはっ!
 だが、またもや事態が動いた。
「!!!」
 ゾンビの集団の後ろから、走って来る者がいた。
 その者は前にいるゾンビを邪魔っ気だとばかりに殴り飛ばしたり、蹴飛ばしたりして私に向かってくる。
「何だ、あいつは!?」
「先生!何かヤバそうです!早く!」
 それは全身が赤茶色に染まっているが、頭部はまるで全体がうっ血しているかのように赤紫色をしている。
 しかし相変わらず目は白く濁っている。
 今殴り飛ばしているゾンビと、元は同じ人間だったのだと思うが、何か違った。
 両手には、まるで鬼のように鋭く尖った爪。
 そう、まるであれは角や金棒を持たない赤鬼のようだった。
「わああああっ!」
 これも火事場の馬鹿力とでも言うのだろうか。
 私は助走を付けずに、マンションに向かって飛んだ。
 そして、鉄柵にしがみついた。
「先生!さすがです!」
 高橋がすぐに私の手を掴んで、鉄柵の内側へ引き上げようとする。
 だが、
「ウオオオオオッ!」
 ゾンビ達はジャンプする身体能力は無いが、あの“赤鬼”は走れるくらいだから、別格なのだろう。
 私達を逃がさんとばかりに、ジャンプしてきた。
 と!
「!!!」
 高木巡査長が廊下からショットガンを拾って、その“赤鬼”に発砲した。
 “赤鬼”はショットガンに被弾したことで、マンションまでの飛距離が足りず、下に落ちて行った。
 因みに下は用水路になっており、ドボーン!と派手に入水した。
 ゴポゴポと泡が立っていたものの、水面に浮き上がって来ることは無かった。
「な、何なんだ、今のは……?」
「先生、やっぱり人間じゃないのがこの町にいるようです」
「……そのようだな」
 私は何とかマンションの廊下に上がった。
 さっきまでいたビルには、ゾンビ達がこちらに向かってワァワァ騒いでいたが、さっきの“赤鬼”と違い、こちらにジャンプしてくる者はいなかった。
「巡査長、このショットガンは?」
「たまたまこの死体が持っていたんです。もしかしたら、猟銃を持ったままゾンビ化したのかもしれません」
 すると、このゾンビだった者も、あの店員のように元は人間で、ゾンビと戦っているうちにゾンビ化した?
 ……大丈夫なのか、私達は……?
「早く行きましょう。このマンションも、安全とは限りません。……というか、多分危険です」
 私達の気配に気づいたか、部屋の中からドアをドンドン叩く音が聞こえたからだ。
「先生」
「あ、はい。行きましょう」

 私達はマンションのエレベーターへと向かった。
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