ノベラーエクスプレス関東

 自作の小説がメインのブログです。
 主にSF、ファンタジー、ミステリーの脳内妄想を文章化したものです。

“ユタと愉快な仲間たち” 「雪中行軍」 その後

2014-02-28 22:05:12 | 日記
[2月15日 18:30 JRさいたま新都心駅 ユタ、威吹、カンジ]

 枕木が雪に隠れる線路。その上を走る1台の通勤電車が、駅のホームに滑り込んだ。

〔「さいたま新都心〜、さいたま新都心〜。ご乗車、ありがとうございます」〕

「最悪だな。中距離電車と1回もすれ違わないなんて……」
 電車を降りたユタは、そんなことを呟いた。
「高崎線は運転見合わせ。宇都宮線も大幅な遅れでは、そういうことにもなるのでしょう」
 カンジはユタに同調した。
 カンジは師匠に合わせて着物に袴で来たが、正直スーツでも良かったような気がした。
 改札口へ向かう階段を上る。
「確かに……」
 そして中距離電車の発車票は、見事に『調整中』の三文字しか表示されていなかった。
「この雪の中を家に向かって……」
 改札口を出て、左手の方向に向かう。つまり、西口だ。
 往路の時と違い、一応は除雪されていた。
「晴れているだけまだマシだろう」
 と、威吹は言うが……。
「かなり水分を含んだ雪ですので、地吹雪の心配も無いですね」
 しかし、その為に足元はグチャグチャだ。
「もう雪は勘弁だよ」
「後でまた連合会に問い合わせてみましょう。ノルマが達成できたのであれば、もう大丈夫です」
「頼むよ」
 その時、陸橋の下の道路を路線バスが通過していった。
「あっ、バスは走ってるんだ。あれで少しでも、家の近くまで行こう」
「その前に……何か食べるか。カンジのカレーは美味いけど、昨日食べたし」
「そうしよう」
 ユタの同意に、威吹はパッと顔を明るくした。

[同日 19:00 さいたま新都心、けやきひろばの飲食店 ユタ、威吹、カンジ]

「かなりの苦行だったけど、功徳は詰めたかい?」
 威吹は猪口に入れた日本酒を口に運びながら言った。
「おかげさまでね。何か、レンショーレンジャーとか来たみたいだけど……」
「あのエセ妖怪退治屋か」
「というか、もはやテロリストです」
「仏法以外にも勉強になることもあったし……。雪女郎連合会とか」
「女所帯なので、それならではの問題が山積みらしいですよ。若い者は女子校みたいな感じで、歳を取ると花柳界みたいなものになるそうです」
「カンジ、よく知ってるな」
 威吹が感心と皮肉の両方を込めて言った。
「雪女に知り合いでもいるのか?」
「オレがまだ小さい頃、家に雪女が出入りしていました。恐らく、母親の知り合いだったかと」
「ふーん……」
「藤谷班長、大丈夫かな?」
「大丈夫だろ」
 威吹は他人事のように言った。
「男は愚直に人間の女に盟約を迫りますが、女はあの手この手で気に入った人間の男を“獲物”にしようとしますから、気をつけてください」
「僕は大丈夫だろう。キミ達の監視付きじゃさ……」
 護衛と言わず、監視と呼ぶ件。
「そういうことだな」
 威吹は大きく頷いた。
「キミ達のせいで、禁欲生活だよ……」
「いや、だから何度も言ってるけど、ユタが人間の女と付き合う分には何も問題無いんだ」
「先生の仰る通りです。オレ達は何も、稲生さんに禁欲生活を望んでいるわけではない。人間の女相手であれば、むしろ奔放な生活をして頂きたいくらいです。その方が、先生にもオレにも旨味がありますので」
「ユタが望めば、ボク達は全面的に支援するよ?」
「ハーレムをお作りしましょうか。1日もあれば、稲生さんのご希望に沿うハーレムを御用意して差し上げます」
「カンジ。1日では遅い。明日の夜明けまでに作り上げるんだ」
「は、ハイ!ですが、時間的に割と厳しい……」
「お前を弟子にする時、言ったはずだ。オレがお前に課す修行は、時に厳しいものだと」
「は、ははッ!確かに!」
「2人とも、いいから!」
 ユタはいい加減にしろと言わんばかりだった。
「ユタ……」
「稲生さん……」
「僕はハーレムを作りたくて、威吹の“獲物”になったわけじゃないんだ。そこんそこ、頭に入れといて」
「う、うん……」
「では、伺いますが」
 カンジは少し身を乗り出した。
「カンジ、引っ込んでろ」
「まあ、いいよ。なに?」
「稲生さんが先生の“獲物”になられた理由は?まさか、先生が積んだ金に目が眩んだわけではないでしょう?」
「違うよ」
「では、何ですか?」
「……話し相手が欲しかったから」
「は?」
「威吹は知ってるけど、あの時の僕は物凄い根暗で、友達なんかいなかったんだ。僕が威吹の封印を解いた神社も、実は願掛けで通ってたんだよね」
「願掛け?」
「当時は顕正会員ですらなかったから、拝む相手は稲荷大明神だよ。『生きていてごめんなさい』とか、『誰でもいい。僕の友達になってほしい』なんて……。今からしたら、本当に僕って……」
「それが先生だったと?」
「どうせ命捨てる気満々だったんだ」
 ユタは腕を捲り上げた。
「まだ、傷痕が残ってるかな」
「それは……リストカットの痕ですか」
「それだけじゃない。首を切ろうともしたから、ここにも傷痕がある」
 威吹はユタの首元を指さした。
「そうでしたか。これは、差し出がましいことを聞きました」
「だから、別にいいんだよ。こうして、一緒に行動してくれるだけでさ……」
「いい“獲物”を見つけましたね、先生?」
「やっと気づいたか」
 威吹は半ば呆れていた。
「特級(S級)の霊力を持ち、そして我欲の小さい人間なんて希少価値どころの騒ぎじゃないと思うがな」
「確かに……」

[同日19:15 さいたま新都心駅西口バス停 ユタ、威吹、カンジ]

 食事が終わって、バス停に向かう。
「うん。一応、こんな状態でもバスは走ってるんだ」
 駆動輪である後輪にはチェーンが巻かれていた。
 3人はバスに乗り込んだ。

〔「お客様にお知らせ致します。本日は積雪の影響によりまして、イオン与野ショッピングセンター前までのみの運転となっております。円阿弥(えんなみ)から先へは参りませんので、ご注意ください」〕

 運転手がそんな放送をする。
「え!?」
 ユタは驚いた。
「……まあ、僕達はその手前で降りるからいいけど……。どういうことだろう?」
「後で様子を見に行こうかとは思いますが、恐らくは国道を横断することができない状態なのかもしれません」
「雪のせいで?」
「そう言ってはいますが、恐らくはそれもさることながら、もっと別の理由が……」

[同日19:30. 与野霧敷川バス停→ユタの家 ユタ、威吹、カンジ]

 バスを降りた3人は、再び最悪な路面状態の中を歩かされることとなった。
「どーれ、あとひと踏ん張りだ」
「ハイ」
「急いで帰って、勤行やらなきゃ……」
「慌てちゃダメだよ。転んでケガでもしたら大変だ」
「分かってるよ」

 いつもより倍近い時間を掛けて、やっと辿り着いた家。
「あれ?除雪されている?」
 ユタの家だけが、きれいに除雪されていた。
「妖気の匂いがするな」
「ええ。しかもこの除雪の仕方、スコップなどでやったものではないですね」
「あれ、手紙が来てる?この雪なのに、郵便配達できたんだ」
 ユタは感心した様子で、郵便受けの白い封筒を取り出した。
「待て、ユタ!」
「え?」
「妖気の匂いが、この封筒からも漂っています。稲生さん、こちらへ」
「あ、うん……」
 ユタは封筒をカンジに渡した。
「まさか、不幸の手紙?」
「それは開けてみないと分かりませんね」
「ユタは家の中に入ってて」
「大丈夫かい?」
「雪女郎連合会からの手紙ですね」
「ユタならやらんぞ」
 威吹は眉を潜めた。
(本当に獲物の取りあいなんだなぁ……)
 ユタは濡れた靴と靴下を脱いだ。
「僕へのラブコールかい?」
「……違いますね」
「なに?」
「迷惑を掛けたことへの詫びが半分。家の周りの除雪は、その詫びの一環のようです」
「別にいいのに」
 ユタは首を傾げた。
「もう半分は、別の用件ですね。恐らく、そちらがメインでしょう」
「何だい?」
「連合会の会員の女が藤谷氏を気に入った様子なので、是非とも関係者として御紹介願いたい、と……」
「何で僕が!?」
「その手があったか……!」
 ユタは目と口を大きく開け、威吹はむしろ感心した様子だったという。
「それなら、妖狐族の獲物取扱規定にも抵触しないでしょう、と……」
「た、確かに……」
「どうします、稲生さん?」
「ゆ、ユタ。別に、ムリしなくていいんだからね。迷惑を掛けたことへ詫びって……雪中行軍させたことじゃなくて、藤谷を紹介させることへの迷惑のことだったか!」
「さて、風呂入ってさっさと休もう……」
「う、うん……。ボク、風呂沸かしてくる」
 現実逃避するユタだった。
「稲生さん、勤行は?」
 
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冨士参詣深夜便

2014-02-28 00:20:45 | 日記
顕正会会員ら2人を書類送検「入信断れば罰」と強引勧誘容疑 警視庁(産経新聞) - goo ニュース

 昨年9月の家宅捜索は、けして何も無かったわけではなかったようだ。
 そして、脱会したから大丈夫というわけでもないということも。
 つぶやきにも書いたが、被害届が出ていて、尚且つ時効を迎えていなかったりした場合、もしかするとせっかく宗門に帰依していながら、検挙される恐れもあるということだ。
 これはほんの序章に過ぎない。現役、脱会問わず、芋づる式に顕正会経験者が逮捕されるなんてことも最悪……。
 で、当の大幹部の検挙はどうなったのだろう?
 送検された会員がどの地位にあった者なのかは不明だが、ポテンヒットさんの名作“ガンバレ!特盛くん”の中の描写が本当だとすれば、除名処分で尻尾切りにされることだろう。
 今後はどうなるのやら、哀れでならない。

 ところで、お寺に必ずあるのが三門。正門として存在するこの門は山門と書く場合もあるが、語源が三解脱門であることから、三門と書くのが正しいようだ。山門と書くようになったのは、大抵、三門には山号の看板が取り付けられることが多いので、山号が書かれた門で山門=三門となったとのこと。
 その三門(山門)なのだが、普通は門扉が無いか、あっても閉じられることが無いことが多い。
 私が今所属している寺院の三門には門扉が無い。大石寺もまた三門の扉が閉じられることはない。
 これは、一切衆生が仏門に入ることを拒まない仏の大慈大悲を表すものといわれるとのことだ。
 もっとも、これは日蓮正宗のみならず、他の仏教宗派と共通であるため、仏とは釈尊のことであるが、あくまでも三門の謂われであるので、日蓮正宗では日蓮大聖人のことでいいんじゃないかなと思う。

 顕正会には三門は無い。当たり前だ。あくまで会館であって、寺院では無いから。
 本部会館や青年会館の入口には、頑丈な門が据え付けられている。地方会館には門が無い所もあるが(東京会館以外全部?)、佇まいはけして、『一切衆生が仏門に入ることを拒まない仏の大慈大悲を表す』とはとても言い難い。

「何をか言わんや。オマエ、先代のブログで古刹寺院は重厚過ぎて入り難いって文句言ってたじゃねーか」

 その通り。御指摘の通り、私は実際今でも宗門の古刹寺院より、顕正会の会館の方が気軽に入れる。
 だけど、これだけは言える。
 重厚な佇まいの古刹寺院で、悪鬼を一切寄せ付けない雰囲気であっても、三門の口は大きく開いていた。
 小心者の私が本堂まで行けたのも、中から血脈通う本物の御本尊が、
「いや、いいんだよ。早く入りなよ。入って、こっちまで来なよ」
 と、手招きされている様に感じた何かがあったからだ。

 しかし、常日頃から顕正会会館の扉が開いている所は、少なくとも現役会員だった頃は見た事が無い。
 誰でもウェルカムの仏法のはずが、何か違う感じになっている。
 御本尊に関して、何か感じたことも無い。

 多くの法華講員は法や御金言、浅井会長のそれまでの所業(誓願破りなど)から顕正会を破折されておられるが、私にはそんな力は無いので、違う観点から比べてみた次第である。

「形式は必要無いザンス。形式は」(by創価学会婦人部のオバちゃん)
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“アンドロイドマスター” 「双子の危機」 3

2014-02-26 20:25:11 | 日記
[3月17日 10:00.財団仙台支部事務所 敷島孝夫&鏡音リン・レン]

「おはようございます」
 事務室に鏡音リン・レンが仲良く入って来る。
「おう、昨日と一昨日はご苦労さんな!」
「あれくらい平気だYo~」
 リンはパチッと片目を瞑った。
「今日はどうしましたか?」
「お前達の次の預け先を決めようと思って、来てもらったんだ。ちょっと来てくれ」
「おお~!もう決まったの!?」

 敷島と姉弟は談話コーナーに移動した。
「いくつかオファーがあったんだけど、俺的にはレコード会社のアルファ・レコードさんと、芸能事務所のベータ・プロダクションさんがいいと思うんだ」
「あっ、何か聞いたことあります」
「アルファ・レコードさんは最近業績を伸ばしてきているレコード会社で、所属しているアーティストの数も年々増えてきている。その一環で、リンに声が掛かったんだな」
「リンに?」
「ベータ・プロダクションさんは、どちらかというとアイドル事務所というよりは俳優事務所だな。今度アクションもののドラマをやるに当たって、レンみたいなアクロバットな演技のできる少年の俳優を探していたそうだ」
「それで、どちらのオファーを受けるんですか?」
「……何が?」
 レンの質問に、敷島は首を傾げた。
「ボク達は体が1つしか無いので、どちらも受けることはできません。ボーカロイドとしてはレコード会社の方が愚直に歌を歌えるメリットがありますが、ボーカロイドの可能性にチャレンジするという点では、俳優もいいかもしれません。ボク的には、甲乙つけがたいんですが……」
「何言ってるんだよ。いい解決方法があるじゃないか」
「と、言いますと?」
「アルファ・レコードさんはリンが欲しいと言ってる。そして、ベータ・プロさんはレンが欲しいと言ってるんだ。簡単な話じゃないか。その通りにすればいいんだよ」
「プロデューサー、冗談で仰ってるんですよね?ボクとリンは、2人で1つなんですよ?」
「しかし、今はお前達、別々に仕事していることが多々あるが、特に問題なくこなしているじゃないか」
「それは、ボクとリンが同じ所に所属しているという前提で行っているんです。歌でも、ボクとリンで別々のパートを歌うなんて普通ですから。仕事もその一環で……」
「レン、それは違うな。ボーカロイドの可能性にチャレンジするという意味では、お前達、一個体としてどれだけの可能性を秘めているかの実験でもあるんだ」
「そんなのおかしいYo!」
 リンも敷島に抗議した。
「リンとレンは2人で1つという前提で作られたんでしょ!?兄ちゃんの言ってる通りにしたら、その鉄壁コンセプトが崩れちゃうじゃん!」
「ああ、そのコンセプトは忘れてくれ。特に、レン。今デビューしてるボカロで、他の研究機関の個体も含めると、少年はお前しかいない。お前に掛かる期待は、リンより大きいと言える」
「期待を掛けてくれるのは嬉しいです。でも、だからといって、リンと離れ離れになるなんて……!」
「今まで姉弟ということにしていたが、コンビ……ユニットだったと思ってくれ。つまり、コンビ解散だな。これからは、お前達がソロデビューして、更なる飛躍を……」
「もういいです!」
 ガタッとレンが立ち上がった。
「プロデューサーがどんなに言おうと、ボクとリンは2人で1つなのに変わりはありませんから!」
「そうだよ!今回ばかりは兄ちゃんの言う事、拒否するから!じゃあね!」
 リンとレンは事務室を飛び出した。
「おい、待て!」
 しかし2人の姉弟はすばしっこく、ちょうどやってきたエレベーターに飛び乗って行ってしまった。
「Hum...鏡音リン・レンが1番、感情レイヤーが発達しているかしら」
 アリスはタブレット片手に、研究室から廊下に出て来た。
「そこ、ちゃっかりデータ取らない!」
 敷島が突っ込んだ。

 で……。
「放してよ!放して!放せ!」
「敷島さん。鏡音リン・レンを・捕獲しました」
「気が利くなぁ……」
 エントランスでエミリーに捕まり、襟首を掴まれて連れ戻された姉弟だった。
「とにかく、話を聞け!」
「お断りします!」
「ヤだよ!こうなったら、徹底抗戦だからねっ!!」
 エミリーの手を振り解いたリンとレンは、研究室に閉じこもってしまった。
「やれやれ……」

[同日14:00.財団仙台事務所 研究室 アリス・フォレスト、鏡音リン&レン]

「Hum Hum...」
 せっかくなので、データ取りをしているアリスだった。
「それじゃ、レン。首を外してちょうだい」
「はい」
「フム。これが、シンディも誤魔化したヤツね。SFじゃよくある話だけど、実は首を外して普通に稼働するって意外と難しいのよ」
「そうなんですか」
「アタッチメント式の着脱法か。シンプルだけど、それがまたいいわね。マリオとルイージも、このタイプにしようかしら」
「マリオとルイージ、エミリーみたいに腕しか外れないもんね」
「……ねぇ、博士。博士はどう思います?」
 レンがアリスに話し掛けた。
「シキシマの仕事に関しては、アタシは口出しできないよ。その代わり、シキシマもアタシの研究については口を出させないから」
「でも……ボク達は、リンと2人と1つというコンセプトで作られました。それを根底から否定するなんて……」
「設定なら、いくらでも変えられるわ。極端な話、アンタ達のメモリーを完全に上書きして、アンタ達が姉弟だってことも無かったことにできる」
「そんな……!」
「まさか博士……」
「今は、やらないよ。アタシはボーカロイド・プロジェクトに参加しているわけじゃないから、アンタ達の設定を勝手には変えられないし。あくまで、アンタ達の整備だけね」

[3月18日 02:00. 同場所 鏡音リン・レン]

「ねえ、レン。充電終わった?」
 リンは隣で充電しているレンに声を掛けた。
「うん。終わった」
「どうしよう、レン?ずっと、このままというわけにもいかないよね?」
「そうだな。ボク達がどんなに頑張ったところで、遠隔で電源を切られればそれで終わりだ。今のところ、そういう動きはまだ無いみたいだけど……」
「リン、レンと離れ離れなんて嫌だよ……」
「僕だって。確かに今まで仕事を別々にやってはきたさ。でも、それはリンと一緒に『帰る所が同じ』だからできたことであって、住む所まで別々なんて……まっぴらごめんだ」
「覚えてる?3年前、舞台でそういう兄妹の役やったよね?」
「ああ」
 児童養護施設に預けられた兄妹の数奇な運命の物語だ。
 そこでは逆にレンが双子の兄で、リンが双子の妹という役回りであった。
 児童養護施設で仲良く暮らしていた双子の兄妹だったが、それぞれ別の家族に引き取られることになり、兄妹は引き裂かれるというもの。
「まるで、あの演劇みたいだ。最後には大人になった兄妹が再会して……でも、それぞれ違う人生を歩んでたせいで、すれ違いがあって……」
「リン、そんなの嫌だ。レンと離れなければ、あの兄妹みたいにはならないもん!」
 すると、レンが言った。
「リン、逃げよう!ここから!」
「えっ?」
「この事務所を出て、どこか遠くへ逃げよう。大丈夫。充電さえできれば、何とかなる!」
「で、でも、外にはマリオとルイージが……」
「大丈夫。アリス博士が言ってた。新しい研究所……昔の南里研究所で、新システムに適応させる為の実験を今やってて、ここにはいないって」
「そっか」
「メイドロボット達は夜中は稼働してない」
「でも、セキュリティセンサーとかがあるよ?」
「今、午前2時だな。もうすぐ警備員が巡回に来るはず。自分がセンサーに引っ掛からないよう、巡回中はあえてセンサーを解除するらしい。その時がチャンスだ」
「う、うん」

[同日 02:15.財団仙台事務所 廊下 鏡音リン&レン]

「よし。センサーが解除された。あとは警備員に見つからないように……」
 レンは研究室のドアの隙間から、警備員の動きを監視した。
「どうするの?エレベーター使ったら、バレるよね?」
「もちろん、階段で下りるさ」
 それでも、非常階段のドアを開ける時に静まり返った事務所内では音が響いてバレるのではないか。
「これを使って……」
「それ、研究室にあったスパナじゃない?どうするの?」
「こうするんだよ」
 レンは自販機の横にある空き缶専用のゴミ箱にスパナを投げつけた。

 ガラガラガッシャーン!!

「! 誰か、いるのか!?」
 空き缶が散乱する音が響き渡り、警備員の気がそちらに逸れた。
「今だ!」
 レンはリンの手を引き、警備員が向かった方とは逆方向の非常階段のドアを開けてそこに飛び込んだ。
「リン、急いで!」
「うああ!待ってよ!」
 
[同日 03:00.財団事務所の入居しているビルの1階 防災センター前 鏡音リン&レン]

「今、このビルの出入口は、あそこしかない」
 夜間通用口である。
 しかしそこに行くには、警備員が24時間座哨している防災センターの受付前を通らなくてはならなかった。
 ドリフターズのコントみたいに都合よく居眠りしてくれているわけがないし、そもそもカメラでしっかり監視されている。
 受付の下を這いつくばって……何てコントみたいな芸当も、やはり現実的にはムリだ。
「どうやって行くの?」
「いくらカメラがあっても、そのモニタを見ている人がいなければ意味が無い。プロデューサーの話じゃ、今、防災センターには受付に座る警備員が1人しかいないそうだ。そしてその警備員が一瞬、受付からいなくなる瞬間があるんだって」
「……てか、何で兄ちゃん、そこまで知ってるの?」
 リンがさりげなくそこに突っ込んだ。
 しかし、レンは答えなかった。
「それが午前3時過ぎなんだってさ」
「どういうこと?」
 そこへ夜間通用口から、作業服を着た中年男性が入ってきた。
「おばんですー!ゴミ回収に来ましたー!」
「あいよ。よろしく」
 どうやら、作業服の男性はゴミ回収業者らしい。
 すると、スッと警備員が受付から離れるのと作業員が再び夜間通用口から出て行くのは同時だった。
「今だ!」
 リンとレンは一緒に夜間通用口を飛び出した。
 警備員がゴミ収集車を塵芥処理室に入れる為、そこのシャッター開閉ボタンを操作する為に一瞬離れるのだった。
「昔、みくみくをこの事務所から連れ出す時に使ったんだって」
 と、レンは言った。
「兄ちゃんが?」
「そう」
 2人の仲睦まじき姉弟は手を取りあって、裏通りに出た。
 そして、そこから大通りに出ようとした時だった。
「ロケット・アーム!」
「うわっ!?」
「ひいっ!?」
 背後からリンとレンは襟首を掴まれた。
「え、エミリー!?」
「うそっ!?」
 エミリーが有線ロケットアームを飛ばして、捕まえた。
「フムフム。やはり、脱走を計画したか。さすがシキシマだね」
「アリス博士!」
 眼鏡を掛けたアリスと、その両脇にはマリオとルイージがいた。
「お願いです!見逃してください!」
 レンはこの期に及んで懇願するが、
「ダメよ。脱走の罪は重いんだから」
 あえなく却下された。

[3月18日 10:00. 財団仙台事務所ビルの公開空地 敷島孝夫、鏡音リン&レン、エミリー]

「アリスから話は聞いたぞ。随分とやってくれたそうだな?」
「……っ!」
「まあ、アリスは『いいデータが取れた』と喜んではいたがな。とにかくだ。1度決定したものについては、拒否は認められない。リンはアルファ・レコード、レンはベータ・プロダクションへの配属を命ずる!」
 リンはレンに抱きついた。そして、ポロポロと涙をこぼす。
「嫌だよぅ……!リン……離れたくないよぅ……!」
「エミリー、2人を引き離せ!」
「イエス。敷島・総務参事!」
 エミリーはギラッと両目を光らせると、自分より体の小さい2人の姉弟の引き離しに掛かった。
「2人とも、無駄な・抵抗は・やめろ。腕が・千切れるぞ」
「千切れたって……構わない……!」
「行かないで……レン……。リン……ずっと、レンと一緒に……歌いたかったのに……!」
「ならば・仕方が無い」
 エミリーはあえて2人を掴んでいた手を放すと、数メートル間合いを取った。
 そして右手を突き出し、変形させる。
 それはバズーカだった。今まで実戦としては、バージョン・シリーズの掃討にしか使用していない。
 シンディには使わなかった。大技過ぎて、同スペックのガイノイドはすぐに回避することを知っていたからだ。
「エミリー、まさかそれでボク達を……!?」
「敷島・総務参事からは・発射の許可が・出ている」
 それまで無表情だったエミリーが、僅かに微笑を浮かべた。いや、冷笑か。
「役立たずの・ゴミどもが」
 この時、2人の姉弟はエミリーがまるでシンディのように見えたという。

 エミリーはバズーカを発射した。

「さようなら、リン……。生まれ変わったらその時はまた……」
「レン……」

 ……………………。

「あれ……?壊れてない……??」
「? どういう……こと?」
 目の前にはエミリーがいる。
 しかし、バズーカを放ったはずの腕は何故か上空に向けられていた。
 その代わり、そこからひらりひらりと落ちてくるものが1つ。
「ん?」
 何かの垂れ幕だった。
「リキッド……?じゃない!ドッキリ!?」
「はいはーい!どうもどうも!」
 そこへ、どこへ隠れていたか、突然テレビクルーが現れた。
 ADと思しきスタッフが、『ネタバレ!』というプラカードを持っている。
「へ?」
「はい?」
 2人の姉弟は、さすがにフリーズしてしまった。

[3月20日 20:00. 財団仙台事務所 敷島、鏡音リン、レン、アリス、エミリー]

〔「……というわけで、また来週お目に掛かりましょう!芸能人ドッキリ……」「バンザーイ!」〕

 休憩コーナーの一角にあるテレビを見る面々。
 そこには、すっかりドッキリのネタにされたリンとレンが映っていた。
「本当に、ビックリしたなぁ……」
「そうよ!リン達勝手にネタにするなんてサイアク!」
 すると敷島が、ばつが悪そうにした。
「すまん。番組プロデューサーさんから、この企画を持ち込まれて……」
「エミリーが1番、迫真の演技だったわね?」
 アリスがエミリーにウインクした。
「私は……」
 エミリーもまた顔を赤らめて俯いた。
「エミリーなら、女優ロボットとしてもデビューできるんじゃない?」
「前に、戦隊モノの特撮で出演依頼はあったんだけどね。エミリーはそういう用途じゃないって、オーナーの平賀先生が許可を出さなかったんだ」
「でも結局、ボク達は離れ離れになっちゃうんですね」
 レンはもはや諦めていた。
「と、思うだろ?」
「え?」
「確かに、所属先は違う。だけど、元を正せば同じなんだよ」
「どういうこと?」
 リンが訝しげな顔をした。
「実はアルファ・レコードもベータ・プロも、経営母体は同じガンマ・ホールディングスさんなんだ。そして、ガンマ・グループの企業方針は、グループ会社同士、人事交流を盛んに行っているということだ。例えばアルファ・レコードのアーティストが新曲のPVを制作するとする。その時にエキストラとして登場する役者さん達は、全てベータ・プロでやっているくらいだそうだよ」
「へえ!」
「もしかすると、リンが歌って、レンがその後ろで踊るなんてPVも作られるかもしれない。これなら末端部分での所属は違うけど、実質は……ね?」
「そういうことだったんですか……」
「そういうことだったの」
「んもー!また兄ちゃんに一杯喰わされた!」
「はははっ、悪い悪い」

 因みにドッキリ番組の視聴率は、それまでで1番高い数字が出たそうである。

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 一応、先行公開だけしておきます。誤字などがありましたら、その都度修正していきますので、予めご了承ください。
コメント (2)
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冨士参詣臨時便

2014-02-26 20:09:17 | 日記
「【私の本名】、昇格試験合格したぞ!」

 防災センターで勤務中、上司の隊長からそう言われた。
 そう言えば、先月受けたなぁ……。
 昨年は試験だけでなく人生自体が落ち目気味だったわけだが、昨年……というか、昨年度と言った方がいいか。
 今年……というよりは、今年度からはここで一個記事まるまる使った功徳の体験発表ができるようにしたいものだ。

 別の還暦近い副隊長からは、前にポテンヒットさんから言われたことと似たようなことを言われた。
「お前のようなヤツは、意外と長生きするもんだ」
 って感じ。まあ、ポテンヒットさんは私の人生そのものが長生きだろうと仰ったが、副隊長は、私の会社人生が意外と長生き(つまり、リストラされない)だと言った。
 久しぶりに私の生き方が肯定された出来事だった。
 亀のように遅い人生だが、こういう生き方も悪くないもんだと思った。
 生命そのものの長生き、会社人生の長生き。
 信仰においても長生きする為には、多分今のままでいいということなのだろう。

 もう1度言うが、私は法論はしない。もちろんガンガンやっている人を否定するわけではないが、私は向いていないのでやらない。
 ただ、それだけだ。

 武闘派になろうとして失敗した者の戯れ言でした。
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小説の途中ですが、ここで普通の日記をお送りします。

2014-02-26 00:07:41 | 日記
 つぶやきにも書いたのだが、気になったことがあったもので。

 折伏などほとんどやらない私が、折伏を熱心にやっている人に対し、とやかく言う筋合いは無い。
 分かっている。だから本当は黙っているべきなのだ。
 怨嫉謗法のつもりは全く無いし、平成27年と平成33年の誓願がどれだけ重要なのか。
 頭では分かっているつもりだ。
 それに向けて頑張っている人達に対し、頑張っていない私が口に出していいことではない。

 果たして、ここで名前を出していいものなのか……。

 あえて、名前は出さない。
 顕正会の女性会員ブロガーと、実名を公表して活動しておられる法華講女性講員の争いだ。
 他にも、男性会員と男性講員間でも小競り合いがあったようだ。

 私はとても賛同できない。
 個人攻撃をして、何になるのか。
 罰の現証で苦しんでいるのなら分かる。
 しかし、互いに個人攻撃をしている人達はそうではないはずだ。

 名古屋駅近くでは、車を使った無差別テロがあったね。
 何故、顕正会は強要罪で訴えられるほどの強い“折伏法戦”を展開しておきながら、そのテロリストを救えなかったか。

 群馬県ではストーカー殺人事件があった。
 何故、日蓮正宗は正しい法に則った折伏をしながらストーカーを救えなかったか。

 互いに、個人攻撃をしている場合ではないのではないかな。

 私は朝の勤行の際、その日一日を平和に過ごせることを祈念している。
 その通り、確かに毎日毎日を平和に過ごさせて頂いているのだが、私だけなのだ。
 周囲はなかなかそうは行かない。何らかのトラブルを抱えていたりする。

「当たり前じゃん、信仰もしてないんだからさ。そう思うんだったら、それこそ折伏して、周囲の人間を信仰の道に引っ張れ」

 と、恐らくは宗門も顕正会もそう言ってくるだろう。
 分かっている。
 でも、何か違う気がするんだよなぁ……。

 少なくとも、
「ガイジの○○が……」
 とか、
「更にブチ切れ、罵詈雑言を浴びせる哀れな顕正会員♪」
 とかは……どうかと思う。

 さいたまスーパーアリーナに顕正会員が何万人集まるかなんて、そんなのも重要なのかね?
 そんなの、折伏のうちに入るのだろうか?
 そんなことで、平成27年と平成33年の誓願達成に何の関係があるのだろうと思う。

 何もしていないのに能書き垂れる、不良講員の独り言でした。
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