報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「東京での一夜」

2017-03-31 15:01:50 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月26日16:15.天候:曇 東京都千代田区・鉄鋼ビルディング1F→ホテルメトロポリタン丸の内]

 バスは首都高速をひた走って東京都心へ出た。
 そして、新しく建て直しをされた鉄鋼ビルディングの1Fにあるバス乗り場に到着する。

 稲生:「到着しました」
 ダンテ:「うむ。では、降りよう。……イリーナ、いい加減起きなさい」
 イリーナ:「……はっ!」
 ダンテ:「寝る子は育つと言うが、もうそんな歳じゃないだろう?」
 イリーナ:「失礼しました!」

 稲生は荷棚から自分の荷物を下ろした。
 バスから降りる。

 稲生:「宿泊先は、ホテルメトロポリタン丸の内です」
 ダンテ:「ほお、上手く揃えたね」
 稲生:「恐れ入ります」

 というのは、東アジア魔道団が会談の場所に指定してきたのは、ホテルメトロポリタン山形だからである。

 イリーナ:「あのー、他の組から抗議が来てるんですけどォ……」

 イリーナは水晶球を手に、ドヨドヨした顔で言った。

 稲生:「え?何ですか?」

 ハイヤー乗り場で待っていた他の組が、一向にダンテが現れないので待ちぼうけを食らったらしい。
 あとは、やはり世界を股に掛ける超大魔道師たるダンテを一般のバスに乗せるとは何事だというもの。

 ダンテ:「放っておきなさい。もともと私のこの旅自体が、『鈍行乗り継ぎ一人旅』みたいなものだ。あえて商業便で日本入りを果たしたのもだね、その一環であって、何も大名行列をするつもりは無いんだから」
 イリーナ:「はあ……」

 鉄鋼ビルディングから歩いて数分ほどの距離に宿泊先のホテルはある。

 ダンテ:「しばらく来ないうちに、東京も変わったね」
 稲生:「この前のクリスマスパーティは、東京へ行かれなかったんですか?」
 ダンテ:「あの時は慌ただしかったから、ルゥ・ラでの移動を余儀無くされたよ」
 稲生:「そうですか」
 ダンテ:「バァルのヤツも、人間界に遊びに来たいってうるさいものだからねぇ……」
 稲生:「ちょっ……困ります!大魔王が人間界に来たら……」
 ダンテ:「ああ、分かってる。映画の“アルマゲドン”など、ただのB級映画に見えてしまうほどの大いなる災厄が訪れることになるだろう。どうせ行くなら、ルーシー女王並みに妖力を落として、お忍びで行くくらいじゃないとって言ったら黙ってしまったよ」
 稲生:「さすが大師匠様です」

 RPGでラスボスを張る魔王と言えば殆どが男性であり、実際に魔界アルカディアの国民達もそうだと思っていただけに、今度の魔王が女王になるということで混乱したらしい。
 あくまでも最初はバァルの代理統治権を持っただけで正式に即位していなかったこともあり、その頃は今の首相である安倍春明を連れて、よく人間界にお忍びで遊びに行っていた。
 ラーメン二郎を1人で平らげたジロリアンでもある。
 そんなことを話しているうちに、魔道師一行はホテルの前に着いた。

 稲生:「ここからエレベーターで上がります」
 ダンテ:「なるほど。これが最近流行りの方式か。中・下層フロアをオフィスとしてレンタルし、高層階をホテルにするというものだね」
 稲生:「そうです」

 もちろん、ホテルまでは直通エレベーターがある。
 たまたまこのタイミングで乗ったエレベーターは、稲生達だけだったので、稲生はこう切り出した。

 稲生:「あの、部屋割りの方なんですが……」
 ダンテ:「ん?」
 稲生:「御希望がツインルームということなんですが、これは大師匠様がお1人で……という意味ですか?」
 ダンテ:「はっはっはっ(笑) それだけと人数が合わないだろう?イリーナと2人だ」
 イリーナ:「あー、ユウタ君、何か変な想像してる?」
 稲生:「あっ、いやっ!そんなことは……!」
 ダンテ:「私とイリーナとは親子のようなものだ。年老いた父親を、娘が介護するようなものだな」
 稲生:(全然そんな風に見えないんだけど……)
 マリア:(むしろ師匠の方がBBA……)

 エレベーターが27階のロビーに到着する。

 稲生:「では、ここで……わっ!?」

 稲生がエレベーターを降りてびっくりしたのは、ロビーに鉄道模型のNゲージがあったからだ。

 稲生:「凄いなぁ、こういうのが普通にあるなんて!」

 もちろんただ単に飾ってあるのではなく、ちゃんと走っている。

 稲生:「マリアさんの屋敷のギミックに、鉄道模型なんかもいいと思いますが……」
 イリーナ:「コホン!ユウタ君、それより早くチェック・インしてきなさい」
 稲生:「あ゛!すいません……」

 稲生は急いでフロントに向かった。
 ダンテはソファに座りながら、笑みを浮かべた。

 ダンテ:「まあまあ、良さそうなホテルじゃないか。一泊だけして、しかも早朝出発するには勿体ないくらいだ」
 イリーナ:「そうですね。でも、ダンテ先生を安いホテルにご案内するわけにはいきませんから」
 ダンテ:「別に、雨露を凌げればいいんだよ」
 イリーナ:「そういうわけには行きませんわ」

 しばらくして、稲生が戻って来た。

 稲生:「お待たせしました。これがカードキーです」
 ダンテ:「おっ、ありがとう」
 稲生:「夕食まで時間がありますので、少しゆっくりできそうです」
 ダンテ:「うむうむ。ゆっくりしているといい」
 稲生:「?」
 イリーナ:「まず一発目にエレーナがポーリン組代表として、ダンテ先生に挨拶に来ると思うから。あとは、ナスターシャとマルファ辺りが空気も読まずに突入してくるでしょうね」
 稲生:「な、なるほど……」

 稲生達は今度はホテル専用のエレベーターに乗り込んで、客室へと向かった。

[同日17:00.天候:曇 ホテルメトロポリタン丸の内・シングルルーム]

 稲生:「はははっ、これは凄い!」

 稲生が入った部屋は、いわゆる『トレインビュー』というもので、眼下に東京駅を発着する列車が見える部屋であった。

 しばらくそれに見入っていたものだから、ホウキに跨る魔女が接近してきたことには気がつかなかった。
 と、そこへ部屋のチャイムが鳴る。
 さすがにそれは気付く。

 稲生:「はい!」

 稲生が部屋のドアを開けると、マリアがいた。

 稲生:「あっ、マリアさん」
 マリア:「早速だよ。大師匠様を訪ねて、国内にいる魔女達が集まって来ている」
 稲生:「いいんですかね?大師匠様は長旅でお疲れだというのに……」
 マリア:「そうだな」
 稲生:「僕達は何かすることがあるんでしょうか?」
 マリア:「師匠達からは何も言われてないから、別にいいんじゃないか?」
 稲生:「なるほど」
 マリア:「それより、夕食の時間まで一緒にいよう。せっかく、いい眺めの部屋に入ったんだし」
 稲生:「そうですね。ただ……」
 マリア:「ん?」
 稲生:「今気づいたんですが、このホテルの周りを魔女さん達が旋回してるのは何故でしょう?」
 マリア:「邪魔な奴らだな。眺望が台無しだ」

 マリアは不快そうな顔をした。
 だがそんなマリアも、ホウキで飛ぶことは無いものの、つい最近までは魔女の1人であった。

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