[2月11日11:10.天候:晴 DCJ(デイライトコーポレーション・ジャパン)秩父営業所]
タクシーが秩父市街のとある小さなビルの前に止まる。
極秘の研究開発が行われる地下研究所がある割には随分と市街地にあるが、町自体が小さなものと、逆にこんな街中にまさか秘密の研究所が……という裏をかいたものなのだろう。
尚、本当にヤバいものについては、アメリカ本体のド田舎に研究施設を構えるもよう。
孝之亟:「なるほど。確かに見た目に地方都市に構えている営業所そのものじゃな」
敷島:「ですよねぇ……」
それでも正面入口から入ると、ちゃんと入口にはPepperが配置されている辺り、そういった会社なのだと分かる。
Pepper:「いらしゃいませ。御用件は何でしょうか?」
エミリー:「ここの研究施設に用がある。分かるか?」
エミリーはPepperの持っているタブレットに手を当てた。
手袋を外して、右手を当てている。
右掌には赤外線通信のレンズが付いており、ここから何かを送信している。
Pepper:「お待ち申し上げておりました。すぐにお取り次ぎ致します」
孝之亟:「一体、何をしたのかね?」
シンディ:「御心配いりませんわ。姉とPepperの、無言の会話ですよ」
孝之亟:「そうなのか。随分とハイテクじゃのぅ……」
敷島:「ていうか、来ることは事前に伝えていたんだから、アリスのヤツ、出迎えに来いってんだ」
すると、受付奥のガラス戸が開いた。
擦りガラスになっていて、奥を見ることはできない。
所長:「これはこれは、遠い所をようこそお越しくださいました。私、こちらの営業所長を務めております山野辺と申します」
孝之亟:「突然押し掛けてしまい、申し訳ない。どうしても、まもなく完成するという私の新しい宝物を見たくなってしまいましてな……」
山野辺:「はい。ご準備の方はできております。どうぞ、こちちへ」
敷島達は山野辺所長の案内で、営業所の奥へと向かった。
ガラス戸の向こう側はまだ秘密部分では無く、社員や約束を取ってやってきた来訪者なら入れるエリアのようだ。
それでもセキュリティロボットが稼働していて、敷島達が来ると、壁際に寄って、ビシッと敬礼するのだった。
ただ、その相手は敷島や孝之亟というより、最上位機種であるエミリーとシンディの姉妹に対してという感じだ。
エミリー:「ご苦労」
シンディ:「ご苦労様、299号」
マルチタイプ姉妹もそう認識しているか、軽く挙手して答礼する。
セキュリティロボットからすれば、エミリー達は総隊長扱いなのである。
メイドロイドから見れば、メイド長だが。
奥にあるエレベーター、通常は上に上がるのだが、カードキーとパスコードの打ち込みで、地下研究所に行ける。
それで地下に下りると、地上階の営業所とは雰囲気が一変した。
それまでは近代的なオフィスといった感じだったのが、ここではメタリックな造りになっている。
ここにもセキュリティロボットは配置されていて、エミリーやシンディに敬礼してきた。
普段はビシッと稼働しているセキュリティロボットだが、ボーカロイドのファンクラブを勝手にネットワーク形成しているらしく、ボーカロイドがやって来たら、プログラムそっちのけでサインや握手をねだりに来る。
で、その度にエミリーやシンディにブン殴られるという……。
山野辺:「こちらでございます」
山野辺は更にカードキーとパスコードを打ち込んで、重厚な鉄扉を開けた。
敷島:「アリス!」
アリス:「タカオ、やっと来たのね」
孝之亟:「急に押し掛けてすまんのぅ。ところで、ワシの曽孫、2人目はまだかの?」
アリス:「タカオの子種が足りなくなっているようですので、シンディに電気ショックしてもらおうと思っていたところです」
シンディ:「いつでも御命令を」
敷島:「こらぁ!殺す気か!」
エミリー:「いや、簡単にその命令を聞くなよ、シンディ」
孝之亟:「それで、ワシの新しい宝物はどこじゃな?ん?場合によっては家宝に指定しても良い」
アリス:「こちらですよ」
アリスが更に研究室の奥へ案内する。
孝之亟:「おっ、そうそう。お前達も我が敷島家の家宝に指定するでな」
エミリー:「ありがとうございます」
シンディ:「大変光栄ですわ」
敷島:「一瞬俺もほっこりしかけたけど、エミリーのオーナーは平賀先生ですよ」
しかし、孝之亟は遠い孫の話を聞いていなかった。
孝之亟:「おおっ、あれがそうかね!?」
アリス:「はい、そうです」
ガラス越しにそれはあった。
台の上に仰向けに寝そべり、目を閉じている。
右腕の二の腕の部分には、ローマ数字でⅨの文字がペイントされていた(ボーカロイドは英数字、メイドロイドは“海シリーズ”と呼ばれる試作機が漢数字、それ以外の量産機は英数字)。
アリス:「早速、起動しますので、少々お待ちください」
アリス達、研究員達は直接中に入って機器を操作した。
孝之亟:「私らは外で待たされておるが、これは何を意味しておるのですかな?」
山野辺:「あってはならないことですが、起動に失敗した時の為です」
孝之亟:「失敗……というと?爆発とかですかな?」
山野辺:「それもありますし、万が一、暴走状態になる恐れがあります。このガラスは特注の超強化ガラスですので、マルチタイプの力を持ってしても、1回では壊れません」
シンディ:「それなら私が護衛で中に入りましょうか?私もマルチタイプですので、あの『妹』が暴走しても取り押さえできると思います」
山野辺:「あー……」
孝之亟:「うむ。確かにその方がいいかもしれんな」
山野辺:「では、どうぞ」
シンディもまた研究室内に入る。
入ると同時に、9号機が起動した。
ゆっくりと目を開けて、ゆっくりと上半身を起こす。
因みに服装は今、患者が着る手術着のようなものを着ていた。
アリス:「数値の方はどう?」
研究員A:「電力レベルはクリアです。通常起動に成功しました」
研究員B:「ウィルススキャンをしていますが、ウィルスは検知されていません」
アリス:「では2017年2月11日11時28分を以って、マルチタイプ9号機の完成を宣言します」
シンディ:「生誕、おめでとう。私はシンディ・サード。あなたの姉よ。識別信号で同型機だって分かるでしょう?」
研究員C:「言語認識、正常に作動しています」
アリス:「OK」
9号機:「初めまして。シンディ・お姉様」
敷島:「よーし!起動に成功したぞ!」
シンディ:「外を見てごらん。向かって左側にいる老紳士、あの御方があなたのオーナー様よ」
9号機:「私の・オーナー様……」
シンディはガラスの外に向かって手招きした。
孝之亟:「入っても大丈夫なのかね?」
敷島:「シンディがいいって言ってるんですから大丈夫でしょう。アリスも何もしていませんし」
敷島達も研究室の中に入った。
敷島:「そう言えば、この9号機に名前を付けませんと。名前は決められてますか?」
孝之亟:「案ずるな」
孝之亟はエミリーに持たせている鞄の中から、封筒を取り出した。
それを開けると、筆書きで書かれた1枚の半紙が出てくる。
孝之亟:「命名!デイジーじゃ!お前の名前はデイジーじゃ!」
シンディ:「あなたの名前はデイジー。9号機のデイジー。デイジー・ナインスよ」
デイジー:「……分かりました。私の・名前は・デイジーです・ね。認証・しました」
敷島:「何か、喋り方が前のエミリーに似てるな」
アリス:「まだ、言語ソフトが完全にインストールされきっていないのよ。もう少し待ってて」
敷島:「良かったですね、最高顧問。宝物が増えて」
孝之亟:「うむうむ。小切手を持って来たのじゃが、どこに納めれば良いかね?」
山野辺:「それはお引き渡しの時で結構です。今はあくまで起動実験の段階でして、動作テストはこれから行いますので……。起動テストは成功ですね」
孝之亟:「なるほど。正式にワシの物になる日が楽しみじゃわい」
シンディ:「そういうわけだから、テスト頑張って。くれぐれも私達に恥をかかせないで。特にそっちの1号機の姉さんは怖いから、怒らせるとビンタでは済まない……」
ゴッ……!(エミリー、余計なことを言う妹にゲンコツを食らわす)
シンディ:( ゚д゚)〜☆
エミリー:「博士達やオーナー様方の求めることにお応えすることができれば合格だから頑張れ」
デイジー:「は、はい」
タクシーが秩父市街のとある小さなビルの前に止まる。
極秘の研究開発が行われる地下研究所がある割には随分と市街地にあるが、町自体が小さなものと、逆にこんな街中にまさか秘密の研究所が……という裏をかいたものなのだろう。
尚、本当にヤバいものについては、アメリカ本体のド田舎に研究施設を構えるもよう。
孝之亟:「なるほど。確かに見た目に地方都市に構えている営業所そのものじゃな」
敷島:「ですよねぇ……」
それでも正面入口から入ると、ちゃんと入口にはPepperが配置されている辺り、そういった会社なのだと分かる。
Pepper:「いらしゃいませ。御用件は何でしょうか?」
エミリー:「ここの研究施設に用がある。分かるか?」
エミリーはPepperの持っているタブレットに手を当てた。
手袋を外して、右手を当てている。
右掌には赤外線通信のレンズが付いており、ここから何かを送信している。
Pepper:「お待ち申し上げておりました。すぐにお取り次ぎ致します」
孝之亟:「一体、何をしたのかね?」
シンディ:「御心配いりませんわ。姉とPepperの、無言の会話ですよ」
孝之亟:「そうなのか。随分とハイテクじゃのぅ……」
敷島:「ていうか、来ることは事前に伝えていたんだから、アリスのヤツ、出迎えに来いってんだ」
すると、受付奥のガラス戸が開いた。
擦りガラスになっていて、奥を見ることはできない。
所長:「これはこれは、遠い所をようこそお越しくださいました。私、こちらの営業所長を務めております山野辺と申します」
孝之亟:「突然押し掛けてしまい、申し訳ない。どうしても、まもなく完成するという私の新しい宝物を見たくなってしまいましてな……」
山野辺:「はい。ご準備の方はできております。どうぞ、こちちへ」
敷島達は山野辺所長の案内で、営業所の奥へと向かった。
ガラス戸の向こう側はまだ秘密部分では無く、社員や約束を取ってやってきた来訪者なら入れるエリアのようだ。
それでもセキュリティロボットが稼働していて、敷島達が来ると、壁際に寄って、ビシッと敬礼するのだった。
ただ、その相手は敷島や孝之亟というより、最上位機種であるエミリーとシンディの姉妹に対してという感じだ。
エミリー:「ご苦労」
シンディ:「ご苦労様、299号」
マルチタイプ姉妹もそう認識しているか、軽く挙手して答礼する。
セキュリティロボットからすれば、エミリー達は総隊長扱いなのである。
メイドロイドから見れば、メイド長だが。
奥にあるエレベーター、通常は上に上がるのだが、カードキーとパスコードの打ち込みで、地下研究所に行ける。
それで地下に下りると、地上階の営業所とは雰囲気が一変した。
それまでは近代的なオフィスといった感じだったのが、ここではメタリックな造りになっている。
ここにもセキュリティロボットは配置されていて、エミリーやシンディに敬礼してきた。
普段はビシッと稼働しているセキュリティロボットだが、ボーカロイドのファンクラブを勝手にネットワーク形成しているらしく、ボーカロイドがやって来たら、プログラムそっちのけでサインや握手をねだりに来る。
で、その度にエミリーやシンディにブン殴られるという……。
山野辺:「こちらでございます」
山野辺は更にカードキーとパスコードを打ち込んで、重厚な鉄扉を開けた。
敷島:「アリス!」
アリス:「タカオ、やっと来たのね」
孝之亟:「急に押し掛けてすまんのぅ。ところで、ワシの曽孫、2人目はまだかの?」
アリス:「タカオの子種が足りなくなっているようですので、シンディに電気ショックしてもらおうと思っていたところです」
シンディ:「いつでも御命令を」
敷島:「こらぁ!殺す気か!」
エミリー:「いや、簡単にその命令を聞くなよ、シンディ」
孝之亟:「それで、ワシの新しい宝物はどこじゃな?ん?場合によっては家宝に指定しても良い」
アリス:「こちらですよ」
アリスが更に研究室の奥へ案内する。
孝之亟:「おっ、そうそう。お前達も我が敷島家の家宝に指定するでな」
エミリー:「ありがとうございます」
シンディ:「大変光栄ですわ」
敷島:「一瞬俺もほっこりしかけたけど、エミリーのオーナーは平賀先生ですよ」
しかし、孝之亟は遠い孫の話を聞いていなかった。
孝之亟:「おおっ、あれがそうかね!?」
アリス:「はい、そうです」
ガラス越しにそれはあった。
台の上に仰向けに寝そべり、目を閉じている。
右腕の二の腕の部分には、ローマ数字でⅨの文字がペイントされていた(ボーカロイドは英数字、メイドロイドは“海シリーズ”と呼ばれる試作機が漢数字、それ以外の量産機は英数字)。
アリス:「早速、起動しますので、少々お待ちください」
アリス達、研究員達は直接中に入って機器を操作した。
孝之亟:「私らは外で待たされておるが、これは何を意味しておるのですかな?」
山野辺:「あってはならないことですが、起動に失敗した時の為です」
孝之亟:「失敗……というと?爆発とかですかな?」
山野辺:「それもありますし、万が一、暴走状態になる恐れがあります。このガラスは特注の超強化ガラスですので、マルチタイプの力を持ってしても、1回では壊れません」
シンディ:「それなら私が護衛で中に入りましょうか?私もマルチタイプですので、あの『妹』が暴走しても取り押さえできると思います」
山野辺:「あー……」
孝之亟:「うむ。確かにその方がいいかもしれんな」
山野辺:「では、どうぞ」
シンディもまた研究室内に入る。
入ると同時に、9号機が起動した。
ゆっくりと目を開けて、ゆっくりと上半身を起こす。
因みに服装は今、患者が着る手術着のようなものを着ていた。
アリス:「数値の方はどう?」
研究員A:「電力レベルはクリアです。通常起動に成功しました」
研究員B:「ウィルススキャンをしていますが、ウィルスは検知されていません」
アリス:「では2017年2月11日11時28分を以って、マルチタイプ9号機の完成を宣言します」
シンディ:「生誕、おめでとう。私はシンディ・サード。あなたの姉よ。識別信号で同型機だって分かるでしょう?」
研究員C:「言語認識、正常に作動しています」
アリス:「OK」
9号機:「初めまして。シンディ・お姉様」
敷島:「よーし!起動に成功したぞ!」
シンディ:「外を見てごらん。向かって左側にいる老紳士、あの御方があなたのオーナー様よ」
9号機:「私の・オーナー様……」
シンディはガラスの外に向かって手招きした。
孝之亟:「入っても大丈夫なのかね?」
敷島:「シンディがいいって言ってるんですから大丈夫でしょう。アリスも何もしていませんし」
敷島達も研究室の中に入った。
敷島:「そう言えば、この9号機に名前を付けませんと。名前は決められてますか?」
孝之亟:「案ずるな」
孝之亟はエミリーに持たせている鞄の中から、封筒を取り出した。
それを開けると、筆書きで書かれた1枚の半紙が出てくる。
孝之亟:「命名!デイジーじゃ!お前の名前はデイジーじゃ!」
シンディ:「あなたの名前はデイジー。9号機のデイジー。デイジー・ナインスよ」
デイジー:「……分かりました。私の・名前は・デイジーです・ね。認証・しました」
敷島:「何か、喋り方が前のエミリーに似てるな」
アリス:「まだ、言語ソフトが完全にインストールされきっていないのよ。もう少し待ってて」
敷島:「良かったですね、最高顧問。宝物が増えて」
孝之亟:「うむうむ。小切手を持って来たのじゃが、どこに納めれば良いかね?」
山野辺:「それはお引き渡しの時で結構です。今はあくまで起動実験の段階でして、動作テストはこれから行いますので……。起動テストは成功ですね」
孝之亟:「なるほど。正式にワシの物になる日が楽しみじゃわい」
シンディ:「そういうわけだから、テスト頑張って。くれぐれも私達に恥をかかせないで。特にそっちの1号機の姉さんは怖いから、怒らせるとビンタでは済まない……」
ゴッ……!(エミリー、余計なことを言う妹にゲンコツを食らわす)
シンディ:( ゚д゚)〜☆
エミリー:「博士達やオーナー様方の求めることにお応えすることができれば合格だから頑張れ」
デイジー:「は、はい」