報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 One Star Hotel

2021-06-30 20:18:20 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月22日17:45.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 運転手:「こちらでよろしいですか?」
 稲生:「はい、お願いします」

 東京駅からタクシーでワンスターホテルに向かった稲生とマリア。
 都内のタクシーは、殆どがクレカが使えるようになっている。

 稲生:「カードで払います」
 運転手:「はい、ありがとうございます。では、暗証番号をお願いします」

 稲生がイリーナのカードでタクシー料金を払っている間、マリアが先に降りる。

 マリア:「エレーナのヤツ、どういうつもりだ……」
 運転手:「ありがとうございました」
 稲生:「どうも」

 後から領収証と控えを手にした稲生が降りて来る。

 稲生:「じゃあ、行きましょうか」
 マリア:「うん」

 2人はホテルの中に入った。

 女将:「いらっしゃいませー。2名様ですね。どうぞ、こちらに」

 フロントにはビジネスホテルには似つかわしくない、着物を着た40代の女性がいた。
 旅館の女将としてなら、何の違和感も無いのだが。

 女将:「本日はどのような御予約でございましょう?」
 稲生:「あ、あの、今日から一泊で予約している稲生です。こちらが先日、エレーナが送ってくれた宿泊券で……」

 作者より年上ながら美人女将と言って差し支えない容姿の女将は、手に京扇子を持っている。
 稲生はそんな美人女将に緊張しながら、宿泊券を差し出した。
 もちろん、そんな稲生の心境をマリアはしっかり見抜いている。

 女将:「あーら!エレーナのお知り合いでしたか!」
 稲生:「そうなんです。あの……」
 女将:「私、このホテルのオーナーの妻です。オーナーは今、所用で出掛けておりまして……。それで私が今、代理を務めさせて頂いております」
 稲生:「そ、そうでしたか」
 女将:「本日は、どういったお部屋に致しましょう?」
 稲生:「シングル2部屋で予約していたと思いますが……」
 女将:「この券ですと、スタンダードシングル2部屋のみでございますのよ?今でしたら、一部屋につき、プラス550円ずつでデラックスシングルにグレードアップすることができます。如何でございましょう?」
 稲生:「あ、はい。それでお願いします」
 女将:「ありがとうございます」

 稲生が自分の財布の中から、マリアの分の追加料金も払っておいた。

 稲生:(さすがに追加料金分は、先生に請求が行かないようにしないと……)
 女将:「それでは、こちらがお部屋の鍵でございます」
 稲生:「ありがとうございます。因みにエレーナはいますか?」
 女将:「エレーナは今、『魔女の宅急便』の仕事をしておりますのよ。戻り次第、お伝えしましょうか?」
 稲生:「そうですね。そうして頂けますか」
 女将:「かしこまりました」
 稲生:「レストランは開いてますか?」
 女将:「はい。ただ、時短営業を行っておりまして、店内ご利用は20時までとなっております。お時間にご注意くださいね」
 稲生:「分かりました。朝食はどうですか?」
 女将:「朝食は通常通りでございます」
 稲生:「分かりました。それじゃマリア、先に荷物置いてこよう」
 マリア:「荷物があるのは勇太だけだろう?」
 稲生:「それもそうか。取りあえず、一旦部屋に行こう」
 マリア:「それはそうだ」

 稲生達はエレベーターに向かった。
 小さなホテルなので、エレベーターも6人乗りの小さな物が1基あるだけである。
 インジゲーターとボタンには地下1階もあるのだが、そこは表向きには機械室になっていて、その一画にはエレーナの部屋がある。
 エレベーターを呼んだ時、インジゲーターの表示は地下1階になっていた。
 尚、当然ながら地下は関係者以外立入禁止になっているので、客がボタンを押しても反応しないようになっている。

 稲生:「5階ですね」
 マリア:「うん」

 エレベーターのドアが閉まり、上に向かって動き出す。

 稲生:「オーナーの奥さん、初めて見たような気がする」
 マリア:「夫婦経営だとは聞いているから、いること自体はおかしくは無いけどね」
 稲生:「普段は事務とか掃除とか、そういう裏方の仕事をしているって聞いたからね」

 オーナーは不在ということだし、エレーナも魔女宅の仕事をしているとあらば、女将が接客をしなければならないということか。

 稲生:「それじゃ、荷物を置いたらすぐに行こう」
 マリア:「確かにお腹空いたね」

 エレベーターを降りて少し廊下を行った先の部屋が割り当てられていた。
 部屋は隣同士である。

 稲生:「それじゃまた」
 マリア:「行く時、また連絡して」
 稲生:「分かった」

 今度はカードキーではなく、普通の鍵である。
 オートロック式のドアを開けると、部屋の造りはオーソドックスだった。
 部屋の広さは、東横インと大して変わらない。
 ベッドの広さは東横インがシングルの部屋ながらダブルだったのに対し、こちらはセミダブルだった。

 稲生:「よしよし。それじゃ、行こうかな」

 稲生は室内の電話で、隣の部屋に掛けた。
 そしてマリアと合流すると、レストランに向かった。

[同日18:30.天候:晴 同場所 レストラン“マジックスター”]

 レストランはホテルに隣接したテナントである。
 ホテルとは建物が1階で繋がっていて、宿泊客はそこから出入りできる。
 名前の通り、ダンテ一門の魔道師が経営するレストランだった。
 表向きには創作料理店であるが、実際は魔法薬を使用した薬膳である。
 魔法薬にも使われるハーブなどの薬草をふんだんに使った料理が特徴だった。

 キャサリン:「ああ、女将さんね。最近、華道とか茶道を始めたみたいで、それで着物着て接客するようになったみたいよ」

 経営者でエレーナの先輩でもあるキャサリンが、ホテルの女将のことについて話した。
 店員は漆黒の髪に浅黒い肌をした、一見して中東系アラブ人女性のように見えるが、正体はキャサリンの使い魔であるカラスが擬人化したものである。

 稲生:「なるほど」

 尚、キャサリンにアメリカ人形メリーがマリアに見せた画像を見せたが、やっぱり2階建て木造校舎がどこの学校だかは分からないという。

 キャサリン:「私よりも、宅急便の仕事で全国を飛び回っているエレーナの方が詳しいんじゃない?」
 稲生:「やっぱりですか……」
 マリア:「ったく、あの野郎、どこをほっつき歩いてるんだか!」
 稲生:「あ、あの、読者の皆さん、マリアは日本語表記だと少し口が悪いですけど、英語では至って普通ですから」
 マリア:「誰に向かって言ってるの?」
 キャサリン:「普通、逆なんだけどね。英語の方が実際は口が悪いんだけど、日本語訳する時はあえてマイルドにするとか……。映画やゲームでは」
 稲生:「1927年頃、木造2階建て校舎の学校に寄贈されたジェシー人形か……」

 稲生の記憶に、何か靄が掛かっている感じがした。
 今のフレーズに何か聞き覚えがある。
 しかし、記憶がはっきりしない。

 稲生:「せめてエレーナが知っていてくれるといいんだけど……」
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“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 新富士~東京

2021-06-30 14:55:47 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月22日16:00.天候:晴 静岡県富士市 JR新富士駅→東海道新幹線730A列車1号車内]

 稲生達を乗せた臨時特急バスは、おおよそ定刻通りに新富士駅富士山口に到着した。

 

 大石寺に向かう便のバス停に停車する。
 もう既に運賃は払っているので、降りる時はフリーである。
 中扉からバスを降りた。

 稲生:「ようやくスタート地点に戻ってきましたね」
 マリア:「スタート地点?まだ途中でしょ」
 稲生:「ハハ……。それもそうか」

 稲生は苦笑して駅構内に入った。

 稲生:「おっ、ちょうどいい列車があるじゃん」

 バスとの接続は良い。
 これは恐らく、ダイヤ改正が行わてからだろう。
 実は先発の第1便に接続していた列車、第2便に接続していた列車とあったのだが、新幹線のダイヤ改正後は、両便のバス共に“こだま”730号に接続するようになった。
 接続といっても、バスが遅延した場合は当然乗り遅れることになる。
 JR東日本で言えば“みどりの窓口”に当たる出札窓口を、JR東海では“JR全線きっぷうりば”と称する。
 東海道新幹線のみの駅で、尚且つ“こだま”しか停車しない小規模駅であるが、そのような窓口は存在し、駅員も常駐している。
 で、稲生は窓口は行かず、隣接された券売機でキップを購入した。
 こちらも当然、クレジットカードが使える。

 稲生:「はい、マリアのキップ」
 マリア:「ありがとう」

 乗車券と自由席特急券が1枚になったキップが2枚出て来たので、1枚をマリアに渡す稲生。
 その足で、改札口へ向かった。

〔ピン♪ポン♪パン♪ポーン♪ 新幹線をご利用頂きまして、ありがとうございます。まもなく1番線に、16時13分発、“こだま”730号、東京行きが到着致します。黄色い点字ブロックの内側まで、お下がりください。この電車は、各駅に止まります。電車は前から16号車、15号車、14号車の順に、1番後ろが1号車です。グリーン車は8号車から10号車。自由席は1号車から7号車までと、13号車から16号車です。……〕

 ホームを歩いていると、接近放送が流れて来た。
 まだ、発車の時刻までは時間があるのだが、通過線のあるこの駅では、必ずと言って良いほど通過待ちを行うからだろう。

 マリア:「勇太、ちょっと待って。飲み物、買って行く」
 稲生:「ああ、分かった」

 マリアがホームの自販機で飲み物を買っている間、列車が入線してきた。
 往路と同じくN700Aであったが、こちらはAdvanceではなかった。

〔新富士、新富士です。新富士、新富士です。ご乗車、ありがとうございました〕

 ドアが開くと、ここでも下車客はある。
 名古屋始発ということもあってか、車内は空いていた。
 最後尾の車両に乗り込んで、2人の魔道士も車中の人となる。

〔「16時13分発、“こだま”730号、東京行きです。通過列車の待ち合わせを行いますので、発車までしばらくお待ちください」〕

 早速、轟音を立てて通過線を列車が通過していった。
 風圧と震動で、こちらの列車も揺れる。
 空いている2人席に座ると、マリアはバッグを荷棚に置いた。
 今度はバッグの中から人形達が出て来ない。
 どうやら寝ているようだ。

 マリア:「師匠からの連絡。どうやら、メリーを助けたことでクエストはクリアと見做されたようだ」

 マリアは水晶玉を取り出して言った。

 稲生:「おおっ、良かった!……で、どうする?このまま帰る?当初のクエストはクリアしたわけだし……」
 マリア:「いや、メリーの言ったことが気になる。どうせ今日は東京で一泊するんだろう?師匠に追加のクエストを頼んでみるよ」
 稲生:「分かった」
 マリア:「クエストをこなしていけば、勇太もマスターに認定される。そしたら、ようやく私と……ね?」
 稲生:「そうだね。先生が許可してくれるといいけど……」
 マリア:「クリアのアテの無いクエストだと、さすがの師匠も『帰ってこい』って言うだろなぁ……」
 稲生:「クリアのアテは無い?」
 マリア:「メリーのあの言葉だけだとよく分からない。あとは、木造2階建ての校舎の画像だけど……あんなの、当時の日本には沢山あったんだろう?」
 稲生:「1920年代の学校は……確かに、都市部でも木造校舎だっただろうなぁ……」

 その時、稲生に1つのある学校が浮かんだが……。

 稲生:(まさか、な……)

 さすがに出来過ぎだと思い、頭では否定した。
 そして定刻になると、列車は走り出した。

[同日17:18.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]

 日本一過密路線の新幹線を進む各駅停車は、通過線のある所、必ず通過列車待ちを行なった。
 その為、本来なら1時間足らずで着ける所を、1時間5分掛けて進むのである。

〔♪♪(車内チャイム“AMBITIOUS JAPAN”イントロ)♪♪。まもなく終点、東京です。中央線、山手線、京浜東北線、東海道本線、上野東京ライン、横須賀線、総武快速線、東北、上越、山形、秋田、北陸新幹線と京葉線はお乗り換えです。お降りの時は、足元にご注意ください。今日も新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
〔「……17番線に到着致します。お出口は、左側です。お降りの際、電車とホームの間が広く空いている所がございます。お降りの際は、足元にご注意ください。……」〕

 稲生:「新幹線だとあっという間だな。高速バスだと、まだまだ東名高速の上なのに」
 マリア:「そりゃそうでしょ。富士山の写真もルーシーに送ってやろう」
 稲生:「来日できるといいねぇ……」
 マリア:「東京オリンピックの関係者に成り済まして来るんじゃない?」
 稲生:「エレーナじゃあるまいし……」
 マリア:「だから私やエレーナみたいに、永住権取って居れば良かったんだよ」
 稲生:「まあ、結果論だし」

 マリアは荷棚からバッグを下ろした。
 列車がホームに入る。

 マリア:「それで今日の泊まりはどこ?勇太の家?」
 稲生:「いや、違う。ワンスターホテルw」
 マリア:「What!?」

〔東京、東京。東京、東京。ご乗車、ありがとうございました〕
〔「17番線に到着の電車は、折り返し17時33分発、“ひかり”653号、新大阪行きとなります。……」〕

 列車を降りる稲生達。

 マリア:「何でワンスターホテル?」
 稲生:「出発前、エレーナからの手紙が来たって言ったでしょ?」
 マリア:「ああ。『不幸の手紙』か?焼却処分しろって言ったでしょうが!」
 稲生:「それが一応、中身を確認してみたら、ワンスターホテルの宿泊券が入ってたもんで……」
 マリア:「あの守銭奴魔女、商売根性出しやがって……!」
 稲生:「スタンダードシングルに追加料金でデラックスシングルに泊まれるみたいだから、それにした」
 マリア:「この宿泊券、絶対後で師匠の所に請求が行くパターンだからな?」
 稲生:「えっ、そうなの!?」
 マリア:「勇太もまだまだ甘いなー」
 稲生:「す、すいません。でももう予約しちゃったんで……」
 マリア:「しょうがないな」

 マリアは溜め息を吐いた。

 マリア:「さっさと行こう」
 稲生:「はい」

 2人は改札口に向かって歩いた。
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“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 大石寺 2

2021-06-28 21:05:41 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月22日14:10.天候:晴 静岡県富士宮市上条 大石寺・奉安堂→売店(仲見世商店街)]

 日如上人猊下:「遠ごん各地より深信の当参、願い出により本門戒壇之大御本尊御開扉奉り、無始以来、謗法・罪障消滅、【中略】大願成就の御祈念を、懇ろに申し上げました」

 御開扉の最後に、御内拝に参集した信徒達に向かって、導師たる御法主上人が報告という形で説法する。
 但し、『願い出により』の以降は一言一句全く変わることはない。
 因みにこの御説法の全文を、全て漢字も交えて書き表すことのできる人は凄い。
 多分、このほんの一部分であっても、誤字はあるし、漢字変換できない物も存在する。

〔「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」〕

 この御説法が終わった後で、大御本尊を御安置している厨子が閉じられる。
 この際、一礼をするのがポイント。
 御本尊下付されている信徒なら、何の疑いも無くできる。
 その後で、分厚い二重の鉄扉が閉じられる。
 完全に閉じられるまで、唱題は続く。
 尚、顕正会の青年会館にも、両開き式の鉄扉が備え付けられた仏壇の置かれた広間がある。
 開閉時に唱題をする所は宗門と同じだが、作者をして、『宗教団体らしくなったなぁ』と思ったものである。
 もちろん、そのことを上長達に話したら笑われたが。
 ルーツはこの奉安堂にあったのだろう。
 鉄扉が完全に閉じると、一旦ここで唱題は終わる。
 そして、猊下が立ち上がり、信徒達の方を向いて一礼して下さるので、信徒達はこれに答礼する。
 信徒達は椅子に座ったままなので、どこかの某顕正会のように伏せ拝は行わない。
 そのことについて、某顕正会が色々と言っているらしいが、宗門は馬耳東風である。
 というか、創価学会でさえ指摘しないようなことを顕正会は変に指摘してくるのである。

〔「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」〕

 そして、猊下を始め、上座にいらっしゃる御僧侶方が引き上げるので、信徒達はそれが終わるまで唱題を続ける。
 これは猊下が『現代における日蓮大聖人』たる存在である為である(なので、御開扉開始時間になって、猊下がお出ましになる際も、信徒達は唱題をして出迎えるのである)。

〔「退場に際しまして、注意事項を申し上げますので、席を立たずにそのままお待ちください。……」〕

 上座の御僧侶方が完全に引き上げられた時、ここでようやく唱題は終わって、退場の案内が流れる。

 田部井:「どうだった?久しぶりの御開扉は?」
 稲生:「はい。御開扉は半年ぶりですが、改めて僕は、例え魔道士であっても、日蓮正宗の信徒なんだなと実感しました」
 田部井:「そうだろうそうだろう。俺なんか3年ぶりだぞ」
 佐野:「洋平は自行もしっかりしないとイカンな」
 田部井:「いや、勤行はやってますよ。家にある御本尊にちゃんと拝めば、大御本尊様に拝むのと同じくらい功徳があるんだから」
 稲生:「『……だから、御登山はしなくて良い。御開扉を受けるのは一生に一度で良い』と嘯いた、某会長みたいなこと言わないでくださいよ」
 佐野:「池田名誉会長みたいなこと言いおって、この野郎」
 田部井:「いやいやいや、言ってませんよ!?」
 稲生:「いや、僕は浅井会長のことを言ったんですけど……」

 退場の順番になって、席を立つ。

 田部井:「藤谷班長から聞いたけど、稲生君、奉安堂の座席のシートピッチを測ったんだって?」
 稲生:「いや、ハハハ……」
 田部井:「どの電車の座席と同じだった?」
 稲生:「首都圏の中距離電車のグリーン車くらいでした」
 田部井:「あの2階建てのか。なるほどなるほど」
 佐野:「2人とも。大御本尊様の御前で、フザけた話はやめい」
 稲生:「はい」
 雲羽・いおなずん・カイドウ:「ギクッ!!」(←左側最前列席で、御開扉開始時間までパチンコ談義してた報恩坊の懲りない面々)

 奉安堂の外に出て、稲生達は仲見世商店街にある喫茶店に向かった。

 稲生:「マリアさん、お待たせー」
 マリア:「ああ、勇太。お疲れ」
 稲生:(眼鏡掛けたマリアもかわいい!)

 マリアは赤い縁の眼鏡を掛けていた。
 別に目が悪いのではなく、ラテン語で書かれた魔道書を手っ取り早く英語に翻訳してくれる魔法具だからである。

 稲生:「それじゃ、行こうか」
 マリア:「ああ」
 稲生:「ここは僕が払っておきます」
 マリア:「ありがとう。勇太は休憩しないの?」
 稲生:「バスの時間があるので……」

 稲生はマリアのお茶とスイーツ代を払った。

 稲生:「それじゃ、行きましょう」

 喫茶店をあとにした。

[同日15:00.天候:晴 大石寺・第二ターミナル→富士急静岡バス車内]

 

 新富士駅行きの特急バスは、土休日は3便運転されるが、平日は2便しか運転されない。
 しかし、それでいいのかもしれない。
 どちらにせよ、下山客は最初の1便目に集中しがちで、2便目以降は空席が目立つほどだからだ。
 やってきた2便目にして最終の下山バスは、全国的にも見られる大型ワンステップバスであったが、2人席が多く配置された、いわゆる『ワンロマ』と呼ばれる仕様であった。
 バスに乗り込んで1番後ろの座席に座る。
 一般の路線バスと違い、運賃は前払いである為、前扉から乗車することになる。
 尚、臨時便とはいえ、ICカードが使える。

 マリア:「勇太のことだから、帰りは高速バスだと思ってた」
 稲生:「僕もそうしたかったんだけど、コロナ禍のせいで全便運休なんだって」
 マリア:「日本は都市封鎖はしないけど、案外交通機関のロックダウンは行ってる?」
 稲生:「バスだけね。鉄道はしないよ」

 以前、ゴールデンウィーク期間中に首都圏の電車を減便してみたら、余計に混雑して却って3密を招いたことがある。
 正に、阿呆の極みである(作者も被害者なので、声を大にして言わせて頂く)。

 マリア:「それ、意味ある?」
 稲生:「無いと思う。ていうか、都市封鎖の一環で全便運休してるわけじゃないから」

 発車の時間になり、バスが発車した。
 14時40分発の第1便は満席に近い状態で出発して行ったが、こちらの第2便はその半分も乗っていなかった。
 まずは在来線の富士駅まで直行する。
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“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 大石寺

2021-06-27 19:58:31 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月22日11:30.天候:晴 静岡県富士宮市上条 日蓮正宗大日蓮華山大石寺]

 透視の終わったマリアは佐野家で少し休憩した後、稲生と一緒に大石寺に向かった。
 田部井は自分の車で行き、稲生とマリアは佐野の車で向かった。
 まずは登山事務所に向かう。

 僧侶:「それでは、2000円の御開扉御供養をお願い致します」
 稲生:「はい。お願いします」

 稲生は内拝券をもらうと、記帳台に行き、寺院名と寺院番号を書き込む。

 稲生:「どうして東京第布教区(※)だけ最後のページなんですか?」
 田部井:「うちのお寺の誓願達成率、万年全国最下位だからねぇ……。御住職様も一年おきに交代するくらいだし(※※)」

 ※フィクションであり、現時点ではそのような布教区は実在しておりません。
 ※※フィクションです。そもそも、正証寺自体が架空の寺院です。

 稲生:「東京第三布教区は二軍布教区ですか……」
 田部井:「いやあ、三軍じゃねw」
 佐野:「だったらキミ達、もう少し真面目に折伏しようね?」
 稲生&田部井:「すいません」
 佐野:「だいたい稲生君、あのマリア……さんとかいう人、折伏しないのかい?」
 稲生:「魔道士はどの宗教にも与しないという掟がありまして……。もちろん、入門前に信仰していた宗教は条件付きで続けることはできます。但し、魔女狩りを行うような宗派は禁止ですが。幸い仏教は魔女狩りの歴史が無いので、ダンテ一門では禁教にはなっていないです」
 田部井:「日蓮正宗の方が、むしろ魔女狩り(法難)に遭う側だったからね」
 稲生:「今のところ大っぴらに禁止されているのはキリスト教とイスラム教ですね」
 佐野:「イスラム教も」
 稲生:「というか、現代でも魔女狩りを行っているのはイスラム教の方ですよ」
 佐野:「キリスト教以上にテロと戦争が好きな宗派だからなぁ!」
 稲生:「ま、そういうことなんで、マリアさんは諦めてください」
 佐野:「それは残念だ」
 稲生:「それより僕はいいですけど、田部井さん、今日は仕事なんじゃ?」
 田部井:「せっかくだから有休取ったよ。幸い溜め込んでて、上司からそろそろ消化しろって言われてたから、すんなり取れたよ」
 稲生:「それはそれは」

 内拝券を手に、車に戻る。

 佐野:「さて、今度は新町の駐車場に移動しよう」
 稲生:「よろしくお願いします」

 車の中ではマリアが待っていた。
 手には手帳を持っている。
 透視で得られた結果を記入したのだが、それを纏めているのだ。
 取りあえず分かったことは、あの西洋人形メリーは、1927年にアメリカから渡って来た『青い目の人形』であること。
 静岡中央学園女学校に寄贈されたものであるということ。
 そして、大東亜戦争中に『敵国の人形』ということで処分されかけたこと。
 それをまだそこの学生だった佐野の母親が持ち出して、蔵の中に隠したことまでは分かった。
 その女学園は静岡市内にあり、静岡市もまた空襲の対象都市となった為に、実家の富士宮市(当時は上野村?)に疎開し、その際に蔵の中に隠したのではないかというのが佐野の考察だった。
 それを家族に話さなかったのは、佐野の母親が人形を無断で持ち出したことがバレないようにする為ではないかということだが、しかし終戦後もそれを話さなかったこと、卒業後も話さなかったことが謎だった。
 法律上は確かに窃盗罪にはなるだろうが、それとて時効があるから、時効後に話しても良かっただろうに。
 今であれば、『よくぞ人形を助けてくれた』と、美談になるだろうに。
 人形のことは、静岡県の教育委員会で働いている者が佐野の知り合いにおり、そのツテを利用して静岡中央学園に人形のことを話してみることになった。
 上手く行けば、メリーは1世紀近くぶりに母校に帰ることになる。
 分からないのは、メリーがマリアに言っていたこと。

 メリー:「東京に私の友達、ジェシーがいるの。どこかで生きてると思うけど、誰にも見てもらえないみたいだから、助けてあげて」

 とのことだった。

 マリア:「今度は東京か……」
 稲生:「えっ?」
 マリア:「東京だってさ。東京にミスター佐野の家みたいに、蔵のある家なんてあるのか?」
 稲生:「うーん……。八王子とか青梅とか奥多摩とかに行けばあるのかなぁ……。でも、本当に生きてるの?」
 マリア:「古い人形のインスピレーションはとても強いから、信憑性はあるよ」
 稲生:「生きているけど、皆に見てもらえない。確かに、蔵の中にずっといたメリーみたいだね」
 マリア:「他にも閉じ込められてるコ達がいるのなら、助けてあげないと」

 メリーはきれいにしてあげた後で、ボロボロになった服はミク人形の着替えをあげた。
 日本からアメリカに渡った『答礼人形』は規格がほぼ統一化されていたのとのことだが、『青い目の人形』に関しては規格もサイズもバラバラであった。
 しかし逆に、メリーがマリアの作った人形とサイズが同じであったのが幸いだった。

 稲生:「ていうか、ヒントは無いの?」
 マリア:「ヒントなぁ……。木造の校舎くらいしか出て来ない。だけど、人形が寄贈された頃の日本の学校の校舎って、みんな木造だったんだろう?」
 稲生:「そうだねぇ……。昭和時代に入ってから、鉄筋コンクリート造りの校舎が建てられた所もあったらしいけど、1920年代はそうだろうねぇ……」

 大石寺の仲見世商店街に面した駐車場に到着する。

 佐野:「腹が減っては何とやらだ。しっかり食べて、御開扉に備えよう」
 稲生:「はーい」
 田部井:「やった!伯父さんの奢り」
 佐野:「オマエ、いくつになったと思ってんだよ。自分で出せ」
 田部井:「えーっ!」
 佐野:「えーじゃない!」
 稲生:「ハハハハ……」

 稲生達は、まずは昼食を取ることにした。
 その後、マリアを除く3人は奉安堂へ。
 マリアは商店街で、稲生達が戻るのを待つことになる。
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“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 メリー

2021-06-27 16:17:10 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月22日09:13.天候:晴 静岡県富士宮市 JR西富士宮駅]

〔ご利用頂きまして、ありがとうございました。まもなく終点の西富士宮、西富士宮に到着致します。お降りのお客様は、運賃、乗車券、回数券は整理券と一緒に駅係員にお渡しください。Toikaは駅の改札機にタッチしてください。整理券のみのお客様は、運賃と一緒にお降りになる駅で、駅係員にお渡しください。どなた様も、お忘れ物の無いようにお支度ください。まもなく終点の西富士宮、西富士宮です。今度の駅では、全てのドアから降りられます〕

 富士宮駅で多くの乗客が降りていった。
 富士駅を出てから富士宮駅に着くまで、乗客が増えていったのだが、富士宮駅から先は数えるほどしか乗客が残らなかった。

 稲生:「やっぱり市街地で皆、降りちゃうんだね」
 マリア:「まあ、オフィスはそういう所にあるだろうからね」

 電車は西富士宮駅のホームに入線した。

 

 ワンマン運転なのだが、運転士はいちいち車掌スイッチを操作してドア扱いをするのだから、停車しても実際にドアが開くまでのブランクがある。
 身延線はこの駅まで複線。
 ここから北は単線となり、本数もグッと少なくなる。
 もしも創価学会が臨時列車を多数運転させていなければ、この路線の本数はそんなに多くなかったであろう。
 電車を降りると、跨線橋を渡って改札口に向かう。

 稲生:「ここからタクシーで、佐野さんの御宅へ向かいます」

 田部井信徒の母方の親戚の家ということで、名字が違う。
 改札口は自動改札機が設置されてはいないが、ICカードの読取機だけは設置されていた。
 それにSuicaを当てて出場となる。
 どこにでもあるような地方ローカル線の有人駅といった感じの駅舎の外に出ると、すぐタクシー乗り場がある。
 そこからタクシーに乗り込んだ。

 稲生:「えーと……」

 稲生は運転手に佐野家の住所を伝えた。
 運転手はナビに住所を打ち込んでいく。

 運転手:「それじゃ、ナビの通りに行きますから」
 稲生:「お願いします」

 タクシーが走り出した。
 ルート的には、大石寺に向かう方向のようだ。
 東京圏では見かけなくなったプリウスのタクシーが、地方ではまだまだよく見られる。
 東京圏で見かけなくなった理由は【お察しください】。

 稲生:「いよいよ、御対面ですね」
 マリア:「うん」

 さすがのマリアも、そろそろ緊張してきたようだ。
 ミク人形とハク人形は、バッグの中から顔を出して窓の外を眺めていたが。

[同日09:30.天候:曇 同市内某所 佐野家]

 西富士宮駅から車で10分ほど走った所に、佐野家はあった。
 昔は豪農だったのだろうか。
 周囲は田んぼに囲まれている場所であったが、大きな母屋が特徴だった。
 タクシーはその家の前に止まった。
 そして、敷地内には問題となったであろう土蔵もあった。
 で、敷地内には車が何台か止まっているが、その中に赤いフェアレディZがあったので、田部井信徒もいることが分かる。

 田部井:「稲生君!マリアさん!来てくれましたか!」
 稲生:「田部井さん、おはようございます」
 田部井:「早く、こっちへ」

 蔵ではなく、母屋に案内された。
 人形は蔵から出されたのだろうか。

 稲生:「マリアさん、靴脱いで!」
 マリア:「おっと!」

 ずっと洋館にいたせいか、靴を脱いで過ごすことを忘れていたマリアだった。

 佐野:「ようこそ、おいでくださいました。私、佐野と申します」

 奥から屋敷の主人と思しき70歳くらいの老人が現れた。
 しかし、歳より若く見えるほど足腰はしっかりしている。
 農業で鍛えた体だからだろうか。

 稲生:「稲生です。あー、正証寺の御講とかでお見かけしたことがありましたかねぇ……」
 佐野:「あったかもしれませんね。いつも洋平がお世話になっております」
 稲生:「いえいえ、そんな……!」
 田部井:「伯父さん。この人がマリアさん。あの人形を鑑定……というか、透視をしてくれる人」
 マリア:「マリアンナ・ベルフェゴール・スカーレットです。早速、人形を見せてください」
 佐野:「奥に置いてあります。どうぞ」

 佐野に付いて行くと、仏間に着いた。
 家も立派なら、仏壇も立派なものだ。
 今は厨子が閉じた状態になっているが、開けようと思えば電動で開くタイプであった。

 佐野:「こちらなんですがね……」

 それは古い桐箱に入れられていた。
 そこには毛筆で何か書かれていた痕があるのだが、すっかり滲んでしまい、読み取ることはできない。
 しかも、元々の字が旧字体だったのだろうと思うほど解読不能だ。
 そのことから、旧字体が使われていた頃からあったのだとは言える。

 マリア:「うっ……!」
 稲生:「こ、これは……!」

 桐箱を開けると、そこには古く汚れた西洋人形が収められていた。
 その人形を見た瞬間、魔力の強いマリアは目まいに襲われ、稲生は言い知れぬ圧を感じた。

 稲生:「特徴が……『青い目の人形』に似てますね?」
 マリア:「ああ。ちょっと会話してみる……。パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ……」

 マリアはダンテ一門オリジナルの呪文を唱えると、人形に手を触れた。
 次の瞬間、元々目を開けていた人形の目が、更にカッと見開かれた上、マリアだけがそこから暴風を受けたかのように、髪や服が大きく揺れた。

 マリア:「うっ……ううっ!……うう……!」

 マリアの頭の中に、この人形の言いたいことが全部流れ込んで来る。
 マリアの両目から涙が溢れて来た。

 稲生:「マリアさん!?」

 稲生はポケットからハンカチを取り出して、マリアに渡した。
 手を離したマリアが涙を拭きながら言った。

 マリア:「間違いない。この人形は1927年、アメリカから日本に寄贈された『青い目の人形』の1体だ……」
 田部井:「1927年!?今から約100年前の人形!?相当な値打物ですか!?」
 マリア:「この人形の名前はメリー。アメリカのパスポートも渡されていたはずだが、それは無い?」
 佐野:「いや、この箱の中に入っていたのはこの人形だけです」

 戦後、何十年も経ってから発見された青い目の人形は何体かあったが、パスポートまでセットで発見された個体は少ないという。

 マリア:「この人形は静岡中央女学園に寄贈されたものだという……」
 稲生:「静岡中央女学園。多分、今は名前が変わっているのでは?」
 佐野:「そうです。確か今は、静岡中央学園の中学校・高校になっているはずです。……ああ、それで思い出しました。私の母はそこの卒業生なんです」
 稲生:「静岡中央学園は、東京中央学園の姉妹校ですよ。この学校法人、元々は女学校から始まりましたから。その名残で、今も高等部は女子の方が数が多い」
 佐野:「おかしいですね。母は何も言っていませんでしたが……」

 佐野の母親は既に他界している為、本人から話を聞くことはできない。

 マリア:「もう少し詳しく話を聞いてみる」

 マリアは更に透視を続けることにした。
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