報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔女が根暗ばかりとは限らない」

2017-03-24 18:59:24 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月1日14:00.天候:晴 長野県白馬村郊外山中 マリアの屋敷]

 稲生:「本当に長野県は雪が多いねぇ……。除雪大変でしょ?」

 屋敷の屋根の雪下ろしや除雪は、マリアの人形達が行っている。
 ファミリア(使い魔)を持つのは魔道師のベタな法則ではあるが、自分が造ったものに魔法を掛けてそのまま使用するという類は案外……珍しいのかどうかは分からない。

 稲生:「この屋敷も広いからねぇ……。ダンジョンとしては面白いかもしれないけど、住む方としても結構大変……」

 尚、侵入者に対しては、ホラーアクションゲームを強制的にやらされるのが魔法使いの屋敷だ。
 ザコキャラとして、この屋敷の維持管理を行う人形達、最初の中ボスとして稲生、次にマリア、大ボスとしてイリーナが立ちはだかる……のだが、稲生は真っ先にやられ役で、マリアが完全に詰みキャラ役である。
 といっても、今年に入ってから侵入者など1人もいないのだが。
 来訪者ならある。
 あるのだが、もちろんこんな屋敷にホイホイ訪れるのは、同じ魔道師しかいなかった。

 稲生:「はい、どちら様ですかー?」

 正面玄関のドアを開けて、稲生は来訪者の対応をした。
 ドアの向こうにいたのは、黒スーツ姿にサングラスの男。

 男:「こんにちは。イリーナ先生はいらっしゃいますか?」
 稲生:「じょ、じょ……浄水器なら要りません!ダニエラさん呼びますよ!?」

 ダニエラとは稲生専属のメイド人形のことである。
 まるでロボットのように無口で表情も乏しいが、メイドとしての能力は高い。
 また、戦闘力も高く、マシンガンを片手で発砲できるほど。まるで、どこぞの猟犬と呼ばれたメイドさんのようである。

 アナスタシア:「あー、だから私が直接行こうって言ったのにねぇ……」
 男:「ですが、先生……」
 アナスタシア:「あー、いいからいいから」
 稲生:「アナスタシア先生でしたか……」
 アナスタシア:「私の弟子が驚かせて悪かったね。イリーナは起きてる?」
 稲生:「あ、はい。ご案内します。起きてる?
 アナスタシア:「相変わらず広い家だねぇ……。ここに3人しか住んでないなんて、もったいなさ過ぎるわ」
 稲生:「まあ、そうですね。アナスタシア先生は、どういう所にお住まいなんですか?」
 男:「それは内緒だ」
 アナスタシア:「いいんじゃない。日本においてはタワーマンションを買ってるよ」
 稲生:「凄いですねぇ……」
 男:「タワマンの最上階が、アナスタシア組日本拠点だ。ホウキで直接出入りできる便利な場所だ」
 稲生:「それはそれは……。(以前エレーナが、『タワマンの高層階は乱気流が強くて近づけない』とか言っていたような気がするけど……)」

 稲生はアナスタシア達を応接室に案内した。

 稲生:「こちらで少しお待ちください。すぐにお呼びします」
 アナスタシア:「起きてるといいわね」
 稲生:「ダニエラさん、お茶をお出ししてください」
 ダニエラ:「かしこまりました」

 稲生は室内のアンティークな固定電話の受話器を取った。

 稲生:「あ、先生。実は今、アナスタシア先生がお見えになってまして……はい。……あ、はい。よろしくお願いします」

 電話を切る。

 稲生:「すぐこちらに参りますので、少々お待ちください」
 アナスタシア:「いいよ。特に急いでないし……」
 稲生:「このすぐ近くの部屋にいらっしゃるとのことで、もうまもなく来ら……」
 イリーナ:「お待たせー」

 イリーナ、暖炉の向こうから現れる。

 アナスタシア:「あんたはサンタクロースか!」
 イリーナ:「たまたまこの屋根裏部屋で、魔道書の整理をしてたもんだから、ちょうど良かったさねー」
 稲生:「先生、いまダニエラさんがお茶の用意をしております」
 アナスタシア:「あ、そうそう。いくら打ち合わせと言っても、手土産無しじゃ、私も脱出ゲーやらされる恐れがあるので、これを持ってきたわ」
 イリーナ:「いいじゃないのよ。ちょうど今、新しいギミックを仕掛けていたところだったんだから、楽しんでいきなって」
 アナスタシア:「魔道書の整理やってたって言ってなかった?」
 稲生:(また新しい仕掛けが増えるのか……。3階に行く時、要注意だな……)
 アナスタシア:「せっかくの手土産なんだ。お茶じゃなくて、これで一杯やろうよ?」

 アナスタシアが持ってきた手土産は、ロシア製のウォッカだった。

 イリーナ:「やめときなさいって。あんた、昼間にウォッカを飲むと……」

 と、そこへまた呼び鈴が鳴った。

 稲生:「あれ?また来訪者ですね。アナスタシア先生以外に誰か?」
 イリーナ:「おかしいね。アタシはナスターシャ(※)しか呼んでないよ?」

 ※アナスタシアのロシア語における愛称。アーニャは間違い。

 稲生は急いでエントランスに行った。
 だが、応接室とエントランスは多少離れているのにも関わらず、その陽気な声が聞こえてきた時、2人の師匠は憂鬱な顔をしたのである。

 魔道師:「こんにちはー!きゃー!イリーナ、ナスターシャ、久しぶりー!」
 アナスタシア:「……後でポーリンに、頭痛薬くれるように注文しといてくれる?」
 イリーナ:「うんうん。2人分、注文しておくさね」
 稲生:「ちょっと困ります!勝手に入られちゃ!」
 イリーナ:「あー、ユウタ君、心配無いから。こいつも一応、師匠クラスだから」
 稲生:「ええっ!?」
 イリーナ:「マルファ組のマルファ・エリゴ・サハノビッチ。一応、アタシ達の同国人」
 マルファ:「マルファです!あなたが新しく入った日本人ね!よろしくー!」

 マルファは稲生の両手を取ってブンブンと振った。

 稲生:「ど、どうも。稲生勇太と申します。まだまだ新人の見習ですが、どうかよろしく……お願いします」
 マルファ:「あっ、ウォッカだー!いいねぇいいねぇ!私も御相伴に預かろー!」
 アナスタシア:「ちょっと自由人、勝手に触んないでくれる?」

 マルファは金髪のストレートボブである。
 何か、マリアを快活にしてもう少し大きくしたといった感じを受けた。
 イリーナやアナスタシアと比べれば背は低いものの、それでも稲生よりは高い。
 何か、ロシア人というより、ラテン系といった印象だ。

 イリーナ:「ま、いいさ。ロシアから飛んできたってことは、何か情報持ってきてくれたんでしょ?“魔の者”とか?」
 稲生:「えっ!?」
 マルファ:「ううん。ディズニーリゾートに来たついでー!」

 ズコーッ!

 アナスタシア:「帰れ、自由過ぎる人!会議の邪魔!」
 マルファ:「えー?いーじゃーん!」
 イリーナ:「あー……まあ、せっかく来たんだから、一緒に話でもしな。あー、ユウタ君、グラス3つ持ってきてくれる?」
 稲生:「あ、はい。ただいま」

 稲生は急いで隣の部屋に行くと、既に人形が用意していたグラスを持ってきた。
 ややもすれば陰険な性格の魔女が多い中、まるでラテン系のように陽気な、しかも師匠クラスのマルファが加わり、イリーナ達の打ち合わせが始まった。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「歌に隠された意味」

2017-03-24 13:39:53 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月14日17:00.天候:曇 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]

 初音ミクが今一度、“オホーツク旅情歌”を歌う。
 この歌詞の中に、大きな秘密が隠されているということだが……。
 敷島達は会議室の中にいた。
 白いスクリーンに映し出されているのは、北海道の地図である。

 シンディ:「『宇登呂(ウトロ)の浜辺に旅人がきたよ』という意味ですが、これだけでは何の意味もありません」
 敷島:「どういうことだ?」
 シンディ:「2番の歌詞、『日暮れの沙留(さるる)に旅人がきたよ』という意味と対を成して初めて意味が通じるのです」
 敷島:「? まだよく分からん」
 シンディ:「こういうことです」

 シンディは北海道の地図を動かした。
 具体的には歌詞に登場した地名の部分、つまり道東部分を拡大した。
 沙留と呼ばれた地名のある場所を点で光らせ、更に宇登呂と呼ばれた部分も点で光らせる。
 そして、互いに沙留から東へ宇登呂から北へ線を走らす。
 すると、その交点部分には……。

 敷島:「海……みたいだな」
 シンディ:「はい。この交点の底には、『初音ミク』が沈められています」
 敷島:「……は?」
 シンディ:「分かりませんか?ボーカロイドを開発したのは、エミリーを製造した南里博士なんですよ?ボーカロイドも、本来は兵器なんです。私達と同じように」
 敷島:「エミリー、シンディの言ってることは本当か?」
 エミリー:「本当です。どうしてそのヒントを音楽家が知っていたのか、どうしてそれを歌詞にしたのか、どうしてそれを最高顧問は御存知だったのかは存じません」
 敷島:「あの海の底を……探せというのか?」

 するとエミリーは首を横に振った。

 エミリー:「探しても無駄です。何も見つかりません」
 敷島:「どうしてそう言い切れる?部品だけでも……」
 エミリー:「私が回収したからです」
 敷島:「……っ!ますますワケが分からんぞ!?どういうことなんだ!?」
 エミリー:「南里博士は……『聴けば人間の脳幹を停止させる』という恐ろしい兵器を開発してしまいました。それが初音ミクです。分かりませんか?ボーカロイドが、どうして人間のアイドルとはまた別に多くのファンを魅了するのか……。あの者達の歌唱機能には、脳幹を停止させるまでは無いにせよ、人間の心情に巧みに訴える効果があるからなんですよ。平賀博士が、『研究の余地はあるから、せめて危険ではない程度に改良し、稼働テストを行ってみては?』と進言したので、南里博士も乗ったんですよ。だけども、やはり危険であるという懸念は拭えなくて……。それで、私に破壊命令を出されたんです」
 敷島:「それがあのフィールドテストだったのか!?」
 エミリー:「社長が面白いまでに私の追跡をミクと一緒に交わしてくれたので、南里博士も面白がりましてね。それで急遽、初音ミクの稼働を許可したんですよ。私の製作者でもありますが、ほんと、変わった人でしたね」
 敷島:「俺だけが知らなかったとは……!」
 シンディ:「私はウィリアム博士から聞いてましたよ。今から思えば、確かに南里博士より狂っていたウィリアム博士の、初音ミク破壊命令も至極妥当だったんですね」
 敷島:「今のミクは危険じゃないだろう!?」
 エミリー&シンディ:「危険ですよ」
 エミリー:「ただ、社長のおかげで安全に稼働できているんです。だからあなたは、究極にして至高のアンドロイドマスターなんです」
 シンディ:「他の人間がミクのユーザーだったら、とっくに死人が出ていましたよ?」
 敷島:「……!……!!」
 シンディ:「前期型の私の動きを、たかが歌で止めるほどです。お気づきにならなかったのですか?」
 敷島:「俺は……!」
 エミリー:「シンディ、その言い方は失礼だぞ」
 シンディ:「ゴメンなさーい」
 敷島:「ミクには『鉄腕アトム』の歌は歌わせなければいいんだな?」
 エミリー:「今のところは……。ただ、他にも歌わせれば危険な歌があるかもしれません」
 敷島:「大丈夫だ。ミクは歌で人間の心を癒せる優秀なボーカロイドだ。絶対に稼働停止にはさせんぞ」
 シンディ:「社長がお使いになっている間は大丈夫だと思いますが……」
 敷島:「とにかく、話を戻そう。つまり、今の『オホーツク旅情歌』の歌詞は何の意味も持たないということだな?」
 エミリー:「そういうことになります。実際にあの交点から回収した私が断言します」
 敷島:「分かった。それじゃ……」

 と、その時だった。

〔ファンフォン♪ファンフォン♪ファンフォン♪ こちらは、防災センターです。ただいま、地下2階で火災警報が作動しました。係員が確認しておりますので、しばらくお待ちください〕

 敷島:「な、何だ?火事か!?」
 シンディ:「地下2階と言いますと、地下駐車場のあるフロアですね」
 エミリー:「あと地下商店街です」

 防災センターは地下1階にある。

 敷島:「何だか物騒だな。いつでも避難できるように準備しておくか」
 エミリー:「はい」

〔ビューッ♪ビューッ♪ビューッ♪ 火災発生、火災発生。こちらは、防災センターです。只今の警報は、地下2階で火災が発生したものです。1階から地下階の皆様は、お近くの階段から、落ち着いて避難してください。それ以外のフロアの皆様は、避難指示が出るまで、その場でしばらくお待ちください。尚、エレベーターは使用しないでください。避難に際して、介助を御希望の方は……〕

 敷島:「おいおいおい!何があったんだ!?」
 シンディ:「何がって、火事ですわね」

 敷島達は会議室を出た。

 井辺:「社長、どうやら地下駐車場に止めてあった車が炎上したらしいです」
 敷島:「うちで借りてるリース車じゃないだろうな!?」
 井辺:「いえ、業務用駐車場に止められていた工事業者の車だそうで……」
 敷島:「地下駐車場だから高層階のここまで火の手が来るとは思えないが、一応避難できる準備はしておこう。事務所にいるボーカロイドを非常階段の近くに誘導してくれ」
 井辺:「はい!」
 敷島:「ミクもだ!イザとなったら俺達と一緒に避難するぞ!」
 初音ミク:「はい」

 無人となった会議室。
 その時、どういうわけだかプロジェクターが勝手に動いた。
 線と点が移動したのだ。
 それまではオホーツク海を指していたのだが、その反対側に移動したのだ。
 具体的には沙留から東へ伸びていた線が南へ移動し、宇登呂から北へ伸びていた線が西へ移動した。
 そして、北海道内にそれら2つの線が交差する。
 そこにできた交点が点滅し、吹き出しが現れる。
 その吹き出しには、こう記されていた。

 『マルチタイプ0号機、隠避地点』と。

 だが、火災が車1台の全焼だけで済んだことで避難せずに済み、再び敷島達が会議室に戻ってきた時は、その表示は消えて無くなっていたのである。
コメント (10)
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