[3月1日14:00.天候:晴 長野県白馬村郊外山中 マリアの屋敷]
稲生:「本当に長野県は雪が多いねぇ……。除雪大変でしょ?」
屋敷の屋根の雪下ろしや除雪は、マリアの人形達が行っている。
ファミリア(使い魔)を持つのは魔道師のベタな法則ではあるが、自分が造ったものに魔法を掛けてそのまま使用するという類は案外……珍しいのかどうかは分からない。
稲生:「この屋敷も広いからねぇ……。ダンジョンとしては面白いかもしれないけど、住む方としても結構大変……」
尚、侵入者に対しては、ホラーアクションゲームを強制的にやらされるのが魔法使いの屋敷だ。
ザコキャラとして、この屋敷の維持管理を行う人形達、最初の中ボスとして稲生、次にマリア、大ボスとしてイリーナが立ちはだかる……のだが、稲生は真っ先にやられ役で、マリアが完全に詰みキャラ役である。
といっても、今年に入ってから侵入者など1人もいないのだが。
来訪者ならある。
あるのだが、もちろんこんな屋敷にホイホイ訪れるのは、同じ魔道師しかいなかった。
稲生:「はい、どちら様ですかー?」
正面玄関のドアを開けて、稲生は来訪者の対応をした。
ドアの向こうにいたのは、黒スーツ姿にサングラスの男。
男:「こんにちは。イリーナ先生はいらっしゃいますか?」
稲生:「じょ、じょ……浄水器なら要りません!ダニエラさん呼びますよ!?」
ダニエラとは稲生専属のメイド人形のことである。
まるでロボットのように無口で表情も乏しいが、メイドとしての能力は高い。
また、戦闘力も高く、マシンガンを片手で発砲できるほど。まるで、どこぞの猟犬と呼ばれたメイドさんのようである。
アナスタシア:「あー、だから私が直接行こうって言ったのにねぇ……」
男:「ですが、先生……」
アナスタシア:「あー、いいからいいから」
稲生:「アナスタシア先生でしたか……」
アナスタシア:「私の弟子が驚かせて悪かったね。イリーナは起きてる?」
稲生:「あ、はい。ご案内します。起きてる?」
アナスタシア:「相変わらず広い家だねぇ……。ここに3人しか住んでないなんて、もったいなさ過ぎるわ」
稲生:「まあ、そうですね。アナスタシア先生は、どういう所にお住まいなんですか?」
男:「それは内緒だ」
アナスタシア:「いいんじゃない。日本においてはタワーマンションを買ってるよ」
稲生:「凄いですねぇ……」
男:「タワマンの最上階が、アナスタシア組日本拠点だ。ホウキで直接出入りできる便利な場所だ」
稲生:「それはそれは……。(以前エレーナが、『タワマンの高層階は乱気流が強くて近づけない』とか言っていたような気がするけど……)」
稲生はアナスタシア達を応接室に案内した。
稲生:「こちらで少しお待ちください。すぐにお呼びします」
アナスタシア:「起きてるといいわね」
稲生:「ダニエラさん、お茶をお出ししてください」
ダニエラ:「かしこまりました」
稲生は室内のアンティークな固定電話の受話器を取った。
稲生:「あ、先生。実は今、アナスタシア先生がお見えになってまして……はい。……あ、はい。よろしくお願いします」
電話を切る。
稲生:「すぐこちらに参りますので、少々お待ちください」
アナスタシア:「いいよ。特に急いでないし……」
稲生:「このすぐ近くの部屋にいらっしゃるとのことで、もうまもなく来ら……」
イリーナ:「お待たせー」
イリーナ、暖炉の向こうから現れる。
アナスタシア:「あんたはサンタクロースか!」
イリーナ:「たまたまこの屋根裏部屋で、魔道書の整理をしてたもんだから、ちょうど良かったさねー」
稲生:「先生、いまダニエラさんがお茶の用意をしております」
アナスタシア:「あ、そうそう。いくら打ち合わせと言っても、手土産無しじゃ、私も脱出ゲーやらされる恐れがあるので、これを持ってきたわ」
イリーナ:「いいじゃないのよ。ちょうど今、新しいギミックを仕掛けていたところだったんだから、楽しんでいきなって」
アナスタシア:「魔道書の整理やってたって言ってなかった?」
稲生:(また新しい仕掛けが増えるのか……。3階に行く時、要注意だな……)
アナスタシア:「せっかくの手土産なんだ。お茶じゃなくて、これで一杯やろうよ?」
アナスタシアが持ってきた手土産は、ロシア製のウォッカだった。
イリーナ:「やめときなさいって。あんた、昼間にウォッカを飲むと……」
と、そこへまた呼び鈴が鳴った。
稲生:「あれ?また来訪者ですね。アナスタシア先生以外に誰か?」
イリーナ:「おかしいね。アタシはナスターシャ(※)しか呼んでないよ?」
※アナスタシアのロシア語における愛称。アーニャは間違い。
稲生は急いでエントランスに行った。
だが、応接室とエントランスは多少離れているのにも関わらず、その陽気な声が聞こえてきた時、2人の師匠は憂鬱な顔をしたのである。
魔道師:「こんにちはー!きゃー!イリーナ、ナスターシャ、久しぶりー!」
アナスタシア:「……後でポーリンに、頭痛薬くれるように注文しといてくれる?」
イリーナ:「うんうん。2人分、注文しておくさね」
稲生:「ちょっと困ります!勝手に入られちゃ!」
イリーナ:「あー、ユウタ君、心配無いから。こいつも一応、師匠クラスだから」
稲生:「ええっ!?」
イリーナ:「マルファ組のマルファ・エリゴ・サハノビッチ。一応、アタシ達の同国人」
マルファ:「マルファです!あなたが新しく入った日本人ね!よろしくー!」
マルファは稲生の両手を取ってブンブンと振った。
稲生:「ど、どうも。稲生勇太と申します。まだまだ新人の見習ですが、どうかよろしく……お願いします」
マルファ:「あっ、ウォッカだー!いいねぇいいねぇ!私も御相伴に預かろー!」
アナスタシア:「ちょっと自由人、勝手に触んないでくれる?」
マルファは金髪のストレートボブである。
何か、マリアを快活にしてもう少し大きくしたといった感じを受けた。
イリーナやアナスタシアと比べれば背は低いものの、それでも稲生よりは高い。
何か、ロシア人というより、ラテン系といった印象だ。
イリーナ:「ま、いいさ。ロシアから飛んできたってことは、何か情報持ってきてくれたんでしょ?“魔の者”とか?」
稲生:「えっ!?」
マルファ:「ううん。ディズニーリゾートに来たついでー!」
ズコーッ!
アナスタシア:「帰れ、自由過ぎる人!会議の邪魔!」
マルファ:「えー?いーじゃーん!」
イリーナ:「あー……まあ、せっかく来たんだから、一緒に話でもしな。あー、ユウタ君、グラス3つ持ってきてくれる?」
稲生:「あ、はい。ただいま」
稲生は急いで隣の部屋に行くと、既に人形が用意していたグラスを持ってきた。
ややもすれば陰険な性格の魔女が多い中、まるでラテン系のように陽気な、しかも師匠クラスのマルファが加わり、イリーナ達の打ち合わせが始まった。
稲生:「本当に長野県は雪が多いねぇ……。除雪大変でしょ?」
屋敷の屋根の雪下ろしや除雪は、マリアの人形達が行っている。
ファミリア(使い魔)を持つのは魔道師のベタな法則ではあるが、自分が造ったものに魔法を掛けてそのまま使用するという類は案外……珍しいのかどうかは分からない。
稲生:「この屋敷も広いからねぇ……。ダンジョンとしては面白いかもしれないけど、住む方としても結構大変……」
尚、侵入者に対しては、ホラーアクションゲームを強制的にやらされるのが魔法使いの屋敷だ。
ザコキャラとして、この屋敷の維持管理を行う人形達、最初の中ボスとして稲生、次にマリア、大ボスとしてイリーナが立ちはだかる……のだが、稲生は真っ先にやられ役で、マリアが完全に詰みキャラ役である。
といっても、今年に入ってから侵入者など1人もいないのだが。
来訪者ならある。
あるのだが、もちろんこんな屋敷にホイホイ訪れるのは、同じ魔道師しかいなかった。
稲生:「はい、どちら様ですかー?」
正面玄関のドアを開けて、稲生は来訪者の対応をした。
ドアの向こうにいたのは、黒スーツ姿にサングラスの男。
男:「こんにちは。イリーナ先生はいらっしゃいますか?」
稲生:「じょ、じょ……浄水器なら要りません!ダニエラさん呼びますよ!?」
ダニエラとは稲生専属のメイド人形のことである。
まるでロボットのように無口で表情も乏しいが、メイドとしての能力は高い。
また、戦闘力も高く、マシンガンを片手で発砲できるほど。
アナスタシア:「あー、だから私が直接行こうって言ったのにねぇ……」
男:「ですが、先生……」
アナスタシア:「あー、いいからいいから」
稲生:「アナスタシア先生でしたか……」
アナスタシア:「私の弟子が驚かせて悪かったね。イリーナは起きてる?」
稲生:「あ、はい。ご案内します。起きてる?」
アナスタシア:「相変わらず広い家だねぇ……。ここに3人しか住んでないなんて、もったいなさ過ぎるわ」
稲生:「まあ、そうですね。アナスタシア先生は、どういう所にお住まいなんですか?」
男:「それは内緒だ」
アナスタシア:「いいんじゃない。日本においてはタワーマンションを買ってるよ」
稲生:「凄いですねぇ……」
男:「タワマンの最上階が、アナスタシア組日本拠点だ。ホウキで直接出入りできる便利な場所だ」
稲生:「それはそれは……。(以前エレーナが、『タワマンの高層階は乱気流が強くて近づけない』とか言っていたような気がするけど……)」
稲生はアナスタシア達を応接室に案内した。
稲生:「こちらで少しお待ちください。すぐにお呼びします」
アナスタシア:「起きてるといいわね」
稲生:「ダニエラさん、お茶をお出ししてください」
ダニエラ:「かしこまりました」
稲生は室内のアンティークな固定電話の受話器を取った。
稲生:「あ、先生。実は今、アナスタシア先生がお見えになってまして……はい。……あ、はい。よろしくお願いします」
電話を切る。
稲生:「すぐこちらに参りますので、少々お待ちください」
アナスタシア:「いいよ。特に急いでないし……」
稲生:「このすぐ近くの部屋にいらっしゃるとのことで、もうまもなく来ら……」
イリーナ:「お待たせー」
イリーナ、暖炉の向こうから現れる。
アナスタシア:「あんたはサンタクロースか!」
イリーナ:「たまたまこの屋根裏部屋で、魔道書の整理をしてたもんだから、ちょうど良かったさねー」
稲生:「先生、いまダニエラさんがお茶の用意をしております」
アナスタシア:「あ、そうそう。いくら打ち合わせと言っても、手土産無しじゃ、私も脱出ゲーやらされる恐れがあるので、これを持ってきたわ」
イリーナ:「いいじゃないのよ。ちょうど今、新しいギミックを仕掛けていたところだったんだから、楽しんでいきなって」
アナスタシア:「魔道書の整理やってたって言ってなかった?」
稲生:(また新しい仕掛けが増えるのか……。3階に行く時、要注意だな……)
アナスタシア:「せっかくの手土産なんだ。お茶じゃなくて、これで一杯やろうよ?」
アナスタシアが持ってきた手土産は、ロシア製のウォッカだった。
イリーナ:「やめときなさいって。あんた、昼間にウォッカを飲むと……」
と、そこへまた呼び鈴が鳴った。
稲生:「あれ?また来訪者ですね。アナスタシア先生以外に誰か?」
イリーナ:「おかしいね。アタシはナスターシャ(※)しか呼んでないよ?」
※アナスタシアのロシア語における愛称。アーニャは間違い。
稲生は急いでエントランスに行った。
だが、応接室とエントランスは多少離れているのにも関わらず、その陽気な声が聞こえてきた時、2人の師匠は憂鬱な顔をしたのである。
魔道師:「こんにちはー!きゃー!イリーナ、ナスターシャ、久しぶりー!」
アナスタシア:「……後でポーリンに、頭痛薬くれるように注文しといてくれる?」
イリーナ:「うんうん。2人分、注文しておくさね」
稲生:「ちょっと困ります!勝手に入られちゃ!」
イリーナ:「あー、ユウタ君、心配無いから。こいつも一応、師匠クラスだから」
稲生:「ええっ!?」
イリーナ:「マルファ組のマルファ・エリゴ・サハノビッチ。一応、アタシ達の同国人」
マルファ:「マルファです!あなたが新しく入った日本人ね!よろしくー!」
マルファは稲生の両手を取ってブンブンと振った。
稲生:「ど、どうも。稲生勇太と申します。まだまだ新人の見習ですが、どうかよろしく……お願いします」
マルファ:「あっ、ウォッカだー!いいねぇいいねぇ!私も御相伴に預かろー!」
アナスタシア:「ちょっと自由人、勝手に触んないでくれる?」
マルファは金髪のストレートボブである。
何か、マリアを快活にしてもう少し大きくしたといった感じを受けた。
イリーナやアナスタシアと比べれば背は低いものの、それでも稲生よりは高い。
何か、ロシア人というより、ラテン系といった印象だ。
イリーナ:「ま、いいさ。ロシアから飛んできたってことは、何か情報持ってきてくれたんでしょ?“魔の者”とか?」
稲生:「えっ!?」
マルファ:「ううん。ディズニーリゾートに来たついでー!」
ズコーッ!
アナスタシア:「帰れ、自由過ぎる人!会議の邪魔!」
マルファ:「えー?いーじゃーん!」
イリーナ:「あー……まあ、せっかく来たんだから、一緒に話でもしな。あー、ユウタ君、グラス3つ持ってきてくれる?」
稲生:「あ、はい。ただいま」
稲生は急いで隣の部屋に行くと、既に人形が用意していたグラスを持ってきた。
ややもすれば陰険な性格の魔女が多い中、まるでラテン系のように陽気な、しかも師匠クラスのマルファが加わり、イリーナ達の打ち合わせが始まった。