報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「改めて研究所を捜索」

2015-10-31 21:45:42 | アンドロイドマスターシリーズ
[9月21日16:00.天候:晴 宮城県栗原市郊外・KR団秘密研究所 平賀太一、1号機のエミリー、鷲田警視、村中課長]

 数々の罠を回避し、仕掛けを解いて、研究施設へ到着した平賀達。
「ここですか」
「よし。ここまでの道が確保できたのなら、部下達を呼べるな」
 鷲田はケータイを取り出した。
 地下でもちゃんと電波が入るようになっている。
「……ああ、そういうことだ。すぐに捜索を開始してくれ」
「あまり触んないでくださいよ、平賀教授?」
 村中の注意に、
「分かってますよ」
 しれっと答える平賀。
「エミリー嬢なら、指紋もDNAも付かないから大丈夫だとお思いですか?」
「それではダメですか?」
「『現場保存』とは何か?をご存知ですかな?」
「知ってますよ。できれば、私にも研究資料として分け前を頂きたいところなんですけどね」
「それは捜査報償費でお支払いしますよ。教授の研究費の足しにでもしてください」
「研究費は大学から出ているものと、メイドロイドの製作に関わる内容を企業とライセンス契約してるので十分なんですけどねぇ……」
 因みにそれは、デイライト・コーポレーションではない。
「ドクター平賀」
「何だ?」
 エミリーが平賀の服の袖を軽く引っ張って、隣の部屋を指さした。
「隣の部屋に何かあるのか?」
「平賀教授、あまり勝手に歩き回るのは……」
 村中が注意をしようとしたところ、
「まあ、部下達がやってくるまでの間だけ大目に見るとしよう。平賀教授の協力無くして、ここまでは来れなかったのだからな」
 鷲田警視が寛容的なことを言った。
「はあ……」
 上長に言われて、村中は黙るしか無かった。
 平賀はエミリーに連れられて、隣の部屋に行った。
 ここはどうやら映像資料室らしい。
 机の上に1枚の写真が置かれていたのだが、その写真に写っていたのは1人の女性研究員と……。
「これ、井辺プロデューサーと一緒に研究所から出て来た妖精型ロイドじゃないか!?」
 シーが写っていた。
 女性研究員の左肩にちょこんと座り、カメラに向かって笑顔を見せている。
「この研究員は誰だ?」
 平賀には見覚えは無かった。
 学会に出入りしている人間なら、見覚えはあるはずなのだが……。
「……よく分からん」
 平賀はなるべく指紋をつけないように手袋をしていた。
 他に棚や机を探してみると、他にも似たような画像を見つけることができた。
 そして、名前を見つけた。
「吉塚広美……聞いたことないな。まあ、KR団の人間だとするなら、表舞台には出てこないか……。といっても白黒写真だから、結構昔の人か?吉塚……どこかで聞いたこと……あるかも……」
 平賀が記憶の糸を手繰り寄せている間、さすがそこはロイドだ。
 エミリーの方が、自身のメモリーを検索してヒットしたものを更に精査して平賀に投げかけた。
「ドクター南里の・お葬式の・参列者に・『吉塚』と・いう名前の・方が・数名・おみえに・なって・おりました」
「南里先生のお知り合いなのか?それにしては、自分は聞いたことないなぁ……」
 身寄りの無い南里の葬儀、喪主を務めたのは南里に師事し、傾倒していた平賀自身であった。
 あの時は参列者のことにまで、とても気が回る状態ではなかった。
 そんな折、参列者の相手をしていたのは敷島であった。
「敷島さんなら覚えてるかなぁ……?」

[同日同時間帯 宮城県宮城郡利府町・セキスイハイムスーパーアリーナ 敷島孝夫、井辺翔太、3号機のシンディ]

「最後までライブを見たかったのに、残念です」
 会場内がライブ最終日で盛り上がりを始める中、タクシーに乗り込む井辺の姿があった。
「日が暮れる前に、病院に戻るんだ。MEGAbyteのことは俺に任せてくれ。今急げば仙台直通の電車に乗れる」
「分かりました。では、彼女達をよろしくお願いします」
「後でライブの映像は見せてあげるよ」
「それは助かります」
 井辺はタクシーに乗って、利府駅に向かった。
 と、そこへ今度は平賀から着信がある。
「はい、もしもし?」
{「あ、敷島さん、ちょっと電話よろしいですか?」}
「はい、何でしょう?」
{「昔の話で申し訳無いんですが、南里先生のお葬式のことは覚えてますか?」}
「ええ、まあ……。前期型のシンディが焼香に来て、びっくりしましたがね?」
 敷島は背後に控えるシンディの方を見ながら言った。
 そんなシンディ、当時の記憶(メモリー)があるのか、その時のことを思い出して薄笑いを浮かべた。
 シンディは喪服を着て参列した。
 後にも先にも、シンディのその姿を見たことはない。
 当時まだドクター・ウィリーの手先だったシンディに対し、エミリーが右手をマシンガンに換装して、一触即発の状態だった。
 もし南里の死の原因がウィリーにあれば、間違い無くエミリーは、シンディに“仇討ち”を挑んでいたことだろう。
 そんな姉機の警戒にも、シンディは悠然と焼香をして香典を置いていった。
 受け取れぬと断った平賀と押し問答になったことも覚えている。
「……『御霊前』の袋を開けたら、熨斗袋に『祝!成仏』と書かれていて、平賀先生とエミリー、烈火の如くお怒りになったでしょう」
{「ああ、そんなことありましたね」}
 エミリーは体をガクガクと震わせるほどであり、強制シャットダウンが自動で掛かるほどであった。
「……姉さん、まだ怒ってるかなぁ……」
 シンディは風に靡き、自分の顔に掛かる前髪をかきわけながら呟いた。
{「今回はそのことではなくて、敷島さんの記憶の中に、『吉塚』という名字の参列者がいないかってことなんです」}
「吉塚?……うーん……」
 敷島は記憶の糸を手繰り寄せていた。
「……70代のお婆さんとその娘さん、お孫さんの3人よ」
 と、シンディ。
「何で知ってるんだ?」
「……帰り際、参列者名簿、勝手にメモリーに入れたって言ったら怒る?」
「くぉらぁっ!!」
{「し、敷島さん?」}
「何か、シンディがあの時、勝手に自分のメモリーにコピーしたって言ってます」
{「ほお……」}
「やっぱ、姉さん、怒ってるかな?」
{「シンディ。後で・話は・詳しく・聞かせて・もらう」}
「……はーい……」
 電話の向こうでエミリーが両目をハイビームに光らせ、しかし顔は無表情を読み取ったシンディだった。
 かつてマルチタイプが7機フルで稼働していた時も、下の兄妹がヘマした時などは、長姉として厳しくしていたものだ。
 それを思い出した。
 よくエミリーにビンタされていた弟もいたし、レイチェルは説教食らっていた。
 シンディはのらりくらりと交わしていたが。
 さすがに、稼働している実妹がシンディだけとなっては、もはや風除けは存在しない。
「お姉ちゃん、わたしも一緒にエミリーお姉ちゃんに謝るよ」
 そこへ、従妹機のアルエットがやってきた。
「いや……いいよ。アタシの責任だし。多分、2〜3発はビンタされると思うから」
「ええーっ!?」
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“新アンドロイドマスター” 「一方その頃……」

2015-10-30 19:42:29 | アンドロイドマスターシリーズ
[9月21日14:00.宮城県栗原市郊外 KR団秘密研究所 平賀太一、1号機のエミリー、鷲田警視、村中課長]

 ボーカロイド達がライブで盛り上がろうとする中、自爆を免れたKR団の研究施設に警察の捜査が入っていた。
 警戒と専門的知識の為に、平賀とエミリーも同行している。
「何て施設だ!あちこちに危険な罠が仕掛けられてやがる!」
「さすがはKR団の日本拠点の……最終地点ですね」
 鷲田のボヤきに、平賀が冷静に答えた。
 因みに、今まで命の危機に瀕するロボットとの戦いは無い。
 エリオットは館内のバージョン3.0を、本当に旧館に全員集合させたようで、その残骸は全て旧館エントランスホールにあった。
 エミリーのスキャナーにも、引っ掛かるロボットは今のところいない。
「こりゃ1度、停電させてみるか?そしたら、罠は作動しなくなるだろう?」
「警視、それじゃエレベーターまで動かなくなって、詰んじゃいますよ?」
 村中がツッコミを入れる。
「むむ……。それもそうだな」
「いざとなったら、エミリーに何とかさせますから」
 と、平賀。
「お任せ・ください」
 先行するエミリーは振り向き、微笑を浮かべて言った。

 新館では頭部の無い女性の死体を発見した。
「こりゃ、サイボーグだな。人間を改造したヤツの」
「まさか、井辺プロデューサーがやったのではあるまいな?そのショットガンで」
「警視、傷の具合からして、散弾銃ではなく、狙撃銃によるものと思われますよ。それも、使うのに相応の訓練が必要なくらいの。敷島社長はともかく、井辺プロデューサーに使えますかね?」
「いや多分、敷島さんでさえ、そんな狙撃銃は使えないと思いますけど?」
 と、平賀は旧友の為に反論した。
「……そうか」
「これも証拠物件として押収だな。警視、この人間だかロボットだか扱いに困るのはどうしましょうね?」
「元は人間だったのだろう?だったら、荼毘に付すまで人間のホトケさん扱いでいいだろう」
「なるほど」
「そこにいるヤツみたいに、人の皮を被ったロボットだったら、扱いは楽なんだがな」
「失礼な。南里先生の遺作ですよ。それより早く、研究施設へ行きましょう」
「ああ、そうだな。研究施設へ下りるエレベーターは、この先だ」
 井辺は旧館側にアクセスするエレベーターに乗ったが、警察が押さえた情報では新館側からもアクセスできるらしい。

 エレベーターを起動させるのにも、仕掛けを解く必要があった。
「わざわざシリンダーを組み合わせなくてはならないとは……」
「建物自体も、違法建築で捜査しなくてはならんな……」
「こういう時、理系の知識のある博士が一緒にいてくれると助かりますよ」
「いや、簡単なパズルなんで」
 しれっと応える平賀。
「いざとなったら、エミリーに計算させる方法もありますし」
「お任せ・ください」
「機械に任せてばかりいたのでは、却って人間がバカになってしまうな」
 とにかく、起動させたエレベーターで地下研究所に降りた。

 古めかしい造りの地上の洋館と違い、研究所は今風の造りである。
 あきらかにこれがメインで、上の洋館はカムフラージュであることが分かる。
「因みに研究所は、井辺プロデューサーもそんなに探索はしていないようだな?」
「ええ。殆ど真っ直ぐ地上に逃げたようです」
「フム……」
「待って・ください」
「何だ?」
 エミリーが苦い顔になって一行を止めた。
「物凄い・数の・センサーです」
「なに!?」
 エミリーのスキャナーには、壁から天井から網の目に張り巡らされたセンサーが発見された。
「このまま・触れると・危険です」
「どこかで解除できないか?」
「ここにカードリーダーらしきものがあるが、カードキーがどこかに無いかな?」
 と、鷲田。
「途中、いくつかあった部屋を探せば落ちているかもしれませんね」
「警備室のような物を探して、そこで解除できるかもしれませんよ?」
「できれば、両方見つかると良いがな」
「じゃあ、ます手近な部屋に入ってみましょう」
 村中が何も書かれていない部屋の鉄扉を開けようとした時だった。
「村中課長、危険ですので、エミリーに開けさせてください」
「ん?そうか?」
「入った瞬間、いきなりダダダダダーっと撃たれても困るしな。このロボットなら機関銃で撃たれても平気なんだろう?」
「まあ、そうですね」
「では、開けてもら……!」
 その時だった。
「!?」
 黒いスモークの張られた廊下の窓を突き破って、赤い塗装が目立つロボットが襲い掛かって来た。
「うわっ!エミリー!」
「イエス!」
 エミリーは近接戦を得意とする。
 すぐにそのロボットに立ち向かい、
「はーっ!」
 まるで柔道の投げ技のように、そのロボットを掴んで投げ飛ばした。
 二足歩行のロボットは、それだけでは壊れず、立ち上がってヨロヨロと別の部屋のドアにぶつかる。
 左腕がドアノブに引っ掛かり、そのドアを開けるような形になる。
 と!

 チュドーン!!

「!!!」
 そのロボットが自爆した。
 いや、自爆というか……。
「ドアが爆発した!?」
「い、いや、違う。ドアが爆発したんじゃない。そのドアに爆弾が仕掛けられていたんだ!」
「何ですって!?」
「こりゃマズいぞ。不用意にドアを開けようとしようものなら、我々の命がいくつあっても足りない」
「さすがのエミリーも、そう何度も爆発を受けて平気なほど化け物じゃないですよ」
 困惑する村中と平賀。
 しかし、鷲田は咳払いをした。
「それなら、私に良い考えがある。さっきのロボットの体内にあったのか、細長いワイヤーが見えるのだが……。それを持って来てくれ」
「エミリー」
「イエス」
 エミリーは言われた通り、件の鉄塊と化したロボットの中から細長いワイヤーを引っ張り出した。
「これをドアノブに引っ掛け、離れた所から開ける。これなら直接、爆風を浴びることはあるまい?」
「なるほど。さすがは警視!」
「但し、実行役はカンベンだがな」
「それはエミリーにやらせます。……てか、誰が爆弾を……」
「エリオットのヤツ、こんなこともあろうかと思って、爆弾を仕掛けたのだろう。とんでもない悪人だ」

 取りあえず、鷲田の案で平賀達は捜索を再開した。
 爆発するドアとそうでないドアがあり、やはり爆発するドアの先には色々と警察が押収したいものがあった。
 そして何とかKR団のカードキーを手に入れ、それでセキュリティを解除し、更に平賀達は奥に進むことができた。
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“新アンドロイドマスター” 「ボーカロイド・フェスタ」

2015-10-30 15:29:08 | アンドロイドマスターシリーズ
[9月18日20:30.天候:晴 東北新幹線“やまびこ”197号10号車内 MEGAbyte(結月ゆかり、Lily、未夢)]

〔「……東北新幹線“やまびこ”197号、仙台行きと山形新幹線“つばさ”197号、山形行きです。次は、福島に止まります」〕

 “ボカロ・フェス”に参加する為、新幹線で移動する敷島エージェンシーのボカロ達。
 初音ミクなどの売れっ子達は9号車のグリーン車だが、まだ新人ユニットの3人は普通車である。

 大宮駅を発車直後、この3人ユニットに井辺無事の報がもたらされた。
 3人に搭載された通信機器を通して、敷島から直接伝えられたのと、

『虚構新聞ニュース 国際ロボット・テロ組織KR団の総帥エリオット・フォン・スミス容疑者を宮城県で逮捕。東京都内で誘拐された芸能プロデューサーも救出された』

 というニュースが車内の電光表示板で流れた。
「良かったですぅ……プロデューサー……」
 ゆかりは涙を流して喜んだ。
「ダメだよ、ここで泣いちゃ……」
 Lilyがゆかりの肩を抱いた。
 だが、いつもはクールなLilyも目に涙を浮かべている。
「でも、あいにくと“ボカロ・フェス”には来られないかもね」
 未夢はユニットの年長者らしく、もう少し冷静だった。
「社長の話では病院に運ばれて、色々と検査とかもしなきゃいけないわけだから……。本当は来てもらいたいんだけど……」
 すると、ゆかりは涙を拭いて答えた。
「いいんです。プロデューサーさんが無事なら、それで……」
「だけど、よくあんなテロ組織の総帥の所に拉致されて無事だったよねぇ……」
 と、Lily。
「社長なら普通に無双してそうだけど、まさかプロデューサーも?」
「意外とそうかもね」

 KR団総帥エリオット・フォン・スミス。病院に搬送されるものの、3時間後に死亡が確定。死因、バージョン3.0の転倒による圧死。致命傷、多臓器の破裂……。

[9月19日14:00.宮城県宮城郡利府町・セキスイハイムスーパーアリーナ 一海と井辺翔太を除く敷島エージェンシーの面々]

「いよいよこれから『ボカロ・フェス』が行われる。色々と紆余曲折あったわけだけども、これから3日間、全力で頑張ってほしい。キミ達の調整は既に万全だ。プログラム通りに動けば、ほぼ完ぺきにこなせるようになっている」
 敷島は所属するボカロ達を前に話を始めた。
「本来ならここに井辺君という優秀なプロデューサーがいるはずなんだけども、皆も知っての通り、彼は今、病院で検査入院中だ。ここに来られないのは残念だけども、その代わり、ビデオレターを預かっている」
「ええっ!?」
 敷島の最後の言葉にざわつくボカロ達。
「シンディ」
「はい」
 シンディは控室内にあるテレビとDVDデッキを引っ張り出すと、それでDVDを再生させた。

〔「えー、皆さん。この度は大変、ご心配とご迷惑をお掛けしました。私はおかげさまで、この通り、無事です。……」〕

 病室で撮影された井辺が映し出される。
「プロデューサーさん……」
「はい」
 また泣き出しそうになるゆかりに、ミクがティッシュを渡した。
「ありがとうございます……」

[同日16:00.同場所・バックヤード 敷島孝夫&3号機のシンディ]

 ステージは予定通りに始まった。
 他にボカロを抱える芸能事務所との共同ライブなので、トップバッターは違う事務所のボカロだったが。
 敷島は電話片手に、鷲田警視とのやり取り。
{「キミの所のロボットの映像を見たが、マシンガンを撃ち過ぎだ。全く。おかげでこっちは大事な被疑者が死んだんだぞ」}
「ああでもしないと、うちの社員が殺されるところだったんですよ。だいたい、階段を転げ落ちたのは、うちのシンディのせいじゃないでしょう?」
{「押収した妖精型のロボットだが、もう少し預かることになりそうだ」}
「何かやってました?」
{「今のところは何も。だが、動力などがさっぱり分からん。どうして今まで、あんなロボットが存在しなかったんだ?」}
「体が小さ過ぎて、逆に難しいんだそうですよ。だからエミリーやシンディなど、大きなモデル体型みたいになってるでしょう?」
 アルエットがマルチタイプでロリ化小型化・軽量化に成功していることで、学界では大騒ぎだったのはその為。
{「誰が製作したのかの解析を進めているが、井辺氏から情報は取らせてもらえないか?」}
「大丈夫なんじゃないですか?彼も結構したたかなもので、研究施設から記憶媒体いくつか持ち出してるみたいですから」
{「なにぃっ!?何故それを早く言わんのだ、バカモノ!!」}
「……どのお巡りさんも、事情聴取しに来ないんですもの……」
 敷島は唇を尖らせて答えた。
 とは言いつつも、
(コピーして平賀先生達に流してたから。てへてへw)
 が、正直な答えだったようである。

 そんなこんなで1日目、2日目ともイベントは成功した。

[9月21日10:00.JR仙台駅在来線ホーム ???]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。1番線に停車中の列車は、10時5分発、普通、利府行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕

 かつては寝台特急“北斗星”などが停車していたホーム。
 長大編成の列車に合わせ、ホームもその長さに合わせているのだが、それが実に勿体ないほどに短い編成の電車がポツンと停車している。
 その電車に、1人の男が乗り込んだ。

〔「ご案内致します。この電車は10時5分発、東北線下り、普通列車の利府行きです。東仙台、岩切、新利府、終点利府の順に止まります。松島、小牛田(こごた)方面には参りませんので、ご注意ください。……」〕

 たった2両の電車に乗り込んだ男は、詰めれば10人以上は座れる長い座席に腰掛けた。
 ダイヤは乱れていないので、定刻通りに発車し、定刻通りに到着できるだろう。

[同日10:45.セキスイハイムスーパーアリーナ 一海を除く敷島エージェンシーの面々]

「ホームへ降りてく〜♪人の織り成す波に〜♪ただ1人♪浮かんでたあのコ♪……」
 巡音ルカがソロで歌う持ち歌の調整をしている。
 と、
「すいません、敷島エージェンシーの控室はこちらでよろしかったですか、巡音ルカさん?」
「えっ?……ああっ、井辺プロデューサー!?隣の部屋です」
「どうも」
「あっ、てか……井辺プロデューサー?今日一杯まで、入院だったのでは?」
「先生に無理してお願いして、何とか外出許可だけでもらいました。おかげさまで、明日の午後に退院が伸びそうですが……」
「ええっ?」
 ルカの案内で控室に入る井辺。
「みんな!井辺プロデューサーが来られたわよ!」
 クールなルカが、ライブ以外で珍しく大声を上げた。
「ぶっ!」
 オイルを経口補給していた鏡音リンはびっくりして吹いたし、口腔内を整備していたKAITOはドライバーを咥えたまま走って来た。
「プロデューサーさん!」
 1番驚いたのはMEGAbyteの3人。
「皆さん、大変なご心配とご迷惑をおかけしました。せめてライブの最終日はこの目で見たいとの思いで、何とかやってきた次第です。私は……」
「あの、プロデューサー」
 そこへMEIKOが話の腰を負った。
「何ですか?」
「因みにプロデューサーがここに来るって話、社長は知ってるの?」
「いえ。社長とは連絡が付かなかったので……」
「て、ことは……」

 バンッ!とドアがいきなり開けられる。
 右手をマシンガンに換装したシンディが飛び込んで来た。
「そこまでだ!侵入者!!」
「わーっ!侵入者じゃありません!プロデューサーさんですぅ!!」
「シンディ、違うから!」
「銃を下ろしてくださいぃぃぃぃっ!」
 ゆかりとルカ、ミクで取り押さえる。
「なまじっかセキュリティ強化し過ぎると、こうなるのよねぇ……」
 MEIKOはちらっと井辺を見ながら言った。
「申し訳、ありません」
 井辺は右手を頭にやった。
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“新アンドロイドマスター” 「大救出!そして……」

2015-10-29 21:56:57 | アンドロイドマスターシリーズ
[9月18日18:00.宮城県北部某所 敷島孝夫、1号機のエミリー、3号機のシンディ、鷲田警視、村中課長]

 宮城県と秋田県の県境にある山林地域。
 そこを1機の警察ヘリが飛行していた。
「あそこ!」
 シンディが指さした所には、古めかしい洋館のような建物が建っていた。
「何だあれは?」
 村中がシンディの指さした方を見て目を丸くした。
 鷲田は冷静で、
「恐らくひなびた別荘地を買い取って、いかにもそれらしい建物を建てたのだろう。何とも、いかがわしい建物だ」
「社長!アタシと姉さんで、あの建物を捜索するわ!絶対にあそこが怪しいもの!」
「よし、分かった。鷲田警視、よろしいですか?」
「構わんさ。但し、証拠物件の滅失と犯人をいきなり射殺はやめてくれよ?」
「よし!あの洋館の上空に向かってくれ!」
「了解!」
 村中はパイロットに命じた。
 ヘリは洋館上空に向かう。
「降下するわ!」
「了解だ。無事に井辺君を見つけてくれよ」
 エミリーとシンディはヘリから飛び下りると、両足に備わる超小型ジェットエンジンを吹かして洋館に向かった。
「何か、二棟建てみたいね」
「シンディ。私は・向こうの・建物を・調べる。シンディは・手前側を・お願い」
「分かったわ」
 シンディは旧館側に降り立った。
 右手はいつでも攻撃できるよう、マシンガンに換装している。
 左目はスキャナーを起動させ、敵が潜んでいてもすぐに発見できるようにしている。
 もちろん、井辺もだ。
「!?」
 屋敷の外側を回ったところで、バージョン3.0の気配を感じた。
「ちょっと、そこの……」
 シンディに背中を向けている個体にマシンガンを向けながら話し掛ける。
 背中には46という数字が振られていた。
 シンディに声を掛けられ、振り向いた46号機だが、
「ヴー……」
 シンディの前に倒れて、ボンッと爆発した。
「な、何なの?」
 どうやらこの洋館で何かが起きているのは事実のようだ。
 個体をよく調べてみると、もともと何か損傷を受けていたらしい。
(プロデューサーが何かした?それとも……)

 屋敷の正面側に回ってみると、それは聞こえた。
{「助けてください!ここにいます!」}
「!?」
 突然、シンディの通信機に助けを求める声が入った。
 しかしそれは井辺の声ではない。
 電波が飛んできたのは屋敷の屋内のようだ。
 シンディは中をスキャンしようとしたが、弾かれた。
「どういうことなの?」
 いかにも古めかしい造りの洋館だが、どうもただの洋館ではないことだけは分かった。
{「助けてください!!」}
 もう1度、助けを求める声が聞こえた。
 精度を上げてもう1度中をスキャンすると、何とかギリギリ、ロイドの反応だけは感じた。
 だがもちろん、シンディのデータには入っていないアンノウンだ。
 もしかしたら、罠かもしれない。
 だが、このままでも埒が明かないような気がする。
「っえーい!!」
 正面玄関のドアを開けようとしたが、固く閉ざされていた。
 シンディは思い切って、そのドアに体当たりしてぶち破った。
「ああっ!?」
 シンディのカメラ(目)に飛び込んできたのはバージョン3.0の大集団、悲痛な助けを求める超小型の……妖精のようなもの。
 そして、バージョン3.0の個体の1つに首を絞め上げられている井辺の姿だった。
「何やってんだ、キサマらーっ!!」
 シンディは右手をライフルに切り替えて、井辺の首を持ち上げて絞め殺そうとしている個体の頭部を撃ち抜いた。
「し、侵入者だ!応戦しろ!!」
 ホテルのドアマンのような恰好をした男がバージョン3.0に命令した。
 わらわらとシンディに向かってくる3.0。
「テメーら!アタシが誰だか分かってんのか!!」
 シンディはのそのそとやって来る集団に向かって恫喝したが、どうやら彼らからはマルチタイプに対する畏敬や畏怖といった概念が消去されているらしい。
 闇雲に向かって来ていた。
 シンディは右手をマシンガンに換装し、集団に向かって乱射した。
 なるべく頭部を撃つようにする。
 床には気を失った井辺が倒れているため、下に向かって撃つと流れ弾に被弾する恐れがあった。
 幸いバージョン・シリーズは図体のデカいのが多い為、頭部に向かって撃つとちょうど良かった。
 シンディのあまりの強さにフリーズしたり、エリオットの命令に背いて逃げ出そうとする個体も現れた。
「こ、このっ!役立たずどもがっ!」
 次々と倒されていく3.0達に罵声を浴びせながら、エリオットはエントランスホールの吹き抜け階段を駆け上ろうとした。
 すると、シーがシンディの攻撃に当たらないように低空飛行しながら階段の裏側に回る。
「えいっ!」
 階段の裏側には、何か仕掛けがあったのだろう。
 何か仕掛けを作動させたシー。
「わあああっ!」
 その階段が突然滑り台と化し、2階に着こうとしたエリオットは1階まで滑り、転げ落ちた。
 まるでドリフターズのコントだ。
 だが、そこまでなら笑えるが、次の瞬間、笑える話ではなくなった。
「ヴオオオッ!」
 シンディに頭部を撃ち飛ばされた3.0がエリオットの上に倒れたのだ。
「あ゛っ、やばっ!」
 シンディのスキャンではエリオットは『人間』と出ている。
 恐らくこの男は敵なのだろうが、さすがに殺しはマズいと思った。
「オラッ、どけよ!」
 シンディは倒れた個体を足蹴にした。
「えっと……あの……大丈夫ですか?」
「うっ……ブボッ!」
 エリオットは自重が3桁を軽く行く3.0に潰されかかったということもあり、嘔吐と吐血を同時にした。
「警察だ!」
 そこへ鷲田警視達が突入してくる。
 どうやら地上からやってきた警官隊と合流したようだ。
「シンディ君!その人間は被害者かい!?」
 村中課長が額に汗しながらシンディに問うた。
「は、はあ……多分。階段から落ちたところを、倒れて来たバージョン3.0に潰されかかりまして……ですね」
「って、こいつは最近KR団の総帥になったばかりのエリオット・フォン・スミスじゃないか!?」
「何ですと!?」
「早く救急隊を呼べ!」
「はっ!」
 鷲田が他の警官に命じてエリオットの応急手当をしている中、村中が聞いた。
「井辺プロデューサーは見つかったかい?」
「あそこです!」
 シンディは急いで井辺の所に駆け付けた。
「プロデューサー!大丈夫ですか!?しっかりください!」
「うう……っ!……ゲホッ、ゲホッ!」
「おー、生きてる。だが、彼もボロボロのようだ。彼もまた医療機関にて治療を受けた方が良いだろう」
「お願いします」
「この悪者に関しては普通に救急車で搬送するが、井辺プロデューサーに関してはヘリでの輸送を許可する」
「警視!?」
「頭を打っていないようなら、すぐにヘリまで運べ」
 鷲田はシンディに命じた。
「……たまには、役に立つようなことをするな」
 そして、ポツリとそう言った。
 シンディは鷲田に向かって一礼すると、すぐに井辺を抱え上げた。
「ついてきてくれ。ランディング・ゾーンはすぐそこだ」
 村中はシンディを先導した。

 ヘリには待機していた敷島や戻って来たエミリーもいて、急いで乗り込むとすぐに離陸した。
「翔太さん、死んじゃダメだよぉ……」
 シーは井辺の顔に寄り添っていた。
「てか、アンタ誰!?」
 シンディは物珍しそうにシーを右手で掴んで持ち上げた。
「妖精型ロボット!?」
 敷島も初めて見る感じだった。
「一応、そのロボットはそこの研究所の製作物らしいね。ということは、証拠物件になるから、警察の方で預かるよ」
 村中は鳥かごを出した。
 毒ガスが噴射されていても良いように、小鳥を入れておくようの鳥かごだ。
「何か、護送みたいですね」
 意外と素直に鳥かごの中に入るシー。
「うう……」
 その時、井辺が意識を取り戻した。
「井辺君、大丈夫かい?」
 敷島が顔を覗き込む。
「社長……申し訳……ありませんでした……」
「いや、話は後だ。まずは病院へ……」
「社長、『ボカロ・フェス』へは……」
「病院で治療を受けてからだな。でも彼女達には、キミの無事を伝えておくよ」
「……シー君、ありがとう。キミの……おかげだ……」
「翔太さんこそ、2回も助けてくれてありがとう」
「社長……このコは……敵ではありません。処分だけは……許してください」
「まずは警察で捜査してからだよ、井辺プロデューサー。もし仮にこのコが人に危害を加えていたことが明らかになったら、さすがにそれはできない相談になるけどね」
「ボクは……何もしてません」
「メモリーは後で調べるよ」
「シンディさん……」
「なに?」
「助けてくれて……ありがとうございました」
「い、いえ……!アタシはただ、命令でやっただけで……。そ、その……お役に立てて何よりです……」
「シンディ。井辺プロデューサーに・膝を・貸して・差し上げろ」
 エミリーが妹機のシンディにそう言った。
「ええっ?」
「おっ、そりゃいいな。井辺君、病院に着くまで横になっていた方がいい。シンディ、膝枕してあげな」
「社長がそう言うなら……しょうがないわね」
 シンディは井辺に膝枕をした。

 夕日を浴びながら、町へ向かうヘリ。
 敷島は井辺を無事を関係各所に伝えるのに忙しくなり、村中は警察関係などへの連絡のやり取りで忙しくなった。
「たった1人の人間を助けただけなのに……。何か、違うね、姉さん?」
「何が?」
「昔みたいに、命令で反乱分子を粛清させていた頃より……何か、こっちの方がいいなって……」
「いつの・話だ?もう・私達に・そのような・命令を・出す・人間は・いない。……はずだ」
「はずだって……」
「大丈夫です……」
「プロデューサー」
「社長や平賀博士がユーザーもしくはオーナーである限り、もう2度とあなた達に人殺しを命令する者はいないでしょう……」
「ケガ人はおとなしく寝てなって。ねえ?姉さん」
「井辺プロデューサー・安心して・お休み・ください」
「はい……」
「あー、平賀先生ですか。彼女達は優秀ですよ。命の危機に瀕した人間を見事に救助した上、黒幕を逮捕に結び付けたんですからね。次回の学会の発表、頼みますよ?……あー、大丈夫ですって。技術・開発は先生にお任せしますが、営業は私に任せてくださいよ。ええ、それじゃ」

 おかげさまで、井辺が運ばれた病院の前にはマスコミが殺到するようになったという。
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“新アンドロイドマスター” 「絶体絶命」

2015-10-29 00:07:44 | アンドロイドマスターシリーズ
[期日不明 時刻不明 洋館地下牢エリア 井辺翔太]

 バージョン3.0-50を(別の意味で)自爆させた井辺は、再び牢屋まで戻ってきた。
 と、同時にそれまで電子ロックされていたドアが開き、そこからシーが飛び込んできた。
「シー君!」
「良かったぁ!翔太さん、無事だったー!」
 喜んだ様子で井辺の胸の中に飛び込んでくる。
「おかげさまで、何とか……。シー君もご無事で何より」
「うん!何とかエリオットの追跡を振り切ったんだ。で、脱出経路を見つけた。これでボク達、外へ出られるよ!」
「それは助かります!」
「こっちだよ!」
 シーが背中の羽を羽ばたかせて、井辺を先導する。
「何ですか、ここは?」
 それは、今までの洋館とは全く雰囲気の異なる空間だった。
 それまでは古めかしい設備が特徴だったが、ここは近代的な設備が整っている。
 何の設備かというと、明らかな研究所だ。
「まあ、研究所だね。ボクもここで造られたんだ……」
「そうですか」
「取りあえず、地上に行かないと出られない。エリオットは洋館の方に行っちゃったから、今のうちだよ!」
「了解です」
 どうせなら、ここの研究資料を持ち出してやりたかったが、そんな余裕は無い。
 敷島なら上手くそこをやってしまうのだろうが、井辺はまだまだ素人だし、それに……。
(シー君自身が証拠物件だな)
 と思うのだ、
「! シー君の造られた部屋とかは、どこですか?」
「これから通るよ」
 脱出経路の途中にあるらしい。
「まさか、翔太さん……?」
「シー君の設計図が持ち出せたら、素晴らしいと思います」
「そんな余計なこと……!早く脱出しょうよ!」
「ですが……!」
「まずはこの研究施設から抜け出さないと!」
 廊下の突き当たりにあるエレベーター。
 洋館側にあるのは木製のドアだが、こちらのは普通の鉄製だ。
 電源は入っていたが、ボタンを押してもうんともすんとも言わない。
「どういうことですか?」
「! しまった!そこの指紋認証機に指紋を通さないとダメなんだった!」
「どこかに指紋情報登録機は?」
「そんなもの……あったかなぁ……?」
「探してみましょう!」
 井辺は取り急ぎ、隣の部屋に飛び込んだ。
 そこは研究所の事務室になっているようだが、誰もいない。
 しかし、PCの電源を入れると立ち上がった。
「もしかして、これでは?」
 とある端末の横に指紋読取機のようなものが置いてある。
 PCのキーボードを叩いて、ようやく辿り着けた。

『(臨時)指紋情報を登録します』

 そして、読取機のクリアレンズが淡く光る。
 井辺は右手の人差し指をレンズの上に当てた。
 しばらくして、

『指紋情報を登録しました。認証番号……』

 と、画面に出る。
「これでよし」
「おー!」
「ついでに、この端末にある情報を根こそぎ頂戴します」
「えー!?」
 だが、
「!? コネクション・エラー!?しまった!気づかれたようです!急ぎましょう!」
 とは言いつつも、事務室とその隣にある小研究室なる部屋から、USBメモリーなどの記憶媒体を何個か持ち出すことは忘れなかったという。

 PCのアクセスはブロックされてしまったが、エレベーターは動いていた。
「ん!?」
 すると上に向かうに連れ、携帯型の通信機に何やら電波が入るようになった。
(本当に出口が近いのでしょうか?)
 ドアが開くと、再び洋館の風景が広がった。
「こっちこっち!向こう側の非常口の鍵が開いてたんだ!」
「なるほど!」
 だが、
「うわっ!?」
「ブブブブブブ!」
「キュルキュルキュル……!」
 廊下の途中にバージョン3.0が待ち構えていた。
 井辺は引き返す他は無かったのである。
「シー君!他に出口は!?」
「え、ええと……無いよ!」
「でも、ここは1階のはず!ということは、窓から脱出できるかも……」
 だが、窓に近づいたら近づいたで、
「!!!」
 窓をぶち破って、バージョン3.0が複数侵入してくるのだった。
「こっちもダメか!」
 井辺の睨んだ通り、バージョン3.0は旧館に集結していたようだ。
 手持ちの武器が無い井辺は、とにかく彼らから逃げる他は無かった。
 さっき気絶した時に、ハンドガンもスタンガンも奪われたからである。

 だが、そうして井辺は徐々に追い詰められていき……。
「くっ!しまった……!」
 旧館のエントランスホールに来ると、取り囲まれてしまった。
「やあ、どうも。人生最後の運動は気持ち良かったですかぁ?」
 2階吹き抜けのT字型階段を下りて来ながら、悠然とエリオットが言った。
「罠……だったんですね」
「執事として、お客様へのサービスですよ」
「……私にはやることがあります。どうか、ここから出しては頂けないでしょうか?」
「ここから出まして、どうなさるおつもりです?」
「これから『ボカロ・フェス』というイベントに行かなければなりません。ボーカロイドは人類に夢と癒しを与える使命があるのです」
「ほほぉ……。では、それは人類の為だと仰りたいのですね?」
「そうです!」
「ならば、この研究所も同じ事!大局的に見れば、これも人類の為なのです!井辺様は人類の役に立てるお仕事をされたいご様子。ではやはり、この実験に参加されるべきだと思うのです!」
「何故私がサイボーグにならないといけないのですか!?」
「強いロイドを使役する為には、人間側も強くならないといけません。でないと、ヒトと同じ思考を持った奴らは、必ず我々に反旗を翻す」
「それは……」
「現時点では確かに『考え過ぎ』だろう!あなたの近くにいるマルチタイプ。連中はその昔、大量虐殺を行っていたことは知ってますね?」
「……旧ソ連政府に対する反乱分子を粛清する命令を受けていたとは聞いてます」
「それが今や、何食わぬ顔で日本国内で稼働している。おかしいと思いませんか?」
「現ロシア政府や日本政府が黙認……あるいは黙殺かもしれないが、それならそれで良いのでは?とにかく、私は人間を辞める気はありません。以上です」
「そうか……。それは仕方無い」
 エリオットは右手を挙げた。
「引っ捕えろ!抵抗するなら殺して構わん!」
「ううっ!」
 一斉にバージョン3.0が井辺に向かってくる。
「これまでか……!」
 井辺が一瞬シーの方を向くと、シーは固く閉ざされた両開きの玄関の方を向いていた。
 そして、
「助けて下さい!ここにいます!!」
 シーが悲痛とも取れる叫び声を発するのと、井辺がバージョン3.0に捕まるのはほぼ同時だった。

 井辺は3.0達に吊るし上げられた。
 このままだと、嬲り殺しは必至だ。
「助けて下さい!!」
 シーは相変わらず、救助を求める声を発し続けた。
コメント (13)
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