報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「リサの誕プレ」

2023-01-30 20:18:38 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[10月1日13時00分 天候:晴 東京都中央区銀座 南原清士個展会場]

 リサをモデルにと言っても、桜谷さんの時みたいに、制作中ずっと立っていたり、座っていたりする必要は無いらしい。
 南原氏はリサに対してイマジネーションを掻き立てられたので、その感覚を素に作品を描きたいのだという。
 その為、リサの人物画が描かれたのだが、鉛筆によるラフ画程度であった。

 南原「これでいい。私のイメージが保存されれば、これであとはイケる」
 愛原「そういうものですか」

 怪奇画の描き方にも、色々あるのだろう。

 桜谷「リサ様、先ほど学校に電話しました。さすがに顧問の先生は休みでしたけど、2年生の伊藤先生が当直でいらっしゃったので、連絡しておきました」
 リサ「伊藤先生か」

 リサの美術の教科担任である。
 なので、リサは知っている。

 桜谷「南原先生のことも存じていて、すぐに話が付きました!」
 南原「それは良かった。作品は額縁に入っていたかい?」
 桜谷「それは入ってました。埃被っていましたけど……」
 リサ「確かに管理が悪い」
 南原「ホントにねぇ……。まあ、キミのように気に入ってくれた人なら、少なくとも大事にしてくれると信じてるよ」
 リサ「はい、ありがとうございます」
 愛原「そろそろ行くか。それじゃ、今日はありがとうございました」
 南原「こちらこそ、ありがとうございました」

 私達が滞在している間、個展には何人かの来訪者があった。
 中には売買契約を結んで行く、ブローカーのような出で立ちの者もいたから、南原氏も注目されつつあるのかもしれない。
 何せ、東京都が主催する、学生対象の絵画コンクールの特別審査員に呼ばれるくらいなのだから。

 チーン!(エレベーター到着のチンベル)

 南原「後であの絵は送りますね」
 愛原「よろしくお願い致します」

 私達はエレベーターに乗り込むと、南原氏と別れた。

 リサ「先生、お腹空いた」
 愛原「もうお昼過ぎたもんな。食べてから学校に行くか。高橋の情報だと、ウィンズの前にマックがあるらしい」
 リサ「おー、マック!」
 愛原「奢るよ」
 リサ「おー!」
 愛原「桜谷さんも」
 リサ「あ、ありがとうございます!」

[同日13時58分 天候:晴 同区銀座4丁目 東京メトロ東銀座駅→日比谷線1342S電車1号車内]

 

 案の定、リサはマックでビッグマックを注文した。
 小食そうな桜谷さんですら、ダブルチーズバーガーを注文するくらいだから、若いコはよく食べる。

〔まもなく4番線に、北千住行きが参ります。黄色いブロックの内側で、お待ちください。電車とホームの間に、広く空いている所があります。足元にご注意ください〕

 南原氏の絵を取りに、東京中央学園に向かう。
 幸い日比谷線なら、上野駅まで乗り換え無しで行ける。
 ホームで電車を待っていると、東京メトロの新型車両がやってきた。

〔ひがしぎんざ、東銀座です。足元に、ご注意ください。4番線の電車は、北千住行きです〕

 私達は先頭車に乗り込んだ。
 すぐにホームから、発車メロディが流れてくる。
 曲名は“ノスタルジア”という。

〔ドアが閉まります。手荷物をお引きください。無理なご乗車は、おやめください〕

 最近の流行りなのだろうか、電車のドアチャイムが、JR東日本の通勤電車のそれと同じ音色なのである。
 日比谷線ホームにはホームドアが無い為、電車のドアが閉まり切ると、運転室から発車合図のブザーの音が微かに聞こえてくる。
 それからハンドルを操作する音が聞こえて来て、電車が動き出す。
 この辺りは、都営地下鉄と大して変わらない。

〔次は築地、築地。本願寺前です。乗り換えのご案内です。有楽町線は、お乗り換えください〕

 座席は1つだけ空いている席に私が座り、2人の少女はその前に立っている。
 時折リサが電車の揺れに生じて、私の足と足の間に、自分の足を挟もうとしてくる。
 逆痴漢か!

 リサ「今日の私の誕パは、先生と『四天王』だけで参加するから」
 桜谷「そうなんですか。リサ様のお兄さんは参加されないんですね?」
 リサ「うん。お兄ちゃん、わたしより友達を選んだ」
 愛原「その言い方は、正しいけど酷いよ」

 私は苦言を呈した。

[同日14時13分 天候:晴 東京都台東区上野 東京メトロ上野駅]

〔まもなく上野、上野です。足元にご注意ください。電車とホームの間が、広く空いている所があります。出口は、左側です〕

 

 電車は少しずつ乗客を増やしながら、上野駅に到着した。
 東京メトロの本社もある上野駅は、乗降客も多い。

 愛原「桜谷さん、一緒に家に来るの?」
 桜谷「はい」
 愛原「それで、少し大きめの鞄なんだ」
 リサ「お泊りセット入ってる」
 愛原「ふーん……って、ええっ!?」
 リサ「せっかくの週末だし、今日は『魔王軍』のメンバーで、夜までドンチャン騒ぎ」
 愛原「マジか……」
 リサ「サクラヤ、わたしの誕プレは?」
 桜谷「学校に用意してあります。でも、家でお渡ししますね」

 恐らく、『魔王様の肖像画』とは別に制作したリサの肖像画ではないかな。
 私はそう思った。

 リサ「ん?リンからのLINE」
 愛原「上野凛さんか。彼女も『四天王』?」
 桜谷「そのようです」
 リサ「おー、そうか」
 愛原「何だって?」
 リサ「リコも連れて来ていいかだって」
 愛原「凛さんの妹さんだな。いいよ」
 リサ「ありがとう。寝る所は後で確保する」

 事務所から、エアーベッド持ってくるか。
 事務所に泊まり込むような仕事を想定して、つい購入してしまったが、ぶっちゃけ応接室のソファに横になってもいいんだよな。

 愛原「これで参加者は5人か。まあまあだな」
 リサ「うん、まあまあだね」
 桜谷「『魔王軍』のメンバー全員呼ぶと、大変なことになりますから」

 体育の時に率先してブルマを穿くのが『魔王軍』。
 普段は短パンだが、たまに穿くのが賛助者という位置づけ。

 桜谷「代表して『四天王』が参加するということになりました」
 愛原「うん、それはいいアイディアだな」

 私は大きく頷いた。
 もしも斉藤家が今でも無事に存在していたのなら、そちらに招かれて誕生日パーティーができたのだが、今はもう無理なので。
 私の狭いマンションで開催するしかないのだ。
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“愛原リサの日常” 「個展会場にて」

2023-01-30 11:26:33 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[10月1日11時00分 天候:晴 東京都中央区銀座 南原清士個展会場]

 南原清士「ただいまァ」
 受付係「お父さん、お帰りなさい」
 南原清士「今日も静かだナ……」

 南原は会場内のガラ空きを見て、嘆息した。

 受付係「でも、今日はお客さん、来てるよ」
 南原「なに?本当か!?」
 受付係「うん。この絵が欲しいんだって」

 受付係を務める、南原の長女は『仮面の少女』を指さした。

 南原「これか。お客さんというのは?」
 受付係「東京中央学園の人達だよ」
 南原「東京中央学園!ついに“トイレの花子さん”について、分かってくれる人達が現れたか!で、そのお客さんはどこに?」
 受付係「あそこの応接室」
 南原「よし!ちょっと行ってこよう!」

 南原は応接室に勇んで向かった。

 南原「失礼します!」

 入った瞬間、そこにいたのは、自分よりも年下の中年男が1人と、東京中央学園の制服を着た少女が2人であった。

 愛原「あ、お邪魔しております」
 南原「ようこそ、いらっしゃいました!南原清士と申します!何でも、『仮面の少女』の購入を御希望とか……」
 愛原「はい。このコが欲しがりましてね。ややもすれば、こいつも“トイレの花子さん”みたいなものですし」
 リサ「ちょっと、先生!」
 南原「はっはっは!これは面白い冗談を……」
 愛原「今日伺ったのは絵の鑑賞だけでなく、南原先生が東京中央学園の卒業生ということで、それに関してのお話をお願いしたいと思いました」
 南原「東京中央学園の?どういったお話でしょうか?」
 愛原「先生はセーラー服を着た女子高生達が、物の怪に襲われる作品を主に描かれていますね?」
 南原「はい。それはもう……」
 愛原「あのセーラー服、東京中央学園の旧制服に酷似しています。先生が現役生だった頃、まだ旧制服が使用されていた頃だったのですね?」
 南原「そういうことです。それが何か?」
 愛原「作品に描かれている化け物は、その殆どが新聞で特集された“学校の七不思議”の内容を一致します。先生も現役時代は、そういう怪奇現象に遭われたということですね?」
 南原「そうです。分かって頂けますか?当時の学園は、よほど何かを隠蔽したかったのか、新聞部が七不思議特集をやっても、知らんぷりでした。そこで僕が……当時、美術部員だった僕が、あのもようを絵に描いて訴えようとしたのです。それも、最初は無視されましたがね。……今から、40年ほど前の話です」

 つまり、1980年代ということである。
 その時代においても、既に東京中央学園上野高校は怪奇現象の宝庫となっていた。

 愛原「エロ描写を入れたのは?」
 南原「事実をありのままに描く必要があったのと、その方がより注目されるからです」
 リサ「セクハラ攻撃は本当にあったんだね!」

 リサはニヤッと笑って言った。

 南原「いつもいつも、あったわけじゃないがね。……ふむ」

 南原は、マジマジとリサの顔を見つめた。

 リサ「な、なに……?」
 南原「ちょっとマスクを取ってみてくれるかい?」
 リサ「え?」
 愛原「リサ、いいから」
 リサ「はあ……」

 リサはマスクを外した。

 南原「ふーむ……。愛らしい顔立ちの中に、どこか嗜虐的な空気を漂わせる『何か』を孕んでいる……」
 リサ「……!」
 南原「キミ、良かったら今度、絵のモデルになってくれないか?」
 リサ「ええっ、また!?」
 南原「また?」
 リサ「ついこないだまで、サクラヤの絵のモデルをやってたの」

 リサは桜谷を指さした。

 南原「そうだったのかい。それで、彼女をモデルにしてみて、どうだったかね?」
 桜谷「は、はい。それはもう……」

 桜谷はプロの画家の前に緊張しながら、しどろもどろになりながらも感想を述べた。

 南原「そうかい!キミ、今度のコンクールに出展するのかい!それは楽しみだね。モデルの選定に関しては、期待が持てるよ」
 桜谷「あ、ありがとうございます!」
 リサ「わたし、そんなに禍々しい?」
 愛原「何を今さら……」
 南原「キミ、自分でも分かってるのかい?」
 桜谷「だからこそ、『魔王様の肖像画』が成り立つんですよ?」
 リサ「ガーン!」😨
 愛原「アトリエはここですか?」
 南原「いやいや、ここは単なる個展会場です。私のアトリエは、自宅と兼用です」
 愛原「そうでしたか。因みに、リサをモデルにして、どんな作品のアイディアが?」
 南原「僕は今まで、怪奇に襲われる少女達の絵を描いてきましたが、『それを裏から操る黒幕』というのを描いてみたいと思っていたんですよ。おどろおどろしい怪奇の裏にいたのは、もっと不気味な存在……ではなく、実はこんな愛らしくも禍々しい、まるで鬼のような存在。そんな感じですね」
 リサ「おじさん、もしかして、わたしの正体、全部知ってる?」
 南原「お、おじさん!?」
 桜谷「リサ様、おじさんじゃないですよ」
 リサ「センセー」
 愛原「さすがは、インスピレーションを大事にする職業ですな。肝心のリサが動揺してますよ?」
 リサ「し、してない!」
 南原「こりゃ、失礼。モデルさんを動揺させてしまうとは、僕もまだまだですな。申し訳ない。お詫びと、モデルを引き受けてくれた御礼に、何か作品を1つ進呈したいのですが、何が宜しいですか?」

 リサはまだ『引き受ける』とは言っていないのだが、こうすることで、外堀を埋める作戦のようだ。

 愛原「リサは『仮面の少女』が欲しいようですが……」
 リサ「それとプラス!」

 すると、リサが乗り出してきた。

 リサ「プラス、欲しい物がある!」
 南原「な、何かね?」

 リサは学園の美術準備室にある、南原の作品について言った。

 南原「ああ!あの絵!?」
 リサ「美術の先生が、欲しかったら南原先生に言ってと言ってた。だから、あの絵が欲しい!」
 南原「あの絵は学園に寄贈したものだったんだけどね。だから、所有権は向こうにあるはずなんだが……。それにしても、展示されてなかったって?」
 桜谷「残念ながら……」
 リサ「セクハラ攻撃の部分が教育に悪いんだって」
 南原「何てことだ……!あれは全て、本当にあったことだというのに……」

 南原は頭を抱えた。

 南原「またもや、学園は隠蔽するつもりなのか……!」
 愛原「隠蔽工作は必ずバレます。というか、もう殆ど白日の下に晒されてはいるのですが」
 南原「え?」
 愛原「どうしても先生の作品が欲しいリサの為に、真相をお話ししましょう」

 愛原は特異菌の話をした。
 特異菌の内容については、既に公表されているので、この辺りは隠す必要が無い。
 これまで学園で起きていた怪奇現象は、その殆どが特異菌による幻覚症状であったことを説明した。

 愛原「……これはBSAAや政府から委託を受けているNPO法人デイライトの調査の結果です。嘘偽りはありません」
 南原「愛原さんも、政府のことを鵜呑みにするタイプのようですな。もう少し、遠くから俯瞰する目をお持ちになった方が良い」
 愛原「えっ!?」

 さすがは芸術家。
 芸術家によくある政治嫌いである。

 南原「とにかく、そういう見方もあるということは分かりました。……あの絵はキミに譲ろう。僕がそう言ったと、学園に言えばいいよ。もちろん、タダでいい。あんな美術準備室で日の目を見ないよりは、キミみたいに気に入ってくれた人に貰われた方がいい」
 リサ「ありがとうございます。……そうと決まったら、早く行こう!あの絵も早く包んで!」
 愛原「持って帰る気か!?」
 リサ「もちろん!」
 愛原「あれは展示品でもある。個展が行われている間は、展示するものなんだよ」
 リサ「また、誰かに買われたらどうするの!?」
 南原「それも大丈夫だよ。こういう、『売約済』の札を貼っておくからね」

 南原は笑いながら言った。

 リサ「売約済み!あの絵にも貼らないと!」
 愛原「学園にあるのは売り物じゃないんだから、それは必要無いよ」

 愛原は苦笑した。
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“私立探偵 愛原学” 「南原清士の個展」

2023-01-29 21:37:42 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[10月1日10時30分 天候:晴 東京都中央区銀座2丁目 南原清士個展会場]

 チーン!と、古めかしいエレベーターがフロア到着のチンベルを鳴らす。
 ドアが開くと、すぐ目の前が個展会場の入口である。

 受付係「いらっしゃいませ」

 入口には受付係の女性が座っていた。
 女性……というより、リサ達と大して歳の変わらない少女に見える。

 リサ「!」

 リサはその受付係を凝視した。

 受付係「な、何ですか?」
 リサ「似てる……!あの絵のコに……!」
 愛原「そういえばそうだな……」

 展示されている絵を見ると、物の怪の類に襲われている少女の1人に似てるような気がする。

 受付係「ああ……。父は作品の人物のモデルに、私達を使っているもので……」

 受付係の少女は、やっとリサの行動の意図が分かったようだ。

 愛原「父?画家の南原……先生は、御結婚されているのか」
 受付係「はい。……あ、こちらにお名前と連絡先を書いてください」
 愛原「おっ、そうだった」

 私が記帳している間にも、連れてきた2人の少女は興味津々に南原氏の作品を鑑賞した。
 リサはBOWとしての視点、桜谷さんは美術部員としての視点で鑑賞しているようだ。

 愛原「今、私『達』って言ったね?ご兄弟がいらっしゃるの?」
 受付係「はい。妹がいます」

 すると受付係は、リュウグウノツカイの化け物を釣り上げる少女達の作品を指さした。
 セーラー服姿の少女達。
 うち、1人は釣り上げる際に勢い余って尻餅を付いてしまい、スカートがまくれて、中の白いショーツが丸見えになってしまっている。

 受付係「この、釣り竿を持っている方が私で、隣にいるのが妹です」
 愛原「うーむ……。違いがよく分からん」

 これも芸術なのだろうか。

 受付係「あ、私達は双子なもので……。絵では見分けが付かないのも、無理はありません」
 愛原「あ、そうなんだ。揃ってセーラー服を着てらっしゃるけど、中学生?」
 受付係「いえ、高校1年生です。セーラー服は、父の趣味です。学校はブレザーです」

 何だ、そうなのか。
 聞くと東京中央学園ではなく、別の高校だという。
 無論、聖クラリス女子学院でもない。
 南原氏はまだそんなに売れてはおらず、画家だけでは生活できない為、都内のデザイン専門学校にて講師の仕事をしながら、作品を描いているのだという。

 愛原「あのコ達はね、東京中央学園のコ達なんだ」
 受付係「! そうなんですか!」
 愛原「お父さんがそこのOBだろう?お父さんの話を学校で聞いて、是非他の作品も観てみたいってことになってね。それで、こちらにお邪魔した次第さ」
 受付係「父はちょっと今、席を外してまして……」
 愛原「そうなのか」

 まあ、そのうち戻ってくるだろう。
 個展というからには、作品の販売もされている。

 愛原「何だか西村寿行の小説に、挿絵を付けたらこんな感じ?というのもあるなぁ……」

 幸い、超絶エロシーンの絵ではないので、そこまで教育に悪いというわけではないか。
 というか、それ以前に……。

 愛原「中には化け物にセクハラ攻撃されてる作品があるけど、あれもモデルになったの?」

 さすがにその質問は恥ずかしかったようで、長女は俯いた。

 受付係「ポ、ポーズだけは取りましたけど……。あとは父の妄想で……」

 妄想で文章を書く雲羽百三と、妄想で絵画を描く南原氏と、どう違うのかが一瞬気になった。

 愛原「そうなのか」

 値段を見ると、どれも諭吉先生を必要とする額だ。
 まあ、完成度は高いので、妥当な額と言える。
 あまり高い物でなければ、リサの誕プレに買ってあげてもいいかな……。
 それにしても、作品の内容は、何もセーラー服の少女達が化け物にセクハラ攻撃を受けている物だけではない。
 多くは人物画ではあるが、エロ要素の全く無い物もあった。
 例えば、『山仕事をする男』というタイトルの作品がある。
 これはどこかの山奥にて、スコップを持ち、正面を向いて仁王立ちになっている男の姿を描いたものだ。
 しかしこの男、何故かサングラスを掛けており、白いスーツに黒いワイシャツ、そして白いネクタイを着けているのだ。
 ただ、それだけの絵である。
 しかし、何だろう?
 『山奥に死体を埋めに来たヤクザの幹部』に見えてしまうのは、気のせいだろうか?
 それとは場所が対照的な物がある。
 今度は、『港湾労働者』というタイトルの作品だ。
 何故か深夜の埠頭で、ドラム缶の前に立つ、先ほどの男がいるのだ。
 そして、その後ろでは影絵になっているが、2人の人物がコンクリートを捏ねているのが分かった。
 確かに、『港湾で何かの労働をしている者たち』ではあるだろう。
 しかし、何だろう?
 『ドラム缶の中には死体が入っていて、これからコンクリートを詰め、それから海に投げ込む計画のヤクザたち』に見えてしまうのは気のせいだろうか?
 申し訳ないが、こんな絵が本当に売れるのかサッパリ分からない。
 本職のヤクザさん達に売るつもりか?

 愛原「リサ、何か良さそうな作品あったか?」
 リサ「うん……あった」
 愛原「本当か!?どれだ!?」
 リサ「これ……」

 リサが指さした作品は、明らかに私でも分かるものだった。

 愛原「“トイレの花子さん”か!?」
 リサ「うん、そう」

 それは『仮面の少女』というタイトルが付けられた作品だった。
 南原氏の娘達が基本的に夏服のセーラー服を着せられているのに対し、こちらの少女は冬服のセーラー服を着ている。
 しかも校章が明らかに、東京中央学園であった。
 木造の建物のどこかに力無く正座しており、こちらを左向きに振り返っている。
 そして、右手には仮面を持っているというもの。
 裸足だが、顔は物悲し気な雰囲気が滲んでいる。

 リサ「これはきっと……“花子さん”が自殺する前の絵だよ」
 愛原「そ、そうなのか」

 本名は斉藤早苗。
 おかっぱ頭であることと、タヌキ顔であるところはリサに似ている。

 愛原「これが欲しいのか?誕プレとしてなら、買ってやるぞ」
 リサ「ありがとう。第一候補として、これをエントリーしておくね」
 愛原「そうか。……ああ、ちょっとキミ。ちょっとこれ、『カートに入れる』にしてくれないかい?」
 受付係「は?」
 リサ「先生、通販じゃないんだから」
 愛原「おおっと!うちのリサが、この作品に関心を示しているので、キープしておきたいんだってさ」
 受付係「ありがとうございます!」
 愛原「南原先生は、まだお戻りにならないの?ちょっと話があるんだけど……」
 受付係「そろそろ、戻ってくると思います。もし良かったら、応接室でお待ちになりますか?妹が戻って来たので、お茶を出せますよ」
 愛原「ああ、そう?じゃあ、お言葉に甘えて……」

 私は応接室で待たせてもらうことにした。
 で、リサは最終的に『仮面の少女』を所望したのであった。
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“私立探偵 愛原学” 「リサの誕生日」

2023-01-29 15:38:17 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[10月1日09時00分 天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 リサ「いよいよ今日、17歳になります」
 愛原「うん、おめでとう」

 リサは朝食のトーストに齧り付きながら言った。

 高橋「見た目は13~14歳くらいだけどなw」
 リサ「お兄ちゃん!」
 愛原「だが、それがいい」
 高橋「先生!?」
 リサ「先生はロリババァが好きなんだもんね。わたしがGウィルスを保有している間は、ずっとそれが叶うんだもんね。変態w」
 高橋「おい!先生に何てこと言うんだ!」
 愛原「いや、ハハハ……。まあ、半分くらい当たってるから」

 リサには直接言ってないが、恐らく今の技術を持ってしても、体内のGウィルスを完全に消すことは不可能だろう。
 アメリカのシェリー・バーキン氏や、日本の善場主任みたいに、『体が化け物に変化しない程度に弱体化させることで、ほぼ人間同然とする』のが現実的ではないかと思う。
 アンチエイジングの効果が高過ぎるという副作用はあるが。

 リサ「それより今日は、連れて行って欲しい所がある」
 愛原「分かってるよ。ちょうど、高橋も友達と出かけるっつーから、ついでに乗せてもらうよ」
 高橋「サーセン。昔の、新潟時代の仲間が『東名を爆走したい』っつーもんで……」
 愛原「週末の東名なんて、渋滞当たり前で爆走できる余裕は無いと思うがな……」
 高橋「東名を走るというステータスが欲しいんだと思います」
 愛原「まあ、分かったよ。楽しんでこいよ」
 高橋「あざーっス!」
 愛原「但し、くれぐれも警察の御厄介になることの無いようにな?」
 高橋「わ、分かってます!」

 それから1時間ほどして、リサは学校の制服に着替えた。

 愛原「どうして制服なんだ?」
 リサ「画家の南原さんの話次第では、わたしも学校に行くから」
 愛原「そうなのか。じゃあ、俺もネクタイくらい着けるかな」
 高橋「先生!そろそろ、仲間が迎えに来ます!準備はいいっスか!?」
 愛原「ああ、頼むよ」

 案の定というか、新潟ナンバーの走り屋仕様の車が現れた。
 かつて新潟に行った時に世話になったメンバーとは、また別のメンバーだという。
 さすがに新潟の時、全員が集まったわけではないということで。

 愛原「俺達が新潟に行った時、走り回ってた人達?」
 高橋「はい。あん時は、遠征で山形まで行ってたそうです」
 佐藤「佐藤ッス!マサさんの先生、今日はよろしくオナシャス!」

 新潟に行った時にも佐藤という人物がいたが、その佐藤とはまた別人。
 新潟は佐藤という苗字が多い(のに乗じて、在日朝鮮人が通名で『佐藤』を使い、紛れ込んでいるので注意が必要である)。
 愛原「いや、途中の銀座まで乗せてくれればいいんだよ」
 高橋「どうぞ。先生は後ろに乗ってください」
 愛原「ありがとう。チェイサーのツアラーVに乗るの、久しぶりだな」
 高橋「でしょう?」
 佐藤「たぬき顔の中学生は、マサさんの女っスか?」
 リサ「た、たぬき顔……!」
 愛原「いや、誉め言葉だからね、リサ!?」

 あー、確かに。
 リサの場合、どちらかというと、キツネ顔ではなく、タヌキ顔だ。

 リサ「中学生じゃなーい!!」
 佐藤「えっ、違う!?」
 愛原「こう見えて、女子高生なの」
 高橋「紛らわしい見た目してるからだぜ。気にするこたぁ無ェよ」
 佐藤「は、はい」

 私達はリアシートに乗った。
 他にも仲間の車、ホンダのアコードの改造車とか、ランエボなんかもいたりする。
 私達が乗るので、佐藤の車に乗っていた別の仲間は、ランエボの方に乗って行った。

 愛原「道分かる?」
 佐藤「カーナビ付いてますんで。住所オナシャス」

 カーナビ搭載の走り屋……w
 いや、別にいいんだけど、何かイメージ的にミスマッチというか……。
 私は東銀座駅を入力した。

 高橋「東銀座駅でいいんスか?」
 愛原「いいんだ。そこで、桜谷さんと待ち合わせしてるし、そこから個展は歩いて行ける距離だ」
 高橋「分かりました。それじゃ、出発します。おい」
 佐藤「へい!」

 佐藤はマニュアルシートのギアを入れると、改造したマフラーを吹かしながら車を発進させた。
 後ろから、仲間の車も付いてくる。
 共同危険行為系のように、『竹槍』『出っ歯』が付いているわけではないが、それでもアホみたいにデカいウィングが付いていたり、車高をローダウンしていたりする。
 そして、ギアチェンジの際に、ボヒュウッという音がするのも特徴であった。

[同日10時15分 天候:晴 東京都中央区銀座4丁目 東銀座駅前→同区銀座2丁目 南原清士個展会場]

 車はカーナビと高橋の補助もあってか、迷うことなく、東銀座駅の前に着くことができた。

 愛原「ありがとう!」
 高橋「いえ。お役に立てて、何よりです」
 愛原「じゃあ、気を付けて行けな」
 高橋「はい。あざーっス!」

 高橋達はこの後、首都高に乗って東名高速を目指すという。
 恐らく、この近くにある銀座料金所から都心環状線に入るものと思われる。
 都心環状線と言えばルーレット族が有名だが、ちょっとそれを体験して、それから……といったところだろうか。

 愛原「あまり無理な走りはしないように」

 私はそう念を押して、車を降りた。
 一旦、地下鉄の駅に入るのは、そこで待ち合わせをしている桜谷さんと合流する為である。
 因みに彼女もまた、学校の制服を着ていた。
 彼女の場合、学校に行くのが目的ではなく、『プロの画家さんに会うので、キチンとした恰好で来た』とのことである。

 愛原「個展は銀座2丁目だそうだ」

 私達は一方通行の路地を進んだ。
 スポーツ新聞や競馬新聞を持ったオッサンをよく見かけるのは、この近くに中央競馬のウィンズがあるからだろう。

 愛原「ここだな」
 リサ「フツーのビル……」
 桜谷「緊張してきました……」

 個展の会場は古めかしい雑居ビルの中にあった。
 薄暗いエントランスから中に入り、ビルの外観同様、古めかしいエレベーターに乗り込んで、会場となっているフロアを目指した。
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“愛原リサの日常” 「リサと怪奇画」

2023-01-26 20:18:27 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[9月25日15時36分 天候:晴 東京都千代田区神田岩本町 都営地下鉄岩本町駅→都営新宿線1574K電車最後尾車]

 リサと桜谷は上野駅で別れ、リサはJR上野駅から山手線で秋葉原駅に向かった。
 そして、そこから徒歩で都営地下鉄岩本町駅に移動し、地下のホームに下りる。

〔まもなく3番線に、各駅停車、本八幡行きが、10両編成で到着します。ドアから離れて、お待ちください。この電車は、当駅で、少々停車します〕

 リサ「!」

 珍しく、中線に電車がやってくる。
 岩本町駅は2面3線の構造。
 上りホームと下りホームに挟まれるようにして、副線が存在する。
 この線路は、通過待ちに使われる。

 リサ(今日はこっちなんだ……)

 そして、中線に京王電車が入線してきた。
 “京王ライナー”などには使用されない、従来の車両(9050系)である。
 急行電車に抜かれるからか、車内は空いていた。
 あまり使用されない線路ではあるが、両側のホームにはホームドアが付いている。

〔3番線は、各駅停車、本八幡行きです。いわもとちょう、岩本町、秋葉原〕

 リサは電車に乗り込むと、ローズピンクの座席に腰かけた。

〔「15時39分の発車です。発車までご乗車になり、お待ちください。この電車は当駅で、急行電車の通過待ちを致します」〕

 リサがスマホを取り出すと、LINEの着信があった。
 それは高橋からだった。
 どうやら愛原も高橋も、マンションに帰っているらしい。

 リサ(『帰りに100円ローソンでお使い頼む』?……買い物には行ったはずだけど、買い忘れたんだね……)

 リサはマスクの中で苦笑した。
 高橋とやり取りしているうちに、4番線の下り本線を、別の京王電車が通過して行った。
 そちらは“京王ライナー”にも使われる5000系電車だった。
 但し、地下鉄用に座席を横向きにセットされている。
 京王電車ばかりが登場するが、ここは都営地下鉄である。

〔「お待たせ致しました。各駅停車の本八幡行き、まもなく発車致します」〕

 短い発車メロディがホームに鳴り響く。
 都営大江戸線でも使用されているメロディだ。

〔3番線、ドアが閉まります〕

 ホームドアと電車のドアが閉まる。
 都営の車両のドアチャイムがJR東日本の通勤電車のそれと同じなら、京王電車はJR東海の普通電車と同じ音色である。
 最後尾に乗っているので、車掌の発車合図のブザーが微かに聞こえてくる。
 それからエアーの抜ける音がして、電車が動き出した。

〔次は馬喰横山、馬喰横山。都営浅草線、JR総武快速線はお乗り換えです。お出口は、左側です〕

 リサ(今日の夕食は、生姜焼き定食か……)

 リサがそう思ったのは、お使いの中に、『生姜焼きのたれ』が入っていたからである。

 リサ(この前食べたのは、ポークソテーだったから……要は、ポークジンジャーだよね。……まあ、いいか。肉が食べれれば……)

[同日15時46分 天候:晴 東京都墨田区菊川 都営地下鉄菊川駅]

 リサを乗せた京王電車は、無事に菊川駅に到着した。

〔2番線の電車は、各駅停車、本八幡行きです。きくかわ~、菊川~〕

 電車を降りて、改札口に向かう。
 対向電車も来ることがあるので、強風には注意だ。
 実際、コンコースにもそのような注意書きが書かれている。
 特に、リサのような制服のスカートを穿いている場合は要注意である。

 リサ「ん?」

 改札口は定期で通過するから良いのだが、残額が少ないことに気づいた。

 リサ(少しチャージしておこう。後でお兄ちゃんか先生にもらえばいいよね)

 改札の外に出てから、券売機の所に行き、手持ちのPasmoに2000円ほどチャージした。
 それから駅の外に出ようとしたのだが……。

 リサ「ん?」

 駅構内にある、無料のパンフレットやフリーペーパーを配布しているコーナー。
 その中には東京都や墨田区からの広報もあるのだが、その中に、東京都が主催する絵画コンクールについてのお知らせがあった。

 リサ(なるほど。サクラヤは、これに出展するんだ)

 案内の中には、過去に最優秀賞を取った作品がいくつか紹介されている。

 リサ(フムフム……。つまり、サクラヤの絵が最優秀賞を取ったら、わたしもここに……。ふふふふ……)

 リサは広報を持って行くことにした。
 そして、出口に向かうエスカレーターに乗る。
 この時はまだ気づかなかったが……。

[同日16時15分。天候:曇 同地区内 愛原のマンション]

 リサ「ただいま」
 愛原「お帰り。お使い、悪かったね?」
 リサ「別にいい。お兄ちゃん、これ」
 高橋「おう、悪いな。先生とのラブラブデートに気を取られて、忘却の彼方に……」
 愛原「誰がラブラブデートじゃい!ただの仕事だろうが!」
 リサ「先生とラブラブデートしていいのは、わたしだけ!」
 高橋「ンだと、コラ!」
 愛原「高橋。今日の夕食は?」
 高橋「あ、ハイ。豚肉生姜焼きです」
 リサ「やっぱり」
 愛原「肝心の生姜焼きのたれを忘れるとは……」
 高橋「さ、サーセン」
 愛原「俺の希望で、豚肉はロースの薄切りにしてもらったけど、それで良かったかな?」
 リサ「うん、いいよ。学食だと、ばら肉になるからね。ばら肉の玉ねぎタップリのヤツ」
 愛原「ああ、あれな。俺はそれより、ロースの方が好きなんだ」
 リサ「うん、そうだね」
 愛原「それより、絵は完成したのか?」
 リサ「した!……これが写真」

 リサはスマホに撮影した、『魔王様の肖像画』を愛原に見せた。

 愛原「おー!いいじゃんいいじゃん!是非、間近で観たいものだ!」
 高橋「ガチで魔王っぽいっスね。こりゃ、レベル50でも倒せるかどうか……」
 リサ「これがそのコンクールの案内」

 リサは菊川駅から持ってきた案内を見せた。

 愛原「東京都主催のコンクールか。こりゃ凄いな。これで最優秀賞取れたら、凄いもんだよ」
 リサ「だよね!わたしも、ここに載るってことだよね!?」

 リサは鼻息を荒くした。

 愛原「そ、そういうことになるな」
 リサ「それとね、美術室で面白い絵を見つけたの!」

 リサは南原という元美術部員で、怪奇画家として活動している男の話をした。

 愛原「そうなのか。俺も観たくなってきたな~」
 高橋「先生!?」
 リサ「だよね!だよね!」
 愛原「……あれ?でもさ、今度のコンクール……。特別審査員の中にいる、南原某っての、その人じゃないか?」
 リサ「え!?」
 愛原「怪奇画家って書いてある。怪奇画家で南原っての、そう何人もいないだろうから、これがその南原さんって人じゃないの?」
 リサ「おお~!勝ったも同然!」
 愛原「いや、エコ贔屓はしないだろうよ」
 リサ「この人、プロの画家ってことは、個展とか開いてるんだろうね?」
 愛原「だろうな」
 リサ「個展やってたら、観てみたい!」
 愛原「う、うん。他に、どんなのがあるか、観てみたいな」
 リサ「調べてみていい?」
 愛原「よし。調べてみようか」
 高橋「先生。そんな、女なんかにうつつを抜かして……」
 愛原「悪いな、高橋。俺はLGBTでも何でも無いんだ」
 リサ「JKやJCが好きなの、フツーだよね!でも先生、リアルではわたしだけじゃないとダメだよ」
 愛原「そ、そうだな。はははは……」

 リサの機嫌を損ねて暴走させた場合、監視業務委託を受けている愛原に責任が問われることになる。
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