報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスター” 「狂科学者の孫娘、温泉に行く」 3

2014-10-31 19:32:56 | アンドロイドマスターシリーズ
 ※よくよく考えたら、タイトルと作中の視点がマッチしていない。本来ならアリス視点で書く必要があるのに、敷島視点になってる。

[11月1日16:00.福島県福島市飯坂町 飯坂温泉のとあるホテル 敷島孝夫]

(まあ、アリスじゃないけど、たまにはこういうのもいいか)
 敷島は大浴場の露天風呂に浸かりながら、まったりとしていた。
 今頃女湯では、アリスがまったりしていることだろう。
 飯坂温泉は宮城県の鳴子温泉、秋保温泉と共に奥州三大名湯にカウントされている温泉である。
 その泉質は主に単純温泉ということもあってか、硫黄泉が特徴の鳴子温泉と違って硫黄の匂いはしないし、湯も濁っておらず、とてもよく澄んでいる。
 浴槽からは摺上川の流れがよく見える。
 川の上流にはダムがあり、福島市民の水がめの他、東北電力の水力発電所がある。
(それにしても平賀先生、エミリーをどうするつもりなんだろう?)

 大浴場から出ると、まだアリスは出ていないようだ。
 しょうがないので、暇つぶしに飯坂温泉について説明するディスプレイがあったので、それを見ることにした。
 この温泉の日本史初出は日本武尊の時代から。日本武尊の東征に遡ると言われ、ここの温泉で湯治したのが始まりとのこと。
 江戸時代には江戸からやってきた松尾芭蕉と弟子の河合曾良が宿泊したが、宿泊先が木賃宿だったこともあってか、あまり快適に過ごせなかったようである。
 “奥の細道”には、「山中温泉よりひでェぜ!ああっ!?」と、書かれていたそうだ。(←ていうか、山中は飯坂の後だろうが)
 松尾芭蕉達には悪印象だったが、後世の著名人には好印象だったようで、正岡子規や与謝野晶子は記念に得意の俳句を残している。
 近現代に入ると歓楽街として発展し、花柳界も存在した。
 バブルに入るとネオン街などが形成され、正に『大人の遊園地』と化していたらしい。
 昔ながらの木造旅館は取り壊され、鉄筋コンクリートの無機質なホテルや、片やバブリーな個性あふれるデザインのホテルが……。
「ああっ!?」
 その時、敷島は思わず声を上げてしまった。
 バブル時代に建てられ、今はすっかり廃業してしまったホテルの写真が展示してあったのだが、その中に豪華客船を模した派手なホテルがあった。
『㈱シークルーズ 穴原温泉ホテル“クイーン・エミリア”』
 と、書かれていた。
 穴原温泉とは飯坂温泉より上流にある温泉街で、奥飯坂とも呼ばれる。
 飯坂温泉と同一視されることもある。
 実際、飯坂温泉にあるこのホテルで紹介されているくらいだ。
(シンディを発見した秋田・青森県境のホテルも“シークルーズ”だったが、あれは経営母体の名前で、ホテルの名前ではなかったのか……)
 この“クイーン・エミリア”も廃ホテルになっているということは、そもそも経営母体自体が消滅している可能性はある。

[同日18:00.同場所・バイキングレストラン 敷島&アリス]

「畳の上で食べる食事も楽しみだったのに、バイキングなんてねぇ……」
「そうだったのか。悪い悪い。だけどまあ、料理は客の前で作る実演方式で、もちろん食い放題だってよ。お前向きだと思ったんだが……」
「まあ、それはありがたいね」
 御多聞に漏れず、テーブル一杯に持って来るアリス。
「Men-yoなシステムね」
「メンヨー?ああ、面妖か。難しい日本語知ってるな」
 敷島は苦笑して、自分は寿司バイキングから持ってきた寿司を口に運ぶ。
「ところでアリス、女湯の湯上り部分にもあったか?」
「何が?」
「この温泉全体を紹介するディスプレイ」
「うーん……。何かそんなのがあったような気がするけど、覚えてないね」
「そうか」
「それがどうしたの?」
「いや、20年くらい前に廃業になったホテルの写真とかあったんだが、その中にシークルーズがあった」
「ここにもホテル“シークルーズ”が?」
「ああ。シークルーズというのはホテルを経営していた会社の名前で、本当はいくつか経営しているホテルごとに名前があったらしい。飯坂温泉のもう少し上流に向かった先にあったらしくて、そのホテルの名前は“クイーン・エミリア”」
「聞いたことの無い女王様ね。でも、エミリアってエミリーのことよ」
「え?」
 敷島は目を丸くした。
「確か、スパニッシュ(スペイン語)だったと思う。アメリカでは多くの学校で、外国語としてスペイン語を習うのよ。多分、南部からのヒスパニックの為だと思うけどね。で、アタシも5年くらい習ったけど、スパニッシュは全然分かんないわ」
「それがどうして、エミリーはスペイン語でエミリアだって分かるんだ?」
「ハイスクールにスペインからの移民がいて、そのコの名前がエミリアだったのよ。それで、知ってるの」
「なるほどねぇ……。じゃあ、やっぱりうちのエミリーは、アメリカにスパイとして潜入工作させる目的もあったのか」
 旧ソ連で作られたにも関わらず、名前がロシア系ではなく英語圏の女性のものだから。
「エミリーは実際にアメリカに渡ることは無かったけどね」
「そのようだな」
 旧ソ連崩壊のドサクサに紛れ、そこから脱出した南里と十条により、日本に向かっている。
 その頃、シンディは既にアメリカ国内で破壊工作を続けていた。

[同日20:00.同場所・ゲームコーナー 敷島、アリス、シンディ]

 夕食後に平賀がエミリーを取りに来た。
 結局、エミリーをどこに連れて行くのかは教えてくれなかった。
 明日の朝、遅くとも敷島達がホテルをチェック・アウトする頃には返すからと。
 返すも何も、オーナーは平賀なのだが……。
 もう1度温泉に入った後、敷島達はゲームコーナー内にあるエアホッケーに興じていた。
「エミリーと2人で対戦したら、どっちが勝つ?」
「筐体が消し炭と化して、痛み分けになるかもね」
 シンディは片目を瞑って、敷島の質問に答えた。
「はは、そうか」
「どうする?部屋に戻ったら、お楽しみなんでしょう?アタシは電源落としてようか?」
「え?」
「電源は落とさなくていいから、“スリープ”でいなさい」
 アリスが言うと、
「了解しました」
 シンディは大きく頷いた。

 部屋に戻るまでの間、腕を組んで歩く2人。
 部屋に戻ると、既に布団が敷かれていた。
 シンディは自分の充電コードを引っ張って来ると、窓際の椅子に座って、そこでコードを繋いだ。
 そして、布団が敷かれてる部屋との間の障子を閉めた。
「じゃ、私は明日7時まで“スリープ”に入りますので、その前に緊急事態があれば“起こして”ください」
「分かったわ」
「何も無ければいいけど……」
 折しも、明日は天気が下り坂とのことである。
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“アンドロイドマスター” 「狂科学者の孫娘、温泉に行く」 2

2014-10-31 15:20:05 | アンドロイドマスターシリーズ
[11月1日14:40.福島駅・福島交通飯坂線ホーム 敷島孝夫、アリス・シキシマ、エミリー、シンディ]

 
(福島駅・私鉄乗り場。ホーム先端付近から振り返って撮影。左が福島交通飯坂線、右が阿武隈急行線)

 JR電車は定刻通りに福島駅に着いた。
 ここまでは順調。
 私鉄ホームに移動すると、ちょうど阿武隈急行の電車が発車していった所だった。
 同じホームに2つの鉄道会社が並ぶのは、実はそんなに珍しいことではない。
 但し、大抵はJRが絡んでて実質そうなってることが多い。
 福島駅のように、JRは絡んでなくて2つの私鉄や第3セクターが並ぶのが珍しいということだ。

 自動化されてない改札口から入ろうとすると、駅員が改札鋏でキップを切る。
 アナログだが、どこか懐かしい光景だ。

 
(福島駅・私鉄ホーム改札口。このように、全く自動化されていない。大宮駅野田線ホームも、昔はこんな感じだったのだろうか)

 1面2線だが、福交と阿武急では乗り場が固定されている。
 因みに、番号(何番線とか)は無いもよう。

 電車が入線してきたのは発車の2分前。
 これで折り返すのだから、随分と慌ただしい。

 
(福島交通7000系。面影があるから分かるように、元は東急電鉄7000系の中古車を改造したものである)

 2両編成の電車に乗り込んだ。
 ワンマン運転はしておらず、運転士と黒い革製の鞄を下げた車掌が乗務している。

〔「ご乗車ありがとうございます。14時40分発、飯坂温泉行きです。終点、飯坂温泉には15時3分に到着致します。まもなく発車致します」〕

 
(車内全景。モケットなどは交換されているが、概ね東急時代の名残がまだある)

 電車は慌ただしさの中に、どこかのんびりとした雰囲気を残しながら、福島駅を発車した。
 東急池上線なども東横線や田園都市線と比べてのんびりしている所が見受けられるが、ここはそれ以上だ。

〔ご乗車ありがとうございます。この電車は、飯坂温泉行きです。終点の飯坂温泉まで、各駅に止まります。……次は曽根田、曽根田でございます。……〕

 電車は1番東側の線路を走る。
 阿武急行線とは、早々にお別れする。
 乗客は敷島達のような観光客よりも、地元民の方が多いくらいだ。
 土曜日ではあるが、学生達の姿が多く見られた。
 ここではシンディやエミリーも、ドアの横に立っていた。
(全く。平賀先生は何を考えておられる?)
 敷島は手持ちのケータイの画面を見ながら首を傾げた。
 平賀からのメールで、今夜、ホテルまでエミリーを取りに行くから充電だけよろしくお願いしますということだった。

[同日15:03.福島交通・飯坂温泉駅 上記メンバー]

 
(リニューアルされた新駅舎。温泉街の入口の雰囲気を醸し出している)

〔「ご乗車ありがとうございました。飯坂温泉、飯坂温泉、終点です。……」〕

 車内自動放送が言い終わらないうちに次の駅に着いてしまう駅間距離の短さに苦笑を隠しながらも、敷島達は無事に飯坂温泉に着くことができた。
「タカオ、ここからどう行くの?」
「ホテルの車が迎えに来てくれるってさ」
 これまた自動化されていない改札口で、駅員にキップを渡す。

「敷島です」
 駅前に止まっていたワンボックスカーの前で待っている男性スタッフに言うと、
「お待ちしておりました。どうぞ」
 と、車の中に案内した。
「お荷物はこちらへどうぞ」
「ありがとう・ございます」
「エミリー、そーっと置けよ!そーっと!」
 エミリーはアリスが持ち出した兵器の入っているキャリーバッグをハッチから載せた。
「大丈夫よ。安全装置が付いている間は、デコイも爆発しないから」
 と、アリス。
「バカ!声がデカい!」
「えー、では出発します」
 運転役のホテルスタッフは、車を走らせた。
「ここからホテルまで、どのくらい?」
「およそ5分ほどです」
 アリスの流暢な日本語の質問に、スタッフがにこやかに答えた。
「駅から車で5分なら近いもんよ」
 隣に座る敷島が片目を瞑った。
(やけに走りが重いな。このお客様のお荷物、そんなに重いのかな?)
 スタッフは首を傾げながらディーゼル・エンジンを吹かした。
 まあ、バッグもそれなりの重量なのだろうが、1番重いのは後ろに乗っているマルチタイプ2機だろう。
 1機の自重は約200キロ。つまり、合わせて400キロである。
 平賀は何とか軽量化を図りたいとしているが、全て理解しきれない設計図で、ヘタにイジくると修復不可能になるばかりか、自爆装置を起動させる恐れがあるということで、財団(特に十条)から制止されている。
 七海などのメイドロボットは、平賀の心血のおかげで、マルチタイプの約半分まで軽量化に成功し、ボーカロイドに至っては人間の体重くらいまで軽量化に成功している。

 温泉街を走り抜けること、約5分。
「まもなくですよ」
 スタッフの声にフロントガラス越しに前方を見ると、大型のホテルがその姿を現した。
(本当は高いホテルなんだろうに、田村の婆さん、やりやがるなー)
 敷島は心の中でそう言った。
 宿泊券の入っていた封筒を見ると、『協賛 スーパーたむら屋』とあったので、恐らく田村会長の知り合いか何かが件のホテルに関わっているのだろうと思われる。
 こうして敷島達は、無事にホテルの宿泊客となることができたのである。
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小説の途中ですが、ここで普通の冨士参詣深夜便をお送りします。

2014-10-31 02:22:40 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
結婚相手に求める最低年収、女性6割が「500万円未満」と回答(マイナビニュース) - goo ニュース

 ヤフコメの皆さんの意見を聞きたいところだが、まあ、だいたいその内容が想像できる私もヤフコメ人なのか。
 もっとも、ここはgooであって、ヤフーではない。
 私の年収も500万円以下なのだが、その壁をまず一生越えることはないだろうというのが自己分析だ。
 何しろ、ようやく参考記事内の円グラフの中に、やっとこさ入るくらいの額であり、そこだけ見ればその数字は【お察しください】。
 しかし、顕正会の中でも低収入の者はかなり多いんだ、これが。
 年収300万円台の私が、高給取り扱いされる組織って何なんだよ。
 ……しかし、法華講も負けてはいない。
 顕正会が共産主義だとしたら、法華講は資本主義だ。こちら側の経済格差は凄い。
 顕正会が、
「皆一緒に幸せになりましょう」
 なのに対し、法華講は随分と小難しいことを言う。
 今生において格差が出るのもしょうがないという感じだ。
 ただ、私は法華講側の言い分を支持する。だから、何とか今も法華講にいる。
 顕正会の甘言に惑わされてはいけない。
 第2次大戦後、帰国事業で地上の楽園に渡った日本人がその後どうなったか明らかになっている。それと同じ。

 冒頭の記事と話が逸れてしまったが、向上心の高いケンショー女子はもちろん、法華講女子にアンケートを取らせてみたら、物凄い結果が出るのではないかと思う。
 か、もしくは表向きには検挙な数字になるかもしれない。

 年収が低いんだから御供養も最低額しか出さないのが私の主義。
 それでも実は、顕正会より法華講の方が金使ってる。
 経済的な不安は顕正会時代より、今の法華講の方が増大しているくらいだ。
 まあ、日本の低所得者層全体がそうなのだから、一概にそのせいだとは言えない。
 富裕層が宗内の経済を支えているわけだが、実際に御受誡してくるのは貧困層が多く、その中でどれだけ多く新願者が富裕層になって宗内の経済を支えて行くのかは未知数である。
 まず、私は無い。
 自分1人の食い扶持だけで精一杯なので。

 あまり明るい未来とは言えないね。
 肩肘張らず、テキトーにやって行こう。

 結婚は無理としても、それだけで成仏できないという冷たい教義ではない……はずだ。
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“アンドロイドマスター” 「狂科学者の孫娘、温泉に行く」 1

2014-10-29 19:42:17 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月1日09:00.仙台市泉区のぞみヶ丘 アリスの研究所 エミリー&シンディ]

 エントランスホールのアップライトピアノでエミリーが伴奏を、シンディがフルートで主旋律を吹く。
 曲はジョルジュ・ビゼー作曲、“アルルの女”第1組曲より、メヌエットだ。
 これが敷島達へのモーニングコール代わりなのだが、
「……起きないわね、博士達」
 その曲の演奏を終えても、居住区から敷島達の姿は無かった。
「2曲目・行く・か?」
 エミリーが振り向いて、髪型と髪色、衣装だけが違う妹に聞いた。
「いいよ。アタシが起こしに行く。姉さんは朝ご飯でも作っててあげて」
「OK.というか、もうできてる」
「そうだったわね」
 だが奥から、
「Oh,no!I’m late!(しまった!寝過ごしたわ!)」
 アリスがバタバタとやってきた。
「アリスっ!上着ろ!上!」
 後から敷島もやってくる。
 手にはアリスが着ていたタンクトップを持っていた。
「福島行く前に風邪引くぞ!」
「あー、そうか。今日から出掛けるんだもんね」
 シンディがポンと手を叩いた。
「休日は休日で、イベント出演が目白押しなんだぞ。今せっかくボカロが売り出し中だってのに……」
「だーいじょーぶだよ、プロデューサー」
 鏡音リンがニッと笑った。
「もうリン達、自分達のスケジュール管理は完璧ですから〜」
「そ、そうか?そりゃ頼もしい。だが、俺も本当は新たな売り込み先を探さないといけないんだけど……」
「まあ、イザとなったら、ボーカロイド劇場もありますから」
「アキバまで行くの大変だろー?本当は仙台にも、そういうの作りたいんだけどなぁ……」

[同日11:05.同場所 のぞみヶ丘バス折返し場 敷島、アリス、エミリー、シンディ]

「アリス、急げっ!バスが出るぞ!」
「車じゃないのね」
「当たり前だ!」
 研究所下にある路線バスの折返し場までバタバタと階段を下りる。
「だいたい、何だって、たかが1泊2日の旅行でそんな大きなバッグを持って行くんだ?」
 しかし持っているのはシンディである。
 人間が普通に持てば重いだろうに、シンディはまるでセカンドバッグを持つかの如く、片手でヒョイと持っている。
「こう見えてもお泊りセット以外に、マルチタイプの整備道具なんかも持って行かないとね」
「それだけでこんなにか?」
「あとはテロ対策用にグレネードガンとか、ロボット・デコイとか……」
「アホかーい!」

〔「泉中央駅行き、まもなく発車します」〕

 バスのエンジンが掛かり、運転手の声が車外スピーカーから聞こえた。
「しゃーない!そのまま行くぞ!中身がばれないようにしろよ!」
「OK!」
 4人は急いでノンステップバスに乗り込んだ。
 バスは4人の乗客を乗せると、折返し場内をグルッと回って、のぞみヶ丘ニュータウン内に出た。
「しかし……」
 2人席にアリスと座る敷島。
 エミリーとシンディは折り畳み座席(右前輪の後ろにある、車椅子の乗客がいたら折り畳む座席。バス会社、路線によってはラッシュ時にも折り畳むことがある)の前に立っている。
 運行約款上、必ず着席していなければならない乗り物以外は立つのがマルチタイプだ。
 メイドロボと執事ロボは状況に応じるらしい。
「泉中央駅に着く頃には満席状態の立ち客ありの状態になるんだろうが、まだガラ空き状態で立っているのもな……」
「まあ、そういう仕様だからねぇ……。アサシン(暗殺者)だったことを裏返すと、SPにもなれるわけだけど、SPって座らないでしょ?それと同じよ」
「なるほどな……」

[同日12:50.JR仙台駅在来線ホーム 上記メンバー]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の5番線の列車は、13時3分発、快速“仙台シティラビット”4号、福島行きです。この列車は、4両です〕

「さっき、サンドイッチ食ってなかった?」
 敷島が呆れたのは、アリスがシンディに駅弁を買いに行かせたことだった。
「まだランチは続くのよ」
「あー、そーかい」
「敷島さんも・どうぞ」
「あー、悪いな。もしかして、紐引っ張ると温かくなるヤツ?」
「ノー。その方が・良かった・ですか?」
「いや、いいよ。テーブル無いし」
「テーブル無いの?」
「無いよ!在来線の鈍行列車で、贅沢言うなや!」

〔まもなく5番線に、当駅始発、快速“仙台シティラビット”4号、福島行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。この列車は、4両です〕

 首都圏のATOSと呼ばれる形式の放送がホームに鳴り響く。

 
(JR東日本719系。南東北でしか乗れない)

 下り方向から回送状態で、4両編成の電車がやってきた。
 ボタンを押してドアを開けて、車中の人となる。
 外観もそうだが、車内はほんの最近まで都内発着の中距離電車で使用されていた211系と呼ばれるものとよく似ている。
 違うのは、座席のレイアウト。
 ドア横が横向き席なのは同じだが、進行方向と対面する座席が変則的である。

 
(文字や口頭では説明しにくいので、この写真参照。全国探しても、こんな変なレイアウトはこの電車だけ)

「エミリー達も座れよ」
 ど真ん中の4人用ボックスシートを確保した敷島。
「だーかーらーっ。プロデューサー、別にアタシ達は立ってても『疲れない』んだって」
 新幹線は法規上、必ずしも着席しなければならないわけではないが、指定席に乗ることが多いため、例外としている。
 しかし、この電車は全部自由席だ。
「いいのよ。移動の時くらい一緒に楽しみなさい」
 アリスがそう言った。
「逆に俺達の隣にいてくれた方が、護衛にもなるんじゃないか?」
「そういう・こと・でしたら・失礼・致します」
「ま、命令ならしょうがないか」
 エミリーとシンディも、通路側に座った。

〔「ご案内致します。この電車は13時3分発、東北本線上り、快速電車の“仙台シティラビット”4号、福島行きです。停車駅は名取、岩沼、槻木、船岡、大河原、白石、藤田、桑折、伊達、東福島、終点福島の順です。……」〕

「どれ、弁当食うか」
 窓の桟に飲み物を置いて、敷島は弁当の蓋を開けた。
「さすがに、充電コンセントは無いのね?」
 シンディは座席の下などを見て言った。
「在来線の鈍行じゃなぁ……。乗り換え先の飯坂線も、そんなもん無いと思うぞ」
「しょうがないわね。イザとなったら、上から取ればいいか」
 シンディは天井を見上げた。
「何言ってんだ」
 敷島は苦笑い。
(照明器具からどうやって電源取るんだよ)
 と、敷島は思ったのだが、
「シンディ。東北本線の・黒磯から・北は・AC(交流)だ。アダプターが・必要に・なるぞ」
「そっかぁ……。じゃあ、他の路線から取らないとね」
「お前らな、交流2万ボルトと直流1500ボルトから電源取ったら、爆発するぞ」
 敷島は口に運んだ米を噴き出しそうになった。
 正に、噴飯である。

 電車は定刻通りに、仙台駅を発車した。
 今のところ、これといったテロの脅威は無い。
 とはいうものの、平賀の動きが分からなかった。
 目的地は一緒とのことだが、一緒に行かない理由と、夜間だけエミリーを使うという理由が。
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“アンドロイドマスター” 「マルチタイプの出自」

2014-10-29 16:01:54 | アンドロイドマスターシリーズ
[10月29日15:00.東北大学工学部研究棟 敷島孝夫、敷島孝夫、エミリー]

「や、こりゃどうも、敷島さん。やはり実際にマルチタイプを見せた方が、いい資料になると思いましてね」
 教授室のソファの座る敷島。
 隣の研究室から入ってきた平賀。
 エミリーのことを一通り説明した後で、ゼミ生にあとは任せているのだろうか。
「いえいえ。あくまでも、今のオーナーは平賀先生ですから」
 敷島は七海に出された茶を啜りながら言った。
「実際は自分も多忙なもんで、敷島さんに管理を任せっきりです。本当に申し訳無い」
「いいんですよ。エミリーも頭のいいヤツですから、逆にアリスの研究所でボーカロイド達の相手をしてくれてます」
「そうですか」
「シンディも再稼働したことですし、そろそろここいらでマルチタイプの出自を明らかにした方がよろしいかと……」
「旧ソ連政府がスパイ活動と反乱分子粛清の為に開発した。それだけでは不満ですか?」
 平賀も向かい合ってコーヒーを口に運んだ。
「どうにも気になるのですよ。アメリカ人と結婚したもんだから、尚更ね」
「と、言いますと?」
「平賀先生もご存知でしょう?アメリカ人は実用主義100パーセントです。実は人間そっくりのロボットを作るという発想自体が無い人種なんですよ」
「それだけでは確かに実用性は無いですからね。日本人の造形美感の賜物でしょう」
「ウィリーはともかく、アリスはバージョン・シリーズを作っても、アンドロイドは作っていません。それなのに、当時のロシア人はマルチタイプを作ってしまったんです。この違いは何なんでしょうか?」
「スパイとして工作活動させるに辺り、人間そっくりに作る必要があったんでしょうね」
「アメリカは作ってませんよね?ウィリーはアメリカ人ですが、アメリカの学会を追い出されたので、自分の実力を認めてくれる旧ソ連に渡ったと聞きました」
「その通りです。そこは十条先生や南里先生のお力が大きかったかと。つまり、日本人の美感ですね」
「……その十条理事と南里所長は日本生まれではないですね」
「そこまで調べましたか。ええ、お2人はロシア生まれですよ。だけど、ロシアに渡った日本人から生まれたので日本人です。自分も南里先生方が、どのようにして旧ソ連政府からの命令を受けてエミリー達を作ったのかは聞いていません」
「ロシアに渡った?」
「恐らくは満州か樺太……つまり、第二次世界大戦の旧ソ連侵攻の際に、かの国に渡ったと見ています。冷戦終結前後のドサグサに紛れて、南里先生はエミリーを日本に連れてきたと仰ってました」
「そう簡単に連れてこれるものですか?」
「ええ。そこはやはり、何かしらの裏取引があったとは思います。しかし表向きには双方の政府は一切タッチしないという条件であることはいえ、全く接触してこないのもまた不思議な話で……」
「まあ、接触自体はしてきてますよ。エミリーの活躍ぶりから、防衛省とか総務省が声を掛けてきたじゃないですか」
 総務省は消防関係。
 つまり、エミリーをレスキューロボットに使えないかというもの。
「省庁レベルでしょう?大臣レベルで接触してこないというのはねぇ……」
「いくら民主化したとはいっても、大統領が元KGBの幹部じゃ、日本政府もあんまり触れたくない?」
 敷島が皮肉るように言うと、
「自分も政治のことは良く分かりませんから」
 と、平賀ははぐらかすように言った。
「エミリー達が今のボーカロイド達の共通点、見目麗しい美女だというのは、日本人の美感が強いということでいいんですね」
「冷戦で西側にいた日本が、実は東側の国に関わってましたなんて言えないでしょうね。本来は政府としても、シンディはもちろん、エミリーだって抹消したいくらいでしょう」
「何でシンディが先に来るの」
 敷島は苦笑した。
「彼女らの名前がアメリカ人みたいな感じからして、アメリカにスパイとして送り込む意図があったということでしょうか?」
「それは間違い無いでしょう。これはあくまでウワサですが、ウィリーがシンディをアメリカに持ち込めたのも、シンディをスパイとして送り込むからという理由だったかもですね」

 それから1時間後……。

「温泉旅行のペアチケットが当たったんですって?」
 と、平賀は笑みを浮かべた。更に、
「アリスとお楽しみですね?」
 と、続ける。
「テロの標的になりやすいアリスですから、どうしても護衛が必要になります。こういう時、マリオやルイージだと、どうしても目立ってしまう」
 敷島は頭をかいて答えた。
「アリス的には風呂そのものではなく、ホテルや旅館での過ごし方を味わいたいようです」
「確かにそれもまた日本独特でしょうねぇ……。旅番組とかでも見たんですか?」
「ボカロの旅番組は、共演する人間のタレントさんがメインだったりしますからね。ほら、旅の醍醐味の1つ。その地域の名物料理とか」
「はいはい」
「ボカロ達だと食べれないですから」
「そうですね」
「アリスのことだから、絶対それ見てたと思うんですよ」
「実際、旅行券の行き先はどこだったんですか?」
「聞いて驚いてください」

[同日17:00.仙台市泉区のぞみヶ丘 アリスの研究所 敷島、アリス、鏡音リン]

「ただいまァ」
「あ、兄ちゃん……じゃなかった。プロデューサー帰って来た」
 エントランスホールには鏡音リンがいた。
 手にマンガ雑誌を持っている。
「おう。アリスは?」
「レンのカスタムパーツ外すのに苦労してる」
「何でレンにカスタムパーツが付いてんだよ?」
 敷島は変な顔をした。
「ブースター付けたら、ロケットエンジンだったんだって」
「どこをどう間違えたら、ブースターとロケットエンジン間違えるんだよ?」
「ツッコミ、ありがとうね!」
 奥からアリスがやってきた。
「何か、苦労してるらしいな?」
「やっと終わったわよ。今度のライブで、天井まで高く跳ぶ演出があるんですって?」
「だからブースターを改良して欲しいって頼んだんだけど、ロケットエンジンにしなきゃ無理か?」
「そういう問題じゃないのよ。それで、平賀教授の方はどうなの?」
「何か、今度の温泉旅行の行き先教えたら、護衛用のマルチタイプの素泊まり分は財団に任せとけって言ってた」
「は?」
「その代わり夜、エミリーは一時返してもらうってさ」
「何を企んでるのかしら?」
「分からん。護衛ならシンディ1人でも大丈夫だろうということだ」
 敷島は首を傾げた。
「今さらバージョン・シリーズくらい、どうってことないけどね」
「『女王様』と『お嬢様』に逆らう命知らずのバージョンがいたら逆に怖いよ」
 敷島はまた変な顔をした。
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