報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「ダンテ一門御一行様、到着」

2019-11-30 22:16:18 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月23日15:30.天候:雨 栃木県日光市鬼怒川温泉 あさやホテル]

 稲生達を乗せた貸切バスがホテルのエントランス前に到着した。

 稲生:「到着です。お疲れさまでした」
 エレーナ:「おー、やっと到着か」

 ぞろぞろと降りるダンテとその門下生達。
 幹事の稲生はその中でも忙しい。

 マリア:「私で手伝えることは無いのかな?」
 ルーシー:「日本人がもう少しいるといいんだろうけどね。大師匠様の御相手は先生方がしてくれているから、そこは苦労しないと思うけど……」

 稲生はここまで乗せてくれたバスの運転手とのやり取りの他、到着したホテルのスタッフともやり取りをしていた。

 エレーナ:「どうせ夜は宴会だろ?2次会とか3次会とかはこのホテル内で完結するみたいだし、殆どその相手はやっぱり先生達がするだろうから、1次会が終わってしまえば一息付けるんじゃね?」
 マリア:「……だといいけどな」
 ルーシー:「宴会が終わったら、稲生さんを労いに行きましょうか?」
 エレーナ:「お?ルーシー、マリアンナを出し抜けか?」
 ルーシー:「違うって。もちろん、私達で行くの」
 エレーナ:「ま、いいけどな。私も先生達の相手よりかは稲生氏の相手してる方が気楽だぜ」

 ダンテは直弟子達に囲まれながらホテルの中に入って行った。
 直弟子達の全員が魔女であるが、しかし全員が今や弟子持ちの、世界に名だたる大魔道師となっている。
 イリーナみたいに占い師として活躍する者もいれば、悪魔信仰の教祖として活躍している者もいるという。

 ルーシー:「大きなホテルね」
 エレーナ:「明らかに私のホテルの何倍もあるぜ……」
 マリア:「当たり前だろ。高そうなホテルだけど、予算大丈夫なのか?」
 エレーナ:「そんな心配しなくていいだろ。プラチナカード持ちの先生達が予算出し合えば、もっと高いホテルも可能だぜ」

 実際にダンテはこのホテルの貴賓室に泊まるらしい。
 因みにこの貴賓室、当然ダンテ専用ではなく、他にも数名同室できるらしいのだが……。

 稲生:「御一緒頂ける先生方は、もう既に大師匠様の御指名に預かった方のみと致します。それでいいですね?」
 ダンテ:「皆、『仲良き事は美しき哉』だぞ?」
 イリーナ:「はーい!」
 ポーリン:「もちろんです!」
 アナスタシア:「重々理解しております!」
 ベイカー:「私は500年、先生の弟子をしておりますので、言われるまでもありません」

 悲喜こもごもである。

 稲生:「他の先生方は都内のホテルに宿泊する際に、大師匠様と同室できるようにしてございますから……」
 女将:「それではお部屋の方へご案内させて頂きます」
 稲生:「よろしくお願いします」

 吹き抜けのホールを外観エレベーターで上がる。

 エレーナ:「昔、同乗した豪華客船に似てるな」
 稲生:「そうなの?」
 エレーナ:「もちろん、こんな日本風な感じではなかったぜ。ちょっとしたオペラハウスみたいな感じだった」
 稲生:「エレーナ、豪華客船乗ったことあるんだ?」
 エレーナ:「あの時は私が“魔の者”に狙われていたからな、情報をマフィアの黒幕から聞き出す為に乗り込んだんだ」
 稲生:「そっかぁ……」
 エレーナ:「船で日本へ乗り込めないか試したみたいだが、やっぱりダメだったみたいだ」
 稲生:「何かあるのかな?」
 エレーナ:「さあ……。とにかく、日本はそう言った意味では安全地帯だってわけだ。ルーシーの前じゃ言えねーけどな」
 稲生:「う、うん……」

 ルーシーはたまたま他のエレベーターで先に上がっていた。
 ベイカーのお供で上がったからだ。
 他の門下生達も貴賓室とまではいかなくても、和室の部屋に通されて日本を満喫するとができそうだった。
 唯一1人で泊まることになった稲生は洋室ツインルームを1人で使うことになる。

 稲生:「僕だけ1人で寂しい……」
 エレーナ:「や、やっぱし、後で遊びに行ってやろーか?」
 マリア:「そ、そうだな」
 ルーシー:「だからさっきそう言ったじゃない」
 イリーナ:「勇太君」

 貴賓室の方からイリーナが歩いて来た。

 稲生:「あっ、先生」
 イリーナ:「ダンテ先生が夕食は何時からだって」
 稲生:「一応、18時からにしてもらってます。ここの宴会場で夕食です」
 イリーナ:「分かったわ」

 イリーナは踵を返そうとして、また稲生に向き直った。
 そして、小声で言った。

 イリーナ:「このホテルの中では、ダンテ先生のことは私達に任せておきなさい。勇太君も疲れたでしょう?あとは明日の朝食の時間と場所を教えてくれれば、あとはゆっくりしてていいから」
 稲生:「はい、ありがとうございます」
 エレーナ:「先生、私達もゆっくりしちゃっていいんスかね?」
 イリーナ:「あなた達はあなた達の先生から指示をもらいなさい。……と言いたいところだけど、多分それどころじゃ無さそうだから、多分いいと思うよ」
 エレーナ:「せっかくのデカいホテルです。たった一泊なんて勿体ない気がしますけど、存分に調査……もとい、楽しませてもらいますよ」
 イリーナ:「結構よ」

 イリーナは大きく頷くと、再び貴賓室の方に向かってパタパタと走って行った。

 エレーナ:「つーわけだ。お言葉に甘えて温泉入らせてもらおうぜ」
 稲生:「キミ達、先に入りなよ。僕は宴会のことについて、担当者と最終確認をしなくちゃいけないから」
 エレーナ:「おいおい、もう料理とかは決まってんだろ?何を最終確認するんだぜ?どうせ先生達、酒飲ませりゃ大丈夫だって」
 マリア:「うちの師匠もウワバミだからなぁ……」
 ルーシー:「でもベイカー先生は料理にはうるさい方よ?」
 稲生:「……やっぱり行って来る」

 稲生はエレベーターに乗ってフロントへと降りて行った。

 マリア:「開催国が日本になると、勇太一人が忙しくなるんだよなぁ……」
 エレーナ:「稲生氏はまだ見習だからなぁ……」
 ルーシー:「でも、これが成功したら大きなボーナスポイントなるんでしょう?」
 マリア:「そう言われてるけどね」
 エレーナ:「やっぱし、後で労いに行こう」
 マリア:「どうするんだ?」
 エレーナ:「宴会で酒とか余るだろうから、それガメて、あとはスナックとか何か持って行けばいいだろ」
 ルーシー:「この下にキヨスク?とかあったみたいだしね」
 エレーナ:「売店って言うんだぜ。ちょっと後で調達しよう」
 マリア:「う、うん」

 稲生、魔女達に気を使われる。
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“大魔道師の弟子” 「鬼怒川温泉へ」

2019-11-29 19:59:34 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月23日 天候:雨 埼玉県久喜市 JR栗橋駅→東武鉄道南栗橋駅]

 
(JR栗橋駅から東武の南栗橋駅への渡り線内にある乗務員交替用のホーム。列車はここに停車し、JRと東武の乗務員が交替する。客扱いは行わないので、時刻表上では通過扱い)

 ルーシー:「……止まった?」
 稲生:「栗橋駅だね。ここでJRと東武の乗務員交替を行うんだよ。ここから電車はJR東日本から東武鉄道に入る、つまり鉄道会社が変わるんだ」

 1番後ろの車両に乗っているので、稲生達からは車掌が交替するシーンが見られる。
 乗務員交替が終わると、すぐに走り出す。
 スーッと通過したホームにはJRの運転士の姿が見えた。

〔「お待たせ致しました。乗務員交替の為、停車致しました。ご協力ありがとうございました。本日も東武鉄道をご利用頂きまして、ありがとうございます。……」〕

 稲生:「鉄道会社が変わったもんだから、駅の装いや電車の様子が違うでしょ?」
 ルーシー:「……JRのマークが見られなくなっただけのような……?」
 稲生:「駅の看板とかが違うって」
 ルーシー:「うーん……まあ、確かに」
 マリア:「JRオリジナルのグリーン車を連結した電車がいなくなってる。それだけでも大きな特徴だ」
 エレーナ:「おっ、マリアンナ。ルーシーに対向してるな?」
 マリア:「そんなんじゃない!」

 だが、どうしてもその否定の仕方がムキになった感じになってしまうのだった。

[同日15:14.天候:雨 栃木県日光市 東武鉄道鬼怒川温泉駅]

〔「まもなく終点、鬼怒川温泉、鬼怒川温泉です。1番線に入ります。お出口は、右側です。鬼怒川温泉より先、鬼怒川公園、新藤原、野岩鉄道会津鬼怒川線、会津鉄道会津線方面はお乗り換えです。……」〕

 稲生:「皆さん、そろそろ降りますよ」

 稲生が車両の後ろに向かって声を掛けて歩いた。

 イリーナ:「先生、やっと到着ですって」
 ダンテ:「そうか。さすがにここまで来れば、もう邪魔者も現れまい」
 稲生:「“魔の者”もですか?」
 ダンテ:「取りあえず私が眷属達は来日できないようにしておいたよ」
 稲生:「さすがですね!」

 稲生は素直に関心したが、イリーナは心の中で……。

 イリーナ:(どうしてわざわざローマ教皇が来日する日を選んで、『ダンテ先生を囲む会』が開催されるのかというと、教会の連中が悪魔祓いをしてくれるのよね……)

 困ったのはそれも諸刃の剣というヤツで、魔道師達と契約している悪魔もその対象になることと、それと契約している魔道師も魔女扱いされて狩られることだ。
 だからこそ、開催地は教皇が向かう先とは明後日の方向にする必要があった。
 そして稲生はそれを鬼怒川温泉としたのである。

 ダンテ:「キミのセンスもなかなかのものだ。これは期待できるな」
 稲生:「ありがとうございます!」
 イリーナ:「ありがとうございます、先生」

 しかしその後で稲生はイリーナに耳打ち。

 稲生:「“桃鉄式ルーレット”で決めたとは言えないですね、先生?」
 イリーナ:「シッ、黙ってなさい!」

 列車がホームに停車し、稲生達はぞろぞろとホームに降り立った。

 稲生:「それじゃ皆さん、僕についてきてください」

 稲生はライブの時に使用するサイリウムをピンク色に光らせて大きく掲げた。
 ピンク色はイリーナが契約している“7つの大罪”の悪魔、嫉妬を司るレヴィアタンのシンボルカラーであり、即ちそれはイリーナ組のシンボルカラーを現す。
 イリーナが着ているドレスもピンク色のものだ。
 ローブは紫色のものだが。

 
(鬼怒川温泉駅構内にある大提灯)

 稲生:「団体です」

 稲生は有人改札口に行くと、団体乗車券を駅員に渡した。

 駅員:「ありがとうございました」

 駅構内で写真を撮る魔女達。
 その光景は外国人観光客と変わらない。

 マリア:「この後は?」
 稲生:「バスを予約しているので、それで行きます」
 エレーナ:「40人だから観光バスか。大変だな」
 稲生:「ダイヤルバスを運行している地元のバス会社に頼んだら、1台増便貸切という形にしてくれたよ」
 エレーナ:「やるなぁ!」
 稲生:「それでは皆さん、バスに乗りましょう」

 駅前のバス停まで向かう。

 ダンテ:「なかなか良い賑わいだ。ケルト音楽が似合うな」
 イリーナ:「ケルト音楽ですか?」
 ダンテ:「和楽器でケルト音楽を奏でれば、ちょうどこの駅前の雰囲気に似合うのではないかな?」
 イリーナ:「私の弟子に演奏させますね。ちょうど私の弟子が人形遣いなもので……」
 マリア:「スキルはありますけど、楽器が無いです」
 イリーナ:「ちっ」
 マリア:「ちっ、じゃないでしょ。当たり前です」
 アナスタシア:「弟子に突っ込まれる師匠」
 イリーナ:「うるさいわねぇ」
 ダンテ:「楽しくやっているようで結構」
 稲生:「あのー、先生方。早くバスに……」
 ダンテ:「おお、そうだった」
 アナスタシア:「もう少し駅前の雰囲気を味わわせてもらえないのかしら?日本人にプランを任せると、こういう余裕が無いのよね」
 稲生:「す、すいません!」
 ダンテ:「まあ、いいから。まずはホテルに入ろうではないか。さすがに私も少し長旅で疲れたよ」
 アナスタシア:「稲生君、バスはどこ!?」
 稲生:「いや、目の前です」

 東武バスのグループ会社ということもあってか、東武バスの観光バス車両の塗装をしたバスが止まっていた。
 もちろん、観光バス仕様である。

 稲生:「すいまぜん。では、出発お願いします」
 運転手:「はい。ホテルまで直行でいいですね?」
 稲生:「はい。お願いします」

 稲生は最前列席に座った。
 もちろん、幹事としてだ。
 その隣にマリア。
 通路を挟んで1Cと1D席にはエレーナとルーシーが座る。
 まだ雨が降っている為か、バスの大きなフロントガラスを大きなワイパーが左右に扇を描きながら規則正しく動く。

 エレーナ:「山に向かう所は、やっぱり魔女だな」
 稲生:「えっ?」
 エレーナ:「新人は山での生活が嫌になって海に向かったりするものだけど、慣れてくるとやっぱり山の方がいいって思うもんだ」
 稲生:「山というか……。僕の実家の埼玉県には海が無いから、あんまり馴染みが無いだけかもね」
 マリア:「私も海よりは山の方がいいかな」
 稲生:「そういえば海に住む魔女っていませんねぇ……」
 エレーナ:「いや、本当はいるさ。ラハブ様とかね」
 稲生:「ラハブ……様?」

 あのエレーナが『様』付けで呼ぶ存在があるようだ。
 しかし、エレーナは教えてくれなかった。
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“大魔道師の弟子” 「特急きぬがわ5号」

2019-11-29 15:11:07 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月23日12:55.天候:雨 東京都新宿区 JR新宿駅・湘南新宿ラインホーム→“きぬがわ”5号6号車内]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。6番線に停車中の列車は、13時ちょうど発、東武鬼怒川線直通、特急“きぬがわ”5号、鬼怒川温泉行きです。この列車は、全車指定席です。発車まで、しばらくお待ちください。次は、池袋に止まります〕

 

 ATOSの自動放送がホームに響き渡る中、ダンテ一門の訪日団は最後尾の6号車に乗り込んだ。

 稲生:「それでは皆さん、昼食のお弁当をお持ちください」
 アナスタシア:「ダンテ先生の分、ちょうだい!」
 イリーナ:「いや、アタシが持って行くよ」
 ポーリン:「2人とも、余計なことすなっ!私だ!」
 ベイカー:「いやいや、ここは年長者の私が持って行くさね」
 大魔道師A:「いやいやいや!」
 大魔道師B:「いやいやいやいや!」
 大魔道師C:「いやいやいやいやいやいや!」
 エレーナ:「絶対ェ、こーなると思ったヤツは挙手しろ」
 マリア:
 ルーシー:
 アンナ:
 魔道士A:
 魔道士B:
 魔道士C:
 魔道士D:
 以下略……

 稲生:「皆さん、行き渡りましたかー?それでは先生方には缶ビールとチューハイをお配りします。弟子の皆さん方はお茶かジュースを……」

 ダンテにはイリーナを通して稲生が渡した。
 よくよく考えてみれば、日本国内におけるアテンド役はイリーナ組なのだから、本来これが当たり前なのだ。

〔「ご案内致します。この電車は13時ちょうど発、湘南新宿ライン、宇都宮線、東武鬼怒川線直通、特急“きぬがわ”5号、鬼怒川温泉行きです。停車駅は池袋、浦和、大宮、栃木、新鹿沼、下今市、東武ワールドスクウェア、終点鬼怒川温泉の順に止まります。全車両指定席となっております。自由席はございませんので、ご乗車には乗車券の他に指定席特急券が必要です。……」〕

 稲生:「この電車では終点まで乗りますので、どうぞごゆっくりお寛ぎください」
 ダンテ:「うむ。ありがとう」

 稲生の報告にダンテは大きく頷いた。
 そして、彼を取り巻く直弟子達に言った。

 ダンテ:「皆も聞いた通り、我々はこれから北の温泉地へ向かう。教会の長は西へ向かうが、我々は北だ。即ち、この列車が発車した後は安全と見て良いだろう。私に気を遣わず、どうか日本旅行を楽しんでもらいたい。私もそうさせてもらう」

 ダンテは車両中央の座席に座った。
 稲生は相変わらず5号車に1番近い、つまりデッキ寄りの座席に座る。
 今度もまたマリア、ルーシー、エレーナと一緒だった。

 稲生:「え?なに?新幹線的なスタイルの特急じゃないのかって?……ああ、それ“スペーシアきぬがわ”号のことだね。ゴメンゴメン。ちょうどいい電車がJRの253系でさぁ……」
 ルーシー:「まあ、一応写真撮ったけど……」

 ルーシーは少し不満顔だった。

 稲生:「帰りはスペーシアだから、行きはこれで我慢してくれよ」
 エレーナ:「お、何だそうか」
 稲生:「一応ね」

 そんなことをしているうちに電車は陽気な発車メロディー(曲名:See you again)の後で、定刻に発車した。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。この電車は東武線直通、特急“きぬがわ”5号、鬼怒川温泉行きです。停車駅は池袋、浦和、大宮、栃木、新鹿沼、下今市、東武ワールドスクウェアと鬼怒川温泉です。……〕

 日本語の自動放送の後で、外国語の放送が流れる。

 稲生:「うん、この弁当美味しい」
 エレーナ:「よく手配できたな?」
 稲生:「こういう時、ネットは便利だよなぁ……」
 ルーシー:「まあ、確かに……」
 稲生:「せっかくの旅行なのに、雨なのが残念だね」
 エレーナ:「問題無い。むしろ日光に当たりたくない連中がわんさかだぜ」
 ルーシー:「私は逆だけどね」

 エレーナはいつも被っている中折れ帽子を取って、座席横の帽子掛けに掛けている。
 さすがにとんがり帽子は目立ち過ぎるので、それを被って来る者はいなかったが、やはり防寒着と称してローブを羽織って来る辺りは魔道士(というか魔女)なのだろう。
 『日光に当たりたくない』魔女達は車内でもフードを取らず、その表情を見ることは難しい。
 もっとも、マリアだって屋敷の外や、ルーシーも本来はそういう者だった。

 稲生:「タコさんウインナーが入ってるヤツの方が良かったかな?」
 マリア:「さすがにそれを大師匠様にお渡しするわけには……」
 稲生:「まあ、そうなんですけどね」

 弁当を食べている間の魔女達は静かだったのだが、食べ終わってからが大変だった。
 稲生が弁当ガラを回収したのだが、その間、マリアとエレーナは初めて来日した魔女達の観光案内について対応するのに苦労したという。

 稲生:「観光する余裕あるの?」
 マリア:「無いと思うんだけど……」
 アンナ:「私達アナスタシア組は、この機会にまた日本国内視察を行うことになってるからね」
 エレーナ:「視察という名の観光だろ、どうせ」
 アンナ:「 エレーナ、これはウクライナのキエフで本当にあった男女の痴情のもつれの話なんだけど……」
 エレーナ:「仲間に呪い話をするヤツがあるか!」

 アンナの魔法は話の内容が相手に侵食するというもの。
 怪談話の内容が侵食するタイプで、特に話の中の主人公が死亡する場合、聞き手もその主人公と同じ死に方をするという。
 しかも、即効性で。

 ルーシー:「私はどうせまた大師匠様をロンドンまでアテンドしないといけないから、観光する余裕なんて無いわ」
 マリア:「それは……残念だね」
 エレーナ:「永住者の資格取って、アンタも日本に住んだら?」
 ルーシー:「マリアンナやエレーナと違って、日本語分からないし……」
 マリア:「私も日本語を覚えたのはつい最近なんだけどね」
 エレーナ:「私は仕事で使うからだけど、日常生活は別に魔法具に通訳してもらえばいいんじゃね?」

 雨の中、温泉特急は一路北へ向かう。
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“大魔道師の弟子” 「新宿駅・湘南新宿ラインホーム」

2019-11-28 19:41:22 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月23日12:39.天候:雨 東京都新宿区新宿 JR新宿駅]

 “成田エクスプレス”は空港第2ビル〜東京間、ノンストップである。
 千葉駅を通過したら隣に黄色い中央総武線が、都内に入ったら入ったで別の通勤電車が並走するようになる。

 エレーナ:「稲生氏、質問があるみたいだぜ」
 稲生:「えっ?」

 ローブのフードを深く被った魔女がエレーナやマリアに耳打ちしてくる。
 彼女らは数少ない日本国内への永住者である為、観光ビザで入国してきた他の魔女達よりは日本国内のことを知っているだろうとのことで。
 しかし、本来は唯一の日本人である稲生に聞くのがベストである。
 だが、彼女達はそうしない。
 別に内規でそう決まっているわけではなく、人間時代に受けたトラウマでできないのだ。
 内規では別に門内での恋愛・結婚は自由とされているが、場合によっては禁止した方がいいこともある。
 しかしそれをしないのは、トラウマでできない者が多い為、あえて禁止にする必要が無いということなのだ。

 エレーナ:「東京スカイツリーだ?いや、この電車じゃ行けねーよ」
 マリア:「勇太、東京都庁って新宿だっけ?」
 稲生:「新宿です」
 エレーナ:「東京タワーの行き方?ホウキで直接行きゃいいだろ。乱気流凄いけどw」
 マリア:「勇太、サンシャイン60って池袋駅から何分?」
 稲生:「その隣の東池袋駅から行った方がいいですよ。……って、何で皆して超高層建築物に昇りたがるんですか」

 ホウキ乗りの魔女にとって、その超高層建築物を飛び越えることがステータスにでもなっているのだろうか。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、新宿です。中央快速線、中央・総武緩行線、山手線、小田急線、京王線、地下鉄丸ノ内線、地下鉄副都心線、都営地下鉄新宿線と都営地下鉄大江戸線はお乗り換えです。新宿の次は終点、池袋です〕

 稲生:「おっと!もう到着だ。先生達に教えてあげなきゃ」

 稲生は急いで席を立った。

 エレーナ:「1人じゃ大変だな〜」
 マリア:「私もいるから」

 マリアは勇太についていった。

 エレーナ:「おいおい。マリアンナまで行ったら、残りの奴らが干されるだろうが。……ったく。おい、みんな!降りる駅だぜ!」

 仕方が無いので、同じ永住者のエレーナが11号車の弟子達に声を掛けた。

 ルーシー:「相変わらずねぇ……」

 ルーシーは荷棚に置いた自分の荷物を降ろしていた。

 エレーナ:「アホか、アンタ!使い魔の黒蛇、ちゃんと隠せ隠せ!」

 エレーナは他の魔女に注意する。

 魔女A:「こんにちは。ルーシー」
 ルーシー:「え?ああ、こんにちは」
 魔女A:「マリアンナと仲がいいの?」
 ルーシー:「同じイギリスだしね。それが何か?」
 魔女A:「マリアンナがさっきの日本人と男女の関係ってホント?」
 ルーシー:「本当よ。レアケースだから、やっぱり目立つのね」
 魔女A:「ふーん……あのマリアンナがねぇ……。ふーん……」
 エレーナ:「おい、デッキのバッグ、アンタのか!?早く持ってって!」
 魔女A:「はーい」

 “成田エクスプレス”のデッキには、大型のキャリーケースが置けるスペースが設けられている。

〔しんじゅく〜、新宿〜。ご乗車、ありがとうございます。次は、池袋に止まります〕

 稲生達はぞろぞろと列車を降りた。
 因みに乗車時には12両編成だった列車も、東京駅で分割されて、今は6両編成になっている。
 要は6両で1編成の車両を2編成繋いでいたのだ。

 稲生:「先生方、お疲れさまでした。それではですね、次の乗り換え先の電車がこの隣のホームから出ます」
 イリーナ:「おお、凄い便利だねぇ……。聞きました、先生?」
 ダンテ:「さすがは将来のクロックワーカーに相応しい。時刻の使い手だ。基本はどうやらできているようだな」
 イリーナ:「ありがとうございます」
 稲生:「僕はただ時刻表を見ながら列車を予約しただけですよ」
 ダンテ:「時間にルーズな者は、そのトリックが使えぬのだ。それだけでキミは素質があると見受けられる」

 イリーナ組がそういうやり取りをしている中、ルーシーは……。

 ルーシー:「先生、お疲れさまです」
 ベイカー:「いやいや。私はダンテ先生のお傍にいられるだけで幸せだで……。それより、あなたは好きなことをしていなさい。ダンテ先生は、私達の弟子が生き生きしている所を見られるのが好きなんだ」
 ルーシー:「は、はい!」

 ルーシーは出て行く“成田エクスプレス”の車両をカメラに収めた。

 ルーシー:「ん?稲生とマリアンナは?」
 エレーナ:「予約していた昼飯の弁当を取りに行ったぜ。40人分だから相当な量だろう」
 ルーシー:「うわ……」

〔まもなく6番線に、当駅止まりの列車が参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。折り返し、13時ちょうど発、特急“きぬがわ”5号、鬼怒川温泉行きとなります。……〕

 ルーシー:「ワゴン販売で買えばいいんじゃないの?」
 エレーナ:「それが無いから弁当屋に注文したらしいぜ」
 ルーシー:「凄いねぇ。私は手伝わなくていいかな?」
 エレーナ:「アンタも観光ビザの入国者なんだから、先生のお守りでもしてたらどうだ?」
 ルーシー:「エレーナは?」
 エレーナ:「大師匠様の御相手で忙しいってんで、追い返されたぜ」
 ルーシー:「皆同じなのね……」
 エレーナ:「それより今度乗り換える電車は、新幹線的なスタイルのヤツだ。さっきの電車も近代的なスタイルだったが、今度のヤツもなかなか個性的たぜ」
 ルーシー:「エレーナ、詳しいね」
 エレーナ:「なぁに。前に東京スカイツリー越えにチャレンジした時、よく見かけたもんだぜ」

 ロクな結果にならなかったことは言うまでもない。

 稲生:「すいませんね。わざわざここまで運んでくれて……」
 弁当屋:「いえ、いいんですよ」
 マリア:「一応、酒入ってる」
 稲生:「ビールとかチューハイくらいは飲むって聞いたから」
 マリア:「ま、飲めるのは先生達くらいか」

 そんなことを話しながらホームに戻って来た稲生達。

 エレーナ:「稲生氏、稲生氏!」
 稲生:「エレーナ、どうした?」
 エレーナ:「今、乗り換え先と思われる電車がやってきたんだけど……」
 稲生:「うん、また1番後ろの車両だよ。ってか、グリーン車の無い電車だったんだけど、ドン引きだったかな?」
 エレーナ:「いや、どうせ私達はそれでもエコノミークラスにしか乗れないんだから、そんなことはどうでもいいんだ。それより……」
 稲生:「それより?」
 エレーナ:「何か想像してたのとは違う電車がやってきて、ルーシーがカメラ片手に固まってるぜ」
 稲生:「あー……」
 マリア:「Huh?」

 それは何故か?

 1:東武100系スペーシアじゃなかったから。
 2:東武200系りょうもう号の車両だったから。
 3:ぶっちゃけ通勤電車だったから。
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“大魔道師の弟子” 「ダンテ一門の移動」

2019-11-28 17:19:28 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月23日11:16.天候:雨 千葉県成田市 JR空港第2ビル駅]

 ダンテ門流魔法道の創始者、ダンテ・アリギエーリを乗せた飛行機が着陸した。
 飛行機はイギリスのロンドンからやってきたもので、日本までのアテンド役はベイカー組に任された。
 ベイカー組は“魔の者”(の眷属)に弟子を2人殺されてしまったので、現在在籍している弟子はルーシー・ロックウェルしかいない。
 それでも無事に到着できたことで、出迎えた直弟子(1期生)達は大喜びだった。
 孫弟子(2期生。一部3期生含む)達は喜びよりも、むしろ緊張の色の方が大きい。
 特にアテンド役の1人であるルーシーは、本来なら自分自身の訪日とマリアとの再会を大きく喜びたいところなのだろうが、それどころではなかった。

 稲生:「全部で40人か。結構な参加だな……」
 エレーナ:「それでも半分以下だぜ?新規入門者を入れれば、もう100人以上はいるから」
 マリア:「日本まで来るのは大変だからね。まず見習は勇太を除いて参加できないし、だからアナスタシア組も意外と人数は少ないわけ」
 エレーナ:「数だけ多いけど、実際は見習だらけってことだな」
 稲生:「大師匠様はもちろん、大魔道師の先生方はグリーン車だ。僕達は普通車になるけどね」
 エレーナ:「私らの立場を理解すれば当たり前だぜ」

〔まもなく東京、大船、池袋行き、“成田エクスプレス”16号が到着します。黄色い線まで、お下がりください〕

 地下ホームに接近放送が鳴り響く。
 当然ながら日本語放送の後で英語放送が流れた。
 そして轟音と強風を伴って、12両編成の特急列車がホームに入線してくる。

 稲生:「先生方が乗られるのは12号車のグリーン車です」
 イリーナ:「センセ、1番後ろのようですわ」
 ダンテ:「うむ」

 ダンテは黒い山高帽にグレーのマフラーを首に巻き、黒いスーツの上から黒いローブを羽織っていた。
 さながら“ゴッドファーザー”のようであり、手に魔法の杖さえ持っていなければ、どこからともなくトンプソンを取り出して、敵を蜂の巣にしそうな勢いである。

 稲生:「こちらです」

 12号車はダンテ一門の貸切になっている為、ガラガラの状態であった。
 アテンド役の稲生は先にダンテ達をグリーン車に案内した。
 グリーン車の座席は革張りのレザーシートである。

 稲生:「大師匠様と先生方はこちらの車両をご利用ください。下車駅は新宿です」
 ダンテ:「おっ、ありがとう」

 稲生は自分を含む残りの孫弟子達を11号車に案内する。
 さすがに11号車は貸切ではなく、12号車寄りの3分の1くらいのスペースが貸切なだけである。

 エレーナ:「稲生氏、一緒に座ろうぜ。この座席、クルッと向かい合わせにして」

 ダンテ達とは車両が違うだけで気が楽になるエレーナ。

 稲生:「まあ、いいけど。僕は1番こっち側の方がいいね」

 稲生は12号車へのデッキに最も近い席に座った。
 そうこうしているうちに、新型の特急列車はインバータの音を響かせて発車した。

 マリア:「ルーシーもこっちに座ろう」
 ルーシー:「うん」
 エレーナ:「大師匠様のアテンド役、大変だったな?」
 ルーシー:「飛行機に乗ってしまえば、大師匠様はファーストクラスだし、私と先生はビジネスクラスに乗れば良かったから。でも、時々先生が大師匠様の所へ行かれるのは緊張したかな」

 基本的に機内ではダンテの相手をしたのはベイカーであったので、ルーシーはただ見ているだけで良かったのだが。
 本当にそれでいいのか、自分も何かしないといけないのではないかという緊張で一杯だったという。

 エレーナ:「帰りもアテンドだろ?大変だな」
 稲生:「笑っているけど、もしも大師匠様がウクライナに行かれることになったら、今度はキミがアテンド役だよ」
 マリア:「その通り」
 エレーナ:「ど、どうせしばらく無ーよ」

 そこへ車掌がやってくる。

 車掌:「失礼します。12号車のお客様方の幹事様は……?」
 稲生:「あ、はい。僕です」
 車掌:「恐れ入りますが、団体乗車券の確認を……」
 稲生:「あ、はい」
 
 ダンテ一門は『訪日観光団体』として乗車している。
 学生団体より割引率は低い。

 稲生:「あとこの車両の、そこの座席までですね」
 車掌:「かしこまりました」

 車掌の車内改札を受ける。

 稲生:「乗り換え先でも、多分検札あるな」
 ルーシー:「当たり前でしょ」

 ルーシーがさも当然のように言った。

 エレーナ:「おっ、さすが鉄道員の娘」
 ルーシー:「いや、常識だって」

 マリアはモスグリーンのダブルのブレザーを着ているが、ルーシーも今回はラフな服装ではなく、えんじ色のシングルのブレザーを着ている。
 スカートは同じ色のタイトスカートだった。
 マリアが日本の学校制服をモチーフにしたのに対し、ルーシーはイギリスの女子学生の服をモチーフにしたのかもしれない。
 少なくとも、現役時代の制服をそのまま持って来たわけではないようだが……。

 エレーナ:「それにしてもホウキで空港まで向かうの大変だったぜ」
 稲生:「ホウキで向かったの!?」
 エレーナ:「だいぶ手前で降下しないと、飛行機にぶつかって危ねー」
 稲生:「いや、そりゃそうだろ!」
 マリア:「アホか、オマエ」
 ルーシー:「ただでさえローマ教皇の来日で、教会の関係者達が警戒してるというのに何してるの」

 エレーナの奇行にマリアはツッコみ、ルーシーは呆れた。

 エレーナ:「先生達の様子は見に行かなくていいのか?」
 稲生:「うちの先生がいいって。大師匠様も長旅でお疲れだろうから、少なくとも電車の中では静かにするみたいだよ」
 エレーナ:「本番は今夜の宴会か……」

 エレーナはニヤリと笑った。

 稲生:「ファーストクラスはベッドのようにフラットの状態になるんだろう?それでも疲れるのかい?」
 ルーシー:「長旅は色々と気を使うから、ビジネスクラスもフラットになるタイプだったけど、私も殆ど寝れなかった」
 エレーナ:「おい、大丈夫かよ?」
 ルーシー:「一応、回復魔法は使えるから。HPはこれで回復する」
 エレーナ:「そしたら今度はMPが減るだろ?良かったらエリクサー、売ってやるぜ?」
 稲生:「売る気かよ」
 エレーナ:「エリクサーはポーションより高いんだ。当たり前だぜ。今なら魔界価格で売ってやる」

 魔法薬は全て魔界で調達する為、現地で買った方が断然安い。
 にも関わらず、ゲーム終盤になると高くなるRPGの不自然さ。

 ルーシー:「考えておくわ。もしかしたら先生方が元気に盛り上がるのは今日じゃなくて、最終日の東京のホテルかもしれない」
 稲生:「なるほど。ある程度休んでからの方がいいってか」

 ダンテ一門は、まずは都内へと向かった。
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