[2月5日02:30.天候:曇 廃ペンション本館1F・食堂エリア]
敷島はアリスとその両親からの『歓迎』を受けた。
そのうち、キャシーという名の母親は敷島の態度に憤慨して出て行ったし、父親のマークとアリスはロボットが暴走したとかで出て行ってしまった。
敷島は椅子に拘束されていたのだが、その拘束は甘く、何とか自力で解くことができた。
急いで食堂から逃げようとした敷島は、ふとアリスが座っていた椅子に目をやった。
敷島:「ん?」
座面には1枚のメモがあった。
どうやらアリスが尻に敷いていたらしい。
拾ってみると、こう書いてあった。
『パントリーの床下へ 8239』
敷島:「これは……!」
敷島はそのメモを取ると、パントリーへと向かった。
敷島:「チッ、ヒドい臭いだ」
途中でキッチンの中を通る。
まるで、自動車整備工場のような臭いがした。
その理由は分かった。
敷島:「な、何だぁ?」
台所なのに、どういうわけだかエンジンオイルやブレーキオイル、そして軽油の携行缶が置かれていたのだ。
置き場所的に、そこには食用油や料理酒などを置いておく場所だと思うのだが……。
サラダのドレッシングの瓶と思われる蓋を開けると、中からは明らかにひまし油の臭いがした。
敷島:「あいつら、味覚がおかしいんじゃないのか?」
敷島はキッチンの横のパントリーのドアを開けようとした。
だが、鍵が掛かっている。
敷島:「何だよ!?開かないじゃんかよ!?……鍵だ!鍵を探さないと!」
敷島はキッチン内を探そうとした。
が、その時、食堂の外に出るドアから鍵をガチャガチャやる音が聞こえた。
誰かが戻ってきたのだ。
敷島は急いで自分が座らされていた椅子に戻った。
座ると同時に、マークだけが1人で戻って来る。
マーク:「くそぅ、あのポンコツ共め。だからあんなものを用意しておくのは反対だったんだ。……ん?何だ、お前。まだ食べてないのか?」
敷島:「ど、どうも、お義父さん。えーと……アリスとお義母様は何処へ……?」
マーク:「黙れ。家族になりたければ、俺達と同じ物を食べなければならない。これが我が家のルールだ。しかるにお前は、何1つ食べていないじゃないか。腹が減ってないのか?ん?」
敷島:「そ、そうっスねー。何せ、少食なもんで」
マーク:「ならば、酒はどうだ?飲めるんだろ?」
敷島:「えーと……。酒はどんなものがあるのでせう……?」
マーク:「俺のオススメは、このメチルアルコールだ。熱い喉越しがハンパ無いぜ。ん?改めて乾杯というか?」
敷島:(そんなもん飲んだら、失明しちまうー!)
マーク:「どうした?早くそこのグラスを寄越せ。まさか、これすら飲めねぇってのか?こんなもん一気飲みできなきゃ男じゃないぜ?」
敷島:「い、一気飲みは今、アルハラ扱いでタイーホされますんでぇ……」
マーク:「そんな根性では、アリスの婿養子とは認められんな」
敷島:「ぼ、ボクぁ長男なんで、婿養子にはならないよう、死んだ祖母ちゃんに言われてましてぇ……」
マーク:「いちいちうるさい男だ!いいから飲め!飲むんだ!男なら勢い良くラッパ飲みだぜ!」
マークはメタノールの入った瓶を敷島の口にねじ込もうとした。
が、そこへまた助けが入る。
キャシー:「ちょっとマーク、手伝ってよ!アンタが止めたポンコツがまた動き出したのよ!?アタシじゃ止めらんないんだよっ!」
マーク:「くそっ、しぶとい奴め!……またすぐ戻るからな?ここを動くんじゃないぞ」
敷島:「はひ……」
狂気の初老夫婦は再び食堂を飛び出して行った。
敷島はその後でドアを開けようとしたが、どうもオートロックになっているのか、こちら側からは開かないようだ。
敷島:「アリスのメモの通り、パントリーから行くしか無いみたいだな。しかし、鍵がどこにあるのやら……」
だが、また敷島はあるものを見つけた。
それは今しがたマークが座っていた椅子。
その下に、キーピックが落ちていた。
マークが落としたのだろうか。
敷島:「しょうがない。これでやるしか無いか」
敷島はキーピックを手にパントリーへ向かうドアへ向かった。
敷島:「くそっ、こんな時に萌がいたらなぁ……。あいつならこんな鍵、簡単に開けるだろうに……」
敷島はキーピックを差し込んで、とにかくガチャガチャやってみた。
敷島:「それにしても、萌達はどうなったんだろう……?」
割と簡単な鍵なのだろう。
それとも単なる偶然か。
そのドアの鍵が開いた。
敷島:「よし、これで……!」
だが、同時にマークが戻ってきた。
マーク:「ディナーはまだ終わっとらんぞ?どこに行くつもりだ?」
敷島:「わあっ!」
敷島は急いでパントリーの中に入った。
そしてドアを閉めて、内側から鍵を掛ける。
マーク:「俺達の歓迎を受けられないというのか。そうか。お前はそういう男だったのか。ならば、やはりアリスを嫁には出せんな」
敷島:「いや、もうとっくに頂いてちゃってますんで!」
敷島は床下への入口の蓋を見つけた。
これも鍵が掛かっていて、しかしこちらは何故かナンバーロック式だった。
それがさっきのメモの番号だったのだ。
敷島が急いで番号を合わせていると、ドアの向こうからチェーンソーの音が聞こえた。
敷島:「えっ!?」
嫌な予感がしたが、それは当たった。
マークがチェーンソーで鍵の掛けられたドアを切り倒してきたのだった。
マーク:「俺の家をどうしてくれる!?」
敷島:「いや、自分でやっといて、そりゃ無いでしょうよ!!」
敷島は蓋を開けて床下に飛び込んだ。
そして、急いで蓋を閉める。
その蓋をもチェーンソーで切り裂いて追って来るかと思ったが、意外にもそうはしてこなかった。
マーク:「分かったよ。そこでしばらく縮こまってな。後で捕まえてやるからよ」
床下の空間は奥行きがあった。
敷島は壁伝いに進んだ。
このまま外まで続いてくれていれば良いのだが、さすがにそれはムシが良過ぎた。
出口らしき場所が見つかり、這い上がってみると、そこは洗濯室のようだった。
ペンションとしてやっていたからか、大型の業務用洗濯機や乾燥機が置いてあった。
敷島:「ん?」
洗濯室内にはショットガンが置かれていた。
別館で拾ったものとは違い、猟銃ではなく、軍事用のものだった。
弾もある。
敷島:「よし、これで……」
敷島が洗濯室の外に出ようとした時だった。
室内に置かれている電話機が鳴った。
敷島:「びっくりするなぁ……」
敷島は電話を切った。
アリス:「もしもし、タカオ?ダディ達からは逃げられた?」
敷島:「アリスか!?さっきのは一体何なんだ!?」
アリス:「ゴメンね。私もおかしくなったフリをしないと、ヒドい目に遭わされるから。不良娘のレッテル貼られてね」
敷島:「本当にあれはアリスの両親なのか?」
アリス:「ええ。正確には、『だった』という過去形だけどね。アタシの小さい頃、一緒に撮った写真があって、それを見せられたからね。でも、今は違う」
敷島:「かなり味覚がおかしくなってるな」
アリス:「びっくりしたでしょう?まるで、ロボットが食事をしようとするとあんな感じ……でしょ?」
敷島:「!……おい、まさか」
アリス:「ええ、そうよ。ダディ達はもう人間じゃない。でも、ロイドでもないの。要はその中間……」
敷島:「……ロイドが人造人間のことを言うなら、あいつらは改造人間……サイボーグか!」
アリス:「信じられないでしょうけどね」
敷島:「KR団の真髄だ……。やっぱりここは、KR団のアジトだったのか……」
ロボットの性能向上を認めつつも、しかしロボットが人間に取って代わることを頑なに拒否していたKR団。
彼らの結論が……あのホーゲルマン夫妻だったのか。
アリス:「もうすぐそろそろダディ達が来る頃だから切るね。とにかくタカオは、その本館から出て。エントランスホールから出られるはずよ」
敷島:「分かった」
敷島は電話を切った。
敷島はアリスとその両親からの『歓迎』を受けた。
そのうち、キャシーという名の母親は敷島の態度に憤慨して出て行ったし、父親のマークとアリスはロボットが暴走したとかで出て行ってしまった。
敷島は椅子に拘束されていたのだが、その拘束は甘く、何とか自力で解くことができた。
急いで食堂から逃げようとした敷島は、ふとアリスが座っていた椅子に目をやった。
敷島:「ん?」
座面には1枚のメモがあった。
どうやらアリスが尻に敷いていたらしい。
拾ってみると、こう書いてあった。
『パントリーの床下へ 8239』
敷島:「これは……!」
敷島はそのメモを取ると、パントリーへと向かった。
敷島:「チッ、ヒドい臭いだ」
途中でキッチンの中を通る。
まるで、自動車整備工場のような臭いがした。
その理由は分かった。
敷島:「な、何だぁ?」
台所なのに、どういうわけだかエンジンオイルやブレーキオイル、そして軽油の携行缶が置かれていたのだ。
置き場所的に、そこには食用油や料理酒などを置いておく場所だと思うのだが……。
サラダのドレッシングの瓶と思われる蓋を開けると、中からは明らかにひまし油の臭いがした。
敷島:「あいつら、味覚がおかしいんじゃないのか?」
敷島はキッチンの横のパントリーのドアを開けようとした。
だが、鍵が掛かっている。
敷島:「何だよ!?開かないじゃんかよ!?……鍵だ!鍵を探さないと!」
敷島はキッチン内を探そうとした。
が、その時、食堂の外に出るドアから鍵をガチャガチャやる音が聞こえた。
誰かが戻ってきたのだ。
敷島は急いで自分が座らされていた椅子に戻った。
座ると同時に、マークだけが1人で戻って来る。
マーク:「くそぅ、あのポンコツ共め。だからあんなものを用意しておくのは反対だったんだ。……ん?何だ、お前。まだ食べてないのか?」
敷島:「ど、どうも、お義父さん。えーと……アリスとお義母様は何処へ……?」
マーク:「黙れ。家族になりたければ、俺達と同じ物を食べなければならない。これが我が家のルールだ。しかるにお前は、何1つ食べていないじゃないか。腹が減ってないのか?ん?」
敷島:「そ、そうっスねー。何せ、少食なもんで」
マーク:「ならば、酒はどうだ?飲めるんだろ?」
敷島:「えーと……。酒はどんなものがあるのでせう……?」
マーク:「俺のオススメは、このメチルアルコールだ。熱い喉越しがハンパ無いぜ。ん?改めて乾杯というか?」
敷島:(そんなもん飲んだら、失明しちまうー!)
マーク:「どうした?早くそこのグラスを寄越せ。まさか、これすら飲めねぇってのか?こんなもん一気飲みできなきゃ男じゃないぜ?」
敷島:「い、一気飲みは今、アルハラ扱いでタイーホされますんでぇ……」
マーク:「そんな根性では、アリスの婿養子とは認められんな」
敷島:「ぼ、ボクぁ長男なんで、婿養子にはならないよう、死んだ祖母ちゃんに言われてましてぇ……」
マーク:「いちいちうるさい男だ!いいから飲め!飲むんだ!男なら勢い良くラッパ飲みだぜ!」
マークはメタノールの入った瓶を敷島の口にねじ込もうとした。
が、そこへまた助けが入る。
キャシー:「ちょっとマーク、手伝ってよ!アンタが止めたポンコツがまた動き出したのよ!?アタシじゃ止めらんないんだよっ!」
マーク:「くそっ、しぶとい奴め!……またすぐ戻るからな?ここを動くんじゃないぞ」
敷島:「はひ……」
狂気の初老夫婦は再び食堂を飛び出して行った。
敷島はその後でドアを開けようとしたが、どうもオートロックになっているのか、こちら側からは開かないようだ。
敷島:「アリスのメモの通り、パントリーから行くしか無いみたいだな。しかし、鍵がどこにあるのやら……」
だが、また敷島はあるものを見つけた。
それは今しがたマークが座っていた椅子。
その下に、キーピックが落ちていた。
マークが落としたのだろうか。
敷島:「しょうがない。これでやるしか無いか」
敷島はキーピックを手にパントリーへ向かうドアへ向かった。
敷島:「くそっ、こんな時に萌がいたらなぁ……。あいつならこんな鍵、簡単に開けるだろうに……」
敷島はキーピックを差し込んで、とにかくガチャガチャやってみた。
敷島:「それにしても、萌達はどうなったんだろう……?」
割と簡単な鍵なのだろう。
それとも単なる偶然か。
そのドアの鍵が開いた。
敷島:「よし、これで……!」
だが、同時にマークが戻ってきた。
マーク:「ディナーはまだ終わっとらんぞ?どこに行くつもりだ?」
敷島:「わあっ!」
敷島は急いでパントリーの中に入った。
そしてドアを閉めて、内側から鍵を掛ける。
マーク:「俺達の歓迎を受けられないというのか。そうか。お前はそういう男だったのか。ならば、やはりアリスを嫁には出せんな」
敷島:「いや、もうとっくに頂いてちゃってますんで!」
敷島は床下への入口の蓋を見つけた。
これも鍵が掛かっていて、しかしこちらは何故かナンバーロック式だった。
それがさっきのメモの番号だったのだ。
敷島が急いで番号を合わせていると、ドアの向こうからチェーンソーの音が聞こえた。
敷島:「えっ!?」
嫌な予感がしたが、それは当たった。
マークがチェーンソーで鍵の掛けられたドアを切り倒してきたのだった。
マーク:「俺の家をどうしてくれる!?」
敷島:「いや、自分でやっといて、そりゃ無いでしょうよ!!」
敷島は蓋を開けて床下に飛び込んだ。
そして、急いで蓋を閉める。
その蓋をもチェーンソーで切り裂いて追って来るかと思ったが、意外にもそうはしてこなかった。
マーク:「分かったよ。そこでしばらく縮こまってな。後で捕まえてやるからよ」
床下の空間は奥行きがあった。
敷島は壁伝いに進んだ。
このまま外まで続いてくれていれば良いのだが、さすがにそれはムシが良過ぎた。
出口らしき場所が見つかり、這い上がってみると、そこは洗濯室のようだった。
ペンションとしてやっていたからか、大型の業務用洗濯機や乾燥機が置いてあった。
敷島:「ん?」
洗濯室内にはショットガンが置かれていた。
別館で拾ったものとは違い、猟銃ではなく、軍事用のものだった。
弾もある。
敷島:「よし、これで……」
敷島が洗濯室の外に出ようとした時だった。
室内に置かれている電話機が鳴った。
敷島:「びっくりするなぁ……」
敷島は電話を切った。
アリス:「もしもし、タカオ?ダディ達からは逃げられた?」
敷島:「アリスか!?さっきのは一体何なんだ!?」
アリス:「ゴメンね。私もおかしくなったフリをしないと、ヒドい目に遭わされるから。不良娘のレッテル貼られてね」
敷島:「本当にあれはアリスの両親なのか?」
アリス:「ええ。正確には、『だった』という過去形だけどね。アタシの小さい頃、一緒に撮った写真があって、それを見せられたからね。でも、今は違う」
敷島:「かなり味覚がおかしくなってるな」
アリス:「びっくりしたでしょう?まるで、ロボットが食事をしようとするとあんな感じ……でしょ?」
敷島:「!……おい、まさか」
アリス:「ええ、そうよ。ダディ達はもう人間じゃない。でも、ロイドでもないの。要はその中間……」
敷島:「……ロイドが人造人間のことを言うなら、あいつらは改造人間……サイボーグか!」
アリス:「信じられないでしょうけどね」
敷島:「KR団の真髄だ……。やっぱりここは、KR団のアジトだったのか……」
ロボットの性能向上を認めつつも、しかしロボットが人間に取って代わることを頑なに拒否していたKR団。
彼らの結論が……あのホーゲルマン夫妻だったのか。
アリス:「もうすぐそろそろダディ達が来る頃だから切るね。とにかくタカオは、その本館から出て。エントランスホールから出られるはずよ」
敷島:「分かった」
敷島は電話を切った。