報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「おもしろ師匠組と苦労の弟子達」

2017-03-25 20:39:56 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月1日15:00.天候:晴 長野県白馬村郊外山中 マリアの屋敷2F西側応接室]

 イリーナ:「え?ダンテ先生が日本に?」
 アナスタシア:「そうよ。朝鮮半島の政治情勢についてはマスコミが誤魔化してくれてるけど、さすがにジョンナムが殺されたことについて、奴らが黙っていないと思うからね」
 マルファ:「東アジア魔道団かぁ!ほんと、“天秤”を揺らすのが好きな人達だよねぇ!」
 イリーナ:「要はコリア情勢の視察のついでに、日本に来るということかしら?」
 アナスタシア:「表向きはね」
 イリーナ:「表向き……?」
 アナスタシア:「東アジア魔道団の日本拠点が、ついに確認されたわ。イリーナ、あんたも知ってるでしょう?」
 イリーナ:「知ってるも何も、うちのコ達が知らずに泊まりに行ったからね。やっぱ、何かマズった話?」
 アナスタシア:「それについては、どうでもいいみたいね。先生のことだから、挨拶の1つでもしてくるんでしょう。色んな意味でね」
 マルファ:「イリーナぁ、そいつらから挨拶あった?」
 イリーナ:「無いわ。ほんと、何考えてるか分かんない連中ね」
 マルファ:「イリーナ、ブーメラン!」
 イリーナ:「ん?」
 マルファ:「向こうからしてみれば、私達の方だって敵か味方か分かんないと思うね!」
 イリーナ:「う、確かに……」
 アナスタシア:「とにかく、ダンテ先生お1人だけ向かわせるわけにはいかないわ。私達は直属の弟子として、先生をお守りしなければならない」
 イリーナ:「ナスターシャのことだから、『それは私の役目だから、イリーナとマルファは引っ込んでて!』って言いたいわけ?」
 マルファ:「ほらほらぁ、もう一杯飲んで!」

 マルファはアナスタシアにウォッカを注いだ。

 イリーナ:「ちょっ、マルファ!ナスターシャにそれ以上飲ませたら……」

 アナスタシアはクイッとウォッカのグラスを空けた。

 アナスタシア:「そうよ……!先生をお守りするのは、この私の役目……!なのに……なのに……!」
 マルファ:「んー?」

 アナスタシアは俯いた。
 マルファがその顔を覗き込むと、何と、アナスタシアはボロボロと涙を零していた。

 アナスタシア:「先生ったら、『アナスタシアは優秀な弟子であるけども、その弟子達の育成法には問題があるから、その改善にまず力を入れよ』だって!ひどーい!あたしだって……あたしだって……門内で1番多くの弟子を抱えているのに……!」
 マルファ:「えっ、なにこれ?超面白いんだけどー?」
 イリーナ:「あー、やっぱり……。ナスターシャに昼間、ウォッカ飲ませるとねぇ……泣き上戸の絡み酒になるんだよォ」
 マルファ:「うっははははははっ!なになに!?もう酔っぱらったの!?キレる瞬間、アンコール!」
 イリーナ:「面白がっていられるのも、今だけだよ。その状態、夜まで続くから、あとはよろしく」
 マルファ:「えっ、なにそれ!?超面倒!」
 イリーナ:「じゃ、アタシはそろそろ弟子達の指導に行かないといけないから」
 マルファ:「ちょっ、ちょっと待ってー!」

 イリーナが席を立とうとすると、マルファがそのローブを掴む。
 だが、そのマルファの腕をアナスタシアが掴む。

 アナスタシア:「ヒック……!おいコラ、テメーラ、どこへ行くんだ、ああっ!?オメーラも飲むんだよ、ああっ!?」
 マルファ:「イリーナ、助けて!私1人じゃ面倒見切れない!」
 イリーナ:「引っ張るなっての!飲ませたアンタがナスターシャのお尻吹いてあげなさい!」
 アナスタシア:「おい、イリーナ。まだ向こうの部屋に、ウォッカあんだろ?贈答品隠してんじゃねぇよ、コラ。早く持ってこいよ……ヒック!」
 イリーナ:「隠して無いし!ってか、何で酒の在り処知ってんだ、オマエは!?」

[同日同時刻 同屋敷3F西側]

 稲生:「やっと外れた、この仕掛け!」

 稲生は工具箱を手に、イリーナが仕掛けたギミックを解除していた。

 マリア:「ありがとう。いくら師匠とはいえ、勝手に屋敷のギミックを変えられたら困るんだ。危うく私が引っ掛かるところだ」
 稲生:「マリアさんが引っ掛かるくらいだから、僕なんか完全にトラップに嵌まるわけですね」
 マリア:「関係者の私達がトラップに引っ掛かってたら世話ない。いいから、師匠が仕掛けたトラップは全部外せ」
 稲生:「は、はい!これ、日暮れまでに終わります?」
 マリア:「終わらせるんだよ!ユウタ、Japanese Otokogi(男気)とやらを見せてくれ!」
 稲生:「わ、分かりました。(マリアさん、変な日本語覚えちゃったなぁ……)」

 階下からは師匠達の騒ぎが聞こえてくる。

 稲生:「先生達、大盛り上がりですね」
 マリア:「全く。昼間から酒盛りとは、いい身分だ。とにかく、師匠達が酔い潰れている間がチャンスだ。今のうちに、師匠が勝手に改造したギミックを元に戻すぞ」
 稲生:「はい!」

[同日20:00.天候:晴 同屋敷西側3F]

 稲生:「ふぅーっ!やっと終わったぁ!」
 マリア:「ご苦労さん。少し遅いけど、夕食にしよう。向こうの階段から2階に下りれば、エントランスを通ってダイニングに行ける」
 稲生:「はい」

 で、2階を通る際に応接室に寄ってみたのだが……。

 稲生:「イリーナ先生……あ、ダメだ、こりゃ」

 (BGM:パロディウス音頭)

 ドアを開けた瞬間、稲生は今日の指導はもう既に無いことを悟った。
 イリーナを含む師匠達はソファに座り込んだり、上半身を横たえたりしていて酔い潰れていた。
 床には、叩けば響くウォッカの空瓶が5本くらい転がっていた。

 稲生:「マリアさん、先生達、酔い潰れてしまってます」
 マリア:「そんなことだろうと思った。いいよ、ディナーは私達だけで食べよう」
 稲生:「はい」

 稲生とマリアは1F西側のダイニングに向かった。
 長方形の大型テーブル、上座の短辺部分は常に空席になっており、そこは大師匠ダンテの席だとされる。
 屋敷の実質的なオーナーであるイリーナですら、そこに座ろうとしない。
 当然、弟子の身分である稲生とマリアも、上座から離れた長辺部分に向かい合って座るのである。
 大食堂内にはエレクトーンが置かれていて、メイド人形で演奏のできる者がそこに座って演奏を行う。
 因みに今演奏されているのは、ハチャトゥリアン作曲『剣の舞』という、およそ夕食の時間に聴くようなものではないクラシック曲である。

 稲生:「結局、アナスタシア先生は何の御用だったんでしょう?」
 マリア:「ちらっと小耳に挟んだ程度だけど、どうやら近いうちにダンテ先生が来日されるらしいな」
 稲生:「へえ……。じゃあ、こちらの屋敷に寄られるんですね」
 マリア:「その可能性は高い。……クラリス、悪いけど選曲変えて。落ち着かない」

 メイド人形のクラリスは主人のクレームに頷くと、曲を替えた。
 またもや勇ましい曲になった。

 稲生:「『アルルの女』の第2楽章第4部……だったかな?」
 マリア:「全く……。ダンテ先生の付き人を誰がやるかで揉めてるらしい」
 稲生:「何だそりゃ……」
 マリア:「ダンテ先生の付き人だから、まあ、上で酔い潰れてる師匠クラスの誰かだろうね」
 稲生:「ポーリン先生は?」
 マリア:「ポーリン師は宮廷魔導師の仕事が忙しいだろうから、無理だろう」
 稲生:「あ、そうか」
 マリア:「結局のところ、大師匠様が御指名されるから、恨みっこ無しにしてもらいたいものだな」
 稲生:「全くですね」
コメント
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