報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「秩父へ向かう」 2

2017-03-17 21:05:22 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月11日09:25.天候:晴 池袋駅西武線特急ホーム]

〔「お待たせ致しました。9時30分発、特急“ちちぶ”9号、西武秩父行き、まもなくドアが開きます」〕

 ドアが開いて、敷島達は列車に乗り込んだ。
 全車指定席なので、乗車風景は淡々としたものだ。
 但し、平日の通勤時間帯とは違い、当然だが行楽客の姿が多く目立っている。

 エミリー:「こちらです」
 孝之亟:「うむ。せっかくじゃ、座席を向かい合わせにしようではないか」

 エミリーが座席下のペダルを踏んで回している間、シンディは孝之亟から脱いだコートを預かって畳み、荷棚の上に置いた。
 被っていた山高帽は窓の横のフックに掛ける。
 因みにビジネスマナーにおける、電車の座席の上座と下座。
 最上位の者は進行方向向きの窓側、2番目はその向かい、3番目は最上位者の隣、そして最下位の者は3番目の隣になるという。
 杓子定規に行けば、孝之亟が進行方向向きの窓側、敷島がその向かい、孝之亟の隣にエミリーが座って敷島の隣がシンディになるはずだ。
 しかし今回の場合、孝之亟はシンディがお気に入りということもあり、シンディが孝之亟の隣に座ることにした。

〔「本日も西武鉄道の特急レッドアローにご乗車頂き、ありがとうございます。お客様にご案内致します。この電車は9時30分発、特急“ちちぶ”9号、西武秩父行きでございます。停車駅は所沢、入間市、飯能、横瀬、終点西武秩父の順でございます。……」〕

 敷島は窓際の桟にコーヒーの入った紙コップを置き、サンドイッチの入った箱を開けた。

 孝之亟:「お前だけこんなものを……」
 敷島:「さっき、売店に行って来たんですよ。最高顧問、いらないって言ったじゃないスか」
 孝之亟:「まあ、それはそうじゃが……。こういう行楽列車に乗ると、酒を口にしたくなるのぅ……」
 シンディ:「私が買って参りましょうか?」
 敷島:「やめとけ。もうすぐ発車時間だぞ」
 孝之亟:「うむ。車内販売が来るのを待つとしよう」
 敷島:「いや、確か車販無いっスよ?」
 孝之亟:「なにぃっ?」
 敷島:「自販機でジュースくらいしか無かったはずです」
 孝之亟:「何じゃ、あるんじゃないか。それに、状況を見に行くのに酒を入れるわけにはいかんじゃろう。お茶で十分じゃ」
 シンディ:「それでは行って参ります」

 シンディは席を立つとデッキにある自動販売機に向かった。

[同日09:40.天候:晴 西武池袋線特急“ちちぶ”9号1号車内]

 電車は定刻通りに池袋駅を発車した。

 敷島:「10時48分らしいですね。到着は」
 孝之亟:「1時間ちょっとの旅じゃな」

 孝之亟は大きく頷いた。

 敷島:「……最高顧問のことだから、9号機を見てすぐ帰るってわけじゃないですよね?」
 孝之亟:「当たり前じゃ。せっかく秩父まで行くのじゃから、観光の1つでもせんでどうする」
 敷島:「やっぱりねぇ……。あの、私、仕事がありますので……」
 孝之亟:「おいおい、たかだか1泊2日程度じゃぞ?今日と明日ならお前も休みじゃろう?」
 敷島:「ボカロ達がイベントとかに出ますので、たまには見に行ってやらないと……。ミクとか結構、寂しがり屋ですから」
 シンディ:「社長、ボーカロイド達には私から説明しておきますよ。『社長は社長で別の仕事が忙しい』って」
 エミリー:「社長、以前、十条達夫博士の所に行った際、『孤独な老人の相手をするのも人助けで、これは非常に重要なことだ』と仰っていたじゃありませんか」
 敷島:「そん時、お前いたっけ?ってか、よく覚えてるな、そんなこと」

 孝之亟はカラカラと笑った。

 孝之亟:「うむうむ。この娘らの言う通り、孤独な老人の相手をするのも敷島家の家訓じゃぞ。なぁに、宿泊先や帰りのルートは既に押さえてあるでな、何も心配は要らんぞ」

[同日10:48.天候:晴 埼玉県秩父市 西武秩父駅→DCJ秩父営業所]

 列車は飯能(はんのう)駅で進行方向が変わった。
 しかし席は交換せず、このままで行く。
 因みに進行方向が変わったり、電車の運転系統が分断されていることから、西武池袋線は池袋〜飯能までとよく誤解されているが、実際は更にその先の吾野(あがの)駅までである。
 但し、特急は止まらない。
 しかし、本格的に山岳路線に入り、トンネルもまた正丸トンネルという長いトンネルを通過する。
 このトンネル、隧道内に信号場が設けられているほどだ。

 
(正丸トンネル信号場。写真はウィキペディアから。尚、この信号場は“私立探偵 愛原学”の霧生電鉄のトンネル内のモデルになった)

 線路も単線になり、いよいよローカル線という感じがしてくる。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく西武秩父、西武秩父、終点です。お出口は、右側です。……〕

 敷島:「ようやく到着ですね」
 孝之亟:「よくこういう所に研究所を造ったのぅ……」 
 敷島:「秘密の研究所、ですからね。いいのかな……」

 敷島は首を傾げた。

 シンディ:「最高顧問、どうぞ」
 孝之亟:「うむ」

 シンディは荷棚からコートを出すと、孝之亟に着せた。
 敷島は自分で着る。
 孝之亟は山高帽を被ると、ステッキを右手に持った。
 尚、バッグはシンディが持っている。
 電車は定刻通りに西武秩父駅1番線に入線した。
 これは特急専用ホームである。

 敷島:「営業所兼研究所は西武秩父駅の方でなく、秩父鉄道の秩父駅の方にありますので、タクシーに乗り換えますよ」
 孝之亟:「構わんよ。その前にトイレに行きたい」
 敷島:「あ、はいはい。駅の中にありますからね」
 孝之亟:「歳取るとトイレが近くてかなわんわい」
 敷島:「まだ時間はありますから、どうぞごゆっくり」

 電車を降りて改札口に向かう途中にトイレがある。
 孝之亟はその中に入って行った。
 その間に敷島は自分のスマホを取り、それでアリスに電話を掛けた。

 敷島:「ああ、俺だ。今、西武秩父駅に着いたところだ。これからタクシーで向かう予定だけど、迎えの準備は大丈夫?何か今朝、慌てて出て行ったみたいだけど……」
 アリス:「大丈夫よ。いつでもいらっしゃいな。9号機の電源を入れる準備はできてるわよ!」
 敷島:「そうか。だけどあくまで試運転であって、すぐに引き渡しできるわけじゃないんだろう?……ま、そりゃそうだな。……ああ、分かった。じゃ、職員の皆さんにもよろしく。……ああ、それじゃ」

 敷島は電話を切った。

 敷島:「慌てず、ゆっくり来いってさ」
 エミリー:「了解しました」
 シンディ:「了解しました」
コメント
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