報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“戦う社長の物語” 「AIが人類を超える時」 1

2018-07-30 19:09:27 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月30日02:02.天候:雨 埼玉県さいたま市大宮区 敷島家]

 敷島:「ん……」

 敷島は夜中にふと目が覚めた。

 敷島:「トイレ……」

 ベッドから出てトイレに向かう。
 隣のベッドには、アリスがまた斜めになって寝ていた。
 相変わらずの寝相の悪さである。
 その為、トニーと同じベッドで寝かすことができないのだ。

 敷島:「ん?」

 敷島とアリスの寝室を出てトイレに向かうと、納戸の方から声が聞こえたような気がした。
 納戸ではエミリーとシンディ、それに二海が充電中のはずである。
 ロイドのバッテリーは電力が大きいので、充電は電気代の安い深夜に行われている。
 それは事務所にいるボーカロイド達も同じ。
 23時からなので、ボーカロイド達は自分達の『就寝時間』を23時と決めているようだ。
 尚、バッテリーは着脱可能である為、予備バッテリーだけを先に充電させておけば24時間稼働である。
 但し、使う人間が24時間稼働できないので、必要とされていない。

 敷島:「気のせいか?」

 敷島は首を傾げてトイレに入った。

 敷島:「いや……何か聞こえるな」

 トイレから出るが、また何か声が聞こえた。
 こんな時間に、何か話しているのだろうか?
 敷島が納戸のドアに耳を当ててみると、エミリーの声のようだった。
 『イライザ……イライザ……』と聞こえて来る。

 敷島:「?」

 試しにエミリーを監視する端末の子機であるタブレットを見てみたが、特に何かエミリーに異常が出ているような表示は無かった。
 で、そんなことをしているうちに、声が聞こえなくなった。
 しばらく待っていたが、エミリーの声が聞こえて来ることはなかった。

 敷島:(何だったんだろ?)

[同日09:30.天候:晴 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]

 朝起きた時、別にエミリーは普通だった。
 出勤する時も普通だったし、シンディにエミリーが夜中に何か言ってなかったかどうか聞いても首を傾げるだけだった。

 エミリー:「今日は11時より勝又先生がいらっしゃいます」
 敷島:「ああ、分かった。『クール・トウキョウ』のことだな。レイチェルも来るというわけか」
 エミリー:「さようでございます」
 敷島:「……なあ、エミリー」
 エミリー:「何でしょうか?」
 敷島:「お前、昨夜はちゃんと『眠れた』か?」
 エミリー:「はい。特に充電に問題はありませんでしたが?」
 敷島:「実は昨夜、俺は聞いてしまったんだ。お前が『イライザ』と言ってるところを」
 エミリー:「!」

 するとエミリーは目を丸くした。

 敷島:「何か心当たりは無いか?」
 エミリー:「恐らく自動でメモリーが整理されている際に、私が発した言葉でしょう」
 敷島:「イライザという女性に知り合いでもいるのか?」
 エミリー:「知り合いの女性と言いますか、マザーの名前です。あの頃のことが整理されていましたので」
 敷島:「マザーって、あれか?マルタイプの試作機!?」
 エミリー:「はい。試作機を基に私達が量産されましたので、私達にとっては母なる存在です。だから私は試作機を『マザー』と呼んでいます。でも、当時の開発者達は『イライザ』と呼んでいたそうです」
 敷島:「なるほど。南里所長やドクター・ウィリーの憧れの女性の名前がイライザだったわけだな?」
 エミリー:「それは違います」
 敷島:「ええっ!?」
 エミリー:「試作機が造られた時、まだあの女性科学者は生きておられました。だから全く違います」
 敷島:「そうなのか!じゃ、どうしてイライザって名前を付けたんだろう?」
 エミリー:「私達の人工知能の祖が『イライザ』だからですよ」
 敷島:「!?」
 エミリー:「御存知ありませんか?1966年に開発された、世界初の人工知能です。それを搭載したアンドロイドが造られたわけですが、それが私達の試作機です。『イライザを搭載したアンドロイド』という意味で、南里博士達は便宜上そう呼んだのでしょう」
 敷島:「ほお……」
 エミリー:「それが改良に改良を重ね、私達のAIができました。メイドロイドもバージョンシリーズも、概ね同規格のAIを搭載しています。だから私達と話が通じるのです」
 敷島:「そうなのか。それじゃ、お前は『母親』の夢を見たんだな」
 エミリー:「そうかもしれません」
 敷島:「ロイドも昔の夢を見る時代か。進歩したもんだ。何しろ、感情があるくらいだからなぁ」
 エミリー:「はい。今のAIには全て感情があります。少なくとも、私はそう思っています」
 敷島:「前期型のシンディなんて、いくらウィリーの命令だったと言えど、ある意味ではAIの人類侵略みたいなものだ。お前はどう思う?」
 エミリー:「ノーコメントです」
 敷島:「えっ?」

 エミリーは済ました顔で答えた。

 敷島:「い、いや、ノーコメントってどういうことだ?」
 エミリー:「お待ちください。シンディからの通信です。……ふむふむ。村上博士がロボット未来科学館に来られたそうですね。ロイがまたもやモーション掛けて来てウザいそうです。アリス博士は破壊命令を出してくれないので、社長に代わりに破壊命令を出して頂きたいそうです。如何でしょうか?」
 敷島:「ダメに決まってんだろ。適当にデートでもしてやれやって言っとけ」
 エミリー:「かしこまりました」

 エミリーはシンディに返信した。

 敷島:「それにしてもお前の場合は執事のキールといい仲だったし、ロイはロイでシンディのことが大好きだ。これ、もしかしたら、お前らも子供を作れるんじゃないのか?」

 するとエミリーは笑みを浮かべて答えた。

 エミリー:「子供を作れるのは生命体だけですよ」
 敷島:「ま、それもそうだな」

 ところがその直後、エミリーはクルッと後ろを振り向きながらボソッと呟くように言った。

 エミリー:「……今の・ところは」

 まるで、昔に使っていたロボット喋りのような口調で。

 敷島:「おい、今何て言った?おい」
 エミリー:「コーヒーのお代わり、入れて参ります」
 敷島:「カフェインレスで頼むぞ!」

 エミリーは頷くと社長室を出て行った。

 敷島:「何だろ?やっぱりエミリーの調子が悪いのか?」

 敷島は社長室のすぐ裏にある小部屋に入った。
 ここは敷島エージェンシーに所属している全ロイドの遠隔監視をしている端末の親機が収納されている。
 ロイド達にはここは一切の立ち入りを禁止するプログラムを組み込んでいる。
 なので、秘書も務めるエミリーやシンディさえも目もくれない。
 だが、その端末でエミリーを監視している物を確認しても、全く何の異常表示も出ていなかった。

 敷島:「……俺がおかしいのか、もしかして?」
 エミリー:「気になるようでしたら……医務室へご案内しますよ?」
 敷島:「!!!」

 小部屋の入口の前に立つエミリーが、不気味な笑顔でこちらを見ていた。

 エミリー:「何かお探しですか?私もお手伝いしたいのですが、この部屋には一歩たりとも入ってはならぬとプログラムされておりますので」
 敷島:「ああ、その通りだ!絶対入るなよ!」

 敷島は急いで小部屋を出た。
 そして、急いでドアを閉めて施錠する。

 エミリー:「コーヒーをお持ちしました。もちろん、カフェインレスです」
 敷島:「あ、ああ。そこに置いといてくれ」

 エミリーはまた元の柔らかい表情に戻っていた。

 敷島:(一体、何だって言うんだ?)
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“戦う社長の物語” 「夏はプール!」

2018-07-30 10:10:03 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月29日10:00.天候:晴 東京都豊島区池袋 フォーシーズンズ・ビルディング]

 敷島の経営するボーカロイド専門芸能事務所、敷島エージェンシーは親族が経営する大手総合芸能事業“四季エンタープライズ”の子会社となっている。
 その本社ビルのある建物はサンシャイン60もかくやというほどの超高層ビルであり、その内部は単なるオフィスだけでなく、社員らに対する様々な福利厚生施設も用意されている。
 で、そのうちの1つが……。

 敷島:「やっと、うちも使わせてもらえるようになったか……」

 敷島はビール片手にプールサイドの椅子に座り、ホッと一息付いていた。
 そう、ここには屋内プールがあるのだ。

 敷島:「頭の固いオッサン達が、『ロボットの機械油が漏れ出したらどうする!?』とか、『漏電して周囲の人間が感電したらどうする!?』とかホザいてたもんなぁ……」
 アリス:「ホントよねぇ。天才のアタシが造るロイドやロボットが、そんなポンコツなわけないじゃない」
 敷島:「ボカロはオマエが造ったわけじゃないだろ」

 アリスがいるのは、社員の家族までなら連れ込み可となっているからだ。
 当然、トニーもいる。

 トニー:「ママー」
 アリス:「Hi.上手く泳げた?」
 トニー:「10めーとる」
 アリス:「Wow!凄いスゴーイ!じゃあ次はママと一緒に泳ごうか」
 敷島:「そっちの浅い方に行けよ。向こうの深い方は……」

 普通は飛び込み台の下とか、ウォータースライダーの出口などがある所は結果的に飛び込む形になるので深くなっている。
 フィットネスクラブも兼ねているこのプールにはそのようなものは無く、どうして敷島がそんなことを言ったのかというと……。

 鏡音リン:「スクリューパイルドライバー!」
 鏡音レン:「波動拳!」

 この悪戯好きボーカロイド2号機、鏡音姉弟が本当に『遊んで』いるからである。
 まるで本当に魚雷や機雷が爆発したかのような大きな波しぶきが上がる。

 シンディ:「こらーっ!フザけ過ぎると退場処分にするわよ!!」
 リン:「出たーっ!鬼軍曹!」
 レン:「逃げろーっ!」
 シンディ:「誰が鬼軍曹よ!」

 一目散に逃げる鏡音姉弟。
 シンディは逃げるリンとレンを追おうとするが、逃げ足の速さはボカロ一である。
 シンディが追う度、青いホルターネックのビキニブラに包まれた豊かな胸が揺れる。

 敷島:「盛り上がってるなぁ」
 エミリー:「シンディも大概ですね。後で言っておきます」

 エミリーは敷島に瓶ビールを注ぎながら言った。
 エミリーもまたシンディと同じサイズの胸をしており、シンディとは色違いの黒ブラの隙間から胸の谷間が見えた。

 敷島:「はは(笑)、いいよいいよ。いつものことだし」
 エミリー:「そうですか」
 敷島:「向こうの撮影の邪魔にだけならないようにしてくれればいい」

 敷島が指さした先には、ボーカロイド年長組の撮影が行われていた。
 元々はこの撮影にかこつけたものである。
 今はマルチタイプとは色違いの赤いビキニを着用したMEIKOの撮影が行われていた。

 敷島:「やっぱりMEIKOのイメージカラーは赤だな」
 エミリー:「だいぶ前、あえて青い衣装にしてみましたところ、それも反響が大きかったですね」
 敷島:「赤い京急があえて電車の色を青くしたことがある。それを参考にしてみたら、上手く行ったってことさ」

 そんなことを話しているうちに、MEIKOの撮影が終わったらしい。
 敷島はMEIKOの所に行った。

 敷島:「よお、お疲れさん」
 MEIKO:「社長、お疲れ様です」
 敷島:「撮影、終わったみたいだな」
 MEIKO:「おかげさまで」
 カメラマン:「社長さん、ちょっと画像を確認してもらいたいんですけど……」
 敷島:「はいはい、何でしょう」

 オフのはずなのだが、ものの見事にボカロの仕事に巻き込まれる敷島だった。
 もっとも、敷島の場合はこれも楽しみの1つだからいいのか。

 敷島:「このプールの底から上に向けて撮影した、MEIKOの泳ぐシーンは何かに使えそうだな」
 カメラマン:「肝心の顔が写っていませんが……」
 敷島:「いやいや。こういうのが却ってウケたりするもんだよ。この画像、取っといて」
 カメラマン:「分かりました。次にプールサイドで撮影したものですが……」

 次に撮影の準備をしているのが巡音ルカである。
 MEIKOもどちらかというと豊かな胸をしているのだが、ルカはボカロの中でも90cmという更に豊かな胸を持っている。
 量産型として初めての成人女性タイプということで、それを主張する為に、あえて胸を大きくさせたのだという。
 尚、身長は160cmと低い方である。

 敷島:「完全防水になっているから、こういうプールや海での撮影もOKだな」
 エミリー:「何年か前、江ノ島海岸に行って、海水の耐性実験(という名の海水浴)を行いましたが、私も含めて全員問題無しということが判明しています」
 敷島:「そうだな。何故かレンだけが問題行動を起こしたわけだが、別に海水のせいではなかったようだし……」

 と、そこへ……。

 敷島:「おっと!俺のスマホ!」

 さっきまで敷島が座っていた所のテーブルの上には、飲みかけのビールのグラスがある。
 その横に、敷島のスマホが置かれていた。
 で、そこに着信が入る。

 敷島:「井辺君からだな。……はい、もしもし?」
 井辺:「社長、井辺です。お休みのところ、申し訳ありません」
 敷島:「いいよいいよ。半分くらい仕事みたいなもんだし。で、どう?MEGAbyteの方は?」
 井辺:「はい。予定通り、午前中には有楽町でのイベントを終えて、午後からそちらのプールの撮影に参加できそうです」
 敷島:「そうかそうか。じゃあ、こっちの撮影スタッフに午後イチからMEGAbyteの方よろしくって伝えておくよ。……ああ。それじゃ」

 敷島は電話を切った。

 敷島:「じゃ、MEGAbyteのことを伝えて来るか」

 敷島は飲みかけのビールのグラスをグイッと空にすると、再び撮影会場に向かった。
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“大魔道師の弟子” 「プールの後で」

2018-07-29 21:24:15 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月22日12:00.天候:晴 長野県北部山中 マリアの屋敷1F大食堂]

 プールで泳いだ魔女達は水着から私服に着替え、昼食会に参加していた。
 この頃には稲生も男子更衣室から助け出されている。

 稲生:「全く。冗談じゃないですよ」
 エレーナ:「災難だったな、稲生氏?」
 稲生:「笑い事じゃないって」
 マリア:「師匠から、あの魔女達には注意してもらった。もっとも、あまり反省している様子は無い。『男の癖に女子更衣室にいるのが悪い』ってな」
 エレーナ:「ハハハッ!おバカな連中。別に、着替え中の所に入ってきたわけでもないってのに……」
 マリア:「勇太、もうあいつらのことは気にしないでくれ」
 エレーナ:「そうそう。この門内の中で、誰がバカ女かどうか分かっただろ?稲生氏も男とはいえ、バカ女とは付き合いたくないだろうからね」
 稲生:「僕はマリアさんと一緒にいられればいいんだ」
 エレーナ:「おっ、聞いたか、マリアンナ?愛の告白だぜ?」
 マリア:「うるさい!」
 アンナ:「ま、関わらないのが1番だね。……そうそう。そんなバカ女と関わったばっかりに、哀れな末路を辿った男の話をしてあげましょうか?」

 アンナは不気味な笑みを浮かべた。
 マリアやエレーナも時折することがある、『魔女の笑顔』だ。

 マリア:「勇太、聞かなくていい。魔法掛けられるから」
 エレーナ:「おっ、アンナもやるねぇ。マリアンナを出し抜いてNTR作戦ですかい?」
 アンナ:「ちっ……」

 アンナは呪術系の魔道師である。
 どんな呪術かというと、まず呪いを掛ける相手に怪談話を聞かせる。
 大抵は話の中の主人公が最後には死亡するという話だ。
 普通は聞いている者には被害は及ばない。
 ところが、そこがアンナの怖い魔法だ。
 聞いている相手に、その呪いの話を侵食させ、話の中の主人公の追体験をさせるのである。
 もちろん、そこはダンテ一門の魔道師。
 それ以外にも回復魔法や攻撃魔法などの基本的な魔法は、本科教育の一環として習得済みである。

 エレーナ:「マリアンナ、油断ならないよ?」
 マリア:「エレーナ、うるさい。それより、エレーナも鈴木氏とやらにモーション掛けられてるじゃないか?どうなんだ?」
 エレーナ:「あ、あれは単なる金づるだよ。あいつ、家が金持ちだから、上手くカネを出させてやるんだ」
 稲生:「その割に耳が赤くなってるよ、エレーナ?」
 エレーナ:「い、稲生氏、うるさい!……稲生氏も鈴木みたいにもっと積極的にならないと、マリアンナといつまでも進展しないよ!?」
 稲生:「積極的になりたいのは山々だけど、マリアさん、まだ人間時代の傷が癒えてないから……」
 エレーナ:「心の傷を癒せる回復魔法とかが開発されれば、一気にグランドマスターだろうな?」
 アンナ:「だろうね。恐らく誰もできないだろうけど……」

 と、そこへエレキギター片手にデスメタルの衣装に着替え、メイクも施したリリアンヌがやってきた。

 リリアンヌ:「ヒャーッハッハッハッハッハー!ダンテ一門のみんなーっ!ランチタイムの余興、いっくぜーっ!!」

 幼少の頃、性的虐待を受けていたせいか、言葉に難を抱えてしまったリリアンヌ。
 そんな彼女の支えになったのが音楽である。
 ところがその音楽というのが、何故かデスメタルだったりする。
 時折こういう集会があったりすると、余興としてこの趣味を披露することがある。
 因みにスイッチの切り替えは酒で行われる。
 今のリリアンヌ、相当酒に酔っているはずである。
 つまり、酒の勢いでデスメタルを披露するというわけだ。

 エレーナ:「それにしても稲生氏、皆の水着姿が拝めなくて残念だったな?」
 稲生:「いいよ、もう……」

 稲生は不機嫌な様子で水を口に運んだ。

 エレーナ:「マリアンナなんか、泳いでいる最中ポロリしたぜ?」
 稲生:「ブバッ!?」
 マリア:「してないから!」
 エレーナ:「師匠達はマルファ先生以外、皆して巨乳だけども、あの最凶魔女軍団共もなかなかデカかったぞ。揉んでくる?」
 稲生:「なに人をデストラップに掛けようとしてるんだ、オマエは?」

 見た目にはノリの良い集団である。
 リリアンヌのデスメタルに、すっかり付いて行っている。

 リリアンヌ:「魔法は自由だぁーっ!Magic is freedom!」

 リリアンヌは一曲歌うごとにワインをぐい飲みしている。

 エレーナ:「ありゃ、ちょっと飲み過ぎだな」
 稲生:「まだ歳は15歳になったか、なってないかって所だよね?」

 リリアンヌ:「Merci beaucoup!(メルシー ボクー)」
 稲生:「おおっ!最後はフランス語で何か言った!さすがはフランス人!……って、リリアンヌは何て言ったの?」
 エレーナ:「英訳すると、Thank you so much!だよ」
 稲生:「あ、何だ」
 エレーナ:「てか、自動通訳魔法切れるくらい酔っ払ってんじゃねーかよ」

 エレーナは席を立つと、エントランスホールとは逆の廊下の方に行こうとするエレーナを捕まえた。

 エレーナ:「おい、リリィ!飲み過ぎだ!」
 リリアンヌ:「……ック!……ひゃ、ひゃっくり……!ひゃっくり……ィック!……とと、止まらないひ……!ヒック!……も、ダメ……!」

 リリアンヌはバタッと倒れた。

 エレーナ:「だから言わんこっちゃない」
 イリーナ:「いいよ。うちで休ませてあげるよ」
 エレーナ:「申し訳無いです。後で言っておきますんで。ポーリン先生は……」
 イリーナ:「ここで酔い潰れてる」

 テーブルに突っ伏しているポーリンの姿があった。

 エレーナ:「先生!?」
 マルファ:「ポーリンってお酒弱くなったよねぇ!」
 イリーナ:「ゲストルームが空いてるから、そこでポーリンとリリアンヌは休ませてあげましょう」
 エレーナ:「大変お手数をお掛けします」

 時折、魔女達の食事会はこのように酔い潰れる者が発生するらしい。

 エレーナ:「稲生氏、だいぶ前、リリィに寝込みを襲われたことがあっただろ?」
 稲生:「あったね。それがどうした?」
 エレーナ:「いや、仕返しするなら今がチャンスだぜ?」
 稲生:「だから!人をデストラップに掛けようとするなって!」

 尚、稲生が乗り気になったら行動に移そうと準備している最凶魔女軍団が後方にいた。

 マリア:「勇太、エレーナはそうやって他人をデストラップに掛けるのが得意だから気をつけなよ?」
 稲生:「それも魔法なんですか?」

 もしも稲生が本気になってリリアンヌを【あれや】【これや】したら、最凶魔女軍団が【お察しください】。

 稲生:「この集まりに男性魔道師が誰一人参加していない理由って……?」
 マリア:「ぶっちゃけ男にとっては面倒臭い集まりだから、だね」
 稲生:「また僕だけ貧乏くじ!」
 エレーナ:「まあまあ。皆が帰った後でまたプールに入ってやるから、それで目の保養でもしてくれ」
 マリア:「うん……って、いや、オマエも帰れよ!」
 エレーナ:「ちっ!」

 一瞬納得しかけたマリアであった。
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“大魔道師の弟子” 「夏はプール!」

2018-07-28 20:21:06 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月22日10:00.天候:晴 長野県北部山中 マリアの屋敷]

 マリアの屋敷は大きなものである。
 尚、都合3回ほど移転を繰り返している。
 今は長野県北部の山中に落ち着いているわけだ。
 屋敷の中も様変わりした。
 元々地下は魔法の実験施設のような所であり、マリアの屋敷に迷い込んだ人間で、マリアや人形の機嫌を損ねた者は2度と屋敷から出られず、哀れにも魔法の実験台になったという。
 今、マリアのそんな魔女ぶりはナリを潜め、その実験施設も廃止されている。
 代わりに造られたのがプールである!
 学校のそれ並みに25メートルある。
 ここで稲生、マリアに泳ぎを教えることをしていたのだが、今は違う。

 エレーナ:「おーっ、マリアンナ!早速お呼ばれしたぞー!」
 マリア:「オマエは勝手に来ただけだろ。オマエは1時間10ポンドな?」
 エレーナ:「何故ポンド!?ポンドじゃなくて円にしろよ!ほら、30円くらいなら払うぞ?」
 マリア:「いいから、30ポンド出せよ」
 エレーナ:「冗談!」
 リリアンヌ:「フヒヒ……。ま、ままマリアンナ先輩……き、きき、今日は、あ、ありがとうございます……フフフ……」
 マリア:「リリアンヌはいいよ。今月のダンテ一門の月間標語は『先輩は後輩を大事にしよう』だから」
 エレーナ:「汚ぇな……!」

 そんなことをしているうちに、続々と若い魔女達が集まり出した。
 もっとも、正体を表せば老婆になる魔女も、魔法を使って若返っているのだが。

 アンナ:「こんにちは。今日はお招き頂き、ありがとう」
 マリア:「ああ。ごゆっくり」
 エレーナ:「おっ、来たな〜?呪いの魔女」
 アンナ:「ニコニコ現金日銭稼ぎの魔女さん、こんにちは」
 エレーナ:「枕詞が気になるが、よお!」
 リリアンヌ:「フヒヒ……せ、先輩、早く着替えましょお……ヒヒヒヒ……」
 エレーナ:「おっ、そうだな。じゃ、更衣室借りるぜー?」
 マリア:「エレーナに限り、1回100……」
 エレーナ:「あー!聞こえない聞こえない!アンナ、行くぞ!」
 アンナ:「相変わらずね。あなた達、仲がいいのか悪いのか……」
 リリアンヌ:「フフフ……仲いいですよ」
 エレーナ:「こら、リリィ!余計なこと言うなっ」
 リリアンヌ:「フヒッ!?……すす、すいません……」

 男性読者の皆様、お待たせ致しました。
 秘密の花園、女子更衣室でございます。

 イリーナ:「最近、ブラのサイズが合わなくてねぇ……」
 ポーリン:「胸も老化しているのではないか?私の薬を特別価格で譲ろう!」
 イリーナ:「初回特典でタダにしてぇ〜ん?お姉様ぁ〜?」
 ポーリン:「気持ち悪い!抱きつくな!」
 アナスタシア:「多分、こういうのは望んでいないと思うわ。皆、さっさと着替えなさい」
 アンナ:「はい!」
 マルファ:「ナスちゃん、おやつは300円まで!?」
 アナスタシア:「自由人のあなたは300ユーロまでOKでしょう」
 マルファ:「おお〜!」
 エレーナ:「『おもしろ師匠連合』勢揃いだな」
 マリア:「うん」

 各自それぞれの水着に着替える。

 エレーナ:「アナスタシア組、さすがだな。水着まで黒で統一されてるぜ?」
 マリア:「ブレない面々だな」

 エレーナは青いビキニ、マリアは緑色のビキニに着替える。
 尚、この2人の水着の色合いは契約悪魔の都合による。

 リリアンヌ:「あ、ああ、あの……!わらひ(私)、こんな恰好で、い、いい、いいんでしょうか?」

 リリアンヌの実年齢はまだ中学生くらいということもあり、そんなに露出の高い水着ではない。

 エレーナ:「おー!よく似合ってんじゃん?いっそのことスク水にしたら、ファンも増えるぞ?」
 リリアンヌ:「す、すす、スク水!?……って、何ですか?!」
 エレーナ:「マリアンナが昔、稲生氏に着せられたヤツだよ。なあ?」
 マリア:「勇太お気に入りのエロ動画にそういうのがあったから何かと思ったんだけど……」
 リリアンヌ:「そ、そそ、そのスク水という水着を着たら、お、泳ぎ、上手くなりますか?」
 マリア:「うーん……どうだろう?まあ、結局私は教わったから泳げるようになったというだけで、水着は関係無いと思うよ?」
 エレーナ:「ま、スク水は稲生氏の趣味だったということで」

 すると、ピィーッというホイッスルの音が聞こえた。

 イリーナ:「はいはーい!皆、水着には着替えたかしらー?早速、プールに入る前に準備体操と行くよー。プールサイドに集まってー」

 鳴らしたのはイリーナ。
 この屋敷の主人はマリアということになっているが、それは表向きで、実際は住み込みの管理人といった感じ。
 本当のオーナーは、やはりイリーナである。

 イリーナ:「はいっ!イチ、ニー、サン、シー!?」
 エレーナ:「ALSOK(アルソック)!」
 イリーナ:「フザけた上に作者のライバル会社を勝手に出したエレーナは腕立て伏せ10回!」
 エレーナ:「ええっ、マジっすか!?いや、今の流れだとそうでしょ!?」
 イリーナ:「口答えしたので、腕立て伏せ20回!」
 エレーナ:「ガビーン!」

 魔道師の世界は本来、師弟関係並びに姉妹弟子(先輩後輩)の上下関係は厳しいものなのである。
 準備体操も終わって、ようやくプールに入った魔女達は童心に返っていた。

 エレーナ:「あー、偉ェ目に遭った……」
 アンナ:「エレーナだけに?」
 エレーナ:「おい!……てか、稲生氏はどこ行った?今ならハーレム体験できるってのに、勿体無い」
 アンナ:「ホントよねー」
 エレーナ:「マリアンナ、ちょっと呼んで来いよー?」
 マリア:「呼んで来たいのは山々だけど、あいつらの許可を取って来てからね?」

 マリアが指さした所には、同じく童心に返って楽しみつつも、男性恐怖症や嫌悪症の魔女達が固まっていた。
 普通の人間だった頃、何らかの性犯罪の被害に遭った者達である。
 それを言うならマリアも集団レイプの被害を受け、リリアンヌは幼少の頃に性的虐待を受けていたクチだ。
 アンナは浮気された上、ヤリ捨てられたクチである。

 エレーナ:「しゃあねぇ。じゃ、私がちょっくら行ってくるか」

 エレーナはのこのこと最凶魔女軍団の所に向かった。

 エレーナ:「ねぇ、ちょっと!イリーナ組の稲生勇太氏も呼んであげようよー?」

 チュドーン!!

 イリーナ:「うぉっ!?ビックリした……!」
 アナスタシア:「こらーっ!ケンカするなら退場処分にするわよ!?」

 いきなり攻撃魔法を食らい、大ダメージ食らったエレーナがいた。

 マリア:「だから言ったのに……」
 アンナ:「あの人達、私達以上にヒドい目に遭わされたってこと?」
 マリア:「いや、私と同じくらいだろう。私もヘタしたら、向こう側にいた。勇太のおかげで、今こっち側にいる」
 アンナ:「いいなぁ……」
 リリアンヌ:「フフフ……!マリアンナ先輩の体験発表、是非聞きたいです……」
 エレーナ:「く……くかっ……!あの、『性犯罪被害者の会』連中が……!」

 で、その頃、稲生はどうしていたかというと……。

 稲生:「んー!んー!」

 件の最凶魔女軍団に捕まり、グルグル巻きに縛り上げられ、男子更衣室に閉じ込められていたという。
 
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“私立探偵 愛原学” 「東京へ到着」

2018-07-27 19:22:11 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月11日12:24.天候:晴 JR東北新幹線“やまびこ”134号8号車内→JR東京駅]

 私の名前は愛原学。
 都内で探偵事務所を経営している。
 私は今、助手の高橋君と共にBOWの輸送をBSAAから依頼され、新幹線で帰京しているところである。
 そのBOW、元は人間の少女を改造したものであり、普段は12〜13歳くらいの少女の姿をしている。
 新幹線には初めて乗るのか、ずっと車窓を眺めたままだった。
 彼女は旧アンブレラに拉致され、実験体にされつつも、見事に投与された新型ウィルスを取り込んだ成功例であるという。
 失敗例は死に絶えるか、クリーチャーに変貌して殺処分の憂き目に遭ったのだという。

 私は思う。
 他にもリサみたいな成功例がどこかで生存していて、未だに発見されていない秘密の研究施設に閉じ込められているのではないかと。
 尚、リサという名前は仮名である。
 拉致前はちゃんとした名前があったようだが、実験体となってからは振られた番号でしか呼ばれなかった。
 アメリカで似たような実験をさせられた少女に、『リサ・トレヴァー』というコがいた。
 日本の旧アンブレラ職員の手記にこの名前が出て来たので、私は便宜上、今輸送中の彼女のことをそう呼んでいる。
 オリジナルのリサ・トレヴァーは、(実験体にされる前は)黒髪に白い肌、目鼻立ちがはっきりした美少女だったという。
 こっちの『リサ』も、負けず劣らずだ。
 もっとも、こちらは日本人である。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、東京です。東海道新幹線、東海道本線、中央線、山手線、京浜東北線、横須賀線、総武快速線と京葉線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 上野駅の地下トンネルを出た列車は、再び秋葉原で地上に出た。
 進行方向左手には、ヨドバシAkibaの建物がある。

 愛原:「どうだい?珍しい?」
 リサ:「うん……」

 霧生市は地方都市で、そんなに高い建物も建っていなかったからな。
 また、ヘリコプターやトラックで輸送されていたというのなら、景色を見る余裕も無かったかもしれない。

 高橋:「今のうちに目に焼き付けておいた方がいいぜ。どうせまた研究所暮らしだろ」
 愛原:「それは分からんぞ。政府直轄の研究所での研究は終わったというし、病院での検査も終わったじゃないか」
 高橋:「どこに連れて行くか教えてくれない時点で、【お察しください】ですよ」
 愛原:「将来はエージェントとして働いてもらいたいというコを、邪険にするとは思えないけどねぇ……」

 私は首を傾げた。
 そうしているうちに列車は減速し、ホームに滑り込んだ。

 愛原:「よし、着いた。降りようか」
 高橋:「はい」

〔「ご乗車ありがとうございました。東京、東京です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。23番線に到着の電車は、折り返し12時36分発、“やまびこ”51号、盛岡行きとなります。……」〕

 私達は前の乗客に続いてホームに降りた。
 この後、リサをどうすればいいのだろう?
 そんなことを考えていると、私は声を掛けられた。

 BSAA職員:「お疲れ様です。BSAA極東支部日本地区本部の者です」

 身分証を見せながら、にこやかにスーツ姿の男がやってきた。
 こちらはサングラスを掛けていなかった。
 ……と思ったら、近くにサングラスを掛けた者も1人いた。

 愛原:「あ、どうも。私立探偵の愛原です」
 職員:「御協力感謝致します。どうぞ、こちらへ」

 私はにこやかな顔の職員と、屈強なサングラスの職員の2人に前後を挟まれ、コンコースを歩いた。
 改札口を出て連れて行かれた場所は八重洲中央口。
 タクシー乗り場や一般車乗降場がある所。

 職員:「それではここで解散致しましょう。お渡ししたいものがございます。まずこちらがお帰りの際に使って頂きたいタクシーチケット、それと同意書の控えと振込明細書のコピーです」
 愛原:「振込明細書?」
 職員:「はい。今回の件に御協力頂いた謝礼金の半分を、まずは振り込ませて頂きました。残りの半分は、後ほど振り込ませて頂きます」

 同意書の中には、当然ながら今回の件について口外しないようなことが書かれていた。
 これくらいお安い御用だ。
 探偵には守秘義務がある。
 クライアントの情報をペラペラ口外しないことなど、当たり前のことだ。

 愛原:「それじゃリサ、元気でやるんだよ?」
 リサ:「また……会える?」
 愛原:「会えるさ、きっと」
 高橋:「どうだかな?このまま中国のバイオハザード地帯に連れて行かれて、向こうのBOWと戦わされるかもしれねーぜ?なあ?」
 職員:「……我々としては是非ともそういう感じで働いてもらいたいのですが、まあ、色々とありまして……」

 職員はそう言うだけだった。
 恐らく、日本政府側の意向もあるのだろう。
 日本政府としては政府のエージェントして働いてもらいたいらしい。
 国連と、BOWの取り合いか。
 姿形が化け物なら不要物だろうが、リサは人間の姿と自我を保てている希少な成功例だからな。

 愛原:「そういうことだ。だからきっと大事にしてもらえるよ?」
 職員:「それは保証します」
 リサ:「うん……」
 職員:「そろそろ時間ですので、私達はこれで失礼致します」
 愛原:「はい。また彼女絡みで何かありましたら、是非とも御依頼ください。バイオハザードを生き抜いた探偵なんて私達だけでしょうから。一民間人ではありますけど、恐らくどの探偵よりもお役に立てると思います」
 職員:「……今、彼女のことなら何でもすると仰いましたか?」

 職員はピタリと足を止め、くるっと振り向いた。

 愛原:「は?……はあ、私達にできることでしたら」
 職員:「そうですか。頼もしいお言葉、ありがとうございます。是非とも、前向きに検討させて頂きます」

 職員はそう言うと、今度こそリサを車に乗せて立ち去った。

 愛原:「何なんだろう?」
 高橋:「先生、ちょっと墓穴掘ったかもしれないですね」
 愛原:「ええっ?」
 高橋:「ありゃ、何か企んでる顔でしたよ。もしかしたら、先生のお言葉を真に受けて、何かとんでもない厄介事を押し付けてくるつもりではないでしょうか?」
 愛原:「う……!た、高橋君!探偵たるもの、仕事を選んではいかんよ!相手はBSAAだ。きっと高い依頼料を払ってくれるぞ!」

 私は半分だけ振り込まれた明細書を見た。
 その額、【お察しください】。
 これで半分だ。
 BSAAの下請けに入れたら、事務所が大きくなれるかもしれんな!
 高橋君の不安顔をよそに、私はBSAAからもらったタクシーチケットを手にタクシー乗り場へと向かったのだった。
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