報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「東京での一夜」 2

2017-03-31 19:25:19 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月26日17:45.天候:曇 東京都千代田区 ホテルメトロポリタン丸の内・客室]

 マリア:「ん?そろそろ夕食の時間だ」
 稲生:「あっ、そうですね」

 2人でテレビを観ていた大魔道師の弟子達。

 マリア:「夕食はこのホテルで?」
 稲生:「そうです。大師匠様はお疲れでしょうから、あまり移動しない方がいいでしょう」
 マリア:「そうだな」
 稲生:「ちょっと先生方に連絡を……」

 稲生は室内の電話を取り、イリーナとダンテの部屋に掛けてみた。

 稲生:「あっ、すいません、稲生ですけど。あの、そろそろ夕食に行こうかと思うんですが……はい」

 稲生は電話を切った。

 稲生:「すぐに出れるみたいです」
 マリア:「そうか。じゃあ、私も準備してくる」
 稲生:「エレベーターの前で待ってますんで」
 マリア:「ああ、分かった」

 稲生はクロゼットに掛けていたスーツの上着を取ると、ネクタイを締め直した。
 現代の魔道師はスーツ姿であることも多い。
 アナスタシア組など、男性魔道師は黒スーツ着用を義務付けているくらいだ。
 時代の変遷と共に、服装も変わってきているということだ。
 それは宗教の世界においてもそう。
 日蓮正宗では未だに僧職は着物の上から袈裟を羽織るが、浄土真宗などはワイシャツにネクタイ着用の上から袈裟を羽織っている姿を公式サイトで確認できる(恐らく、自分達は本来の意味での「僧侶」ではないことを自覚しているのだろう。因みに浄土真宗では、「功徳は回向するものではない」という教えなので、「功徳は回向して当然」という日蓮正宗とガチ論争になるところ)。

 稲生は革靴を履いて、部屋を出ようとした。

 稲生:「おっと!カードキー!……危うく締め出されるところだった」

 稲生は慌ててカードキーを持ち出した。

[同日18:00.天候:曇 同ホテル27F・レストラン“TENQOO”(テンクウ)]

 大師匠ダンテと師匠イリーナと合流した稲生とマリアは、夕食会場のレストランに向かった。

 稲生:「既にレストランは予約してあります」
 ダンテ:「そうか。用意周到だね」
 マリア:「国内の魔道師達が挨拶に来られたそうですが、お疲れですのに大丈夫でしたか?」
 ダンテ:「なぁに、心配要らん。こういうことにはもう慣れている。多くの弟子を抱えた師範の義務だよ」
 イリーナ:「やっぱりナスターシャとマルファが、空気も読まずにやってきたわ」
 稲生:「そうでしたか。まさか、夕食も一緒になんて……」
 ダンテ:「いやいや。あくまでこれは旅行の一環なんだから、私は認めなかったよ。そもそも、稲生君は4名で予約したのだろう?」
 稲生:「そうです」
 ダンテ:「なら、大丈夫。何も心配要らない」
 稲生:「は、はい!」

 エレベーターを降りて、稲生達はレストランの中に入った。

 稲生:「予約していた稲生です」
 スタッフ:「はい、稲生様。4名様ですね。お待ちしておりました。どうぞ、ご案内させて頂きます」

 予約していただけに、テーブルは眺望の優れた窓側の所が確保されていた。

 イリーナ:「ユウタ君、電車が見たいなら代わるよ?」
 稲生:「あ、いえ、結構です。部屋で十分見てますので」
 イリーナ:「あはははっ!そう?」
 稲生:「先生はどうぞ、窓側に」

 というわけで、本来のビジネスマナーの通りになった。
 飲み物はワインを注文した師匠達だったが、稲生とマリアはカクテルを注文した。
 特に稲生の場合は、アルコールを低めに抑えてもらった。
 案内者が酔い潰れては元も子もないからだ。

 稲生:「先生方、今日はお疲れさまでした」
 ダンテ:「うむ。ありがとう。明日が正念場となるから、キミ達にも迷惑を掛けることになるだろう。こんなことを言っておきながら何だが、今から覚悟しておいてくれ。向こうは何をしてくるか分からんからな」
 稲生:「はい」
 マリア:「承知しました」
 イリーナ:「恐らく、稲生君がネックになると思います」
 稲生:「えっ!?」
 マリア:「日本人だから、本来は東アジア魔道団の一員になるはずだったのに、ダンテ一門で取ってしまったからですか?」
 ダンテ:「確かにそういう不文律はあるけどね、交通が発達した現代においては、ほぼ形骸化したものだよ。現に、東アジア魔道団にだって、東欧出身者が含まれている」
 イリーナ:「そうですね。特に、トランプ君は向こうさん推しでしたから、尚更勢いづいていますものね」
 ダンテ:「うむ。だからこちらも、手は打たせてもらった。韓国人のチェ師が手引きしていたパク大統領には、その職を降りてもらうことにした」
 稲生:「!?」
 イリーナ:「東アジア魔道団朝鮮支部ですが、どうも内ゲバの予感がします」
 ダンテ:「向こうさんも苦労していることだろう。政治的にも火種の場所だからね、この日本は良い防波堤になるわけだ。東アジア魔道団としても、何としてでもこの国でのシェアを確保したいところだろうね」
 イリーナ:「私達にとっても、ここは“魔の者”からの良いシェルターですわ。北海道での事件では結局、“魔の者”はエネルギー供給元がヨーロッパにしか無い為に十分な補給ができなかったのも、私達に負けた要因であるとのことです」
 ダンテ:「そうだな。だから我々にとっても、日本をシェアにしたいところだ。この辺が大きな論争になりそうだな」

 稲生にとっては難しい話が飛び交っていて、とてもついて行ける内容ではなかった。
 マリアは手帳を取り出して、師匠達の会話をメモしている。
 後で魔道書に書き写すつもりだろう。
 契約悪魔の関係で物臭な性格になっているということだが、そこはまだ勉強熱心なところがある。

 食事が運ばれて来てから、ダンテは日本国内の食材がふんだんに使われている料理に舌鼓を打った。

 ダンテ:「食事が美味い国には未来がある。これだけでも、この国をシェアしたいくらいだな」
 イリーナ:「ですねぇ……。マリアが“魔の者”からの疎開先に選んでくれて良かったですわ」
 マリア:「私はダーツを投げただけです。それがたまたま日本に刺さっただけです」

 魔道師に成り立ての頃、まだマリアは“魔の者”の脅威にさられていた。
 イギリスは元より、ヨーロッパ全土が危険地帯だということで、そこ以外の地域に逃げる必要があった。
 そこでイリーナはマリアに世界地図に向かってダーツを投げさせ、そこに刺さったのがたまたま日本であったのだ。

 イリーナ:「この国土の小さい国でも、ちゃんと魔界の穴が空いているのですから便利ですわ」
 ダンテ:「何しろ、アベ首相が魔界に行くくらいだからなぁ。世界的に見れば、実は日本はそんなに国土が狭い国では無いんだよ」
 イリーナ:「なるほど。そうかもしれませんね」

 長旅の疲れもあるのか、夕食の後はすぐに部屋に戻った師匠達。
 稲生達もそうしたのだが、マリアは稲生の部屋に行って、一緒に映画を観て過ごした。
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“大魔道師の弟子” 「東京での一夜」

2017-03-31 15:01:50 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月26日16:15.天候:曇 東京都千代田区・鉄鋼ビルディング1F→ホテルメトロポリタン丸の内]

 バスは首都高速をひた走って東京都心へ出た。
 そして、新しく建て直しをされた鉄鋼ビルディングの1Fにあるバス乗り場に到着する。

 稲生:「到着しました」
 ダンテ:「うむ。では、降りよう。……イリーナ、いい加減起きなさい」
 イリーナ:「……はっ!」
 ダンテ:「寝る子は育つと言うが、もうそんな歳じゃないだろう?」
 イリーナ:「失礼しました!」

 稲生は荷棚から自分の荷物を下ろした。
 バスから降りる。

 稲生:「宿泊先は、ホテルメトロポリタン丸の内です」
 ダンテ:「ほお、上手く揃えたね」
 稲生:「恐れ入ります」

 というのは、東アジア魔道団が会談の場所に指定してきたのは、ホテルメトロポリタン山形だからである。

 イリーナ:「あのー、他の組から抗議が来てるんですけどォ……」

 イリーナは水晶球を手に、ドヨドヨした顔で言った。

 稲生:「え?何ですか?」

 ハイヤー乗り場で待っていた他の組が、一向にダンテが現れないので待ちぼうけを食らったらしい。
 あとは、やはり世界を股に掛ける超大魔道師たるダンテを一般のバスに乗せるとは何事だというもの。

 ダンテ:「放っておきなさい。もともと私のこの旅自体が、『鈍行乗り継ぎ一人旅』みたいなものだ。あえて商業便で日本入りを果たしたのもだね、その一環であって、何も大名行列をするつもりは無いんだから」
 イリーナ:「はあ……」

 鉄鋼ビルディングから歩いて数分ほどの距離に宿泊先のホテルはある。

 ダンテ:「しばらく来ないうちに、東京も変わったね」
 稲生:「この前のクリスマスパーティは、東京へ行かれなかったんですか?」
 ダンテ:「あの時は慌ただしかったから、ルゥ・ラでの移動を余儀無くされたよ」
 稲生:「そうですか」
 ダンテ:「バァルのヤツも、人間界に遊びに来たいってうるさいものだからねぇ……」
 稲生:「ちょっ……困ります!大魔王が人間界に来たら……」
 ダンテ:「ああ、分かってる。映画の“アルマゲドン”など、ただのB級映画に見えてしまうほどの大いなる災厄が訪れることになるだろう。どうせ行くなら、ルーシー女王並みに妖力を落として、お忍びで行くくらいじゃないとって言ったら黙ってしまったよ」
 稲生:「さすが大師匠様です」

 RPGでラスボスを張る魔王と言えば殆どが男性であり、実際に魔界アルカディアの国民達もそうだと思っていただけに、今度の魔王が女王になるということで混乱したらしい。
 あくまでも最初はバァルの代理統治権を持っただけで正式に即位していなかったこともあり、その頃は今の首相である安倍春明を連れて、よく人間界にお忍びで遊びに行っていた。
 ラーメン二郎を1人で平らげたジロリアンでもある。
 そんなことを話しているうちに、魔道師一行はホテルの前に着いた。

 稲生:「ここからエレベーターで上がります」
 ダンテ:「なるほど。これが最近流行りの方式か。中・下層フロアをオフィスとしてレンタルし、高層階をホテルにするというものだね」
 稲生:「そうです」

 もちろん、ホテルまでは直通エレベーターがある。
 たまたまこのタイミングで乗ったエレベーターは、稲生達だけだったので、稲生はこう切り出した。

 稲生:「あの、部屋割りの方なんですが……」
 ダンテ:「ん?」
 稲生:「御希望がツインルームということなんですが、これは大師匠様がお1人で……という意味ですか?」
 ダンテ:「はっはっはっ(笑) それだけと人数が合わないだろう?イリーナと2人だ」
 イリーナ:「あー、ユウタ君、何か変な想像してる?」
 稲生:「あっ、いやっ!そんなことは……!」
 ダンテ:「私とイリーナとは親子のようなものだ。年老いた父親を、娘が介護するようなものだな」
 稲生:(全然そんな風に見えないんだけど……)
 マリア:(むしろ師匠の方がBBA……)

 エレベーターが27階のロビーに到着する。

 稲生:「では、ここで……わっ!?」

 稲生がエレベーターを降りてびっくりしたのは、ロビーに鉄道模型のNゲージがあったからだ。

 稲生:「凄いなぁ、こういうのが普通にあるなんて!」

 もちろんただ単に飾ってあるのではなく、ちゃんと走っている。

 稲生:「マリアさんの屋敷のギミックに、鉄道模型なんかもいいと思いますが……」
 イリーナ:「コホン!ユウタ君、それより早くチェック・インしてきなさい」
 稲生:「あ゛!すいません……」

 稲生は急いでフロントに向かった。
 ダンテはソファに座りながら、笑みを浮かべた。

 ダンテ:「まあまあ、良さそうなホテルじゃないか。一泊だけして、しかも早朝出発するには勿体ないくらいだ」
 イリーナ:「そうですね。でも、ダンテ先生を安いホテルにご案内するわけにはいきませんから」
 ダンテ:「別に、雨露を凌げればいいんだよ」
 イリーナ:「そういうわけには行きませんわ」

 しばらくして、稲生が戻って来た。

 稲生:「お待たせしました。これがカードキーです」
 ダンテ:「おっ、ありがとう」
 稲生:「夕食まで時間がありますので、少しゆっくりできそうです」
 ダンテ:「うむうむ。ゆっくりしているといい」
 稲生:「?」
 イリーナ:「まず一発目にエレーナがポーリン組代表として、ダンテ先生に挨拶に来ると思うから。あとは、ナスターシャとマルファ辺りが空気も読まずに突入してくるでしょうね」
 稲生:「な、なるほど……」

 稲生達は今度はホテル専用のエレベーターに乗り込んで、客室へと向かった。

[同日17:00.天候:曇 ホテルメトロポリタン丸の内・シングルルーム]

 稲生:「はははっ、これは凄い!」

 稲生が入った部屋は、いわゆる『トレインビュー』というもので、眼下に東京駅を発着する列車が見える部屋であった。

 しばらくそれに見入っていたものだから、ホウキに跨る魔女が接近してきたことには気がつかなかった。
 と、そこへ部屋のチャイムが鳴る。
 さすがにそれは気付く。

 稲生:「はい!」

 稲生が部屋のドアを開けると、マリアがいた。

 稲生:「あっ、マリアさん」
 マリア:「早速だよ。大師匠様を訪ねて、国内にいる魔女達が集まって来ている」
 稲生:「いいんですかね?大師匠様は長旅でお疲れだというのに……」
 マリア:「そうだな」
 稲生:「僕達は何かすることがあるんでしょうか?」
 マリア:「師匠達からは何も言われてないから、別にいいんじゃないか?」
 稲生:「なるほど」
 マリア:「それより、夕食の時間まで一緒にいよう。せっかく、いい眺めの部屋に入ったんだし」
 稲生:「そうですね。ただ……」
 マリア:「ん?」
 稲生:「今気づいたんですが、このホテルの周りを魔女さん達が旋回してるのは何故でしょう?」
 マリア:「邪魔な奴らだな。眺望が台無しだ」

 マリアは不快そうな顔をした。
 だがそんなマリアも、ホウキで飛ぶことは無いものの、つい最近までは魔女の1人であった。
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“大魔道師の弟子” 「羽田空港出発」

2017-03-31 12:31:59 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月26日15:20.天候:晴 羽田空港国際線ターミナル1F・バスターミナル]

 稲生がチケットカウンターから何食わぬ顔をして、バスのチケットを購入してくる。

 稲生:「では、こちらが東京駅行きのバスのチケットです。乗る時に改札がありますので、1人ずつ持ちましょう」
 ダンテ:「うむ。ありがとう」

 ダンテもまた何の疑いも無く受け取った。
 しかし、イリーナは目を細めたまま、マリアに関しては明らかに不審そうな顔で稲生を見据えた。

 イリーナ:「ユウタ君……?」
 マリア:「ユウタ……?」
 稲生:「何ですか?」
 マリア:「何で東京駅まで移動するって言った?」
 稲生:「え?リムジンですけど?」
 マリア:「で、それ何?」
 稲生:「バスのチケットです」
 マリア:「ユウタ、自分で何言ってるか分かる?」
 稲生:「えっ?ええ、まあ……」
 イリーナ:「じゃあ、説明してもらいましょうか。私はともかく、ダンテ先生ともあろう御方をバスにお乗せするその理由を!」
 稲生:「いや、だって、ほら……」

 稲生は他の行き先に向かうバスを指さした。

 
(写真はウィキペディアより。車体に書かれた愛称に注目)

 稲生:「エアポートリムジンって……。首都圏の空港連絡バスと言えば、これが名物みたいなものですから、ダンテ先生はこれに興味をお示しだったのかなぁ……と」
 イリーナ:「
 マリア:「…………

 イリーナ組にクソ寒い風を吹き荒ばせた稲生だったが、ダンテは大笑いだった。

 ダンテ:「これは素晴らしい!感性だ!この感性が魔道師には必要なのだよ!分かるかね、イリーナ?ん?」
 イリーナ:「い、いえ……これは明らかに私の指導不足です。申し訳ありません……」
 マリア:「ユウタ、今からでもいい。このチケットはキャンセルして、急いでハイヤーとしてのリムジンを確保してくるんだ。早く!」
 稲生:「ええっ!?」
 ダンテ:「待ちなさい待ちなさい。今回のルートについては、全て彼に一任しているのだろう?ならば、彼の案を尊重すべきかと思うが、どうかね?」
 イリーナ:「ですが、先生。先生ともあろう御方が、バスなど……」
 ダンテ:「構わんよ。昔はバスどころか、貨物列車や貨物船に便乗して移動していたではないか」
 イリーナ:「それ、100年以上も前の話ですわよ?」
 稲生:「ひゃ、100年ですか……!」
 マリア:「一桁も二桁も違うのが、魔道師の世界だ、ユウタ」
 稲生:「は、はい」
 ダンテ:「ま、とにかくだ。何が言いたいかというとだな、私は全然気にしていないということだ。だから、キミ達も気にしないことだ。いいね?」
 イリーナ:「分かりました」
 マリア:「大師匠様がそう仰るのでしたら……」

 そうこうしているうちに、バス乗り場にエアポートリムジンバスが到着する。
 羽田空港〜東京駅北口(鉄鋼ビル)の路線は、東急空港交通と羽田京急バスが共同運行している。
 どちらも車体にLimousineの愛称が描かれているので、稲生にとっては世話無いことであるのだが。

 係員:「お待たせしました。15時30分発、東京駅北口(鉄鋼ビル)行きです」

 ドアが開いて係員が案内する。

 イリーナ:「申し訳ありませんね。先生ともあろう御方に、こんなエコノミークラスなお席に……」
 ダンテ:「心配無いよ。この前、アンと一緒に船旅をした時、船の手配が付かないという理由で、タンカーに乗せられたものだ。あれと比べれば、ちゃんと旅客輸送用に設計された乗り物に乗れるだけマシってなものだ」
 イリーナ:「アンのヤツ、そんなことを……。私も相当ズボラな性格ですが、あいつはそれ以上ですからねぇ……」
 ダンテ:「魔道師としての素質を持つ者には、ままある性格だよ。……ここでいいのかい?」
 イリーナ:「あ、はい。では、どうぞ窓側に……」
 ダンテ:「うむ。稲生君、このパターンからして国内線ターミナルで混雑するというものかね?」
 稲生:「恐らくそうだと思います。これから第2ターミナルと第1ターミナルと停車していく上、東京駅行きは需要がありますから」
 ダンテ:「そうか。ならばイリーナ、隣に来なさい」
 イリーナ:「は、はい。失礼します」

 大柄な欧米人同士だと、さすがに座席は狭いかもしれない。

 ダンテ:「ん?イリーナ、少し太ったかね?密着度が少しアップした気がするのだが……」
 イリーナ:「なっ……!?」

 イリーナは顔を赤らめた。

 ダンテ:「その体の耐用年数が迫っているのは分かるが、寝てばかりいないで、少しは運動した方が良い。体力が付けば、例え僅かでもその耐用年数はアップする」
 イリーナ:「わ……分かりました」

 後ろの席に座るマリアは笑いを堪えるのに必死だ。

 マリア:(さすが大師匠様。私の言いたいことを代弁して下さった)

 発車時間が迫ると、係員が乗り込んできて、メッセージボードを抱えながら車内を一巡する。
 そのボードには『シートベルトをお締めください』とか、『座席の専有はおやめください』とか書かれている。
 係員が一礼してバスを降りると、バスのドアが閉まって出発した。
 乗り場に残った係員達が一礼して、バスを見送る。
 この光景は外国では見られず、日本オリジナルのものらしい。

 マリア:「バスを降りたら、ホテルはすぐ近くなんだろう?」
 稲生:「もちろんです」
 マリア:「この前、家族旅行の際に泊まったビジネスホテルとかじゃないだろうな?」
 稲生:「大丈夫ですよ」

 稲生は大きく頷いた。
 バスはターミナルの間を移動し、乗客を拾い集めた。
 そして、最後のターミナルを出発する頃には満席に近い状態となったのである。
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“大魔道師の弟子” 「羽田空港での一時」

2017-03-30 21:15:16 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月26日13:45.天候:晴 羽田空港・国際線ターミナル]

 白とオレンジ色のバスが、国際線ターミナルのバス降車場に到着する。

 マリア:「師匠、起きてますよね?」
 イリーナ:「あいよ。アタシゃ起きてるよー」

 実はマリア、国内線第2ターミナルにバスが到着してからイリーナを起こす活動をしていた。
 第1ターミナルにバスが到着した時、また寝そうになったので、再びマリアが起こした。

 マリア:(見た目は30代なのに、中身はBBAなんだから……)

 マリアはチッと舌打ちした。
 大魔道師として尊敬はしているが、こういう所が面倒で仕方が無かった。
 稲生が面白がっているところを見ると、ただ単に自分が“怠惰の悪魔”と契約しているが故の面倒臭がりなのかとマリアは思ってしまう。

 係員:「ありがとうございました」
 稲生:「お世話様でした」

 稲生はターミナルの係員から荷物を受け取った。
 荷物の大きさだけなら、確かにこれから飛行機に乗りそうな出で立ちではある。
 実は稲生、国内線の利用も考えた。
 だが、今回はそれを控えることにした。
 結局はバスと鉄道のみになった次第。

 マリア:「師匠、まだ大師匠様が到着されるまで時間があるので、ここでランチにしませんか?」
 イリーナ:「うんうん、そうだね。どこか、お勧めのお店があるのかい?」
 マリア:「ユウタ」
 稲生:「あ、はい。一応、検索しておきました。……和食いいですか?」
 マリア:「家ではいつも私達の食生活になっているので、たまにはいいかと」
 イリーナ:「そうだね。ただ、夕食もダンテ先生のことだから、日本食を希望されると思うよ?」
 稲生:「はい、そこは考えてあります」
 イリーナ:「それならユウタ君の意見を全面採用しようかしら」
 稲生:「ありがとうございます」

 稲生達、国際線ターミナルの中に入った。

[同日14:15.天候:晴 羽田空港国際線ターミナル4F]

 イリーナ:「なるほど。ポークカツレツとは、考えたね」
 稲生:「朝が早かったので、お腹ペコペコでしたから」
 イリーナ:「うんうん、そうだね。……あ、ライスとサラダお代わり」
 店員:「かしこまりました」
 マリア:「師匠が1番食べてます」
 稲生:「少し、ゆっくりでしたかね?飛行機は14時40分着とのことですが、どこから来るんでしたっけ?」
 イリーナ:「ロンドンだって。ロンドンのヒースロー空港」
 稲生:「東アジア魔道団と会うような場所では無さそうですが……」
 イリーナ:「別件でしょう。まだ“魔の者”との戦いは完全終結したわけじゃないからね」
 稲生:「そうですか」
 イリーナ:「イギリスといえば、マリア絡みの“魔の者”発祥の地でもあるからね、ダンテ先生、何か発見されたかねぇ……」
 稲生:「東アジア魔道団は“魔の者”との戦いは無いのでしょうか?」
 イリーナ:「彼らは彼らで、別の問題を抱えてるみたいだね」
 稲生:「そうなんですか?」
 イリーナ:「そう。私達の問題と彼らの問題。今ケンカしていいものなのかどうか、それとも協力すべきか、それとも付かず離れずの関係にするか……そういう話し合いだね」
 稲生:「向こうは日本支部の支部長、それに対してこちらは総師範である大師匠様、何か違う気がしますね」
 イリーナ:「しょうがないさ。向こうはちゃんとピラミッド式の組織作りがされているけど、こっちは違うもの」
 稲生:「と、言いますと?」
 イリーナ:「ダンテ一門の日本支部ってどこだと思う?」
 稲生:「えっ?えっと……それは……」
 イリーナ:「ね?確かにアタシ達は日本に拠点を作ってはいるけども、別に正式に門内から日本支部と決められているわけじゃない。勝手に私達が日本を拠点にしているだけの話。だから、彼らとはそもそも組織体制が違うのよ」
 稲生:「なるほど。エレーナだって日本を拠点にしてますもんね」
 イリーナ:「そういうこと。ナスターシャだって、日本拠点を作ったって言ったからね」

 イリーナはグラスワインを口に運んだ。

 イリーナ:「だからいいのよ。ここはダンテ先生に任せて」
 稲生:「なるほど。よく分かりました」

[同日14:40.天候:晴 羽田空港国際線ターミナル・到着ロビー]

 昼食を終えた稲生達は慌ただしく、到着ロビーに向かった。
 稲生は緊張した面持ちで、スーツのネクタイを締め直す。
 それにつられてか、マリアもえんじ色のリボンタイを直した。

 国際線のダイヤだからか、定時性が高いとは言い難い。
 それでも比較的、順調なフライトだったのだろう。
 ロンドンからの乗客達が、ぞろぞろと到着口から出て来た。
 そしてその中に、彼はいた。

 稲生:「?」

 言われないとダンテだと分からないくらい。
 肖像画に出ている詩人・哲学者としてのダンテとは、全く違う風体をしていたからだ。
 ダブルのグレーのスーツの上に茶色のコートを羽織り、ステッキを手にしていた。
 頭にはグレーの中折れ帽。
 その下に覗かせる顔は、肌の白いものだった。

 イリーナ:「ああ、ダンテ先生。また、変装されておられるのですね」
 ダンテ:「あの姿で日本に来るのは、無理があるからね。これならイギリスからやってきた、向こうの人間に見えるだろう?」

 イリーナも高身長の女性であるが、ダンテはそれ以上の高さで、稲生やマリアを見下ろす形となっている。
 見た目の歳は50代半ばくらいだろうか。

 ダンテ:「昨年のクリスマスパーティ以来だね。元気なようで何より」
 稲生:「お久しぶりです、大師匠様。本日から、よろしくお願い致します」
 ダンテ:「こちらこそよろしく。今回の行程はキミが全て決めてくれたそうだね。期待しているよ」
 稲生:「はい!」
 ダンテ:「そして、キミがマリアンナ君だね?」
 マリア:「はい。イギリスより遥々、お疲れさまです」
 ダンテ:「見違えるほど明るいコになったそうじゃないか!日本での修行が功を奏したのだろう!」

 ダンテはヒョイとマリアを抱え上げた。

 マリア:「きゃっ!?ま、まだ私はそんなに……!」
 イリーナ:「先生、はしゃぐのもこの辺してください」
 ダンテ:「おお、そうだったな。いやいや、フザけて済まなかった」

 ダンテはマリアを床に下ろす。

 マリア:「は〜、ビックリした……」
 稲生:「大師匠様、お荷物お持ちします。……これだけですか?」

 ダンテが持っている鞄は、少し大きめのビジネスバッグであった。

 ダンテ:「そうだよ。あとの荷物はここにある」

 ダンテはコートの内ポケットを指さした。

 稲生:「は、はあ……。(四次元ポケット?)」
 イリーナ:「それより、そろそろ移動しましょう。先生もお疲れでしょう?今日はうちのユウタがいいホテルを予約してくれたそうですので、そちらで休みましょう」
 ダンテ:「うむ、そうだな。私はさすがに、どこでも寝られる特技は持ち合わせていないんだ。今夜はちゃんとしたベッドで寝てみたいね」
 稲生:「お任せください」
 イリーナ:「東京駅の近くのホテルです。リムジンで向かうそうですので」
 稲生:「そうですね。こちらです」

 稲生の先導により、魔道師達が移動を開始した。
 だが稲生、この後、とんでもないミスをしでかすことになる。
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“大魔道師の弟子” 「東京都内入り」

2017-03-29 21:17:24 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月26日12:13.天候:晴 東京都渋谷区 バスタ新宿3F]

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、バスタ新宿に到着致します。お降りの際はお忘れ物の無いよう、ご注意ください」〕

 稲生達を乗せた高速バスは大きな渋滞にハマることもなく、無事にバスタ新宿の中に進入した。
 乗り場は4階だが、降車場は3階になる。

 稲生:「先生、先生。到着ですよ」

 稲生は前の席に座るイリーナを起こした。

 イリーナ:「……んあ?……ああ、着いたのね」
 稲生:「はい。乗り換えがありますので」
 イリーナ:「んー、分かったよ」

 イリーナが大きく体を伸ばすと、バスは停車し、大きなエアー音と共にドアが開いた。

 マリア:「ここで乗り換えか?」
 稲生:「はい。この上から出発します」
 マリア:「分かった」

 マリアはローブを羽織ると、荷棚からバッグを下ろした。
 この中にはファミリア(使い魔)の人形が入っている。
 稲生が先に降りて、荷物室に預けていた荷物を取り出した。

 稲生:「よし。あとは……」

 稲生はゴロゴロとキャリーバッグを引っ張る。

 マリア:「ほら、師匠!早く降りてください!」

 マリアがイリーナをバスから引きずり降ろす。

 運転手:「ありがとうございました」
 イリーナ:「Спасибо……」
 マリア:「Thank you.」
 稲生:(ものの見事に、自動翻訳切れてる。性能の悪いWi-Fiみたい)

 そう心の中で思うと、2人のイギリス人とロシア人に言った。

 稲生:「乗り換え先のバス乗り場を確認してきますので、ちょっと待っててください」
 イリーナ:「いいよ。アタシゃ、ちょっとトイレ行ってこようかねぇ……」
 マリア:「私も。乗り換えの時間、まだあるか?」
 稲生:「はい。およそ30分くらいあります」
 マリア:「よし。師匠、行きましょう」

 マリアはイリーナの手を引っ張って行った。

 稲生:(あー、良かった。『30分もあるのか!?』なんて言われなくて……)

 お国柄の違いだろうか。
 そもそも外国人から見て、日本のバスの定時性も優れモノであるという。
 中には、事故らないだけマシという国もあるようだ。
 稲生はバッグを引っ張りながら、発券カウンターに向かった。
 そこには空席状況もさることながら、乗りたいバスがどこのブースから出るのかも表示されている。
 稲生達が乗る予定なのは12時50分発。
 その1本前が12時30分発だったが、接続時間に余裕を持ち、1本ずらした次第。
 ダンテの飛行機は14時40分に到着する予定なので、十分に間に合う。

[同日12:45.天候:晴 バスタ新宿4F]

 A1乗り場に『Airport Limousine』と書かれたバスがやってくる。
 だいたい発車5分前に入線してくるようだ。
 因みに塗装やバス会社は違えど、車種は白馬から乗ったアルピコ交通と同じ三菱ふそう・エアロエースだった。
 このくらい大きなバスターミナルになると係員が常駐しているので、預ける荷物に関しても係員に任せることができる。
 アルピコ交通と違って全席自由席なのだが、座った席は全く同じ位置という……。

 マリア:「何だかお腹空いたな……」
 稲生:「ああ、そうですね。羽田空港に着いたら、何か食べましょう。まだ、大師匠様が到着されるまで時間がありますから。いいですよね、先生?」

 稲生はすぐ前の席に座るイリーナに聞いてみた。
 因みに、バスはほぼ満席状態になっているにも関わらず、やはりイリーナの隣には誰も座ってこない。

 イリーナ:「クカー……
 稲生:「えっ!?」
 マリア:「まあ、そういう人だから」

 イリーナの寝入りの速さに驚いた稲生だったが、稲生よりも先にイリーナの弟子をやっているマリアからすれば想定内だったようだ。
 因みにアルピコ交通よりはシートピッチの狭いエアポートリムジンだが(もちろんこれは乗車時間が短いことと、少しでも定員確保の為である)、イリーナはしっかりリクライニングしている。
 すぐ後ろにいるのがマリアだからだろう。

 出発の時間になると、バスは複数の係員に見送られながら出発した。
 尚、出発時間がほぼ定刻でいられるのも、日本ならではらしい。

〔「……終点、羽田空港国際線ターミナルには13時45分の到着予定です。……」〕

 稲生:「でも、いいですよね?空港で昼食って……」
 マリア:「いいと思うよ。多分、師匠もバス降りたら、似たようなことを言うと思う」
 稲生:「なるほど……」

 バスがバスタ新宿を出て、再び首都高速へ向かう。
 もちろん、首都高速から乗った先のルートは違う。
 後ろの方に座っていると、車内の暖房がよく効いている。
 だからイリーナも寝やすいのだろうし、マリアもローブを脱いで膝掛け代わりにしている。
 ローブの下には、いつもの緑色のブレザーを着ていた。
 モスグリーンなのだが、これってJR東日本のコーポレートカラーに近い色である。
 契約悪魔である“怠惰の悪魔”エルフェゴールが緑色好きな為、それに影響されていると思われる。
 表向きは、稲生が卒業した高校(学校法人東京中央学園・上野高校)の制服にインスパイアされたので、それをモチーフにした服を作ったらこうなったということになっている。
 その制服も、他校の生徒からはよく東京無線タクシー運転手の制服に似ているとよく言われたのだが。

 マリア:「師匠が丸投げしてくれたせいで、余計な苦労を掛けてしまって申し訳ない」
 稲生:「いや、いいんですよ。日本国内でのことですからね、そうなると日本人の僕に任されてしまうというのは人情だと思います」
 マリア:「費用は全部、師匠のカード使っていいから。何だったら、宿泊先のホテルのルームサービス使いまくっていいぞ」
 稲生:「“ホームアローン2”の最後みたいになると思われるので、遠慮しておきます」

 主人公のルームサービスの使い過ぎが父親にバレて、思いっ切り怒られるところでエンディングを迎える。

 稲生:「国際線ターミナルだと、どういう店があるかな?」

 稲生は着くまでの間、スマホで店の検索を行うことにした。
コメント (1)
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