報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「油断大敵」

2019-05-31 19:24:19 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月14日22:00.天候:晴 東京都台東区上野 とある飲食店]

 稲生とマリアとルーシーはJR御徒町駅で鈴木と合流し、駅近くの飲食店に入った。
 酒でも入れれば悲しみも薄れるだろうと思ってのことだった。
 確かにルーシーは結構行ける口だったが、同時に泣き上戸というか……。

 ルーシー:「私がもう少ししっかりしていれば、2人を死なせずに済んだのに……。リバプールの時だって、私が注意力を散漫にしていなければあんなことには……ヒック……!こんな遠い外国まで来て、私は一体何をやってるのか……」
 稲生:( ゚д゚)
 鈴木:Σ(゚д゚lll)カ
 マリア:(-_-;)

 要は飲むと所構わず、相手構わず愚痴るタイプなのだった。

 ルーシー:「おえ……気持ち悪い……」
 マリア:「あー、もう!飲み過ぎだって!ちょっとトイレ行って来る」
 稲生:「あ、はい」
 鈴木:「トイレ、あっち……」

 ここまでなら、アルコール提供の店であればよくある光景だ。
 ところが、事件はまたしても起きる。
 マリア達はしばらく戻って来なかった。
 まあ女性だし、本当に吐いていたらそう簡単には戻って来れないだろう。
 ここまででも、まだ飲み屋あるある話だ。
 だが、マリアが青ざめた様子で戻って来た。

 稲生:「マリアさん、お帰りなさい。あれ?ルーシーさんは?」
 マリア:「勇太……どうしよう……?ルーシー……死んじゃった。血を吐いて……息しなくなっちゃった……」
 稲生:「はあ!?」

[同日同時刻 天候:曇 長野県北部山中 マリアの屋敷2F西側・イリーナの部屋]

 魔の者:「覚えているかね?『極東の島国に逃げれば安全だと思ったのかい?』と、私が言ったことを……」
 イリーナ:「ええ、覚えているわ。まるで昨日のことみたいにね!」

 バレーボールほどの大きさの水晶球で、イリーナは“魔の者”と交渉していた。
 イリーナはいつものように目を細めておらず、大きく開いて水晶球を見据えていた。

 魔の者:「今のところは眷属を遣わせるだけに留まっているが、いずれは直々に私が乗り込んでやろう。島国の小国など、私の力を持ってすればあっという間に沈没だ。分かるかね?2011年3月11日を……。私の揺さぶりで、あのザマだ」
 イリーナ:「今度は南海トラフを起こす気かしら?あいにくとこちらの人間もバカじゃないから、想定はしているわよ?」
 魔の者:「その想定でも多数の死者が出ているのはどういうわけだ?私が本気を出せば、想定外の魂を我が元に召すこともできるのだぞ?」
 イリーナ:「さあ、どうだか……」
 魔の者:「現に我が眷属は2人の弟子を地獄に堕とすことができた。そして、また1人……」
 イリーナ:「また1人!?」

 水晶球の画面が変わった。
 そこには救急車に乗せられるルーシーの姿があった。

 魔の者:「愚かな者ども。人間の医療程度で治る呪いなど、最初から掛けぬわ」
 イリーナ:「見てなさい。あんたは絶対に冥府に送って2度と出してやらないから……!」
 魔の者:「は、は、は。楽しみだ……」

 そこで水晶球の交信は切れる。
 イリーナは今度はマリアの水晶球に繫げた。

 イリーナ:「マリア!マリア!聞こえる!?」
 マリア:「師匠……どうしよう……?ルーシーが……ルーシーが……」
 イリーナ:「気をしっかり持ちなさい!これは“魔の者”の攻撃よ!」
 マリア:「“魔の者”の?」
 イリーナ:「あの銃弾には“魔の者”の呪いが込められていたの!最初から即死同然だったゼルダとロザリーはそんな呪い関係無かったけど、ケガで済んだルーシーには呪いが掛かったの!“魔の者”の言い分では、病院に行って治るものじゃない!けど、救急車に乗せたんなら、取りあえず病院には行かせなさい!」
 マリア:「それで、その後私達はどうすれば?」
 イリーナ:「病院には私が後で行くから、ルーシーの搬送先が分かったら教えて!あとは……」

[同日22:29.天候:晴 東京都台東区上野 JR御徒町駅]

〔まもなく2番線に、東京、品川方面行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください〕

 ルーシーの搬送先が分かり、それをイリーナに送信したマリア。
 イリーナの指示で、稲生達は再び大石寺へ向かうこととなった。
 それも、なるべく早くというもの。
 今、ルーシーの命は“魔の者”の手中にある。
 いつ“魔の者”がルーシーへの呪いの力を強めるか分からないからだ。

〔「2番線、ご注意ください。山手線外回り、東京、品川、目黒方面行きが参ります」〕

 再びやってきた電車は新型のE235系。
 しかし今はそれを気にしている場合ではない。

〔おかちまち〜、御徒町〜。ご乗車、ありがとうございます〕

 上野方面行きは夜でも混んでいたが、稲生達の乗る逆方向は空いていた。
 空いている座席に腰掛ける。

〔2番線の山手線、ドアが閉まります。ご注意ください〕

 すぐに電車が発車する。

〔次は秋葉原、秋葉原。お出口は、左側です。中央・総武線各駅停車、地下鉄日比谷線とつくばエクスプレス線はお乗り換えです〕
〔The next station is Akihabara(JY03).The doors on the left side will open.Please change here for the Cyuo-Sobu line local service,the Hibiya subway line and the Tsukuba Express line.〕

 稲生:「取りあえず、この電車で行けば東海道新幹線の最終列車には間に合うはずだ」
 鈴木:「でも先輩、確かそれって三島止まりですよね?新富士駅まであと一駅……」
 稲生:「いや、在来線と接続しているはずだ」
 鈴木:「今日は沼津止まりですよ?沼津から先、どうやって行くんです!?」
 稲生:「……そうだ。藤谷班長」
 鈴木:「えっ?」
 稲生:「藤谷班長が富士宮のホテルに泊まってるはずだ!藤谷班長に頼んで、沼津まで迎えに来てもらおう!」
 鈴木:「そんな無謀な……!」
 稲生:「やってみなきゃ分からないさ。とにかく、新幹線に乗ったら藤谷班長に連絡してみる!」

 魔道士2人と普通の人間1人の緊迫を乗せて、山手線電車は巨大ターミナル駅へと向かう。
コメント (7)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「事件後の魔道士達」

2019-05-31 14:00:32 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月14日19:10.天候:晴 東京都豊島区 日蓮正宗・正証寺]

 稲生は所属寺院の夕方の勤行に出ていた。
 正証寺では朝の勤行は7時から、夕の勤行は18時30分からになっている。
 これは都内で働いている信徒の都合に合わせてくれたものだ。
 朝の勤行が終わった後で会社や学校へ出勤できるし、夕刻の勤行も会社の定時に合わせているわけだ。
 17時から18時が定時であれば、18時30分からの夕勤行も間に合うだろう。
 そして今回、稲生はいつもとは違うことをお寺に頼んでいた。
 それは……。

 住職:「こんばんは」
 信徒一同:「こんばんは!」

 夕刻の勤行が終わって、導師を務めた御住職が信徒達に挨拶する。
 それだけではなく……。

 住職:「ただいま、願い出のございました塔婆供養並びに納骨供養におきまして、追善供養を懇ろに行いました」
 稲生:「ありがとうございます」

 他に塔婆供養や納骨供養を頼んでいた信徒に混じり、稲生も一緒に御礼を言う。
 そして、本堂を出ると客間で待機していたマリアとルーシーを迎えに行った。

 稲生:「お待たせしました」
 マリア:「ああ、終わった?」
 稲生:「ええ。夕食にでも行きましょう」
 ルーシー:「本当にここは安全だね。さっきまた教会の奴らが外で騒いでたよ」
 稲生:「境内には侵入させませんよ。“魔の者”も、ここでは手出しをさせません」

 魔道士3人は境内の外に出た。
 もちろん、周囲の安全確認は忘れない。

 稲生:「大丈夫です。教会の奴らはもういません」
 マリア:「OK」

 今日は気晴らしに都内の色々な所を回ってみた。
 これでルーシーの気が晴れたかは分からない。
 マリアも同期の仲間を一気に2人も失った悲しみは大きいものであったが、それ以前に稲生という心の支えがいたので、ルーシーよりは立ち直りが早かった。

 稲生:「ゼルダさんとロザリーさんの塔婆供養を頼んでおきましたよ。ただ、遺骨が無いみたいですが……」
 ルーシー:「魔女は死んだら死体すら残さないの。火あぶりになった魔女がその後どうなったかなんて聞いたことないでしょう?文字通り、灰になるのよ」
 稲生:「そうなんですか……」

 その理由については分からない。

 ルーシー:「魔女なんてのは教会の奴らから見れば、『神をも恐れぬ所業を行う奴ら』なんだろうけど、私達から見れば『神から見放された奴ら』なの。でなかったら、私もマリアンナもゼルダもロザリーも魔道士になんかならなかったよ」
 稲生:「日本には『捨てる神あれば拾う神あり』という諺があります。仏教徒の僕が言うのも何ですが、日本には八百万の神がいるとされています。ましてや、ここには仏教もあります。言うなれば、『捨てる神あれば拾う仏あり』ですよ。日蓮正宗では『神に見放され、魔女になった者』であっても救って下さいますから。でなかったら、塔婆供養は断られるでしょう。何しろ、ペットの供養も行ってるくらいですからね」
 ルーシー:「すると、ゼルダとルーシーは、今度は日本人として転生してくるのかしら?」
 稲生:「……かもしれませんね。やはり何だかんだ言って、日本で生まれる方が正法には縁しやすいわけですから」

 そんなことを話しながら、3人はJR池袋駅に向かった。

[同日19:27.天候:晴 東京都豊島区南池袋 JR池袋駅・山手線外回りホーム]

〔まもなく7番線に、上野、東京方面行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください〕

 夕方ラッシュでごった返す池袋駅に入り、そこから山手線ホームに向かう。

 稲生:「鈴木君が夕食奢ってくれるらしいんですよ」
 マリア:「普段ならお断わりするんだけど、今回はいいや。甘えることにしよう」

 やってきた電車は新型のE235系だった。
 夕方ラッシュ時なのでどちらも混んでいるのだが、やはり新宿や渋谷に向かう内回りよりも逆方向の外回りの方が若干空いていた。

〔いけぶくろ〜、池袋〜。ご乗車、ありがとうございます〕

 着席はできなかったものの、立ちスペースは内回り電車よりも余裕がある。
 ダイヤが圧しているのか、すぐに発車メロディが鳴った。

〔7番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕

 こちらはドアチャイムが3回鳴る。
 ついでにホームドアも一緒に閉まった。
 それから電車がスーッと走り出す。

〔この電車は山手線外回り、上野、東京方面行きです。次は大塚、大塚。お出口は、右側です。都電荒川線は、お乗り換えです〕
〔This is the Yamanote line train bound for Ueno and Tokyo.The next station is Otsuka(JY12).The doors on the right side will open.Please change here for the Toden Arakawa line.〕

 ルーシー:「稲生君……」
 稲生:「はい?」
 ルーシー:「ゼルダとロザリーの為に祈ってくれてありがとう」
 稲生:「!」
 マリア:「私からも礼を言うよ」
 稲生:「いえ、そんな……」
 ルーシー:「これが、マリアンナの体の傷が消えた理由なのかしら?」
 マリア:「よくは分からないけど……。多分、それはあると思う」

 マリアは首を傾げて、しかしすぐに頷いた。

[同日19:45.天候:晴 東京都台東区上野 JR御徒町駅]

 稲生達を乗せた電車が上野駅を発車する。

〔この電車は山手線外回り、東京、品川方面行きです。次は御徒町、御徒町。お出口は、右側です。都営地下鉄大江戸線は、お乗り換えです〕
〔This is the Yamanote line train bound for Tokyo and Shinagawa.The next station is Okachimachi(JY04).The doors on the right side will open.Please change here for the Oedo subway line.〕

 上野〜御徒町間は先述したかもしれないが、駅間距離が600メートル程しか無く、自動放送が流れ終わる頃にはもう電車がホームに差し掛かっている。
 鈴木とはここで待ち合わせである。

 稲生:「鈴木君が店を予約してくれたので、そこで気晴らしでもしましょう。ルーシーさんはお酒行けますか?」
 ルーシー:「まあね」

〔おかちまち〜、御徒町〜。ご乗車、ありがとうございます〕

 3人は電車を降りた。
 そして、鈴木と待ち合わせしている北口改札へと向かった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「事件の後の東京都内」

2019-05-31 12:56:12 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月13日21:30.天候:晴 東京都豊島区 日蓮正宗・正証寺]

 住職:「おお、稲生さん。もうお帰りになったんですか?」
 稲生:「あっ、御住職様!は、はい。おかげさまで……」
 住職:「お怪我は無かったですか?」
 稲生:「は、はい。おかげさまで……」
 住職:「そうですか。鈴木さんも稲生さんのおかげで助かったと、泣いて喜んでおりました」
 稲生:「無事で何よりです。あの、夕方の勤行がまだなので……」
 住職:「ああ、どうぞ。本堂には他の御信徒さんもおられますから」

 そこはさすが東京23区内の寺院である。

 稲生:「すいません」

 稲生は本堂へ向かった。
 と、そこから出て来る者がいた。

 稲生:「登山部長!」
 藤谷秋彦:「おう、稲生君」

 稲生の所属班の班長を務める藤谷春人の父親で、正証寺登山部長の藤谷秋彦である。
 登山部長を務める傍ら、壮年部の地区長も務める。

 藤谷:「本当に無傷だったんだな。直接弾雨を受けたというのに、本当に素晴らしい……」
 稲生:「登山部長、それより藤谷班長は……?」
 藤谷:「春人か。あいつは今日から富士宮に行ったよ」
 稲生:「えっ?もしかして、あの銃撃事件の絡みで?」
 藤谷:「いやいや。向こうにはうちの会社の営業所があるんだが、向こうで大口の契約を取ってね。春人が現場責任者として向かったんだ。要は現場監督に、更に指導する役だな。『“釣りバカ日誌”のハマちゃんみたいな役だ!』なんて行きやがったけど……」
 稲生:「そうなんですか」
 藤谷:「富士宮市内の学会の会館を妙観講さんが分捕ってくれてね、その改修工事だよ。よくやったなぁ(※)」

 ※フィクションです。

 稲生:「今、班長はホテルに?」
 藤谷:「そうだな。ビジネスホテルに長期滞在プランで泊まってるよ。後で聞いてみるといい」
 稲生:「はい。ありがとうございます」

 稲生はそこで藤谷秋彦と別れ、自分は本堂に入った。
 そこで勤行している時に気づいたものがある。
 それは後述する。

[5月14日07:00.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 魔道士2人が宿泊しているツインルーム。
 エキストラベッドは片付けられ、本当の2人部屋になった。

 マリア:「ん……」

 マリアが目を覚ました。
 ライティングデスクの上の時計はチッチッと秒針を刻んでいる。
 隣のベッドを見ると、ルーシーの姿は無かった。
 だが、すぐにどこにいるかは分かった。
 バスルームの中からシャワーの音が聞こえたからである。

 マリア:(あんなに泣いたの久しぶりだ……)

 マリアが上半身を起こすと、ルーシーがバスルームから出て来た。
 黒いストレートの長い髪は濡れてキラキラ光り、バスタオルだけ巻いた姿である。

 マリア:「ルーシー、シャワー浴びてたの?」
 ルーシー:「昨日は……それどころじゃなかったから」
 マリア:「少しは落ち着いた?」
 ルーシー:「マリアンナは落ち着いたの?」
 マリア:「少しだけしか眠れなかった。私の頭を銃弾がスレスレに通った夢は見たけど……」
 ルーシー:「稲生君に守られて良かったね。私には守ってくれる人なんていないもの……」
 マリア:「私にはたまたま弟弟子がいただけで……」
 ルーシー:「でもそれが必ず助けてくれるとは限らないじゃない。マリアンナは幸せ者ね」
 マリア:「私が……幸せ者……?」
 ルーシー:「マリアンナもシャワー使ったら?日本は湿度が高いから、すぐに汗かく」
 マリア:「う、うん……。勇太はどうしたんだろう?」
 ルーシー:「聞いてみたら?」

 ルーシーは部屋の電話を指さした。
 マリアは受話器を取ってフロントに電話してみた。

 エレーナ:「はい、フロントです」
 マリア:「エレーナ。私だ」
 エレーナ:「おー、もう起きたのか。さすが先生と違って早起きだぜ」
 マリア:「いや、いつもこれくらいに起きてるんだが。それより勇太はどこの部屋で寝てるの?」
 エレーナ:「稲生氏なら帰ったぜ」
 マリア:「えっ!?」
 エレーナ:「こっちの寺にお祈りをしてから帰るって言ってたな。ま、その方がいいだろうさ。どうせマリアンナ達、稲生氏がいたところでどうしようも無いわけだし。私達と違って、ちゃんと親が健在なんだから、無事な姿を見せた方がいいだろ」
 マリア:「そうか……」
 エレーナ:「ま、今日も来るって行ってたから心配すんな。稲生氏のことだから、今度は朝の御祈りを捧げてからこっち来るってパティーンだろ。確か朝7時からだから……あ、もう始まってんな。それからここに来る時間を考えると……」
 マリア:「……何でオマエ、勇太の寺の祈りの時間を知ってるんだよ?」
 エレーナ:「鈴木に吐かせ……もとい、鈴木が教えてくれたぜ」
 マリア:「あ、そう。私はもう少し寝てるから、勇太が来たら教えて」
 エレーナ:「OK」

 マリアは電話を切った。

 ルーシー:「マリアンナ、シャワー使わないの?」
 マリア:「もう一眠りしてから使う。あまり眠れなかったから眠い……」

 マリアはそう言ってベッドに潜り込んだ。

 ルーシー:「ちっ……!」

 ルーシーは舌打ちするとバスタオルを取った。
 その肢体の形は美しいものだったが、常人には考えられないものが体中についていた。
 よく欧米人が入れているタトゥーとか、そういうものではない。
 それは体中のあちこちに付いている十字架型の火傷の痕だった。

 ルーシー:「マリアンナが、どうしてトラウマを克服したのか……それを知りたくて日本に来たのに……。“魔の者”に追いつかれるなんて……」
 マリア:「やはりイギリスから追い掛けて来たんだ」
 ルーシー:「この体の傷痕が消えないの!マリアンナは消えたのに!」
 マリア:「私だって不思議に思ってるよ。師匠は、『女の幸せ』がどうとか『女の悦び』がどうとか言ってたけど……」

 マリアは布団を頭から被って、少しでも早く眠りに就こうとした。

[同日07:47.天候:晴 東京都豊島区池袋 東京メトロ池袋駅・丸ノ内線ホーム]

〔「2番線から中野富士見町行き電車が発車します」〕

 朝のラッシュでメチャ混みの丸ノ内線電車。
 その先頭車に稲生は乗っていた。
 着席はできず、しかししっかり乗務員室ドアの後ろの場所は確保している。
 ホームから発車メロディが聞こえて来た。

〔「2番線、ドアが閉まります。ご注意ください」〕

 ピンポーンピンポーンとチャイムが2回鳴ってドアが閉まる。

 稲生:(どうせなら新型車両に乗りたかったなぁ……)

 と、鉄ヲタ根性を出す稲生。
 現在丸ノ内線ではワンマン運転が行われている為、発車合図のブザーは鳴らない。
 運転士の歓呼は聞こえたが、マスコンハンドルをガチャッと操作する音は聞こえてこない。
 今や丸ノ内線もATOの時代だ。

〔東京メトロ丸ノ内線をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は大手町、銀座、赤坂見附方面、中野富士見町行きです。次は新大塚、新大塚です。……〕

 稲生:(マリアさん、今行きますからね。もうちょっと待っててくださいねー)

 鉄ヲタ根性は半分出すものの、マリアに対する心配も忘れていない。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「魔女の慟哭」

2019-05-30 19:06:15 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月13日20:30.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル1F会議室]

 会議室でしばらく待っていると、やっと誰かが入って来た。
 それはイリーナとエレーナ。

 エレーナ:「よお、稲生氏。無事で良かったな」
 イリーナ:「さすがは勇太君だわ。マリアを助けてくれてありがとね」

 エレーナはコーヒーと紅茶をテーブルに置いた。

 エレーナ:「紙コップの自販機のヤツで申し訳ないですけど……」
 イリーナ:「いいのよ。ありがとう」

 イリーナとエレーナも椅子に座った。

 稲生:「先生、一体僕達はどんな目に遭ったんでしょうか?まるで、夢の中の世界みたいだ……」
 エレーナ:「あいにくと夢じゃないぜ。ネットのニュースやなんかじゃ、ずっと銃撃事件で持ちきりだ」
 稲生:「やっぱり……」
 エレーナ:「何しろあの銃撃に巻き込まれたのは、稲生氏達だけじゃないからな」
 稲生:「僕達だけ……ああっ!?」

 その時、稲生は思い出した。
 あの場には、他にも下山バスに乗る為に第2ターミナルに向かっていた信徒達がいたことを。

 エレーナ:「“魔の者”は稲生氏やマリアンナなどを狙った。別に他の人間が巻き込まれたって、そんなのは関係無いってことさ」
 稲生:「そ、それでマリアさんは!?」
 イリーナ:「勇太君に押し倒された時に少しケガをしたけど、別にそれは勇太君のせいじゃないからね。私の回復魔法で簡単に回復できたから。それは心配しないで。逆にそうしてくれなきゃ、マリアも頭に銃弾を受けて死んでたからね」
 エレーナ:「マリアンナはルーシーと同じ部屋に入れてある。ルーシーのヤツは顔に銃弾を受けて、瀕死の重傷だったぜ。それもイリーナ先生が全快魔法で治したけどな。そこはさすがグランドマスターだぜ」
 イリーナ:「おかげで今、MPはスッカラカン。ルゥ・ラも使って離脱したしね」
 稲生:「ゼルダとロザリーは?」
 イリーナ:「……地獄に堕ちた、と言えば意味は分かる……よね?」
 稲生:「そんな……!魔道士は殺しても死なないって聞いたのに……!」
 イリーナ:「それは私くらいになれば、の話よ。だったら、北海道でも“魔の者”の眷属に襲われた時、あんなに苦労しなくて済んだじゃない」
 稲生:「そ、それもそうですね……」
 エレーナ:「あの2人は稲生氏より先に目を覚ましたんだが、ゼルダとロザリーが死んだと聞いて、わんわん泣いてたぜ。さすがの私も、少しもらい泣きだぜ」
 稲生:「先生!“魔の者”は日本に侵入できないんじゃ!?」
 イリーナ:「恐らくあれも眷属か何かだったのでしょう。魔界や北海道でのやり方じゃ私達に負けたから、エレーナの時みたいに直接攻撃に来たみたいね」
 エレーナ:「その方法でも私に先に負けたから、もう2度として来ないと思ったんだけどな。ただ、逆を言えば、奴らの手法もいっぱいいっぱいにはなってるということたぜ」
 稲生:「奴ら?」
 イリーナ:「もしかしたらね、“魔の者”は複数いるかもしれないの。それぞれがどれだけの眷属を抱えているかは知らないけど……」
 エレーナ:「眷属ってのは色々な奴らがいる。どっからどう見ても人間ってのもいるしな。私が戦ったマフィアのボスもそうだった。あれはただの人間。但し、“魔の者”から力を与えられた化け物となった人間さ。そういうのもいるんだ。今回も水晶球で見た限りでは、普通の人間に眷属が憑依したものだと思うがな」
 イリーナ:「取りあえず、そいつらは倒しておいたわ。でも、ただの眷属ではなかったみたい」
 稲生:「どういうことですか?」
 イリーナ:「私もよくは分からないんだけど、強化された眷属とでも言うのかな……」
 稲生:「強化された眷属???」
 エレーナ:「“魔の者”も早く日本に行きたいんだぜ。だけど当然、今のままじゃどうしても無理だから、自分が強くならないといけないって考えたんだろうな。で、必然的に眷属も強くなったってわけだ。眷属は中途半端に強く、中途半端に弱いから奴らは入国できる。いずれは来るだろうなと思っていたけど、まさかあそこで襲って来るなんてな。さすがに想定外だぜ」
 イリーナ:「マリアとルーシーは今晩ここに泊まらせてあげましょう。まだあのコ達、ショックで放心状態だから」
 稲生:「! 鈴木君は?!」
 イリーナ:「鈴木君もまた軽傷で済んだわ。よく2人も助けられたわね。魔法も使わずに……」
 稲生:「あの時は無我夢中で……」
 エレーナ:「お手柄だぜ。表彰モノだぜ」
 イリーナ:「勇太君はどうする?」
 稲生:「えっ?」
 イリーナ:「家に帰る?もちろん埼玉の方よ。それともここに泊まる?」
 エレーナ:「私としては泊まって行って欲しいぜ」
 稲生:「……いえ、僕は1度家に帰ります。その前に正証寺に行ってからですが……」
 イリーナ:「そう。それもいいかもね。もしかしたら、御両親も心配してるかもしれないから」
 稲生:「明日、また来ます」
 イリーナ:「そうしてね」
 稲生:「先生もお泊りですか?」
 イリーナ:「私はルーシー達の先生に会ってくるわ。日本を拠点とする組の責任者が、ちゃんと説明しなきゃね」
 エレーナ:「エーテル、先生にならお安くお譲りします」

 MPを回復させる薬として有名である。

 イリーナ:「それはありがとう」

 そして、肝心なことを稲生は聞いた。

 稲生:「先生。先生ほどの御方なら、あの事件のことを予知できたんじゃないですか?」
 イリーナ:「そう。できたわ」
 稲生:「どうしてもう少し早く来て頂けなかったんですか?」
 イリーナ:「……ゴメン。寝坊した」
 稲生:「は!?」
 イリーナ:「予知夢でもって、“魔の者”の襲撃は分かったのよ。だけど目が覚めた時、事件発生5分前だったから間に合わなかったのよ。ゴメンね」

 そういうこともあるのかと稲生は驚くやら呆れるやら……。
 いずれにせよ、命運というのはなかなか変えられないものだと稲生は思った。

 稲生:(どうやら僕にはまだ使命があるらしい。大聖人様、ありがとうございます)

 稲生は大聖人に心の中で感謝を想いを伝えると、ホテルを出て森下駅に向かった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「魔の者の奇襲」

2019-05-30 15:11:16 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月13日14:30.天候:晴 静岡県富士宮市上条 日蓮正宗・大石寺]

 エレーナ:「取りあえず私も身を隠す!稲生氏も逃げるんだぜ!」

 電話の向こうでエレーナも訴え返してくる。

 稲生:「何で僕も!?僕は夢の中で戦っていないよ!?」
 エレーナ:「夢ってのはな、見たヤツ主観のストーリーだぜ?マフィアの場合、例え無関係の人間でも秘密を見た者は全員抹殺だ!稲生氏はマフィアのボスと私が戦っている所を見たんだから、十分抹殺対象だ!」
 稲生:「言ってる意味がよく分かんない!だって夢の中の話だよ!?」
 エレーナ:「いいから早く逃げろ!マフィアのボス、“魔の者”を倒した時刻がまもなくだ!」
 稲生:「ええっ!?」

 そこで電話が切れた。

 マリア:「どうした!?」
 稲生:「ぼ、僕も殺される……!狙われてるのはエレーナだけじゃない……!」
 マリア:「何だって!?」
 鈴木:「先輩!正法を護持している俺達が横死するわけが……!」
 稲生:「じゃあ、あれは何だ!?」

 稲生は熱原三烈士の墓碑を指さした。

 稲生:「正法に縁してるから殺されないって保証は無いんだ!」
 鈴木:「あ……!」
 マリア:「私が師匠に助けを呼んでみる!」
 稲生:「お願いします!」

 マリアは水晶球を取り出した。

 マリア:「師匠!師匠!こちらマリアンナです!応答願います!」
 鈴木:「無線交信みたい」
 稲生:「シッ!」
 マリア:「師匠!師匠!こちらマリアンナです!応答願います!」

 だが、水晶球はうんともすんと言わなかった。
 ただ、テレビ画面の砂嵐みたいなものは映っていたので、水晶球やマリアの魔法に問題があるわけではないようだ。

 ルーシー:「くっ、ここは寺の境内よ。もしかしたら、魔法が制限されているのかも……!」
 マリア:「そ、そうか!」
 鈴木:「じゃあ、早いとこ境内から出ないと!今なら下山バスにも乗れる!」
 稲生:「そうか。バスなら他にも信徒さん達が乗っているから、“魔の者”も手出しはできないかもしれない!」

 ここでの稲生達のミス、まずは仏力法力まします本門戒壇の大御本尊から離れたこと。

 稲生:「早くこっちへ!」

 稲生は下山バスが発車する第2ターミナルへ魔女達を誘導した。

 鈴木:「急げば10分くらいで到着できるはずだ!」

 次の稲生達のミスは、大石寺の境内が南北に分離されていることを知ってか知らずか……。
 信徒達の感覚ではまさか大石寺の境内が南北に分離されているとは思わないだろう。
 だが、実際は分離されている。
 その境目はどこか?

 稲生:「この国道を渡って向こう側に第2ターミナルがあります!」
 鈴木:「幸いタクシーもいる!いざとなったらあれで!」

 車が行き交う国道。
 オレンジ色のセンターラインが引かれた片側一車線の、どこにでもある地方の国道の雰囲気である。
 そこへまた稲生の頭に、エレーナとのやり取りが思い出された。
 もっとも、それは先ほどの電話ではない。
 雑談の中でエレーナが、自分が“魔の者”と戦った時の話をぼんやり聞いた時のことだ。

 エレーナ:「“魔の者”の調査をしにニューヨークの町を歩いていたら、いきなり近づいてきたマフィアの車から銃撃を受けてだなぁ……。それで私は確信したんだぜ。『ああ、こいつら締め上げたら“魔の者”の所まで行ける』ってな」
 稲生:「そのマフィアの車とは?」
 エレーナ:「聞いて驚け。何と、ニューヨークのイエローキャブに化けていたんだ。まさか、イエローキャブにマフィアが乗ってるとは思わないだろ?あれは油断したなぁ……」

 国道を横断する為に行き交う車が途切れるのを待っていた稲生達。
 そこへやってくる1台のタクシー。
 地元では見かけない黄色のタクシーだった。

 稲生:「!!! わああああああっ!!」

 稲生は思わずマリアと鈴木を両手で抱き抱えて、地面に伏せた。
 ここからはよく映画やドラマにあるスローモーションをイメージして頂きたい。
 減速したタクシー(のような車)のリアシートのガラスがスーッと開いて、そこからスッと出されるマシンガンの銃口。
 そこから吹いた弾の先は回避行動を取らなかった魔女3人。
 上がる血しぶき!
 上がる目撃者の悲鳴!
 昔の足踏み式ミシンの音のようなマシンガンの発砲音!
 そこから先の稲生の記憶はボヤける。
 まるで、夢の世界のように。

 イリーナ:「このクソ野郎ども!何てことを!!」

 ぼんやり虚空を眺める稲生の耳にイリーナの怒声と攻撃魔法と共に大爆発の起きる音を聞いて、稲生の記憶は途切れる。

[同日20:00.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 稲生:「う……」

 次に稲生が目が覚めた時はベッドの上だった。
 最初は病院のベッドかと思ったが全く違う。
 見覚えのある風景が広がっていた。

 稲生:(ワンスターホテルの部屋!?……え、何で!?)

 周りを見渡すと、ライティングデスクの上にメモ書きが置いてあった。
 それはエレーナが書いたものだった。
 流暢な日本語で書いてある。

 『よお、稲生氏?目は覚めたか?あなたは軽傷で済んだ。ケガはイリーナ先生が治してくれたぜ。詳しい話を聞きたかったら、1階まで来てくれ』

 稲生:「1階……」

 稲生はデスクの上の鍵を取ると、部屋を出た。
 部屋番号はこの前宿泊した部屋と同じだった。
 静かな廊下を進んでエレベーターに乗り、それで1階に降りる。

 オーナー:「あ、稲生さん。こんばんは」

 フロントにはエレーナではなく、オーナーがいた。

 稲生:「オーナー。エレーナから1階に来るように言われたんですけど……」
 オーナー:「すぐ呼びます。そこの貸会議室を押さえておきましたので、そちらでお待ちください」

 オーナーはエレベーターの横の通路を指さした。
 その奥には共用トイレやコインランドリー、そして貸会議室が1つある。
 だいぶ前、そこでアナスタシア組の面々とゲーム大会をやった部屋だ。

 稲生:(一体……何があったんだろう?)

 会議室の中は無人で、稲生は椅子に適当に座った。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする