報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「検査は淡々と」

2021-09-30 21:06:30 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月29日12:00.天候:不明(多分、雨) 神奈川県相模原市緑区 国家公務員特別研修センターB2F地下研究施設]

 検査技師:「はい、目を大きく開いてー。虹彩を撮ります」

 検査は本当に細かいものだった。
 確かにこれじゃ、移動診療車みたいなものではできないだろう。
 ついでにということで、私や高橋も受けることになった。

 検査技師:「虹彩データの採取に御協力ありがとうございました。それでは午前中の検査は以上になります。先ほどの受付に向かってください」
 愛原:「分かりました」
 高橋:「指紋もあっちこっち取られて、これじゃ俺達、もう悪い事できませんよ」
 愛原:「当たり前だろうが。というかオマエの場合、それ以前の問題だろ」
 高橋:「あ……」

 少年鑑別所から少年刑務所までコンプリートした高橋であった。

 高橋:「俺はケーキは3等分できますよ?」
 愛原:「そういうことじゃない」

 私達は更衣室に行くと、検査着から私服に着替えた。

 リサ:「先生」

 女子更衣室からはリサと絵恋さんが出て来た。
 私達の場合は、企業の健康診断の延長みたいなものだが、彼女らは違う。
 午後にも様々な検査が目白押しである。

 愛原:「おっ、リサ。ご苦労さんだったな」
 リサ:「いい。またアンブレラの研究所に戻ったとでも思えば……」
 愛原:「いや、別に何もそこまで……」
 絵恋:「お待たせしましたー」

 同じく体操服に着替えてきた絵恋さんが出て来た。

 愛原:「これで午前中の検査は終わりらしい」
 リサ:「お腹空いた」
 高橋:「さすがにもう昼飯っスよね?」
 愛原:「……と、思うがな」

 そんなことを話しながら受付に向かうと、先ほどの受付係の女性が待っていた。
 30歳前後で、高野君や善場主任を足して2で割ったような見た目だ。
 リサが特に何も関心を示さないところを見ると、BOWではなく、普通の人間なのだろう。
 名前を善野と言った。
 名字まで高野君と善場主任を足して2で割った感じである。

 善野:「お疲れ様でした。それでは、これより13時までお昼休憩となります。先ほどの会議室までご案内致します」
 高橋:「ここの食堂じゃねーのかよ?」
 善野:「あいにくですが、食堂は職員が使用します。お食事は先に選んで頂いたものを御用意しておりますから」

 実は最初の説明の後で、昼食のメニューを選ばされた。
 どうやら、ここの食堂で出る物と同じ物を出してくれるらしい。
 善野氏の案内で最初の会議室に行くと、確かに選んだ定食等が用意されていた。

 善野:「室内にある給茶機はご自由にお使いください。自販機コーナーはあちらにありますので、それもご利用頂いて結構です」
 高橋:「なあ。喫煙所も使っていいんだろ?」
 善野:「はい、結構です。そのリストタグで開錠できますので」
 リサ:「その自販機コーナー、お菓子売ってる?」
 善野:「はい。菓子パンやチョコレートもありますよ」
 リサ:「おー!」
 善野:「適度な糖分の補充は、適切な脳の活性化に有効であることが科学的に証明されています」
 絵恋:「その前にお手洗いに行きたい。このリストタグで使えるんでしたっけ?」
 善野:「大丈夫です。それでは13時になりましたら、お迎えに上がります。それまでごゆっくりお過ごしください」

 会議室は一般職員以上の立場の者が持つタグでないと開錠できないようになっていたが、私達が休憩している間は常時開錠状態にしてくれた。
 善野氏がそうしたのではなく、内線電話でどこかに連絡してそうなったのだから、どこかで遠隔で操作できる所があるらしい。
 あの守衛所だろうか?
 それとも、また別のどこかか。

 愛原:「A定食は鯖の生姜焼きだ。B定食はハムカツ定食か」

 それに小鉢と小皿に漬物、そして御飯と味噌汁が付く。
 味はまあまあ。
 職員食堂に出る定食といったところだ。
 会議室内にはテレビもあり、それでテレビを点けた。
 昼の情報番組では、八王子市の発砲事件が取り上げられていた。
 東京オリンピックなど、どこ吹く風である。
 いや……オリンピックの最中にこんな事件が発生したものだから、尚更大騒ぎってところか。
 番組では犯人の身元は不明のままになっていた。
 警察の発表では射殺した1人が元暴力団組員ということで、暴力団同士の抗争も視野に入れていると報道していた。
 もちろん、私達は知っている。
 このニュースがフェイクであることを。
 本当はテロ組織ヴェルトロの関係ではないかということを。

 昼食が終わると、まだ時間があったので、私達は自販機コーナーや喫煙所に向かった。

 愛原:「これは……」

 白い壁が目立つ廊下を進んだ先にある自販機コーナー。
 自販機そのものは何の変哲も無い物だが、現金は使えないようになっていた。
 色々なカードが使えるようだが、その中にICカードも含まれている。

 愛原:「良かった。藤野駅でチャージしておいて」
 リサ:「うん。ジュースもお菓子も買えないところだった」

 パンや菓子は商品棚の番号を入力すると、リフトが動いて、その商品棚から商品を取出口まで持ってくるシステムだった。

 リサ:「あるふぉーと、アルフォート」
 愛原:「リサはアルフォートが好きだな」
 絵恋:「私はリサさんの方が好きです」
 リサ:「先生はコーヒーにするの?」
 愛原:「缶コーヒーより、この紙コップタイプの方が香りがいいんだ」
 絵恋:「そんなぁ、リサさん!スルーしないで!」
 高橋:「けっ、ざまぁみろ」

 高橋は悪態ついて、隣の喫煙所に入って行った。

 愛原:「俺はモカブレンドだな」

 高速道路のサービスエリア辺りにあるのと同じタイプ。
 そこなら抽出中に“コーヒールンバ”のメロディが流れるところだが、企業や学校向けのタイプだと流れないらしい。
 因みに、『昔、アラブの偉いお坊さんが』と歌っているが、アラブで流布されている宗教と言えばイスラム教であろう。
 そこの聖職者は『僧侶』ではないので、『お坊さん』と呼ぶのは間違いである。
 キリスト教の男性聖職者を『神父さん』とか『牧師さん』と呼ぶことはあっても、『お坊さん』とは呼ばないだろう?
 それと同じ。

 リサ:「そういえばサイトー、モカがアキバで彼氏とデートしてるの見た」
 絵恋:「えっ、あの人が!?信じらんない!」
 リサ:「コジマとヤマダでアキバに行ってたら、モカが大学生くらいの男の人と……」
 絵恋:「えっ、私は仲間外れ!?」
 リサ:「夏休み前で、サイトーは空手の道場があった日」
 絵恋:「あの日ね!うぅ……!私もリサさんとデートしたかったーっ!」
 リサ:「……ヒトのハナシ聞いてた?」

 どうやらいきなりJK同士の噂話が始まってしまったらしい。
 こういう時、リサは本当に人間の女の子っぽくなる。
 モカって……ああ!
 そういう名前の女の子がクラスでもいるのかな。

 愛原:「俺は先に戻るぞ」

 私は自販機からコーヒーを取り出して言った。

 リサ:「あっ、ゴメン。私も戻る」
 絵恋:「お供します!」
 高橋:「お供します!」
 愛原:「いいから高橋、オマエはタバコ吸ってから戻れ」

 賑やかなメンツで申し訳ないね。
 ま、こんな感じで午前中は終わったというわけである。
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“私立探偵 愛原学” 「研修センター地下秘密医療施設」

2021-09-29 20:17:24 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月29日09:30.天候:雨 神奈川県相模原市緑区 国家公務員特別研修センター別館2F→地下研究施設B2F]

 高橋:「どうぞ、先生。お茶が入りました」
 愛原:「ありがとう」

 部屋で待っている間、高橋は室内に備え付けられていた電気ケトルで湯を沸かし、これまた室内にあった茶器でお茶を入れてくれた。

 絵恋:「雨が降ってきたわ」
 リサ:「ゲリラ豪雨?」
 絵恋:「うーん……。普通の低気圧じゃない?」
 リサ:「血圧が低いと、天気の悪い日は具合が悪くなるって聞いたことある」
 絵恋:「気圧が低くなると、血圧の低い人は影響を受けやすいって言うよね。あの小島さんなんかもそうだって」
 リサ:「コジマが」
 絵恋:「『女の子の日』が来そうな時、低気圧が来るタイミングがきっかけで来るって言うから、その点は分かり易いよね」
 リサ:「するとサイトーは高血圧……」
 絵恋:「いや、普通だから!」

 窓際で外を眺めている少女達。
 こちらは山側……というのか。
 北東側と言えばいいのか。
 窓の外から藤野の町や、遠くに中央高速などが見える。
 きっと夜景はきれいだろう。
 しかし、あんまり窓の外を覗いてもいいのか?というと、実は大丈夫。
 真っ先に気づいたのは高橋だが、これは防弾ガラスだという。
 しかも、開口部が換気できる程度に小さく開く程度だ。
 これなら外から狙撃されても、ガラスが割れることはないだろう。
 私が湯呑みで緑茶を啜っていると、室内の電話が鳴った。

 愛原:「電話だ」

 さすがに室内の電話は今風の固定電話で、八王子中央ホテルにあるような黒電話ではなかった。
 着信音もジリジリベルではなく、電子音だ。

 愛原:「はい、もしもし?」
 職員:「愛原さんですか?」
 愛原:「はい、そうです」
 職員:「私、地下の研究施設の者です。本日はよろしくお願い致します」
 愛原:「こちらこそ、よろしくお願い致します」
 職員:「準備ができましたら、エレベーターで地下2階までお越しください。愛原リサさんと斉藤絵恋さんにあっては、動き易い服装にされることをお勧めします」
 愛原:「あ、そうですか。それでは、着替えるのに少しお時間をください」
 職員:「分かりました。10時までに来て頂ければ結構ですので」
 愛原:「10時までですね。分かりました。……はい。それじゃ、失礼致します」

 私は電話を切った。

 愛原:「地下から呼び出しだぞ。リサと絵恋さんは、動き易い服装に着替えた方がいいらしい。多分、色々と検査をするからだろう。持って来てるよな?」
 リサ:「もちろん」
 絵恋:「はい」
 愛原:「じゃ、そっちで着替えて来て」

 私は引き戸の向こう側を指さした。
 引き戸の向こう側は、2段ベッドが1つある。
 そちらがリサと絵恋さんの寝床だ。
 この座卓などがあるスペースを挟んで、反対側にも同じ引き戸がある。
 それを開けると、今度は私と高橋の寝床である2段ベッドがあるという寸法だ。
 ベッドルームは四畳半くらいのスペース、このリビングと言って良いのかどうか分からないが、座卓やテレビのある間は8畳ほどあった。
 どうしてこのような造りになっているのか分からないが、男女グループが1つの部屋に泊まろうとする時、男女別で寝起きしたり着替えたりできるので、その為かと思った。
 しばらくして、2人の少女は学校のジャージに着替えて来た。
 夏なので、上は半袖Tシャツに、下はグリーンのハーフパンツである。

 リサ:「お待たせ」
 絵恋:「着替えは置いて行っていいんでしょうか?」
 愛原:「いいみたいだよ。貴重品だけ持って行けばいいらしい」
 リサ:「なるほど」

 まあ、財布とスマホってことになるか。
 あとは忘れて行けないカードキー。
 絵恋さんはポーチを持って来た。
 リサは手ぶら。
 もっとも、ハーフパンツのポケットが膨らんでいるので、そこに色々と入れているのだろう。
 部屋を出て、カードキーでドアを施錠する。
 そしてその足でエレベーターに向かった。
 このエレベーターは少し変わっていて、L字型になっているのである。
 よく駅のエレベーターとか、福祉施設などで見かけるあのタイプだ。
 変わっているのは、防犯窓が反対側のドアには付いていないこと。
 地下階へ行くボタンが、反対側のドア横にだけ付いているということだ。
 そして、そのボタンの下にはカードリーダーがあって、カードキーをそこに当てないとボタンを押しても反応しない。
 駅などにあるのは比較的新しいタイプだが、ここにあるのは案外古いタイプだということだ。
 表向きには車椅子などのバリアフリーに対応する為であろが、実際は地下へアクセスする為のエレベーターということだ。
 その証拠に、地下階のボタンを押すと、音声案内が無くなった。

 高橋:「何か、荷物用のエレベーターっぽいですね」
 愛原:「確かにな」

 八王子中央ホテルのは古めかしい機種でも、一応宿泊客用の為か、床がカーペット敷であったが、こちらは黒い金属製であった。
 滑り止めの為に凹凸が付けられている。

 リサ:「地下やだな……」

 エレベーターのドアが閉まって降下すると、リサはそう呟いた。
 1階と2階では開くドア側には防犯窓が付いているが、1階から下に行くとその窓の外はコンクリートの壁しか見えなくなる。
 上昇・下降のスピードは比較的ゆっくりである為、油圧式で稼働しているのだろうと推測する。
 指定された通り地下2階へ着くと、ビーッというブザー音が鳴った。
 八王子中央ホテルでは、ドアが閉まる時にブザーが鳴ったが、こちらでは開く時にブザーが鳴るようだ。

〔ようこそ、お越しくださいました。訪問を歓迎します〕

 重々しい金属製のドアが開くと、その先は見覚えのある光景が広がっていた。
 見た目はまるで病院。
 そしてその受付では、先ほどの電話と同じ声の女性職員がいた。

 職員:「おはようございます。本日はよろしくお願い致します」
 愛原:「あ、どうも。よろしくお願い致します」
 職員:「所内ではリストタグを着けて頂きます」
 愛原:「あ、なるほど。カードキー式から、リストタグ式にしたんだってね」
 職員:「さようでございます」

 職員は事務職員なのか、白衣ではなく、普通の事務服を着ていた。
 私達は緑色のタグの付いたリストタグをもらった。
 緑色はビジター用だという。
 所内でもアクセス権限が一番弱く、開けられるドアの数が1番少ない。
 この職員のは一般職員用ということで、青色であった。
 この他に管理職が着けられる上級職員用と、所長クラスが着ける『マスター』があるという。

 職員:「まずは今回、どのような流れで検査が行われるのか御説明させて頂きますので、会議室までご案内致します」
 愛原:「よろしくお願いします」

 私は受付の女性職員に付いて行った。
 途中あった部屋の入口を見ると、どの色のタグで開けられるのか、色の付いたラベルが貼ってあった。
 案内された会議室には緑色のラベルだけが無かったので、一般職員以上の者しか開けられない(入れない)のだと分かる。
 まあ、訪問者が単独で会議室に入ることはないか。
 もし仮に単独で入ることになったとしても、会議の始まる時間までは扉は開放されるに違いない。

 職員:「因みにの皆さんにお渡ししたリストタグは、お手洗いやリフレッシュルームなどの共用エリアくらいしかアクセスできません」
 高橋:「なにっ?トイレに行くのにも、鍵を開けないといけないのか?」
 職員:「ここはそれだけ機密事項を扱っている所なのです。ですので皆さん、どうかここでのことは御内密にお願いします」
 愛原:「ご安心ください。我々探偵業者には守秘義務がありますので」
 職員:「よろしくお願いします。それでは、席にお着き頂きまして、本日の検査担当者の御紹介から始めさせて頂きたいと思います」

 こりゃ本格的だな。
 目的は……リサの体内に宿っているという新種の寄生虫か。
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“私立探偵 愛原学” 「藤野研修センター」

2021-09-29 16:02:30 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月29日08:37.天候:曇 神奈川県相模原市緑区 JR藤野駅]

 高尾駅から先は様相が一変し、一気に雰囲気が山岳ローカル線と化すという話は前回藤野に電車で行った時も語ったと思う。
 なので、ここでそういう話は省略したい。
 大正時代には既に開通していた区間であり、無限列車もこの路線を通ったのかと思うと感慨深いものがあり、とても歴史の深い所である。
 山岳区間に入るということはトンネルの多い区間でもあるということで、長短様々な長さのトンネルを通過することになる。
 尚、野岩鉄道線やJR飯田線などのように、トンネルの中に駅やホームがあるという事は無い。
 よくアニメや映画なんかでは、こういうトンネルの多い所を走ると、そこで何か展開が待っているというのがセオリーで、私も敵側のBOWが襲撃してくるんじゃないかと思って警戒していたが、そんなことはなかった。

〔「まもなく藤野、藤野です。お出口は、右側です。電車のドアは、自動で開きます。ドア付近にお立ちのお客様、開くドアにご注意ください」〕

 中央快速線内では自動で開閉するドアも、高尾以西は半自動ドアになる。
 ドア横に開閉ボタンが付いているのは、そこで使う為だ。
 しかし今は保温効果よりもコロナ禍による換気促進が優先されている為、半自動運用を中止しているもよう。
 JR東日本管内では、ワンマン列車を除いてそうなっている。

 愛原:「案外大丈夫だったな」
 高橋:「そうですね。意外とトンネルの中で、リサみたいな化け物が襲って来るかもと思っていたんスけど……」
 リサ:「私みたいな、って何よ?」
 高橋:「リサ・トレヴァーの亜流みたいなヤツだよ。最近見ないっスね」
 愛原:「そうだな。きっと、BSAAや“青いアンブレラ”が根こそぎ退治してくれてるんだろう」

 そう考えると、いかにリサが特別扱いされているのかが分かる。
 何しろ……。

 愛原:「あれじゃ、テロ組織も襲って来れんよ」
 高橋:「確かに」

 トンネルを出ると、BSAAのヘリコプターが低空飛行していた。
 私達の護衛の為に追っているのだとすぐに分かる。
 テロリストが現れようものなら、ヘリからの機銃掃射からの特殊部隊の降下作戦開始といったところか。

〔ふじの~、藤野~。ご乗車、ありがとうございます〕

 久しぶりに藤野駅のホームに降り立った。
 平場の少ない所に駅を作った為、ホームは狭い。
 有効長を確保する為に、島式ホームでありながら、上下線を少しズラして互い違いにしているのだとか。

〔1番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の列車を、ご利用ください〕

 電車は発車メロディを1コーラスも鳴らすことなく、すぐに発車していった。
 帰りはボックスシートの電車にでも乗れればいいかなと思うが、もし仮にそれに乗れたとしても、そこに座れるかどうかまでは分からない。

 リサ:「先生、残り少なくなった」

 自動改札機をICカードで通過したリサがそう言った。

 愛原:「ああ、分かった。後でチャージして……あ、いや、今ここでチャージしてあげるよ」
 リサ:「おー!」

 改札口を出ると、券売機に行ってリサのカードにチャージしてあげた。

 リサ:「ありがとう」
 愛原:「いやいや……。てか、俺もチャージしておくか」

 この時、そうしておいて良かったと私は後で実感することになる。
 駅を出て広場に出た。

 高橋:「ここからどうするんですか?」
 愛原:「タクシーで行こう」

 私は駅前のタクシー乗り場に止まっているタクシーに乗ることにした。
 黒塗りのプリウスが停車していた。
 高橋は助手席に乗ってもらい、私達はリアシートに乗る。

 愛原:「国家公務員特別研修センターまでお願いします」
 運転手:「はい、分かりました」

 車は静かに走り出した。
 プリウスだと後ろはちょっと狭い。
 少女2人だからいいが、大の大人が3人だと窮屈だろう。
 それでもリサとは、くっつく形に……。
 いや、待て。
 助手席の後ろに座る私にリサがくっつき、そのリサに絵恋さんがくっつくような座り方をしていないか?
 全く。
 因みに天気は八王子市内よりも曇っており、今にも降り出しそうである。
 直射日光は避けられているのだが、その分蒸し暑い。
 車内のクーラーの風が心地良い。
 このタクシーを追ってくる車がいるのかどうか分からないが、少なくともヘリが追尾しているのだけは分かった。
 あのヘリは、まさか研修センターに着陸するのではないかとさえ思う。

[同日09:00.天候:曇 同区内 国家公務員特別研修センター]

 運転手:「正門前でいいですか?」
 愛原:「あ、はい。そこでお願いします」

 堅く門扉の閉じられた正門前にタクシーが止まった。
 料金はタクシーチケットで払う。
 タクシーチケットは同じ種類ではなく、いくつかの種類があって使い分けられるようになっている。
 タクシー会社ごとに使えるチケット、そうでないチケットがあるからだろう。
 その間に高橋が降りて、トランクを開けてもらい、そこから荷物を降ろしていた。

 運転手:「ありがとうございました」
 愛原:「どうもお世話さま」

 最後に領収書を受け取ってタクシーを降りた。
 この辺りはタクシーアプリでタクシーが呼べるかどうか不明なので、地元のタクシー会社の連絡先が書かれている領収書は保管しておいた方が良い。

 高橋:「先生、ピンポンっスか?」
 愛原:「そうだ」

 門扉は堅く閉ざされているので、その横の通用口から入る形になる。
 もちろんそれも施錠されているので、横のインターホンを押す形となる。

 守衛A:「はい、守衛所です」
 愛原:「おはようございます。東京から参りました愛原と申します」
 守衛A:「愛原さんですか。お連れの方の名前は?」
 愛原:「高橋正義、愛原リサ、斉藤絵恋です」
 守衛A:「はい、確認できました」

 頭上の監視カメラが遠隔操作で動いたのが分かった。
 私達をカメラで確認しているらしい。

 高橋:「まるでムショの入口だな」

 高橋がそう呟いた。
 そして、電気錠がカチッと開く音がした。

 守衛A:「どうぞ、お入りください」
 愛原:「失礼します」

 私は開錠されたドアを開けて中に入った。
 高橋達も後ろから付いてくる。
 ドアを閉めてまた鍵が掛けられた時、何だかホッとした。
 いつの間にかヘリコプターも去って行った。
 ここまで来れば、もう安全なのだろう。

 守衛B:「おはようございます!それでは、こちらで入構手続きを」

 守衛所から、水色の半袖シャツに制帽を被った守衛がにこやかに出て来た。
 彼らは直接この研修センターで雇用されているので国家公務員であり、警備会社から派遣された警備員ではない。

 愛原:「はい」

 私達はもう何度かここに出入りしているので、要領については既に分かっていた。
 所定の書類に記入し、手荷物検査を受けて入ることになる。
 前と変わったのは、手荷物検査にX線検査が導入されたこと。

 守衛C:「これは許可されたものですね。これはこちらでお預かりします」

 所持している銃については、一時没収となった。

 守衛B:「それではご案内します」

 私達は守衛さんについて、敷地の奥へと向かう。
 いつもなら宿泊施設のある本館へと向かうのだが、今回は違った。

 高橋:「今日は本館じゃねーのかよ」
 守衛B:「ええ。今回は別館になります」
 愛原:「別館……」

 前にリサと栗原蓮華さんが対決した体育館を挟んで、その別館はあった。
 見た目には本館よりも新しい。
 本館が3階建てなのに対し、こちらは2階建てだった。
 こちらにはフロントが無い代わりに、エントランスのドアはカードキーで開けるタイプであった。

 守衛B:「あちらがエレベーターです。地下の研究施設へは、あちらから向かって頂きます」

 こちらにもエレベーターがあった。
 試しにエレベーターに乗って、2階に行ってみることにする。

 守衛B:「1階と2階の間はセキュリティカード無しで行き来できます。地下の施設に行く時のみ、セキュリティカードが必要です」

 ここまで来ると、今度は緊張してくる。
 テロリストからの安全は確保されている代わりに、自由度はほぼ軟禁状態であるからだ。

 守衛B:「呼び出しがあるまで、部屋でお待ちください」
 愛原:「分かりました。ありがとうございます」

 部屋の造りは本館とは異なっていた。
 木製の2段ベッドという所は同じだが、一部屋が二間に区切られている。
 私と高橋、リサと絵恋に別れて寝られようになっているということか。
 取りあえずは荷物を置いて、待機することにした。
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“私立探偵 愛原学” 「八王子を発つ」

2021-09-27 19:48:08 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月29日07:00.天候:曇 東京都八王子市某所 八王子中央ホテル1F・食堂]

 発砲事件から一夜明けて、私達は起床した。
 昨夜はあまり眠れない夜を過ごしてしまった。
 幸いホテルが襲撃されることはなく、無事に夜をやり過ごせた。
 4人で食堂に着くと、何となくホッとする。

 スタッフ:「おはようございます」
 愛原:「4名です」

 私はスタッフに朝食券4枚を渡した。

 スタッフ:「それでは、こちらへどうぞ」

 私達は4人用のテーブル席へ案内された。
 ホテルの宿泊者専用食堂のようで、他に先客はいない。
 テレビが設置されていて、それでNHKが点けられていた。
 当然ながら、昨夜の発砲事件が報道されている。
 このホテルの近くで中継も行われているようだ。

 高橋:「俺達、藤野に向かっていいんスかね?」
 愛原:「善場主任からは何も連絡は無いんだし、いいんじゃない?」

 逆に、ガッツリ厳しい出入管理がされている研修センターの方が安全のような気がした。

 高橋:「はあ……」

 和定食が運ばれてくる。
 焼き鮭が一切れに半熟卵、きんぴらごぼうの入った小鉢に漬物の小皿。
 それに御飯と味噌汁と焼きのりが付く。
 典型的な和定食だが、リサには物足りない量かもしれない。
 案の定、リサが真っ先にペロリと平らげてしまった。
 魚にあっては、骨1つ残さずだ。
 おひつに入った御飯を何杯もお代わりして食べる。
 見かねた女将さんらしき女性が、『どうせお米が余っているので』と、新たなおひつを持って来てくれた。
 逆に食欲が無いのが絵恋さん。
 リサを抱き枕代わりにしても眠れず、銃撃戦の恐怖が残っているからだ。
 リサはそんな絵恋さんの残した物も平らげてしまった。
 マグナムすらロクに効かないリサにとっては、ハンドガン程度の銃弾は小石が当たる程度のダメージなのだ。
 ハンドガンというのは、昨夜の銃撃戦、銃声的にハンドガンが使われたのではないかと思ったからだ。
 嫌だな。
 今や私も、銃声だけでどんな銃が使われたのか判断できるようになってしまった。
 そのハンドガン自体は、実は今、私も高橋も持っている。
 もちろん、ちゃんと当局からの許可済みだ。
 使用目的も、『生物兵器災害(所謂バイオハザード)に際し、暴徒等からの襲撃に対してのみ可』となっている。
 もちろんこの『暴徒等』というのは、ゾンビやクリーチャーも含まれている。

 愛原:「八王子発8時16分の電車に乗るから、食べたらすぐ出られるようにしておいて欲しい」

 と、私は3人に言った。

[同日08:14.天候:曇 同市内 JR八王子駅→中央線527M列車先頭車内]

 朝食後にホテルをチェックアウトした。
 改めてオーナーには、藤野からの帰りに寄るので、その時までに白井画廊の詳細を調べてもらうようにお願いした。
 途中、駅までの道は物々しい雰囲気に満ちていた。
 あちこちに警察の規制線が張られ、そこかしこに警察官が立っている。
 その隙間を縫うようにしてマスコミがいた。
 中には、テレビで見たことのあるリポーターもいたような気がした。
 因みに警察側は警察官が2人射殺され、3人が重軽傷。
 警察側はテロリストを2人射殺したという内容である。
 生きて逮捕したテロリストはおらず、結局テロリストは何人いたのか不明であるという。
 今は射殺した2人のテロリストの遺体を押収して、身元の特定を進めているとのことだ。

〔おはようございます。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の4番線の列車は、8時16分発、普通、甲府行きです。この列車は3つドア、6両です。……〕

 駅前で銃撃戦が行われても、駅構内はいつもの通りだった。
 いつもの朝ラッシュで賑わっている。
 東京都心へ向かう上りホームが混雑していて、私達が電車を待っている下りホームはガラガラだった。

〔まもなく4番線に、普通、甲府行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。この列車は3つドア、6両です。……〕

 ホームに接近放送が流れる。
 電車はこの駅始発ではなく、隣の豊田駅始発である。
 そこには豊田車両センターがあり、そこに留置された車両が出区する関係である。
 しばらくすると、かつて高崎線等で使用された中距離電車211系がやってきた。
 JR東日本では数少なくなった国鉄型車両である。
 6両編成全ての車両がロングシート車であった。

〔はちおうじ~、八王子~。ご乗車、ありがとうございます。次は、西八王子に止まります〕

 

 緑色のモケットに張り替えられた座席に座る。
 3ドア車のロングシートなので、本当に長い座席である。

〔「8時16分発、普通列車の甲府行きです。終点、甲府までの各駅に停車致します。発車までご乗車になり、お待ちください」〕

 一応、電車に乗る前、私は善場主任に確認のメールを送ってみた。
 主任の返事は、『安全が確保できるようなら、向かってください』とのことである。
 つまり、特に危険性が無ければ向かって良いということだ。
 実際、今のところは何も危険は発生していない。
 なので、向かわなくてはならないということだ。
 車内では終始無言であった。
 しばらくして、ホームから陽気な発車メロディが聞こえて来た。
 八王子駅オリジナル“夕焼け小焼け”である。
 朝っぱらからそういう発車メロディが流れるのはどうかと思うが、これは“夕焼け小焼け”の作者が八王子市出身だからとのこと。
 今は運行されていないが、地元のバス会社ではボンネットバス“夕焼け小焼け号”があったほどだ。

〔「8時16分発、普通列車の甲府行き、まもなく発車致します」〕
〔4番線の、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 国鉄型ならではの、エアーの抜ける音がしてドアが閉まる。
 そして、インバータ制御ではないモーター音が響いて来た。

〔「お待たせ致しました。ご乗車ありがとうございます。この電車は中央線、普通列車の甲府行きです。終点、甲府までの各駅に止まります。次は西八王子、西八王子です。……」〕

 自動放送は無く、車掌が肉声放送を行う。

 絵恋:「電車に乗ってしまえば、安全ですか?」

 絵恋さんが不安そうに私に聞いて来た。

 愛原:「……ああ、そうだな」

 私はそう答えた。
 本当はまだ安全・安心ではない。
 私もヘタに窓から顔を出して撃たれてもつまらないので、昨夜は窓から顔を出すことはなかった。
 しかし一応、カーテンの隙間から様子は見てみた。
 もちろん部屋の照明は消したままだ。
 点けると、外からそこの部屋の住人が起きているのだと分かってしまう。
 テロリストの1人は、相手が警察官(私が見たのは私服警察官)相手に怯む事無く銃を発砲していた姿だった。
 つまり、警察を恐れないテロリストなら、この電車内で銃撃事件を起こす事など容易いだろうと思う。
 幸か不幸か、この電車の座席は全てロングシートである。
 クロスシートと違って死角は少ない。
 しかしその反面、隠れる場所も少ないということになる。
 中距離電車ということもあって、先頭車と最後尾車にはトイレが付いているが、そこくらいだろう。
 今のところこの車両に怪しい人物はいないが、しかしだからといって油断できないのが実情だ。
 他の2人はいいが、絵恋さんには余計な不安を与えたくないので、あえてウソを言ってしまった。
 高橋もリサも私のウソには気づいているようだが、空気を読んだのか、特にツッコミを入れて来ることはなかった。
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“愛原リサの日常” 「夜中のテロ事件」

2021-09-27 15:46:54 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月29日01:32.天候:曇 東京都八王子市某所 八王子中央ホテル4F・リサと絵恋の部屋]

 リサ:「ん……」

 夜中にふとリサは目が覚めた。
 室内にはエアコンが稼働する音と、室内のアナログ時計が秒針を動かす音しか聞こえない。
 八王子駅近くの場末にあるホテルとはいえ、案外静かなものだった。

 リサ:(トイレ……)

 リサの布団に半分侵入し、安心しきった顔で寝込む絵恋を押しのけるようにして布団から這い出る。
 2人とも浴衣を着ていた。
 年相応の体つきをしている絵恋はまだしも、それより小柄なリサには、浴衣を引きずる形になってしまう。
 浴衣を持ち上げるようにしてトイレに向かった。
 照明を点けると、その眩しさに目を細める。
 BOWなら別に照明を点けなくてもいいのだが、こういう時に限って普通の人間と遭遇し、相手に不必要な恐怖を与えてしまうのである。
 東京中央学園には、いくつもの怪談話が伝わっているが、その正体が実はリサというオチもいくつかあるくらいだ。

 リサ:「うふぅ……」

 さすがにビジネスホテルとあって、トイレは洋式ではあるが、古いせいか温水洗浄は付いていない。
 リサは仕方なく、用足し後の後始末を最初からトイレットペーパーでしようとした。

 リサ:「!?」

 リサが外からの物音に気付いたのは、2回目に拭いた後。
 その音というのは銃声であった。

 リサ:「まさか!?」

 リサは急いでショーツを穿いて水を流すと、トイレから出た。

 絵恋:「なに……?今の……」

 今の音で絵恋も起きたようだ。
 寝惚け眼で上半身を少し起こしている。

 リサ:「分かんないけど、多分銃声。外から聞こえた」
 絵恋:「銃声?!」

 リサの言葉にも、絵恋は完全に上半身を起こした。

 リサ:「もしかしたら、テロリストかもしれない。サイトーはここを動かないで」
 絵恋:「り、リサさんは?」
 リサ:「テロリストの狙いは私だという。サイトーに迷惑は掛けられないから、私は部屋を出る」
 絵恋:「そんな……!」

 リサが浴衣を脱いで、着替えようとした時だった。

 リサ:「!?」

 再び外から銃声がしたと同時に、室内の電話が掛かって来た。
 今時珍しい、ダイヤル式の黒電話であった。
 リサは浴衣を脱いでしまっていた。
 薄暗い室内に、スポブラだけ着けたリサの半裸が絵恋の目に飛び込む。
 本当なら萌えるところであるが、三度の銃声でそんな気持ちは消え去った。

 絵恋:「わ、私が出る」

 絵恋が代わりに電話に出た。

 絵恋:「も、もしもし?」
 愛原:「絵恋さんか?」
 絵恋:「あ、愛原先生」

 相手は愛原であった。
 内線を掛けて来たのだ。

 愛原:「そこにリサはいるか?」
 絵恋:「あ、はい」
 愛原:「ちょっと代わってくれ」
 絵恋:「はい。リサさん、愛原先生から」

 リサは下着姿のまま電話に出た。
 下は白いショーツである。
 愛原や高橋が黒いシャツやボクサーを穿いているので、リサも真似して黒ブラや黒ショーツにしていたのだが、愛原から、『もっと明るい色の下着を着けるように』言われたので、今は気分や生理用以外では明るい色の下着を着けるようにしている。
 絵恋にとっては鼻血ものの光景のはずだが、さすがに今はそんな気分ではなかった。

 絵恋:「もしもし?」
 愛原:「リサか?今の銃声聞いたか?」
 絵恋:「うん、聞いた」

 すると外から男性数名の怒号と、パトカーのサイレンの音も聞こえて来る。

 愛原:「もしかしたら、ついにテロリストが動いたのかもしれん。で、警察もそれで動いたみたいだ。もしかしたら、銃撃戦になるかもしれんから、絶対に窓を開けるなよ?カーテンも開けちゃダメだ」
 リサ:「分かった。でも、私は部屋を移動した方がいい?テロリストの狙いは私なんでしょ?このままだと、サイトーを巻き込んじゃう」
 愛原:「それは大丈夫だろう。今、高橋がホテル内の様子を見て回っているが、特にテロリストがホテルに侵入したわけではないみたいだ。それに今、ホテルの入口近くには警察が張ってる。多分、その警察官達がやられない限り、テロリストが襲って来るとは思えない」
 リサ:「なるほど」
 愛原:「だからリサも、部屋から出ないように。もし状況が悪くなったら、また電話する」
 リサ:「う、うん」

 パトカーのサイレンの音は何重にも渡って、駅前繁華街に響き渡った。
 パトカーだけでなく、救急車のサイレンも聞こえて来る。

 リサ:「サイトー、部屋から出ちゃダメだって。窓も開けちゃダメ」
 絵恋:「当然ね。むしろこういうテロの場合、ホテルの中の方が安全だもの」
 リサ:「何で知ってるの?」
 絵恋:「こう見えても小学生の時、南米に海外旅行に行ったら、極左テロに遭ったことがあったから」
 リサ:「凄い経験だ」

 リサは制服ではなく、持って来た白いTシャツに黒いスパッツを穿いた。
 いざとなったら、動き易い服装の方がいいと思ったからである。

 リサ:「よし、もう一回寝よう」
 絵恋:「ええっ!?この状況で?」
 リサ:「だって今は何もすることが無い。何かあったら、また愛原先生が電話してくれることになっている。だったら寝ててもまた起きられるでしょ?」
 絵恋:「さすがリサさんね……。じゃあ、私も着替えるね」

 絵恋もまた同じ服装をした。
 因みに下に穿いているミニ丈のスパッツは、スカートの下に穿くものである。

 絵恋:「な、何かあったら起こしてね」
 リサ:「分かってる」

 布団に入ろうとした時、今度は最も大きく銃声が聞こえた。

 リサ:「どうやら、もうこの近くにいるらしい」
 絵恋:「ひぃっ!」

 絵恋はリサに抱き付いた。

 警察官A:「おとなしく銃を捨てろ!」
 警察官B:「観念しろ!」

 という声がすぐ近くからした。
 というか、もうホテルの真ん前くらい。
 警察が張っているというのに、テロリストは無謀にもホテルへの侵入を試みたのだろうか。

 リサ:(まあいいや。私は撃たれても死なないし……)
 絵恋:「ひぅ……!」

 リサにしがみつくようにしてガタガタと震える絵恋の方が、どちらかというと自然な反応だろう。

 リサ:「サイトー」
 絵恋:「な、なに……?」
 リサ:「トイレに行って来たら?」
 絵恋:「えぇ?」
 リサ:「スッキリさせた方が気分も少しは落ち着く」
 絵恋:「で、でも……」
 リサ:「大丈夫。トイレはすぐそこだし、それくらいで外にいるテロリストが気づくとは思えない」
 絵恋:「で、でも……化け物の中には、通気口のダクトを通って追い掛けてくるヤツとかもいるんでしょ?」
 リサ:「ああ。でも、そんなのがいたら、すぐに私は気づく。今のところそんな奴はいない。だから心配しなくていいよ。私はここにいるし……」
 絵恋:「う、うん……」

 絵恋は恐る恐る起き上がると、部屋のトイレに向かった。
 しばらくして戻って来ると、確かに若干落ち着いていた。

 絵恋:「何だかリサさんの言う通りね。安心というよりかは、余裕が出て来たというか……?」
 リサ:「でしょ?愛原先生の受け売りなの。『びっくりしてオシッコを漏らす』→『オシッコを漏らすほどの尿が溜まっている』→『先にそれを出してしまおう』ってこと」
 絵恋:「そ、そうなのね。さすがは愛原先生だわ」

 絵恋は再びリサの隣に入ると、リサの手を握った。
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