報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「ワンスターホテルでの一夜」

2020-04-30 20:26:11 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月25日20:00.天候:晴 東京都江東区森下 レストラン“マジックスター”→ワンスターホテル]

 キャサリン:「申し訳ありません。そろそろ閉店のお時間ですので……」

 レストランのオーナーで、ダンテ一門の魔道士であるキャサリンが声を掛けて来た。
 元はポーリン組にいて、階級が上がったので独立したのである。

 稲生:「あっ、もうそんな時間ですか。では先生、そろそろ行きましょう」
 イリーナ:「お会計よろしく」
 稲生:「分かりました」

 稲生はイリーナからプラチナカードを受け取った。

 イリーナ:「マリア。飲み過ぎた。肩貸して」
 マリア:「だから言ったじゃないですか、もう!」

 マリアは仕方なくといった感じでイリーナに肩を貸した。
 そして、支払いをしている稲生より先にレストランを出た。

 イリーナ:「私はこのまま酔っ払って朝まで寝てるから。あなたがどのタイミングで寝るかは自由だからね。もち、『どこかへ遊びに行く』のも……」
 マリア:「お気遣い、ありがとうございます」

 と、そこへ稲生が慌ててレストランから出て来た。

 稲生:「先生!これ、期限切れたカードですよ!?」
 イリーナ:「うへっ!?」
 マリア:「切れたカードはちゃんと処分しないとダメじゃないですか」
 イリーナ:「あ……多分ローブの中だった。悪いけどマリア、立て替えといて」
 キャサリン:「宿泊者の方でしたら、チェックアウト時にホテルのフロントでお支払いして頂くこともできますよ?」
 イリーナ:「あ、その手があったか!」
 キャサリン:「お部屋番号だけ控えさせて頂けますか?」
 マリア:「B100号室です」
 キャサリン:「それはエレーナの部屋よ」
 稲生:「マリアさん、エレーナが知ったらキレますよ?」
 マリア:「冗談です。501号室ですよ」
 キャサリン:「はい。ありがとうございました」

 こうして、やっと会計が終わった。

 イリーナ:「ローブの中に入ってるはず……」
 マリア:「そうでないと困りますよ」

 それからロビーに向かう。

 稲生:「明日の朝も、あのレストランで食べるんですよね」
 イリーナ:「今度はカードを忘れないようにしなきゃ」
 マリア:「お願いしますよ」

 ロビーに行くと、リリアンヌがいた。

 リリアンヌ:「フヒヒヒ……。皆さん、こんばんはです」

 かつては酷い吃音証であったが、今はだいぶ治ったようだ。
 これも偏に稲生のおかげなのと、鈴木のおかげだと言われている。

 稲生:「リリィ。どうしたんだ?」
 リリィ:「フヒ?週末は寮を出て、エレーナ先輩の所に泊まらせて頂いているんです」
 稲生:「そういえばそうだったな」
 リリィ:「ムッシュ鈴木が泊まっているというので、またゲームやらせてもらおうかと……。い、色々と……昔のゲームのリメイクとか出たみたいなんでぇ……」
 稲生:「あー、そういえばそうだな。“バイオハザード”とかFFとかな」
 リリィ:「“バイオハザード探偵 愛原学”をやってみたいです……フフフ……」
 稲生:「いや、それ多分ゲームのタイトルじゃない!」
 マリア:「てか、鈴木が泊まってるのかよ……」
 リリィ:「フヒッ!?そ、そそ、そういえば……稲生先輩も、だいぶゲームが上手いとムッシュ鈴木に聞きました」
 稲生:「ヒマな時にやり込んでるだけだよ。何か、あれが意外な魔法の修行になるんだって。よく分かんないけど……」
 リリィ:「今度、是非一緒にゲームやってください……フヒヒヒ……」
 イリーナ:「おお~、マリア?また新たなライバルが現れたわよ~?」
 マリア:「何ですか、それは!リリィは鈴木とゲームやってろ!」
 リリィ:「フヒッ!?は、はいー」

 マリアはエレベーターのボタンを押した。

 マリア:「だいたい、リリィはまだローティーンなんだから、勇太が靡くわけないじゃないですか!」
 イリーナ:「でも勇太君の趣味的には、『小さい女の子』が好きなんでしょう?だからマリアに一目惚れしてくれたわけで……」
 マリア:「いや、私そこまで小さくないですよ!?」
 稲生:「まあまあまあ」

 やってきたエレベーターに乗り込む。
 稲生が代わりに5階のボタンを押した。
 リリィが乗って来ることはなかった。
 恐らくエレーナの部屋に向かうのだろう。

 稲生:「でもマリアさん、少し体は成長しましたよね?明らかに背は伸びました」
 マリア:「この前測ったら、160cmになった。昔着てた服が小さくなって着れなくなったよ」
 イリーナ:「下着もね」
 稲生:(確かにマリア、少し胸が大きくなったかな……)

 エレベーターの中にある鏡にだけ、マリアの契約悪魔ベルフェゴールが映っている。
 それだけでホラーなものだが、ここの魔道士達は完全に慣れている。
 悪魔の力で体の成長を阻害していたのだが、その力を少し弱めたようである。
 稲生とて高身長且つ大きな体躯というわけではないが、2人並んだ時のバランスを考えたのかもしれない。

 イリーナ:「さあさあ。部屋に着いたら、私は寝るからねぇ」
 マリア:「せめて寝巻には着替えてくださいよ?」
 イリーナ:「分かってるって~」

 角部屋なので、エレベーターからは離れている。

 イリーナ:「それじゃあね、勇太君。私ゃ朝まで寝てるからね」
 稲生:「あ、はい。おやすみなさい」

 稲生は手持ちのルームキーを差して、502号室に入った。
 デラックスシングルなので、ベッドはセミダブルである。

 稲生:「さてと、まだ時間あるな。……タブレットでネットサーフィンでもするかな。ここ、Wi-Fi入るし」

 スマホとは別にタブレットを持っている稲生。
 魔界ではこの世界との通信はできないが、それでも魔法具として役に立つのである。
 敵をスキャンして、その強さを測るとか……。
 そしてこの後、好感度の1番高い魔女が稲生の部屋を訪れるのだが、それが誰なのかは予定字数に達したので、次回へのお楽しみとさせて頂く!
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“大魔道師の弟子” 「ワンスターホテルでの一夜」

2020-04-30 11:00:51 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月25日18:00.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル→レストラン“マジックスター”]

 イリーナ:「マリア、早く髪乾かしなさい。勇太君が来ちゃうわよ」
 マリア:「はーいはい。(師匠のシャワーの時間のせいだろうが……)」

 雷雨も止んで、雲間から夕日が差し込んでいる。
 と、部屋のドアがノックされる音がした。

 イリーナ:「ほら来た。さすが日本人はドイツ人並みに時間に正確ね」
 マリア:「勇太だからじゃないですか」

 マリアはドライヤーを止めた。

 イリーナ:「ゴメンねぇ。マリアの準備が終わるまで、ちょーっと待っててね」
 稲生:「そうですか」
 イリーナ:「先にロビーで待ってていいよ」
 稲生:「分かりました」

 稲生は先にエレベーターに向かった。

 稲生:「ん?」

 乗り場にある階数表示を見ると、エレベーターが地下1階に止まっていた。
 エレーナが移動したのだろうか。
 ボタンを押すと、スーッとエレベーターが上がって来る。
 ドアが開くと、中には誰もいなかった。
 もっともこのエレベーター、マンションのそれと同様、ドアに窓が付いているタイプなので、外からでも分かるのであるが。
 ホテルにしては珍しいだろうが、他には東横インなどもそうなっている。

 オーナー:「おや?稲生さんだけですか?」

 エレベーターが1階に着くと、オーナーが話し掛けて来た。

 稲生:「マリアさん達、まだ準備しているみたいです」
 オーナー:「そうですか。お食事は“マジックスター”で?」
 稲生:「その予定です」
 オーナー:「“マジックスター”も営業時間が短縮されたので、気をつけてくださいね」
 稲生:「それは『酒類の提供は19時まで』『閉店時間は20時』というものですか?」
 オーナー:「そういうことです。もっとも、魔道士さんがご利用なる際は別にするみたいですけどね」
 稲生:「別って?」
 オーナー:「『20時以降は貸切のみ営業可』というのがあるんですよ。もっとも、コロナウィルスのせいでそういう需要も無くなり、有って無いようなものですが」
 稲生:「そういう裏技が……。いや、まあ、先生も長旅でお疲れですし、20時で引き上げると思いますけどね」
 オーナー:「それならいいのですが……」

 そんなことを話していると、エレベーターのドアが開いた。
 降りてきたのはエレーナ。
 エレベーターはまだ上に行こうとしているので、これから5階に行ってマリア達を乗せて来るのだろうか。

 エレーナ:「おっ、稲生氏。これから脱走か?」
 稲生:「何でだよ!」
 エレーナ:「うひひっw オーナー、ちょっと夕飯買って来ます」
 オーナー:「ああ。行ってらっしゃい」
 稲生:「これから僕達、そこで夕食なんだけど、一緒に食べない?」
 エレーナ:「稲生氏と2人だけなら喜んでと言いたいところだが、マリアンナが超絶反対すると思うので、今回はパスたぜ」

 エレーナは手を振って、ホテルの外に出て行った。

 オーナー:「最近のエレーナは金欠みたいで、近所のほっともっとで安いお弁当を買っているんですよ」
 稲生:「あー、確かに唐揚げ弁当とか安くて美味しいですもんね」
 オーナー:「“マジックスター”だと、どうしても一食だけで1000円は超えてしまうので」
 稲生:「あー……。でも、今回はうちの先生が全部出してくれると思いますけどね」
 オーナー:「他の組の会合にホイホイ参加はできないのでしょう。稲生さん、日蓮正宗のお寺の信徒さんでしょう?」
 稲生:「そうです。正証寺です」
 オーナー:「正証寺の信徒さんが、報恩坊さんの食事会に参加できます?」
 稲生:「あ、ムリですね」
 オーナー:「そういうことです」
 稲生:「分かりやすい例え、ありがとうございます。オーナーも詳しいですね」
 オーナー:「鈴木さんが色々教えてくれたんですよ。普段着の折伏、とか何とか……」
 稲生:「あー、一応やってるんだ、鈴木君……」

 しかしエレーナは他の組の会合にも気にせずホイホイ参加できる神経の持ち主であるから、オーナーの言葉は100%信じていない稲生だった。
 恐らくマリアとケンカになることを予想して辞退したのだろう。

 オーナー:「マリアンナさんも、もう少し外部に向かってアピールした方が良い……」
 稲生:「えっ、何ですか?オーナー」
 オーナー:「何でもありません」

 そこへエレベーターのドアが開く。
 そこからマリアとイリーナが降りて来た。

 イリーナ:「お待たせ~」
 マリア:「申し訳ない。師匠が危うくカードを無くし掛けたんで探してたんだ」
 稲生:「ええっ!?」
 イリーナ:「まあ、ちゃんと見つかったから。お腹空いたでしょ?早いとこ食べに行こうね」
 稲生:「は、はい」

 レストランはテナントとして入居しているが、ホテルの中からも行くことができる。
 その廊下の途中に貸会議室や共用トイレ、コインランドリー、自販機コーナーがあるわけだ。
 エレーナの部屋にあるコインランドリーは、そこで使われていたものの中古品である。
 今はエレーナ専用というわけだ(たまに泊まりに来る後輩、リリアンヌも使うことがある)。

 オーナー:(ダンテ一門の魔道士さん達は、概して恋愛下手が多い。何気にちょっと……恋愛指南書の冊子でも置いてみようかな)

 オーナーはチラッとロビーにあるマガジンラックを見た。
 観光客向けのパンフレットとか入れてあるのだが、そこにさり気無く入れておこうか迷ったオーナーであった。

 オーナー:(ライバル出現の時は修羅剥き出しにするのではなく、強めに『私の彼氏です』アピールの方が効くんだよなぁ……。それで、エレーナがどういう反応をするか……あ)

 さすが長年、エレーナを使って来たオーナー。
 オチが読めたようだ。

 オーナー:(私から口を出すのはやめておこう。体が持たんよ、きっと……)

[同日18:30.天候:晴 レストラン“マジックスター”]

 マリア:「……ックシュ!」

 マリアは3回ほどくしゃみをした。

 稲生:「ま、マリアさん、まさか……!?」
 マリア:「違う。ウィルスじゃない。誰か私の噂してたっぽい」
 イリーナ:「まさかのマリアが『彼氏持ち』になっちゃったものだから、噂が絶えないのよ」
 マリア:「まさかのって何ですか!まさかのって!……あ、いや、そうかもしれませんけど……」
 イリーナ:「分かればよろしい。ワインのお代わりちょうだい」
 ウェイトレス:「かしこまりました」
 マリア:「師匠、飲み過ぎですよ」
 イリーナ:「大丈夫よ。ここの支払いは私が持つから」
 マリア:「そういう問題じゃありません」
 イリーナ:「赤ワインにはポリフェノールがたっぷり入っていて、体にいいのよ」
 マリア:「それ以上のアルコール摂取が体に悪いと言ってるんです」

 厳しいながらも、一応は師匠の体を気遣う一番弟子マリア。
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“大魔道師の弟子” 「ワンスターホテルで過ごす」

2020-04-29 19:53:07 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月25日16:35.天候:曇 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 エレーナ:「ワンスターホテルへようこそ!……だぜ」
 稲生:「雨が降る前に到着できて良かった」
 マリア:「ていうか師匠、“マジックスター”開いてますよ?そっちでいいんじゃないですか?」
 イリーナ:「それもそうね。でも、雨が降って来る方が先よ」
 マリア:「はあ……」
 エレーナ:「オーナー、ただいまですー」
 オーナー:「お帰り。……あ、いらっしゃいませ」
 稲生:「こんにちは。予約していた稲生です」
 オーナー:「お待ちしておりました。それでは、こちらに御記入を」

 稲生、慣れた様子で宿泊者カードにペンを走らせる。

 オーナー:「ありがとうございます。それではお部屋の方ですが、デラックスツインとデラックスシングルを御用意させて頂きました。お支払いは……」
 イリーナ:「ダー。私のカードで」

 イリーナ、プラチナカードを差し出す。
 ブラックカードも持っているはずだが、伝家の宝刀のつもりか、普段は使わない。

 オーナー:「ありがとうございます」

 暗証番号は稲生にも教えられているので、代わりに稲生が操作する。

 オーナー:「それでは、こちらの501号室がデラックスツイン、502号室がデラックスシングルになっております」
 イリーナ:「じゃ、私はシングルで……」
 稲生:「えっ!?」
 マリア:「師匠!」
 イリーナ:「……と、言いたいところなんだけど、後でダンテ先生に説明するのが面倒だから、マリアがシングルねw」
 マリア:「もっと面倒なことになると思いますが?」
 エレーナ:(『いけない女教師シリーズ』……?)

 もちろん、稲生が502号室の鍵を受け取ることになった。

 エレーナ:「それじゃ、ごゆっくりー」

 稲生達は鍵を受け取ると、エレベーターに乗って5階に上がった。
 その直後……。

 鈴木:「こんにちはー」
 オーナー:「いらっしゃいませ。……エレーナ、お客様だぞ?ご挨拶!」
 エレーナ:「よ、ようこそいらっしゃいませー
 鈴木:「全然歓迎してないな。今日もお世話になります」
 オーナー:「いつもありがとうございます。それでは、こちらに御記入を」

 鈴木も慣れた様子で宿泊者カードにペンを走らせる。

 オーナー:「ありがとうございます。お支払いは?」
 鈴木:「カードで」
 オーナー:「はい、お願いします」

 鈴木が出したカードはグリーンカード。
 同じアメリカンエキスプレスでも、イリーナのプラチナカードに比べて最下級のカードである。
 とはいうものの、年会費やらサービスやら、その価値は他のクレカのゴールドカードに相当するくらいであるという。

 オーナー:「ありがとうございます。本日はスタンダードシングルでのご利用ですね。3階の311号室を御用意致しました」
 鈴木:「よろしくお願いします」

 鈴木は鍵を受け取ると、エレベーターのボタンを押した。
 だが、ランプが点かない。

 鈴木:「あれ?ランプが点かないよ?」
 オーナー:「えっ?そんなはずは……」
 エレーナ:「ないですよねぇ?」

 エレーナが押すとちゃんとランプが点いて、5階からスーッとエレベーターが下りてくる。
 それもそのはず。
 鈴木は下のボタンを押していたからである。
 地下階は機械室と倉庫、そしてボイラー技師室を改装したエレーナの部屋があり、普段はスイッチが切ってあるので、行けないようになっているのだ。
 行くようにするには、専用のスイッチ・キーが必要である。

 エレーナ:「さあ、どうぞ。ごゆっくり」

 エレーナは3階のボタンを押すと、鈴木を促した。
 顔は笑顔だが、終始こめかみには怒筋が浮かんでいる。

 鈴木:「こりゃ厳しいな。後で遊びに行くよ?」
 エレーナ:「マジックトラップ仕掛けておきまーす」

 エレベーターのドアが閉まって、鈴木を乗せた籠が上階に向かって行った。
 それを確認すると、エレーナはエレベーター・キーを操作して地下階に行けるようにした。

 エレーナ:「オーナー、あいつの部屋、稲生氏の隣にしてやったら良かったのに……」
 鈴木:「しかし、鈴木さんは今日スタンダードシングルでのご利用だ。5階にそれが無いことくらい知ってるだろう?」
 エレーナ:「ぐぬぬ……。ここ最近あいつデラックスじゃなくなったの、何ででしょうね?」
 オーナー:「何でだろうねぇ……」

 エレベーターが3階から下りて来た。
 鈴木が乗っていないのを確認してから、エレーナは地下1階のボタンを押した。

 オーナー:「全く。日が暮れちゃうよ」

 エレーナが地下階へ下りたのを確認してから、オーナーは溜め息をついた。

 オーナー:(デラックスシングルはセミダブルベッドを使用しているので、2人での利用も可能。あわよくば、鈴木さんはエレーナを連れ込もうと画策していたのだが、最近はたまにエレーナの部屋に出向けるようになったので、その必要が無くなった……といったところか。もっとも、今日はエレーナの機嫌が悪いから無理そうだけどな)

 エレーナの機嫌が良かったり、リリアンヌの好感度が上がったりすると、鈴木が地下室に行けるようになるので、これもまた1つの『クエスト』であったのかもしれない。

[同日17:00.天候:雷雨 ワンスターホテル5F501号室]

〔「5時になりました。ニュースをお伝えします。国内での新型コロナウィルスの感染者が……」〕

 マリアが適当にテレビを点けていると、窓の外からドドーンという大きな雷鳴が聞こえて来た。

 マリア:「おっ、本当にスコールか。さすがは師匠だ」

 マリアは窓の外とバスルームを見比べた。
 イリーナはバスルームでシャワーを浴びている。
 『付着したウィルスを洗い流しなさい』とのことだ。
 ローブに付いた分は、魔法の力で消し去ることができるのだが、体に付いた分にあってはシャワーなどで流さないとダメらしい。
 マリアは部屋の電話を取った。

 マリア:「……ああ、勇太。夕食の時間だけど、1時間後にしよう。師匠の指示で、私もシャワーを使うことになったから。多分、勇太も流しておいた方がいいと思うよ。……うん。それじゃ」

 外線電話は別料金だが、内線電話は無料である。
 当たり前だ。
 電話を切ると、また雷鳴が轟き、窓ガラスに滝のような雨が流れた。

 マリア:「確かに、雨に当たる前に着いて良かった」

 マリアはそう呟くと、ダークグリーンのブレザーを脱いでハンガーに掛けた。
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“大魔道師の弟子” 「ワンスターホテルへ」

2020-04-29 11:34:44 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月25日16:19.天候:晴 都営地下鉄上野御徒町駅→都営大江戸線1613B電車先頭車内]

〔まもなく2番線に、両国、大門経由、光が丘行き電車が到着します。ドアから離れて、お待ちください〕

 ホームに下りてしばらく待っていると、接近放送が鳴り響いた。
 魔界高速電鉄が運営するアルカディアメトロの地下鉄線では、ほとんど放送が流れない。
 代わりに電車が、けたまましい警笛を鳴らしながら入線してくるわけである。
 こちらの地下鉄はホームドアもあってか、滅多に警笛を鳴らして入線してくることはない。

〔上野御徒町、上野御徒町。銀座線、日比谷線、JR線はお乗り換えです〕

 マゼンタ色に塗装された電車がやってくる。
 車内は虫食い状態で席が空いている程度。
 稲生達は着席することはなく、開かないドアの前に立っていた。
 イリーナだけブルーの優先席に座る。
 マゼンタ色はピンク色と紫色に近い色のせいか、イリーナの契約悪魔レヴィアタン(シンボルカラーはピンク)と稲生との契約が内定している悪魔アスモデウス(シンボルカラーは紫)が現れている。
 もちろん人間の姿に化けた状態で優先席の前、つまり連結器の所に立っていた。
 車外スピーカーから短い発車メロディが流れ、それから電車のドアとホームドアが閉まる。
 ホームドアが無かった頃はワンマン運転ということもあり、すぐに発車していたものだったが、ホームドアの確認が加わったせいか、発車するまでに少々のブランクが発生した。

〔次は新御徒町、新御徒町。つくばエクスプレス線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕
〔The next station is Shin-Okachimachi.E10.Please change here for the Tukuba Express line.〕
〔日蓮正宗妙縁寺、常泉寺、本行寺へおいでの方は、蔵前で都営浅草線にお乗り換えになり、本所吾妻橋でお降りください〕

 エレーナ:「なに?あの店長から魔法石もらった?」
 稲生:「うん、まあね」
 エレーナ:「あのクソ店長」
 マリア:「オマエのせいだろうが」
 エレーナ:「私も魔界で『クエスト』に参加しようかなぁ……」
 稲生:「明日、仕事でしょ?ここにいるってことは……」
 エレーナ:「明日は夜勤だぜ」
 稲生:「だろうね」
 エレーナ:「そもそも稲生氏、『クエスト』の意味分かってるか?」
 稲生:「もちろん。『RPGにおいて、ゲームマスターから提示された冒険シナリオを端的にこう呼ぶ事がある。世界観の根幹に関わような大長編では無く、物語のメインストーリーからは外れた、短めの時間で終了する外伝的なシナリオがこう呼ばれることが多い』でしょ?」
 エレーナ:「ウィキペディアのコピペご苦労だぜ。意味そのものは大体合ってるけど、ゲーム感覚でやったら最悪死ぬイベント満載だからな?」
 稲生:「えっ!?」
 マリア:「私がフォローする。今の勇太の説明から転じて、『ダンテ一門内で行われている定期テストのこと。主にアルカディアシティ内で発生している問題を魔道士として解決に導き、その報酬を得ることで得点とする』というものだよ」
 エレーナ:「そうそう。そしてその得点が多ければ多いほど、昇格の確率も格段に上がるというわけだぜ。そうすれば稲生氏も晴れて一人前だぜ」
 稲生:「なるほど。そうか」
 エレーナ:「そうなれば稲生氏は、晴れて私と結婚できるってことだぜ。ウハウハだぜ」
 稲生:「なるほど!……ん?」
 マリア:「あぁ?
 イリーナ:「んん~?」
 マリア:「何言ってんだ、テメェ……

[同日16:26.天候:曇 東京都江東区森下 都営地下鉄森下駅]

〔森下、森下。都営新宿線は、お乗り換えです〕

 稲生:「ふう……無事に着いた」
 イリーナ:「私が止めなかったら、電車が脱線してたところだったわねぇ……」
 エレーナ:「マリアンナ、沸点が低過ぎるぜ」
 マリア:「オマエのせいだろうが!」
 稲生:「まあまあ!」

 電車を降りて改札口に向かう。

 稲生:「こりゃ早いとこ魔界に行った方がいいかもしれませんね」
 イリーナ:「慌てなさんな。今日は取りあえず、ゆっくり一泊するよ」
 エレーナ:「おう。オーナーがいい部屋用意してくれてるから、先生の仰る事に従うんだぜ?」
 稲生:「だったらもう少しマリアさんと仲良くしてくれよ~」
 エレーナ:「いや、私はしてるぜ?」
 マリア:「ウソつけ、このやろ……」

 改札口を出て更にエスカレーターと階段を上り、やっと地上に出た。

 イリーナ:「ふぅ~。地下鉄は便利だけど、アップダウンが激しいねぇ……」
 稲生:「あー、エレベーターに乗った方が良かったですね。すいません」
 イリーナ:「ま、たまには運動するさね」
 マリア:「ていうか師匠のカードで、簡単にタクシーに乗れましたね」
 イリーナ:「エレーナがアテンドしてくれるって言うんだから、その顔を立ててあげなきゃ」
 マリア:「はあ……」
 稲生:「何か曇って来てる?」
 イリーナ:「夕方、スコールがあるみたいね。夕食は、スコールが止んでからにしましょう」
 稲生:「スコールって……。いや、まあ、日本も段々そんな気候になってきましたが……」
 エレーナ:「ホウキで飛ぶのは危険だな……」
 稲生:「“魔女の宅急便”のキキも、大雨に遭って、慌てて貨物列車に避難してたもんね」
 イリーナ:「あれでいいんだよ。ヒヨっ子のうちは貨物列車に便乗するのがセオリーってもんだ。私も昔はやったねぇ……」
 マリア:「え?私無いですけど?」
 エレーナ:「だいぶ前、荷物の見張りでトラックの荷台に乗ったくらいスかねぇ……」
 稲生:「昔、威吹と一緒に貨車を改造したトロッコ列車に乗ったことがあります」
 イリーナ:「勇太君だけ合格。あとの2人は落第w」
 マリア:「何でですか!」
 エレーナ:「観光列車でいいんなら、今から乗って来ますぜ?」
 稲生:「あ、いや、エレーナ。残念だけど、今コロナウィルスのせいで、そういう列車は全面運休だ」
 エレーナ:「くそっ」

 今一つ、魔道士の定期試験の合格点が分からない弟子3人であった。
 もっともエレーナはイリーナ組ではないので、あんまり関係無い(但し、組違いであっても、そちらの師匠から合格点をもらえれば、自分の全体的な点数の足しにはなる)。
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“大魔道師の弟子” 「Joint member,Elena.」

2020-04-28 21:21:22 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月25日16:00.天候:晴 東京都台東区上野 某カフェ→都営地下鉄上野御徒町駅]

 エレーナ:「お、来たか」

 御徒町駅周辺を歩いた稲生達は、待ち合わせのカフェに行った。

 エレーナ:「買い物は済ませたか?」
 稲生:「まあ、一応ね」
 エレーナ:「魔界には無い品を手に入れるのなら、今のうちだぜ。それじゃ、行こうか」

 エレーナはカフェから出た。

 エレーナ:「さっきはお騒がせしてすいませんっした」

 エレーナは目を細めつつも、腕組みをして見据えているイリーナに対し、一応の謝罪はした。

 イリーナ:「分かればいいのよ。ポーリンも、あなたが人間界で騒ぎを起こすことは望んでいないだろうからね。(魔界に行った時、ポーリンにチクってもいいのよ?)」
 エレーナ:「はい……。(だから、うちの先生へのチクりだけは御勘弁を)」

 こうして一時、エレーナがメンバーに加わった。
 昔ながらのRPGでは、『エレーナ が なかま になった』だろう。
 DQシリーズなら、『エレーナが仲間に加わった』だろうし、最近のFFだと海外版を意識してか、『Joint member,Elena』と英文になっている。

 エレーナ:「それじゃ、ホテルまでご案内します」

 エレーナがターッと先導する。
 その行き先は……。

 マリア:「フツーに地下鉄かよ?」
 エレーナ:「マリアンナがタクシー代出してくれるなら、それでもいいぜ?」
 マリア:「アテンド役はオマエだろーが」
 稲生:「まあまあ。先生は行く気満々みたいですよ?」

〔下へ参ります〕

 イリーナ:「ん?どうした、皆?早く行くよー?」
 稲生:「何の躊躇いも無くエレベーターで」
 イリーナ:「さ、お婆さん。先に乗ってくださいな」
 老婆:「こりゃすいませんね~」
 マリア:「師匠はそこのお年寄りより更に13倍は年……」
 稲生:「わーっ、マリアさーん!ストーップ!」
 エレーナ:「オマエ、お歳を気にされている先生の前で堂々とそんなこと言うから毎回落第なんだぜ!少しはゴマするんだぜ!」

 慌ててマリアの口を塞ぐ稲生とエレーナ。

 エレーナ:「先に下に下りてるから、若いあなた達は階段ねー?」
 稲生:「はーい!」
 エレーナ:「了解でヤンス!」
 マリア:「フガガガ!」(←2人に口を塞がれて喋れない)

 何とかラチ外コンコースに下りた稲生達。
 因みにラチとは、鉄道用語で改札のことである。
 実は改札のことを英語でlatchという。
 gateは単なる関門という意味であって、「改札口」はこれに充てられることが多い。
 改札そのものをlatchという。
 これが転じて「ラチ」と呼ばれる。

 イリーナ:「遅いぞー、キミ達?」
 稲生:「すいません」
 エレーナ:「マリアンナが余計なこと言いやがるから……」
 イリーナ:「ま、弟子同士で気を付け合うのはいいことだよ。それより、乗り場はどこかしら?」
 稲生:「ああ。ここはまだラチ外なので。まずはラチ内コンコースに入りませんと。あっちです」
 マリア:「アテンド役、取られたな?」
 エレーナ:「日本の公共交通機関は、稲生氏の出番だぜ。ていうか、さり気無く稲生氏の鉄道用語の意味が何となく理解できる私達も感化されたか?」
 マリア:「かもしれないな」
 エレーナ:「ああ、それと稲生氏」
 稲生:「なに?」
 エレーナ:「稲生氏は日本人だからしょうがないけど、多分、latchの発音間違えてる」
 稲生:「本当かい?」
 エレーナ:「な?」
 マリア:「ま、まあ……。私は理解できたけど」(←稲生がlatchと言っていたことは理解できず、日本語で鉄道用語を言っていたと理解していた)

 アルファベットのLとR。
 日本語ではどうしても「ラ」の字が充てられるが、英語圏の国では明確に発音が分けられる。
 日本人はどうしても、この発音の違いが分からないまま学校を卒業してしまうのだ。

 イリーナ:「…………」(←ロシア人で英語圏の国ではなく、今更ながら自分もLとRの発音を上手く分けて言っているかどうか自信が無くなったので黙っている)

 で、切符売り場までやってきた。

 エレーナ:「ああ、ちょっと待ってくれ。……待ってください」

 エレーナは券売機に行くと、乗車券を3枚買って来た。

 エレーナ:「地下鉄の乗車券代だけは面倒見させてください」
 イリーナ:「あら?いいの?」
 エレーナ:「ええ。こう見えても、私がホテルまでのアテンド役なので」
 マリア:「珍しいな。電車が脱線したりしないだろうな?」
 稲生:「マリアさんw」

 しかし稲生は、明らかにタクシー代よりは安く済むので、そちらを取ったと見た。
 実際エレーナは手持ちのICカードで改札口を通過した。

 稲生:「新幹線以外でキップで乗るの久しぶりだ」
 イリーナ:「キップを入れようとする度、思い出すのよねぇ……」
 マリア:「何をですか?」
 イリーナ:「昔、宝箱の隙間にコインを入れようとしたら、ミミックに噛み付かれたのを……!」

 どういうことかというと、ダンジョンなどにたまに潜んでいる偽宝箱。
 宝箱に擬態したモンスターのことで、知らずに開けた冒険者を大きな口で丸呑みしてしまうのである。
 魔法で確認することもできるが、それができない場合、隙間にコインを入れてみるのである。
 もしもミミックだったら、飲み込むか吐き出すかするので、それで分かるという。
 基本的にミミックは、獲物に蓋を開けられないと襲ってこないという先入観が持たれていた。
 しかしイリーナに襲い掛かったミミックは、隙間にコインを入れただけで襲って来たのである。

 マリア:「よく無事でしたねぇ!?」
 イリーナ:「すぐ近くにレベル50くらいの戦士がいてね、即行バスターソードで真っ二つにしてくれたからケガだけで済んだよ。ただ、さすがに後でハイポーション2個くらい使ったけど」
 エレーナ:「FFみたいな話しないでください」
 イリーナ:「今でも隙間に何かを入れようとすると、あの時のミミックを思い出してしまうのさ」
 エレーナ:「魔界にはまだそういうミミックが多数存在しますから、お気を付けください」
 稲生:「人間界にいなくて良かったなぁ……」
 エレーナ:「いや、いると思うぜ?」
 稲生:「ええっ!?」
 エレーナ:「ただ、いたとしても弱い部類だろうけどな。ミミックにも弱いのと強いのがいるんだぜ。弱いのは、すぐ近くに本物が無いとそれに擬態できないんだぜ。例えば本物のゴミ箱があったとしても、半径数メートル以内にいないとそれに擬態できないんだぜ」
 イリーナ:「私のは強い部類だったんだねぇ。近くに本物の宝箱は無かったよ」
 エレーナ:「まあ、魔界にはそんなのがゴロゴロいますからねぇ……」
 稲生:「何だか怖いな」
 エレーナ:「アルカディアシティには、そんなに凶暴なヤツはいないから安心するんだぜ。問題なのは、町の外だぜ。稲生氏も町の外を歩いたことがあるんだろ?確か、女戦士と一緒だったとか……」
 稲生:「サーシャか。懐かしいなぁ。元気にしてるのかな」
 イリーナ:「気になるなら、会いに行こうか?時間があれば、だけど……」
 稲生:「ま、何かのついでに寄れたらそうしますか。サーシャもエリックと結婚できて、もう子供さんも何人も生んでるって聞いてますし……」
 イリーナ:「あの重戦士の男か。戦士同士の子供なら、さぞ強い戦士になるんだろうねぇ……」
 稲生:「アルカディア王国では、国防軍の正規兵を募集しているみたいですね」
 イリーナ:「徴兵制度が廃止されたからね。志願兵だけで定員を満たそうとすると、大募集掛けないとね」
 稲生:「日本の自衛隊みたい」
 イリーナ:「状況はそれに似てるかもね」

 改札口を通った稲生達は、ラチ内コンコースからすぐにホームに下りた。
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