報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「急展開」 4

2024-09-30 20:23:55 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月13日16時00分 天候:晴 東京都墨田区菊川2丁目 愛原家]

 私とリサを乗せたタクシーが事務所の前に到着する。
 しかし、建物の前にはパトカー1台いなかった。
 どうやら、既に立ち去った後らしい。
 私達は事務所の前でタクシーを降りた。
 ガレージのシャッターは閉まっており、玄関扉には鍵が掛かっている。
 どうやら、パールも一緒に連行されたらしい。

 ???「愛原学さんですか?」

 そこへ、黒いスーツの男が話し掛けて来た。
 黒いスーツを着てはいるが、スーツに着けているバッジには見覚えがあった。
 閉じた傘の上に描かれている太陽。
 『陽(デイライト)が差せば、雨傘(アンブレラ)は要らない』という痛烈な皮肉を込めたNPO法人デイライトのバッジである。

 ???「私はNPO法人デイライト東京事務所の白峰と申します。善場の部下の者です」

 そう言って、白峰と名乗る男は身分証を私に見せて来た。
 まるで警察手帳のような、2つ折りの身分証である。
 但し、警察官の身分証が全体的に水色掛かっているのに対し、デイライトの場合は白である。
 たかだかNPO法人で、こんな警察手帳紛いの身分証を用意する辺り、やはりそこの職員達は中央省庁からの出向者達で占められているのだと分かる。

 愛原「は、はあ……。それで、善場係長は……?」
 白峰「現在、機上です。那覇空港から羽田空港に向かっている最中です」

 やはり善場係長は今、飛行機の中なのだ。

 白峰「事務所で留守を預かっている私が言伝を預かりまして、愛原さんにそれをお持ちした次第です」
 愛原「そ、そうですか。それはお疲れ様です。取りあえず、一旦事務所に……」
 白峰「失礼します」

 私は白峰と名乗る善場係長の部下の男を事務所に招き入れた。
 やはり建物の中は、人の気配はしない。

 愛原「リサ、お茶を入れて差し上げて」
 リサ「うん」
 白峰「いえ、お構いなく。まずはこれを御覧ください」

 白峰は手持ちのアタッシュケースから、ポータブルタイプのモニタを取り出した。
 そして、何か端末と接続している。

 白峰「これは高橋容疑者と霧崎よ……失礼、重要参考人の映像です」
 愛原「ええっ!?」
 白峰「善場が同行できないので、私が代理として立ち会いました」

 映像には警察が事務所に突入するところ。
 そして、直前まで私と電話していたのであろう、スマホを持ったパールが映っていた。
 警察官達は令状を持っていなかったものの、『緊急逮捕』という文言を何回も発していた。
 やはり、高橋は緊急逮捕されていったのだ。
 パールにはその共犯者という疑いが掛かっているようだが、パールに関しては何の証拠も無いようで、一応、事情聴取の為に警察署まで同行して欲しいという私服刑事の声が聞こえた。

 愛原「高橋はコロナ陽性ですよ?まだ熱も下がっていないのに連行だなんて……」
 白峰「もちろん高橋容疑者に関しては、そのまま警察署に連行するわけではありません」
 愛原「んん?」

 高熱で抵抗できない高橋の四肢を警察官達が抱え、高橋はストレッチャーに乗せられた。
 そして、その先には救急車が止まっている。

 愛原「救急車で病院へ?」
 白峰「はい。中野にある警察病院へ運ぶとのことです」
 愛原「あそこかぁ……」

 もちろん私は行ったことは無いが、警察病院の存在は知っていた。
 名前の通り、ケガや病気をした容疑者が治療を受けることも多々ある。
 入院することもあって、その警備体制には慣れているからであろう。
 パールはパールで、パトカーに乗せられて行った。

 愛原「パールはどこの警察署ですか?」
 白峰「麴町警察署です。警視庁で最もお膝元とされている警察署ですね」
 愛原「身元引受人とかはいるんでしょう?」
 白峰「霧崎さんに関しては、今のところ任意での事情聴取ですから。裏が取れないとなった場合はそのまま釈放となりますので、特に身元引受人は要らないと思います。万が一必要な場合は、私共がそれを務める予定です」
 愛原「高橋は一体、何の容疑なんですか?」
 白峰「今のところは、愛原さんに無断で脳外科手術をした医師法違反ですね」
 愛原「あいつにそんな知識はありませんよ!?」
 白峰「本当にそう言えるのですか?」
 愛原「い、いや、あいつに、そんな医療知識があるなんて……」
 白峰「それと、緊急逮捕まで至った理由は、彼の背後関係ですね。今は私の口からは言えませんが、彼の背後にはBSAAが銃口を向ける組織があるとの疑いもあります。緊急逮捕となったのは、それが理由ですね」
 愛原「だからって、パールは関係無いと思いますよ?」
 白峰「ええ。ただ、夫婦であることから、一応その有無について、警察はハッキリさせたいのでしょう。迎えが必要なら、私共でさせて頂きますから」
 愛原「しかし……」

 白峰氏は更に鞄の中から、A4サイズの白い封筒を取り出した。

 白峰「こちらが今後、愛原さんにお願いしたいことが書かれた資料です。御確認ください」

 私は封筒の中を開けた。
 クリップに留められた資料が何枚も入っている他に、これから宿泊するホテルのクーポン券やらタクシーチケット等も入っていた。

 白峰「これから愛原さんには八王子を経由して藤野に向かって頂きますが、それに関する費用は全てこちらで持ちます。それまで立替払いとなりますが、それは御容赦ください」
 愛原「ええっ!?どうしてそこまでして下さるんですか?」
 白峰「端的に言えば、愛原さんはバイオテロの被害者だからです。デイライトは何もバイオテロの鎮圧、根絶に尽力するだけでなく、その被害者に対する救済も活動内容となっています。愛原さんの脳に埋め込まれたという金属片については、大きな証拠になり得ます。くれぐれも、慎重な行動をお願い致します」
 愛原「分かりました……」

 何だか大事になっている。
 それだけは、何とか理解できた。
 そして白峰氏が退出すると、私達は藤野に行く準備を始めた。
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“私立探偵 愛原学” 「急展開」 3

2024-09-30 12:05:01 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月13日15時09分 天候:曇 埼玉県蕨市中央 JR蕨駅→京浜東北線1527A電車10号車内]

〔本日も、JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の、1番線の、電車は、15時9分発、快速、大船行きです〕

 

 イオンモールの敷地内からは、蕨駅方面へのバスが出ている。
 それに乗って蕨駅に行き、これから京浜東北線に乗って帰京するところである。
 その間、善場係長からはメールが何通か来た。
 八王子市のホテルを取ったので、そこで月曜日の朝まで滞在して欲しいこと。
 護衛として、リサとレイチェルを同行させて良いこと。
 係長は今日中には帰京すること。
 そして……高橋には、しばらく会えなくなるとのことだ。

〔まもなく、1番線に、快速、大船行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまで、お下がりください。次は、西川口に、停車します〕

 電車を待っていると、ホームの無い線路を中距離電車が轟音を立てて通過していく。
 そしてようやく、この駅に止まる電車がやってきた。
 隣の南浦和駅始発の電車だが、階段やエスカレーターが前の方にある為、そちらの車両は既に満席状態だ。
 後ろに行けば行くほど空いている。
 そして、最後尾はガラガラだった。

〔わらび、蕨。ご乗車、ありがとうございます。次は、西川口に、停車します〕

 ドアが開いて、電車に乗り込む。
 横並びに3人座った。
 すぐに発車メロディが流れる。
 ホルストの“ジュピター”である。

〔1番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 電車のドアとホームドアが閉まる。
 駆け込み乗車があったせいか、何回か再開閉する。
 それから、ようやく発車した。

〔次は、西川口です〕

 高橋のこと以外は、リサ達に話している。
 レイチェルは片耳にインカムを着けていて、そこから既にBSAAの本部から連絡があったようだ。
 訓練生たるレイチェルの任務は、あくまでリサの監視。
 リサが私に同行するのだから、レイチェルも更に同行せよとのことだ。
 月曜日は彼女らも学校があるからな……。
 あ、そうだ。
 私は入院、高橋も警察の御厄介になるということは、しばらくPTA会長は不在となるということだ。
 学校にもその旨、連絡しておかないと……。
 色々と急展開があって、何だか気が滅入るな……。
 私が座席に深く腰掛けると、リサは私の心境を察してか、腕を組んで寄り掛かって来た。
 高野君は別組織の工作員、公一伯父さんもそちら側、栗原蓮華は鬼化、我那覇絵恋はBOW化、そして高橋は何がしかの容疑と……。
 別ればかりが相次ぐなぁ……。
 せめて、ここにいるリサだけは何事も無いでいて欲しいのだが……。

[同日15時38分 天候:晴 東京都千代田区外神田 JR秋葉原駅]

 電車に乗っている間、レイチェルは空気を読んだか、私にしがみついているリサには話し掛けず、持っている本を読んでいた。
 そして電車は無事、秋葉原駅に到着。

〔あきはばら~、秋葉原~。ご乗車、ありがとうございます。次は、神田に、停車します〕

 

 ここで電車を降りる。
 レイチェルとは、ここで別れることになる。
 待ち合わせ場所について確認した後、レイチェルは地下鉄の秋葉原駅へ、私とリサは岩本町駅に向かって歩き出した。
 と、ここへ電話が……。

 愛原「もしもし……?」
 パール「先生……」

 電話の向こうからは、息を押し殺したように喋るパールの声があった。

 愛原「どうした?」
 パール「事務所の前に、何台ものパトカーが……。先生、何かしました?」
 愛原「俺じゃねーよ。警察が用があるのは、高橋だ。……さっきから、電話の向こうでインターホンがピンポンピンポンうるせーな。しかも、ドアをドンドン叩いているな?もしかして、居留守使ってるのか?」
 パール「この場合、まともに応対しても、警察は捕まえてくるだけなので」
 愛原「いや、まともに応対していいよ!」
 パール「マサのヤツ……何かしたんですか?私は何も聞いてませんよ?」
 愛原「俺の頭をいじくった容疑だ。いいから、さっさとドアを開けてやれ!オマエも公務執行妨害で捕まるぞ!」
 パール「いいですねぇ……。マサと一緒に警察デート……!」
 愛原「何を楽しみにしてるんだ!余計なことはするなよ!?さっさとドアを開けろ!」

 私はそう言って電話を切った。

 リサ「どうしたの?何があったの?」
 愛原「ちょっと、急ぎだ。地下鉄じゃなくて、タクシーで帰るぞ」

 私はそう言うと通りの方に向かい、空車のタクシーに向かって大きく手を挙げた。

 

 愛原「はい、乗って乗って!」
 リサ「う、うん……」

 私はリサを先に乗せ、その後、すぐに乗り込んだ。

 愛原「菊川2丁目までお願いします。あの、新大橋通りから行ってください」
 運転手「あ、はい。分かりましたー」

 タクシーが走り出してから、私はもう1度パールに電話した。
 だが、電話には出なかった。
 警察が前もって令状を用意していたのか、それは分からない。
 無くても、令状は後から請求の緊急逮捕という形で逮捕することはできる。
 それかもしれない。
 特に今日は土曜日、明日は日曜日で、裁判所の窓口が空いているかどうか不明だ。
 それまで犯人を泳がせておくのは危険と判断される場合、この手法が取られることがある。
 顕正号のことについては、善場係長らも調べを進めていただろうから、その過程が高橋の怪しさに気づいたのかもしれない。
 そして、ある程度の証拠は集まっていたのだろう。
 最後の一押しが、私の頭だったのかもしれない。
 尚、善場係長にも電話を掛けてみたが、繋がらなかった。
 もしかすると、今は飛行機の中なのかもしれない。
 係長も休み返上で、本当大変だ。
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“私立探偵 愛原学” 「急展開」 2

2024-09-29 20:59:30 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月13日14時00分 天候:曇 埼玉県川口市前川 イオンモール川口前川1階・いきなりステーキ]

 イオンモールのレストランフロアに移動した私達は、そこで2人のJKに昼食を御馳走することにした。
 リサをここまで連れて来たレイチェルには、当たり前の報酬である。
 リサにステーキを食わせるのは、何も空腹の彼女が暴走しないようにする為だけではなく、肉に夢中になっているうちに、私が善場係長に連絡をする為である。
 ランチタイムだから、比較的安い値段で量の多いステーキのセットを注文することができた。
 注文が終わると……。

 愛原「ちょっと善場係長に電話してくる。検査が終わったら、電話するって約束になってたんだ。料理が来たら、先に食べてていいから」
 レイチェル「分かりました」
 リサ「まだ、連絡してなかったんだ……」
 愛原「ちょっとな……」

 私はスマホを片手に、一旦店を出た。
 昼時も過ぎている為、店の内外は空いている。
 私はすぐに善場係長に電話した。

 善場「はい、善場です」
 愛原「善場係長、愛原です。お疲れ様です」
 善場「愛原所長、お疲れ様です。検査が終わりましたか?」
 愛原「は、はい、先ほど……」
 善場「GPSによれば、リサが近くにいるようですが……」
 愛原「あ、はい。学校が終わった後、来ちゃったんですよ。まあ、レイチェルが一緒ですけど……」
 善場「なるほど。BSAAも、今は沖縄の事件のことについて忙しくなったので、訓練生の面倒を看る暇が無くなったようですね。それで、検査の結果はどうでした?」
 愛原「それが……」

 私は話をする前に、前後左右に上と下を確認した。
 どこでリサが聞いているか分からないからである。
 鬼型とはいえ、BOWのリサは神出鬼没だ。
 リサの姿が無いことを確認すると、私は検査の結果を報告した。

 善場「なるほど……。そういうことでしたか」
 愛原「係長、私は本当に記憶が無いんです」
 善場「そうなると、誰かが意図的に所長にそのようにしたということですね。誰かが」
 愛原「誰かって……誰ですか?」
 善場「最近、所長の周囲の人物で、時々、挙動や現道のおかしい人物はいませんか?」
 愛原「ええ……?」

 その時、私の脳裏に高橋の姿が思い浮かんだ。
 今朝の高橋は様子がおかしかった。
 いやいや、待て待て。
 高橋は新型コロナに感染して、高熱を出しているのだ。
 高熱と激しい頭痛の中、私が事故に遭う夢を見て、それで心配して錯乱気味になっただけだろう。
 いや、その前……。
 高橋のヤツ、コロナに感染する前でも、私が脳検査を受けることに反対していなかったか?
 あの時は、私が重い病気や障害だったという結果が出るかもしれない恐怖からそう言ったのかと思っていたが……。
 今から思えば何だか怪しい。
 しかし……。

 善場「思い当たる人物がいるようですね」

 私が黙っていると、係長の方から口を開いた。

 善場「もちろん今ここで、それが誰なのかを言う必要はありません。恐らく、私共が目を付けている人物と同一でしょうから」
 愛原「係長方も目を付けておられたのですか?」
 善場「まあ、色々と……」
 愛原「それで、私は手術を受けるべきでしょうか?」
 善場「はい、それは受けてください。但し、クリニックの医師に勧められた病院ではありません」
 愛原「えっ?」
 善場「恐らく大病院を紹介されて、紹介状を渡されたと思います」
 愛原「それは確かに……」
 善場「その紹介状は、これから私が紹介する政府指定の医療機関に持って行ってください」
 愛原「政府指定の医療機関?と、仰いますと……」
 善場「所長方は、既に何度も足を運んでいるはずですよ」
 愛原「藤野!……ですか……」
 善場「恐らく高橋助手は、何が何でも所長に検査を受けさせたくなかったのでしょう。当然ながら、悪事がバレるからです」

 高橋って言ったw
 で、でも、どうして高橋が……?

 善場「新型コロナに感染したのは本当のこと。そしてそれは、彼にとっては想定外のことだったのでしょう。であれば、今がチャンスです。所長、今の高橋助手の容態は如何ですか?」
 愛原「今朝、熱を測ったところ、39度くらいでした。もう起き上がるのも辛そうな状態で……」
 善場「それは好都合というものです。彼の体の具合が良くなる前に移動しましょう」
 愛原「今から藤野へ行けと!?」
 善場「所長はそれを希望されますか?」
 愛原「い、いえ!さすがにそれは……。色々と準備をしなければなりませんし……」
 善場「そうですよね。準備の為に、1度帰宅する必要があります。高橋助手……いえ、容疑者には、解熱鎮痛薬でも投与しておいてください。確か、催眠作用もあるはずです」
 愛原「パ、パールに伝えておきます……」
 善場「藤野側の受け入れ態勢も整えなくてはなりませんので、月曜日からと致しましょう。但し、それまで八王子市内のホテルに宿泊して頂きます。ホテルはこちらで手配致しますので」
 愛原「ほ、本当に急展開ですね……」
 善場「顕正号につきましては、こちらもブラックボックス的な所があります。所長の脳に埋め込まれたというチップが、それを開く鍵となると良いのですが……。まずは事務所に戻ってください。……あ、昼食の後でで構いませんので」
 愛原「……はい」

 私は電話を切って、店内に戻った。
 その頃には既にステーキが到着していて、リサはそれを頬張っているところだった。

 リサ「あっ、先生!もうステーキ来ちゃったよ!?」
 愛原「う、うん、そうだな」

 私は1番サイズの小さいハンバーグステーキを注文していた。
 何だか、食欲が湧かない。

 リサ「先生、どうしたの?」
 愛原「り、リサ。良かったら、俺の分も食っていいぞ」
 リサ「ええっ?」
 レイチェル「愛原センセイ、どうしたのですか?」
 リサ「ま、まさか、検査で悪い所が見つかった?」
 愛原「……そのまさかだよ」
 レイチェル「What!?」
 リサ「ええっ!?」
 愛原「それも、ただの病気や障害じゃない。ただ、来週には手術しないといけないんだ。何しろ、頭の手術だ。何日かは入院することになるだろうさ」
 リサ「ち、近くの病院だよね!?」
 愛原「いや……少し遠いんだよ。そこでないとダメだって、善場係長に言われた……」
 リサ「そんなぁ……」
 愛原「心配するな。別に死ぬってわけじゃない。検査で悪い所が見つかるかもしれないってのは、想定してただろ?」
 リサ「そ、それはそうだけど……」
 レイチェル「しかも、ただの病気や障害ではないってどういうことですか?」
 リサ「まさか、特異菌に感染して?」
 愛原「違う違う。内容は今は言えない。ただ、命に関わるものではないようだから、それは心配しないでくれ。ただ、大掛かりな手術にはなるらしい。だから、普通の病院じゃダメなんだとよ」

 リサとレイチェルは顔を見合わせた。

 レイチェル「デイライトがそう言って来たということは、バイオテロに関係しているということですね?」
 愛原「俺の口からは何とも言えないが、そういう想像をされても仕方が無いだろうな。とにかく、食べたら一旦帰ろう。詳しいことは、道すがら話すよ」
 リサ「う、うん……」
 レイチェル「わ、私も御一緒して宜しいですか?」
 愛原「うん。いいんじゃないかな」

 私は取りあえず、ソフトドリンクだけ追加注文し、それを飲むに留まった。
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“私立探偵 愛原学” 「急展開」

2024-09-29 16:37:32 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月13日13時00分 天候:曇 埼玉県川口市某所 某脳神経クリニック]

 看護師「愛原さん、愛原学さん!診察室へどうぞ!」
 愛原「はーい」

 いやあ、長い検査だった。
 そりゃ確かに、大病院と違って即日検査してくれるのは確かだ。
 しかし、土曜日ということもあって、混雑していると、やはり、かなり長く待たされるものだな。
 今はようやくMRI検査などが終わり、診察室に呼ばれたところだ。
 ここでやっと院長先生からの診察が始まるというわけだ。

 愛原「宜しくお願いします」
 院長「はい、愛原さん。検査、ご苦労様でした。……えーと……ですね……」

 何故だか院長先生は深刻な顔をしている。
 やはり、ヤバい状態なのだろうか。

 院長「まずはモニタを一緒に見て行きましょう」
 愛原「あ、はい」

 院長先生は机の上のPCのモニタを、少し私の方に向けてくれた。

 院長「これが先ほど愛原さんの頭の中を撮影した写真、画像になります。一応、比較対象として、検査で何とも無かった患者さんの画像も横に表示しています」

 と、ということは、やっぱり私の脳は何とも無いわけではないのだ!

 愛原「い、院長先生、それってつまり……」
 院長「愛原さん、過去に頭の手術を受けられたことはありますか?」
 愛原「い、いいえ?」
 院長「本当に?絶対?」
 愛原「あ、はい。全く記憶にありません」
 院長「子供の頃とか、もっと小さい頃とか……」
 愛原「い、一体、何を仰りたいんですか?」

 もしもそうなら、とっくに両親から聞いているはずだが……。

 院長「……頭の中に、金属片が入っているんですよ」
 愛原「はい!?」

 院長先生はPCを操作した。

 院長「こちらが健康だった患者さんの脳ですね。で、こちらが愛原さんの脳です。ここに何か写ってるの、分かりますか?」
 愛原「は、はい。確かに……」

 数cm程度の長方形のような物?が、確かに写り込んでいた。

 院長「恐らくこれは、マイクロチップか何かだと思います」
 愛原「マイクロチップ!?何でそんなものが!?」
 院長「ですから、それで先ほど手術歴についてお聞きしたのです。この大きさだと、子供のうちに埋め込むのは無理です。恐らく愛原さんが成人されてから、こういった物を埋め込む手術をされたのかと思いまして……」
 愛原「い、いえ……全く記憶に無いです。これが、私の記憶障害や頭痛、フラッシュバックの原因だと仰るのですか?」
 院長「少なくとも、この検査の結果の上では、そう言わざるを得ません。他の箇所も御覧になれば分かると思いますが、このように、健康な患者さんの脳と殆ど同じ状態です。明らかに違うのは、このマイクロチップのような金属片の部分だけです。よって、愛原さんの身に起きている症状の原因は、これだと思われます。実はこの部分は記憶などを司る所でして、仮に愛原さんが過去に大きな事故や病気などで脳の手術をされたとしても、このような所にこのようなマイクロチップを埋め込むことは通常有り得ないです」
 愛原「こ、これは手術をして取り除いた方がいいですよね?」
 院長「それらも含めて、次はより設備の整った大きな病院での検査を強くオススメします。紹介状を書きますので、それを持って、なるべく早く脳神経外科のある大きな病院に掛かってください」
 愛原「は……はい」
 院長「場合によっては、警察への通報も有り得ます」
 愛原「け、警察……」
 院長「紹介状を書くまでの間、待合室でお待ちください」
 愛原「は、はい……。ありがとうございます……」

 私は半ば放心状態で診察室を出た。
 意外過ぎる検査結果に、放心せざるを得なかった。
 これがもし何らかの病気や障害だというのなら、まだ冷静になれたかもしれない。
 一応、それを想定してここに来たからだ。
 しかし、病気でも障害でも、かといって原因不明というわけでもなく、マイクロチップが埋め込まれていたことが原因たったとは……。
 院長先生に言った通り、私は脳手術を受けたことなど1度も無い。
 少なくとも、そんな記憶は無い。
 本当はこの結果を善場係長に連絡しなければならないのだが、あまりにも放心状態で、それはできなかった。

 受付係「愛原さーん、愛原学さーん!」
 愛原「……! あっ、はい!」

 しばらくボーッとしていると、受付係の女性に呼ばれた。

 受付係「こちらが院長先生の紹介状になります。お会計が……」

 脳検査は自由診療なので、やや高い。
 もちろん、公式サイトに値段が書いてあるので、一応現金は持って来ている。
 実際はそれだけでなく、初診料や紹介状の作成費用なども請求された。

 受付係「……お大事になさってください」
 愛原「はい。ありがとうございました」

 私は紹介状と明細とお釣りをもらって、クリニックをあとにした。

 愛原「あ、そうだ……。善場係長に電話……」

 私がスマホを取り出そうとした時だった。

 リサ「先生!」

 クリニックの敷地を出たところで、リサに呼び止められた。

 愛原「リサ!?どうしてここへ?!」
 リサ「先生のことが心配で、どうしても……。学校が終わって、すぐこっちに向かったの」

 その通り、リサは家を出る時の姿そのままだった。

 愛原「向かったのって、単独行動は禁止されてるだろ?どうやって……」
 レイチェル「私です!」

 後になってレイチェルが走ってきた。
 どうやら途中でリサが走り出して、レイチェルを撒いたらしい。

 レイチェル「リサに頼まれて、ここまで来てしまいました」

 レイチェルもまた制服姿のままだった。

 愛原「そ、そうだったのか……。な、何か悪いな……うちのリサが……」
 レイチェル「いえ、これも任務です」

 レイチェルはBSAA養成学校の学生だ。
 つまり、正式なBSAA隊員ではないが、日本には訓練生として来日している。
 リサの『監視役』も、訓練の一環とされている。
 つまり、レイチェルが一緒にいれば、私がいなくても『監視役』が付いていることになり、単独行動にはならない。

 リサ「検査結果はどうだったの!?」
 愛原「そ、それは……」

 私が回答に迷っていると、リサの腹が大きく鳴った。
 明らかな空腹状態である。

 リサ「あ……」
 愛原「……先に、昼飯食べてからにしようか」
 リサ「エヘヘ……」
 愛原「レイチェルも来てくれ。リサをここまで連れて来てくれた御礼に、昼食を御馳走させてもらうよ」
 レイチェル「ありがとうございます」

 私達は近くのイオンモールに向かった。
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“愛原リサの日常” 「修学旅行後初の登校」

2024-09-26 21:36:04 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月13日07時52分 天候:晴 東京都台東区上野 JR京浜東北線634B電車・1号車内→JR上野駅]

〔次は上野、上野。お出口は、右側です。新幹線、高崎線、宇都宮線、常磐線、京成線、地下鉄銀座線と地下鉄日比谷線はお乗り換えです。電車とホームの間が、広く空いている所がありますので、足元にご注意ください〕

 リサと愛原は、無事に上野駅に着こうとしていた。
 リサは登校の為、上野駅で降りるが、愛原は通院の為に更に先まで乗って行く。

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく上野、上野です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください」〕

 リサ「じゃあ、わたしはここで降りるね……」
 愛原「そんな寂しい顔すんなよ。友達と会って、楽しんで来い」
 リサ「先生以上に、会って嬉しい人なんて他にいないんだけどねぇ……」

 リサはそう言って席を立った。
 電車がホームに止まって、車両のドアとホームドアが開く。

〔うえの~、上野~。ご乗車、ありがとうございます。次は、鶯谷に、停車します〕

 上野駅はターミナル駅である。
 こういうターミナル駅では、電車も1分ほど停車することが多い。
 リサは愛原の電車が発車して行くまで、ホームで待っていた。
 愛原からは、気にせずさっさと行けという合図を送られたのだが……。
 しばらくすると、ホームに発車ベルが鳴り響いた。
 上野駅の通勤電車ホームは、発車メロディではなく、ベルが流れる。
 山手線はオクターブの低いベルが鳴るが、京浜東北線は高い音色のベルが流れる。

〔1番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 電車のドアとホームドアが閉まる。
 空いていることもあってか駆け込み乗車も無く、ドアは再開閉することなく、1回で閉まり切った。
 そして、エアーの抜ける音がすると、電車がスーッと動き出す。
 リサが手を振ると、愛原も観念したかのように、右手を軽く挙手した。
 そして、10両編成の電車はリサの横を走り去って行った。
 1番後ろの乗務員室からホームに顔を出している車掌は若い女性だったが、まあ、先頭車に乗っている愛原が、わざわざ最後尾の車掌室まで行くとは思えないので、リサは浮気を疑うのを止めた。
 因みに、運転士は男性だった。

 リサ「どれ……行くか」

 リサは改札口へと向かった。

[同日08時15分 天候:晴 同地区内 東京中央学園上野高校3年3組]

 リサ「おはよう」
 淀橋「おはよう!」
 小島「おはよう」

 リサが教室に入ると、いつもより人は少なかった。
 やはりショックで休んでいる生徒がいるのだろう。
 また、リサのクラスからもケガ人は出ているため。

 リサ「何だか今日は少ないね」
 小島「何か、半分くらいは休むみたいだよ」
 淀橋「だったら学級閉鎖にしちゃえばいいのにね」
 小島「インフルエンザじゃないんだから……」
 淀橋「(『魔王軍』メンバーの)谷口さんと佐藤さん、全治2週間ですって」
 リサ「マジか……。美味そうな血の匂いはしてたけどね……」
 淀橋「あはは……」
 レイチェル「おはよう、リサ」
 リサ「おはよう……って、レイチェル!?」
 レイチェル「どうかしましたか?そんなに驚いて」
 リサ「いつも土曜日休んでなかった?」

 レイチェルは土曜日は、BSAAの訓練場で戦闘訓練を受ける日だということで、土曜日は学校を休んでいた。
 元々休みの日は良いのだが、今日みたいに授業のある日でも休んでいる。
 レイチェルはただの高校生ではなくて、あくまでも高等教育もやっているBSAAの養成学校の訓練生だということが分かる。

 レイチェル「Ah...今日は訓練は休みです。沖縄の事件とかで本部が忙しくて。教官も駆り出されてる状態です。ただの養成員の私は、出番が無いので……。ジムでトレーニングなど、自主訓練はできるのですが、それも限られています。だったら今日は学校があるので、学校に行った方が良いと思いまして」
 リサ「なるほど。BSAAも大変だ」
 レイチェル「はい。学校が終わった後はヒマになりそうです」
 小島「テストも近いんだし、勉強でもしてるしかないねー」
 淀橋「やっぱそうなるか……」

[同日09時30分 天候:晴 同学園同教室]

 1時間目の授業が終わった後、リサは自分のスマホを取り出した。
 そして、愛原にLINEを送った。
 検査の結果を聞く為である。
 そしたら、返って来た内容は意外なものだった。

 愛原「悪い。まだ、待合室のロビーなんだ。受付は終わったんだが、今日は少し混んでて時間が掛かるらしい」

 とのこと。
 何でも、確かにMRIとかだけだと予約無しでもやってくれるものの、実は予約も受け付けていたらしく、当然ながら予約した患者の方が優先される為、愛原は後回しにされているとのこと。
 特に、急患というわけでもないので、尚更である。

 愛原「もしかしたら、昼頃になるかもしれんな」

 ということだった。

 リサ「そんなに混んでるんだ……」

 リサはその時、ふとあることを思いついた。

 リサ「また後でLINEするね」

 とだけ愛原に送ると、席を立った。

 淀橋「魔王様、トイレに行くー?」
 リサ「行く行くー」

 リサは『魔王軍』のメンバーについて行った。

 淀橋「お昼はどうする?土曜日は学食空いてないしねー」
 リサ「ちょっと帰り際、愛原先生にLINEしてみる。それから」
 小島「魔王様は愛原先生一筋だねー」
 リサ「もち!」
 レイチェル「逆を言えば、愛原センセイの存在が、リサの暴走のストッパーになっているということですね」
 リサ「そういうこと!」
 レイチェル「精神的な作用もあると、BSAAに報告します」
 リサ「どうぞご勝手に。……ねぇ、レイチェル」
 レイチェル「何ですか?」
 リサ「午後、ヒマだって言ってたよね?」
 レイチェル「言いましたけど?」
 リサ「わたしは単独行動が認められてない。でも、BSAAの『監視付き』ならOKだよね?」
 レイチェル「私にそれをしろと?どこか行きたい所があるのですか?」
 リサ「むふー……」
 レイチェル「???」
コメント (5)
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