【左利きライフ研究家レフティやすおのできるまで】第6回
前々回前回2012.11.22 第4回 左利きの意識とハサミの話、2012.12.26 第5回 最初の衝撃!と小学校時代の思い出を書いてきました。
今回も、もう少し記憶をたどりながら、小学校高学年頃の思い出を書いてみます。
●様々な生活技術から<習字>―松田道雄先生の意見
小学校も3、4年生―中高学年ぐらいになってきますと、様々な生活技術とでもいったものを教わります。
たとえば、習字(毛筆)であり、そろばんであり、裁縫であり、等々です。
今回は、そのなかから<習字/毛筆>の話題を取り上げてみましょう。
習字について、小児科医の松田道雄先生は、ベストセラー育児書『育児の百科』のなかで触れています。
『定本 育児の百科(下)1歳6カ月から』松田道雄/著 岩波文庫(2008)
―5歳から6歳まで/そだてかた:508 左ききと字のけいこ(p.436-438)
で、それができないのなら、正課から外しなさい、と。
『松田道雄の安心育児』松田道雄 小学館(1986年刊)
「第2章 楽しい日常を送るために」<左ききのこと>
でお書きになられていた文章を、メルマガで紹介したこともありました。
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左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii
第44号(No.44) 2006/8/19「左手で字を書くために(4)
■左利き子育て一口メモ■ 『松田道雄の安心育児』
※『松田道雄の安心育児』松田道雄 小学館(1986年刊)
「第2章 楽しい日常を送るために」「左ききのこと」
「左ききが左ききで通すことが、人の迷惑になるでしょうか。
右ききの人が、目のまえで左でお箸をもってたべる人がいたからといって、なにか損害をうけるでしょうか。
左手でボールペンをもって書いたからといって、その字がよめないでしょうか。
字はわかりさえすればいいのです。
筆順というのは、右ききの人に書きいい順序にすぎません。」
氏は、小学校で習字が正科になるのに反対されました。
幼稚園や保育園では、自由に左手で書かせていたのに、小学校に上るや、右利きの書き方を教えられるからでした。
「左手に筆をもつと、右ききに書きいい筆順はたいへん具合がわるいもの」で「筆順にしたがうためには、どうしても右手で筆をもたなばならない」のです。
しかし、受け入れられず、教職員組合への公開質問状にも返事はなかったそうです。
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●「左利き友の会」<左きき筆法>
1970年代、アメリカ留学から帰国後、日本では左利きで悩む人が多いのに驚いた精神科医・箱崎総一氏によって、悩める左利き救済のために設立された「左利き友の会」では、左利きのための書道の技法として「左きき筆法」を考案されました。
<左きき筆法>の特徴は以下のようなものです。
1)「横がき筆法」―用紙そのものを(上部を右側に下部を左側に)90度右回りに横倒しにして置いて書きます。
横画が上から下への縦画に、縦画が右から左への横画に変換され、左腕の自然な動きで文字を書くことが可能になります。
2)「斜めがき筆法」―用紙そのものを右下がりの斜めに置いて書きます。
肘を支点にした左腕の扇形の動きに沿った書き方になり、比較的スムーズに動かせます。
3)「正座筆法」―用紙を身体の中心より左に寄せて置き、その右側にお手本を置き、見ながら書きます。
用紙を正立して置くので見た目もあまり気にならず、左腕の可動範囲で書くことになり、右下がりの横画を防止しやすくなります。
非常によく工夫された書法・筆法で、左手での習字・毛筆書道のヒントになるものです。
しかし、実際には、学校書写教科の先生においても、書(道)家からも黙殺されているようです。
●私の思い出―大文字は右、小文字は左
私自身はどうしていたのでしょうか。
私は、基本的には素直な子?でしたので、見よう見まねで右で書いてみた、と言いたいのですが。
実際は、まず左手で書いてみて、思いのほか書きにくく感じたようです。
どうしても筆の傾きが逆になり、横画を左から右へ筆を押して書いてゆくと、墨の水分で紙が破れます。
始筆の筆の打ち込みも逆向きになります。
見た目も変です。
その辺の問題点を上手く書いてみせるコツを教えてもらえれば、よかったのでしょう。
けれど、そこまで個別に指導を求める勇気は持ち合わせていませんでした。
先生からも特に左利きの子供への配慮というものありませんでした。
大抵の左利きの子は、私同様、最終的に右手で見よう見まねで書くことに落ち着いたようです。
ただし、これは大きな文字だけの話です。
小筆で書く小文字は、左手でしか書けませんでした。
でも、こちらはそれで特に困難は感じなかったように思います。
それなりに書けていたのでは、という気がします。
習字に関しては、やはり書を習っている子がうまく書いていました。
その辺はうらやましく感じました。
でも所詮はいっときのことで、習字の授業が終わればそれまで。
一年間、週に一度程度のことだったでしょう。
もちろん楽しくはありませんでしたが、右手で書けと強制された記憶もありませんし、世にあるちょっとした嫌なことの一つにすぎませんでした。
喉元過ぎれば…というもので、気にすることもありませんでした。
●硬筆と毛筆で書く手を換えないやり方こそ大事
文字を書く基本を身に付けるための授業なのでしょうけれど、それならばやはり硬筆筆記の延長上の授業であるべきで、そういう意味では硬筆と毛筆で書く手を換えるので意味がないでしょう。
今から思いますに、あの授業は単に「毛筆に親しむ」ということに過ぎなかったように思います。
(それはそれで意味のあることではありますが。)
これからの在り方としましては、硬筆と毛筆で書く手を換えないやり方こそ大事な気がします。
そうでなければ、「文字を書く基本を身に付ける」という課題を全うする役に立たないと思うからです。
手書きの文字の書き方という観点で考えますと、毛筆習字というのは、硬筆の場合と同じ方の手で書くというのは基本中の基本でしょう。
左利きの子供は、得意の左手で書く方が自然で理にかなっており、習字・毛筆も同様です。
実際に今、学校現場では、左利きの子が左手で毛筆に取り組んでいる例が大半になっているようです。
そういう意味では、学校の先生も左手での書き方を勉強されているようで、心強く感じます。
ちょっとしたコツを身に付ければ、案外問題なく書けるように思います。
具体的に述べれば、筆の持ち方であったり、始筆の打ち込みの向きであったり、運筆の時の筆の傾け方であったり、ということでしょうか。
その辺は、実際に書を教えている先生方にお聞きすればよいことでしょう。
※参考文献:
・『定本 育児の百科(全三巻)』松田道雄/著 岩波文庫(2007-08)
(下)1歳6カ月から―5歳から6歳まで/そだてかた:508 左ききと字のけいこ
・『松田道雄の安心育児』松田道雄 小学館(1986年刊)
*左きき筆法:
(書籍)
・『左ききでいこう!!―愛すべき21世紀の個性のために』大路直哉・フェリシモ左きき友の会/編著 フェリシモ出版
・『見えざる左手―ものいわぬ社会制度への提言』大路直哉/著 三五館 (1998/10)
(サイト)
・<クラブレフティ>「左きき筆法」
・通販<フェリシモ左ききカタログ>『左きき友の会書道教本』
*参照:
レフティやすおの左利き自分史年表
左手で字を書くために―レフティやすおの左利き私論 4―
【左利きライフ研究家レフティやすおのできるまで】過去の記事
*2012.6.11 第1回
*2012.6.19 第2回 幼少時の記憶から
*2012.7.5 第3回 利腕を骨折しても…
*2012.11.22 第4回 左利きの意識とハサミの話
*2012.12.26 第5回 最初の衝撃!
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※本稿は、ココログ版『レフティやすおのお茶でっせ』より
「最初の衝撃!【左利きライフ研究家レフティやすおのできるまで】第5回」を転載したものです。
(この記事へのコメント・トラックバックは、転載元『お茶でっせ』のほうにお願い致します。ただし承認制になっていますので、ただちに反映されません。ご了承ください。)
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前々回前回2012.11.22 第4回 左利きの意識とハサミの話、2012.12.26 第5回 最初の衝撃!と小学校時代の思い出を書いてきました。
今回も、もう少し記憶をたどりながら、小学校高学年頃の思い出を書いてみます。
●様々な生活技術から<習字>―松田道雄先生の意見
小学校も3、4年生―中高学年ぐらいになってきますと、様々な生活技術とでもいったものを教わります。
たとえば、習字(毛筆)であり、そろばんであり、裁縫であり、等々です。
今回は、そのなかから<習字/毛筆>の話題を取り上げてみましょう。
習字について、小児科医の松田道雄先生は、ベストセラー育児書『育児の百科』のなかで触れています。
《左ききか右ききかは、その子の生まれつきできまっている。人間は自分の得意なところをのばして、不得意なところをおぎなっていけば、十分に人生を楽しむことができる。/人間には右ききのほうがおおいから、右きき本位の作法ができあがっている。[...] だが、左ききだって基本的人権はもっている。右きき本位の作法を強制されて、不便な思いをすることはない。/なるほど、けいこすれば、左ききの人だって右手で箸をもてるし、右手にペンをもって字をかくようにもなれる。だが、そのために左ききの人は、赤ちゃんの時代から学校にいくまで、どれほど文句をいわれねばならなかったことか。すべての左ききの人は、いままで右ききのいうことをきいて、なおしてきた。/しかし、どうしても右手で字をかけない左ききの人もいた。その人たちは、ずいぶん恥ずかしい思いをしながら、左手で右の字をかいている。[...] 日本でとくに、右手がきをさせたのは、習字をするとき、左手でかくと字のはね方や筆のおき方がかわってきて、規則にあわないからだ。だが、いまは日常生活で筆で字をかく人は、ほとんどいない。ボールペンでかいた字では、筆法の相違がはっきりしない。それなら左ききの人は、かきいい左手で字をかけばいい。ところが残念なことに、字のかき方は右ききの人間がきめたままで、左ききの人のためのかき方は、まったく開発されていない。ものわかりのいい学校の先生が、左ききの子に左手で字をかかそうとしても、筆法は右手用しか知らないわけだ。右手用の筆法とはちがった左手用の筆法が、画のおおい漢字では必要だと思う。/左きき用の筆法がきまっていて、左手でかいていいということになると、左ききの子の学童期は、いっぺんに明るくなるだろう。彼らをたえず憂うつにした矯正がなくなってしまうからだ。矯正しないでいいという心理学者や教育学者が、字については、矯正論者であるのはおかしい。これは日本の教育学の怠慢だ。一刻もはやく左ききのための筆法が開発されねばならない。[...] 》
『定本 育児の百科(下)1歳6カ月から』松田道雄/著 岩波文庫(2008)
―5歳から6歳まで/そだてかた:508 左ききと字のけいこ(p.436-438)
で、それができないのなら、正課から外しなさい、と。
『松田道雄の安心育児』松田道雄 小学館(1986年刊)
「第2章 楽しい日常を送るために」<左ききのこと>
でお書きになられていた文章を、メルマガで紹介したこともありました。
↓
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左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii
第44号(No.44) 2006/8/19「左手で字を書くために(4)
■左利き子育て一口メモ■ 『松田道雄の安心育児』
※『松田道雄の安心育児』松田道雄 小学館(1986年刊)
「第2章 楽しい日常を送るために」「左ききのこと」
「左ききが左ききで通すことが、人の迷惑になるでしょうか。
右ききの人が、目のまえで左でお箸をもってたべる人がいたからといって、なにか損害をうけるでしょうか。
左手でボールペンをもって書いたからといって、その字がよめないでしょうか。
字はわかりさえすればいいのです。
筆順というのは、右ききの人に書きいい順序にすぎません。」
氏は、小学校で習字が正科になるのに反対されました。
幼稚園や保育園では、自由に左手で書かせていたのに、小学校に上るや、右利きの書き方を教えられるからでした。
「左手に筆をもつと、右ききに書きいい筆順はたいへん具合がわるいもの」で「筆順にしたがうためには、どうしても右手で筆をもたなばならない」のです。
しかし、受け入れられず、教職員組合への公開質問状にも返事はなかったそうです。
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●「左利き友の会」<左きき筆法>
1970年代、アメリカ留学から帰国後、日本では左利きで悩む人が多いのに驚いた精神科医・箱崎総一氏によって、悩める左利き救済のために設立された「左利き友の会」では、左利きのための書道の技法として「左きき筆法」を考案されました。
<左きき筆法>の特徴は以下のようなものです。
1)「横がき筆法」―用紙そのものを(上部を右側に下部を左側に)90度右回りに横倒しにして置いて書きます。
横画が上から下への縦画に、縦画が右から左への横画に変換され、左腕の自然な動きで文字を書くことが可能になります。
2)「斜めがき筆法」―用紙そのものを右下がりの斜めに置いて書きます。
肘を支点にした左腕の扇形の動きに沿った書き方になり、比較的スムーズに動かせます。
3)「正座筆法」―用紙を身体の中心より左に寄せて置き、その右側にお手本を置き、見ながら書きます。
用紙を正立して置くので見た目もあまり気にならず、左腕の可動範囲で書くことになり、右下がりの横画を防止しやすくなります。
非常によく工夫された書法・筆法で、左手での習字・毛筆書道のヒントになるものです。
しかし、実際には、学校書写教科の先生においても、書(道)家からも黙殺されているようです。
●私の思い出―大文字は右、小文字は左
私自身はどうしていたのでしょうか。
私は、基本的には素直な子?でしたので、見よう見まねで右で書いてみた、と言いたいのですが。
実際は、まず左手で書いてみて、思いのほか書きにくく感じたようです。
どうしても筆の傾きが逆になり、横画を左から右へ筆を押して書いてゆくと、墨の水分で紙が破れます。
始筆の筆の打ち込みも逆向きになります。
見た目も変です。
その辺の問題点を上手く書いてみせるコツを教えてもらえれば、よかったのでしょう。
けれど、そこまで個別に指導を求める勇気は持ち合わせていませんでした。
先生からも特に左利きの子供への配慮というものありませんでした。
大抵の左利きの子は、私同様、最終的に右手で見よう見まねで書くことに落ち着いたようです。
ただし、これは大きな文字だけの話です。
小筆で書く小文字は、左手でしか書けませんでした。
でも、こちらはそれで特に困難は感じなかったように思います。
それなりに書けていたのでは、という気がします。
習字に関しては、やはり書を習っている子がうまく書いていました。
その辺はうらやましく感じました。
でも所詮はいっときのことで、習字の授業が終わればそれまで。
一年間、週に一度程度のことだったでしょう。
もちろん楽しくはありませんでしたが、右手で書けと強制された記憶もありませんし、世にあるちょっとした嫌なことの一つにすぎませんでした。
喉元過ぎれば…というもので、気にすることもありませんでした。
●硬筆と毛筆で書く手を換えないやり方こそ大事
文字を書く基本を身に付けるための授業なのでしょうけれど、それならばやはり硬筆筆記の延長上の授業であるべきで、そういう意味では硬筆と毛筆で書く手を換えるので意味がないでしょう。
今から思いますに、あの授業は単に「毛筆に親しむ」ということに過ぎなかったように思います。
(それはそれで意味のあることではありますが。)
これからの在り方としましては、硬筆と毛筆で書く手を換えないやり方こそ大事な気がします。
そうでなければ、「文字を書く基本を身に付ける」という課題を全うする役に立たないと思うからです。
手書きの文字の書き方という観点で考えますと、毛筆習字というのは、硬筆の場合と同じ方の手で書くというのは基本中の基本でしょう。
左利きの子供は、得意の左手で書く方が自然で理にかなっており、習字・毛筆も同様です。
実際に今、学校現場では、左利きの子が左手で毛筆に取り組んでいる例が大半になっているようです。
そういう意味では、学校の先生も左手での書き方を勉強されているようで、心強く感じます。
ちょっとしたコツを身に付ければ、案外問題なく書けるように思います。
具体的に述べれば、筆の持ち方であったり、始筆の打ち込みの向きであったり、運筆の時の筆の傾け方であったり、ということでしょうか。
その辺は、実際に書を教えている先生方にお聞きすればよいことでしょう。
※参考文献:
・『定本 育児の百科(全三巻)』松田道雄/著 岩波文庫(2007-08)
(下)1歳6カ月から―5歳から6歳まで/そだてかた:508 左ききと字のけいこ
・『松田道雄の安心育児』松田道雄 小学館(1986年刊)
*左きき筆法:
(書籍)
・『左ききでいこう!!―愛すべき21世紀の個性のために』大路直哉・フェリシモ左きき友の会/編著 フェリシモ出版
・『見えざる左手―ものいわぬ社会制度への提言』大路直哉/著 三五館 (1998/10)
(サイト)
・<クラブレフティ>「左きき筆法」
・通販<フェリシモ左ききカタログ>『左きき友の会書道教本』
*参照:
レフティやすおの左利き自分史年表
左手で字を書くために―レフティやすおの左利き私論 4―
【左利きライフ研究家レフティやすおのできるまで】過去の記事
*2012.6.11 第1回
*2012.6.19 第2回 幼少時の記憶から
*2012.7.5 第3回 利腕を骨折しても…
*2012.11.22 第4回 左利きの意識とハサミの話
*2012.12.26 第5回 最初の衝撃!
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※本稿は、ココログ版『レフティやすおのお茶でっせ』より
「最初の衝撃!【左利きライフ研究家レフティやすおのできるまで】第5回」を転載したものです。
(この記事へのコメント・トラックバックは、転載元『お茶でっせ』のほうにお願い致します。ただし承認制になっていますので、ただちに反映されません。ご了承ください。)
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