レフティやすおの新しい生活を始めよう!

50歳からが人生の第二段階、中年の始まりです。より良き老後のために良き習慣を身に付けて新しい生活を始めましょう。

私の読書論177-個性的な本屋の作り方を学ぶ―『美しい本屋さんの間取り』-楽しい読書356号

2023-12-17 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

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2023(令和5)年12月15日号(No.356)
「私の読書論177-個性的な本屋の作り方を学ぶ
―『美しい本屋さんの間取り』から」


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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2023(令和5)年12月15日号(No.356)
「私の読書論177-個性的な本屋の作り方を学ぶ
―『美しい本屋さんの間取り』から」
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 例年では、この12月・1月は、
 その年(または前年)に私が読んだ本の中から、
 リアル系とフィクション系のオススメを紹介する「私のベスト3」を
 お届けしてきましたが、コロナ禍以来読書量が減り、
 今年はリアル系の本をほとんど読んでこなかったので、
 リアル系は一回で済ませそうです。

 そこで今回は、
 リアル系の本の中で二、三冊読んだ本屋さんに関する本から、
 個性的な本屋の作り方を取り上げている本を紹介しながら、
 本屋さんの魅力について考えてみましょう。

 ここ何回か本屋さんに関して書いてきました。
 その総決算という形になればいいのですが……。

2023(令和5)年9月15日号(No.350)
「私の読書論174-消えゆく書店と紙の本」
2023.9.15
私の読書論174-消えゆく書店と紙の本-楽しい読書350号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/09/post-f7ab5e.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/a65f07da56cc868147fbd49d01c3c4bf

2023(令和5)年10月15日号(No.352)
「私の読書論175-出版業界―または本と本屋のこと」
2023.10.15
私の読書論175-出版業界―または本と本屋のこと-楽しい読書352号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/10/post-d8d8ec.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/7b9a38985fcfd574650e4c54eba355c1

2023(令和5)年11月15日号(No.354)
「私の読書論176-読書週間に関する新聞記事から思ったこと」
2023.11.15
私の読書論176-読書週間に関する新聞記事から思ったこと-楽しい読書354号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/11/post-7462e0.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/d498bde194e54d8e97a5d018d683f607


 (今回の参考書)
『美しい本屋さんの間取り』エクスナレッジ X-Knowledge 2022/12/29



――編集部を辞めて、本屋さんになる! と決めたワニ田さんのために、
 本屋さんの作り方を教えてくれる本。
 実際に営業中の全国の書店の中から個性的な本屋さんを、
 その間取りの平面図も含めて、それぞれの特徴を紹介するとともに、
 本屋さんを開業するために必要なあれやこれやの基礎知識も含めて、
 教えてくれる本。
 Amazonのレヴューにもありますように、
 《開業するかどうかはともかく、自分だったらどんな本屋を作るか
  想像するだけでも楽しいと思います。》
 私も同じように色々考えてみました。そういう本です。

出版社サイトでの紹介情報:内容・概要
https://www.xknowledge.co.jp/book/9784767830957

《この本では、/店内の間取りや本のジャンルの分け方や並べ方、/
 什器や内装に関することから立地の選定、/開業予算の目安、
 クラウドファンディングや/SNSの活用など運営に関することまで、/
 本屋さんにまつわることをまるっと紹介します。/
 また、書店でよく使われる用語解説もイラスト付きで紹介!!/
 これを読めば、本屋さんの全体像がなんとなく分かります。/
 本屋さんに興味のある方や、これから本屋さんをはじめたい
 と考えている方、/「本屋さんってどういうところ?」という方にも/
 目からウロコ満載の、本屋さんワールドを楽しんでいただけましたら
 幸いです。/この本は、「建築知識2020年1月号」の[本屋さん特集]
 を大幅に加筆、再編集したものです。》

 掲載店40店

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 - 私の読書論177 -

  ~ 個性的な本屋の作り方を学ぶ ~

  『美しい本屋さんの間取り』(エクスナレッジ)から
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ●現物の魅力

本屋さんの魅力といいますと、なによりも、
<思いがけない本との出会いがある>という点でしょう。

欲しい本を買うだけなら、ネットで十分です。
在庫があれば、Amazonなどではホントにすぐに送ってきてくれます。

でも、自分が欲しい本が必ずしも、選んだ本だった、とは限りません。
色々な情報を手にしたうえで吟味して選んだつもりでも、
ホントに自分に合ったものかどうかは、
実際に手に取って読んでみなければ分からないものです。

その点、本屋さんではある程度立ち読みで現物を確認する事もできます。
内容だけではなく、実際の“もの”としての魅力という側面もあり、
自分で納得のいくものに出会えるという点では、
リアルの世界の持つ力は、捨てがたいものがあります。

本屋さんで本を探していると、予定していた本以外にも、
もっと適切な本が見つかることがあります。

さらに、考えてもいなかった本と出会うこともあります。
自分の中にそんな欲望があったのか、と思うような、
異なるジャンルの本との出会いも。


 ●本屋さん開業の夢

最近結構、私は本屋さんに関する本を読んだり見たりしています。
図書館で借りたものですが(本書もそうです)、
『世界の美しい本屋さん』清水玲奈(エクスナレッジ 2015/4/18)とか。

機能的な本屋さんも魅力的ですが、
本の美術館みたいな本屋さんを作ってみたい、という気持ちがあります。
入館料を取るようなですね。で、もちろん本も買える。
見て楽しく、買って嬉しい――そういう本屋さん。

若い頃はホントに色々間取りや選書なども考えたものでした。
実際には何もできませんでしたが。

実際にあるとき、本屋さんが儲かるらしいと聞いた、
他業種のある社長さんからいい出物があるので、
本当にやる気があるのならやってみないか、
と誘われたこともあったのです。

その後、実際に勤めていた本屋さんを辞め、
自分でやってみたいと思ったこともありました。
資金がないので先の社長さんに話すと、
もう遅い! といわれましたが……。


 ●『美しい本屋さんの間取り』主な目次

本書でもワニ田くんが本屋さんをやりたい、というのですが……。

簡単に、目次を見ておきましょう。



序章 本屋さんになりたい(本屋に必要なもの、他)
1章 設え方 来店者を増やす(小さく維持しやすい本屋、安定経営には
 複合型を、特定分野を共有する場に、移動本屋は一期一会、ときめく
 本棚をつくる、立地に合ったファサードを、本屋は内装で勝負する、他
 Qレジの位置はどこに? Qどうする? 万引き対策 他)  
2章 見せ方 美しく本を見せる(本の回転率を上げる書籍の陳列、
 来店者を誘引する並べ方、棚は「本屋の顔」と心得る、独自の企画を
 本屋の強みに、ある本屋さんの一日、他 Qどんなスタイルにするか?
 Q場所はどう選ぶ? Q開業資金に必要なのは? Q経営持続に必要な
 ことは? QSNSの上手な活用法は? 他
3章 基本 知っておきたい基礎知識(本の大きさと重さを知ろう、
 飲食物提供には条件あり 本と流通の仕組み Qどこから仕入れるか?
 Qコロナ禍で変わったことは?) 
用語集 書店の全体像がおおよそわかる(新刊書店、古書店 QSNSの
 使い分けは?)

これが主なところです。

本屋さんに関して、初めての人にも分かる内容という感じです。

本屋のあれこれの知識がどうかということより、この本の醍醐味、
読みどころはなんと言っても、各お店の間取りとその棚構成について、
といった具体的な店内の通路やレジ位置、棚のサイズを含めて、
カラーの図版と写真で説明されている点が光っています。

さすが、建築雑誌の特集記事をもとにした本らしさ満載ですね。

以前、私自身が本屋さん時代に実戦したことも含めて、
私自身の考える売れる本屋へ変える方法を書いてみました。

ここでも当然のごとく、
売れる、人の集まる、そういう本屋の実践例を紹介しています。
目次をご覧になっても分かりますよね。


 ●間取りの図版が楽しい

結論的に言いますと、
タイトルになっている間取りの図版が気に入っています。

各お店の間取りの図版は、
通路や棚のサイズまではきっちりと計測されていて、
さすがに建築雑誌らしく、非常に詳しくて楽しめます。

思わず自分ならどうする? と考えてしまいますね。

小さくても本専門の書店もあれば、複合店もあり、それぞれの立地と
店主さんの目指すものとによって、異なっているのでしょう。

私もジャンルを限って、例えば一つは、
翻訳ミステリとSF、ファンタジーの専門店をやってみたいものです。

美術館的な美しい本屋さんが理想ですね。
ギャラリー的な部分と本が買える本屋さん的な部分がある、
というような。

昔は、東京にミステリ専門店などというものもありましたし、
アニメ関連グッズのお店と併設しているところもありました。

本書では、基本的に小さな本屋さんで、自分のやりたい本屋さんを!
 というものですね。


 ●1章 設え方 来店者を増やす

本書について気になる部分を見ておきましょう。

「1章 設え方 来店者を増やす」では、
まずは「レジの位置」から始まっています。
基本的に一人でやるような小さなお店では、万引き対策も込めて、
全体を見渡せて、かつ個々のお客様とやりとりできる位置が重要です。

安定経営には、やはり複合型を提案しています。
本のみを売るだけでも、新刊のみの店や古本も扱う店があります。
あるいは、専門書店という行き方もあります。
ここでは建築書専門店を例に上げていますが、
児童書や絵本の専門店もあります。

本だけで無く、粗利の高い雑貨も扱うという方法もあります。
粗利でいいますと、やはり飲食店がいいでしょうね。
本屋さんとマッチするものとしては、カフェがよく活用されます。

ファサード、店の表まわりですね、これや内装を工夫する、
ということを書いています。
通りかかるお客様にどれだけお店をアピールできるか、
入店したお客様に居心地良く感じてもらえるか、といった意味合いです。

移動本屋についても書いています。
クルマの後ろに本をのせて売りに行くという、
キッチンカーの本屋さん版ですね。
出店先のテーマと客層で本を選んで持っていく、
ということがポイントになります。

「ときめく本棚をつくる」というのは、選書ではなく、
本棚そのものの体裁――木箱を重ねるとか本箱型ではなく平板だけとか、
平積みや面陳(表紙を見せて立てかけて飾る)等の
平台や棚での本の飾り付け方やポップなどなどのことですね。

お客様の目を惹くようなハード面の魅力の演出の仕方を工夫しよう、
ということです。


 ●2章 見せ方 美しく本を見せる

「棚は「本屋の顔」と心得る」とあります。
これは非常に大事なことだと思っています。
私が本屋さん時代は、とにかく、毎日「顔」――
店頭の一番目立つ部分――に変化を持たせるように心掛けていました。
雑誌は毎日のように新しい号が出て来るものです。
その日に出たものを中心に店頭を飾っていくようにしました。
もちろん、雑誌にも序列があります。
昨日出た雑誌の方が序列が上位(より売れているもの)であれば、
動かせません。
しかし、そうでなければ、常に同じ顔ではなく、
「今日はこれだ!」というものを全面に打ち出していくことが重要です。

「来店者を誘引する並べ方」、これは正味本の並べ方です。
お客様の探している本がすぐに見つけられる陳列法ですね。

出版社別とか、文芸書や人文書や実用書といったジャンル別、
生き方だと愛だとかそれぞれのテーマ別とか。

「独自の企画を本屋の強みに」では、
出版社の用意したフェアをやるとか、
書店のオリジナル・フェアをやるとか、
イベントをやるとか――よくあるのは作家さんのサイン会とかです。
雑貨を取り扱っている場合は、
新商品と連動でテーマにあった本を並べるとか。

「ある本屋さんの一日」とか、Qどんなスタイルにするか?
 Q場所はどう選ぶ? Q開業資金に必要なのは?
 Q経営持続に必要なことは? QSNSの上手な活用法は? 
といったクエスチョンとその答えは、開業の参考になるでしょう。


 ●3章 基本 知っておきたい基礎知識

「本と流通の仕組み」 Qどこから仕入れるか? 「用語集」などは、
<書店の全体像がおおよそわかる>とある通り、
2章の後半の部分ともども、
本屋さんのだいたいのイメージが理解できるようになっています。

「Qコロナ禍で変わったことは?」「SNSの使い分け方は?」などは、
私のころにはなかったことでもあり、いかにも今風な部分です。
ネットを使った販売も増えている昨今を反映しています。

SNSに関しては、今日、お店の宣伝には不可欠の要素であり、
これをいかに駆使できるかどうかが、新規のお客様を開拓する、
店のリピーターを増やす、店を支持してくださる固定客をつかむ、
集客の面で商売の生命線を握っている、ともいえそうです。


 ●本書が見せてくれる自分の本屋さんの夢

総合的にみて本書は、とにかく本屋さんをやりたい、という人に
勇気を与えてくれるような本になっている、ということです。

もちろんこれだけで即本屋さんがやれるというわけではありませんが、
大いに参考になるし、事前に準備するべきことを、
かなり現実に沿って考察できる本になっていると感じました。

また、自分だけの本屋さんを妄想する、
という楽しみ方ができる本でもあります。

この点だけは、絶対的に実現できます。

私も自分なりに図面を引いて、本を並べてみたいものです。

みなさんも、自分なりのこうありたいというお店の図面を描いて、
自分の売りたい本の選書とその飾り方を空想するのも一興でしょう。

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本誌では、「私の読書論177-個性的な本屋の作り方を学ぶ―『美しい本屋さんの間取り』から」と題して、今回も全文転載紹介です。

本文でも書いていますが、ここ3回続けて、ホント本屋さんについて書いてきました。
そのまとめというほどではないのですが、<私の本屋さん>の夢を描くことができる本を見つけましたので、それについて書いてみました。

実際に、本屋さんをやりたい人はもちろん役に立ちますが、現実の本屋さんの経営はむずかしい時代になっていますので、実際にやるのは大変ですが「夢を見たい」という人には、絶対オススメの本です。

私もたっぷり楽しんでみたいと思っています。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

『レフティやすおのお茶でっせ』
〈メルマガ「楽しい読書」〉カテゴリ


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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
私の読書論177-個性的な本屋の作り方を学ぶ―『美しい本屋さんの間取り』-楽しい読書356号
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クリスマス・ストーリーをあなたに~全リスト:『レフティやすおの楽しい読書』BNから

2023-12-12 | 本・読書
今年もはやクリスマス・ストーリーの紹介の季節となりました。
例年、11月末発行の読書メルマガ『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』では、<クリスマス・ストーリーをあなたに>と題して、古今東西の“クリスマス・ストーリー”――ディケンズの『クリスマス・キャロル』に始まるとされるクリスマスにまつわる、幽霊が登場したり、奇跡が起きたりといった愛と善意とにくるまれたハート・ウォーミングな物語が展開される――の中から、私の心に響いたお話を、海外・国内・新旧の作家による長短の作品を取り混ぜて紹介しています。

ここでは過去のそれらの作品をリストアップしておきましょう。


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 ●過去の ~クリスマス・ストーリーをあなたに~

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(読書メルマガ)『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』
(「まぐまぐ」版)


(画像:(上段左から)(2017年紹介)梶尾真治「クリスマス・プレゼント」収録の『有機戦士バイオム』ハヤカワ文庫JA、(2019年)ジョー・ネスボ『その雪と血を』ハヤカワミステリ文庫、(2012年)アガサ・クリスティー「水上バス」収録のクリスティーのクリスマス・ブック『ベツレヘムの星』、
(下段左から)(2008年)チャールズ・ディケンズ『クリスマス・キャロル』(2016年)『鐘の音』収録の『クリスマス・ブックス』ちくま文庫、(2013年)ライマン・フランク・ボーム『サンタクロースの冒険』)

0◆2008(平成20)年12月クリスマス号(No.11)-081206-
『クリスマス・キャロル』善意の季節

『クリスマス・キャロル』ディケンズ/著 中川敏/訳 集英社文庫 1991/11/20
―訳者の解説と木村治美の鑑賞など、資料も豊富。


1◆2011(平成23)年11月30日号(No.70)-111130-善意の季節
『あるクリスマス』カポーティ

別冊 編集後記:『レフティやすおのお茶でっせ』
善意の季節『あるクリスマス』カポーティ

『誕生日の子供たち』トルーマン・カポーティ/著 村上春樹/訳 文春文庫 2009.6.10
―クリスマス短編「あるクリスマス」「クリスマスの思い出」収録
 「―思い出」はクリスマスの懐かしい、でもちょっと切ない思い出を振り返る愛情あふれる物語で、少年に与えられたクリスマスの贈り物、
 「ある―」は逆に、少年が与えたクリスマスの贈り物の思い出話といえる抒情的名編


2◆2012(平成24)年11月30日号(No.94)-121130-  
クリスマス・ストーリーをあなたに~
 アガサ・クリスティー『ベツレヘムの星』から

クリスマス・ストーリーをあなたに ―第94号
(「作文工房」版)

『ベツレヘムの星』アガサ・クリスティー/著 中村能三/訳 ハヤカワ文庫―クリスティー文庫(2003/11/11)
―おススメ短篇「水上バス」を含む、クリスマスにまつわる小説と詩を集めた、クリスティーが読者に贈るクリスマス・ブック


3◆2013(平成25)年11月30日号(No.117)-131130-  
クリスマス・ストーリーをあなたに~
 『サンタクロースの冒険』ライマン・フランク・ボーム

クリスマス・ストーリーをあなたに~『サンタクロースの冒険』ボーム
(「作文工房」版)

『サンタクロースの冒険』ライマン・フランク・ボーム/著 田村隆一/訳 扶桑社エンターテイメント(1994.10.30) [文庫本]
―『オズの魔法使い』の作者ライマン・フランク・ボームの描くサンタ・クロースの生涯を描く、サンタさん誕生物語

(新訳版)『サンタクロース少年の冒険』ライマン・フランク・ボーム/著 矢部太郎/イラスト 畔柳和代/訳 新潮文庫 2019/11/28


4◆2014(平成26)年11月30日号(No.140)-141130-
「クリスマス・ストーリーをあなたに~
『ひいらぎ飾ろう@クリスマス』コニー・ウィリス」

クリスマス・ストーリーをあなたに~『ひいらぎ飾ろう@クリスマス』コニー・ウィリス ―第140号
「古典から始める レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
(「作文工房」版)

「ひいらぎ飾ろう@クリスマス」収録短編集:
・『マーブル・アーチの風』コニー・ウィリス/著 大森望/編訳 早川書房・プラチナ・ファンタジイ(2008.9.25)
―もう一つのクリスマス・ストーリー「ニュースレター」も収録


5◆2015(平成27)年11月30日号(No.164)-151130-
「クリスマス・ストーリーをあなたに~
『まれびとこぞりて』コニー・ウィリス」

クリスマス・ストーリーをあなたに―「まれびとこぞりて」コニー・ウィリス ―第164号
「古典から始める レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
(「作文工房」版)

「まれびとこぞりて」収録短編集:
・『混沌【カオス】ホテル (ザ・ベスト・オブ・コニー・ウィリス)』コニー・ウィリス/著 大森望/訳 ハヤカワ文庫SF1938 2014.1.25


6◆2016(平成28)年11月30日号(No.188)-161130-
「クリスマス・ストーリーをあなたに~
ディケンズ『クリスマス・ブックス』から『鐘の音』」

クリスマス・ストーリーをあなたに~ディケンズ『クリスマス・ブックス』から『鐘の音』 ―第188号
「古典から始める レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
(「作文工房」版)

・『クリスマス・ブックス』ディケンズ/著 ちくま文庫 1991/12
―落語調訳「クリスマス・キャロル」小池滋/訳、「鐘の音」松村昌家/訳

・『クリスマス・ブックス』田辺洋子/訳 渓水社 2012
―前期(1843-48)のクリスマス中編5編を収録。「クリスマス・キャロル」「鐘の音」「炉端のこおろぎ」「人生の戦い」「憑かれた男」


(画像:『クリスマス・ブックス』渓水社 2012「鐘の精」The Chimes より{左「鐘の妖精たち」ダニエル・マクリース画})


7◆2017(平成29)年11月30日号(No.212)-171130-
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(7)
「クリスマス・プレゼント」梶尾真治」

クリスマス・ストーリーをあなたに~(7)「クリスマス・プレゼント」梶尾真治
―第212号「レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
(「作文工房」版)

「クリスマス・プレゼント」収録短編集:
・『有機戦士バイオム』梶尾真治/著 ハヤカワ文庫JA 1989.10



8◆2018(平成30)年11月30日号(No.236)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(8)
『昔なつかしいクリスマス』ワシントン・アーヴィング」

クリスマス・ストーリーをあなたに~(8)『昔なつかしいクリスマス』ワシントン・アーヴィング
―第236号「レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
(「新生活」版)

・『昔なつかしいクリスマス』ワシントン・アーヴィング/著 ランドルフ・コールデコット/挿絵 齊藤昇/訳 三元社 2016.12.1
―1920年刊『スケッチ・ブック』第5分冊(クリスマス編)を基に、コールデコットの挿絵をつけて1876年に刊行された。


(画像:『昔なつかしいクリスマス』ワシントン・アーヴィング/著 ランドルフ・コールデコット/挿絵 齊藤昇/訳 三元社 2016.12.1 と同作収録の『スケッチ・ブック(下)』ワシントン・アーヴィング/著 齊藤 昇/訳 岩波文庫 2015/1/17)


9◆2019(令和元)年11月30日号(No.260)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(9)
『その雪と血を』ジョー・ネスボ」

クリスマス・ストーリーをあなたに(9)『その雪と血を』ジョー・ネスボ
―第260号「レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
(「新生活」版)

・『その雪と血を』ジョー・ネスボ/著 鈴木恵/訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 2018/11/20
―ノルウェーを代表するサスペンス作家が描くパルプ・ノワール。
 第8回翻訳ミステリー大賞および第5回読者賞をダブル受賞した。



10◆2020(令和2)年11月30日号(No.283)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(10)
「ファンダーハーフェン老人の遺言状」メアリー・E・ペン」

クリスマス・ストーリーをあなたに~(10)「ファンダーハーフェン老人の遺言状」ペン-楽しい読書283号
(「新生活」版)

・メアリー・E・ペン「ファンダーハーフェン老人の遺言状」Old Vanderhaven's Will(1880)小林晋/訳 (The Argosy誌1880年12月号掲載)
『ミステリマガジン』2020年1月号(738) 2019/11/25 掲載


(画像:メアリー・E・ペン「ファンダーハーフェン老人の遺言状」を掲載した『ミステリマガジン』2020年1月号(738) )


11◆2021(令和3)年11月30日号(No.307)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(11)-2021-
「パーティー族」ドナルド・E・ウェストレイク」

クリスマス・ストーリーをあなたに~(11)-2021-「パーティー族」-楽しい読書307号
(「新生活」版)

・「パーティー族」ドナルド・E・ウェストレイク Party Animal(Playboy 1993-12) 初出『ミステリ・マガジン』2009年6月号
・ドナルド・E・ウェストレイク『<現代短篇の名手たち3> 泥棒が1ダース』木村二郎/訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 2009/8/21 収録


(画像:ドナルド・E・ウェストレイク「パーティー族」収録の『<現代短篇の名手たち3> 泥棒が1ダース』ドナルド・E・ウェストレイク 木村二郎/訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 2009/8/21)


12◆2022(令和4)年11月30日号(No.331)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(12)-2022-
「飾られなかったクリスマス・ツリー」クリストファー・モーリー」

クリスマス・ストーリーをあなたに~(12)-2022-「飾られなかったクリスマス・ツリー」-楽しい読書331号
(「新生活」版)

・「飾られなかったクリスマス・ツリー」クリストファー・モーリー 浅倉久志/訳
 『ミステリ・マガジン』1997年12月号(no.501)<クリスマス・ストーリイ集>より


(画像:2022(令和4)年11月30日号(No.331)「クリスマス・ストーリーをあなたに~(12)-2022-「飾られなかったクリスマス・ツリー」クリストファー・モーリー」で紹介した、「飾られなかったクリスマス・ツリー」クリストファー・モーリー 浅倉久志/訳 を掲載した『ミステリ・マガジン』1997年12月号(no.501)<クリスマス・ストーリイ集>)


(画像:2022(令和4)年11月30日号(No.331)「クリスマス・ストーリーをあなたに~(12)-2022-「飾られなかったクリスマス・ツリー」クリストファー・モーリー」で紹介した、「飾られなかったクリスマス・ツリー」クリストファー・モーリー 浅倉久志/訳(『ミステリ・マガジン』1997年12月号(no.501)<クリスマス・ストーリイ集>より)冒頭のページ)

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

一回毎、一年ごとに【古典編】と【現代編】を交互に紹介してきました。

【古典編】
 チャールズ・ディケンズ『クリスマス・キャロル』『鐘の音』
 ワシントン・アーヴィング『昔なつかしいクリスマス』
 ライマン・フランク・ボーム『サンタクロースの冒険』
メアリー・E・ペン「ファンダーハーフェン老人の遺言状」
 クリストファー・モーリー「飾られなかったクリスマス・ツリー」

【現代編】
 トルーマン・カポーティ「あるクリスマス」「クリスマスの思い出」
 アガサ・クリスティー「水上バス」
 コニー・ウィリス「ひいらぎ飾ろう@クリスマス」「まれびとこぞりて」
 梶尾真治「クリスマス・プレゼント」、ジョー・ネスボ『その雪と血を』
 ドナルド・E・ウェストレイク「パーティー族」

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
クリスマス・ストーリーをあなたに~全リスト:『レフティやすおの楽しい読書』BNから
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楽器における左利きの世界(17)『左利きの言い分』の音楽家-週刊ヒッキイ第654号

2023-12-08 | 左利き
『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』【別冊 編集後記】

(『まぐまぐ!』: https://www.mag2.com/m/0000171874.html)

第654号(No.654) 2023/12/2
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 楽器における左利きの世界(17)
 大路直哉著『左利きの言い分』の音楽家たちについて」



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇◆◇◆◇◆ 左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii ◆◇◆◇◆◇
【左利きを考えるレフティやすおの左組通信】メールマガジン

  右利きにも左利きにも優しい左右共存共生社会の実現をめざして
  左利きおよび利き手についていっしょに考えてゆきましょう!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第654号(No.654) 2023/12/2
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 楽器における左利きの世界(17)
 大路直哉著『左利きの言い分』の音楽家たちについて」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 今回は、前回予告しましたように、
 9月に出版された大路直哉さんの著書『左利きの言い分』から、
 「第5章 左利きの才人、偉人たち」の音楽家たちについて
 思うところを書いてみましょう。


『左利きの言い分 右利きと左利きが共感する社会へ』大路 直哉/著
PHP新書 2023/9/16


*参照:『レフティやすおのお茶でっせ』
2023.9.6
「日本左利き協会」発起人大路直哉さんの新著『左利きの言い分』9月16日発売
(「新生活」版)
2023.9.20
「日本左利き協会」発起人大路直哉さんの新著『左利きの言い分』9月16日発売
(「新生活」版)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ◆ <めざせ!実現!!左用ピアノ!!!>プロジェクト ◆

 {名のある左利きのアーティストは左用の楽器を演奏せよ!}
- 「左利きに優しい社会」づくりは左用楽器の普及から! -

  大路直哉著『左利きの言い分』の音楽家たちについて
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ●坂本龍一の左利きについての話

「第五章 左利きの才人、偉人たち」の
【鍵盤をめぐる新たな左手の役割と可能性】において、
左利きの音楽家や左手の演奏に関して記載されています。

最初は、今年3月28日に亡くなられた坂本龍一さんについて。


『左うでの夢』というソロアルバムもあるといいます。

左うでの夢(紙ジャケット仕様)坂本龍一 形式: CD 2015/1/21
左うでの夢 坂本龍一 形式: CD 1993/9/21


《生前は自身の左利きについて熱く語ることが間々あった》(p.194)
とありますが、私はまったくといっていいぐらい存じません。

単にファンでなかったというだけではないと思うのですが、
どうでしょうか。


 ●坂本龍一 第4回 「左利き」について言いきる

私が知っていたのは――

2015年4月16日
坂本龍一 第4回 「左利き」について言いきる
https://openers.jp/lounge/4348


《坂本龍一のなんでも相談コーナー。
 ふたりの親御さんからいただいた、左利きにかんする質問に、
 教授がお答えします。》

というもの。


左利きのメリットとでデメリットに関しては

 《ぼくも左利きですが、メリットといえば……ないですね。

  自分が経験した最大のデメリットといえば「習字」。
  子どものころ、しょうがないから右で書いてましたけど、
  当然上手に書けるわけがなくて、
  右利きの人が左で書いているような下手な字でした。
  漢字文化圏の人間としてはいちばんのデメリットです。
  あれにはホントに困った……。》


メリットがないかどうかは、私にもよくわかりません。

具体的にこれで得したということは、左利きだという点を強調すれば、
覚えてもらえることがある、というぐらいでしょうか。
ほぼない、というのが実態でしょう。

強いていえば、少数派ゆえの“特別”な存在、異能の存在である、
とでもいうのでしょうか、“特別”な感じを持てる点でしょうか。

あるいは、大路さんの本にもあるような「不便益」(p.183)――
日常的な不便さから色々考えるようになったり、人の不便に気づいたり、
といった不便さから生まれる「不便の益」があります。


 ●坂本龍一、自身の左利きについて

次に、坂本さんは自身の左利きについて、
左手用のハサミとか缶切りを試してみたが、

 《すごく不便!
  長年、右手用のものを左手で使ってきたんで、
  いまさら左手用を出されても、うまく使えないんですよ。》

といいます。

坂本龍一さんは、1952年1月17日生まれですので、私より二つ上。
ほぼ同年代です。

そのころには、左手・左利き用のハサミというものは、
ほぼありませんでした。

ふつうに右手・右利き用のハサミを使っていました。
しかも昔のハサミは、刃の合わせがいい加減で、がたついていました。
これを自然な左手の持ち方で扱いますと、
刃と刃の間に紙をはさんでしまって切れません。

そこで、微妙な力のいれ加減を身につけて、
初めて使えるようになります。

この持ち方を覚えますと、
当然、左手・左利き用のハサミを使おうとしますと、上手くいきません。
力の入れ方が逆になるからです。


 ●「左利きを直すか」――けしからん!

そして、小学校入学前に「左利きを直すか」と聞かれたという
学校への対応については、

 《日本も戦前までは「右利きになおす」ということが
  徹底されていたみたいですが、戦後からはその風潮も変わって、
  左利きも認められるようになった。

  ……と思っていたのですが、
  まさか学校が「なおすか」などと聞くなんて。

  けしからん!
  そんなもの放っておけ!なおさなくていい!
  と言い張ったほうがいいでしょう。》

と左利きの私からいえば、ごくごく当たり前の回答でした。

最後に余談として、こういう発言がありました。

 《ぼくは左利きだから、脳のはたらきも左右反対なのか、
  と思って調べたことがあります。
  左が言語脳、右は空間脳といわれていますけど、
  テストしてみたら、反対じゃなかったですね(笑)。
  じゃあ、なんで左利きなのかは、ナゾです。》

まあ、これは致し方ありませんよね、私もわかりません。


 ●幼少時の坂本龍一はピアノが右利き用だと気づかなかった?

では、大路直哉著『左利きの言い分』に記された坂本龍一さんは?

 <坂本龍一――左手が脇役であることに納得できなかった>

とあります。

2018年9月2日付け日本経済新聞の特集記事
「音楽家坂本龍一さん、未知の音探す苦しみの先(My Story)」
からのコメントが紹介されています(p.195より、孫引きしておきます)。

 《主役は右手ばかり。左手はいつも脇役に追いやられていた。
  僕は左利きだから、これが納得できなかった。
  「差別じゃないか」とか言ってね。かなり生意気な子どもでした》
      
というのです。

しかし、これは考えてみれば、
「ピアノという楽器が右利き用である」というだけの話で、
右利きの人から見れば、“当然”のことに過ぎません。

そういう意味では、単なる「生意気な子」だったのかもしれません。

坂本龍一さんの自伝『音楽は自由にする』(新潮文庫 2023/4/19)

の幼少のころの部分を読んでも、同じようなことが書かれていました。


『坂本龍一 音楽の歴史 ~A HISTORY IN MUSIC~』吉村栄一/著
 小学館 2023/2/21

の「第一章 少年のころ」によりますと、
幼稚園時代にピアノに触れる機会があった、といいます。

小さいころからピアノという楽器に親しんでいたため、
低音部が左側で、高音部が右側に配置されていて、
右手で主に旋律を左手で伴奏を、という右利きの人にふさわしい形式を、
それが当然のこと、普通の状態と思い込んでいた、ということでしょう。

そういう中にあって、ヨハン・セバスチャン・バッハの楽曲の旋律は、

 《左手と右手を対等に用いるもので、
  「自由」と「反権威」への意識を覚醒させるものだった》pp.194-195

正直、私には楽曲云々というむずかしいことはわかりません。

しかし、大人になって、右利きと左利きの違いや、
右利き用の道具と左利き用の道具の違いなどを理解したのちに、
ピアノといった楽器に出会った私は、
今あるピアノという楽器はまさに右利き用だ、
左利きの自分にとっては不都合な楽器だ、
という明確な意識を持ちました。

坂本さんは、あまりに小さいころから親しんでいたため、
そういう認識が生まれなかったのかもしれません。


 ●バッハは左手と右手が同等に扱われている、というけれど

小学二年の時、ドイツに留学中の叔父宛に、
 《「バッハはすばらしい。
  なぜなら左手と右手が同等に扱われているから」》
と、ハガキを出しているそうです。
(『坂本龍一 音楽の歴史 ~A HISTORY IN MUSIC~』による)

『左利きの言い分』によりますと、

 《バッハの楽曲は、複数の旋律を各々の独自性を保ちながら
  互いを調和させる対位法の集大成と評されます。坂本によれば、
  右手で奏でたメロディーが左手に移ったり
  形を変えて右手に戻る手法に対して、〈バッハでは
  両方の手が同等に動き、旋律とハーモニーの境目もない。
  自由ってこういうことだ〉とのこと。》

とあります。

両手を同等に扱っている、という点を評価するのは、
それはそれでいいのです。
問題ありません。

ただ、他の音楽家はおおむね右利きの人が多く、
単に右利きであるがゆえに、右利き偏重の楽曲になるのは自然なこと、
といってもいいのではないでしょうか。

もし、左利き用のピアノがあって、それで演奏すれば、
右手にあたる部分はみな左手で演奏するわけで、
左利きの人にとっても何も気になるものではないことになります。

左手が主となり、右手の役割が少ない楽曲、ということになりますよね。

楽器が左右反転しているので、曲も単なる左右反転演奏です。


 ●グレン・グールド――異端の演奏法が結果オーライだった?

そして、坂本龍一さんは、自分と同じ左利きのピアニスト・作曲家の
グレン・グールドに夢中になった、といいます。
次はそのグレン・グールドさんです。

『左利きの言い分』の音楽家の二人目は、

<グレン・グールド――
 左利きであったことが唯一無二の演奏スタイルをつくった>

グレン・グールドは、

 《左手のアルペジオが正確であったことやバッハに代表される
  対位法の曲の場合は左利きが有利となったことなど、
  左利きであることが唯一無二の演奏スタイルを確立する
  大きな要因であったという、音楽家・原摩利彦の指摘があります。》

といい、

 《左利きであったからこそ得られた才能と称えられるべきもの》

というのですが、これはいってみれば、
<不便の益>と同じレベルではないか、という気がします。

左利きの人が、自分の身体に合った楽器を使わず、
右利き用の楽器を無理矢理使っているので、
そういう結果が生まれただけではないでしょうか。

異端の演奏法が結果オーライだった、と。

もし左用のピアノを使って、演奏する手の左右は違っていても、
楽譜通りの正統な演奏法で王道の演奏を行えば、
もっと偉大なピアニストになっていた、
という可能性もあったのではないでしょうか。


 ●ビル・エヴァンズ――<不便の益>の音?

次のビル・エヴァンズも同様のことがいえるでしょう。

<ビル・エヴァンズ――左手の演奏が未知の旋律を生んだ>
ですが、多くの評論家が指摘する彼の特徴は、

 《創造性あふれる左手の使い方》だそうです。
以下演奏法のあれこれはむずかしくて理解できませんでしたが、
何やら左手の演奏方法に工夫があるようです。

右利き用のピアノを左手で演奏する中で生まれてきた異色の音、
なのでしょうか。

もしそうなら、これも<不便の益>の音といえますまいか?


 ●右利きの上原ひとみの場合

<余談:上原ひとみ――左手だけの演奏を披露>

アニメのピアニストが右手が使えず左手だけで演奏するシーンを、
左手だけで演奏したというのが、右利きの上原さん。

自身の曲でも、バッハへの敬意を捧げるような、

 《伴奏者じゃなくて、ずっと右手に反応することなく、
  左手が存在するっていうチャレンジ》

をやって見せた、ということです。

右利きの人でも、左手で異端の演奏をする例ということでしょうか。


 ●左用のピアノがあれば

先の二人、グールドとエヴァンズも、
左利きの人が右利き用のピアノで異端の演奏を行い、
結果として、それが一つの魅力となった例といえないでしょうか。

上原さんの場合も、左手の常識的な役割を越えた演奏の結果、
異質な演奏を実現したといえそうです。

大路さんは、
「第六章 「右利き社会」から「左利きに優しい社会」づくりへ」
【左利きに言いたい! 個人の能力開発以上に大切にしたいこと】
の中の、<有能と目される左利きが陥りやすい罠>で、

 《左利きは脳科学的に優れた才能を持つ――
  左利きとして生まれたことが選ばれし民のごとく賞賛され、
  「右利き社会」の中で右利きでは得難い能力を発揮できる
  といった話題が跡を絶ちません。(略)自己の能力開発のみに
  固執し自画自賛するだけでは、「利き手の左右を越えた
  やさしい人間社会や生活空間づくり」への意志を
  他者と分かち合うことなど、土台無理な話。/
  さらに左利きの才能を強調すればするほど、「右利き社会」の
  現状に甘んじてしまう危惧の念を抱きかねません。》pp.239-240

と訴えておられます。
その通りだと思います。

その伝で行きますと、先の音楽家の方々も、現状に満足することなく、
左用のピアノを使えるように、という運動を起こして欲しかった、
という気がします。

坂本龍一さんなどは、左利きの音楽家として、
晩年には相当な知名度をほこる人物であったはずで、
メーカーさんに左用のピアノを所望すれば、
アコースティックのピアノはむずかしくても、
電子ピアノなら試作してもらえたかもしれないのでは? 
と私などは考えてしまいます。

左用のピアノがあれば、右手主体の楽曲であっても、その裏返しで、
左手主体の演奏でカバーできるのですから。

左用のピアノがあれば、従来は左手と右手のバランスの悪さから、
「凡人」レベルで留まっていた左利きの演奏家も、
自分らしく、左手主体の演奏ができるようになり、「才能あり」や
「名人」クラスの演奏家になれるかもしれません。

今まではあきらめていた「凡人」以下の「才能なし」の左利きの人も、
「凡人」レベルの演奏を楽しむアマチュア演奏家程度には
なれるかもしれません。

自分の身体に合った道具の有効性は、多くの方がご存知のはず!
楽器もまた同様です。


 ●「左利きに優しい社会」づくりは左用楽器の普及から!

プロ野球のアメリカ大リーグのアメリカン・リーグのMVPに
満場一致で選ばれた“投打”二刀流でかつ“左右”二刀流でもある、
大谷翔平選手は、契約メーカーの協力をえて、
日本の小学校2万校に、右利き用に2個と左利き用1個のグローブを、
「野球やろうぜ!」の言葉とともに寄贈する、といいます。

日本を代表するような左利きのビッグなアーティストのみなさんにも、
右利き用のギター二本、左利き用のギター一本を、子供たちに
「音楽やろうぜ!」の言葉とともにプレゼントするような企画を
ぶち上げてほしいものです。

(もちろん、日本の芸能人、タレント、アーティスト、アスリートの
 皆様方も、それぞれに社会福祉に尽力されているという事実は、
 見聞きしております。がしかし、今回の大谷選手のような事例を
 目の当たりに致しますと、やはり……。)

 ・・・

音楽は人の心を癒やすもの、決して贅沢品ではありません。
生活必需品です。

左用の楽器を普及させ、右利きの人だけでなく、
左利きの人にも音楽の、楽器演奏の喜びを感じてもらえる、
「右利き偏重の社会」から、
「左利きの人にも優しい社会」へ変えてゆきましょう!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25― 楽器における左利きの世界(17)大路直哉著『左利きの言い分』の音楽家たちについて」と題して、今回も全紹介です。

左利きの音楽家、ここではピアニストですが、プロのピアニストの方々は、やはり幼少時からこの楽器に親しんでいるため、ごくごく普通にこの楽器の仕様を受け入れてしまっているように感じました。

右利き仕様であることを自然と受け入れている。
そのため、ご自身左利きでありながら、この仕様が不便だと思うことが少なくなっているように思います。

坂本龍一さんは、左手の役割が不当に差別されている、という印象はお持ちなのですが、それが楽器の仕様のせいだという点に気付いていないのか、それとも気付いていても黙っているのか、その辺のところはわかりません。
しかし、これはやはり問題だと私には思えます。

トップに立つ人が黙っていると、下のものはあれこれ意見することがむずかしくなりますから。
亡くなった人にあれこれいうのはどうかとも思いますが、私のこの気持ちは理解していただきたいものです。

 ・・・

弊誌の内容に興味をお持ちになられた方は、ぜひ、ご購読のうえ、お楽しみいただけると幸いです。

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』


『レフティやすおのお茶でっせ』
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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載

" target="_blank">楽器における左利きの世界(17)『左利きの言い分』の音楽家-週刊ヒッキイ第654号

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クリスマス・ストーリーをあなたに~(13)-2023-「道」もうひとつのサンタ物語-楽しい読書355号

2023-12-03 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

2023(令和5)年11月30日号(No.355)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(13)-2023-
 シーベリン・クィン「道」もうひとつのサンタ物語」


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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2023(令和5)年11月30日号(No.355)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(13)-2023-
 シーベリン・クィン「道」もうひとつのサンタ物語」
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 今年もはやクリスマス・ストーリーの紹介の季節となりました。

 昨年は古典編でしたので、今回は現代編です。
 といいましても、必ずしもつい最近の作品というのではなく、
 過去の現代編でもそうでしたが、二十世紀の後半や
 前半の作品も含まれていました。
 今回もそういう一つと思われる作品で、正確な発表年代は不明です。


★彡★彡★彡★彡★彡★彡★彡★彡★彡★彡★彡★彡★彡★彡★彡★彡
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-クリスマス・ストーリーをあなたに (13)- 2023

  ~ もうひとつのサンタ物語 ~

  シーベリン・クィン「道」

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 ●過去の ~クリスマス・ストーリーをあなたに~

一回毎、一年ごとに【古典編】と【現代編】を交互に紹介してきました。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

【古典編】
 チャールズ・ディケンズ『クリスマス・キャロル』『鐘の音』
 ワシントン・アーヴィング『昔なつかしいクリスマス』
 ライマン・フランク・ボーム『サンタクロースの冒険』
メアリー・E・ペン「ファンダーハーフェン老人の遺言状」
 クリストファー・モーリー「飾られなかったクリスマス・ツリー」

【現代編】
 トルーマン・カポーティ「あるクリスマス」「クリスマスの思い出」
 アガサ・クリスティー「水上バス」
 コニー・ウィリス「ひいらぎ飾ろう@クリスマス」「まれびとこぞりて」
 梶尾真治「クリスマス・プレゼント」、ジョー・ネスボ『その雪と血を』
 ドナルド・E・ウェストレイク「パーティー族」

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

参照:
『レフティやすおのお茶でっせ』2023.11.27
クリスマス・ストーリーをあなたに~全リスト:『レフティやすおの楽しい読書』BNから


 ●サンタクロース誕生物語

今回は、角川文庫の昭和53(1978)年発行の
クリスマス・ストーリーのアンソロジー全二巻のうち、
『贈り物 クリスマス・ストーリー集1』に収録されている作品
シーベリン・クィン「道」を紹介します。

実は、もうひとつの「サンタ物語」です。

サンタクロースの誕生物語というのが、結構色々あります。

以前紹介しました、『オズの魔法使い』の作者
ライマン・フランク・ボームの『サンタクロースの冒険』も、
そういうものの一つです。

*参照
2013(平成25)年11月30日号(No.117)-131130-  
クリスマス・ストーリーをあなたに~
 『サンタクロースの冒険』ライマン・フランク・ボーム

『サンタクロースの冒険』
The Life and Adventures of Santa Claus (1902)
ライマン・フランク・ボーム/著 田村隆一/訳 和田誠/イラスト
扶桑社エンターテイメント(1994.10.30) [文庫本]


新訳版で――
『サンタクロース少年の冒険』矢部 太郎/イラスト 畔柳 和代/訳
新潮文庫 2019/11/28


 ●シーベリン・クィン「道」荒俣宏訳

『贈り物 クリスマス・ストーリー集1』長島良三/編 角川文庫
 1978(昭和53)/11/30



(画像:角川文庫版のクリスマス・ストーリーのアンソロジー全二巻『贈り物 クリスマス・ストーリー集1』、『クリスマスの悲劇 クリスマス・ストーリー集2』)

ボームのサンタ物語は、オズの作者らしく、
童話っぽいファンタジーでした。

一方こちらのシーベリン・クィンの作品は、
パルプ・マガジンの作家だけあって、
おとな向けのリアル系のファンタジーです。

パルプ・マガジンといいますのは、
アメリカの1920年代あたりから始まった、安っぽい紙に印刷され、
ドラッグストアなどで売られていた、お手頃値段の、
主に労働者や子供向けのミステリやSF、怪奇・幻想小説などを掲載した
娯楽読み物雑誌の総称です。
今では文学史にも登場するダシール・ハメットにしろ、
新潮文庫にも収録されたH・P・ラヴクラフトなども、
ここを舞台に活躍していた作家でした。

そういう雑誌に長短いくつもの作品を発表していたのがクィンです。
本編収録アンソロジーの巻末の編者・長島良三さんの
「解説・作者紹介」によりますと、1925~1952年にかけて、
怪奇・幻想小説、冒険小説、探偵小説など145篇を書きまくった
といいます。
本編もそういう一つです。

私は、本編をこの作品集以前にどこかで読んだ記憶があります。
たぶん雑誌、『SFマガジン』だったかと思います。
1970年代だったでしょう。
その時もこういうサンタクロースの誕生までを描く物語という、
クリスマス・ストーリーもあるんだなあ、と思ったものでした。


 ●ストーリー「一 ベツレヘムへの道」

主人公はヘロデ王に仕え、闘技場で多くの剣闘士たちと戦い、
勝ち抜いてきた剣闘士だった男。
ノルウェー式の単純なクラウスという名を
クラウディウスと呼ばれる北方人。
奉仕の期間を終え、故郷に帰る途中、ヘロデ王の私兵が、
ユダヤ人の女から抱いている赤子を奪い殺すところを見る。
その後、エジプトへ逃げる赤子をつれた夫婦を襲う私兵を殺し助ける。

そのとき、赤子の声が心に聞こえる――

 《「クラウス、クラウス」やさしくその声は響くのだった。
  「なんじが余に慈悲を与えたゆえに、なんじの生命を
  幼児の自由のために投げ捨てたゆえに……余はなんじに告げる。
  なんじが余のためになすべき仕事を果たし終えるまで、
  なんじは決して死の暗き翼に包まれることなきを……」》p.199

 《なんじは汝の生命と引きかえに幼子の生命を守った。
  それはなんじの両親の賜物。(略)笑い合う幸福な子供たちが、
  永久になんじの良心と愛の美しさを称えることだろう。
  そして人々が、余の生誕日を祝うかぎり、なんじは永遠にすべての
  幼な子の心に生きるのだ」》p.200

 《「なんじの名を子供たちが口にするかぎり……」/
  「わしは万能の英雄になるのだろうか」/
  「幼い時代のなつかしい思い出を胸にいだくすべての人類によって
  称えられる愛の英雄……」》pp.200-201


 ●「二 カルバリへの道」

その結果、彼は追われる身となり、避難所としてローマ軍の兵士となり、
ヘロデ王の後継者の追っ手に捕まることなく、
いつしか、ローマのユダヤ提督ピラトとともに
イェルサレムの胸壁に立つ百人隊長となる。

ユダヤの僧侶たちは、総督を意のままにしようとするが、ピラトは
一個の軍隊しか持たず、彼らを屈服させることができないことを歎く。

今、ガリラヤから来た説教師がユダヤの王を名乗っているという話が、
ピラトの悩みだという。
しかし、クラウディウスは、彼は我々はみな兄弟、神を畏れ、王を敬い、
ローマ皇帝のものはローマ皇帝に返すのだ、という。

ところが大祭司カヤパは、彼は謀反を企てているので、
帝国への反逆を説いた人物として、十字架刑にかけよ、
と圧力をかけているという。

街の人々からイエスは救世主だと言われているなかで、
ゴルゴタの丘で三人の十字架刑が行われる。

ピラトは、「こはイエス、ユダヤの王なり」と書いたものを
受刑者の頭の上に掲げるように、クラウディウスに持たせる。

クラウディウスは、茨の冠をかぶせられた血まみれの男に
施しの水を与え、足を砕けというカヤパの言葉に逆らい、
人間らしい死に方を与えてやれと、槍を心臓に打ち込む。

その時、彼は声を聞く。
この預言者こそ、そのむかし、
エジプトへ逃げる夫婦を助けたときの赤子だったと知る。

その後、地震に襲われ足を痛めた女を助けるが、
その女は、その朝、処刑された預言者のあとを追うため
卑しい職業を捨てた売春婦だった。

恐ろしい病に犯され、十字架を背負って丘を上る途中、彼に声をかけ、
主の治療を受け、治った、元の汚れのない乙女のように清らかとなった、
という。

しかし、彼女を蔑むクラウディウスに、また声が聞こえる。

 《「女をさげすむのではない。余は彼女に慈悲を垂れた。
  そしてなんじも――余も――彼女を必要とするのだ。
  クラウス、彼女をなんじのものとするのだ》pp.222-223

こうしてクラウスは、彼女をウナと名付け、妻とする。

 《「いとしい妻よ、主はいわれたぞ。わしにはおまえが必要だとな」
  (略)「主ご自身もおまえが必要だと、そういわれたぞ。
  わしたちは主のお声を聞き、主に召されるときはいつでも、
  喜んで応えるのだ。(略)」》p.227


 ●「三 長い長い道」

ピラトと共に過ごしたクラウディウスは、ピラトの死後、
武勇の誉れ高い強者を必要とするローマへ。

今や、かの預言者は広くヨーロッパで信仰されていた。
しかし、クラウスは言う。

 《「この世に生きる人間のうちでも、僧侶ぐらい
  性質を変えん人種はおらんな。あの薄汚い奸計を弄して
  主を十字架にかけたのは、カヤパとその一党だったし、近ごろでは
  主が生命とひき替えにされた真実を偽りに変え、
  秘に付してしまっているのは、なんと主の神官であり奴隷であると
  自称する僧侶たちなのだからな!」》p.233

ときは移り変わり、ある年のクリスマス、
二人はライン川沿いの小さな町に仮の小屋を設け暮らしていた。
その年の収穫は少なく、農家はその日の飢えをしのぐのがやっとで、
クリスマスの宴を祝う気力さえなかった。

貧しい家の子供たちを喜ばせるためにクラウスは、
小さな橇を削り出した。
それを見たウナは、もっと作るようにいい、
自分は倉にある蓄えでお菓子を作るという。

冷たいクリスマス・イヴ、クラウスは赤いマントをまとい、
ささやかな贈り物を積んだ小さな橇を子供たちの家に届けてまわった。
寒さに眠れなかった一人の子供だけがその姿を見かけた。

子供はその体験を語った。
だれもが口をそろえて、聖(サンタ)クラウスと呼んだ。

しかし、聖職者たちは、町の統治者に堕天使の汚れた企みに違いない
と非難し、取り押さえるように進言する。

町の人の知らせに、二人は脱出に成功し、来たの国へと逃避行を続ける。

こうして二人は北欧のラップランドをこえ、土地の人が寄りつかない、
九つの小さな丘が環状に取り囲む谷間に辿り着く。

そこには、古い言い伝えにより人々が恐れる小人たちが住んでいた。
しかし彼らは隣人のために奉仕することを願っていた。 

すると、クラウスに再び、あのなつかしい声がこう告げた。

 《「クラウス、なんじにはこの小さき者たちの手助けが要る。
  なんじの足もとに開ける道を、彼らとともに歩め」》

クラウスは、彼らの職工としての腕を活かし、
おもちゃと作るように提案する。
できた贈り物は自分が、
お前たちの名を呼んで歓んでくれる子供たちのもとに届ける、と。

小人たちをのせて魔法の橇でさらなる北方の地に赴き、一軒の家を建て、
そこでウナの指導もあって、彼らはおもちゃ作りに精を出す。

そして、ふたたびクリスマスの季節が来る。
クラウスは、できあがったおもちゃを魔法の橇に乗せ、
八頭のトナカイを呼び寄せて、おもちゃを配ってゆく。
配り終えたクラウスは家に帰り、妻のウナや小人たちを宴を催し、
子供たちの幸福を祈りながら、杯を重ねるのだった。

 《今日でもクラウスは現に生きている。
  毎年十億人もの幸福な子供たちが彼の訪れを待っている。
  彼はもう百人隊長クラウディウスでもなければ、
  北方の戦士クラウスでもない。幼な子を守護する慈愛ぶかい聖者、
  サンタクロースなのだ。彼の職務は、二千年前のあの夜、
  主が選びたもうたもの。彼の道は、救世主の生誕日が人々に
  祝われるかぎりもどることを知らない、長いながい道――》p.242

―終わり―


 ●リアルでホットな物語

サンタクロースのモデルになったといわれるのが
「聖(セント)ニコラス」または「聖(セント)ニコラウス」。

小アジア(現在のトルコ)のミラという町の司教で、
町の貧しい人たち、特に小さな子供たちを大事にして、
死後、聖人としてあがめられ、亡くなった12月6日は、
「聖ニコラウスの祭日」とされた、とか。

クリスマスやサンタクロースに関しては、色々なお話があります。

だれもがこういう起源についてのお話を書いてみたい、
と思うものでしょう。

クィンもそういう一人だったようです。
彼のお話は、リアルなファンタジーと言えるのではないでしょうか。

「講釈師、見てきたようなウソをつき」とかいいますが、
エジプトへ逃げようとする赤ちゃん連れの夫婦を襲う兵士との戦闘、
ゴルゴタの丘でのイエスの磔の場面など、リアルに描きつつ、
だんだんとイエスの声を通して、
ファンタジーの世界へと導いてゆきます。

リアルでホットな物語という気がします。
機会があれば、一度読んでみても損はないでしょう。

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本誌では、「クリスマス・ストーリーをあなたに~(13)-2023-シーベリン・クィン「道」もうひとつのサンタ物語」と題して、今回も全文転載紹介です。

本文中でも紹介していますが、過去の「~クリスマス・ストーリーをあなたに~」で紹介した作品をリストアップしてみました。

『レフティやすおのお茶でっせ』2023.11.27
クリスマス・ストーリーをあなたに~全リスト:『レフティやすおの楽しい読書』BNから

クリスマス・シーズンの読書ガイドの足しにでもしていただけると嬉しく思います。

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*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

『レフティやすおのお茶でっせ』
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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載

" target="_blank">クリスマス・ストーリーをあなたに~(13)-2023-「道」もうひとつのサンタ物語-楽しい読書355号

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