レフティやすおの新しい生活を始めよう!

50歳からが人生の第二段階、中年の始まりです。より良き老後のために良き習慣を身に付けて新しい生活を始めましょう。

<夏の文庫>フェア2024から(1)角川文庫『ナミヤ雑貨店の奇蹟』東野圭吾-楽しい読書370号

2024-07-16 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書(まぐまぐ!)
【別冊 編集後記】


2024(令和6)年7月15日号(vol.17 no.13/No.370)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2024から(1)角川文庫・
『ナミヤ雑貨店の奇蹟』東野圭吾」



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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2024(令和6)年7月15日号(vol.17 no.13/No.370)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2024から(1)角川文庫・
『ナミヤ雑貨店の奇蹟』東野圭吾」
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 今年も毎夏恒例の新潮・角川・集英社の
 <夏の文庫>フェア2024から――。

 昨年同様、一号ごと三回続けて、一社に一冊を選んで紹介します。

 第一回は、角川文庫から東野圭吾さんの『ナミヤ雑貨店の奇蹟』を。


【角川文庫の夏フェア】
「カドイカさんとひらけば夏休みフェア2024」特設サイト
https://note.com/kadobun_note/n/n94088457149e

集英社文庫『ナツイチ2024』フェア-
ナツイチ2024 言葉のかげで、ひとやすみ
https://bunko.shueisha.co.jp/natsuichi/

「新潮文庫の100冊 2024」フェア
https://100satsu.com/


(画像:新潮・角川・集英社 三社<夏の文庫>フェア2024のパンフレット)

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 ◆ 2024年テーマ:夢か奇蹟の物語 ◆

  新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2024から(1)

  角川文庫・『ナミヤ雑貨店の奇蹟』東野圭吾
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

●【角川文庫の夏フェア】

まず今回は、角川文庫から。

例年は新潮文庫から始めていましたが、
今年、集英社と角川文庫は、6月からスタートで、
新潮文庫は、7月1日スタートとのことでしたので、
早かったこの二社の内、すぐにこれだという本を見つけた順、
という感じで。


【角川文庫の夏フェア】
「カドイカさんとひらけば夏休みフェア2024」特設サイト
https://note.com/kadobun_note/n/n94088457149e

まずは、出版社の言葉――

--
■ はじめに
今年のテーマは「カドイカさんとひらけば夏休みフェア」!
本を読むことって、なんだか難しそう。
たくさんある本の中から、楽しいと思える1冊が見つかるかわからない。
そう思っている人は、少なくないはず。

けど、今年の夏は、
まずは1冊、本をひらいてみませんか?

カバーイラストが可愛い。
推しが好きと言っていた。
あらすじが面白そうだった。
きっかけは、なんだっていい。

目にとまった1冊をためしにひらけば、ドキドキ、わくわく、ハラハラ……
あたらしい世界がひらけるはず!
--

ということで、ラインアップを挙げておきましょう。


■ フェア対象書籍のご紹介
対象作品一覧①「はじめての扉!」13点

湊 かなえ『ドキュメント』『ブロードキャスト』
重松 清『かぞえきれない星の、その次の星』
伊与原 新『オオルリ流星群』
君嶋彼方『君の顔では泣けない』
米澤穂信『氷菓』
恩田 陸『ドミノ』
森沢明夫『エミリの小さな包丁』
斜線堂有紀『ゴールデンタイムの消費期限』
朝井リョウ『星やどりの声』
東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』
原田ひ香『ギリギリ』
クレハ『結界師の一輪華』


対象作品一覧②「ミステリの扉!」15点

米澤穂信『黒牢城』
浅倉秋成『六人の噓つきな大学生』
染井為人『悪い夏』
堂場瞬一『刑事の枷』
歌野晶午『家守』
東川篤哉『谷根千ミステリ散歩 中途半端な逆さま問題』
藤崎 翔『神様の裏の顔』
芦沢 央『僕の神さま』
五十嵐律人『六法推理』
鳴神響一『脳科学捜査官 真田夏希』
柚月裕子『検事の信義』
太田 愛『幻夏』
東野圭吾『鳥人計画』『夜明けの街で』『ラプラスの魔女』


対象作品一覧③「ホラーの扉!」&「名作の扉!」13点

■ ホラーの扉!
辻村深月『闇祓』
宮部みゆき『よって件のごとし 三島屋変調百物語八之続』『おそろし
三島屋変調百物語事始』
芦花公園『極楽に至る忌門』(角川ホラー文庫)
内藤 了『FIND 警察庁特捜地域潜入班・鳴瀬清花』(角川ホラー文庫)
小野不由美『ゴーストハント1 旧校舎怪談』
辻村深月『きのうの影踏み』
中野京子『怖い絵』

■ 名作の扉!
芥川龍之介『蜘蛛の糸・地獄変』
夏目漱石『こゝろ』
宮沢賢治『注文の多い料理店』
梶井基次郎『檸檬』
オイゲン・ヘリゲル 訳・解説=魚住孝至『新訳 弓と禅 付・「武士道的
 な弓道」講演録 ビギナーズ 日本の思想』(角川ソフィア文庫)


対象作品一覧④「ベストセラーの扉!」16点

佐藤 究『テスカトリポカ』
山田風太郎『八犬伝』上・下
高杉 良『転職』
群 ようこ『老いとお金』
雹月あさみ『トイレで読む、トイレのためのトイレ小説 よりぬき文庫』
(富士見L文庫)
坪田信貴『学年ビリのギャルが1年で
 偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話[文庫特別版]』
若林正恭『完全版 社会人大学 人見知り学部 卒業見込』
群 ようこ『これで暮らす』
垣谷美雨『うちの父が運転をやめません』
大泉 洋『大泉エッセイ僕が綴った16年』
松村涼哉『ただ、それだけでよかったんです【完全版】』
(メディアワークス文庫)
道草家守『青薔薇ブルーローズアンティークの小公女』(富士見L文庫)
パウロ・コエーリョ 訳=山川紘矢 山川亜希子
 『アルケミスト 夢を旅した少年』
伊坂幸太郎『グラスホッパー』『マリアビートル』『AX アックス』


対象作品一覧⑤「特別企画」&「コラボカバー」16点

■【朗読アリ】KISHOW(谷山紀章)さん おすすめ本
星 新一『きまぐれロボット』(★朗読アリ)
恩田 陸『ユージニア』(★朗読アリ)
小林泰三『人獣細工』(角川ホラー文庫)(★朗読アリ)
伽古屋圭市『猫目荘ねこのめそうのまかないごはん』
原田マハ『さいはての彼女』
■【朗読アリ】「文豪ストレイドッグス」コラボカバー作品
中島 敦『李陵・山月記 弟子・名人伝』(★朗読アリ)
泉 鏡花『高野聖』(★朗読アリ)
坂口安吾『暗い青春』(★朗読アリ)
芥川龍之介『羅生門・鼻・芋粥』
江戸川乱歩『魔術師』
中原中也 編=佐々木幹郎『汚れつちまつた悲しみに…… 中原中也詩集』
太宰 治『斜陽』『人間失格』
■ mt masking tape コラボカバー作品
太宰 治『女生徒』
宮沢賢治『銀河鉄道の夜』
田辺聖子『ジョゼと虎と魚たち』

対象作品一覧⑥「Pick Up!」19点

■ 号泣文庫
汐見夏衛『ないものねだりの君に光の花束を』
一条 岬『今夜、世界からこの恋が消えても』(メディアワークス文庫)
岩井圭也『永遠についての証明』
山田悠介『スイッチを押すとき』
■ ハラハラ文庫
伊岡 瞬『残像』
染井為人『震える天秤』
本城雅人『宿罪 二係捜査(1)』
畑野智美『消えない月』
■ 猫文庫
西 加奈子『きりこについて』
夏目漱石『吾輩は猫である』
■ 大活字で読める文庫
太宰 治『100分間で楽しむ名作小説 走れメロス』
江戸川乱歩『100分間で楽しむ名作小説 人間椅子』
森 絵都『100分間で楽しむ名作小説 宇宙のみなしご』
恒川光太郎『100分間で楽しむ名作小説 夜市』
■ 時代文庫
鈴木英治『江戸の探偵』
横山起也『編み物ざむらい』
■ ごちそう文庫
標野 凪『ネコシェフと海辺のお店』
長月天音『キッチン常夜灯』
秋川滝美『おうちごはん修業中!』

――以上、92点。

既読は十数点ぐらいです。
夏目漱石、宮沢賢治、泉鏡花、芥川龍之介、太宰治、中島敦等の文学系。
エンタメ系では、江戸川乱歩、宮部みゆき辺りは読んでいるかも、程度。
作品としては、昨年の<私のベスト3>に選んだ、山田風太郎『八犬伝』。

そんな感じでほぼ全滅に近い状況です。
例年、この機会に新しい作家さんとの出会いを考えるのですが、
せいぜい3社合わせて一人程度ですね。

今年も結局は、昨年(集英社文庫『白夜行』)に引き続いて、
また東野圭吾さんにしました。


 ●東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』

東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』角川文庫 2014/11/22

(画像:【角川文庫の夏フェア】「カドイカさんとひらけば夏休みフェア2024」パンフレットと『ナミヤ雑貨店の奇蹟』)

フェアの紹介文によりますと――

--
東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』

東野作品史上最も泣ける感動作! 手紙が紡ぐ奇蹟の物語。

悪事を働いた3人が逃げ込んだ廃屋。
そこはかつて悩み相談を請け負っていた雑貨店だった。
店内に突然届いた、悩み相談の手紙。
過去と現在、時空を超えた温かな手紙交換が始まる。
悩める人々を救ってきた雑貨店は、再び奇蹟を起こせるか? 
心ふるわす物語。
--


(画像:【角川文庫の夏フェア】「カドイカさんとひらけば夏休みフェア2024」)パンフレットの『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の紹介ページと『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の本と)

ストーリーは、窃盗程度の悪さしかできない青年三人組が
逃げ込んだ廃屋で出会う“奇蹟”の物語です。

なかなかのハート・ウォーミングなお話です。

東野さんといえば、ミステリ、推理小説の印象ですが、
こういうファンタジー系の小説もあるのですね。
へぇー、という感じでした。

そういう点からこの作品に決めました。


 ●主なストーリー

こういうエンタメ系の小説では、あまり詳細なストーリーを語りますと、
興ざめな面となりますので、ポイントだけを紹介しましょう。

彼らが逃げ込んだこの「ナミヤ雑貨店」は、
週刊誌でも取り上げられたほどの、悩みの相談で有名となった店でした。
最初は小学生のとんち話的ないたずら半分の相談でしたが、
あるとき真剣な悩みの相談があり、それ以来、
悩みの相談は深夜までに店のシャッターの郵便受けに入れてもらい、
返事は裏通りの牛乳配達箱に入れる、というルールができました。

彼らの潜り込んだこの店に、なんと相談の手紙が投入されます。
彼らは、一から相談された経験も無く、それが逆に新鮮で、
自分らなりに考えて答えを書きます。

 《「だってさ、ふつうなら俺たちが誰かの悩みを聞くなんてこと
  ないだろ。俺たちになんか、誰も相談しようとしない。
  たぶん一生ないぜ。これが最初で最後だ。
  だから一回ぐらいいいじゃないかってこと」》p.29

オリンピックを取るか不治の病の恋人の看病を取るか、
という悩みでした。

彼らの何度かの返事に対し、最終的にお礼の手紙が来ます。

 《(略)「誰かの相談に乗るなんてこと、これまでの人生では一度も
  なかったからなあ。まぐれでも結果オーライでも、相談して
  よかったと思われるのは嬉しいよ。(略)」》

するとまた第二の手悩みの相談が届きます。
音楽の道を進むべきか、というものでした。(以下、第2章)

彼らは、相談者とのやりとりの末、彼の曲を聞き、
音楽の道を進むのはムダにならない、あなたの曲で救われる人がいる、
あなたの音楽は残る、それだけは信じてくださいと答えます。

なぜならそれは、彼らの知っている曲だったからです。

彼らが潜り込んだこのナミヤ雑貨店は、なぜかタイムマシンのように、
相談者たちの過去と彼らの現在をつなげるものだったのです。

第3章では、このナミヤ雑貨店の店主で相談役の親父さんが登場します。

人生相談を始めたいきさつを語り、
いつしかこの人生相談が生きがいとなったこと、
しかしある事件をきっかけに、自分の回答が本当に役にたったのか、
実状を知りたいと思うようになり、息子さんにあることを依頼します。

それは自分の33回忌の日に、一度だけこの相談受付が再開される、
という告知でした。

その時、病院を抜け出した店主は、多くの礼状を手にします。
それはもちろん未来からのものでした。

 ・・・

このナミヤ雑貨店のあるまちの近くに丸光園という養護施設があり、
こことナミヤ雑貨店には何かしら因縁があるようなのです。

この丸光園は女性篤志家が始めたもので、
死後も天の上から見守っていると言い残したといういわくつきでした。
ところが、その後丸光園を引き継いだ男が悪いやつで、
園の存続が難しくなっていました。

そんな時にこの事件が起こったのでした……。


 ●悩みと人生相談とその回答について

このナミヤ雑貨店と丸光園との関係は、読んでのお楽しみということで、
ここでは、悩みと人生相談とその回答の在り方について、
考えて見ましょうか。

相談の回答者となった浪矢雄治はこう言います。

 《「(略)『ナミヤ雑貨店』に手紙を入れる人間は、
  ふつうの悩み相談者と根本的には同じだ。心にどっか穴が
  開いていて、そこから大事なものが流れ出しとるんだ。その証拠に、
  そんな連中でも必ず回答を受け取りに来る。(略)ナミヤの爺さんが
  どんな回答を寄越すか、知りたくて仕方ないわけだ。(略)
  だからわしは回答を書くんだ。一所懸命、考えて書く。
  人の心の声は、決して無視しちゃいかん」》p.142

息子の貴之は、子供たちが巣立ち、十年前に妻を亡くし、一人暮らしの
父親にとって、たぶん生きがいというやつなんだろう、と思うのでした。

 《「長年悩みの相談を読んでいるうちわかったことがある。多くの
  場合、相談者は答えを決めている。相談するのは、それが正しい
  ってことを確認したいからだ。だから相談者の中には、回答を
  読んでからもう一度手紙を寄越す者もいる。たぶん回答内容が、
  自分が思っていたものと違っているからだろう」(略)
  「これも人助けだ。面倒臭いからこそ、やり甲斐がある」》p.150

そんな雄治が店を閉じます。

 《(略)大事なのは、あのときのわしの回答が本当に正解だったのか
どうかだ。
  (略)これまでに書いてきた無数の回答が、それぞれの相談者たちに
  とってどうだったのかが重要なんだ。わしは毎回、懸命に考えて
  答えを書いてきた。適当に書いたことなんてただの一度もない
  と断言できる。しかしそれでも、その回答が相談者たちのために
  なったかどうかはわからない。もしかしたら、わしの回答の通りに
  行動して、とんでもなく不幸になってしまった、なんてこともある
  かもしれない。そのことに気付いた瞬間、わしはもういてもたっても
  いられなくなったんだよ。もう、気楽に相談窓口を開けている気分で
  はなくなった。だから店を閉めたんだよ」》p.172

 《(略)わしの回答が、誰かの人生を狂わせてしまったのではないか
  と思うと、夜も眠れなかった。病気で倒れた時も、わしは思ったん
  だ。これは天罰じゃないか、とね」》p.172

そして夢の中で、相談者たちが自分の人生がどう変わったかを知らせる
手紙を投函してくれるのを、雄治は知るのでした。
今行けばそれを受け取れると、貴之に話すのです。
そして実現します。

 《「(略)殆どが、わしの回答に感謝してくれている。
  それはありがたいと思うが、読んでみると、わしの回答が役に立った
  理由はほかでもない、本人の心がけがよかったからだ。本人に、
  真面目に生きよう、懸命に生きようという気持ちがなければ、
  たぶんどんな回答を貰ってもだめなんだと思う」》p.180-181


 ●70年生きてきて思ったこと

そう、たぶんそうなんでしょうね。
結局はどんな人生を生きるかは、本人の心がけによる、ということ。

そして、70年生きてきて私が思うことは、
やっぱり自分らしくある、ということ。

どんな時もどんな状況にあっても、
本来の自分の在り方を変えることなく、生きてゆくという姿勢が大事だ、
と思うのです。

自分らしく、といっても難しいのですが、
自分の性格に合わせた生き方というのでしょうか、
真面目な人は真面目に、ちょっと大胆な人は大胆に、
でも、大胆にとはいっても、基本的には階段を一段ずつ登るように、
こつこつやる、ということです。

人生に近道はない、ということ。

で、やるべき時にはやる、ということ。

「幸運の女神には前髪しかない」という言葉があります。
「チャンスの女神には後ろ髪がない」ともいいます。

「後悔先に立たず」ともいいます。

やってしまったこと、もしくは逆にやらずにしまったことは、
後からではどうすることもできない、ということです。

チャンスは確実にその時にしっかりとつかんでおけ、という教えです。

そうはいいましても、なかなか潔く決断できないのが、人間です。

でも、それはそれでいいのだと思います。
人生に遅すぎるということはない、ともいいますから。


昨今は、人生100年時代ともいいます。

若い頃のようには行かなくても、
それなりに生きることはできるようです。

要は、あきらめないことでしょうか。

私も今この程度のことはできています。
毎日こつこつと積み重ねることで、できることもあるようです。


青年たちが投じた白紙の手紙に対するナミヤ雑貨店の爺さんの回答が、
一つの答えかも知れません。
(あえて引用は辞めておきます。)


 ●奇蹟は起こる?

奇蹟は、本当に起こるのでしょうか。
もちろん、そんなことはわかりません。
しかし時には、起こって欲しい、
という願いを抱かせるものでもあるように思います。

ある人が一生懸命生きているのならば、
その人のまわりではなにかしら良いことが起きてほしいものです。

そうでなければ人生なんて、
生きるに値しないものになってしまいますから。

神様仏様が存在するのなら、ときには奇蹟も起こってほしいものです。

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本誌では、「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2024から(1)角川文庫・『ナミヤ雑貨店の奇蹟』東野圭吾」と題して、今回も全文転載紹介です。

私は人生相談というものに特別に興味はないものの、新聞の人生相談などはつい見てしまうことがあります。
どういうものを見るかといいますと、やはり自身高齢化したこともあって、そういう手の老後の在り方といったものですね。
それと、逆に若者の進路相談などにもつい目が行くことがあります。

よりよい人生航路を始めて欲しいという願いが出てしまうようです。

さて、本書では、未来を知っているゆえに、青年たちでも適切な相談ができてしまう部分があって、こういう風に未来を見通し、人生を俯瞰して生きて行ければいいのになあ、と思ってしまいますね。

実際には、白紙の人生であっても、そこにどんな人生地図を書いてゆくのか、人それぞれなわけです。
むずかしいけれど、だからこそおもしろいとも言えるわけです。

死の瞬間まで人は迷いながら生きてゆくものなのでしょうか。
あるいは、ある瞬間になにかしら確かな確信を抱けるものなのでしょうか。

まだ私にはわかりません。

 ・・・

弊誌をおもしろいなあと感じた方は、ぜひご購読の申し込みをお願い致します。

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

『レフティやすおのお茶でっせ』
〈メルマガ「楽しい読書」〉カテゴリ

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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載

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楽器における左利きの世界(22)左利きは左弾きヴァイオリンで(1)-週刊ヒッキイ第667号

2024-07-10 | 左利き
『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』(まぐまぐ!)
【別冊 編集後記】

第667号(Vol.20 no.12/No.667) 2024/7/6
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 楽器における左利きの世界(22)左利きは左弾きヴァイオリンで」


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◎左利きニュース◎

6月末に左利きの歴史本が出ました。

『左利きの歴史:ヨーロッパ世界における迫害と称賛』
ピエール=ミシェル・ベルトラン/著 久保田 剛史/訳 白水社 2024/6/27


フランス人の著者も、訳者さんも左利きだそうです。
「訳者あとがき」には、
日本で出版された左利き本についても簡単に紹介されています。


日本だけではなく、
諸外国――特に西洋諸国でも左利きが迫害されていた、
という歴史をご存じない人も多いのではないか、という気がします。

改めて、こういう左利きの歴史についても知ってほしいものです。

日本でも左利きに関して、
「迫害」という表現が許される時代になったのかな、
という気がしています。

昔は、私が「左利きの問題」などと周囲の右利きの人たちに訴えても、
「右手を使えば済む問題」と軽くあしらわれたものでしたから。

*参照:
『レフティやすおのお茶でっせ』2024.7.3
新しい左利き本『左利きの歴史:ヨーロッパ世界における迫害と称賛』
発売される
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2024/07/post-e66fa0.html

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◇◆◇◆◇◆ 左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii ◆◇◆◇◆◇
【左利きを考えるレフティやすおの左組通信】メールマガジン

  右利きにも左利きにも優しい左右共存共生社会の実現をめざして
  左利きおよび利き手についていっしょに考えてゆきましょう!
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第667号(Vol.20 no.12/No.667) 2024/7/6
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 楽器における左利きの世界(22)左利きは左弾きヴァイオリンで(1)」
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 前号では、「左利きでもヴァイオリンは右弾きで」という
 左利きヴァイオリニストの意見を紹介しました。
 今回は、
 「なぜ左利きは左弾きヴァイオリンでなければいけないのか」
 その理由を述べ、反論していこう、と思います。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ◆ <めざせ!実現!!左用ピアノ!!!>プロジェクト ◆

 {左利きの人は左利き用の楽器で演奏しよう!}

- 「左利きに優しい社会」づくりは左用楽器の普及から! -

 左利きとヴァイオリン演奏について考える

   なぜ左利きは左弾きヴァイオリンでなければいけないのか(1)

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 ●左利きでも右弾きを薦める人たちの理由

前回は「左利きとヴァイオリン演奏」についての発言のあれこれを
見てきました。

左利きのヴァイオリニストの人も含めて、ほぼ全員が
「左利きの人でもヴァイオリンは右弾きで」と発言されていました。

今回は、それぞれのご意見に対して、
私なりの見地からおのおの反論してみよう、と思います。

まずは前回まとめた右弾きを薦める理由についてあげておきましょう。

 ・・・

【左利きでも右利き用で右弾きを薦める理由】

1.左利き用のヴァイオリンは右用とは構造が違い、手に入りにくい
→ 道具がないので、手に入るもので我慢しましょう!?

2.右手も左手も重要で、利き手の有利不利は関係ない
→ 右手も左手もどちらでも、慣れたら一緒!?

3.ヴァイオリンは集団で演奏することが多く、左弾きは立ち位置が難しい
→ 左弾きでは隣の右弾きの人と弓が当たる、
  弓の動きが逆で一人目立つ、ので困る!?

4.利き手も定かではない、小さい頃から習う人が多いので、
 利き手は関係ない
→ 利き手も小さい頃からなら換えられるという人もいるじゃないか!?


では、次にそれぞれの意見に反論してゆくことにしましょう。


 ●理由1.への反論=なければ作ればいいだけ

理由1.左利き用のヴァイオリンは右用とは構造が違い、手に入りにくい
→ 道具がないので、手に入るもので我慢しましょう!?

道具がないというのなら、単純に作ればいいのです。

それが人類の歴史でした。
より便利な生活のために人は色んな道具を作ってきました。

ない、というのなら、作ればいい。
他の左利き用の道具もそうでした。

そういう歴史を私たちは築いてきたのです。

現実に全くないわけではありません。
一部には存在します。




「左用の名器はない」という意見に対しては、
「今はなくても、将来の名器につながるものを作ればいい」
といいましょう。


昔左用(左利き用)のハサミというのは、特注品しかありませんでした。
一部の専門家の人がどうしても必要で、特注で作ってもらっていました。

しかし、そのうち「左用も必要ではないか」と考える人たちが増え、
特に子供用の左用ハサミは必要ではないかと考えるメーカーの人たちが、
これを開発し販売しようと活動し、実用化しました。

今では子供用ハサミにおいては、右用と左用が同一価格で併存するのが、
当たり前のこととなりました。
右用と左用を利き手によって選択する時代となっているのです。


 ●理由2.への反論=利き手と非利き手は役割が違う

理由2.右手も左手も重要で、利き手の有利不利は関係ない
→ 右手も左手もどちらでも、慣れたら一緒!?

利き手と非利き手では役割に違いがあります。

『手と脳 増補新装版』久保田競 紀伊国屋書店 2010/12/24
によりますと、

「第7章 利き手と脳」<言語脳と空間認知脳>

p.187《右脳の方が空間関係の認知に優れているだけでなく、
    認知された情報に基づいて手で処理する機能も、
    右脳の方が優れている》

といいます。
右利きの人は右脳-左手で、左利きの人ではその逆が。

ゆえに、利き手でない方の手(非利き手)の方が、
空間情報の処理に優れているのですから、
右弾きヴァイオリンでは、音程や音の調節をするといった、
弦を押さえる「位置」に関する動きに対しては、
「非利き手である左手」を用いる方が有利、と考えられます。

実際に右利きの人では左手で行っています。

 ・・・

左用のヴァイオリンの多くが、
左手の指が使えなくなった人のために作られた、といわれています。

左手の指が使えなくなった人が弓を持ち替えるというのは、
そういう理由からでしょう。

そういう意味で「左手が重要」という考えが生まれてくるのでしょう。

前回、ルドルフ・コーリッシュさんが、

《左手を負傷したため、止むをえず、右手でヴァイオリンを支え、
 左手で弦を動かさなければならなかった。》p.223
『左ききの本』マイケル・バーズリー 西山浅次郎訳
 TBS出版会(発売・産学社)1973――「十九 音楽における左きき」

というのも、そういうところでしょう。

以前、同様の理由から左弾きに変えたチェリストの話もありました。

 ・・・

しかし、弦を押さえる手は、基本は非利き手の役割です。
一方、弓を動かす手は、利き手の役割です。


 ●右手の役割と左手の役割

もう一度ヴァイオリンにおける右手と左手の役割を見ておきましょう。


【右手】の役割
[音を出す]要素
・ボウイング:弓を持って、上げ下げして、弦を弾く
・ピッチカート:弓を使わず指で弦を弾く

【左手】の役割
1.[音の調整]要素
・フィンガリング:指使い、運指(音程を作る)
・ポジションチェンジ
・ビブラート
2.ヴァイオリン本体の支持

これぐらいで間違いはないでしょう。


右手と左手、「利き手と非利き手の使い分け」という問題があります。

脳科学者・久保田競さんの『手と脳 増補新装版』
「第7章 利き手と脳」<手を使いわけよう>によりますと、

 《手を使うときには、右と左の特徴を使いわけるほうがいい。》p.197

 《利き手は言語を媒介する機能、言葉で考えたことを実現する機能、
  単純につかむ、つまむ、にぎることから書くことまでの機能に
  使われるべきで、非-利き手は手探り、空間認知、さらにそれを
  手がかりとして実現する機能に使われればよいのである。
  われわれの脳は左右に特殊化されているので、
  それに都合のよいように手を使わなければならない。》p.198

非利き手は《手探り、空間認知、それを手がかりとして実現する機能》と
あり、これはズバリ弦を押さえる手といっていいでしょう。

一方、利き手は《単純につかむ、つまむ、にぎること》=弓を持つ、
《言葉で考えたことを実現する機能》=どのような演奏をするか、
に使うべきだといいます。
これは、まさに弓を持つ手にふさわしい役割でしょう。

 《日本の古典楽器の琴、鼓、三味線などは片手で操作できない楽器で
  ある。利き手で弦をはねるが、非-利き手で音色と音域の調子を
  微妙に変え、調節をつづけねばならず、これをマスターするのは、
  言葉を司る利き手の側ではむずかしく、感覚を司る非-利き手の側に
  おぼえこませなければならない。
  このような楽器の練習に左右の手を使い分けることは、
  専門家にならなくても手の訓練として重要なことである。》pp.198-199

とあります。

手の訓練云々は別にして、演奏に関していいますと、
やはり利き手と非利き手の役割の認識が重要です。

右利きの人にとっての最適な方法=右手に弓、左手にヴァイオリン本体、
は裏返しますと、左利きの人にとっての最悪の選択といえるでしょう。


*参考文献:
『手と脳―脳の働きを高める手』久保田競 紀伊国屋書店 1982(昭和57)4/30
――利き手(作用の手)と非利き手(感覚の手)の役割の違いなど。

『手と脳 増補新装版』久保田競 紀伊国屋書店 2010/12/24
――《【旧版との違い】脳科学の新たな成果をアップデートするとともに、
読みやすいレイアウトに。/第2章、9章は全面的に書き下ろし》


 ●身体に合った道具を!

身体に合った道具に関してもう少し書いてみます。

私にはこういう経験があります。
私は中学生の時から父の買ってきたカメラを使い、
大人になってからも「写るんです」のようなカメラを使ってきました。

また、ソニーの8ミリビデオも使っていました。
これも右手で保持して、カメラのズームや録画などの操作も
みな右手一本で行うものでした。

それらを使っていても、なかなか慣れるということはなく、
常になにかしら違和感を抱いていました。

「隔靴掻痒」という言葉があるように、
まさに靴の上から足をかくような、
「はがゆくもどかしいこと」「思うようにいかず、じれったいこと」
「物事の核心や急所に触れず、もどかしいこと」という状況です。

あるいは、ガラス越しにものを見るというか、
夾雑物越しにものに触るときのような、
しっくりこないものがありました。

ところが、
左手用カメラ「京セラ・サムライ左手用廉価版 SAMURAI Z2-L」
を買いに行ったとき、初めて触ったのに、
まるでずっと昔から使ってきたかのような、
身体にフィットする操作感がありました。

これだ! と思いました。

あのときの感動は、初めて近視の眼鏡をかけた時の感動と同じように、
忘れられないものがあります。


このカメラは、左手でカメラ本体を握るように保持し
(落とさないように指にかけるストラップが付いています)、
左手の人差し指で、ズーム・レバーの操作や、
シャッター・ボタンを押す操作をします。

自分の好みの構図とシャッター・チャンスを
利き手である左手で操作できるのです。

まさに“自分のために作られたのか!”という印象でした。

毎度お話ししていますように、
これがきっかけとなり、左利きは左利き用の道具を! という、
私の左利き活動が始まったのです。



*参照:京セラ・サムライ左手用廉価版 SAMURAI Z2-L
『レフティやすおのお茶でっせ』
・2004.8.5
今は昔 世界初左手用カメラ、京セラ サムライSAMURAI Z2-L
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2004/08/__samurai_z2l.html
・2020.3.7
2020年は左利き公認60年&左利きライフ研究30年(2)
その後の30年(1)左手用カメラ-週刊ヒッキイ第566号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2020/03/post-fe5897.html


二本目の「その後の30年(1)左手用カメラ」にも書いていますように、

 《「慣れたら一緒」なんて嘘です。
  利き手に合わない道具を使うのは、
  靴を左右入れ替えて履くようなものです。》

まあ、靴の左右を入れ替えても「慣れたら一緒」
と言い張る人はいるんでしょうけれど……ね。


 ●<利き手は心につながっている>

このカメラの経験から、
私は利き手にあった道具を使うことを推薦するのです。

私の持論は<利き手は心につながっている>です。
《利き手では、反復練習で身につく作業より、心の作業を!》です。

ヴァイオリンの演奏でいえば、音を発する弓を持つ手こそ主役であり、
心の発現だからです。

音の調整は二義的なことです。
運指が巧みでも、肝心の音を出さないければ、音楽にはなりません。

カメラでいえば、まずはシャッターを押すこと。
ピントの調整ができるだけでは写真にはなりません。
写真を撮れるのは、シャッターを押したときだけです。

 ・・・

以上、ここでいったん区切ります。

次回また、理由3.と4.を取り上げ、
さらにもう一点つけ加えておきたい事柄について説明しましょう。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25― 楽器における左利きの世界(21)左利きヴァイオリニストの発言から」と題して、今回も全紹介です。

本来ですと、四つの理由をすべて書くつもりでしたが、思いのほか長くなってしまったので、二階に分割することにしました。

また、冒頭欄外に左利きニュース(左利きの著者と訳者による左利き本『左利きの歴史:ヨーロッパ世界における迫害と称賛』ピエール=ミシェル・ベルトラン/著 久保田 剛史/訳 白水社)を入れています。

実は、この本はヨーロッパ社会でのは左利き迫害の歴史を語るもので、左利きでもヴァイオリンを右弾きすることが当然とされる根拠の一つといいますか、そもそもの最大原因でもある左利きを認めない社会であったことを証明する本、といっていいものです。

ヴァイオリンを左弾きしている例として語られるケースの多くがアメリカでのカントリー・ミュージックの演者であり、ヨーロッパでのオーケストラや正規の楽団などではその例がないという事実は、要するにこのヨーロッパ社会での左利きの認知度によるものだ、ということなのです。

左利きの存在を邪悪視する社会において、その上流社会の趣味である音楽演奏の場で、左弾きの演奏家が認められるはずがありませんからね。

 ・・・

弊誌の内容に興味をお持ちになられた方は、ぜひ、ご購読のうえ、お楽しみいただけると幸いです。

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』


『レフティやすおのお茶でっせ』
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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
楽器における左利きの世界(22)左利きは左弾きヴァイオリンで(1)-週刊ヒッキイ第667号
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新しい左利き本『左利きの歴史:ヨーロッパ世界における迫害と称賛』発売される

2024-07-05 | 左利き
新たに「左利きの歴史」本が発売されました。

『左利きの歴史:ヨーロッパ世界における迫害と称賛』
ピエール=ミシェル・ベルトラン/著 久保田 剛史/訳 白水社 2024/6/27


出版社の著者紹介によりますと、著者は1962年生まれの左利きのフランス人で、『左利き事典』(Dictionnaire des gauchers, Imago, 2004)という著書もあり、《フランスでは在野の歴史家として知られ、左利きの歴史をテレビやラジオなどで解説することもある。》とのこと。

副題にもありますように、ヨーロッパ――主にフランスを中心にその周辺国におけるものです。

2008年の第二版の翻訳です。
ちなみに翻訳者さんも左利きだそうです。
「訳者あとがき」に、日本で出版された左利き本についても簡単に紹介されています。


(画像:2021年から2024年にかけて出版された左利きの本および関連本(実用書をのぞく)――
上段左から(1)八田武志『左対右 きき手大研究』DOUJIN文庫 2008年DOUJIN選書の増補文庫版 (2,3)マーティン・ガードナー『新版 自然界における左と右』(上下)ちくま学芸文庫 2021年 1992年紀伊國屋書店版の文庫化再刊
下段左から(4)加藤俊徳1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き 「選ばれた才能」を120%活かす方法』ダイヤモンド社 2021年 (5)本書『左利きの歴史』白水社 2024年 (6)大路直哉『左利きの言い分 右利きと左利きが共感する社会へ』PHP新書 2023年)

16年前の本ということになります。

すでにお隣の韓国など世界7カ国で出版されているとか。

日本でも、このような「左利きの迫害の歴史」を描く本が出版される時代になったのですね。

もちろん、過去にも日本で出版された左利き本で、そういう歴史は大なり小なり語られてきました。
しかし、ここまで正面切って「迫害」と表現されることは少なかったように感じます。
そういう意味で、この本が出版されるような社会状況になるまでに掛かった歳月は、16年だったということでしょうか。

昔は、私が「左利きの問題」などと周囲の右利きの人たちに訴えても、「右手を使えば済む問題」と軽くあしらわれたものでしたから。

 ・・・

日本での左利き差別の歴史については、昨年出版されました、日本左利き協会の大路直哉さんの『左利きの言い分』などにもありますように、せいぜいここ数十年前までの日常茶飯事でありました。

*参照:『レフティやすおのお茶でっせ』2023.9.20
大路直哉『左利きの言い分 右利きと左利きが共感する社会へ』(PHP新書)買いました
(「新生活」版)
『左利きの言い分 右利きと左利きが共感する社会へ』大路 直哉/著 PHP新書 2023/9/16

外国では、特に西洋は自由と民主主義の国が多いので、日本とは違いかなり早い時期から左利きに関しても、容認されていたのでないか、とお考えの方も少なくないでしょう。
しかし実態は、比較的早くから左利き「矯正」の弊害が知られていたアメリカをのぞきますと、そうでもなかったということがこの本でも明らかになりました。

もちろん、本書「序論」にもありますように、左利き解放の歴史的な流れは、解放へ向けての一方的な流れではなく、寄せては返す波のように、一進一退、比較的いい時期もあればまた悪い時期に戻るといったものでした。

本書は、そういった左利きに対する寛容と非寛容の歴史を描く文化史です。

本書の目次を紹介しましょう。

【目次】
第二版の序文 
序論 
第一部 正しい手と邪悪な手 
第1章 なぜ人類は右利きなのか 
第2章 右手主導の規則 
第3章 左利きによる秩序の転覆 

第二部 軽蔑された左利き 
第4章 左利きという異常性 
第5章 左利きという烙印 
第6章 下等人間の特性 
第7章 不寛容のはじまり 
第8章 虐げられた左利き 

第三部 容認された左利き 
第9章 中世の黄金時代 
第10章 近代の解放にいたる長い道のり 
第11章 二つの右手の神話 

第四部 称賛された左利き 
第12章 左利きの卓越性 
第13章 左利きの巨匠たち 
結論 

付録 
訳者あとがき 
参考文献 
原注 


まだ全巻通読したわけではないのですが、やはり、前半の非寛容(といいますか、迫害)の時代を読むのはつらいものがあります。

「おい、いい加減にしろよ」と怒鳴りたくなるような記述が多々出て参ります。
まあ、それでもこれが現実だったのですから、致し方ないところです。

「第二版の序文」にもありますように、これは

 《左利きの歴史はおそらく第一には右利きの歴史でもあるのだ》p.8

ということです。

ですので、左利きの人のみならず、右利きの人たちもその点をよく理解した上で、ぜひお読みいただきたいものです。

 《左利きの人々の境遇に関心を抱くということは、おそらく彼らを正当に評価すること、とりわけ、われわれの精神的遺産の知られざる側面を問うことを意味する。それは、現在の自分をよりよく理解するために、かつての自分を知ることである。》p.9

といいます。
そして大いなる歴史であれ、小さな歴史であれ、これこそが歴史の正当性だ、と。

歴史書を読むとは、そういうことなのですね。


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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
新しい左利き本『左利きの歴史:ヨーロッパ世界における迫害と称賛』発売される
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私の読書論187-2024年岩波文庫フェアから『タタール人の砂漠』-楽しい読書369号

2024-07-02 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書(まぐまぐ!)
【別冊 編集後記】


2024(令和6)年6月30日号(vol.17 no.12/No.369)
「私の読書論187-2024年岩波文庫フェアから『タタール人の砂漠』」



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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2024(令和6)年6月30日号(vol.17 no.12/No.369)
「私の読書論187-2024年岩波文庫フェアから『タタール人の砂漠』」
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 本来は、月末で
 古典の紹介(現在は「漢詩を読んでみよう」)の号ですが、
 今月は岩波文庫のフェアが始まっていますので、
 恒例化ということで、今年もやります。

 最近のものでは↓

2023(令和5)年6月30日号(No.345)
「私の読書論172- 2023年岩波文庫フェア「名著・名作再発見!
 小さな一冊をたのしもう」から 上田秋成『雨月物語』「蛇性の婬」」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2023.6.30
私の読書論172-2023年岩波文庫フェアから上田秋成『雨月物語』
「蛇性の婬」-楽しい読書345号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/06/post-ec8330.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/417d68371321fb4e635a0fa83166e4d2


2022(令和4)年6月15日号(No.320)
「私の読書論159-エピクテトス『人生談義』―『語録』『要録』
―<2022年岩波文庫フェア>名著・名作再発見!から」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2022.6.15
私の読書論159-エピクテトス『人生談義』―
<2022年岩波文庫フェア>から-楽しい読書320号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/06/post-98be91.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/6a52aba9e4f9468c46611a84cd31f14f


2019(令和元)年6月30日号(No.250)-190630-
「2019年岩波文庫フェア「名著・名作再発見!」小さな一冊...」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2019.6.30
2019年岩波文庫フェア「名著・名作再発見!」小さな一冊...
―第250号「レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
http://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2019/06/post-b015ac.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/e3a5116ac2b0a7abfec291e180ec97ce
 ◎取り上げた本:
芥川竜之介『羅生門・鼻・芋粥・偸盗』岩波文庫 改訂版 2002/10/16


 国内(芥川龍之介)、海外(エピクテトス)、国内(上田秋成)
 と来ましたので、今年は海外作品を――。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 - 人生、または時の遁走 -

  ~ 『タタール人の砂漠』ブッツァーティ ~

  2024年岩波文庫フェア
「名著・名作再発見! 小さな一冊をたのしもう」から
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ●<2024年岩波文庫フェア「名著・名作再発見!」>から

今年も6月になり、<2024年岩波文庫フェア
「名著・名作再発見! 小さな一冊をたのしもう」>から、
「一冊これは」というものを取り上げます。


2024年岩波文庫フェア「名著・名作再発見! 小さな一冊をたのしもう」
https://www.iwanami.co.jp/news/n56405.html

《毎年ご好評をいただいている岩波文庫のフェア「名著・名作再発見!
 小さな一冊を楽しもう!」を今年もご案内いたします。
 岩波文庫は古今東西の典籍を手軽に読むことができる、
 古典を中心としたシリーズです。
 できるだけ多くの皆さまに名著・名作に親しんでいただけるよう、
 本文の組み方を見直し、より読みやすい文庫を
 と心がけてまいりました。
 いつか読もうと思っていた一冊、誰もが知っている名著、
 意外と知られていない名作──岩波文庫のエッセンスが詰まった
 当フェアで、読書という人生の大きな楽しみの一つを
 存分にご堪能いただければ幸いです。》

※2024年5月28日発売(小社出庫日)

■:以前弊誌、もしくはブログで取り上げた作品
◆:同、他社の本による
▼:既読、本書・他社本等による

<対象書目>
◆風姿花伝【青1-1】  世阿弥/野上豊一郎、西尾実 校訂
◆学問のすゝめ【青102-3】  福沢諭吉
◆武士道【青118-1】  新渡戸稲造/矢内原忠雄 訳
■代表的日本人【青119-3】  内村鑑三/鈴木範久 訳
風土──人間学的考察【青144-2】  和辻哲郎
君たちはどう生きるか【青158-1】  吉野源三郎
◆老子【青205-1】  蜂屋邦夫 訳注
■ブッダの 真理のことば・感興のことば【青302-1】  中村 元 訳
◆ソクラテスの弁明 クリトン【青601-1】  プラトン/久保 勉 訳
◆怒りについて 他2篇【青607-2】  セネカ/兼利琢也 訳
■マルクス・アウレーリウス 自省録【青610-1】  神谷美恵子 訳
◆方法序説【青613-1】  デカルト/谷川多佳子 訳
ルソー 社会契約論【青623-3】 桑原武夫、前川貞次郎 訳
永遠平和のために【青625-9】  カント/宇都宮芳明 訳
■ラッセル幸福論【青649-3】  安藤貞雄 訳
■ロウソクの科学【青909-1】  ファラデー/竹内敬人 訳
生命とは何か【青946-1】 シュレーディンガー/岡 小天、鎮目恭夫 訳
ウィーナー サイバネティックス【青948-1】
  池原止戈夫、彌永昌吉、室賀三郎、戸田 巌 訳
何が私をこうさせたか【青N123-1】  金子文子
伊藤野枝集【青N128-1】  森まゆみ 編
史的システムとしての資本主義【青N401-1】
  ウォーラーステイン/川北 稔 訳
▼古事記【黄1-1】  倉野憲司 校注
▼古今和歌集【黄12-1】  佐伯梅友 校注
■新訂 方丈記【黄100-1】  鴨 長明/市古貞次 校注
◆新訂 徒然草【黄112-1】  吉田兼好/西尾 実、安良岡康作 校注
閑吟集【黄128-1】  真鍋昌弘 校注
芭蕉 おくのほそ道【黄206-2】 松尾芭蕉/萩原恭男 校注
■源氏物語(一) 桐壺―末摘花【黄15-10】  紫 式部/柳井 滋、
    室伏信助、大朝雄二、鈴木日出男、藤井貞和、今西祐一郎 校注
◆こころ【緑11-1】  夏目漱石
夜叉ケ池・天守物語【緑27-3】  泉 鏡花
◆羅生門・鼻・芋粥・偸盗【緑70-1】  芥川竜之介
葉山嘉樹短篇集【緑72-3】  道籏泰三 編
放浪記【緑169-3】  林 芙美子
自選 谷川俊太郎詩集【緑192-1】  谷川俊太郎
大江健三郎自選短篇【緑197-1】  大江健三郎
けものたちは故郷をめざす【緑214-1】  安部公房
まっくら──女坑夫からの聞き書き【緑226-1】  森崎和江
北條民雄集【緑227-1】  田中 裕 編
安岡章太郎短篇集【緑228-1】  持田叙子 編
権利のための闘争【白13-1】  イェーリング/村上淳一 訳
危機の二十年【白22-1】  E.H.カー/原 彬久 訳
政治的なものの概念【白30-2】  カール・シュミット/権左武志 訳
▼日本国憲法【白33-1】  長谷部恭男 解説
プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神【白209-3】
  マックス・ヴェーバー/大塚久雄 訳
大衆の反逆【白231-1】  オルテガ・イ・ガセット/佐々木 孝 訳
▼自由論【白116-6】  J.S.ミル/関口正司 訳
■曹操・曹丕・曹植詩文選【赤46-1】  川合康三 編訳
知里幸惠 アイヌ神謡集【赤80-1】  知里幸恵/中川 裕 補訂
サロメ【赤245-2】  オスカー・ワイルド/福田恆存 訳
灯台へ【赤291-1】  ヴァージニア・ウルフ/御輿哲也 訳
終戦日記一九四五【赤471-2】  エーリヒ・ケストナー/酒寄進一 訳
▼ラ・ロシュフコー箴言集【赤510-1】  二宮フサ 訳
タタール人の砂漠【赤719-1】  ブッツァーティ/脇 功 訳
白い病【赤774-3】  カレル・チャペック/阿部賢一 訳
やし酒飲み【赤801-1】  エイモス・チュツオーラ/土屋 哲 訳
失われた時を求めて 1 スワン家のほうへⅠ【赤N511-1】
  プルースト/吉川一義 訳
サラゴサ手稿(上)【赤N519-1】  ヤン・ポトツキ/畑 浩一郎 訳
サラゴサ手稿(中)【赤N519-2】  ヤン・ポトツキ/畑 浩一郎 訳
サラゴサ手稿(下)【赤N519-3】  ヤン・ポトツキ/畑 浩一郎 訳
シェフチェンコ詩集【赤N772-1】  シェフチェンコ/藤井悦子 編訳


以上、取り上げた作品は、60点中17点程度でした。
既読は5点。

全体のせいぜい三分の一程度でした。
まだまだ未読や取り上げていない古典の名著・名作がたくさんあります。

今回は、以前、地元の図書館で見て気になりつつも、
そのままだった本がありましたので、それを取り上げることに。


 ●タタール人の砂漠【赤719-1】ブッツァーティ/脇 功 訳

『タタール人の砂漠』ブッツァーティ/作 脇 功/訳
 岩波文庫 2013/4/17


 がそれです。

岩波文庫 赤(外国文学/南北ヨーロッパ・その他)719-1
タタール人の砂漠
https://www.iwanami.co.jp/book/b248369.html

《カフカの再来と称される,現代イタリア文学を代表する世界的作家
 ディーノ・ブッツァーティの代表作.20世紀幻想文学の世界的古典.》

刊行日 2013/04/16 ISBN 9784003271919

《この本の内容
 辺境の砦でいつ来襲するともわからない敵を待ちながら,
 緊張と不安の中で青春を浪費する将校ジョヴァンニ・ドローゴ――.
 神秘的,幻想的な作風で,カフカの再来と称され,
 二十世紀の現代イタリア文学に独自の位置を占める作家
 ディーノ・ブッツァーティ(1906―72)の代表作にして,
 二十世紀幻想文学の世界的古典.1940年刊.》



 ●イタリア文学の幻想小説家? ブッツァーティ

「二十世紀幻想文学の世界的古典」という点に興味を感じていました。
いつか読もうと思いつつ、そのままだった本です。

イタリア文学は若い頃に読んだアルベルト・モラヴィア以来でしょうか。


でも、この人の他の作品に『神を見た犬』(光文社古典新訳文庫)という
短編集があり、この本を過去に読んでいるようなのです。

『神を見た犬』ディーノ・ブッツァーティ 関口 英子/訳
光文社古典新訳文庫 2007/4/12


いま『タタール人の砂漠』と並行してこの短編集を読んでいるのですが、
既読感のある作品にぶつかり、あれっという感じです。

読書記録を繙けば、読んでいるのかどうか判明すると思うのですが、
2007年に出た本なので、十何年分かチェックすることになりますので、
ちょっと面倒です。
もう少し読んでいけばはっきりするかな、という気もしています。

昔から<幻想と怪奇>と呼ばれるジャンルの小説が好きで、
そういう触れ込みの本は結構読んできましたので、
この人の作品も読んでいたのかも知れません。

かなり記憶はいい方なのですけれど、ね。
どうでしょうか。

あるいは、何かのアンソロジーに入っているのを読んだのか?


 ●ストーリー

さて、『タタール人の砂漠』です。

士官学校を出たばかりの青年将校ジョヴァンニ・ドローゴ中尉は、
北の辺境の地にある任地のバスティアーニ砦に向かいます。

北の砂漠の国のタタール人が侵略に対抗するべく設けられた砦で、
多くの兵士が駐在し、厳格に勤めを果たしています。
彼らは、いつかやって来るであろう敵を撃退し、この地を守ることで
手柄を立て出世しよう、という願いを持っているのでした。

ジョヴァンニは、当初自分の志願した地ではないということで、
早期に町の近くの任地に転勤できるよう願い出るのでした。

ところがあれこれと説諭され、砦に留まります。
まだ、あの手柄を立てるという可能性を信じることができたから。
そして、まだ自分は若いと思っていたからでした。

最初に考えていた月日はたち、しかし、これといった事態の変化はなく、
日は過ぎていきます。

《彼は自分をここに引き留めようとする目に見えぬ罠が
 まわりに張りめぐらされいくのを感じるような気がした。(略)
 なにか正体不明の力が彼が町へ帰ろうとするのを阻む作用を
 働かせているのだった。》p.55


そんなとき小さな変化が起きます。
二年が過ぎたある日、敵の兵士が乗っていたのかもしれない、
一頭の鞍をつけた馬が見つかります。
自分の馬だといった砦の兵士が、隠れてこの馬を捕まえに行きますが、
捕まえられず帰ってきたところ、合い言葉が分からず、
軍務違反で砦に入れず射殺されます。


《北の砂漠からは彼らの運命が、冒険が、誰にでも一度は訪れる
 奇跡の時がやって来るに違いない。時が経つとともに次第にあやしく
 なっていくこうした漠とした期待のために、大の男たちがこの砦で
 人生の盛りをむなしく費やしているのだった。》p.85


北の王国が国境線の画定のために北の山稜に人員を送って来たのです。
こちらからも国境確保のために兵を出すのですが、
病気を押して任務を続けた一人の中尉が凍死する事件が起きます。
しかし、国境を確定すると北の兵士は去ってしまいます。


四年後、ジョヴァンニは町に帰りますが、家も母も、友人たちも、
もう彼の生活からは離れたものとなっていました。
友人の妹とも話がかみ合わず、大きな隔たりを感じます。
もはや自分の住む世界、生活は砦にしかないと。

あるとき、高倍率の良い望遠鏡を持つシメオーニ中尉が、
山の方に光があるといい、北の国が道路を建設しているのだといいます。
当初、司令部は否定していたのですが、実際に工事が始まります。
ところが、またしても道路を作るだけで、戦闘には発展しません。

一方、もう北の脅威はない、ということで、
軍はこの砦の規模を縮小することに決定します。
まわりのものはみな、彼には知られないように、
転勤を要請していたのでした。
取り残されたジョヴァンニ。

砦に戻るとき、新任の中尉と道連れになります。
それはちょうど自分が新任してきたときとまったく同じ状況でした。


そして三十年が過ぎ、ジョヴァンニは病気に倒れます。
その時に、とうとう待ちに待ったともいうべき、事態が発生します。
北の国から例の道路を敵が進撃してきたのです。
病気の彼にはここでの戦いの力になれない、
馬車を呼んでいるので町に療養に帰れ、と命令されます。
実は、援軍が来るので、彼らのために部屋を開けてくれ、というのです。

旅の途中、見知らぬ町の旅籠で遂に最期を迎えます。


 ●古希を迎えた私の人生の場合

私は今年古希、70歳となりました。
自分の人生を考えるときがあります。

正直、自分の人生は、残念な人生だった、と思っています。
自分のやりたいことをまったくといっていいぐらいできない、
できなかった人生だったからです。

私がやりたかった人生というのは、
大好きな女の子と一緒にしあわせに暮らすこと、でした。
できることなら自分の子供を産んでもらって、云々。

何が悪かったのかというと、結婚生活というのは、
まずはお金だと思っていました。
ところが自分は、その辺が全くだめという感じで、
実際はそれなりに稼いではいたので、豪邸を建てられような、
そういう結婚生活を考えるべきではなかった、というところでしょうか。

人生に置いて大事なことは、若いうちに自分の目指すべき将来の姿を、
自分の思うような生き方を、まずは考えるべきだろう、と思います。

そういう点で、まったく先のことを考えずに生きてきたのが、
一番の問題だったのでしょう。
とりあえずその時その時を生きるだけ、という生き方でした。

このように、流されるような生き方では
いい成果を挙げることは難しいものです。


 ●寓意性のある小説

さて、『タタール人の砂漠』です。
これはまさに「人生」を描いている小説です。

幻想小説とされていますが、確かに現実感の少ないストーリーです。
国境が未確定な部分もある辺境の地の砦で、いつか来るであろう敵襲で、
手柄を挙げて出世する、という希望を抱いた軍人たちの物語。

砦に向かう途上、そんな砦はない、聞いたこともないと言われたり、
最初から非現実的な展開で、

《(略)まさしくその夜に、
 彼にとっては取り返しようのない時の遁走がはじまったのだった。》

といった記述が出てきます。

時間を追ったリアリズムの小説というより、
全体を俯瞰したような記述があり、幻想的な小説という感じがします。

しかし、寓意性というのでしょうか、
そういう意味では、非常に現実的な展開でもあり、
一人の男の生き方を示しているともいえましょう。

人生とは、生きるため、食うために、
同じ場所で日々単調な生活を続けざるを得ない部分があります。
それらの日々のなかで、何かしらの希望や期待を胸に生きている、
という部分があります。
それでいて、何かが起きるかというと、何も無いまま終わってしまう、
ということも、まま起きるものです。
そういう生き方を象徴しているような物語です。


 ●何かを待つ人生の果てには

青春は待ってくれない、といいます。

ジョヴァンニの場合もそういう一つの罠に掛かったような、人生でした。

でも、早々に転勤を願い出て砦を出て行く者もあり、
それでもこの場に留まり、一か八かではないけれど、
一つの希望を抱いている者もいるのが現実でした。

彼らは何を人生に期待したのか、
あくまでも軍人としての出世だけだったのでしょうか、
それとも何かもっと異なる何かがあったのでしょうか。

その辺は本当のところはわかりません。
人それぞれに求めるものがあり、期待するものがあるのですから。

最終的に、この物語は何を語っているのでしょうか。

人生というものは、時の流れというものは、待ってはくれない、
ということなのでしょうか。

結局その時その時を生きるのではなく、やはり先々を考えながら、
今を生きることが大事ということでしょうか。

目先のことだけではなく、広く人生を考えることが重要なのでしょう。

それと、やはり自分の思いを大切に生きるべきだということでしょうか。
その結果が、ジョヴァンニの選択と同じであったとしても、
自分の選んだ道ならそれでいい、というのが人生なのかも知れません。

やはり思うのですが、いかな人生であったとしても、
それは「自主性を持った選択の結果」であるべきだろう、と。
そういうものであれば、いかな人生であっても、
最終的に納得がゆくものとなるのではないでしょうか。


とはいえ、70年生きてきても、まだ私にはよくわかりません、
人生の真実とか、良い人生とは何か、ということは。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「私の読書論187-2024年岩波文庫フェアから『タタール人の砂漠』」と題して、今回も全文転載紹介です。

毎年の恒例になりました、<岩波文庫フェアから>の一冊です。

昔から幻想小説といったものも結構好きで読んできたつもりです。
どちらかといいますと、幻想小説そのものというより<幻想と怪奇>系の小説を多く読んでいました。

特に、英米系のそういう小説に比べますと、他のヨーロッパ諸国のものとではかなり傾向が異なるように感じます。
フランスやイタリアというのは、結構トンデいる感じがします。

このブッツァーティの『神を見た犬』の短編などは、本当に楽しいというか愉快というか、そういうものから本当に怖いものまで、実にレパートリーを感じさせます。

一方、今回取り上げました出世作といいますか、彼の名を最初に有名にした『タタール人の砂漠』の場合は、非常に人生というものを考えさせる内容だったと思います。

光文社文庫版『神を見た犬』の訳者・関口英子さんの「解説」に、本書についての当時のブッツァーティの言葉が紹介されています。
当時彼は新聞社で働いていて、
《単調でつらい仕事の繰り返しに、歳月ばかりが過ぎていった。私はこれが永遠に続くのだろうかと自問していた。希望も、若者ならば誰しも抱く夢も、しだいに萎縮してしまうのではないだろうか」》(p.380)
と感じていた、といいます。

『神を見た犬』の中の一編「天国からの脱落」に、天国で友人と談笑していた聖人の一人が、ふと下界の青年たちの姿を垣間見、
《二十代の若者だけに許された希望をひしひしと感じ取ったのだ。未来という無限の可能性を秘めた若者たちの力やエネルギー、嘆きや絶望、そしてまだ荒削りの才能を、まざまざと見せつけられた。》(p.262 関口英子訳)
という場面があり、結果この聖人は、もう一度そういう人たちの仲間入りをしたいと、万能の神に願い出ます。

まあ、そういう不確定だけれど、心浮き立つ希望に満ちた若さに魅力を感じるという気持ちはわかります。

どんな状況にあっても、人は未来に希望を抱くものであり、そこにこそ生きがいというか、エネルギーが湧いてくるものがあるように思います。

この『タタール人の砂漠』の砦の人々も、一つの希望を持って毎日軍務に精を出してきたのでしょう。
ただ、その流れに流されてしまう人もいれば、区切りをつける人もいるということなのでしょう。

どちらが正しいのかはなんとも言えませんが、やはり「自分をしっかりと持つ」ということが大事なんだろうな、という気はします。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

『レフティやすおのお茶でっせ』
〈メルマガ「楽しい読書」〉カテゴリ


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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
私の読書論187-2024年岩波文庫フェアから『タタール人の砂漠』-楽しい読書369号
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新潮文庫にデイモン・ラニアン(『ガイズ&ドールズ』)が帰ってきた!

2024-06-24 | 本・読書
新潮文庫にデイモン・ラニアンが帰ってきました!
2024年5月29日に発売されました新潮文庫の新刊、田口俊樹訳のデイモン・ラニアン著『ガイズ&ドールズ』がそれ。
私にとっては<なつかしい友との再会>というところです。



40年前、1984年夏(8月1日)に発売された、加島祥造訳のデイモン・ラニアンの選集『ブロードウェイの天使』が、新潮文庫での初登場でした。
(絶版になってからでは34年らしいですが。)
当時私は、人にプレゼントするために、自分用の他に何冊も買いました。
今も一冊残っています。


まあ、それほど私のお好みの作家だったということですね。

1970年の高校二年生の夏休みから読み始めた『ミステリマガジン』という、<海外文学の早川書房>から発行されていた海外ミステリの専門誌で、英米文学者で詩人、のちに『老子』の現代詩訳で<伊那谷の老子>と呼ばれた加島祥造さんが、ぽつりぽつりと訳しては掲載されていたのが、このラニアンの短編でした。
その前には、これも新潮文庫で何年か前に再登場したリング・ラードナーの長短編を訳しておられたものでした。

今回は、訳者を英米ミステリ翻訳のベテランの田口俊樹さんにかえて、ラニアンの第一短編集を新訳で紹介。

前回のラニアン作品集は、なんといっても当時ラニアン紹介の第一人者であった加島さんによる<ラニアン傑作集>といった趣のあるものでした。
それゆえに、傑作中の傑作といってもいい、人気作を集めたものだったといっていいでしょう。
少なくとも、私にとっては、ほぼそういう内容の作品集になっていました。

例えば、(1)「プリンセス・オハラ」(2)「ブロードウェイの天使」「レモン・ドロップ・キッド」「片目のジャニー」など((3)は、本書にも収録されている「マダム・ラ・ギンプ」)。

今回は、単にラニアンの「第一短編集」ということで、作品の選定は当時の編集の人たちの手になるものです。
それはそれで意味のあることでしょう。

なにしろ、このラニアンの短編集は、ミステリの分野では、ミステリ作家であり編集者でもあったエラリイ・クイーンのポー以降の価値あるミステリ短編集を集めた『クイーンの定員 Queen's Quorum』にも選ばれていますから。

*参照:
「Queen's Quorum:クイーンの定員」
http://www.cityfujisawa.ne.jp/~katsurou/conerstone/quorum/main.htm

第二期近代
#084 野郎どもと女たち Guys and Dolls(1931)

『クイーンの定員 3 傑作短編で読むミステリー史』エラリー クイーン/著 各務 三郎/編 光文社文庫 1992/4/1
収録作品「ドロレスと三人の野郎ども」

 ・・・

『ガイズ&ドールズ』デイモン・ラニアン/著、田口俊樹/訳 2024.5.29

目次(・は、「前」短編集収録作品)

序文
第一話 ブロードウェイのブラッドハウンド
第二話 社交場での大きな過ち
第三話 サン・ピエールの百合
・第四話 ブッチは赤子の世話をする
・第五話 リリアン
第六話 荒ぶる四十丁目界隈のロマンス
第七話 どこまでも律儀な男
・第八話 マダム・ラ・ギンプ
第九話 ダーク・ドロレス
・第十話 紳士のみなさん、国王に乾杯!
・第十一話 世界で一番ヤバい男
第十二話 ブレイン、わが家に帰る
・第十三話 血圧
・おまけの一話 ミス・サラ・ブラウンの恋の物語
解説 小森 収


この短編集に収録されている作品で私のお気に入りをいいますと――
(1)「マダム・ラ・ギンプ」――昔読んだときもおもしろいと思った作品、新喜劇なんかにあるパターンですよね。
(2)「サン・ピエールの百合」(3)「ミス・サラ・ブラウンのロマンス」といったところか。

子供や動物の登場する作品は、やはりいつの時代どこの国であって、人気は高いのでは、という気がします。
「ブロードウェイのブラッドハウンド」「ブッチは赤子の世話をする」「リリアン」「紳士のみなさん、陛下に乾杯」など。

私は演劇関係には疎いので、日本でのラニアン評価というものはよくわかりませんが、アメリカでは昔から非常に人気の高い作家だったようで、巻末資料にもあるように映画化・ドラマ化作品が多数あるようです。
日本では80年代に宝塚のレパートリーに入っているとのことです。

とにかく、今回の訳書が広く読まれ、デイモン・ラニアンの名が知られ、人気が高まることを願ってやみません。

*参考:
『ブロードウェイの天使』デイモン・ラニアン/著 加島 祥造/訳 新潮文庫 赤 207-1 1984/8/1

<新書館・版>
1.『野郎どもと女たち』デイモン・ラニアン/著 加島 祥造/訳 1973.4
(新装版)『ブロードウェイ物語 1 野郎どもと女たち』デイモン・ラニアン/著 加島 祥造/訳 1987/11/1
2.『ブロードウェイの出来事』デイモン・ラニアン/著 加島 祥造/訳 1977
(新装版)『ブロードウェイの出来事 新装版 (ブロードウェイ物語 2) 』デイモン・ラニアン/著 加島 祥造/訳 1987/12/1
3.『ロンリー・ハート』デイモン・ラニアン/著 加島 祥造/訳  1983
(新装版)『ロンリー・ハート 新装版 (ブロードウェイ物語 3) 』デイモン・ラニアン/著 加島 祥造/訳 1987/12/1
4.『街の雨の匂い ブロードウェイ物語 4』デイモン・ラニアン/著 加島 祥造/訳 新書館 1987/11/1


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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載

" target="_blank">新潮文庫にデイモン・ラニアン(『ガイズ&ドールズ』)が帰ってきた!

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[コラボ]私の読書論186-<左利きミステリ>第5回海外編(後)ホームズ以後--楽しい読書368号

2024-06-20 | 左利き
古典から始める レフティやすおの楽しい読書(まぐまぐ!)
【別冊 編集後記】


2024(令和6)年6月15日号(vol.17 no.11/No.368)
「週刊ヒッキイhikkii×楽しい読書 コラボ企画:
私の読書論186-<左利きミステリ>第5回 海外編
(後編)<ホームズ以後>19世紀末以降」



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇◆◇◆◇◆ 左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii ◆◇◆◇◆◇
  【左利きを考える レフティやすおの左組通信】メールマガジン
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第666号(Vol.20 no.11/No.666) 2024/6/15
「週刊ヒッキイhikkii×楽しい読書 コラボ企画:
私の読書論185-<左利きミステリ>第5回 海外編
(前編)<ホームズ以前>紀元前から19世紀末まで」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 × × × × × × × × × × × × × × × ×
------------------------------------------------------------------
◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
------------------------------------------------------------------
2024(令和6)年6月15日号(vol.17 no.11/No.368)
「週刊ヒッキイhikkii×楽しい読書 コラボ企画:
私の読書論186-<左利きミステリ>第5回 海外編
(後編)<ホームズ以後>19世紀末以降」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

*「前編」も見てね! 「前編」はこちらで↓
 『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』(9:40 配信)

登録はこちら↓
https://www.mag2.com/m/0000171874.html

または、『レフティやすおのお茶でっせ』のサイドバーで!
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 今回は、私の発行しているメルマガ
 『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』と
 『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』のコラボ企画です。

 以前も何度か試みましたが、その5回目です。


【過去のコラボ】

■1回目――

ツイッターで紹介した【左利きミステリ入門】のまとめでした。
そこでは、海外編として、19世紀以前の作品をツイッターで
 年代・国名・著者名・作品名・左利きの登場人物・
 左利きに関する記述の該当箇所
などの情報を紹介した、まとめ編でした。

『左利きで生きるには 週刊ヒッキイ』
・第577号(No.577) 2020/8/15
左利きの本を読む~ツイッター【左利きミステリ入門】まとめ(1)
×レフティやすおの楽しい読書(No.276)
『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』
・2020(令和2)年8月15日号(No.276)
左利きの本を読む~ツイッター【左利きミステリ入門】まとめ(2)
×左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii(No.577)
【別冊 編集後記】
『レフティやすおのお茶でっせ』2020.8.15
・ツイッター【左利きミステリ入門】まとめ(1)-週刊ヒッキイ第577号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2020/08/post-ed8cea.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/612cd4bd3edfdbeb612069497aef79fa
・ツイッター【左利きミステリ入門】まとめ(2)-「楽しい読書」第276号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2020/08/post-ec0ad2.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/245bddeded4348e10aaa4a027a6fab18

■2回目――

「<左利きミステリ>その後」と題して、
過去の『左利きで生きるには 週刊ヒッキイ』の
「小説の中の左利き・推理小説編」やブログ等で紹介したもの以外に、
それ以降に見つけた<左利きミステリ>(広義のミステリ)のあれこれを
 年代・作品名・著者名(短編の場合は、収録書籍名)
をリスト化して紹介しました。

『左利きで生きるには 週刊ヒッキイ』
・第595号(No.595) 2021/5/15
「楽しい読書コラボ企画:私の読書論144<左利きミステリ>その後」
『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』
・2021(令和3)年5月15日号(No.294)
「週刊ヒッキイコラボ企画:私の読書論144<左利きミステリ>その後」
【別冊 編集後記】
『レフティやすおのお茶でっせ』2021.5.15
・私の読書論144-<左利きミステリ>その後
-週刊ヒッキイ595号&楽しい読書294号コラボ企画
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2021/05/post-e0ec7a.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/400a7921be1d016f8bfbff350762971a

■3回目――

【第一回】のツイッター版【左利きミステリ入門】の続きの
海外編「20世紀以降」版から
<ホームズのライヴァルたち>の作品の紹介でした。

『左利きで生きるには 週刊ヒッキイ』
・第628号(No.628) 2022/10/15
「<週刊ヒッキイ>×<楽しい読書>コラボ企画:私の読書論161
 【左利きミステリ入門】ホームズのライヴァルたち」
『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』
・2022(令和3)年10月15日号(No.328)
「<週刊ヒッキイ>×<楽しい読書>コラボ企画:私の読書論161
 【左利きミステリ入門】ホームズのライヴァルたち」
【別冊 編集後記】
『レフティやすおのお茶でっせ』2022.10.15
・<週刊ヒッキイ>×<楽しい読書>コラボ企画:私の読書論161
左利きミステリ~-週刊ヒッキイ第628号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/10/post-39e67a.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/ad9796a23bf53cf6eb0e80182a9d7b6a
・<週刊ヒッキイ>×<楽しい読書>コラボ企画:私の読書論161
私の自作左利きミステリ-「楽しい読書」第328号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/10/post-1a4b2b.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/03236262a34a6ee2e03b42bff06e3267

■4回目――

<左利きミステリ>の国内編――国内ミステリのリスト紹介でした。

前半=『週刊ヒッキイ』版は、1948年「アンゴウ」坂口安吾 から、
(1997年)『三月は深き紅の淵を』「第二章 出雲夜想曲」恩田陸 まで。
後半=『楽しい読書』版は、2003年「書肆に潜むもの」井上雅彦 から、
(2019年3月)『レフトハンド・ブラザーフッド』知念実希人 までを紹介。

『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
・第640号(No.640) 2023/4/15
「週刊ヒッキイhikkii×楽しい読書コラボ企画:
私の読書論169-<左利きミステリ>第4回 国内編(前編)」
『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』
・2023(令和5)年4月15日号(No.340)
「週刊ヒッキイhikkii×楽しい読書コラボ企画:
私の読書論169-<左利きミステリ>第4回 国内編(後編)」
【別冊 編集後記】
『レフティやすおのお茶でっせ』2023.4.15
・私の読書論169-<左利きミステリ>第4回 国内編(前)
-週刊ヒッキイ640号×楽しい読書340号コラボ企画
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/04/post-d5c13e.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/131b4f7933014dcedf057c75702ff28e
・私の読書論169-<左利きミステリ>第4回 国内編(後)
-週刊ヒッキイ640号×楽しい読書340号コラボ企画
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/04/post-5b4e1e.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/d0e3f19af79760633cbcc87cac454f96


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

  ★ コラボ企画 ★

 『左利きで生きるには 週刊ヒッキイ』
  <左利きミステリ>第5回 海外編
(前編)<ホームズ以前>紀元前から19世紀末まで

 × × × × × × × × × × × × × × × ×

 『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』
  <左利きミステリ>第5回 海外編
(後編)<ホームズ以後>19世紀末以降

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<左利きミステリ>についてです。

『左利きで生きるには 週刊ヒッキイ』で、
「名作の中の左利き/推理小説編」として紹介してきました。

その後、機会ある毎に新たな情報を追加しながら、今日に至っています。

今回は、<海外編>を紹介していきます。

 ・・・

*<左利きミステリ>とは、
 左利きの人が主要登場人物である物語や
 左利きの性質をトリックに活用した推理小説、
 左利きや左手や左右に関連した推理小説、サスペンス小説、
 ホラー作品等のミステリの総称をいう。


 国内ミステリ : 東野圭吾『どちらかが彼女を殺した』
 海外ミステリ : エラリー・クイーン『シャム双子の秘密』


------------------------------------------------------------------
 1843:雑誌等初出年代 (1927):書籍刊行年代
 「」:短編、長編の一章 『』:収録短編集、長編
 [未]:<左利きミステリ>にもう一歩、未成熟
 [準]:<左利きミステリ>に準ずる
 [番外編]:番外編 (左利き/左手/左右関連)
 [ホラー]:ホラー [SF]:SF
------------------------------------------------------------------

<左利きミステリ>の登場人物・分類表

(探)◆:左利きの探偵/探偵役
(被)▲:左利きの被害者
(犯)●:左利きの犯人
(容)▼:左利きの容疑者
(他)■:左利きのその他の事件関係者
(脇)╋:脇役、通りすがり、妄想中の左利きの人物

<左利きミステリ>としての紹介の都合上、
作品のネタバレとなるケースがあります。
基本的に、キーポイントとなる読みどころに関しては
問題が起きないように留意しながら紹介していますが、
ときに一部ネタバレになる場合もありますが、ご容赦ください。


━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━

<左利きミステリ>:<海外編>リスト
(後編)<ホームズ以後>19世紀末以降



━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━

<左利きミステリ>【海外ミステリ】編

(12)・1891年(イギリス)「ボスコム谷の謎」アーサー・コナン・ドイル (犯)●
『シャーロック・ホームズの冒険』収録
――左利きの犯人 外科医の傷跡証言から。
『シャーロック・ホームズの冒険【新訳シャーロック・ホームズ全集】』
日暮雅通/訳 光文社文庫 2006/1/1
《「外科医の検死報告にあった傷の状態は...
 真後ろから殴っているのに、傷は頭の左側にあった。
 ...これはどうみたって左ききの人物の犯行としか考えられない。」》p.175


(13)・1893年(イギリス)「黄色い顔」 アーサー・コナン・ドイル (他)■
『シャーロック・ホームズの回想』収録
――ホームズの留守中に来た依頼人の忘れ物から、左利きだ、と推理。
『シャーロック・ホームズの回想【新訳シャーロック・ホームズ全集】』
日暮雅通/訳 光文社文庫 2006/4/12
《「しかも焦げているのはパイプの右側だから、左ききだ。
きみのパイプをランプにかざしてごらんよ。
右ききだから、左側を火にさらすことになるだろう。」》

(参考) ジュリアン・シモンズ『コナン・ドイル』深町真理子/訳
創元推理文庫 1991/5/1
――彼はエディンバラ大学医学生時代、外来診療実習生として、
 エディンバラ病院の外科医でもあった恩師ジョーゼフ・ベル博士の
診療室での“講義”で推理法を身につけた。
新しい患者がはいってくると、ベル博士はずばりと言う。―
 「この人は左利きで、靴直し職人だ」それから、それを説明して...
「ズボンのひざ...右側のほうが、左側よりもはるかにすりきれかたが
激しい...底革を打つのに、左手を使っている証拠だよ」

*参照:『レフティやすおのお茶でっせ』
2005.9.17
依頼人は左利き―ホームズの名推理「黄いろい顔」より
http://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2005/09/post_4893.html
2011.9.24
推理小説と左利き:週刊ヒッキイhikkii278名作の中の左利き
~推理小説編1
http://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2011/09/hikkii2781-f03e.html


(14)・1899年クリスマスデイ[1999(アメリカ)]「クリスマスの陰謀」
 エドワード・D・ホック (犯)●
(原題) The Christmas Conspiracy
――ホームズ・パスティーシュ。
 1999年 "More Holmes for the Holidays" 収録
『エドワード・D・ホックのシャーロック・ホームズ・ストーリーズ』
日暮雅通/他訳 原書房 2012/6/1 (原書)2008
《「でも、執事があの人だということが、どうやってわかったんですか?」
 「左利きだという明らかな事実が...首攻めをしたときも、
  左手を使って...写真でも...左手に銃を持って」》p.204 (日暮雅通/訳)


(15)・1896年(イギリス)「プラットナー先生綺談」H・G・ウェルズ [SF]
――SFファンタジー。四次元世界に飛ばされたのち戻ってきたら、
 右利きから左利きへ肉体の左右が逆転した男の話。
『バベルの図書館8白壁の緑の扉』ボルヘス/編 小野寺健/訳
国書刊行会 1988/9/24 収録
《ゴットフリート・プラットナーの体が解剖学的に左右逆転している
 というくらい厳然たる事実も例がないのだが》p.51
《さいきん右手が左手になってしまったらしい。》p.52

*参照:2020年2月15日
 『左利きで生きるには週刊ヒッキイhikkii』565号
 『レフティやすおの楽しい読書』264号
左右反転小説-左利きになった男(楽しい読書/週刊ヒッキイ・コラボ編)
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2020/02/post-386af3.html


(16)・1904年(アメリカ)「ミス・ペブマーシュ殺人事件」バロネス・オルツィ
 (被)▲
――右手にペンを持った被害者のダイイング・メッセージは……。
(初出)『ロイヤル・マガジン』1904年8月号
(単行本)1905年『ミス・エリオット事件』The Cace of Miss Elliott 収録
『隅の老人[完全版]』バロネス・オルツィ 平山雄一/訳 作品社 2014/1/31 収録
《(召使いの証言)「『奥様の字はいつも読みにくいんですよ。
 左手で書くとこうなってしまうんですねえ』」/
 「『左手だって!!!』と、検視官は息を呑んだ。...
 『だってそうなんですよ!』...『奥様は子供のころに右手に
 ひどい怪我をされて、何もつかめないのを知らなかったんですか?
 指が麻痺してしまったんですよ。インク壺はいつも書き物机の左側に
 置いてあるじゃありませんか。ええ! 奥様は右手では一文字も
 書けないんですよ』」》p.262


(17)・1906年(アメリカ)「余分な指」ジャック・フットレル (犯)●
――左手の人差し指を切り落としてくれと云う依頼を受けた外科医……。
(初出)『サタデー・マガジン』1906年11月25日号
『思考機械 [完全版]第二巻』ジャック・フットレル/著 平山雄一/訳
作品社 2019/7/30
《「この人差し指を」...「第一関節で切断していただきたいのです。...」
 「どうして切り落としたいのですか?」...
 「それは申しあげられませんわ」...
 「先生がお知りになる必要はありません。あなたは外科医、
  私は手術をしてもらいたい。それで十分でしょう」》


(18)・1907年(アメリカ)「壊れたブレスレット」ジャック・フットレル
 (犯)●
――思考機械対賢い娘。住所を書いてといっても、
 左手に鉛筆を持ったまま躊躇する女。
(初出)『サタデー・マガジン』1907年9月8日号
『思考機械 [完全版]第二巻』ジャック・フットレル/著 平山雄一訳
作品社 2019/7/30
《...娘はちょっと手を止め、左手で持った鉛筆の尻で白い歯を叩き
 ながら考えていた。...》《「私、字が下手なんですもの。それに、
 手袋をしているから」...》p.382
《「...彼女は左利きか?」/「いいえ、違います。右利きです。...」》
p.383


(19)・(1909年)(イギリス)「アルミニウムの短剣」オースチン・フリーマン (容)▼
(原題) John Thorndyke's Case
――科学捜査を取り入れたソーンダイク博士探偵譚。左利きの容疑者。
 左後方からの短剣による刺し傷から推理。
『ソーンダイク博士の事件簿I』オースチン・フリーマン/著 大久保
康雄/訳 創元推理文庫 シャーロック・ホームズのライヴァルたち
1977/8/19
《「...背中の左側という短剣の位置からみて、
  犯人は左利きにちがいありません。...」》p.279


(20)・1911年(フランス) 「赤い絹の肩かけ」モーリス・ルブラン (犯)●
(原題) L'ECHARPE DE SOIE ROUGE
――怪盗紳士ルパン(リュパン)もの。ガニマール警部はルパンから
 「犯人は左利きだ」と教えてもらったことで命拾いする。
(初出)『ジュ・セ・トゥ JE SAIS TOUT』誌 79号(1911/08/15)
(単行本)『リュパンの告白』(原著1913)井上勇/訳 創元推理文庫 1966/3/24
(『世界短編傑作集2』江戸川乱歩編 創元推理文庫 1961/1/13)
『世界推理短編傑作集2』江戸川乱歩編 創元推理文庫・新版改題2018.9.14
「赤い絹の肩かけ」モーリス・ルブラン 井上勇/訳
《...リュパンが与えた警告を思い出した。プレヴァイユは左ききなのだ。
 左手で捜しているのは、ピストルだ。》p.144


(21)・(1913年)(アメリカ)『オズのつぎはぎ娘』ライマン・フランク・ボーム
 <ファンタジー・童話> (他)■
(原題)Patchwork Girl of Oz
――マンチキンの少年「不運なオジョ」は、13日の金曜日生まれの左利き
『オズのつぎはぎ娘』ライマン・フランク・ボーム 佐藤高子/訳
 ハヤカワ文庫NV 1977(昭和52)/12/15
《「偉大なる人物の多くは左ききだ」》
《「左ききは、ふつう、両方が使える。右ききはだいたいにおいて
 右しか使えない」》p.309


(22)・(1914年)(イギリス)「ディオニュシオスの銀貨」アーネスト・ブラマ
 (他)■
(原題) The Coin of Dionysius (第一短編集 "Max Carrados" 収録)
――盲人探偵初登場作品、脇役の私立探偵カーライルが左利き。
『マックス・カラドスの事件簿』アーネスト・ブラマ 吉田誠一/訳
 創元推理文庫シャーロック・ホームズのライヴァルたち 1978/4/10
《カーライル氏の右の袖口にハンカチがはさんであるということは、...
 カーライル氏が左利きである証拠だなどと推論することはしなかった。》
p.25


(23)・1917(1918)年(アメリカ)「藁人形」メルヴィル・デヴィッスン・
 ポースト (犯)●
(原題) The Straw Man (Uncle Abner, Maser of Mystery)
――アメリカ開拓時代のウェスト・ヴァージニアを舞台に、敬虔な
 キリスト教徒(プロテスタント)のアブナー伯父の探偵譚。左利きの犯人
 を、左という言葉を使うことなく(読者に伏せて)追い詰める。
初出不明、『イラストレイテッド・サンディ・マガジン』1917年6月10日号
再録、<EQMM>1959年12月号掲載
【邦訳】『ミステリマガジン』1975年4月号(No.228)掲載 山田辰夫/訳
『アンクル・アブナーの叡知』メルヴィル D.ポースト/著 吉田誠一/訳
ハヤカワ・ミステリ文庫 1976/1/1
――1918年出版の<アブナー>もの短編集(18編収録)の完訳。
『アブナー伯父の事件簿』メルヴィル・デイヴィスン・ポースト 菊池光
/訳 創元推理文庫 シャーロック・ホームズのライヴァルたち 1978/1/20
《作者生前の短編集に未収録の作品を全編収めた待望の一巻!全14編収録》
《...人間の体は、奇妙な構造になっている。二つの同じような機構が
中央の胴体に結びつき合っているかのように、二つの面をそなえている
 のだ。右側、つまり、朝日に向かった時に南にある側と、左側、つまり
 北にある側だ。この二つの側面は同等ではない。一方が主導権をもって
 いてその人間を支配しており、困難な仕事に直面すると、人は、主導権
 を有するそのより能率的な側でその仕事に対処する。》 p.177
《「彼はつねに左側の壁を伝って歩いていたのだ。...」
 「なぜなら、主導権をもっているのが左側―つまり、犯人は左利き
 だからだ!》p.178

*参照:『左利きで生きるには週刊ヒッキイhikkii』
第287号(No.287) 2011/11/19「名作の中の左利き~推理小説編
 -2-「藁人形」M.D.ポースト」
2011.11.24
<アブナー伯父>「藁人形」:週刊ヒッキイhikkii287
名作の中の左利き~推理小説編2
http://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2011/11/hikkii2872-da28


(24)・(1918年)(イギリス)「消えた金融業者」オースチン・フリーマン
 [未](被)▲
(単行本)第3短編集"The Great Portrait Mystery"収録
――左利きの被害者。左手の指を死体入れ替わりトリックを破る証拠に
 仕立てようとしているが、今一歩で「左利きミステリ」の未熟児?
『ソーンダイク博士の事件簿II』オースチン・フリーマン/著 大久保
康雄/訳 創元推理文庫 シャーロック・ホームズのライヴァルたち
1980/3/28
《「死者の左手の第三指に印章付きの指輪をはめていたとマーボットの
 医者は証言しているじゃないか。関節が膠着症の指に指輪をはめる
 わけはないだろう」》p.66


(25)・1924年(イギリス)「夜鶯荘」アガサ・クリスティ [準]左手首のほくろ
 /傷
(原題) Philomel Cottage
(初出)『グランド・マガジン』1924年11月号
――知り合ったばかりの男性と結婚した主人公は、二重結婚で妻を殺した
 男の古い新聞記事を夫の引き出しに見つける。その顔は夫にそっくり、
 左手首にほくろがあるというが、夫の左手首には傷が……。
『世界推理短編傑作集3』江戸川乱歩/編 創元推理文庫 新版改題 2018/12/2
《...その男には、左の手首、手のひらのすぐ下のところにほくろがある
 という事実.../...夫の左の手首、手のひらのすぐ下のところに、
 小さな傷あとがあるのだ。》p.173-174
『リスタデール卿の謎』アガサ・クリスティー 田村 隆一/訳
 ハヤカワ文庫 クリスティー文庫56 2003/12/15


(26)・(1925年)(イギリス)「砂丘の秘密」オースチン・フリーマン (被)▲
(原題) The Puzzle Look
(初出)『ピアスン』誌 単行本(1925年)"The Pazzle Lock"収録
――左利きの被害者。浜辺に残されていた服(左の袖口に油絵の具)と
  道具(パレットナイフの磨り減り方から)から。
『ソーンダイク博士の事件簿I』オースチン・フリーマン/著 大久保
康雄/訳 創元推理文庫 シャーロック・ホームズのライヴァルたち
1977/8/19
《「どうして左利き用とわかったんだ?」.../
 「刃のすりへった角度からだよ」》p.340


(27)・(1927)(イギリス)「ポンティング氏のアリバイ」オースチン・
 フリーマン (犯)●
(原題) The Magic Casket  第6短編集
――左利きの犯人。自殺に偽装した首のナイフの傷跡の方向(被害者自身
 の左から右へ)と左利きの犯人の手の動き(相手に向かって右から左へ)
『ソーンダイク博士の事件簿II』オースチン・フリーマン/著 大久保
康雄/訳 創元推理文庫 シャーロック・ホームズのライヴァルたち
1980/3/28
《...ハンカチを巻きつけた右手にパイプをもって、左手でタバコを
 つめた。不自由なくやってのけるところを見ると左ききらしい。
 マッチも左手でするし、腕時計も右の手首にはめているから、
 この推理はまちがいないようだ。》p.104


(28)・(1927年)(イギリス)「フラットの惨劇」アーネスト・ブラマ [準](被)▲
(原題) The Holloway Flat Tragedy
(1927年)第三短編集"Max Carrados Mystery"収録
――盲人探偵マックス・カラドスもの、「顔のない死体」もの、死体
 入れ替えの証拠作りのため手袋で隠す。被害者の左手指が欠損。
『マックス・カラドスの事件簿』アーネスト・ブラマ 吉田誠一/訳
 創元推理文庫シャーロック・ホームズのライヴァルたち 1978/4/10
《...彼は手袋をはめたままの左手を上げて、「指が一本ないので、
 こうしていつも手袋をはめているのですよ。...」》p.212


(29)・(1927年)(イギリス)『ビッグ4』The Big Four「11 チェスの問題」
 アガサ・クリスティー (被)▲
――名探偵エルキュール・ポアロものの短編連作風の長編の一章。
 世界的なチェス・プレイヤーの対戦で、3手目に相手が急死する。
 毒物は発見されず、左手に火傷の跡があるだけ。被害者は左利き。
『ビッグ4』アガサ・クリスティー 中村 妙子/訳 ハヤカワ文庫
 クリスティー文庫 2004/3/16
《「彼が左利きだということはどうですか?」/
 「あなたには驚かされます。まるで魔法使いのようですね、ムッシュ・
 ポアロ。どうしてわかったんですか? ええ、ウィルソンは左利き
 でした。事件とはべつに何の関係もありませんがね」》p.175


(30)・(1928)(フランス)「金歯の男」モーリス・ルブラン [準][番外編]
――ルパンがバーネットと称し、探偵社をやっていたときの事件。夜中に
 神父が目撃した、司祭館聖器室の宝物を盗んだ犯人は、左側に金歯。
 しかし、容疑者の金歯は右……。左右の問題。
『バーネット探偵社―ルパン傑作集VII―』モーリス・ルブラン
 堀口大學/訳 新潮文庫 1960/7/1
《「実は金歯ですよ。...二本あるんですが、ただ……。」/...
 「右側にあるんですよ……ところがわしが見たのは、左側なんです。」》
p.97


 ――以上、<ホームズ以後>19世紀末から20世紀初頭まで

 いずれ機会を見て、この続きの「1930年代<探偵小説黄金時代>以降」
 を紹介します。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「週刊ヒッキイhikkii×楽しい読書 コラボ企画:私の読書論186-<左利きミステリ>第5回 海外編(後編)<ホームズ以後>19世紀末以降」と題して、今回も全文転載紹介です。

『週刊ヒッキイ』の「編集後記」にも書きましたように、現代編までかければベストでしたが、分量的に無理で、今回はここまでです。

<シャーロック・ホームズのらいヴァルたち>まではなんとか到達しました。
結構な冊数の<ライヴァルもの>を調べたつもりですが、すべてを網羅というのは難しいかと思います。

いよいよ次回は、<1930年代・探偵小説の黄金時代>以降現代まで、に突入です。
いつになるかはわかりませんが、お楽しみに。

今、20点ぐらいは判明しているものがあると思います。
もちろんきちんとした<左利きミステリ>ではないもの――登場人物の妄想であるとか、ラストの一場で登場したり、といったほんの一エピソードだけのものも含めての数字です。

そういう作品も含めても、楽しんでいただける内容になると信じています。
では。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

『レフティやすおのお茶でっせ』
〈メルマガ「楽しい読書」〉カテゴリ


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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載

" target="_blank">[コラボ]私の読書論186-<左利きミステリ>第5回海外編(後)ホームズ以後--楽しい読書368号

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[コラボ]私の読書論185-<左利きミステリ>第5回海外編(前)ホームズ以前-週刊ヒッキイ第666号

2024-06-18 | 左利き
『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』第640号 【別冊 編集後記】

第666号(Vol.20 no.11/No.666) 2024/6/15
「週刊ヒッキイhikkii×楽しい読書 コラボ企画:
私の読書論185-<左利きミステリ>第5回 海外編
(前編)<ホームズ以前>紀元前から19世紀末まで」



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◇◆◇◆◇◆ 左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii ◆◇◆◇◆◇
  【左利きを考える レフティやすおの左組通信】メールマガジン
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第666号(Vol.20 no.11/No.666) 2024/6/15
「週刊ヒッキイhikkii×楽しい読書 コラボ企画:
私の読書論185-<左利きミステリ>第5回 海外編
(前編)<ホームズ以前>紀元前から19世紀末まで」
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 × × × × × × × × × × × × × × × ×
------------------------------------------------------------------
◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
------------------------------------------------------------------
2024(令和6)年6月15日号(vol.17 no.11/No.368)
「週刊ヒッキイhikkii×楽しい読書 コラボ企画:
私の読書論186-<左利きミステリ>第5回 海外編
(後編)<ホームズ以後>19世紀末以降」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

*「後編」も見てね! 「後編」はこちらで↓
 『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』(12:00 配信)

登録はこちら↓
https://www.mag2.com/m/0000257388.html

または、『レフティやすおのお茶でっせ』のサイドバーで!
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 今回は、私の発行しているメルマガ
 『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』と
 『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』のコラボ企画です。

 以前も何度か試みましたが、その5回目です。


【過去のコラボ】

■1回目――

ツイッターで紹介した【左利きミステリ入門】のまとめでした。
そこでは、海外編として、19世紀以前の作品をツイッターで
 年代・国名・著者名・作品名・左利きの登場人物・
 左利きに関する記述の該当箇所
などの情報を紹介した、まとめ編でした。

『左利きで生きるには 週刊ヒッキイ』
・第577号(No.577) 2020/8/15
左利きの本を読む~ツイッター【左利きミステリ入門】まとめ(1)
×レフティやすおの楽しい読書(No.276)
『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』
・2020(令和2)年8月15日号(No.276)
左利きの本を読む~ツイッター【左利きミステリ入門】まとめ(2)
×左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii(No.577)
【別冊 編集後記】
『レフティやすおのお茶でっせ』2020.8.15
・ツイッター【左利きミステリ入門】まとめ(1)-週刊ヒッキイ第577号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2020/08/post-ed8cea.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/612cd4bd3edfdbeb612069497aef79fa
・ツイッター【左利きミステリ入門】まとめ(2)-「楽しい読書」第276号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2020/08/post-ec0ad2.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/245bddeded4348e10aaa4a027a6fab18

■2回目――

「<左利きミステリ>その後」と題して、
過去の『左利きで生きるには 週刊ヒッキイ』の
「小説の中の左利き・推理小説編」やブログ等で紹介したもの以外に、
それ以降に見つけた<左利きミステリ>(広義のミステリ)のあれこれを
 年代・作品名・著者名(短編の場合は、収録書籍名)
をリスト化して紹介しました。

『左利きで生きるには 週刊ヒッキイ』
・第595号(No.595) 2021/5/15
「楽しい読書コラボ企画:私の読書論144<左利きミステリ>その後」
『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』
・2021(令和3)年5月15日号(No.294)
「週刊ヒッキイコラボ企画:私の読書論144<左利きミステリ>その後」
【別冊 編集後記】
『レフティやすおのお茶でっせ』2021.5.15
・私の読書論144-<左利きミステリ>その後
-週刊ヒッキイ595号&楽しい読書294号コラボ企画
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2021/05/post-e0ec7a.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/400a7921be1d016f8bfbff350762971a

■3回目――

【第一回】のツイッター版【左利きミステリ入門】の続きの
海外編「20世紀以降」版から
<ホームズのライヴァルたち>の作品の紹介でした。

『左利きで生きるには 週刊ヒッキイ』
・第628号(No.628) 2022/10/15
「<週刊ヒッキイ>×<楽しい読書>コラボ企画:私の読書論161
 【左利きミステリ入門】ホームズのライヴァルたち」
『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』
・2022(令和3)年10月15日号(No.328)
「<週刊ヒッキイ>×<楽しい読書>コラボ企画:私の読書論161
 【左利きミステリ入門】ホームズのライヴァルたち」
【別冊 編集後記】
『レフティやすおのお茶でっせ』2022.10.15
・<週刊ヒッキイ>×<楽しい読書>コラボ企画:私の読書論161
左利きミステリ~-週刊ヒッキイ第628号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/10/post-39e67a.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/ad9796a23bf53cf6eb0e80182a9d7b6a
・<週刊ヒッキイ>×<楽しい読書>コラボ企画:私の読書論161
私の自作左利きミステリ-「楽しい読書」第328号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/10/post-1a4b2b.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/03236262a34a6ee2e03b42bff06e3267

■4回目――

<左利きミステリ>の国内編――国内ミステリのリスト紹介でした。

前半=『週刊ヒッキイ』版は、1948年「アンゴウ」坂口安吾 から、
(1997年)『三月は深き紅の淵を』「第二章 出雲夜想曲」恩田陸 まで。
後半=『楽しい読書』版は、2003年「書肆に潜むもの」井上雅彦 から、
(2019年3月)『レフトハンド・ブラザーフッド』知念実希人 までを紹介。

『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
・第640号(No.640) 2023/4/15
「週刊ヒッキイhikkii×楽しい読書コラボ企画:
私の読書論169-<左利きミステリ>第4回 国内編(前編)」
『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』
・2023(令和5)年4月15日号(No.340)
「週刊ヒッキイhikkii×楽しい読書コラボ企画:
私の読書論169-<左利きミステリ>第4回 国内編(後編)」
【別冊 編集後記】
『レフティやすおのお茶でっせ』2023.4.15
・私の読書論169-<左利きミステリ>第4回 国内編(前)
-週刊ヒッキイ640号×楽しい読書340号コラボ企画
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/04/post-d5c13e.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/131b4f7933014dcedf057c75702ff28e
・私の読書論169-<左利きミステリ>第4回 国内編(後)
-週刊ヒッキイ640号×楽しい読書340号コラボ企画
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/04/post-5b4e1e.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/d0e3f19af79760633cbcc87cac454f96


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

  ★ コラボ企画 ★

 『左利きで生きるには 週刊ヒッキイ』
  <左利きミステリ>第5回 海外編
(前編)<ホームズ以前>紀元前から19世紀末まで

 × × × × × × × × × × × × × × × ×

 『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』
  <左利きミステリ>第5回 海外編
(後編)<ホームズ以後>19世紀末以降

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


<左利きミステリ>についてです。

『左利きで生きるには 週刊ヒッキイ』で、
「名作の中の左利き/推理小説編」として紹介してきました。

その後、機会ある毎に新たな情報を追加しながら、今日に至っています。

今回は、<海外編>を紹介していきます。

 ・・・

*<左利きミステリ>とは、
 左利きの人が主要登場人物である物語や
 左利きの性質をトリックに活用した推理小説、
 左利きや左手や左右に関連した推理小説、サスペンス小説、
 ホラー作品等のミステリの総称をいう。


 国内ミステリ : 東野圭吾『どちらかが彼女を殺した』
 海外ミステリ : エラリー・クイーン『シャム双子の秘密』


------------------------------------------------------------------
 1843:雑誌等初出年代 (1927):書籍刊行年代
 「」:短編、長編の一章 『』:収録短編集、長編
 [未]:<左利きミステリ>にもう一歩、未成熟
 [準]:<左利きミステリ>に準ずる
 [番外編]:番外編 (左利き/左手/左右関連)
 [ホラー]:ホラー [SF]:SF
------------------------------------------------------------------

<左利きミステリ>の登場人物・分類表

(探)◆:左利きの探偵/探偵役
(被)▲:左利きの被害者
(犯)●:左利きの犯人
(容)▼:左利きの容疑者
(他)■:左利きのその他の事件関係者
(脇)╋:脇役、通りすがり、妄想中の左利きの人物

<左利きミステリ>としての紹介の都合上、
作品のネタバレとなるケースがあります。
基本的に、キーポイントとなる読みどころに関しては
問題が起きないように留意しながら紹介していますが、
ときに一部ネタバレになる場合もありますが、ご容赦ください。


━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━

<左利きミステリ>:<海外編>リスト
 (前編)<ホームズ以前>紀元前から19世紀末まで

━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━

<左利きミステリ>【海外ミステリ】編

1・紀元前『旧約聖書』「士師記」左利きのエホデ (犯)●
――左利きの暗殺者〈モアブの王エグロン殺し〉
『旧約聖書』「士師記」第3章12-30
第3章
《15 ベニヤミン人ゲラの子なる左手利捷のエホデ是なり
 16 両刃の剣を作らせ...
 21 エホデ左の手を出し右の股より剣を取りてその腹を刺せり》
『文語訳旧約聖書II歴史』岩波文庫 より

【情報源】マイケル・バーズリー『左ききの本』TBS出版会 西山浅次郎訳
 十三章「エホデ――ベンヤミンのジェイムズ・ボンド」より



2・7世紀半ば(中国・唐時代)[1963(アメリカ)]『白夫人の幻』
 ロバート・ファン・ヒューリック (容)▼
――東洋通のオランダの外交官(中国や日本の大使を歴任)による、
 中国歴史ミステリ。大唐帝国全盛期の県知事「狄(ディー)判事」こと、
 狄(ディー)仁傑(レンチェ)が活躍するシリーズもの探偵譚。
 ケガの状況から容疑者は左利きと推理する。
(原題)The Emperor's Pearl (1963)
『白夫人の幻』ロバート・ファン・ヒューリック/著 和爾桃子/訳
 ハヤカワ・ミステリ 2006/7/15


3・1207年(中国・南宋時代)『棠陰比事』桂万栄/編纂 駒田信二/訳
 「9 利手の左右」「10 傷跡の深浅」 (犯)●
――中国の裁判事例集、二話ずつ対比。左利きの犯人による犯罪事例。
 江戸時代「本朝棠陰比事物語」として翻訳され、翻案ものが編まれた
『棠陰比事』岩波文庫 1985/1/16
「9 利手の左右」
《囚人たちに食事をさせてその利手(ききて)を調べたところ、
彼だけが左手で匕(さじ)や箸を使ったので、この男が殴り殺したと...》
「10 傷跡の深浅」
《傷が右臂(ひじ)にあるのが不審であった。
 そこで食事をあたえて利手を調べてみたところ、
 誣告であることが明らかになったのである。》
  平凡社『中国古典文学大系39』より

【情報源】有栖川有栖『ミステリ国の人々』日本経済新聞出版社
「ディー判事――ロバート・ファン・ヒューリック」より
《「この中でただ一人、左利きのお前が犯人だ」
 などという推理が出てくるのだから。》


4・18世紀(アメリカ)「フランクリンの請願書(左手からのお願い)」
 ベンジャミン・フランクリン [番外編]
――政治家で、雷が電気だと照明したことでも知られる経済人・
 フランクリン(左利き説もある)が、常に右手の補完的存在で、
 いつも差別を受けている左手を擁護した小文。
【情報源】バーズリー『左ききの本』TBS出版会 西山浅次郎訳
「教育の監督権を有する関係者に対する請願書」
《「私の不幸な運命に対して情深い配慮を...
 すべての子どもに同等に注意と愛情を...左の手拝」》
【情報源】ブリス、モレラ『左利きの本――右利き社会への挑戦状』
 講談社 草壁焔太訳 “教育を監督主導する人々への嘆願書”
《左手についての...深刻な問題をとりあげ軽いタッチで、
 彼は左利きへの合理的な理解と同情を訴えた。》
【情報源】コレン『左利きは危険がいっぱい』文藝春秋 石山鈴子訳
《左手利き(の彼は)... 左手利きの人々にのしかかるプレッシャーに
 抗議して、「教育を監督する方々へのお願い」
 と題した文章を書いている。》

(参考) 1971(昭和56)年 「兄弟」阿刀田高 [番外編]
――「フランクリンの嘆願書」に類似した内容のショートショート。
 『新装版・最期のメッセージ』阿刀田高 講談社文庫 2009/1/15 より
《...双生児の兄弟、姿形だって真実鏡に映したように
 二人はよく似ていた。》

*参照:『レフティやすおのお茶でっせ』2012.7.11
<右手と左手>の立場を語る「兄弟」~
『イソップを知っていますか』阿刀田高
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2012/07/post-6a7a.html
http://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/f551a7846a67e4408a978fdfdab08d95
2011.12.29
阿刀田高「兄弟」とLYGP2012:メルマガ
「左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii」291、292号告知
http://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2011/12/lygp2012-hikkii.html
http://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/8067fe3bf2ee0e82e960e5259cc9b509


5・1841年9月(アメリカ)「悪魔に首を賭けるな 教訓のある話」
 エドガー・アラン・ポー (犯)●?
――習慣によって身の破滅を招く男。原因は、母親固有の具体的欠点で
 あった左利きによる打擲と貧乏だった!
『ポオ短編全集III』野崎孝訳 創元推理文庫 1974/6/28
《彼の母親の肉体的欠陥から生まれたものだ。
 悲しいかな、この女は運悪く左ききだった...
 子供を左から右へひっぱたいたって甲斐ないこと。》


6・1843年6月(アメリカ)「黄金虫」エドガー・アラン・ポー (他)■
――暗号解読宝探し小説。左利きの従僕の左右取り違えで、
 一度は宝探しに失敗するが……。
(初出)『ダラー・ニューズペーパー』1843年6月21日号、28日号 分載
(原題) The Gold-Bug
『ポオ短編全集IV』丸谷才一訳 創元推理文庫 1974/9/27
《「おまえ、自分の右手と左手の区別がつくか?」/
 「...薪を割るのがおらの左手ですだ」/「なるほど、左利きだもんね。
 じゃあ、お前の左の眼は左手と同じ側にあるんだ。」》

*参照:『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
第180号(No.180) 2009/5/16
「名作の中の左利き(2)」―その2―『黄金虫』エドガー・アラン・ポー


(7)・1870年7月(フランス)「バティニョールの老人」エミール・
ガボリオ (被)▲
――自分の血で書いた犯人の名と思われるダイイング・メッセージ。
 左手の指に血が付いていたので、予審判事も警察署長も、犯人が誤って
 左手に血を付けて偽装したと判断し、犯人逮捕に辿り着くが……。
「ル・プチ・ジュルナル」(フランス四大日刊紙)1870年7月8日~19日連載
『世界推理短編傑作集6』戸川安宣編 創元推理文庫 2022/2/19
《右手は汚れていない……べっとりと血にまみれていたのは、
 左手の人差指だった。/では、老人は左手で血の文字をかいたのか……
 そんなばかな……》p.36(太田浩一/訳)
《「...おまえが血に浸したのは、死体の左手だったんだよ……」》
《「ビゴローの親父はもともと左利きだったんだよ!」》p.99

(参考) 1892(明治25)年「血の文字」黒岩涙香 (被)▲
――エミール・ガボリオ「バティニョールの老人」の翻案小説。
1892(明治25)年8月刊、小説集『綾にしき』収録
『日本探偵小説全集1 黒岩涙香・小酒井不木・甲賀三郎集』
創元推理文庫 1984/12/22
《「...あの老人が左得手(えて)で、筆を持つのは左手だと云う事を
 御存じないと見えますな」》p.107


(8)・1871(イギリス)『鏡の国のアリス』ルイス・キャロル [番外編]
――ご存知『不思議の国のアリス』の作者による
 鏡のなかの左右反転世界での冒険
『鏡の国のアリス』矢川澄子/訳 金子國義/イラスト 新潮文庫 1994/9/28
《「あの鏡のお家に住んでみる気はない、キティ? 
  あっちでもあんた、ミルクもらえるかしら。
  鏡のなかのミルクなんて、おいしくなさそう――」》

(参考) クリス・マクマナス/著『非対称の起源―偶然か、必然か』帯絵
(大貫 昌子/訳 講談社ブルーバックス 2006/10/21)



(9)・1881年(ロシア)「左利き トゥーラのやぶにらみの左利きと鋼鉄の蚤の
 話」レスコフ [番外編]
――ミニチュア細工の左利きの職人が、イギリスから持ち帰った軍事上の
 秘密とは……。
『ルーショ』紙1881年第45号、50号、51号掲載
1882年『オリョール報知』紙転載 1884年単行本
『レスコフ作品集1 左利き』岩浅武久/訳 群像社 ロシア名作
ライブラリー 2020/2/28
《「じゃあなぜ左手で従事を着るのですか?」/「彼は左利きで、
 何でも左手でやるのです」》


(10)・19世紀?(アメリカ)(小話)〈玉突屋のおやじ〉マーク・トウェイン
 [番外編]
マーク・トウェイン『ちょっと面白い話』大久保博/編訳 旺文社文庫
1980/1/1 収録
《ひと勝負やるか とおやじ/おれの腕前を見て
 「よし結構。それならおれは左手で突こう」》
《「左手でもそれだけ突けるんだから、右手で突いたら、
 いったいどれだけ突けるんだい?」/「いやあ、だめさ」
 とおやじは言った。/「おれはもともと左ギッチョなんだ」》


(11)・19世紀?(アメリカ)〈多数派〉マーク・トウェイン [番外編]
マーク・トウェイン『ちょっと面白い話』大久保博/編訳 旺文社文庫
1980/1/1 収録
《多数派は常に間違っている/自分が多数派にまわったと知ったら/
 それは必ず行いを改める(か、一息いれて反省する)時だ》

(参考) マーク・トウェインは左利き―
『神々の左手―世界を変えた左利きたちの歴史』エド・ライト/著
スタジオタッククリエイティブ 2009.6


 ――以上、<ホームズ以前>紀元前から19世紀末まで。

 (「後編」では、<ホームズ以後>19世紀末以降
         の諸作品を紹介します。)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
本誌では、「週刊ヒッキイhikkii×楽しい読書 コラボ企画:私の読書論185-<左利きミステリ>第5回 海外編(前編)<ホームズ以前>紀元前から19世紀末まで」と題して、今回も全紹介です。

以前、X(旧Twitter)のまとめ編を基に、総リスト化してみました。
「前・後編」で現代まで、という気持ちでいましたが、残念ながら今回はそこまで届きませんでした。
1920年代まででした。
またいずれ機会を見て、残りの1930年代(探偵小説黄金時代)以降、現代までをお届けしたいと思います。

今回新たに追加した作品は、

(2)・7世紀半ば(中国・唐時代)[1963(アメリカ)]『白夫人の幻』ロバート・ファン・ヒューリック
(7)・1870年7月(フランス)「バティニョールの老人」エミール・ガボリオ
 (参考) 1892(明治25)年「血の文字」黒岩涙香
(9)・1881年(ロシア)「左利き トゥーラのやぶにらみの左利きと鋼鉄の
蚤の話」レスコフ

ぐらいでした。

15歳から70歳の今日まで56年間に読んだ本は、2800冊程度。
内、広義の「ミステリ」はせいぜい1500程度でしょうか。
しかも、<左利きミステリ>を意識して読むようになったのは、ここ20年ほどで、それ以前に読んだ本はまったく記憶にないものも数多くあります。
あれが抜けてるとか、これを知らないの? といった見落とし作品がいくつもあるかと思います。

特に、近年は読書量も減っており、一方で海外ものの翻訳作品は売れ行きとは反比例で、相変わらずかなりの量が翻訳されています。

追々調べながら追加しておこうと思っています。
ご存知の作品などありましたら、ご教授いただけると幸いです。
よろしくお願いいたします。

 ・・・

弊誌の内容に興味をお持ちになられた方は、ぜひ、ご購読のうえ、お楽しみいただけると幸いです。

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』


『レフティやすおのお茶でっせ』
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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載

" target="_blank">[コラボ]私の読書論185-<左利きミステリ>第5回海外編(前)ホームズ以前-週刊ヒッキイ第666号

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楽器における左利きの世界(21)左利きヴァイオリニストの発言から-週刊ヒッキイ第665号

2024-06-07 | 左利き
『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』(まぐまぐ!)
【別冊 編集後記】

第665号(Vol.20 no.10/No.665) 2024/6/1
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 楽器における左利きの世界(21)左利きヴァイオリニストの発言から」



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇◆◇◆◇◆ 左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii ◆◇◆◇◆◇
【左利きを考えるレフティやすおの左組通信】メールマガジン

  右利きにも左利きにも優しい左右共存共生社会の実現をめざして
  左利きおよび利き手についていっしょに考えてゆきましょう!
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第665号(Vol.20 no.10/No.665) 2024/6/1
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 楽器における左利きの世界(21)左利きヴァイオリニストの発言から」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 前回は、YouTubeヴァイオリン動画

 左利き用バイオリン?! なぜみんな左手でバイオリンを持つのか。
https://youtu.be/1AmkzYXwHuY?si=0GR1mBoVlDkQkwbN
(2022/03/26「達ちゃんねる」13分27秒)

 を紹介しながら、左利きとヴァイオリン演奏について考えてみました。

 今回も、もう一つのYouTubeの動画を紹介しながら、
 左利きとヴァイオリン演奏について考えていこう、
 という予定でしたが、
 ネットで見つけた左利きヴァイオリニストさんの発言を紹介し、
 なぜ左利きでも右用ヴァイオリンで右弾きしなければならないのか、
 という点を見ておきましょう。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ◆ <めざせ!実現!!左用ピアノ!!!>プロジェクト ◆

 {左利きの人は左利き用の楽器で演奏しよう!}

- 「左利きに優しい社会」づくりは左用楽器の普及から! -

 左利きとヴァイオリン演奏について考える

   ネットの左利きヴァイオリニストの発言から

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ●ヴァイオリンYouTube動画(その2)

今回の動画はこれです↓

解説! 左利き用のバイオリンについて!
全盲のバイオリニスト穴澤雄介が教えます
【左利きの生徒さんを教えた経験談も】
https://youtu.be/d-xrKPRvgEo?si=bR30My4xtn6Rat3S
4:33

2022/09/29 全盲のユーチューバー、音楽家、講演家、
穴澤雄介チャンネル
--
ヴァイオリンやヴィオラに、
果たして左利きのための楽器は存在するのでしょうか?
左利きだけどバイオリンをやってみたい、
そう思っている方へ安心のアドバイス!!
--

というのですけれど……。

結論から書いてしまいますと、
ごくごく常識的?な発言ばかりで、参考にはなりません。

ごくごく簡単にまとめますと――

 《左利き用のヴァイオリンはありません。昔はあったらしいですが。》

 《大勢が並んで演奏することが多いので、
  ひとりだけ左弾きだと、弓がぶつかる、見た目がよくない》

 《左手で弦を押さえるのも、難しいから、左利きが不利とも言えない。》

 《楽器をやっていると、両利きのようになる、
  私も左の方が握力が強い》

――といったところです。
いつも聞かされる台詞といったところですね。


 ●「ツルノリヒロの生活と推理」から

次に、ネットで見つけた左利きヴァイオリンについての記事から
二、三紹介してみましょう。


【ネット記事から(その1)】

ツルノリヒロの生活と推理
アーティスト、ツルノリヒロの気ままな発信基地。

左利き用バイオリン
2012-04-20 20:36:54 | 思いつくままに
https://blog.goo.ne.jp/tsuru-norihiro/e/fcce99fe4f40cbbc34fe6a3425f321cc

ここでも簡単に気になる部分を紹介しておきましょう。

 《チャップリンは左利きで、チェロもバイオリンも、
  特注の楽器を弾いていたらしい。》

――有名人なので、その可能性はありそうですね。

 《今は、左利きの方でも右利きの構えに、
  早くからならされて弾く方が多いので、普通の楽器で良いのだが、》

――小さい頃からやってるから……というやつですね。
「結論」になるのですが、
ヨーロッパでも、日本と同じように左利きは差別されてきました。
認められるようになったのは、日本と同じように第二次大戦後のこと。

昔から左利きの子供たちは、親や学校の先生など大人たちから
「矯正」の名の下に、字を書く等の“人間的”な行為に関しては、
右使いに転換させられてきたのです。

*参考文献:欧米における左利き差別について
・左利きイギリス人の左利き研究家の著作
『左ききの本』マイケル・バーズリー 西山浅次郎訳 TBS出版会(発売・産学社)1973
(原著 THE LEFT-HANDED BOOk -An Investigation Into The Sinister
History Of Left-handedness- 1966) ――「序論」他


『右きき世界と左きき人間』マイケル・バーズリー 西山浅次郎訳 TBS出版会(発売・産学社)1972
(原著 Left-handed Man in a Right-handed World, 1970) ――著者の
 主宰する左利きの会会員の便り「第五章 左ききの試練と苦難」他


・左利きアメリカ人の左利きの著作
『左利きの本――右利き社会への挑戦状』ジェームス・ブリス、ジョセフ・モレラ 草壁焔太訳(講談社)1980.12
(原著 The Left-handaers' Handbook) ――「第I部 外国編」


・左利きのドイツのノーベル賞作家ギュンター・グラスの短編小説
「左ぎっちょクラブ」(1958、『僕の緑の芝生』飯吉光夫訳 小沢書店
 1993/10/1 収録) 
『僕の緑の芝生』
――左利きの青年たちが所属する“出来もしない”のに右手使いに転換
(「矯正」)することを目的としたクラブでの出来事を描く


ヨーロッパのクラシック音楽も、
伝統のある歴史のあるもので、演奏もその教育法も
昔から一つの形ができあがっていたのでしょう。

当然のごとく楽器演奏もまた、左利きの子供たちは、
右使いに「矯正」されてきた、というだけのことです。


 《利き腕を重視して演奏するには、
  バイオリンもチェロも、ボディーの中は左右対称ではないため、
  左利き用の楽器を使わなければならない。》
 《バイオリンとか、チェロは、作られてからすぐ、よりは、
  何十年も時を経て、
  初めてその楽器の持つ音が鳴るようになる。》
 《やはり特注して作ってもらう、と言う事になるのだろう。
  そうなると、なかなかいい音は望めないのだろう、
  だから、左利きでも右利きに矯正され、
  演奏する事になるのかもしれない。》

――この辺のところは、なかなか納得させられます。

楽器の音が練れてくるまでに時間がかかるので、
左利き用の歴史のある名器を見つけるのは難しい。

だから、「名器を演奏したいのなら、左利きの人でも右弾きで!」
という発言には、一理あるなあ、と感心します。

ただ、“名器を育てる”という行き方もあるはずですよね。

 《そういえば昔、
  スイスロマンド管弦楽団のバイオリンに、
  一人だけ左利き用で演奏している楽団員がいたが、
  テレビで見ていて、一人だけみんなと逆に構えているのが目立って、
  とても不思議な気がした事がある。》

――これは、目立ちたい人には魅力的でしょう。
逆に、目立ちたくない人には困ったことでなります。
左利きの人は「人前で目立ちたくない」という控えめな人も多いので、
これは困った事態ですね。


 ●「左利き?のヴァイオリニスト」から

【ネット記事から(その2)】

2017-02-21 23:57:46
左利き?のヴァイオリニスト
https://ameblo.jp/atsukosahara/entry-12248820146.html

佐原敦子(ヴァイオリニスト)さんのブログです。

《ウィーンの素晴らしいヴァイオリニスト、
 ルドルフ・コーリッシュ(1896~1978)》のことを書いておられます。

コーリッシュのYouTube動画

Kolisch String Quartet - Mozart:
https://youtu.be/ILCu3kMHHJc


 《コーリッシュは、一番右側の方です。
  たいてい、1stヴァイオリンは、一番左側ですが、
  弓があたらないように、/右側にいらっしゃいますね。

  私は、このように弾かれている方には
  お会いしたことがありませんが、
  一度、テレビでヨーロッパのオーケストラの中で弾かれている姿を
  観たことがあります。

  反対でも弾けるようになるには、
  顎当てや弦も反対に張ったヴァイオリンがないと練習できません。
  私はウィリアム一台しか持っていないので、上達は難しそうです。》

――とのこと。
左利き左弾きのコーリッシュさんは、他の人と弓があたらないように、
(向かって)「右側」にいると。

左利きの人ならこういうことはよく理解できるでしょう。
私たち日本人の左利きの人たちも、
食事の時には、他の人と肘が当たらないように、「左端」に座ります。

次に、「反対でも弾けるようになるには」反対のヴァイオリンが必要で、
二台目がいるとのこと。

プロでも道具がないとどうにもならない、ということなんですね。

*参照:ルドルフ・コーリッシュ
『左ききの本』マイケル・バーズリー 西山浅次郎訳
 TBS出版会(発売・産学社)1973――「十九 音楽における左きき」
に、ヴァイオリンに関しての記述があり、
「ルドルフ・コリシュ」として、彼に関しても記述があります。

 《左手を負傷したため、止むをえず、右手でヴァイオリンを支え、
 左手で弦を動かさなければならなかった。》p.223

それでも四重奏団を結成、1939年の解散まで好評を博した、とあります。

また、これは次回に解説しますが、
四重奏団は、左弾きが入っても位置的、視覚的に美学上有利である、
とも書かれていました。

ちなみに、チャップリンに関しても記述がありました。
これもいずれ紹介しようと思います。


 ●左利き用のヴァイオリンって、そうだったの?

2023年11月2日 2024年1月15日
ヴァイオリンは左利きでも弾ける?左利きのプロ奏者や経験談を紹介
https://moka-violin.com/violin-lefthanded/

によりますと、左利き用のヴァイオリンは、

 《左利き用というより、
  事故や障害などで左手のコントロールが困難な方向けのようです。》

といいます。

まあ、そういうこともあるかと思いますが、
実際に存在するのは事実のようですし、
どのような理由にしろ、存在するということが大事なわけです。

もし、だれもが右用と左用のどちらも試せる状況があって、
どちらでも教えてくれる先生がいるとすれば、
実際に試して自分にとって弾きやすい方を選べるわけで、
それは最高のチョイスになるでしょう。


 ●手の役割と足の役割

ここで、ネット情報から「ヴァイオリンは左右どちらの手も難しい」
(だから、利き手は関係ない)という発言が多いので、
ヴァイオリンにおける両手の役割・仕事をチェックしておきましょう。

【右手】
・ボウイング:弓の上げ下げ
・ピッチカート:弓を使わず指で弦を弾く

【左手】
・フィンガリング:指使い、運指(音程を作る)
・ポジションチェンジ
・ビブラート

詳しい内容については私には理解できていませんが、
何かしらイメージは着くだろうと思います。

もうひとつ、左手の役割としましては、「本体を持つ・支持する」
ということも大きな要素でしょう。

この点も後ほど、検討してみようと思います。


 ●左利きでも不利ではない――「慣れれば一緒」の思想?

結局、右利きのヴァイオリニストのかたも、
左利きのヴァイオリニストのかたも、結論とされているのは――

 ヴァイオリンを弾くとき、右手と左手は役割が異なり、
 それぞれに特殊な動きがあり、どちらも同じくらい重要である。
 そのため、利き手による有利不利はない。

というものです。

先に紹介しました

「ヴァイオリンは左利きでも弾ける?左利きのプロ奏者や経験談を紹介」

には、こうあります。

 《右手の役割は弓を持って弦をこすり、
  音に強弱をつけて音色を表現することです。

  一方左手の主な役割は音程を作ることで、
  正確な位置に素早くしっかりと弦を押さえる必要があります。

  ヴァイオリンを弾くときは右手も左手も同じくらい重要なので、
  左利きだからといって不利になることはありません。》

しかし、これは多くの楽器でも同じようにいう人がいます。

また、他の両手を使う道具や機械、例えばカメラでも、
同じようにいわれています。

一眼の高級カメラの場合は、
右手は、カメラ本体を保持し、構図を決め、
ここぞという瞬間にシャッター・ボタンを押す。
左手は、レンズを支えながら被写体のピントを決める、
といった操作を行います。

そして、実際に使っている左利きの人がいうのは、
(右利き用でも)「慣れれば一緒」です。

しかし、これらのものはみな、両手を使っているといっても、
実は、右手が主役で左手は補助です。

その点も後ほど解説します。


 ●有名な左利きでも右弾きのヴァイオリニストさん

上のサイト記事でも、最後は、日常生活では左利きでも
ヴァイオリンの演奏は右利き用のヴァイオリンで右弾きで有名になった
ヴァイオリニストを紹介しています。

一人目は、古澤巌さん。

 《古澤巌さんは1959年東京都生まれのヴァイオリニストで、
  桐朋学園大学とカーティス音楽院(アメリカペンシルバニア州)を
  卒業しています。/
  3歳の時に保育園の先生から左利きだから習い事をさせた方がいい
  と言われ、ヴァイオリンを始めたそうです。/
  最初は苦労したようですが、努力の甲斐あってか古澤巌さんは
  数々のコンクールで1位を受賞しています。/
  また実力を認められ、ストラディバリウスの名器
  「サン・ロレンツォ」を生涯貸与されています。》


二人目は、千住真理子さん。

 《千住真理子さんは1962年東京都生まれで、慶應義塾大学を卒業して
  から国内外で広く活躍されています。/
  2歳半でヴァイオリンを始めて12歳でNHK交響楽団と共演しデビュー、
  パガニーニ国際コンクールに最年少で入賞などを果たしています。/
  華々しい経歴を持っていますが、幼少期にヴァイオリンの先生から
  「左利きはヴァイオリニストになれない」
  と言われたことがあるそうです。/
  しかし今や世界で活躍する演奏家として名を馳せているので、
  左利きを理由に諦めなくていいのだと勇気づけられますね。》

とのこと。

古澤巌さんは、《最初は苦労したようですが、努力の甲斐あってか》
著名な名演奏家になれたようです。

千住真理子さんも、《「左利きはヴァイオリニストになれない」
と言われた》にもかかわらず、成功されたようです。

とは言えこれは、「左利きでも右弾きに成功する人もいる」
というだけのことです。


 ●人はそれぞれ偏りの度合いが違う

別に「左利きでも右弾き」を否定する必要は無いのですが、
人にはそれぞれ個性があり、利き手の偏りの度合いも異なります。

以前、<左利きプチ・アンケート>で各種利き手テストを紹介しました。

その結果を大雑把にいえば、利き手に関しては、

多くの片手作業で右手を使う「強い右利き」以外にも、
その裏返しの、多くの片手作業で左手を使う「強い左利き」がいて、
いくつかの項目で左手を使う「弱い右利き」から
その逆のいくつかの項目で右手を使う「弱い左利き」までの、
私が「中間の人」と呼ぶ人たちがいます。

また、利き手以外にも利き足や利き目といった、
左右対称に存在する器官における使用の偏りがあります。

利き手では約90%の人が右手利きといわれますが、
利き足や利き目では右利きが60~70%といわれています。

手の利きと足や目の利き側との相関関係は、60~70%といわれています。
右手利きの人の60~70%は右足利きだ、ということです。

これらの身体全体の偏りを考慮しますと、
右手利きという人でも、左足利きや左目利きの人もいるので、
「中間の人」はかなり存在すると思われます。

そういう人では、右使いに馴染める人――
ヴァイオリンの右弾きに慣れやすい人も当然いるでしょう。

しかし、私のように強度の左利きの場合には、右使いには慣れにくく、
そういう強い左利きの人の場合、
ヴァイオリンの右弾きに関しても慣れるのは難しいと考えられます。


 ●左利きでも右利き用で右弾きを、という理由

色々見てきましたが、総じて言えることは――

1.左利き用のヴァイオリンは右用とは構造が違い、手に入りにくい
→ 道具がないので、手に入るもので我慢しましょう!?

2.右手も左手も重要で、利き手の有利不利は関係ない
→ 右手も左手もどちらでも、慣れたら一緒!?

3.ヴァイオリンは集団で演奏することが多く、左弾きは立ち位置が難しい
→ 左弾きでは隣の右弾きの人と弓が当たる、
  弓の動きが逆で一人目立つ、ので困る!?

4.利き手も定かではない、小さい頃から習う人が多いので、
 利き手は関係ない
→ 利き手も小さい頃からなら換えられるという人もいるじゃないか!?

以上、これぐらいの理由でしょう。

では、次回からそれぞれの意見に反論してゆくことにしましょう。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25― 楽器における左利きの世界(21)左利きヴァイオリニストの発言から」と題して、今回も全紹介です。

今回は、「左利きでも右利き用のヴァイオリンで右弾きするのがよい」といったヴァイオリニストたちのご意見を紹介し、その理由とされる事柄をまとめてみました。
次回は、これらの理由に関して私なりの反論を書いてみる予定です。

従来から、左利き幼児の右使いへの転換行為(「矯正」と、正しいことであるかのように、きれい事のような表現がされてきました)がなされていたものですが、それらに反発し、反論してきた日々のことを思い出してしまいます。
まったく同じ状況といっても過言ではありません。

やはり音楽、器楽演奏の世界は遅れているようです。
なんとかしなければなりませんねえ。

 ・・・

弊誌の内容に興味をお持ちになられた方は、ぜひ、ご購読のうえ、お楽しみいただけると幸いです。

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楽器における左利きの世界(21)左利きヴァイオリニストの発言から-週刊ヒッキイ第665号
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中国の古典編―漢詩を読んでみよう(29)陶淵明(6)「雑詩十二首/飲酒二十首」-楽しい読書367号

2024-06-06 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書(まぐまぐ!)
【別冊 編集後記】


2024(令和6)年5月31日号(vol.17 no.10/No.367)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(29)陶淵明(6)
「雑詩十二首 其の二/飲酒二十首 其の十六・其の二十」」



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2024(令和6)年5月31日号(vol.17 no.10/No.367)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(29)陶淵明(6)
「雑詩十二首 其の二/飲酒二十首 其の十六・其の二十」」
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 今月の「中国の古典編―漢詩を読んでみよう」は引き続き、
 陶淵明の詩から
「雑詩十二首 其の二/飲酒二十首 其の十六・其の二十」を。 


(陶淵明 第1回)
2023(令和5)年9月30日号(No.351)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(24)陶淵明(1)「五柳先生伝」」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2023.9.30
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(24)陶淵明(1)
「五柳先生伝」-楽しい読書351号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/09/post-b68999.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/d371c2c2141932565db7fac1a67c1150

(第2回)
2023(令和5)年10月31日号(No.352)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(25)陶淵明(2)
「飲酒二十首」から「序」と代表作「其の五」」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2023.10.31
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(25)陶淵明(2)
「飲酒二十首 其の五」-楽しい読書353号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/10/post-7e3a1c.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/fb0ed419e609fae5ca4d419eb039fc2a

(第3回)
2024(令和6)年2月29日号(No.361)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(26)陶淵明(3)
「園田の居に帰る五首 其の一・其の二」」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2024.2.29
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(26)陶淵明(3)
「園田の居に帰る五首(其一・二)」-楽しい読書361号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2024/02/post-40f92c.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/554a8f921e059526fa614aeb7885735b

(第4回)
2024(令和6)年3月31日号(vol.17 no.6/No.363)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(27)陶淵明(4)
「園田の居に帰る五首 其の三・其の四」」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2024.3.31
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(27)陶淵明(4)
「園田の居に帰る五首(其三・四)」-楽しい読書363号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2024/03/post-23dc09.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/983a4bfc7e91c974e60c7924b461f563

(第5回)
2024(令和6)年4月30日号(vol.17 no.8/No.365)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(28)陶淵明(5)
「居を移す二首 其の二」
「庚戌の年 九月中 西田に於いて早稲を穫る」」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2024.4.30
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(28)陶淵明(5)「居を移す二首」他
-楽しい読書365号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2024/04/post-1a3755.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/afd92fdc908f963491d4340b712106f2


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◆ 封印された「猛志」 ◆

 中国の古典編―漢詩を読んでみよう(29)

  ~ 陶淵明(6) ~

 「雑詩十二首 其の二/飲酒二十首 其の十六・其の二十」

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今回の参考文献――

『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』
 江原正士、宇野直人/著 平凡社 2010/4/20
「九、達観を目指して――陶淵明の世界」より


 ●陶淵明「雜詩其の二」

陶淵明は隠者ぐらいを続けるのですが、予想していたほど楽しくない、
なかなか思惑通りには進まない、閉塞感が募り、
その心境を詩に吐露して、少しずつ自己反省してゆきます。

次に紹介するのが、そういう隠居しても平静な心を得られなかった、
陶淵明の辞職後、十年以上たった、50歳から60歳頃の詩です。

《秋の夜、心に悲しみがあって寝られない歎きを歌っています。》p.358

と、宇野直人さんの解説。

 ・・・

 雜詩其二   雜詩其の二   陶淵明

白日淪西阿  白日(はくじつ) 西阿(せいあ)に淪(しづ)み
素月出東嶺  素月(そげつ) 東嶺(とうれい)に出(い)づ
遙遙万里輝  遙遙(ようよう)たり 万里(ばんり)の輝(き)
蕩蕩空中景  蕩蕩(とうとう)たり 空中(くうちゆう)の景(けい)

 輝く太陽はだんだん西の丘に沈み
 かわって白く明るい月が東の峰から顔を出す
 遙か遠く一万里の彼方に満ち渡る月の輝き
 大きく広がる夜空いっぱいの月の光

第一段は、夜に月が出て来る描写。


風来入房戸  風(かぜ)来(きた)つて房戸(ぼうこ)に入(い)り
夜中枕席冷  夜中(やちゆう) 枕席(ちんせき)冷(ひ)ゆ
気変悟時易  気(き) 変(へん)じて時(とき)の易(かは)るを悟(さと)り
不眠知夕永  眠(ねむ)らずして夕(ゆふべ)の永(なが)きを知(し)る

 風が吹き寄せて私の寝室に入り込み
 夜中に寝床が冷えてきた
 空気の様子が変わったことで季節の変化に気付き
 眠れないために夜が長いことをたしかに知った

第二段では、隠者になってみて初めて、隠者が退屈だとわかった、と。


欲言無予和  言(い)はんと欲(ほつ)するも
        予(われ)に和(わ)するもの無(な)く
揮杯勧孤影  杯(さかづき)を揮(ふる)うて孤影(こえい)に勧(すす)む
日月擲人去  日月(じつげつ)人(ひと)を擲(なげう)ちて去(さ)り
有志不獲騁  志(こころざし)有(あ)るも騁(は)するを獲(え)ず
念此懐悲悽  此(これ)を念(おも)うて悲悽(ひせい)を懐(いだ)き
終曉不能静  曉(あかつき)を終(を)ふるまで
        静(しづ)かなる能(あた)はず

 何か話をしたいけれど答えてくれる相手はおらず
 ひとり杯をあげて自分の影法師に酒を勧める
 月日の流れは私を放り出したままどんどん去って行き
 抱負を抱いているのに一向に発揮することができない
 こんな思いにふけるうち、すっかり悲しみにとらわれてしまい
 夜明けが明けるまで落ち着くことができなかった

志がありながら果たすことができず、仕方なく酒を飲むうちに、
悲しみがふかまって、夜明けまで眠れずにいる。

《五十を過ぎて悲しみのために徹夜をしてしまう、激しい人ですね。》p.359

陶淵明さんのその志の実態が現れているのが、次に紹介する詩です。


 ●「飲酒二十首 其の十六」

「飲酒」の連作は、
《隠居後の折々、酒を飲みながら心に浮かんだものを書き付けた作品》
で、
《ただ悲しんでいるだけでなく、自己反省し、
 自分がほんとうに求めているのは何なのか、
 だんだん浮き彫りになって来ます。》p.361

 ・・・

飲酒二十首  陶淵明

 其十六    其の十六

少年罕人事  少年(しようねん)より人事(じんじ)罕(まれ)にして
遊好在六経  遊好(ゆうこう)は六経(りくけい)に在(あ)り
行行向不惑  行(ゆ)き行(ゆ)きて不惑(ふわく)に向(なんな)んとし
淹留遂無成  淹留(えんりゆう)して遂(つひ)に成(な)る無(な)し

 私は若い頃は世間の事にあまり関わりがなく
 喜んで愛好するのは六経であった 

第一段は、40歳になるまでの思い出と、改めて自分の本質に気付く。

「少年」は、中国では18歳から30歳くらいまでを指し、
“若き日、青年”に近い。「人事」は、“世間の事柄”。
「六経(りくけい)」は、儒教の重要な古典。

 《自分は本当は官職を求めていたのではなく、読書、
  とくに儒教を勉強するのが好きだったんだなあ、
  と改めて思い当たった》(p.361)という感じ。


竟抱固窮節  竟(つひ)に固窮(こきゆう)の節(せつ)を抱(いだ)き
飢寒飽所更  飢寒(きかん) 更(ふ)る所(ところ)に飽(あ)く
弊廬交悲風  弊廬(へいろ) 悲風(ひふう)を交(まじ)へ
荒草没前庭  荒草(こうそう) 前庭(ぜんてい)を没(ぼつ)す

 その間、私は終始一貫して“君子はとかく困窮するものだ”という
  覚悟をしかと持ち続けた
 しかしその結果、飢えや寒さをいやと言うほど経験した
 壊れかけたあばら家には悲しげな秋風が吹きわたり
 伸び放題の雑草は家の前の庭をうずめている

第二段では、時が流れて四十歳になろうとしても
ぐずぐずしているだけで物にならなかった
『論語』為政第二「四十、五十に鳴っても世の中から注目されなければ
その人はだめだ」という孔子の言葉を踏まえて、
自分は官職にいても隠者になっても常に貧乏だ、と。

陶淵明の詩のキーワード=人生目標ともいうべき、
「固窮の節」という言葉が出てきます。
『論語』衛霊公第十五「君子 固(もと)より窮す。
 小人、窮すれば斯(ここ)に濫(らん)す」にある言葉で、
《そんな君子の、貧窮に負けず信念を守る覚悟を示し、
 これに陶淵明は共感したんでしょう》p.362、と宇野さんは解説する。


被褐守長夜  褐(かつ)を被(き)て長夜(ちようや)を守(まも)るに
晨鶏不肯鳴  晨鶏(しんけい) 肯(あへ)て鳴(な)かず
孟公不在茲  孟公(もうこう) 茲(ここ)に在(あ)らず
終以翳吾情  終(つい)に以(もつ)て
        吾(わ)が情(じよう)を翳(かげ)らしむ

 粗末な服を着て秋の夜長を眠らずに過ごしているが
 夜明けを告げる鶏はなかなか鳴いてくれない
 今は孟公がいない
 そのことが私の心を暗くするのだ

「孟公」は、張仲蔚(ちようちゆううつ)という隠者の
よき理解者だった人物のこと。
張仲蔚は、文才があり読書好きで、雑草だらけの家に住んでいた。
自分にはそういう孟公のような人はいないので、心を暗くする、と。

当時は、隠者が宮廷に登用されるということもあったと言います。
陶淵明は、自分を評価してくれる人のいないことを嘆いているようです。

宇野さんの解説では、
これは「固窮の節」といえるのかどうか、疑問ではあります、と。
それでも、こういう風に素直に自分の気持ちを出している点が、
親しみを誘うのかも知れません。


 ●「飲酒二十首 其の二十」

飲酒二十首  陶淵明

 其二十    其の二十

羲農去我久  羲農(ぎのう) 我(われ)を去(さ)ること久(ひさ)しく
挙世少復真  世(よ)を挙(あ)げて
        真(しん)に復(かへ)ること少(すく)なし
汲汲魯中叟  汲汲(きゆうきゆう)たり 魯中(ろちゆう)の叟(そう)
弥縫使其淳  弥縫(びほう)して 其(それ)を淳(じゆん)ならしむ
鳳鳥雖不至  鳳鳥(ほうちよう) 至(いた)らずと雖(いへど)も
礼楽暫得新  礼楽(れいがく) 
        暫(しばら)く新(あら)たなるを得(え)たり

 伏羲と神農の太平の世はたいへん遠くなった
 本質に帰ろうとすることが稀になった
 思えば春秋時代、倦(う)まずたゆまず道を説き続けたあの魯の大人
  孔子さまは、伏羲・神農以来の太古の正しい道を手直しして
  世の中をすなおで人間らしいものにしようとなさった
 聖天子の出現を予告する鳳は残念ながら現れなかったが
 孔子の仕事のおかげで礼儀作法や音楽がひとまず面目を改め、
  現代的な意味をもった

最初の六句は、儒教を体系化した、孔子の仕事を讃えます。
「羲農」とは、儒教で聖天子といわれる、民衆に工芸技術を教えた伏羲と、
農業や薬を教えた神農のこと。

何が真実かを見直そうとすることがめったになくなった――
昔の話ではなく、現代にも通じること。

「魯中の叟」とは、魯の国出身の孔子さま。
「鳳鳥」は鳳(おおとり)という想像上の鳥で、
理想的な天子の出現とともにやって来る。
礼楽は、人間関係をスムーズにする礼儀作法と、
人の心を和らげる音楽のことで、
この二つをうまく運用するのが立派な政治とされ、儒教では重視した。


洙泗輟微響  洙泗(しゆし) 微響(びきよう)を輟(や)め
漂流逮狂秦  漂流(ひようりゆう)して狂秦(きようしん)に逮(およ)ぶ 
詩書復何罪  詩書(ししよ) 復(ま)た何(なん)の罪(つみ)かある
一朝成灰塵  一朝にして灰塵(かいじん)と成れり
区区諸老翁  区区(くく)たる諸(しよ)老翁(ろうおう)
為事誠殷勤  事(こと)を為(な)して誠(まこと)に殷勤(いんぎん)なり

 洙水と泗水の辺りで説かれた孔子の教えは奥の深い影響を次第に弱め
 世の中はふらふらとさまよって、あの凶暴な秦の時代にいたった
 『詩経』と『書経』にいったい何の罪があったのか
 何の罪もないのに或る日突然、それらは焼かれて灰となった
 こつこつ努力してやまない先生方が
 儒教を発掘して伝える仕事にまことに手厚く取り組んだ

次の六句は、始皇帝による秦の時代の儒教迫害、
そして漢の時代の学者による儒教復活の流れをたどる。

「洙泗」は魯の国を流れる二つの川、洙水と泗水。
この側で孔子が塾を開いていたので、孔子の塾や学問をさす。
「詩書」は『詩経』と『書経』で、儒教で尊重する「六経」に含まれる。
「焚書坑儒」のことを語る。


如何絶世下  如何(いかん)ぞ 絶世(ぜつせい)の下(もと)
六籍無一親  六籍(りくせき) 一(いつ)の親(した)しむ無(な)き
終日馳車走  終日(しゆうじつ) 車(くるま)を馳(は)せて走(はし)るも
不見所問津  津(しん)を問(と)う所(ところ)を見(み)ず

 それなのにいったいどうしたことだろう
  儒教の伝統は今の世の中、絶えてしまい、
 その経典はまったく立派なものではなくなった
 こういう現状では一日中、馬車をあちこち走らせても
 進むべき渡し場のありかを尋ねるべき相手がいない

次の四句は自分の時代に移り、儒教が重んじられないと嘆く。
名目上は中心になっているが、実際の運用はそうでもない。
「如何ぞ」は二句にかかる。どうしたことか?
「津」は船の渡し場、転じて“人生の拠り所、人生の指針”の意味。
儒教の伝統はたえてしまい、人生の拠り所は見つからない。


若復不快飮  若(も)し復(ま)た快飲(かいいん)せずんば
空負頭上巾  空(むな)しく頭上(ずじよう)の巾(きん)に負(そむ)かん
但恨多謬誤  但(ただ) 恨(うら)む 謬誤(びゆうご)の多(おほ)きを
君当恕醉人  君(きみ) 当(まさ)に酔人(すいじん)を恕(じよ)すべし

 こんな世の中にいきているなら、大いに酒を飲まなければ
 わが頭巾に申し訳が立たないぞ
 ただ一つ心残りなのは、こういう私の考え方に誤りの多いことだ
 しかし君はきっと、この酔いどれ男を多めに見てくれるでしょうなあ

当時は自分の家で酒の醸造が許されていたようで、頭巾で絞り、
それを平気でかぶっていた。
「当は~べし」は、確実視性の強い推量。

 《“ちょっと言い過ぎたかな”というかんじで、最後はおどけ、
  あきらめた感じで結びます。》p.367

老荘思想が普及している貴族社会のなかで、
自分の本質はやはり儒教だと告白した陶淵明さん。

自分を気持ちを表現できる風潮が広まったとは言え、
彼にも家族や使用人もいるので、彼らを守る意味で、
こういう風にむすんだのだろう、という宇野さんの解説です。

いままでのあれやこれやは、酔っ払いの戯れ言と許しておくれ、と。

世の中の変化を嘆きつつも受け入れ、自分は隠居の身として、
酒でも飲んで暮らしましょう、というところでしょうか。

「飲酒二十首」の最後の一首で、全体をまとめる一首という形でしょう。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(28)陶淵明(5)「居を移す二首 其の二」「庚戌の年 九月中 西田に於いて早稲を穫る」 」と題して、今回も全文転載紹介です。

今回も田舎に帰った陶淵明さんの詩です。

孔子の教えに従い、儒教を自分の本質と考える陶淵明さんですが、世の変化に不満を持ちつつも酒に紛らせる日々、というところでしょうか。

 ・・・

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『左組通信』復活計画(30)『LL』復刻(3)LL4 1995年春号-週刊ヒッキイ第664号

2024-05-19 | 左利き
『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』(まぐまぐ!)
【別冊 編集後記】

『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
第664号(Vol.20 no.9/No.664) 2024/5/18
「ホームページ『レフティやすおの左組通信』復活計画 [30]
『LL(レフティーズ・ライフ)』復刻(3)LL4 1995(平成7)年 春号」



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  左利きおよび利き手についていっしょに考えてゆきましょう!
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第664号(Vol.20 no.9/No.664) 2024/5/18
「ホームページ『レフティやすおの左組通信』復活計画 [30]
『LL(レフティーズ・ライフ)』復刻(3)LL4 1995(平成7)年 春号」
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 今回も、季刊誌『LL(レフティーズ・ライフ)』の復刻ということで、
 ホームページに公開していたページのコピーです。


┏ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ┓
ホームページ『レフティやすおの左組通信』復活計画 [30]

  『LL(レフティーズ・ライフ)』復刻 (3)
 
   (内容紹介)LL4 1995(平成7)年 春号
┗ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ┛      

*(参照)――

・メルマガ『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
第43号(No.43) 2006/8/12
<「国際左利きの日」記念号>「私にとっての左利き活動(3)」
 ■レフティやすおの左利き活動万歳■ ―隔号掲載―
私にとっての左利き活動(3)『LL』の時代
(参照)※『レフティやすおの左組通信』のページ
○レフティやすおの左利き自分史年表
○レフティーズ・ライフ(LL)再録(1)全号目次 

・メルマガ『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
第602号(No.602) 2021/9/4
「創刊600号突破記念―
 私が影響を受けた左利き研究家・活動家(2)第二期・紙の時代―その1」
・ブログ『レフティやすおのお茶でっせ』2021.9.4
私が影響を受けた左利き研究家・活動家(2)第二期・紙の時代1
(創刊600号突破記念)-週刊ヒッキイ第602号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2021/09/post-57d0e5.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/e2aaaa56a6400bcc04d24d46a47d1d03

・メルマガ『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
第650号(No.649) 2023/10/7
「創刊19年に向けて―650号記念号―
 <左利きの人の自覚――意識の覚醒>が最も重要」
・ブログ『レフティやすおのお茶でっせ』2023.10.7
<左利きの人の覚醒>左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii
創刊19年記念号-第650号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/10/post-158a3d.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/8396e0fae38c6eeab56013360f58d18e
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 ●『Lefties' Lifeレフティーズ・ライフ』LL4

LL4 1995(平成7)年 春号
・前説 The Compliments of the Spring Issue 発信し続けること
・From LHI (Lefthanders International/U.S.A)
  レフトハンダーズ・インターナショナル(アメリカ)より
・From LHC (Left-handers Club/U.K.)
  レフトハンダーズ・クラブ(イギリス)より
・左利きの生活 To Live In The Right-Handed World―
 (1)私のいちばん嫌(いや)~なことば――
  「○○君は、ぎっちょか。器用やなぁ。」
 (2)「転びキリシタン」あるいは「隠れキリシタン」のように

≪スタート! 新学期≫子供用品特集
・左利き用の道具を知っていますか? 使ったことがありますか?
 その4〔子供用左利き用品の紹介〕―
  文具(はさみ・鉛筆・鉛筆削り・定規・缶ペンケース入り文具セット)、
  野球/ソフトボール用グラブ・ヘルメット・手袋
〔手を使い分けよう〕
 久保田競著『手と脳―脳の働きを高める手』紀伊国屋書店より
〔左利きの子供に対する接し方〕
 箱崎総一著『左利きの秘密』立風書房より



┏━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
LL4 1995(平成7)年 春号
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

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前説 The Compliments of the Spring Issue
発信し続けること
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 さてわが“LEFTIES’ LIFE”もこの春号をもって、
季節を一巡したことになります。何とか一年続けることができました。
これもひとえに読者の皆様のご声援のたまものと感謝しております。
 ありがとうございました。

「継続は力なり」ということばがあります。
とにかく、出し続けることが認知される早道だ、と考えています。
 借金も請求しなければ、パーになるそうです。
 自分が痛いときや苦しいときは、
そういわなければ人にはわかりません。
自分ひとりがガマンすることですむ問題ならば、それでいいでしょう。
しかし、そうでないときにはいわなければ、人には伝わりません。
伝わらなければ、助けてもらえません。
SOSを発信しなければ、救助隊も出動しません。
一度のSOSでダメでも、
発信し続ければいつか誰かが気づいてくれる。
ひとりではできないことでも、人が集まればできるようになる。
――そう信じて、続けていきます。
これからもよろしくおつきあいのほどお願い申し上げます。
では、≪スタート! 新学期≫増大号をお楽しみください。


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From LHI (Lefthanders International/U.S.A)
レフトハンダーズ・インターナショナル(アメリカ)より
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いつも手紙を下さるマーケッティング・ディレクターの
キャロル・リドルさんから、
≪左利きの人を欲求不満におちいらせるもの」
”Things that are frustrating for lefties!”
と題する報告を送っていただきました。

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From LHC (Left-handers Club/U.K.)
レフトハンダーズ・クラブ(イギリス)より
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最新の会報とともに、昨年行われたメンバー向けの
左利きに関するアンケート調査の結果が送られてきました。

――このふたつの詳細は、また機会をみて紹介します。


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左利きの生活 To Live In The Right-Handed World
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私のいちばん嫌(いや)~なことば――
「○○君は、ぎっちょか。器用やなぁ。」
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春は新しい出会いの季節です。
期待と不安を胸に新たな世界へ飛び出してゆくとき――
楽しみな反面、こわい所もあります。特に新しい人との出会いには。

「○○君は、ぎっちょか!? 器用やなぁ。」

 初めて会う人から言われるいちばん嫌なことばです。
「ぎっちょ」の部分は、
最近は「左利き/サウスポー」と表現されます。
ここまでは事実を指摘している内容ですので仕方ありません。
が、このあとの「器用やなぁ」という発言には大いに問題があります。
 このことばだけを取るとほめことばのようですが、
何を指すかによって変わってくるのです。
 右手であれ左手であれ、利き手を起用に動かせるのは、
当たり前のことですから――
〔ぎっちょ/左利きの人〕=〔器用な人〕 という発想ならば、
それは文字通りほめことばです。
 でも、〔ぎっちょ/左手を使うこと〕=〔器用〕 
すなわち〔器用〕だから → 〔ぎっちょ/左手を使う〕
 という発想ならば、それは明らかにまちがいです。
 
 左利きの人は、自分は器用だから「右手でもできるのに、
わざと左手を使っている」というわけではなく、
右利きの人が無意識に右手をつかうのと同じように、
「自分の意志にかかわらず、ごく自然に」左手が動いてしまうのです。
 ただ単に、左手が利き手だから、器用に動くだけです。

 もちろん、
発言者はそんな厳密な意味を考えて話しているわけではなく、
何も考えずに、ちょっとした話のきっかけといった程度に、
単純に軽い気持ちで自分の驚きをあらわしているにすぎません。

 しかし、私にはうわべだけのことばと聞き流すことができません。
このような発言に接するたびに、何かバカにされている、
茶化されているように思えてならないのです。
 これは単に、私の思いすごしにすぎないのでしょうか?


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「転びキリシタン」あるいは「隠れキリシタン」のように
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 最近、手のない子について書いた文章を読みました。
 彼は生まれつき「棒のような手」しか持っていません。
しかし、それを当たり前のことだと思っているため、
手のないことの不自由さを感じていないというのです。
「手がないので不自由でしょう?」というのは、
ふつうの人の勝手な想像にすぎないというのです。
 
私たち左利きの人も、自分が左利きであることを、
当然のことと受け止めています。
決して自分のことを変だとか奇異だとか考えたことはありません。
 左利きであること自体に、不自由さを感じたことはありません。
 左手も右手も対称形を成しています。
鏡に映してみればどちらがどちらか区別の付かない人もいるでしょう。

 生れたときから、右利きの社会で暮らしてきた左利きの人々は、
なんの疑いもなく、ありのままにこの世の中を受け入れてきました。

 しかし残念ながら今現在この社会は、
右利きの人達が生活するのに便利なように作り上げてきた、
右利きの世界だったのです。
 人類が始めて道具を手にしたとき――このときから利き手が始まった、
といわれている――から、右利きの人たちにとってはごくごく自然な
発想である、右手右足といったからだの右側にある感覚器官を優先する
思想に基づいた、文明や文化を堂々と築き上げてきたのです。
 
 そんな世界で、少数の存在である左利きの人たちは、
あるときは、右手を使うように「矯正」という名の強制を受け、
大部分の人は「転びキリシタン」のように、
訓練を受けた特定の作業のみ右手で行うことのできる
「右利きもどき」のような、「隠れキリシタン」ならぬ
「隠れ左利き」としての生活を強要されてきました。
 一方「転ばなかった」左利きの人は、強情で我の強い、わがままな、
協調性にかける性格の「アウトロー」という烙印を押されることも
間々ありました。
 さらに、「転んだ」人も「転ばなかった」人も
社会のさまざまな場面で右利き用の道具や機械、
それらの配置など右利き社会への適応を余儀なくされている、
のが現状です。


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≪スタート! 新学期≫子供用品特集
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左利き用の道具を知っていますか? 使ったことがありますか?
 その4
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今回は、子供用の左利き用品を紹介します。
 わが子が左利きとわかったとき、
世の親御さんはどのような反応を示すのでしょうか?

 昔のように、なにがなんでも右利きに、という圧力は
弱くなっているようですが、基本的には、
できうる限り右手を使わせるように、
できるものなら右利きにさせよう、と努めるのではないでしょうか?

 ではなぜ、そのような指導をさせる気持ちになるのでしょうか?

 今の社会では、右利きに比べて、左利きは何かにつけて不利である、
と考えられるからでしょうか?
 あるいは、左利きでは行儀が悪い、からでしょか?
 左利きは他人に迷惑をかける、とでもいうのでしょうか?

 もしある社会が、
特定の人々にとって不利な状況をもたらすものであるとすれば、
そのような社会の構造そのものが問題であり、
改善されるべきでしょう。
 個人個人がそれぞれに工夫するのは、あくまで私的な便法にすぎず、
根本治療とはいえない、と私は考えます。

 CDとアナログ・レコードのシェアが逆転したとき、あっという間に、
プレーヤーやレコード針が姿を消してしまったことがありました。
 あのような劇的な変革は望むべくもないでしょうが、
しかし、改善に向けて、まず一歩、踏み出す努力が必要です。
 あなたの子供は待ってくれません。

 待ってくれない子供たちにとって大切なのは、最初に出会う道具です。
小さい頃から、その子にあった道具を与えてやることが肝心です。
自分に合った道具で正しい使い方をマスターしたとき初めて、
自分に自信が持てるのです。
 使いにくい道具で悪戦苦闘する、けがをする、
自分はダメだと思い込む…。
からだの傷は一時でも、心の傷は一生ついてまわります。
子供が引け目を感じないで、胸を張って生きていけるように、
その子に合った道具をそろえてあげたいものです。


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≪スタート! 新学期≫子供用品特集
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左利きは少数派ではあるが、その存在を認め、生活方法、
手を使う道具など左利きの人に都合のよいものが開発されねばならない。

 久保田競著『手と脳―脳の働きを高める手』より
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(グッズ紹介)
① RAYMAY 左手用こどもはさみ KHH350
 児童用 135ミリ ¥350 株式会社レイメイ藤井
・発売以来二十数年のロングセラー定番商品。
・先が丸くて安全、価格も安価で「右利き用」と同一価格がうれしい。
・刃先が二段刃なので耐久性バツグンです。
・名前のネームタグ付き。
・中心の「かしめ」部分はゆるみ防止のリングバネ付きです。
 ――商品企画室 F・Sさん

② アレックス 学童用鋏 S21-145 ¥600 株式会社木屋 
・刃物用ステンレス鋼。
・全長145mm
・小型で軽く、小さな子供の手にフィットするサイズ、サビにくく、
気楽に使えます。
・木屋、または各地のデパート内木屋は物売り場にて。
  ――企画課 Iさん

③ ステンレスハサミ 学童用 左用 No.145 ¥600
 プラス株式会社
・長さ145mm。
・学校で便利な名札付き。
「他社に左利き用のハサミが無い事もあり、お蔭様でご好評頂いてます。
同じ形の右用に比較しても出荷率がかなり高いです。
大人も使えるNo.165(¥1300)も宜しくお願い致します。」
――製品事業部 S・Sさん

④ ミズノ野球・ソフトボール用品――ミズノ株式会社
〔グラブ〕
少年硬式用〈ワールドウィン〉パラショックμハニカム
 オールラウンド用 一塁手用
少年硬式用〈ワールドウィン〉シーラス
 オールラウンド用 size L, M, S, SS 一塁手用
〔ヘルメット〕
硬式用 (左打者用) 軟式用 (左打者用) ソフトボール用 (左打者用)
 他にそれぞれ「両耳付打者用」がある。
少年硬式用 (両耳付打者用) 少年軟式用 (両耳付打者用)
〔バッティング手袋〕
左打者用 19~27cm(少年用対応) 
「スポーツにおいて左利きを意識して企画している商品でジュニア用は、
現在のところ野球用品しかございません。
商品としては、グラブ、バッティング手袋、ヘルメットです。」  
――お客様商品相談センター A・Mさん

今回は、品番の紹介だけに終わりました。くわしくは上記の相談センター、
またはミズノ製品取扱店でおたずねください。 

⑤ 4インチ先丸形 クラスルーム・シザーズ アメリカ製 /輸入品
・長さ約10センチ。先が丸くて安全な、幼児から小学校低学年向けの
ハサミ。

⑥ 5インチ スタンダード・スクール・シザーズ アメリカ製/輸入品
・長さ約12.5センチ。学童用ハサミ。

(*2024.5.15――個人名をイニシャルに変更、
「ミズノ野球・ソフトボール用品」の商品番号と価格を省略しました。)


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〔手を使い分けよう〕

(略)左右の運動機能の分化の芽生えは、生れたときすでにあるので、
左手と右手の機能の差を考えた育児が肝要である。
 
 利き手は言語を媒介する機能、ことばで考えたことを実現する機能、
単純につかむ、にぎることから書くことまでの機能に使われるべきで、
非「利き手」は、手探り、空間認知、さらにそれを手がかりとして
実現する機能に使われるべきである。
われわれの脳は左右に特殊化がおこなわれているので、
それに都合のよいように手を使わなければならない。
(略)左利きの幼児が生まれたら、利き手の矯正をすることなく、
そのまま左右それぞれの手の機能発達をはかるべきである。

  久保田競著『手と脳―脳の働きを高める手』紀伊国屋書店
 1982年刊より


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⑦ 消しゴム付鉛筆 アメリカ製/輸入品
・こすれても手が汚れない鉛筆。
・左手に持ってもプリントされた文字が逆立ちしていない。
・レフトハンダーズ・インターナショナルのロゴ入り。

⑧ 鉛筆削り ドイツ製/輸入品
・手持ち式。
・左手に鉛筆を持ち、反時計方向に回して削る。

⑨ 15センチ定規・30センチ定規 イギリス製/輸入品
・左手で線を引くときに便利なように、右から目盛りがついている。

⑩ 缶ペンケース入り文具セット イギリス製/輸入品
・ 子供用ハサミ、15センチ定規、万年筆、シャープペンシル、鉛筆、
鉛筆削り、消しゴム、スペアインク、レフトハンダーズ・クラブのバッジ、
がセットされている。

⑤⑥⑦は、LEFTHANDERS INTERNATIONAL(USA)より。
⑧⑨⑩は、 ANYTHING LEFT-HANDED(UK)より。


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〔左利きの子供に対する接し方〕

たしかに、この右利き偏重社会で左利きの子どもたちが
立ち向かっていかなくてはいけない試練は多いだろう。
だが、子どもたちが左利きであることの誇りと、
そして勇気を持って進んでいくならば、
この社会はかならず変革できるはずである。
そうした誇りと勇気を子どもたちに与えるのが、
左利きの子どもを持った親のつとめではないだろうか。
もしあなたが愛情という言葉を口にするならば、
愛情とは子どもの手から武器を奪い、
犬のように尻尾を巻いて退散させることではない、と私はいいたい。
愛情とは、むしろ敵に立ち向かう力と知恵とを
子どもに授けることだと思う。
そんな愛情を持って、子どもと接していただきたい。
そうすれば、子どもはきっと力強く生きていくにちがいない。

親としては単に愛情だけで子どもに接するにとどまらず、
社会における左利きの立場に対する客観的な認識を
子どもに与えるように心がけるべきである。
 
たしかに、親としては子どもの左利きをなんとか直したい
と考えるだろう。
なぜなら、親が何十年か生きてきたこの日本の社会は
完全な右利き偏重の社会であったし、
それはまだまだ続くだろうからだ。
左利きの子どもが立ち向かわなくてはいけない社会の壁、
あるいはさまざまな差別と迫害…、そうしたものを考えたとき
「右利きに直るものなら、なんとか直したい…」と思うのは
当然の“親ごころ”であろう。
だが、そんな“親ごころ”を認めたとしても、
なお私は「左利きを矯正してはいけない」と叫びたい。
「こどものため…」と思う“親ごころ”が
客観的な認識力を欠落したとき、
子どもに対していかに大きなストレスとなるか。
これは“教育ママ”の例をあげるまでもない。

「教育」という言葉を英語ではEDUCATIONという。
これは“EDUCE=引き出す”という動詞からきた言葉なのだ。
つまり、教育というのは無限にある子どもの能力や個性を
無理にねじ曲げることではけっしてないのだ。
私が、左利きはひとつの“個性”であって
“異常”なのではないと強調してきたのも、
そういったことをじゅうぶんに考えて、
子どもに対応していただきたい。

  箱崎総一著『左利きの秘密』立風書房 1979年刊より


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本誌では、「ホームページ『レフティやすおの左組通信』復活計画 [30]『LL(レフティーズ・ライフ)』復刻(3)LL4 1995(平成7)年 春号」と題して、今回も全紹介です。

今回も、思い出話です。
グッズ紹介のコーナーがありましたが、それぞれのメーカーさんに「LL」のBNを同封したお便りを出し、その返答をいただいた方と連絡を取り、お言葉をいただいたりしました。
こういうことを毎回くり返し、色々と情報をご提供していただいたものでした。

ちょっと記憶が曖昧で、調べる手間をとる余裕もないのですけれど、子供用の左手用ハサミの開発に関する情報をお寄せいただいたメーカーさんもありました。
また、左手用子供ハサミの老舗、レイメイ藤井さんからは、左手用こどもハサミの前年比売り上げ(?)の増加の数値なども教えてもらったことがありました。
林刃物さんからは、左用ハサミに関して、当初はもっと多種類(大・中・小・長など)を用意していたけれど、種類を絞ることになったなどの報告もいただいたものでした。

今は、直接他者に働きかけるという行動を取っていないので、そういう意味では啓蒙活動としては消化不良なのかな、と反省しています。

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弊誌の内容に興味をお持ちになられた方は、ぜひ、ご購読のうえ、お楽しみいただけると幸いです。

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』


『レフティやすおのお茶でっせ』
〈左利きメルマガ〉カテゴリ


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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載

" target="_blank">『左組通信』復活計画(30)『LL』復刻(3)LL4 1995年春号-週刊ヒッキイ第664号

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