CМ
~<いま>の「場所」・上~
☆初めに☆
相も変らぬ「小学生のかたが、多く感染されている状況……」とかいう声が流れて来ると、ちょちょっとぉ!っと、テレビにリモコンをぶつけそうになる私です。子どもが子どもらしい扱いもされないこの国は、もうお終いだと怒りまくってるわけです。
少し冷静になって、私たちの<いま>立っている場所を見直してみようと思います。今回はテレビのCМを振り返ります。そして、積み重なる(と言っても、あくまで私の中での)妙ちくりんな「言葉の問題」も、その中から見て行こうと思います。二回に分けて書きます。
1 「頑張れよ!」
先日、森永飲料のCМに、久しぶりほほ笑んだ。
「その緊張は『本気』の証だ!」
受験生の試験当日のガチガチを、積極的に取り上げてたわけである。イチローの「プレッシャーは実力の証」とは違ったアプローチだ。思い出すのが、前に取り上げた『聖教新聞』(私はとってません)のCМ。もうすぐ引っ越す女の子と、離れたところから見守って来た男の子とが取り交わすクイズ。前も書いたがもう一度。やっぱりいい。
「学校に行くと取られちゃうものは?」「出席!」
「いくら追いかけても追いつけないものは?」「自分の影!」
「一度出すと戻ってこないものは?」「答えは声!」
三つ目を言う時の女の子の顔には、迫るものがある。大体は女の子が問いも答えも出すのだが、次第にふたりの切ない思いが接近する。最後に、男の子が問題を出す。「離れても無くならないものは?」。女の子が答えに迷うか窮するのか、そして男の子の大きな声で「頑張れよ!」と結ばれる。これ、まだやってますね。たまに目にします。何度見てもあたたまる。このホッコリCМは、いっとき積水ハウスがダントツだったが、最近は楽器屋でベースをもらい受けた女の子が、カッコいいじゃ~んと、弟に褒められるやつ。ぐらいだ。
もっと深いとは言わないまでも、面白いものがないよなあという感慨を持つ。どうだったか、そして今どうなのかという話。
2 醜く疼(うず)くもの
『バトルロワイアル』(1999年)を覚えているだろうか。中学生が生き残りをかけて殺し合うこの小説が発表されて、世間に衝撃を与えた。いまテレビを見れば、この殺し合いのシーンは平気で流れている。言うまでもない、ゲームソフト&アプリのCМだ。これが食事や団らんを問わず、休みなく流れて来る。それはまるで、家族の食事や団らんというものが希薄な、今という時代にこそやって来ているようにも思える。こういった時間・生活の中で、毎日私たちの意識下で蓄積されるものには、恐らくろくなものがない。
33年ぶりという深津絵里・JR東海のCМが、昨年話題になった。昔を覚えておいでの方も多いだろう、JR東海の『XmasExpres』(1988年)は、約束した時間に来ない相手を新幹線ホームで待つ女の子。相手はやって来たが、斜に謝罪しつつ登場する。山下達郎の『クリスマス・イブ』がバックに流れる。ストレートに幸福が表現されないもの、として私はこのCМを記憶した。この頃なのだが、生徒が窓から外を眺めている姿に「なにセイシュンしてるの?」と声をかける子どもたちの姿をよく見た。通訳すれば、「元気か?」とか「付き合い悪いゾ」なのだ。遠慮がちに相手の心に近づく子どもたちの態度と、JR東海CМの設計が似ているように思う。ストレートな表現を回避するのは、それではうまく行かない何かが、社会に発生したからだ。恋人同士、約束の時間通りに待ち合わせて旅に出るという、単純な筋書きがメジャーでなくなった。幸せを手にすることが、ずい分大変になったみたいだナと思ったものである。最後にはやっと癒されるホーム上の女の子だが、「癒し」とは傷ついた後に生まれるものなのだ。一方、ここから十年さかのぼれば、事情は全く違った。JR「ディスカバージャパン」CМのBGMは、山口百恵の『いい日旅立ち』である。国鉄が民営化された翌年だ。何の曇りもない。「日本のどこかで/私を待ってる人がいる」。待ち受けているであろう明日を、ストレートに歌う。
60年代の「分かっちゃいるけどやめられない」(植木等)には、ある種の恥じらいがあった。しかし今、ネットからの「やめられないですけど、ナニか?」には、恥知らずな憎悪・ヘイトがあふれている。そして再びテレビに目を移せば、そこから口臭予防だのハゲ(薄毛)対策だのと、気づかない事への喚起や、どうすることも出来ないストレスをあおっている。
車のCМで考えよう。確かに軽自動車の自由な設計には、ホッとさせるものがある。そして電気自動車への移行は、一見前向きに見える。しかしいま積極的に推奨されているこの乗り換え路線が、実は日本ご自慢の「もったいない」をぶち壊すことに加担している。電気自動車のCМには「夢」はない。そこには「義務と責任」がはりついている。繰り返すが、こんな中で私たちには、ネガティブなものばかりが蓄積される。
とりあえず、
「放っといて」「だからナニ?」「車、のりつぶします」
そして「頑張れよ!」あたりで、対処しましょうか。
☆後記☆
東欧がなんか焦げ臭いですね。思いのほか、民族問題として抱える数百年の歴史が深く横たわってます。チャンスがあったらレポートします。
久々に「和さび」のお持ち帰り。左は私が作った鶏雑炊で、右側の小鉢に収まってる発泡スチロールが「和さび」の牛すじ煮込みです。優しい、そしてあったかい
☆☆
いやぁ、藤井君ホントに驚きです。五冠ゲット翌日のスポーツ新聞買っちゃいました。冬季五輪の喧騒の中で、やっぱりすごい。そして昨日驚いたのが、日本芸術院会員になんと、つげ義春が入った! ちばてつやはもう驚かないけど、あのつげ義春が? いやあすごい。奥さんに「虫けら」と言われ、自ら「無能の人」と呼んで来た人です。それこそ、前回書いた「自分流」を貫き通している人。少しいい場所に引っ越せるかな。おめでとうございます!
来週は桃の節句。今年もかわいらしく、春よ来い。
最後に前回の訂正。『苦役列車』の芥川賞受賞は、2010年下半期でした。石原慎太郎の辞任発表が2012年。石原の作品解説が2012年3月とあったもので、カン違いしました。読者から指摘がありました。ありがとうございます。
「うさぎとカメ」の報告、次回にいたします
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