実戦教師塾・琴寄政人の〈場所〉

震災と原発で大揺れの日本、私たちにとって不動の場所とは何か

一生暮らす場所  実戦教師塾通信五百五十四号

2017-06-30 11:30:12 | 福島からの報告
 一生暮らす場所
     ~母屋の解体~


 ☆☆

藤井君の快進撃! すべての新聞のトップを飾ったこのニュースに、
「もっと重大なニュースなかったのかね」
と言ったキャスターも、歓迎の表情でした。世間の雑事に振り回される私たちの傍らで、黙々と歩き続けている少年がいたのです。この驚きと感動は、周囲を行き交う目まぐるしい出来事に、いちいち目を凝らす私たちが、思わず背筋を伸ばした結果なのかも知れません。
 ☆☆
6年前は、ただひたすら福島の現場に向かう私でした。しかし、ここ数年は、行ってはいるものの、ただ癒されるばかりで、こんなことでいいのかなと、あいまいに反省する私です。「変わらぬもの」の大切さと、そこから授かっているものを確認し、感謝している私です。

     これは修学旅行のワンショット。龍安寺です。

 1 蕗(ふき)
 楢葉の渡部さん宅の離れに、この日はいわきの仮設から、奥さんとおばあちゃんが来ていた。ちょうどお昼の最中で、私も漬け物と蕗の煮物をいただいた。たっぷりのカツオ節風味がたまらない。美味しい美味しいと食べてたら、お土産にとたくさんいただいた。


テレビがかかっていた。もう読者はお忘れかも知れない、警官が容疑者となった「福岡母子殺人事件」のニュースが流れていた。
「一緒に歩いてたぐらいじゃ、夫婦は仲がいいとか悪いとかって分かるわけないよね~」
と渡部さんを覗き込む、いたずらっぽい奥さんの顔に、思わず笑ってしまう。
 いつもお二人の話を聞いてる感じでは、渡部さんがものごとの大体を決定している。この日も、牛はどこで買いつけるの?と聞く奥さんに、本宮、と私が答えそうになって慌てた私だ。また奥さんは、これ以上あれこれ仕事を引き受けて来てほしくない、みたいな「陳情」をするのだった。

 2 母屋
 姿を消したと思ったら、奥さんは下の母屋で草刈りをしていた。これが田んぼだそうだ。すっかり変わり果てている。これって水田?陸稲(おかぼ)じゃないですよね、と尋ねる私に、
「もう、この田んぼはもとに戻らねえよ」
渡部さんが言うのだった。



カラスと仲のいい奥さん。ではない。
「草を刈るとよ、なかにいた虫が飛び出すんだよ」
「そいつを食べに来るんだ」
渡部さんが講釈してくれた。
 母屋は更地になっていた。その傍(かたわ)らの牛舎。空いた地面にフレコンバッグが並んでいた。

軟らかいですね、私は足や手でバッグを押してみた。牛舎内の側溝に残っていた泥や糞を集めたものである。
「線量は高くないんだが」
「東電に持って行かせるんだよ」
と言う。牛舎の屋根瓦は汚染されている。でも「前例なし」の理由で、見ての通り、そのままだった。

 3 一生暮らす場所
 渡部さんと二人きりになると、なぜかいつもの調子になる。集会所で連絡員をやっていた、つい一年前までの話だ。仮設住宅に暮らす人たちの、いろいろな考えや気持ちを、渡部さんは聞いて回った。
◇あんな汚染された怖いところに帰れるもんか
◇これからずっと働かない。東電に養わせる
◇ここ(仮設)にずっと居られるならいい
私のようなものが聞けば、みんなもっともな言い分なのだ。しかしたとえば、避難先で生活と言っても、頼った先で傷ついた人たちも多い。余所(よそ)での定住は、簡単なものではなかった。
「少し考えれば分かる。一生仮設に居られるわけがない」
「高齢の親もいる」
「そして自分たちには、帰れる場所があるんだよ」
6年以上にわたって、渡部さんたちが考え苦しんできた重みを、私は受け止めたい、と思うのが精一杯だった。
 『図書新聞』(6月24日号)に、「『東日本大震災と<復興>の生活記録』刊行に寄せて」と特集が組まれた。その中に、大学の調査機関がヒアリングした、母親の発言がある。
「報道では震災の風化や風評などと報じられていることが多いと思います。しかし、この土地で生活している私の感じ方はちょっと異なります。風化しているのではなく、放射能汚染はすでに私たちの生活の一部になっています。除染という言葉も知らなかった私が、この環境の中で生きる術を学び、特に意識しなくとも出来るだけ被曝せずに生活できるよう、行動しています。それは子どもたちも同じです」

 渡部さんの言葉と重なった。


 ☆☆
『22年目の告白』見ましたか。初めは神戸の酒鬼薔薇事件のことかと思い、少し落胆したのですが、違ってました。酒鬼薔薇を皮肉ってるような部分もありましたが、完全なエンターテインメント。痛快、ということです。
特に痛快だったのは、「殺人犯」から、
「オマエは体を張って本を売ればいいんだよ」
と、編集者がすごまれ、すくむところでした。酒鬼薔薇をめぐるしょうもない連中の事情が分かるだけに、ざまあみろ、と思った私です。
と言っても、この映画、酒鬼薔薇事件のことを扱ったのではない。面白いですよ。

ある意味、自分の個性を殺すのがニュースキャスター。しかし、人気があるニュースキャスター……を演じるって、難しかったと思うんです。仙堂キャスター、良かったなあ。

 ☆☆
TBS『ひる帯』やっちゃいました。「白鵬の連勝『63』は、大鵬の『69』連勝に続く、歴代2位」というやつ。すぐに訂正されましたが、これは恥ずかしい。

     いつも通り手賀沼。あすなろだそうです。

 ☆☆
これがアップされる頃、石巻にいます。大川小学校に行って来ます。