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夏休み(上)  実戦教師塾通信五百五号

2016-07-22 10:59:27 | エンターテインメント
 夏休み(上)
    ~トキワ荘/漫画~


 1 「劇画」時代の幕開け

 今年は当たり前だが、夏休み気分がいつもより蘇(よみがえ)り、ウハウハである。このブログも「夏休み」のタイトルで、何回か書くことにした。初めは、2020年の東京オリンピックを見据(す)えて完成を目指す「トキワ荘」周辺のこと。
 この7日に豊島区が、漫画の殿堂「トキワ荘」を再建すると発表。跡地に残されたミニチュアだけでは、ファンも世間も我慢がならなかった、ということだろう。一間四畳半の部屋で仕切られた建物が、ついに復元の運びとなった。
 50年ほど前、漫画はストーリー性の高い「劇画」と呼ばれるジャンルが公認され、水を得た魚のように活躍していた。雑誌は、白戸三平を中心とする『ガロ』、手塚治虫の『COM』が代表格だった。どちらも月間である。
 さて、物持ちのいい私である。漫画専用の本棚に、「トキワ荘」を描いたものがあったはず、それも結構な数であったはずだと思って探すと、出て来る出て来る。これって結構、貴重な資料じゃないかと、私は勝手な自己満足にひたったのだった。

 2 「昭和」の暮らし

これは1970年の『COM』10月号に掲載された、トキワ荘「住人」による座談会の扉。そうそうたるメンバーの中に、住人であるはずの手塚治虫がいない。この頃手塚は、すでに高い収入を得、立派な家に引っ越しているためである。そして「藤子不二雄」が見当たらない、という読者はいるだろうか。安孫子素雄&藤本弘が、その人である。一応念のため。
 当時、雑誌『COM』では、『トキワ荘物語』が、「住人」の手によってリレー形式で連載されていた。アパートの部屋割りやそこで暮らす住民が、詳細(しょうさい)に書かれている。


上が鈴木伸一のもので、下は、座談会にあった手塚治虫の手によるもの。
 パソコンの画面だったら、住人や建物の様子が鮮明なはずだ。「住人」たちの漫画によれば、「トキワ荘」は東西に面していて、部屋割りの左が西側である。大体の部屋に見える丸いものだが、これは火鉢。当時の唯一の暖房器具だ。入り口の戸は木製の引き戸で、上半分ほどがすりガラスになっている。当時よくあった方式で、安全と明るさを考えたものだ。まだ漫画では食べられなかった多くの「住人」は、あるものは牛乳配達、あるものはデザインスタジオでの下働きをしていた。
 左上(北側)にかろうじて見えるトイレは、もちろん「くみ取り(ボッタン)」。そこで「編集者が用を足している」とあるが、首の高さぐらいのところに窓がある。そこに隣の家の屋根がのぞいているのである(みんな二階に住んでいた)。誰もが昭和の時代に、そんな窓から外を見て用を足した。ここから冬支度(ふゆじたく)を急ぐ木々や、まだきれいだった空の星を見た。
 トイレの隣が調理場である。洗濯する場所でもあった。当たり前だが、みんな手洗いである。この鈴木伸一の絵によれば、「レポート」は1955年のもの。終戦からわずか10年だ。ガス台の下にそれぞれの洗濯用「おけ」がある。座談会には、赤塚不二夫のお母さんが、みんなの面倒をよく見て、洗濯や味噌汁作りを欠かさなかったとある。

 3 石森章太郎

連載も終わりに近い頃、石森章太郎が担当した『トキワ荘物語』。石森がよく使う「吹き出し/キャプション」なしの物語だった。石森が引っ越して来たときの絵がこの扉であり、最後のコマはこうだ。

 この石森が担当し、不定期に書いていた「章太郎のまんがSHO辞典」がある。これが蘊蓄(うんちく)に富んでいる。

■採用
してもらうためにはどんな努力が必要か、ということになる。商売でなければおのずと違ってくるから誤解のないように……。まず--
■材料-を
■サービス(奉仕)
精神という調味料を加えて料理することだろう。同人誌、あるいはエリートのための専門誌なら、材料のままで提出し、料理には読者も参加させるということも可能だろうが、商業誌ではそうはいかないのである。読みたきゃ読むがいいという制作態度と、読んでいただくという制作態度には大きな差があることは説明の要はあるまい。そしてこの差はものをつくる者、作家にとっては、苦痛になることがあり、その差を縮めようとする努力が必要になってくるのである。努力とは苦痛なのである。


 有名になりたかったというより、ひたすら漫画を描きたいという、トキワ荘「住人」の気持ちが、座談や画風にあふれている。シラミや蚤(のみ)に悩まされた四畳半の部屋は、しかし外に大きく開かれていた。


 ☆☆
座談会の中で、一瞬だけ出てきた名前。「つげ義春」。ならば、現代マンガの金字塔『ねじ式』を出さないわけには行きません。まだ読んでない方、必見ですよ。衝撃、そして不可解。この世界を見ないとは損ですよ。


 ☆☆
20日は終業式でした。いいなあ。体育館での校歌は、こだまのように響いてました。
「明日から子どもたちがいないと思うと、さみしくて……」
という担任の先生の表情も、一学期の様々な出来事を語ってて、あ~夏休み~です。

もうすっかり緑の穂を伸ばした、手賀沼入り口の田んぼです。
それにしても寒いですね~

 ☆☆
米大統領選挙、そして都知事の選挙もさることながら、鹿児島の知事、動き出しましたよ。私たちに出来ることはあるのだ、と言われているような気になりますね。注目しましょう。