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千の天使がバスケットボールする

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「ある暗殺者の告白」CBSドキュメント

2006-03-18 22:04:34 | Nonsense
話題の映画「ミュンヘン」は、結局DVD待ちとなりそうなのだが、その前にCBSドキュメントで「ある暗殺者の告白」を観る。
1972年9月5日午前4時頃、「黒い9月」に所属する8人のアラブ人テロリストは、全長87センチ、重量4.3キロのカラシニコフ銃に口径7.62ミリの銃弾30発を収め、ミュンヘンオリンピック村、イスラエル選手団の眠るコノリー通り31番地をめざしていく。この銃は、1分間に100発自動発射でき、弾丸の初速は1秒間に699メートルという高い旧ソ連の技術力を誇る。その銃の犠牲になった人は、11人。
今回のドキュメントは、ミュンヘン・オリンピックのテロに対する30年前の報復に関わった当事者の4年前のインタビューの再放送である。

イスラエル情報機関モサド長官ツィビ・ザミール氏は、一度だけという約束で当時の状況を語る。ゴルダ・メイア同国首相は彼を呼んで話し合った。
「メイア首相の望んだことは、虐殺の責任者を裁判にかけることだった。しかしそれが無理であることは、最初から承知していた。」ザミール氏は、これしかないと首相に伝えた。
「標的のリストを作るように」彼の提案を受けて、メイア首相は命じた。

ヨーロッパに潜伏しているパレスチナ人ネットワークを”潰す”のが目的だ。
最初のお仕事の相手は、ローマ市アニバリアーノ広場前のアパートに住む男。ワエズ・ズワイテルはパレスチナ詩人として左派知識階級では人気が高い。リビア大使館に翻訳者として勤務しているが、イスラエルにとってはNo.4のテロリストである。72年12月16日、       (ゴルダ・メイア首相↑)
中庭に向かうところを14発の銃弾を浴びて絶滅する。

夫をミュンヘンのテロで殺害されたアンドレ・スピッツアーさんの妻アンキーさんは、翌日1本の電話を受けとる。
「今朝10時のニュースを聞きなさい」
彼女は、亡くなった夫への復讐がはじまったことを知る。

そして12月のパリ。アレジア通り175番地のアパルトマン。マフムド・アリシャリ博士はPLOの代表として、たえずマスコミとの接触があった。この日もモサドと電話中、電話機が爆発する。窓ガラスの一枚が衝撃でひび割れる。搬送先のサン・ジョセフ病院で生死をさまようが、翌年1月9日息をひきとる。この作戦で、テロリストたちに伝えたかったのは、
「我々はお前達を絶対に逃がさない。ひとりひとりが罪の責任を負うのだ。」

そう、ザミール氏は、力説する。
まもなく「Spring of Youth」作戦の最大の山場を迎える。向かうのは、PLOに占拠されていたベイルートだ。イスラエル史上例を見ない大胆不敵な作戦を実行する。幹部3人を自宅で殺害することだった。「自宅」という家族のいる目の前で、夫であり、父である幹部を殺害するという徹底ぶり。コマンドは女性ふたりを含め、恋人同士を装いアパートへそれぞれ散っていく。PLO作戦隊長ケマル・アドマンは、カラシニコフをかまえたが、女性の姿に一瞬ひるむ。そのすきをついて、殺害された。
「この作戦は、無難なステップだ。何故ならば、逃亡している連中は、どこにも居場所がなくなり、見つけられて罪を受けるのだ」

しかし、完璧に任務を遂行していた暗殺グループも失敗をする。
リストの筆頭者であるアラファット議長のお気に入り、「赤い王子」と呼ばれたアリ・ハッサン・サラメには、手が届かない。彼こそミュンヘン事件の首謀者であるが、何重もの保護に守られていた。しかも挑発するかのように、国連ではアラファット議長に同行してマスコミに登場する。しかし、73年、モサドはとうとう彼を発見する。バスの停留所Furubakkenで妊婦と一緒にいる彼に14発発射して即死させる。無事成功したかに思えたが、ナンバープレートを見られ、ノルウエー警察に逮捕されたのだ。モサドは、面目を失うが最大の失敗は、殺された人物は、レストランの給仕係りを勤め、二ヵ月後に父親になる予定だった一般人だった。

無関係の者を殺害してしまったことに対するインタビューに応えて、ザミール氏は、「こうした失敗は、このような活動で起こってしまうこともある」と、罪の意識は微塵も感じられない。そして、71年ミス・ユニバースだったジョルジナ・リザクを第二夫人に迎えた赤い王子は、第一夫人、PLO本部、第二夫人との間を往復する日常行動がパターン化し、79年1月22日シボレーのステーションワゴンでベイルート市内を走行中に爆殺された。そしてテロリストへの報復は、連続する血の惨劇のショーは終幕した。

「世界は結局自分と同じ道をたどる。これは、戦争なのだ。」
そう確信をもって誇る老いたザミール氏のめがねの奥の瞳は、一種の熱気と狂気すらも感じる。テロリストに対して、完膚なきまでに徹底的に、しかも自宅という家族の恐怖までまきこんで血の粛清を続けるモサドは、CIAやKGBに比較して、規模は小さいがガードが固く評価も高い。密かにこの作戦を、米国も学んでいるというのだが。この作戦を命令したメイア女史は、「我が国の若者を殺した罪は赦せても、若者を殺し屋にしたてた罪は赦せない」という有名な言葉を残している。
番組中、殺害現場と遺体、流血の跡、葬儀の写真が流れる。アラファト議長が13歳の美少年であるサラメの遺児の肩を抱き、葬儀に参列している写真は世界中に流布されたという。この悲しくもある種美しさを禁じえない一枚のドラマを広げるところに、どこまで計算されていたのだろうか。しかし結局、非常な非合法的なテロ行為を裁く名目的正義感溢れる行為も、テロリストとなんら変わらない暴力であること。こうした構図は、永遠に解けない悪夢のような連鎖にも思えるのだが。

■ご参考まで
「標的は11人」ジョージ・ジョナス著

ペトロニウスさまの「ミュンヘン」映画評

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
モサドはおなじこととやっている (calaf)
2006-03-20 03:03:41
こんばんは、この映画見たいんです。スタジアムの中を選手の遺体を運ばれるのを、ルドルフ・ケンペ指揮する葬送行進曲(英雄の2楽章)を、ライブ(テレビ)で見ているのです。ナチスを地の果てまで追いつめたモサドのことは少しは知っていましたが、ユダヤ教のプリンシプル「目には目を」は脈々と生き続けているのですね。中国では復讐相手が例え死んでいたとしても墓を掘り返して死体にむち打つといいます。それでもこの映画は見たいです。
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テロ防止か報復か (樹衣子)
2006-03-21 00:17:45
この映画は、スピルバーグ監督がユダヤ人だったから撮れたとも思えます。

映画を観ていないので言明できないのですが、このインタビューにこたえたザミール氏は、地元紙ハアレツで、「ゲリラ暗殺は報復ではなく、次のテロ発生を防ぐ目的だった」と発言。映画を「事実とかけ離れた西部劇」と厳しく批判しているそうです。



テロを防ぐ目的なのか、報復なのか。それは映画をとったスピルバーグ監督の解釈に委ねられるのでなく、自分で感じとって考えたいものですね。

私もDVD化されたら、観ます。映画館は、すでに関東圏は終了しているようなので。
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