千の天使がバスケットボールする

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『招かれざる客』

2009-03-19 23:30:29 | Movie
今日の出勤途中の早朝、中年の少々メタボ腹の白人男性と、長身でとてもスリムなまるでモデルのような若い黒人のカップルを見かけた。手をつないだふたりの年齢差や体型の差よりも、白人男性と黒人女性という異人種の組み合わせの方が印象に残った私は、自由と権利を標榜しながら実はひそかに人種差別の根をもっているインテリともしかしたらあまりかわらないかもしれない。

ハワイに行っていた最愛のひとり娘のジョーイ(キャサリン・ホートン)が、急に帰国してきた。彼女はハワイ大学に講演でやってきた博士とパーティで出会い、生まれて初めての恋、素晴らしい恋人に夢中になっている。彼との出会いと婚約を報告する娘の顔と瞳に幸福があふれんばかりに薔薇色に輝いているのを見て、母のクリスティ(キャサリン・ヘップバーン)はあまりにも急な話で驚くのだが、祝福する気持ちになっていく。すると夫マット・ドレイトン(スペンサー・トレーシー)の書斎から、その娘の心を射止めた男性が出てくる。彼を見て、母親は卒倒しそうになる。後に新聞社主の夫の調査で知ることになるのだが、1954年にジョン・ホプキンス大学卒業、1955年、エール医大で助教授3年、ロンドン医大で教授3年、世界保健機構で副理事を3年・・・、と相手のジョン・プレンティスは、娘の夫になるべく経歴も人格も最高クラスの優れた男性だった。たったひとつ、、、肌が黒いことをのぞいては。

映画の時代背景は、1967年。米国では、昨年、女性初の大統領よりも、予想外に早い黒人の大統領が誕生した。歴代初の黒人大統領のバラク・フセイン・オバマ・ジュニアは、1961年に黒人男性と白人女性との間に生まれた。しかし、この時代においては、異人種間の結婚はタブーですらあった。人種差別に反対し自由を掲げる新聞社の社主である父と、画廊を経営するおしゃれでセンスのよい母。そんなリベラルで知的な夫婦でさえも、我が娘の結婚相手が黒人となると、衝撃があまりにも大きく動揺を隠せない。綺麗な信念は、本物ではなかったのか。インテリ家庭の本音と建前が暴露されていく。ここで、根強い人種差別のあつい壁をシニカルに描く作り方もあっただろうが、この映画での物語はあかるい結末に向かう。それには、人種差別に反対する両親から育てられた娘のなんの疑いをもたない純粋さ、母に言わせるといつも笑顔で幸福が服を着ているような雰囲気と、37歳の黒人博士役を演じた名優、シドニー・ポワチエのすべてを悟りながら相手の気持ちを気遣いおだやかな完璧とも思える人間性をもつ人格者を無理なく演じきれるかどうかが要となる。

映画は、サンフランシスコ空港にたどりついたふたりが、婚約の報告のためにドレイトン家に向かうところから始まる。最初はなんとなく年齢差もあり、黒人と白人のカップルのふたりに多少の違和感も感じるのだが、お互いを見つめあい相手への愛情があふれんばかりの笑顔と軽快でテンポよく流れるような動作が、まるで見ている者も幸福にするような場面になっている。やがてジョンの両親、マットの友人を交えて7人の室内劇の様相に呈していく。親達の結婚に対する反対の根拠が単なる自分たちの偏見という個人ではなくて、最初から予測できる差別に伴うふたりが今後受けるであろう困難や苦労、やがては生まれてくるこどもたちへの懸念という”社会”に理由があるところが本作の肝であろう。結婚生活に伴う多かれ少なかれの苦難は、夫婦間の信頼と強い愛情があればのりこえられるという普遍的な愛情論に、驚きと困惑に早々に決着をつけられる母親たちが、いつでもどこでも強い。しかし、バスの車掌の息子に生まれながら、黒人として尊敬される人物になりえたジョンが、これまでどんなにか多くの差別に耐えてきたかと想像される悪い感情を抑えて理性的にふるまう紳士の顔から、「仕事でもつ重いカバンに耐えたのは、僕のためではなくそれが仕事だったらから、自分の生き方に口をはさまないで欲しい、自分は黒人ではなく人間として生きたい」と、結婚に猛反対する父親に向かっておそらく初めて感情を爆発させて反論した場面が白眉である。ちなみに、何故こんないい男が37歳まで独身か。8年前にベルギーでの列車事故で妻と2歳の息子を亡くし、その傷心でもう結婚はすまいと思っていたからだ。

公開当時は、おそらく論議をよんだかと思われる重いテーマーを扱っていながら、全体的にあかるくユーモラスで軽快な仕上がりになっている。父のマットが、ふたりの間にできるこどもが受ける差別を心配して、こどもをつくる予定があるのかとジョンに質問する場面がある。
ジョンは笑いながら「ジョーイは、僕たちのこどもを大統領にさせると言っている」と応えている。この時代では、それは婚約したカップルの楽しい”ジョーク”。彼らは自分たちのこども世代に黒人の大統領が誕生するなんて、そんな未来はまだ夢のようだったのだ。久しぶりに、米国の良心をみたような気がする。

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