千の天使がバスケットボールする

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『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない 』

2010-04-01 22:55:34 | Movie
有閑マダムさまが、結婚を控えた花婿のバチェラーパーティを舞台にした日本未公開映画『Hangover』の感想に、「アメリカ人の男性はつくづく結婚に恐怖を感じているんですね」としみしみと買いてらしたが、本当にアメリカ人女性を妻に迎えるのは清水の舞台に飛び込むようなものだ。

恐ろしいくらいの壮絶な夫婦の戦いである。深夜、ニューイングランドの広大な大学構内を酔ったふたりのカップルが歩いている。大学教授のジョージ(リチャード・バートン)と妻のマーサ(エリザベス・テーラー)は、マーサの父である学長が主催するパーティからの帰り道だった。結婚23年目の中年夫婦。その昔、もうはるかに昔、マーサは歴史学の研究者だった若き青年に恋をした。ジョージにとっては学長のひとり娘と結婚することは、将来の出世へのパスポートを手に入れたようなもの。こうして理想のカップルのようなふたりは結婚したが、わずか数年でお互いにこの結婚が失敗だったと感じるようになるのだったが。。。

ジョージは学長の娘と結婚したにも関わらず、学部長にすらなれず、かっての歴史への情熱すら失っている見るからに風采のあがらないただの中年の男。このような事情が観客にわからせるのも、壮絶なふたりの夫婦喧嘩によってである。それを言ってしまったらルール違反!アウト!、妻として、女性として、人として絶対に言ってはいけないことが、次々とマーサの口から相手を破壊する機関銃のように飛び出していく。ついつい学長のパパはそんなにえらいのか、と思ってしまうところに大学アカデミズムへの批判も感じる。対するジョージも負けてはいない。激しく応酬していく。そんなにぎやかな帰宅した夫婦の邸宅へやってきたのが、新任の若き生物学教師ニックとその妻ハニーである。行儀よく先輩の中年夫婦の相手をしていた若い夫婦は、やがてふたりの喧嘩に巻き込まれて、ハンサムなニックが貧相なハニーと結婚したのも彼女の持参金目当てと本音が次々と暴かれていく。

登場人物は基本的に世代の異なるふたつのカップル、つまり4人だけ。彼らの会話は、あまりにも過激でショッキング。憎悪に満ちた罵詈雑言、卑猥な言葉、スラングな表現が次々と吐き出され迫真に満ちた緊張感ではりさけそうな雰囲気だ。映画を観ていて予想したとおり、元々エドワード・オルビー脚本によるブロードウェイで評判をよんだ舞台劇だった。CGも美しい景色も雰囲気を盛り上げる音楽もなく、セリフと演劇がすべてという映画では一瞬も気がぬける場を許してくれない。こんなに激しく憎しみあっているなら、早々に離婚すべきだと思うのだが、逆に離れられない事情があるのかと忖度するようになる。やがて彼らの関心は、ふたりの明日21歳になるという金髪で美しいご自慢のひとり息子ジムに及ぶようになる。ハニーはマーサから愛息の話を聞きたがるのだが、ジョージは彼女が息子の話を他人にしたことに怒りを示すのだった。
ジョージとマーサの息子とは。やがてこの”息子”が夫婦のあり方の要であり、彼らの真実に近づいていく。気がつくと夜が明け始め、あれほど憎しみあっていたと思われた夫婦の深い哀しみで結ばれた愛情に気がついていく。

52歳のりっぱな中年女性を演じたのが、当時32歳だった世紀の美女、エリザベス・テーラーである。1966年制作映画で52歳?何か数字が一致していないような気がしていたが、なんと20歳も年上の女性を演じていたのだ。見事な老けぶりであるが、その美貌を自ら破壊するようなセリフの応酬と演技に、彼女の美しさだけでない狂気に満ちた演技力にすっかり敬服した。それにしても夫婦という不可思議な器。

監督:マイク・ニコルズ

■マイク・ニコルズ監督のこんなアーカイヴも
『卒業』
『キャッチ22』