千の天使がバスケットボールする

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『ジェイン・オースティン 秘められた恋』

2010-04-12 00:01:06 | Movie
生意気で高慢。女たらしで法律の勉強にも身が入らないくらいに放蕩を繰り返す遊び人。しかも失礼にも、小説を執筆しているうら若き未婚の乙女、ジェイン・オースティン(アン・ハサウェイ)に向かって、”経験”がないから作品の内容に深みがないと、自分は数多くの経験者とばかりに余裕でからかい半分にえらそうに批評までしちゃう。この今だったら間違いなくセクシャル・ハラスメントと罵倒されそうな男は、後見人の叔父からこれまでの悪行を叱責されてしばらくの田舎暮らしを余儀なくされたトム・ルフロイ(ジェームズ・マカヴォイ)だった。
なんたる失敬な奴だと思うのだが、高飛車で大胆な?指摘はその実、鋭く、ジェインの才気を刺激する優れた知性を彼が備えている事を披露する。人望もあつくて立ち居振る舞いがチャーミング、おまけにエリート予備軍、そして一番大事で肝心なことなのだが、彼は誰もが認めざるをえないくらいハンサム・マン。ふたりが反発しあうのは、同じレベルで会話ができる唯一の異性だから。そして反発が相手への強い関心の現われであることに、気がついていくジェインとトム。しかし、そんなジェインにまたとない縁談がもちこまれる。資産家で地元の名士でもあるレディ・グレシャム(マギー・スミス)の甥、ウィスリーとの縁談だった。女性がまともに職業をえることも難しかった18世紀末の時代、女性が飢えずに食べていくことはすなわち結婚することだった。中流家庭とはいえ、恋愛結婚の果ての貧しいオースティン家の両親は、末娘の玉の輿の結婚を願っているのだったが。。。(以下、内容にふれてまする。)

我が日本の文豪、夏目漱石もお気に入りだったと伝えられる英国の女流作家のジェイン・オースチン。生涯独身だった彼女だが、2003年に伝記作家のジョン・スペンスによって20歳の時に激しい恋をしたという説が発表された。確かに本作を観て、この生涯たった一度の恋愛事件が、彼女の後の作品に大きな影響を与えたと楽しい想像ができる仕上がりとなっている。(ちょっとまぬけで大柄なウィスリーは『プライトと偏見』のダーシーを思い出す。「愛情の花はゆっくりと咲く」とジェインに求婚するさえない男のウィスリーだが、懐が深くて案外こういう男は将来よい夫になるかもしれないと、私は彼の味方をしたいくらいだ。)それにどんなに才能はあっても、身を焦がすような恋のひとつやふたつなくては女もすたるというものだ。しかもその恋が成就できなかった理由も本作は浪漫チックにうまくまとめている。ジェームズ・マカヴォイ大好きな私としても、トムはとてもとても素敵な青年だが、階級社会の英国のこの時代に財産の全くない前途有望な青年が同じく貧しい娘と駆け落ち結婚するのは、それぞれの家族の哀しみだけでなく大きな犠牲を伴ったという背景は理解できる。ジェインの父の「貧しさは人の心を砕く」という忠告も、この時代だっらそれもそうだ。ジェインの最後にくだした決断は、賢明な優しさという美しい品格を作品は残してくれた。

そのジェイン役を演じたアン・ハサウェイは、容姿が際立ち過ぎるのではないかとの懸念は解消して、予想外にも好演している。知的でとてもよく作家を理解しているのがその演技から感じられたのだが、ジェイン・オースティンが大好きで全作品を読み込んでいて、卒論もジェイン・オースティンだったそうだ。その役を演じることができて幸福な女優である。ところで、今一番のお気に入りの俳優のジェームズ・マカヴォイ君だが、当時のヘアースタイルと服装でめかしこんだ彼を見て、高校時代の化学の教科書で見たアメデオ・アヴォガドロを思い出してしまった。

■懐かしいアーカイヴ
『プライドと偏見』
『EMMAエマ』