大正から昭和前半にかけた高知の下町。女衒を生業とする冨田岩伍に嫁いだ古物商の家に育ったの喜和(15歳)は、芸妓娼妓の料理屋遊郭への斡旋を商売とする業界の特殊な存在と位置、そして独特の雰囲気に気づき、違和感をもちます。
富田の家は、番頭格の庄、女中の鶴、若い衆の米に亀。そこに商用で大阪、神戸をまわっていた岩伍は旅の途中で拾った少女・菊を連れ帰った。岩伍と喜和との間には病弱の龍太郎とやんちゃ坊主の健太郎。ただでさえ家計のやりくりが大変なところへ、みず知らずの少女の養育をまかされた喜和は途方に暮れます。
喜和の人生の波乱万丈は、岩伍との出会いから始まりました。岩伍と娘義太夫との関係の発覚、その子ども綾子の養育。長男龍太郎の死。喜和自身の大病、岩伍の再度の女性問題、家庭崩壊、そして離婚、綾子との別れ。
この小説は、以上のように女衒を生業とする岩伍とその妻喜和の相克、とりわけ喜和の意地、忍耐、愛憎の一生を描いたものですが、特筆すべきは綾子の存在です。
喜和に暴力をくわえる岩伍に日本刀を振りかざす綾子、喜和との生活を諦めるようにいう周囲の声をふりきって母である喜和によりそう綾子、この場面があるがために作品の価値が倍加しています。
なじみの少ない雅文でしたためてあるため、慣れるまで読みにくいのですが、次第にこの彫琢の文体がこの作品にふさわしいものであることがわかり、不思議な味わいをみせてくれます。
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