【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

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中村桃子『女ことばと日本語』岩波新書、2012年

2012-12-30 23:17:58 | 言語/日本語

           
  日本語には女性に特有の言葉がある。この「女ことば」とは一体何なのだろうか。著者は本書で多くの人の常識なっている「女性たちが話してきた言葉づかいが自然に女ことばになった」という考え方の問題点を多面的(多様性の承認、規範、知識、価値)に考察している。


  具体的には種々の言説をデータとして分析し(歴史的言説分析)、鎌倉時代から第二次世界大戦までの女ことばの歴史をたどりながら、女ことばがつくられてきた道程が明らかにしていく(歴史的言説分析とは、特定の言説が意味をもつようになった政治や経済的な背景を探るという方法)。

  その結論は、要約して言えば、女ことばの形成はまず鎌倉時代から続く規範の言説によって女性の発言を支配する傾向が、江戸時代に強化され、さらに現代のマナー本に見られるような女らしさとの結びつきの強調につながっているということ、明治期には近代国家建設という課題のもとで国語理念が男性国民の言葉として形成され対極で「て・よ・だわ」などの具体的な語と結びついた女学生ことばがひろく普及したこと、くだって戦中期には、アジアの植民地の人々同化政策や女性を戦争に動員する総動員体制のねらいとして女ことばが天皇制国家の伝統とされ、家父長制の象徴である「性別のある国語」が強調されたこと、さらに戦後は、占領軍のもとで男女平等政策の推進、天皇制や家父長制の否定のなかで女ことばを自然な女らしさの発露と再定義する言説が普及し、女ことばに日本の伝統を象徴することが期待されるにいたったこと、である。

 したがって著者によれば、「日本語には女ことばがある」というとき、それは、実際に日本女性が男性と異なる言葉使いをしているという意味の「ある」ではなく、言語イデオロギーとして言説によって歴史的に形成されてきた、ということなのである、と(結論部分を含め以上、pp.327-8)。


 「第1部 『女らしい話し方』-規範としての女ことば」「第2部 『国語』の登場-知識としての女ことば」「第3部 女ことば礼賛-価値としての女ことば1」「第4部 『自然な女らしさ』と男女平等-価値としての女ことば2」。


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