【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

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斎藤茂男『夢追い人よ(斎藤茂男取材ノート1)』築地書館、1989年

2013-02-05 18:18:38 | ノンフィクション/ルポルタージュ

           
  共同通信社の記者だった著者による、自身の取材ノートのひとつ。本書には敗戦の焼土の風景が残る「1949年夏」に起きた松川事件、下山事件を中心に戦後に起きた事件を記者の感覚でその真相を究明しようとした記録である。


  松川事件、下山事件の他に、菅生事件、安保反対闘争、日本のなかのベトナム戦争がとりあげられている。流石に記者が書いたものだけに臨場感がある。挿入された新聞記事の写真、事件現場や下山総裁が履いていた靴の写真などが効果的だ。下山事件に関しては、「李調書」が興味深い(pp.140-145)。「下山事件の全貌はこうだ」と布施検事に語った内容だ。

  関連した戦後の謀略事件である菅生事件について、著者は記者としてこの犯罪に関与した人物の捜査しが、その記録が生々しい。この事件は1952年6月2日、大分県菅生村の駐在所が何者かに爆破された事件。事件直後、日本共産党員ら5名が逮捕・起訴され、一審大分地方裁判所で全員有罪となった。しかし、その後の弁護団や報道機関の調査で、事件に現職警察官・戸高公徳が関与していることが明らかとなった。法廷でも警察の組織的関与が立証され、二審福岡高等裁判所で被告人全員が無罪となった。冤罪事件の1つであり、公安警察のフレームアップ、謀略事件の典型的な事例。
  なお、戸高は事件関与のかどで起訴、有罪となったが、刑は免除されて警察官に復職した。著者は新宿歌舞伎町の某アパートでの張り込みで戸高を探し当て、追求した。その様子が詳しく書きこまれている。

  本書にはこの他に、安保闘争の国会包囲の大衆運動の現場からの報道、ベトナム戦争に間接的に関与する日本の告発はいずれも時代を彷彿させるものばかりだ。「昭和ひとケタのひとりの男の胸中にたぎる、執念深い「否!」の声を遺しておきたいという思いが」過不足なく込められた、時代証言の書。


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