山本薩夫監督「傷だらけの山河」1964年 銀座シネパトス
昨日の本ブログで紹介した石川達三の小説「傷だらけの山河」の映画化です。というより、この映画をわざわざ観にいったのは、かつてこの小説を読んだことがあったからです。そして、若尾文子さんが出ていたからです。上映映画館は、「銀座シネパトス」でした。。
原作にかなり忠実ですが、映画であるがゆえに資本家の生臭さ、人間の葛藤、苦悩が色濃く出ていました。
人間の葛藤のひとつは、西北グループの会長である有馬勝平(山村聡)と との資本家同士の確執です。
もうひとつは勝平に妾が3人いて、彼と彼女たちそしてその子供たちとの錯綜した人間関係です。
話を大括りでまとめると、主要な流れは以下のとおりです。
資本家、勝平は新しく鉄道をひく事業計画をたて、関東開発の香月(東野英治郎)と競うなかで実行にうつし、開通式に漕ぎつけ電車が走り出しますが、線路上でエンコした軽三輪車と衝突事故をおこすという結末です。勝平は鉄道をひくことで、沿線にデパートがたち、商店街が形成され、ゴルフ場ができると社会貢献に名を借りた大義名分を主張しますが、要は資本蓄積の権化に他ならないのです。学園も建設し、教育活動にも力を入れていきます。
その勝平には女が3人いますが、本当の家族をないがしろにし、使い捨てにし、妾の子の将来には関心がありません。
勝平は会社で働いていた美貌の女性・福村光子(若尾文子)に手をだし、彼女と同棲していた画家をパリに留学させることを条件に、4人目の妾にする。そこからまた新しい矛盾がでてきますが、問題の解決はいつも金銭との控え、関係の一方的な切り捨てです。
と、このように、この映画では、資本家のあくどい利潤追求の欲望と、人間を人間とも思わないゆがんだ私生活が活写されています。日本映画史上で、初めて資本家の実像を描いた作品として知られています。
2時間半の長い映画ですが、テンポがよく、まったくあきることなく、疲れることもなく見終えることができました。