河野健二『現代史の幕あけ-ヨーロッパ1848年-』岩波新書、1982年
冒頭、著者は次のように宣言しています、「現代史のドラマは1848年に始まる。これが本書の立場である」と(p.2)。
1848年にヨーロッパはほとんど全ての国と地域(北のアイルランドから南のシチリアまで、西のスペインから東のポーランドまで)が、紛争と反乱、革命と戦争に巻き込まれました。
フランスでは2月革命が勃発、この革命はルイ・フィリップの「7月王政」に対する反対運動であり、結実して革命臨時政府が打ち立てられました。
イギリスでは職人や労働者が「人民憲章」にまとめた要求を掲げ、運動をスタートさせました。
イタリアでは半島に王国が割拠し、統一政権が確立されるみとおしはなかったものの、この年の初めからミラノ、パレルモ、ナポリなどで都市の戦乱が続きました。
全ドイツでは立憲政治をもとめる運動が表面化しました。
ハプスブルク王朝支配下にあったオーストリア帝国では、自立、自治をもとめるハンガリー人、スラブ系民族の運動が発展、ウィーンは陥落しました。
しかし、ウィーン革命の結果に始まったハプスブルク大帝国の解体の動きは、その年の2月にパリの労働者の蜂起が軍隊によって鎮圧されると急速に衰え、ヨーロッパ規模の反動の逆襲が進むことになります。時代の進路は、革命から一転してナショナリズム、反動の方向に切り替わります。
1848年という激動の1年間の事情、この年をクライマックスとして展開された種々の社会思想を競合と交錯のドラマとして振り返り、そこでの問題を現代の問題として受け取る視点を設定しようという著者の試みの成果が本書です。
今では地に堕ちた「社会主義」の思想がこの頃は、生命力をもっていたことがわかります。時代をリードする思想、運動にはなりえなかったものの、労働者の支持が一部にあり、それなりの勢力を維持しました。
しかし、その「社会主義」は、ブランキ、ルイ・ブラン、マルクス、エンゲルス、プルードン、バクーニンでは全く異なった目的と内容とからなり、相互に牽制しながら、全体として後退せざるをえなかったようです。
本書を読んでいて時折、ドキュメンタリータッチの叙述という印象をもったのは、当時の社会の動きの目撃者の記録の引用が挿入されているからです。
オブライエン、オコナー、ラマルティーヌ、ブ、トクヴィル、バラツキー、ルイ・ボナパルト、マッツィーニなど、当時のヨーロッパの政治的季節に当事者だった人々の考え方、生き方、行動が怜悧でかつ情熱的な筆で描かれています。