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奇跡の1巻

 今どき文学全集なんて重いだけで、何の役にも立たないものだと思われがちだが、私にとっては宝物であり、唯一誇れる財産でもある。漱石全集、鴎外全集、芥川龍之介全集、志賀直哉全集、太宰治全集、中原中也全集、大岡昇平全集、澁澤龍彦全集、梶井基次郎全集、ドストエフスキー全集・・・。もちろん、全巻読破なんて神業はできるはずもなく、巻を開いてない本さえあるくらいだから、宝の持ち腐れのようなものだが・・。
 実はこの全集の中で、志賀直哉全集だけ1巻欠落していた。紛失したわけではなく、当時配達してくれていた本屋さんが届けるのを忘れたとしか思えない。全巻予約の岩波の全集だけに、どうしてそんなことが起こったのかよく分からないが、問い合わせようと思っているうちに、その本屋さんが閉店してしまい、どうしようもなくなってしまった。1984年に刊行された全集だから、もう30年近くにもなるが、その間ずっと1巻欠けていることは気になっていた。早い段階で問い合わせたなら補充もできたかもしれないが、ぐずぐずしているうちに時機を失してしまった。(その優柔不断さが災いの種になることはよくあるが・・)
 だが、このところヤフー・オークションで訳の分からぬ物を買うようになり、「何でも売っているもんだ」と感心することしきりだったので、ある時ふっと「ひょっとしたら、志賀直哉全集の足りない1巻が手に入るかも・・」と積年の煩いを解決できるかもしれない妙案が閃いた。しかし、よく考えれば「30年も前の全集の、しかも目当ての1巻だけが売っているなんてことがあるだろうか・・」と訝る気持ちの方が強いのも自然なことで、万が一見つかったらいいな、とほとんど当てにしない気持ちで、オークションのページを検索してみた。すると・・。

   「志賀直哉全集 第六巻 暗夜行路草稿」

というものが見つかった。「えっ?本当?確か6巻だったよななかったのは?本当に本当?」思わず目を疑ってしまったが、間違いない、私が30年近く苦にしてきたあの本が、なんと1,400円で落札できるのだ、信じられない・・。
 即決価格も同じく1,400円だったので、すぐに入札し、めでたく私の物となった。嘘みたいにあっという間の出来事だった。今でも信じられない・・。

 それが日曜の夜。そして昨日水曜日に早くも送られてきた。


 おお、本当に志賀直哉全集だ、しかも状態はかなりよさそう。さっそく書棚に並べてみた。


 何てことだ、私の本の方が薄汚れていたとは・・。ちょっと悔しい・・。
 しかし、これで長年の懸案事項が一つ解決した。長い間心のどこかに引っかかっていた棘が外れたような清々しい心持ちにさえなれた。
 もっと早く解決しておけばよかったのに・・。
      
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