見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

2013年10月・東京の展覧会拾遺

2013-10-31 23:01:03 | 行ったもの(美術館・見仏)
東京国立博物館 特別展『京都-洛中洛外図と障壁画の美』(2013年10月8日~12月1日)

 10月20日(日)に駆け足でまわった展覧会。まずは東博から。「本邦初!国宝・重要文化財指定『洛中洛外図屏風』全7件が一堂に」というのが売り文句だが、残念ながら一度に全てを見ることはできない。でも大好きな岩佐又兵衛の『洛中洛外図屏風(舟木本)』が全期間展示なので、わくわくしながら見に行った。舟木本は東博の所蔵だが、私の記憶では、あまり実見したことがない。記録では、2007年12月の常設展で一度見ている。2010年新春にはVR(バーチャルリアリティ)上映があったが、本物は見逃したみたい。

 今回、会場に入ると空っぽの第1室が、大画面を使って高精細画像の上映というのは新機軸だと思ったが、私は「現物を見るために博物館に来る」古いタイプの人間なので、ここは後回しにして、第2室から見始める。前期展示で見られたのは、狩野永徳の上杉本と歴博乙本、舟木本、富山の勝興本、岡山・林原美術館の池田本。あとの2件は初見ではないかと思う。現場では、十分に見えなかったが、図録で見ると、それぞれ個性的で楽しい。続く第3室には、かつて京都御所を飾っていた賢聖障子絵、唐人物図屏風など(仁和寺ほかに伝存)。天皇の御座が、びっしり唐人物図に囲まれていたって知ったら、最近のウヨクさんはどう思うんだろう。

 第二会場の冒頭も展示はなくて、環境ビデオみたいな「龍安寺石庭の四季」が上映されていた。そのあとは龍安寺の襖絵、さらに二条城の障壁画。もとの空間イメージを再現するため、配置に心を砕いているのは面白かった。

■東京国立博物館・東洋館8室 東洋館リニューアルオープン記念 特別展『上海博物館 中国絵画の至宝』(2013年10月1日~11月24日)

 中国に行ってもなかなか見ることのできない中国絵画の名品40件を展示。ただし宋元画は前期・後期で入れ替わるので、一度に見ることができるのは約半数である。『閘口盤車図巻(かいこうばんしゃずかん)』は、五代・10世紀の作品。水門に設けられた楼閣で水車がまわり、さまざまな身分・職業の人々が立ち働く市井のありさまを描く。洛中洛外図に通じる画趣だが、日本はまだ平安盛期の貴族社会だ。北宋の『煙江畳嶂図巻(えんこうじょうしょうずかん)』の、夢見る童画のようなやわらかさ。馬麟の款を持つ『楼台夜月図頁』の、安藤広重みたいなもの哀しい静謐。どれも好きだー。

 明末清初には、私の好きな画家たち、呉彬とか朱耷(八大山人)とか石濤とかが並んでいて、テンションが上がる。うわーん、見に来てよかった。とはいえ、やっぱり中国絵画の見どころは分かりにくいので、音声ガイドを借りるのがおすすめ。学芸員の塚本麿充さんも声のご出演。読みごたえのある図録に加えて、別冊(別売)「釈文・印章編」も出してくれた配慮に感謝。

大倉集古館 『描かれた都-開封・杭州・京都・江戸-』展(2013年10月5日~12月15日)

 北宋の都・開封を描いた中国絵画至高の名品『清明上河図』に対し、明代になると「構図等を踏襲し、蘇州の風景を描いた清明上河図が多く制作された」というのは、かつて、ここ大倉集古館で学んだこと。同館所蔵の伝・仇英筆本『清明上河図』は、蘇州の風景を描いたものと考えられている。今回は、やはり江南ののんびりした風情が感じられる清代の”清明上河図”が2件展示されている。そして、南宋の都・杭州と西湖の図。多くは、中国の風景など見たことのない日本人画家の作品であるのが面白い。

 目を転じて、日本は京都の名所遊楽図、洛中洛外図など。ふと「長谷川巴龍筆」の黒々したサインが目に留まって、記憶の中から、超脱力系の「素朴絵」屏風であることを思い出した。さらに江戸は名所図絵から、なんと山口晃画伯の『六本木昼図』と『広尾-六本木』も。楽しかったが、私より先に見に行った友人が「欲張りすぎて、印象散漫」と語っていたのも否めないところ。発売が遅れていた展示図録は、10/23(水)からようやく売り出しになったそうだ。

国立公文書館 平成25年秋の特別展『旗本御家人III-お仕事いろいろ』(2013年10月5日~10月24日)

 国立公文書館の展示にはいろいろあるが、江戸城の紅葉山文庫→内閣文庫の資料を駆使した「旗本御家人」シリーズ(時代劇みたいだw)が、やっぱりいちばん面白い。地味な展示だと思うのに、熱心なファン(?)がずいぶん来ていた。大奥の女性たちのさまざまな職種紹介が興味深く、中には髪を剃った「御伽坊主」と呼ばれる女性たちもいたのだな。「暴れん坊将軍」吉宗も、晩年には「介護」の記録が残っているというのも感慨深い。しかも吉宗とは一歳しか違わず、小姓時代から近似した小笠原政登の書き残した記録というのが、さらに。書物奉行や天文方の仕事が取り上げられていたのも嬉しかった。
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手のひらで感じる/2013東美特別展(東京美術倶楽部)

2013-10-31 00:10:55 | 行ったもの(美術館・見仏)
東京美術倶楽部 第19回『東美特別展』(2013年10月18日~20日)
  
 早く書かないと忘れてしまうと思いながら…。10月19-20日の週末は東京に出かけた。目的のひとつがこれ。毎年秋に秋に行われる美術品の展示即売会(アートフェア)で、2008年に初めて覗いてみて以来、やみつきになった。三年に一度の特別展は「展示会」の要素が強くて、参加店舗数は少ないが、選ばれた店舗(65店)が選りすぐりの名品を出展する。

 いつものように4階から。古美術を中心に見ていく。古筆の軸に吸い寄せられたのは「五月堂」。二条切が140万円。広沢切は値段の表示がなかったが、別のお店で、そういう場合は値札の裏を返すと、さりげなく書いてある場合もあるのを発見。「加島美術」は「奇想の画家」をタイトルに掲げて、岩佐又兵衛、若冲、蕭白、蘆雪という取り合わせ。嬉しい。「思文閣銀座」は、宗達の烏図双幅(阿吽なのか?)、同じく宗達のモコモコした虎は、口元にうっすら赤が配されていたが、舌なのか、何か咥えているのか、よく分からなかった。「甍堂」には、興福寺千体観音の一体。両手を欠いているが、夢見る童子のような表情が愛らしい。全く知らなかったが、仏教美術愛好家にとっては憧れの仏像なのだそうだ。定信筆「兼輔集切」は、本当に小さな断簡だったが、450万円という価格に驚く。「ふるさとの三笠の山 とほけれど 声はむかしに うとからなくに」の和歌が気に入って、書きとめて来た。水鳥のかたちをした金銅の水滴(鎌倉時代)など、小さくて品のよい骨董がさりげなく並んでいて、贅沢。

 「中村好古堂」で驚いたのは、中尊寺経(紺紙金銀字交書)の美しさ。ガラスケースなしで見る金泥、銀泥って、こんなに輝くのか! 「壺中居」は中国の石仏特集で、雲崗の仏頭3000万円、北魏の小さな石仏が3500万円。でも青銅器に見入っているおじさんがいたら、店員さんが、気軽にぱかっと蓋を開けて内側を見せていた。「小西大閑堂」の玉眼の不動明王と制吒迦、矜羯羅童子像、よかったな~。鎌倉ものかしら。阿弥陀仏の左右に来迎衆を描いた三幅対の仏画も好き。以上でようやく4階を終了。

 3階、「瀬津雅陶堂」は琳派特集で、宗達のカモと白鷺に見とれる。「万葉堂」で見た古染付の、網目のまんなかに小魚を描いた器が気に入る。なんでもない皿のようで、網目七寸皿120万円。重之と敏行を描いた「時代不同歌合」は、詞章の行が、それぞれ中央から左右に向かって書かれているのが面白かった。「はせべや」には賀茂の競馬を描いた六曲一双の屏風。

 「浦上蒼穹堂」で、店員さんが「これ、薄いんですよ」と説明しながら耀州窯の器を撫ぜているのに刺激され、自分も手を出して、触ってみる。おお~。耀州窯って、見た感じよりも、薄くて軽いんだな。「古美術木瓜」であったか、根来の瓶子を見たときも、千載一遇のチャンス!と思って、持ち上げてみた。これはずしりと重かった。なるほど、形は不安定だが、これなら倒れる心配はないのだと分かった。

 2階はお座敷で、茶道具多し。1階「祥雲」に正倉院御物の撥鏤(ばちる)の尺や碁石の模作があった。守田蔵さんという方が制作されているらしい(→写真)。かわいい…。「寿泉堂」で見た相阿弥もよかった。美術館や博物館という「ついのすみか」に収まる前の作品たちと、軽く浮気するような、楽しいひとときだった。では、また来年。
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