見もの・読みもの日記

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江南の清明上河図/蒐めて愉しむ鼻煙壺+中国明・清時代の美術(大倉集古館)

2012-02-26 23:42:41 | 行ったもの(美術館・見仏)
大倉集古館 『蒐めて愉しむ鼻煙壺-沖正一郎コレクション-』+関連展示『大倉コレクション 中国明・清時代の美術』(2012年1月2日~3月25日)

 沖正一郎(おき しょういちろう、1926-)氏は、ファミリーマート初代社長を務めた実業家。「鼻煙壺」の蒐集家として知られ、2008年には大阪市立東洋陶磁美術館で、鼻煙壺1,200点の受贈を記念して『鼻煙壺 1000』展が開催された。なので、私はてっきりこの展覧会も、大阪市立東洋陶磁美術館のの「沖正一郎コレクション」を借り受けての企画かと思っていた。そうしたら、違った。1,200点の鼻煙壺を東洋陶磁美術館に寄贈しても、沖氏の手元には、まだ名品・珍品が数々残っていたらしいのである。

 展示室に入ろうとして、入口のガラス越しに中を見たとき、人の上背よりもずっと高い大きな展示ケースの床に、小さな鼻煙壺がびっしり並んでいる様子が見えて、噴き出しそうになった。陶磁器専門の美術館だと、もともと展示ケースが小さめで、しかも目の高さにくるような工夫をしてあるのだが、本展は、汎用タイプの展示ケースを使っているため、なんとも場違い感がある。

 しかし、この場違い感は悪くない。見やすく、効率よく並べられた「標本展示」でない分、普通の生活の中の存在感みたいなものが想像できる。たとえば、書籍の間に埋もれている鼻煙壺の図とか、愛好家のおじさんが、自慢のコレクションを机の上に並べて自慢している様子とか…。こっちもかしこまらずに、あの緑色が好きとか黄色がほしいとか、気軽な感想を言いたくなる。

 鼻煙壺の素材にはいろいろあるが、私はガラスがいちばん好きだ。白ガラスに三彩や五彩の色ガラスを被せたもの、あるいは「白ガラス色斑点文鼻煙壺」「白ガラスミルフィオリ文鼻煙壺」など。どれも可愛い! 「被せガラス」は「かぶせ」でなく「きせ」と読むのか。解説によると、古くはギリシャのカメオの製法を淵源とし、ドイツのガラス製造に用いられていた重ね焼きの技術が中国に伝わり、「乾隆ガラス」と呼ばれた清朝のガラス製品は、欧州のアール・ヌーヴォ―の作家たちに影響を与えた、という。こんな小さな鼻煙壺に壮大な東西文明の交流史が!と思うと、面白い。

 鼻煙壺の展示は2階にも続くが、2階は主に関連連展示の『中国明・清時代の美術』である。実は私のお目当てはこっち。特に展示リストに、伝・仇英筆『清明上河図』というのがあったので、故宮博物院本の模写なのかな?と思って見に来た。ところが、事情はもう少し複雑だった。先日まで東博『北京故宮博物院200選』で公開されていた『清明上河図』は、北宋の都・開封の風景を描いたものといわれ、作者の張択端(ちょうたくたん)は、北宋の宮廷画家である。明代になると、張択端本の名声が上がるにつれて「清明上河図」は一般名詞化し、「構図等を踏襲し、蘇州の風景を描いた清明上河図が多く制作された」のだそうだ。

 なるほど。だから、伝・仇英筆本は、確かに田園→虹橋(太鼓橋)→城門の賑わいという基本ルールは守っているものの、描かれている風景や風俗は、かなり違う。伝・仇英筆本を見るのは初めてではないが、今回は、故宮博物院本を見てきたばかりなので、その差異がよく分かった。北宋(11世紀頃)と明(15世紀)では、大きく時代も違うし、開封を蘇州に置き換えて享受するというのも、かなり大胆な変更である。画面には、酒家、酒行、綿花行、雑貨行など多数の看板が書き込まれ、医院らしいものもある。ところで、伊原弘著『「清明上河図」と徽宗の時代』のカバーは、故宮博物院本でなく、伝・仇英筆本の写真なのね!

 このほか、金箋の扇面図3件。扇面画は、日本の特産品として、室町時代頃から大陸に輸出され、明代以降、中国でも制作されるようになったそうだ。康煕年間の画家、潘崇寧筆『花鳥草虫図巻』には、生き生きした花鳥のほかに、羽虫、カマキリ、蜻蛉、蜂、水中にはメダカ、オタマジャクシ、カエルや沢ガニも描かれている。若冲っぽいな~。光緒帝御筆の『葡萄図団扇』は、さわやかすぎて哀感を誘う。光端23年(1897)筆だから、まだ親政の希望に燃えていた頃だ。

 書画以外も、清代の神像彫刻(同館は124件の中国神像彫刻を所蔵)、漢籍(明清の刊本、さりげなく「重要美術品」指定もあり)など、バラエティに富んでいて楽しかった。

※大倉集古館『大倉コレクション-アジアへの憧憬』(2007年8月)→「伝・仇英筆本」初見の記事。

京セラ美術館→「乾隆ガラス」で検索したらヒット。行ってみたい。

※カバーは「伝・仇英筆本」


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