○山本博文監修『あなたの知らない北海道の歴史』(歴史新書) 洋泉社 2012.9
半年前、全く縁のなかった北海道の住人となって、土地の歴史を知りたいと思った。そもそも基礎知識が乏しいので、取りつく島を見いだせずにいたが、この夏、江差・上ノ国・松前・函館をめぐる旅行をして、ようやく取っ掛かりができた。
監修の山本博文さんは、どの程度、本書に関わっているのか分からないが、江戸時代の大名や武士をめぐる著作を数多く出していらして、実証的な文献研究にも、エッセイの面白さにも定評のある方だから、大丈夫だろうと判断した(やっぱり本は著者で選ぶのが間違いない)。古代→鎌倉・室町時代→戦国時代→江戸時代→近代と、時代順に設定されたテーマが70題。北海道の歴史では光の当たりにくい鎌倉・室町、戦国も、いちおう取り上げられているのがうれしい。
古代で気になったのは「阿部比羅夫の北方遠征はどこまで行ったか」。日本書紀・斉明紀に「渡島蝦夷(わたりしまのえみし=道南・道央の蝦夷)」を饗応したという記述があるそうだ。渡島半島(おしまはんとう)の「渡島」ってそんなに古い用例があるのか。しかし、7世紀半ばの『日本書紀』に書かれたような戦いの痕跡は、まだ北海道内では見つかっていない由。今後、もし見つかったら大発見だろうな。あと、北海道大学構内のサクシュコトニ川遺跡(図書館のそばを流れている)と余市町の大川遺跡から見つかった9~10世紀の土師器の杯には「夷」と見られる文字が刻まれていて、東北で蝦夷の饗応に使われた杯が北海道に持ち帰られたのではないかという。故郷へおみやげ(記念品)のつもりだったのかなあ、など、想像を刺激される。
鎌倉・室町時代では、何といってもまず義経伝説。夏の旅行でも松前で義経山の石碑なるものを見たが、義経の伝説は北海道全域に分布しており、アイヌに稗の栽培を教えた文化神オキクルミと同一視されているそうだ。
北海道が新たな流刑地として定着し、史料に登場するのは、東国に鎌倉幕府が置かれて以降であること。北条氏によって「蝦夷管領」に任ぜられた安東氏(安藤氏)は、室町時代に入っても十三湊を拠点に勢力をふるうが、15世紀半ばに南部氏に攻められ、北海道に逃れる。そして三守護十二館主による強固な支配体制を築くが、首長コシャマインに率いられたアイヌが蜂起し、「蝦夷の百年戦争」が始まる。この蜂起は、アイヌの少年や和人の職人に刀を作らせたところ、刀の出来栄えや値段をめぐって争いになり、少年が刺殺されたことがきっかけであるという。小さなきっかけが、大規模な(民族的な)争いに発展していく点で、台湾の二・二八事件を思い出してしまった。
和人とアイヌの関係は、周辺国のロシア・中国(清)との交易関係も絡んで、なかなか複雑である。単に抑圧者と被抑圧者と言えない感じがするので、もう少し丁寧に学んでみたい。
近代の記事でいちばん驚いたのは、奥羽越列藩同盟と新政府による「東北戦争」(って今は呼ぶのか?→戊辰戦争)の最中、会津・庄内両藩が蝦夷地に所有する領地の売却をプロイセンに持ちかけていたということ。ドイツ公文書館に記録が残っているそうだ。軍資金確保のためだというが、国土を外国に売っちゃダメだろ…蝦夷地は日本だと思っていなかったのかな。仮に実現していたら、今頃、北海道内にドイツ領があったかもしれない?
あと、やっぱり食べ物ネタは楽しくて、町村農場の由来(華族組合が経営する農場だった)、男爵いもの由来など興味深く読んだ。次はもう少し、ひとつの時代にフォーカスした本を読んでみたい。

監修の山本博文さんは、どの程度、本書に関わっているのか分からないが、江戸時代の大名や武士をめぐる著作を数多く出していらして、実証的な文献研究にも、エッセイの面白さにも定評のある方だから、大丈夫だろうと判断した(やっぱり本は著者で選ぶのが間違いない)。古代→鎌倉・室町時代→戦国時代→江戸時代→近代と、時代順に設定されたテーマが70題。北海道の歴史では光の当たりにくい鎌倉・室町、戦国も、いちおう取り上げられているのがうれしい。
古代で気になったのは「阿部比羅夫の北方遠征はどこまで行ったか」。日本書紀・斉明紀に「渡島蝦夷(わたりしまのえみし=道南・道央の蝦夷)」を饗応したという記述があるそうだ。渡島半島(おしまはんとう)の「渡島」ってそんなに古い用例があるのか。しかし、7世紀半ばの『日本書紀』に書かれたような戦いの痕跡は、まだ北海道内では見つかっていない由。今後、もし見つかったら大発見だろうな。あと、北海道大学構内のサクシュコトニ川遺跡(図書館のそばを流れている)と余市町の大川遺跡から見つかった9~10世紀の土師器の杯には「夷」と見られる文字が刻まれていて、東北で蝦夷の饗応に使われた杯が北海道に持ち帰られたのではないかという。故郷へおみやげ(記念品)のつもりだったのかなあ、など、想像を刺激される。
鎌倉・室町時代では、何といってもまず義経伝説。夏の旅行でも松前で義経山の石碑なるものを見たが、義経の伝説は北海道全域に分布しており、アイヌに稗の栽培を教えた文化神オキクルミと同一視されているそうだ。
北海道が新たな流刑地として定着し、史料に登場するのは、東国に鎌倉幕府が置かれて以降であること。北条氏によって「蝦夷管領」に任ぜられた安東氏(安藤氏)は、室町時代に入っても十三湊を拠点に勢力をふるうが、15世紀半ばに南部氏に攻められ、北海道に逃れる。そして三守護十二館主による強固な支配体制を築くが、首長コシャマインに率いられたアイヌが蜂起し、「蝦夷の百年戦争」が始まる。この蜂起は、アイヌの少年や和人の職人に刀を作らせたところ、刀の出来栄えや値段をめぐって争いになり、少年が刺殺されたことがきっかけであるという。小さなきっかけが、大規模な(民族的な)争いに発展していく点で、台湾の二・二八事件を思い出してしまった。
和人とアイヌの関係は、周辺国のロシア・中国(清)との交易関係も絡んで、なかなか複雑である。単に抑圧者と被抑圧者と言えない感じがするので、もう少し丁寧に学んでみたい。
近代の記事でいちばん驚いたのは、奥羽越列藩同盟と新政府による「東北戦争」(って今は呼ぶのか?→戊辰戦争)の最中、会津・庄内両藩が蝦夷地に所有する領地の売却をプロイセンに持ちかけていたということ。ドイツ公文書館に記録が残っているそうだ。軍資金確保のためだというが、国土を外国に売っちゃダメだろ…蝦夷地は日本だと思っていなかったのかな。仮に実現していたら、今頃、北海道内にドイツ領があったかもしれない?
あと、やっぱり食べ物ネタは楽しくて、町村農場の由来(華族組合が経営する農場だった)、男爵いもの由来など興味深く読んだ。次はもう少し、ひとつの時代にフォーカスした本を読んでみたい。