10月の京都には何度も行っていたはずなのに「第二日曜に大徳寺で曝涼(むしぼし)がある」ということは、この夏、雑誌『Pen』で板倉聖哲先生が紹介しているのを読むまで知らなかった。幸か不幸か、今年の第二土曜は福井県の小浜に泊まっている。翌朝、7:50発の若江線バス(小浜→近江今津)に乗り、新快速に乗り継げば、京都駅に10:30には着くことができると分かって、友人をつきあわせることにした。
■大徳寺
大徳寺到着。「秋の特別公開」で、ふだん非公開の塔頭寺院のいくつかが開いており、賑わっているが、まずは寺宝の曝涼(むしぼし)が行われている本坊大方丈を目指す。↓本坊の入口。
玄関の靴脱ぎにはたくさんの靴。うわー混んでいそうだなあ、と覚悟したが、会場全体が広いので、それほどではなかった。「玄関」には手荷物預かり所と、座れる休憩スペースがあり、座敷には、什物の箱が広げられていた。短い渡り廊下を挟んで「方丈」に移る。
Wiki「大徳寺」によれば「通常の方丈建築は、前後2列・左右3列の計6室を並べる平面形式が多いが、大徳寺方丈は前後2列・左右4列の計8室をもつ特異な形式」だとある。曝涼は、南側の庭に面した4室と、北側の左右隅の2室を使って行われていた。室ごとに印象に残った作品を挙げておきたい。
【第1室】
・いきなり鴨居の上の(伝?)陸信忠筆『十王図』に驚く。元代の絵画だ。
・巨大な高麗仏画『楊柳観音像』。華やかな瓔珞と長いベールをまとい、片足を膝に乗せて、ゆったりと岩坐に坐す。足元に珊瑚。
・素朴絵ふうの『釈迦八相図』。暖色の多い明るい色彩。李朝絵画ではないかという。
・織田、豊臣家の人々の肖像画(桃山~江戸)も並ぶ。
【第2室】
・左右の壁に『十六羅漢図』8幅ずつ。全て「明兆筆」の題箋が貼ってある中に1点だけ「等伯筆」が混じっている。虎、猿、オウム、インコなど、画中の動物たちがかわいい。
・牧谿筆『龍虎図』二幅。不服そうにニラむ虎、三白眼のデカい顔だけの龍。かわいくないのに面白い。
・牧谿筆『観音・猿鶴図』三幅。枝の上の無表情な親子猿がかわいい。
【第3室】
・書状、墨蹟が中心。花園天皇、大燈国師などが目立つ。花園天皇の穏やかな(いくぶん弱々しい)筆跡と、後醍醐天皇の雄渾な筆跡をしみじみ見比べる。
【第4室】
・頂相多し。舶来もの(南宋、元時代)も。
・狩野正信筆『釈迦三尊図』は、単純化した線と色彩が面白い。獅子も白象も愛嬌がある。文殊菩薩はキリストふうの長髪イケメン。普賢菩薩はめずらしく山賊の頭目ふうの髭面オヤジ。
・入口の鴨居の上に南宋時代の『五百羅漢図』六幅が掛かっていた。「百幅のうちの六幅」という説明から見て、以前、奈良博の『聖地寧波』展に出たものである。大徳寺は82幅を所蔵。あとで展示図録を売っていたお寺の方に「あれは毎年、公開されるものが変わるんですか?」と聞いたら「いいえ」とおっしゃっていたが、どうなのだろう。
【第5室】
・書状、宸筆。花園天皇、後醍醐天皇に加え、時代の下る江戸時代の天皇も。
【第6室】
・長沢蘆雪筆『龍虎図』二幅がカッコいい! その間に挟まれた『大燈国師像』(江戸期の模写)が、どこか困った顔をしているのが笑える。
・明時代の『猫狗図』二幅。かわいい。猫はキジトラである。
・そして再び高麗絵画の『楊柳観音像』。第1室の楊柳観音像とほぼ同じポーズだが、やや硬い感じがする。足元には波が寄せ、蓮の葉に乗った小さな善財童子や龍王が慕い寄って、観音を拝する。龍王の眷属たちは、ボッシュの描く怪物みたい。岩の天蓋(?)の隅に描かれた花喰い鳥にも注目。これほどの名品を、ガラス壁も挟まず、舐めるような近さで拝観する至福。
以上、6室のほかに、渡り廊下でつながった起龍軒という別棟があって、探幽の『四季松図屏風』が飾られ、床の間に、伝・牧谿筆『芙蓉図』が掛かっていた。薄墨のにじみの面白さを生かした八大山人ぽい小品。利休の目利き添状つき。
表庭に面した濡れ縁で『大徳寺の名宝 曝涼品図録』を売っていた。(たぶん)全点カラー写真つき、どの部屋のどこに展示されているかの見取図もあって、非常に便利。平成9年発行とあるから、基本的に毎年、同じ作品を同じ位置に掛けるのだろうな。なお、これとは別に拝観受付で『大徳寺』という冊子も売っているが、これは塔頭寺院の紹介が主で、宝物はごく一部しか載っていない。
続いて、高桐院の曝涼を拝観したが、これは別稿とする。
■大徳寺
大徳寺到着。「秋の特別公開」で、ふだん非公開の塔頭寺院のいくつかが開いており、賑わっているが、まずは寺宝の曝涼(むしぼし)が行われている本坊大方丈を目指す。↓本坊の入口。
玄関の靴脱ぎにはたくさんの靴。うわー混んでいそうだなあ、と覚悟したが、会場全体が広いので、それほどではなかった。「玄関」には手荷物預かり所と、座れる休憩スペースがあり、座敷には、什物の箱が広げられていた。短い渡り廊下を挟んで「方丈」に移る。
Wiki「大徳寺」によれば「通常の方丈建築は、前後2列・左右3列の計6室を並べる平面形式が多いが、大徳寺方丈は前後2列・左右4列の計8室をもつ特異な形式」だとある。曝涼は、南側の庭に面した4室と、北側の左右隅の2室を使って行われていた。室ごとに印象に残った作品を挙げておきたい。
【第1室】
・いきなり鴨居の上の(伝?)陸信忠筆『十王図』に驚く。元代の絵画だ。
・巨大な高麗仏画『楊柳観音像』。華やかな瓔珞と長いベールをまとい、片足を膝に乗せて、ゆったりと岩坐に坐す。足元に珊瑚。
・素朴絵ふうの『釈迦八相図』。暖色の多い明るい色彩。李朝絵画ではないかという。
・織田、豊臣家の人々の肖像画(桃山~江戸)も並ぶ。
【第2室】
・左右の壁に『十六羅漢図』8幅ずつ。全て「明兆筆」の題箋が貼ってある中に1点だけ「等伯筆」が混じっている。虎、猿、オウム、インコなど、画中の動物たちがかわいい。
・牧谿筆『龍虎図』二幅。不服そうにニラむ虎、三白眼のデカい顔だけの龍。かわいくないのに面白い。
・牧谿筆『観音・猿鶴図』三幅。枝の上の無表情な親子猿がかわいい。
【第3室】
・書状、墨蹟が中心。花園天皇、大燈国師などが目立つ。花園天皇の穏やかな(いくぶん弱々しい)筆跡と、後醍醐天皇の雄渾な筆跡をしみじみ見比べる。
【第4室】
・頂相多し。舶来もの(南宋、元時代)も。
・狩野正信筆『釈迦三尊図』は、単純化した線と色彩が面白い。獅子も白象も愛嬌がある。文殊菩薩はキリストふうの長髪イケメン。普賢菩薩はめずらしく山賊の頭目ふうの髭面オヤジ。
・入口の鴨居の上に南宋時代の『五百羅漢図』六幅が掛かっていた。「百幅のうちの六幅」という説明から見て、以前、奈良博の『聖地寧波』展に出たものである。大徳寺は82幅を所蔵。あとで展示図録を売っていたお寺の方に「あれは毎年、公開されるものが変わるんですか?」と聞いたら「いいえ」とおっしゃっていたが、どうなのだろう。
【第5室】
・書状、宸筆。花園天皇、後醍醐天皇に加え、時代の下る江戸時代の天皇も。
【第6室】
・長沢蘆雪筆『龍虎図』二幅がカッコいい! その間に挟まれた『大燈国師像』(江戸期の模写)が、どこか困った顔をしているのが笑える。
・明時代の『猫狗図』二幅。かわいい。猫はキジトラである。
・そして再び高麗絵画の『楊柳観音像』。第1室の楊柳観音像とほぼ同じポーズだが、やや硬い感じがする。足元には波が寄せ、蓮の葉に乗った小さな善財童子や龍王が慕い寄って、観音を拝する。龍王の眷属たちは、ボッシュの描く怪物みたい。岩の天蓋(?)の隅に描かれた花喰い鳥にも注目。これほどの名品を、ガラス壁も挟まず、舐めるような近さで拝観する至福。
以上、6室のほかに、渡り廊下でつながった起龍軒という別棟があって、探幽の『四季松図屏風』が飾られ、床の間に、伝・牧谿筆『芙蓉図』が掛かっていた。薄墨のにじみの面白さを生かした八大山人ぽい小品。利休の目利き添状つき。
表庭に面した濡れ縁で『大徳寺の名宝 曝涼品図録』を売っていた。(たぶん)全点カラー写真つき、どの部屋のどこに展示されているかの見取図もあって、非常に便利。平成9年発行とあるから、基本的に毎年、同じ作品を同じ位置に掛けるのだろうな。なお、これとは別に拝観受付で『大徳寺』という冊子も売っているが、これは塔頭寺院の紹介が主で、宝物はごく一部しか載っていない。
続いて、高桐院の曝涼を拝観したが、これは別稿とする。