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見もの・読みもの日記

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和解のために/花よりもなほ

2006-06-12 23:55:54 | 見たもの(Webサイト・TV)
○映画 是枝裕和監督・脚本『花よりもなほ』

http://kore-eda.com/hana/

 週末、ちょっと気分を変えるために、時代劇映画が見たいと思った。何かやっていないかなあ、と思って探してみたら、たまたま、この映画を見つけた。だから、是枝裕和が、カンヌ国際映画祭で主演男優賞を取った『誰も知らない』の監督であることにも、主演の岡田准一が人気グループV6のメンバーであることにも、あまり頓着していなかった。

 むしろ、浅野忠信とか香川照之とか、原田芳雄、石橋蓮司とか、ほとんど映画を見ない私でも知っている「クセのある俳優」が顔を揃えており、さらに、木村祐一、千原靖史など「クセのあるお笑い」の面々も参加しているので、こりゃー面白いんじゃないか、と思って、見に行った。

 期待は裏切られなかった。しかし、面白い俳優を揃えれば、面白い映画が撮れるというものではないから、やっぱり、脚本の出来がいいのだと思う。ときは元禄15年、5代将軍・綱吉の時代。江戸幕府が開かれてから、そろそろ100年。戦場に生きる武士の姿は、もはや人々の記憶から消え、「神話」になろうとしていた頃だ。

 それゆえ、一部の人々は、かたくなに「神話」を守ろうとする。高い精神性に生きる武士は、ひとたび辱められれば、仇討ちをせずんばあらず、という「武士道」ができあがっていく。しかし、そのストイックな道徳は、時には、人々から穏やかな日常、愛する者の未来を奪っていく。「仇討ち」は、新たな不幸と憎しみを呼び起こす。「仇討ちをしない武士の人生」はありえないものか? 必死に考え抜いたひとりの武士が編み出した奇策。全てが丸く収まって、祝祭劇の幕は下りる(ただし、心ならずも、そのあとに「忠臣蔵」という皮肉な陰画を付け加えながら)。

 よくできた脚本である。ただし、岡田准一の若侍はカッコ良すぎる。「剣の腕がからきし駄目」という設定らしいが、カッコ良すぎて、そう見えない。本当は腕も立ち、勇気もあるのに、平和主義者を気取っているだけに見えてしまう。もっと臆病者らしい風采の俳優にやらせると、ずいぶん印象が変わるのではなかろうか。でも、それだと興行的には成功しないか。

 絵も美しい。長屋の家並みや人々の着物の「リアルな汚らしさ」には、テレビ時代劇では味わえない魅力が宿っている。途中に挿入される、信州の清潔で豊かな自然も、ゴミゴミした江戸と対照的で、深く印象に残る。つい100年くらい前までは、日本人って、こんな生活をしていたんだなあ。

 ところで、このタイトル、桜の花が、いさぎよく散るのは、来年も咲けることを知っているからだ、という劇中の言を踏まえているようだが、「花よりもなほ」の「なほ」に続く言葉は何なのだろう? 分かったようで、よく分からない。
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