見もの・読みもの日記

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梁楷の三幅対と「唐物」/東京国立博物館

2006-06-04 02:48:46 | 行ったもの(美術館・見仏)
○東京国立博物館 国宝室『梁楷の三幅対』、特集陳列『東洋の名品・唐物』

http://www.tnm.jp/

 もしかしたら、今日(6/4)のうちに、この記事に目を留めてくれる人がいるかも知れないと思って、取り急ぎ、上げる。どちらも本日限りの展示である。

 私は昨日(6/3)この展示に気づいて、慌てて行ってきた。特集陳列『東洋の名品・唐物』では、足利将軍家伝来の「東山御物(ひがししやまごもつ)」を中心に、中国渡来の絵画・陶磁器の名品を見ることができる。

 陶磁器3点『青磁輪花鉢』『青磁下蕪瓶』『青磁茶碗 銘・馬蝗絆』は、どれも堂々として格調の高い逸品である。『馬蝗絆(ばこうはん)』は、常設展で一目見て以来のお気に入りだ。将軍足利義政がこの茶碗を所持していた折り、ひび割れが生じたため、代わるものを中国に求めたが、明時代の中国にはもはやそのようなものはなく、鉄の鎹(かすがい)でひび割れを止めて送り返してきた。そこで、鎹をイナゴに見立てて、馬蝗絆と名づけられたという(割れた茶碗をカスガイでつなぎ合わせる方法は、中国映画『初恋の来た道』にも出てきた)。

 絵画の、伝顔輝筆『寒山拾得図』や伝趙昌筆『竹虫図』は、ふだんの常設展には、なかなか出ない(毎秋のお楽しみ、中国書画精華で見たことがある)。玉澗筆『洞庭秋月図』は、同じ日に出光美術館で『山市晴嵐図』を見た直後だったので、よけいに嬉しかった(もとは同じ瀟湘八景セットの2枚。あと1枚『遠浦帰帆図』は徳川美術館にある)。玉澗の絵は、中国絵画という感じがしなくて、ほとんど日本絵画の一部みたいな気がする。

 この特集陳列では、当時の飾りつけかたを記録した『御物御画目録』という巻子を見ることができて、興味深い。当時は、中央に「主」となる絵画を掛け、必ず(?)「脇」を付けたらしい。例えば「梁楷の三幅対」は「出山釈迦 脇山水 梁楷」とある。このほか、「半身達磨 脇寒山十徳 牧谿」(表記はママ)などはいいとして、「維摩 脇鶏 李安忠」や「草衣文殊 脇犬猫 徽宗皇帝」なんて表記を見ると、どんな三幅対だったんだろ~と、とめどなく想像が広がっていく。

 さて、「梁楷の三幅対」であるが、中央の『出山釈迦』は昨年、左幅の『雪景山水図』(国宝)はその前年、秋の「中国書画精華」で実見した(こういうとき、ブログは検索がかけられて便利!)。どちらも印象深くて、好きな作品である。右幅の山水図だけは初めて見る。暗い画面の上部には、山の稜線のようなものがあるが、はっきりしない。手前には、枯れ木の株が水辺に立っているだけで、無人の風景である。木の根元に引っかかった黒い三角形は、魚を捕る網だろうか?

 パネルの説明によれば、国宝の『雪景山水図』は昭和23年、『出山釈迦』は平成9年、そしてもう1幅の『山水図』は平成16年に東博の所蔵になったそうだ。もと足利将軍家→福井の酒井家に伝わった三幅対であるが(詳しくは書かれていないが、たぶん明治初期に)『雪景山水図』は三井家、『出山釈迦』は本願寺などの所蔵となった。文化財って、人間よりずっと長生きである分、離合集散の苦労も激しい。久しぶりに顔を揃えた三幅対に「ご苦労さん」と声をかけ、この状態が少しでも長く続くよう祈りたいと思う。
コメント
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