goo blog サービス終了のお知らせ 

見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

ひらがなの愉悦/MOA美術館

2006-06-11 22:04:27 | 行ったもの(美術館・見仏)
○MOA美術館 所蔵書跡展 国宝手鑑『翰墨城』

http://www.moaart.or.jp/japanese/top.html

 MOA美術館を訪ねるのは何年ぶりだろう。東京から熱海までは、ずいぶん遠いと思っていたが、新幹線に乗るまでもなく、快速アクティーで、約1時間半である。こんなに近いのなら、来年こそは光琳の『紅白梅図屏風』を見にこよう!

 さて、今回の目的は、国宝『翰墨城』を初めとする、書跡の名品展を見ることである。展示室に入ると、いきなり待っているのが、伝小野道風筆の「継色紙」。『芸術新潮』2006年2月号「特集・古今和歌集1100年/ひらがなの謎を解く」に、同じ「継色紙」として知られる別の作品(五島美術館所蔵)の写真が出ていて「《継色紙》あるいは倦怠表現主義」というタイトルが付いているのだが、まさにそんな感じ。余白たっぷりに、和歌1首を、こんなふうな区切りかたで書く。「わたつみのか/さしにさ/けるしろた/への/なみもて/ゆへる/あはちしま/山」。最後の「山」が絶妙。こんな色紙(ニセ物でもいいから)を掛けた下で、もの憂くカクテルの飲めるバーがあったら...などと、想像をしてしまった。

 もう1点挙げておきたいのは、伝行成筆「松籟切」。もと三井松籟が所蔵していたのだそうだ。料紙は雲母で蓮唐草を摺った唐紙で、承暦元年の十番歌合の断簡である。震えるような擦れ具合が美しい。書かれている和歌もよくて、「山さとはゆきこそふかくふりにけれ/よひこし人のみちまよふまて」というのだが、「みちまよふまて」が、本当に降る雪に紛れて、消え入りそうに書かれている。

 語り始めると切りがないので、真打ちの『翰墨城』に移ろう。一瞬、端が目に入らないほどの長いガラスケースに、惜しげもない有様で展示されている。数えてみると、なんと41面! しかし、これでも半分ほどしか開けていないのだ。いや、正確には4分の1か。解説パネルを読んで、古筆手鑑って、台紙の裏にも表にも貼ってあるのだということを、初めて知った。『翰墨城』の場合、表には天皇、親王、公卿、歌人など。裏には、能書家、僧侶、社家などを集めており、今回は裏面の冒頭からが開けてある。

 圧巻は、平安時代に「三蹟」と称された小野道風・藤原佐理・藤原行成の筆跡が並んだ箇所だろう。道風が4点、佐理が4点、行成が5点、そのあと、行成の息子(世尊寺)行経1点を挟んで、公任4点が続く。

 道風はいい! 「小島切」「本阿弥切」の繊細なひらがなもいいけれど、「絹地切」の叩き付けるような草書の漢字(三体詩)もいい。隣の佐理がまた、漢字「絹地切」も、ひらがな「紙撚切」「筋切」も、激しいスピード感を感じさせる。繊細な貴公子を髣髴とさせる行成。そして、公任には、バランスの取れた大人(おとな)の風格を感じる。もっと詳しい解説は、前掲の『芸術新潮』を参照。

 これで私は、古筆三大手鑑と称される、京博の『藻塩草』、出光美術館の『見努世友(みぬよのとも)』、そして『翰墨城』を、いちおう全て実見することができた。このほか、美しい写経類、蒔絵の硯箱、高僧や武将の書跡も見ることができ、楽しかった。

 私が訪ねたのは土曜日の午後だったが、はじめは特に書跡に興味があるわけでもない温泉ツアーの(?)団体さんで騒がしく、やっと展示室が静かになったと思ったら、20~30人ほどの小学生が、先生に引率されて入ってきた。まあ、美術館の経営も大変なんだろうと思うけど。東京から往復の電車賃を掛けて行った者としては、もう少し静かに観賞させてもらいたかった。この特別展に小学生は止めてもらえないだろうか。『紅白梅図屏風』なら許してもいいが。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする